(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
左右割りクランクケース(30,50)の前部からシリンダブロック(3)とシリンダヘッド(4)が突設され、前記クランクケース(30,50)の内側の上方内空間にブリーザ室(41)が形成され、前記シリンダブロック(3)より後方の前記クランクケース(30,50)の上にスタータモータ(20)が配置される内燃機関(1)のクランクケース構造において、
前記ブリーザ室(41)が前記クランクケース(30,50)の後部に前記シリンダブロック(3)と離間しかつ上方に突出して形成され、
前記シリンダブロック(3)と前記ブリーザ室(41)との間の前記クランクケース(30,50)の上壁部位(34,54)の上に前記スタータモータ(20)が配置され、
前記スタータモータ(20)の下の左右の前記クランクケース(30,50)の左右の前記上壁部位(34,54)に、それぞれ左右外側面から割り面(32a,52a)に向かって割り面(32a,52a)近くまで食い込んだスリット凹部(34s,54s)が形成されることを特徴とする内燃機関のクランクケース構造。
大径の変速クラッチ(16)を収容するクラッチ収容部(55)の上部が、前記クランクケース(34,54)の前記上壁部位(34,54)より上方に膨出して形成されることを特徴とする請求項2記載の内燃機関のクランクケース構造。
左右の前記クランクケース(30,50)の各々の前記上壁部位(34,54)の割り面(32a,52a)に、互いに対向して油路形成溝(37,57)が前後に延びてそれぞれに形成され、
左右の前記油路形成溝(37,57)が合わされて油路(C6)が形成されることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項記載の内燃機関のクランクケース構造。
左右の前記上壁部位(34,54)の割り面(32a,52a)に、互いに対向して防護溝(38,58)が、前記油路形成溝(37,57)より外側に前記油路形成溝(37,57)に沿って平行に形成されることを特徴とする請求項4記載の内燃機関のクランクケース構造。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ブリーザ室には、高温のブローバイガスが入り比較的高温となる。
そのため、このブリーザ室の上壁の上にスタータモータが配置される特許文献1のような構造であると、ブリーザ室の熱がスタータモータに容易に伝わり、スタータモータが熱の影響を受け易い
また、クランク室とスタータモータとの間にブリーザ室が介在するので、スタータモータの位置が高い位置となって、内燃機関全体が大型化し易い。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みなされたもので、その目的とする処は、クランクケースの上に配置されるスタータモータが熱の影響を受け難く、かつ比較的に低い位置に配置される内燃機関のクランクケース構造を供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1記載の発明は、
左右割りクランクケース(30,50)の前部からシリンダブロック(3)とシリンダヘッド(4)が突設され、前記クランクケース(30,50)の内側の上方内空間にブリーザ室(41)が形成され、前記シリンダブロック(3)より後方の前記クランクケース(30,50)の上にスタータモータ(20)が配置される内燃機関(1)のクランクケース構造において、
前記ブリーザ室(41)が前記クランクケース(30,50)の後部に前記シリンダブロック(3)と離間しかつ上方に突出して形成され、
前記シリンダブロック(3)と前記ブリーザ室(41)との間の前記クランクケース(30,50)の上壁部位(34,54)の上に前記スタータモータ(20)が配置され、
前記スタータモータ(20)の下の左右の前記クランクケース(30,50)の左右の前記上壁部位(34,54)に、それぞれ左右外側面から割り面(32a,52a)に向かって割り面(32a,52a)近くまで食い込んだスリット凹部(34s,54s)が形成されることを特徴とする内燃機関のクランクケース構造である。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の内燃機関のクランクケース構造において、
前記ブリーザ室(41)は、前記クランクケース(30,50)の後部上壁(36,56)を上方に膨出して形成され、
