(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6029571
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】航行リスク表示プログラム、航行リスク表示システム
(51)【国際特許分類】
B63B 49/00 20060101AFI20161114BHJP
G08G 3/00 20060101ALI20161114BHJP
B63G 13/00 20060101ALI20161114BHJP
【FI】
B63B49/00 Z
G08G3/00 A
B63G13/00
【請求項の数】11
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-256179(P2013-256179)
(22)【出願日】2013年12月11日
(65)【公開番号】特開2015-112998(P2015-112998A)
(43)【公開日】2015年6月22日
【審査請求日】2016年2月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000233055
【氏名又は名称】株式会社日立ソリューションズ
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100102576
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 敏章
(74)【代理人】
【識別番号】100153903
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 明
(72)【発明者】
【氏名】黒澤 明
(72)【発明者】
【氏名】ヌルル イザティ ビンティ モハマド タイポー
【審査官】
加藤 信秀
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−096674(JP,A)
【文献】
特開2011−180686(JP,A)
【文献】
特開2002−305657(JP,A)
【文献】
特開平08−253194(JP,A)
【文献】
特開2004−150898(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 49/00
B63G 13/00
G08G 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶が移動する際のリスクを画面表示する処理をコンピュータに実行させるプログラムであって、前記コンピュータに、
前記船舶および前記船舶以外の他船舶の移動速度の履歴を記述したAISデータを格納するAISデータ記憶部から前記AISデータを読み取るステップ、
前記移動速度とその移動速度に対応する船舶数の分布図を作成する分布計算ステップ、
前記分布図を画面出力する出力ステップ、
を実行させることを特徴とする航行リスク表示プログラム。
【請求項2】
前記分布計算ステップにおいては、前記コンピュータに、前記移動速度と前記船舶数のカーネル密度分布を前記分布図として作成させる
ことを特徴とする請求項1記載の航行リスク表示プログラム。
【請求項3】
前記分布計算ステップにおいては、前記コンピュータに、前記移動速度を階級に分割した上で各前記階級に属する前記船舶数を表すヒストグラムを前記分布図として作成させる
ことを特徴とする請求項1または2記載の航行リスク表示プログラム。
【請求項4】
前記分布計算ステップにおいては、前記コンピュータに、前記船舶の前記移動速度を示すマークを前記分布図上に記述させる
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の航行リスク表示プログラム。
【請求項5】
前記分布計算ステップにおいては、前記コンピュータに、前記分布図上にプロットされた前記他船舶のうち、前記移動速度が前記船舶の前記移動速度よりも速いものの割合と遅いものの割合を、前記マークと併せて前記分布図上に記述させる
ことを特徴とする請求項4記載の航行リスク表示プログラム。
【請求項6】
前記航行リスク表示プログラムは、前記コンピュータに、前記AISデータが記述している前記履歴にしたがって前記船舶および前記他船舶の移動軌跡を算出し、その移動軌跡を用いて前記船舶および前記他船舶の平均速度を算出する軌跡計算ステップを実行させ、
前記分布計算ステップにおいては、前記コンピュータに、前記AISデータが記述している前記移動速度に代えて、前記軌跡計算ステップにおいて算出した前記平均速度を用いさせる
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載の航行リスク表示プログラム。
【請求項7】
前記AISデータは、前記移動速度の履歴と併せて各前記移動速度の履歴の日時を記述しており、
前記航行リスク表示プログラムは、前記コンピュータに、前記分布図を作成すべき期間を指定する条件を受け取る条件入力ステップを実行させ、
前記分布計算ステップにおいては、前記コンピュータに、前記条件入力ステップにおいて受け取った前記期間に対応する前記移動速度の履歴を前記AISデータ記憶部から読み出し、その読み出した前記移動速度の履歴を用いて前記分布図を作成させる
ことを特徴とする請求項6記載の航行リスク表示プログラム。
【請求項8】
前記AISデータは、前記船舶および前記他船舶の位置情報の履歴を記述しており、
前記航行リスク表示プログラムは、前記コンピュータに、前記分布図を作成すべき座標範囲を指定する条件を受け取る条件入力ステップを実行させ、
前記軌跡計算ステップにおいては、前記コンピュータに、前記条件入力ステップにおいて受け取った前記座標範囲に対応する前記位置情報の履歴を前記AISデータ記憶部から読み出し、その読み出した前記位置情報の履歴を用いて前記移動軌跡を算出させる
ことを特徴とする請求項6記載の航行リスク表示プログラム。
【請求項9】
前記AISデータは、前記位置情報の履歴と併せて各前記位置情報の履歴の日時を記述しており、
前記条件入力ステップにおいては、前記コンピュータに、前記日時を指定する条件を受け取らせ、
前記出力ステップにおいては、前記コンピュータに、前記条件入力ステップにおいて受け取った前記日時に対応する前記位置情報の履歴を画面出力させる
ことを特徴とする請求項8記載の航行リスク表示プログラム。
【請求項10】
前記出力ステップにおいては、前記コンピュータに、前記移動軌跡を画面出力させる
ことを特徴とする請求項6から9のいずれか1項記載の航行リスク表示プログラム。
【請求項11】
船舶が移動する際のリスクを画面表示するシステムであって、
前記船舶および前記船舶以外の他船舶の移動速度の履歴を記述したAISデータを格納するAISデータ記憶部、
前記移動速度とその移動速度に対応する船舶数の分布図を作成する分布計算部、
前記分布図を画面出力する出力部、
を備えることを特徴とする航行リスク表示システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体が移動する際のリスクを可視化する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、GPS(Global Positioning System)の普及により、携帯端末、車両、船舶、航空機といった移動体は、自身の位置情報を容易に取得することができる。GPSから取得できるのは移動体自身の位置情報のみであるが、近隣端末との間のコミュニケーションや安全確保のためにこれら端末間で位置情報を相互に共有する試みがある。具体例として、航空機は自身の位置情報をGPSで測位し、他航空機や管制に対して自身の位置情報を電波で知らせるシステムを備えている。このシステムはADS−B(Automatic Dependent Surveillance−Broadcast)と呼ばれている。大規模な船舶も同様に、自身の位置情報を電波で知らせるシステム(AIS:Automated Identification System)を備えている。これら位