前記スタータモータ(20)は、前記シリンダブロック(3)と前記ブリーザ室(41)との間の凹部(40)に配置されることを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の内燃機関のクランクケース構造において、
大径の変速クラッチ(16)を収容するクラッチ収容部(55)の上部が、前記クランクケース(34,54)の前記上壁部位(34,54)より上方に膨出して形成されることを特徴とする。
【0010】
請求項4記載の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれか1項記載の内燃機関のクランクケース構造において、
左右の前記クランクケース(30,50)の各々の前記上壁部位(34,54)の割り面(32a,52a)に、互いに対向して油路形成溝(37,57)が前後に延びてそれぞれに形成され、
左右の前記油路形成溝(37,57)が合わされて油路(C6)が形成されることを特徴とする。
【0011】
請求項5記載の発明は、請求項4記載の内燃機関のクランクケース構造において、
左右の前記上壁部位(34,54)の割り面(32a,52a)に、互いに対向して防護溝(38,58)が、前記油路形成溝(37,57)より外側に前記油路形成溝(37,57)に沿って平行に形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載の内燃機関のクランクケース構造によれば、シリンダブロック(3)とクランクケース(30,50)の後部のブリーザ室(41)との間のクランクケース(30,50)の上壁部位(34,54)の上にスタータモータ(20)が配置され、スタータモータ(20)の下の左右の前記クランクケース(30,50)の左右の前記上壁部位(34,54)に、それぞれ左右外側面から割り面(32a,52a)に向かって割り面(32a,52a)近くまで食い込んだスリット凹部(34s,54s)が形成されるので、スタータモータ(20)の下の左右のクランクケース(30,50)の左右の上壁部位(34,54)はスリット凹部(34s,54s)を間に挟んだ2重壁構造をなし、ブリーザ室(41)とは異なる2重壁構造がクランク室(2C)とスタータモータ(20)とを仕切ることになり、クランク室(2C)の熱がスタータモータ(20)に伝わり難いとともに、高温ガスが入って高温となるブリーザ室(41)もクランクケース(30,50)の後部にシリンダブロック(3)と離間して上方に突出してスタータモータ(20)と離れて配置され、ブリーザ室(41)の熱もスタータモータ(20)に影響し難い。
【0013】
また、クランクケース(30,50)の上壁部位(34,54)が2重壁構造で、さらにクランクケース(30,50)の後部のブリーザ室(41)も多重壁構造をしているので、クランク室(2C)内の変速機(11)のギヤ音に対する防音効果がある。
さらに、シリンダブロック(3)とクランクケース(30,50)の後部に突出したブリーザ室(41)との間のクランクケース(30,50)の上壁部位(34,54)の上にスタータモータ(20)が配置されるので、クランク室(2C)とスタータモータ(20)との間に上壁部位(34,54)が存在するのみで他に何らかの部材が介在することはないため、スタータモータ(20)を低い位置に配置することができ、内燃機関全体の小型化を図ることができる。
なお、本明細書中では、本内燃機関(1)が搭載される車両を基準に前後左右を決めている。
【0014】
請求項2記載の内燃機関のクランクケース構造によれば、ブリーザ室(41)がクランクケース(30,50)の後部上壁を上方に膨出して形成され、スタータモータ(20)はシリンダブロック(3)とブリーザ室(41)との間の凹部(40)に配置されるので、ブリーザ室(41)の容積を確保しながらスタータモータ(20)をコンパクトに配置して内燃機関全体の小型化を図ることができる。
【0015】
請求項3記載の内燃機関のクランクケース構造によれば、大径の変速クラッチ(16)を収容するクラッチ収容部(55)の上部が、クランクケース(30,50)の前記上壁部位(34,54)より上方に膨出して形成されるので、クラッチ収容部(55)の容積を確保しつつ同クラッチ収容部(55)に干渉せずにスタータモータ(20)を低い位置にコンパクトに配置することができる。
【0016】
請求項4記載の内燃機関のクランクケース構造によれば、左右クランクケース(30,50)の各々の前記上壁部位(34,54)の割り面(32a,52a)に、互いに対向して油路形成溝(37,57)が前後に延びてそれぞれに形成され、左右の前記油路形成溝(37,57)が合わされて油路(C6)が形成されるので、割り面(32a,52a)に溝を形成するという簡易な方法で油路(C6)を形成することができるとともに、一般的なクランクケース割り面よりも前記上壁部位(34,54)の割り面(32a,52a)の幅が大きいため、油路断面積を大きくとることができ、オイル供給量を増やすことができる。
【0017】
請求項5記載の内燃機関のクランクケース構造によれば、左右の前記上壁部位(34,54)の割り面(32a,52a)に、互いに対向して防護溝(38,58)が、前記油路形成溝(37,57)より外側に油路形成溝(37,57)に沿って平行に形成されるので、左右クランクケース(30,50)の割り面(32a,52a)に液体シールを塗布して合体することで割り面(32a,52a)のシールを行う際に、前記上壁部位(34,54)の割り面(32a,52a)については防護溝(38,58)より外側部分に液体シールを塗布することで、左右クランクケース(30,50)を合わせ組み付けたときに、塗布された液体シールは内側にはみ出して防護溝(38,58)に入り溜まるので、防護溝(38,58)より内側にはみ出すことが阻止されるため、油路(C6)に液体シールが浸入することを防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る一実施の形態について
図1ないし
図8に基づいて説明する。
図1は、本実施の形態に係る内燃機関1の右側面図である。
本内燃機関1は、クランクケース2の前部から斜め前上方に前傾した姿勢でシリンダブロック3とシリンダヘッド4およびヘッドカバー5が順次重ねられて突設されている。
【0020】
図7を参照して、クランクケース2は、左右割りクランクケースであり、左クランクケース30と右クランクケース50から構成される。
左右クランクケース30,50の前部に形成された円開口にシリンダブロック3のシリンダスリーブが嵌入してシリンダブロック3が斜め前上方に突設される。
【0021】
左右クランクケース30,50は、それぞれ左右軸受側壁31,51とその周縁を囲う内側に延出した左右内周壁32,52と外側に延出する左右外周壁33,53により概ね構成されており、左右内周壁32,52の相対向する端面が左右クランクケース30,50の割り面32a,52aであり、両割り面32a,52aが合わされると、相対向する左右軸受側壁31,51間にクランク室2Cが形成される。
【0022】
左右軸受側壁31,51よりも左右外側に突出した左右外周壁33,53は、その外側の端面が左右クランクケースカバー70,80との合わせ面33a,53aであり、左クランクケース30の合わせ面33aに左クランクケースカバー(図示せず)の合わせ面を合わせると、左軸受側壁31より左側に左クランクケースカバーに覆われて左側収容室2Lが形成され、右クランクケース50の合わせ面53aに右クランクケースカバー80の合わせ面80aを合わせると、右軸受側壁51より右側に右クランクケースカバー80に覆われて右側収容室2Rが形成される。
【0023】
左右クランクケース30,50の左右軸受側壁31,51には、クランク室2Cの前半部においてクランク軸10が軸支され、後半部には変速機11が設けられて互いに歯車を噛み合わせる変速歯車軸であるメイン軸12とカウンタ軸13が軸支されている。
図3を参照して、クランクケース2の前半部の中央高さ位置にクランク軸10が軸支され、クランクケース2の後半部の前後中央の上方寄りにメイン軸12が軸支され、メイン軸12より後方斜め下にカウンタ軸13が軸支されている。
【0024】
クランク軸10は、
図8に示すように、クランク室2C内にクランクウェブ10wを有して一体に回転させるとともに、左軸受側壁31を貫通した左端部にACジェネレータ15が備えられ、ACジェネレータ15は左側収容室2Lに収容される。
【0025】
また、メイン軸11は、右軸受側壁51を貫通した右端に大径の多板クラッチである変速クラッチ16(
図3において2点鎖線で示す)が設けられ、変速クラッチ16は右側収容室2Lに収容される。
カウンタ軸12は、出力軸であり、左クランクケースカバーで覆われない左軸受側壁31を貫通して左端を外部に突出させている。
【0026】
左右クランクケース30,50の左右内周壁32,52のうちクランク室2Cの上壁は、前半にシリンダブロック3のシリンダスリーブが嵌入する円開口が形成され、シリンダブロック3より後方に上壁部位34,54が略水平に延出形成されている(
図4,
図5,
図7を参照)。
【0027】
図6および
図7を参照して、左クランクケース30の左側収容室2Lを形成する左外周壁33は、ACジェネレータ15を内側にカウンタ軸12を外側にして前後に仕切り、その仕切り壁33rに沿って左側収容室2Lが上方に膨出して左側膨出部35が形成されている。
左側膨出部35は、上壁部位34の左側に上方に膨出して形成されており、この左側膨出部35は、上壁部位34の上に配置されるスタータモータ20の左側部分を支持する。
【0028】
スタータモータ20は駆動軸20aを左方に突出させる姿勢で配置され、左側膨出部35には、駆動軸20aを右側から左方へ貫通させてスタータモータ20の左側部分を嵌合支持する嵌合部35aが形成されている。
左側膨出部35の左側には貫通して突出したスタータモータ20の駆動軸20aの回動をクランク軸10に伝達する動力伝達機構を収容する凹部が形成されている。
【0029】
左右クランクケース30,50の後部は、クランク室2Cの後部空間が上方に膨出して後側膨出部36,56が形成されており、この後側膨出部36,56の内側に共通のブリーザ室41が形成される。
なお、ブリーザ室41は、左側に偏って位置して、右クランクケース50より左クランクケース30に大きく形成されている。
【0030】
したがって、上壁部位34,54の後側にブリーザ室41を構成する後側膨出部36,56が上方に膨出して形成されることになり、上壁部位34,54の上に配置されるスタータモータ20は、前方のシリンダブロック3と後方の後側膨出部36,56すなわちブリーザ室40との間に設けられる。
【0031】
図7を参照して、右クランクケース50の右側収容室2Rを形成する右外周壁53は、大径の変速クラッチ16を収容するクラッチ収容部55が上方に膨出して形成されている。
クラッチ収容部55は、上壁部位54の右側に上壁部位54の上面より上方に膨出して形成されており、このクラッチ収容部55にはスタータモータ20の本体から右方に突出した支持ブラケット21,21を支持するボス部55a,55aが形成されている。
【0032】
以上のように、左右クランクケース30,50の上壁部位34,54の上に設置されるスタータモータ20は、左側膨出部35と右側のクラッチ収容部55の膨出部との間で、前方のシリンダブロック3と後方の後側膨出部36との間の凹部40に設けられる(
図7参照)。
スタータモータ20は、左側部分が左側膨出部35の嵌合部35aに嵌合して支持され、右側が支持ブラケット21,21を介してクラッチ収容部55のボス部55a,55bに取り付けられて支持されるので、左側膨出部35とクラッチ収容部55に左右両側部を支持されて、上壁部位34,54の上面から若干上方に離れて架設される。
【0033】
スタータモータ20の下方の左右上壁部位34,54は、
図8に示すように、それぞれ左右外側面から割り面に向かって略左右対称に割り面32a,52a近くまで食い込んだスリット凹部34s,54sが形成されている。
したがって、左右上壁部位34,54は、スリット凹部34s,54sを挟んだ上壁と下壁により2重壁構造となっている。
【0034】
図4および
図5を参照して、左右上壁部位34,54の割り面32a,52aには、互いに対向して油路形成溝37,57が前後方向に延びて形成されるとともに、互いに対向して防護溝38,58が、油路形成溝37,57より外側に、油路形成溝37,57に平行に形成されている。
したがって、左右クランクケース30,50を割り面32a,52aを合わせて組付けると、左右の油路形成溝37,57が1つになって共通の油路C6を形成するとともに、左右の防護溝38,58が1つになって防護孔Pを形成する(
図8参照)。
なお、防護溝38,58すなわち防護孔Pは、後端がブリーザ室41に開口して連通している。
【0035】
図3に示すように、右クランクケース50の右軸受側壁51には、右外周壁53に囲まれた右側収容室2R内のクランク軸10の下方にオイルポンプ25が設けられている。
オイルポンプ25の吸入ポート25iには、クランク室2Cの下部のオイルパン2pに溜まったオイルを汲み上げるための汲み上げ油路A1が連通しており、吐出ポート25eからは吐出油路A2が前方に延びて、右方に開口するポンプ油出口A3に至っている。
【0036】
右クランクケース50の右側に被せられる右クランクケースカバー80は、オイルポンプ25のポンプ油出口A3に対応して連結する油連結孔A4が右クランクケースカバー80を貫通して形成されており(
図1,
図2参照)、油連結孔A4の上には油連結穴A5が右方外側に開口して形成されている。
【0037】
油連結孔A4と油連結穴A5は、図示されないオイルクーラとオイルホースを介して連結され、油連結孔A4から流出したオイルがオイルクーラで冷却されて油連結穴A5に流入する。
【0038】
また、右軸受側壁51の油連結孔A4より上方には、オイルフィルタ27が右方外側に突出するように取り付けられる。
図1および
図2を参照して、右クランクケースカバー80において、油連結穴A5からは上方に油路A6が延びてオイルフィルタ27のケース内部に至っている。
オイルフィルタ27は、環状に形成されたフィルタエレメントの外側に流入したオイルをろ過してフィルタエレメントの内側中心部のフィルタ油出口A7に流出する。
【0039】
フィルタ油出口A7からは後方斜め下方向に延出したクランク軸供給油路B1が、クランク軸10の右端を軸支する軸受部81に至っている。
また、フィルタ油出口A7からは後方斜め上方向に分岐した油路C1が、右クランクケースカバー80の上側周壁に沿って形成された油溝82に連通している(
図2参照)。
右クランクケースカバー80が被せられる右クランクケース50には、右クランクケースカバー80の油溝82に対向する油溝59が形成されており(
図3参照)、両油溝82,59が一体となって油路C2を形成する。
【0040】
図3および
図4を参照して、右クランクケース50において、油路C2の後端部からは右外周壁53および右内周壁52を割り面52aに貫通する油路C3が形成されている。
油路C3は、右クランクケース50のシリンダスリーブが嵌入する円開口の周縁部の後部の割り面52aに開口して割り面52aに形成された油路C4に連通している。
なお、油路C3は、図示されないが、途中分岐してスタッドボルト締結孔に連通する油路が形成されていて、スタッドボルト締結孔を介してシリンダヘッド4側の動弁機構等にオイルを供給するオイル経路が形成されている。
【0041】
油路C4の後端の連結油端C5は、左クランクケース30の割り面32aに形成された油路形成溝37の前端が共通の連結油端C5となっており(
図5参照)、連結油端C5は油路形成溝37と右クランクケース50の割り面52aに形成された油路形成溝58とが合わさって形成される油路C6に連通する。
油路C6の後端部は、凸部による分岐部C7をなし(
図4参照)、分岐部C7は左クランクケース30の割り面32aに開口して左内周壁32を左方に左軸受側壁31まで穿孔されるメイン軸供給油路D1に連通するとともに、油路C6がさらに後方に延長されて形成された油路E1に連通する。
【0042】
すなわち、油路C6を流れるオイルは、分岐部C7を素通りして油路E1に流れる経路と、分岐部C7で分岐してメイン軸供給油路D1に流れる経路に分かれる。
分岐したメイン軸供給油路D1は、屈曲して左軸受側壁31を下方斜め前に穿孔してメイン軸12の左端を軸支する軸受凹部39に至るメイン軸供給油路D2に連通し、メイン軸12の潤滑部位にオイルを供給する(
図5参照)。
【0043】
一方、割り面32a,52aに形成される油路E1は、ブリーザ室41とクランク室2Cとを仕切る壁に形成されており(
図4,
図5参照)、油路E1の後端で右クランクケース50の右内周壁52を右軸受側壁51まで穿孔されるカウンタ軸供給油路E2に連通し、カウンタ軸供給油路E2は、屈曲して右軸受側壁51を下方に穿孔してカウンタ軸13の右端を軸支する軸受凹部60に至るカウンタ軸供給油路E3に連通し、カウンタ軸13の潤滑部位にオイルを供給する(
図4参照)。
【0044】
以上のような潤滑経路が左右クランクケース30,50にそれぞれ形成されており、左右クランクケース30,50を割り面32a,52aで合わせて合体することで、クランクケース全体の潤滑経路が完成する。
左右クランクケース30,50を組付けるときには、液体シールを割り面(32a,52a)に塗布して挟み付けることで、割り面32a,52aをシールしている。
【0045】
割り面に油路が形成されていると、塗布した液体シールが油路にはみ出して油路を狭めたり塞いだりするおそれがあり、本左右クランクケース30,50にも、
図4および
図5に示すように、スタータモータ20の下の上壁部位34,54の割り面32a,52aに油路C6が形成されているが、油路C6の外側に油路C6に平行に防護溝38,58が形成されており、この防護溝38,58より外側部分に液体シールを塗布することで、左右クランクケース30,50を割り面32a,52aで合わせ組み付けたときに、塗布された液体シールが内側(油路C6側)にはみ出しても防護溝38,58があって、はみ出した液体シールは防護溝38,58に入り、防護溝38,58より内側にはみ出すことが阻止されるため、油路C6に液体シールが浸入することを防止することができ、液体シールが油路C6を狭くしたり塞いだりすることを回避することができる。
【0046】
また、防護溝38,58は、後端がブリーザ室41に開口しているので、防護溝38,58に過剰に液体シールが浸入したとしてもブリーザ室41に抜けることができ、液体シールがあふれて防護溝38,58から油路C6の方にしみ出すようなことは防止でき、液体シールの油路C6へのい浸入を確実に防止することができる。
【0047】
なお、左右クランクケース30,50の割り面32a,52aにおいて、油路C6を後方に延長した油路E1があるが、油路E1の上はブリーザ室41が形成されていて(
図4,
図5参照)、このブリーザ室41を構成する後側膨出部36,56の割り面に液体シールが塗布されるので、油路E1に液体シールが影響することはない。
【0048】
本内燃機関1のクランクケース構造は、
図8に示すように、シリンダブロック3とクランクケース2の後部のブリーザ室41との間のクランクケース30,50の上壁部位34,54の上にスタータモータ20が配置され、スタータモータ20の下の左右のクランクケース30,50の左右の上壁部位34,54に、それぞれ左右外側面から割り面32a,52aに向かって割り面32a,52aの近くまで食い込んだスリット凹部34s,54sが形成されるので、スタータモータ20の下の左右のクランクケース30,50の左右の上壁部位34,54はスリット凹部34s,54sを間に挟んだ2重壁構造をなし、ブリーザ室41とは異なる2重壁構造がクランク室2Cとスタータモータ20とを仕切ることになり、クランク室2Cの熱がスタータモータ20に伝わり難いとともに、高温ガスが入って高温となるブリーザ室41もクランクケース30,50の後部にスタータモータ20と離れて配置され、ブリーザ室41の熱もスタータモータ20に影響し難い。
【0049】
また、クランクケース30,50の上壁部位34,54が2重壁構造で、さらにクランクケース30,50の後部のブリーザ室41も多重壁構造をしているので、クランク室2C内の変速機11のギヤ音に対する防音効果がある。
【0050】
さらに、シリンダブロック3とクランクケース30,50の後部のブリーザ室41との間のクランクケース30,50の上壁部位34,54の上にスタータモータ20が配置されるので、クランク室2Cとスタータモータ20との間に上壁部位34,54が存在するのみで他に何らかの部材が介在することはないため、スタータモータ20を低い位置に配置することができ、内燃機関全体の小型化を図ることができる。
【0051】
図5および
図7に示すように、ブリーザ室41がクランクケース30,50の後部上壁を上方に膨出した後側膨出部36,56により形成され、スタータモータ20はシリンダブロック3とブリーザ室41との間の凹部40に配置されるので、ブリーザ室41の容積を確保しながらスタータモータ20をコンパクトに配置して内燃機関全体の小型化を図ることができる。
【0052】
図3および
図7に示すように、大径の変速クラッチ16を収容するクラッチ収容部55の上部が、クランクケース30,50の上壁部位34,54より上方に膨出して形成されるので、クラッチ収容部(55)の容積を確保しつつ同クラッチ収容部55に干渉せずにスタータモータ20を低い位置にコンパクトに配置することができる。
【0053】
図3および
図4に示すように、左右クランクケース30,50の各々の上壁部位34,54の割り面32a,52aに、互いに対向して油路形成溝37,57が前後に延びてそれぞれに形成され、左右の油路形成溝37,57が合わされて油路C6が形成されるので、割り面32a,52aに溝を形成するという簡易な方法で油路C6を形成することができるとともに、一般的なクランクケース割り面よりもスリット凹部34s,54sにより2重壁構造をなす上壁部位34,54の割り面32a,52aの幅が大きいため、油路断面積を大きくとることができ、オイル供給量を増やすことができる。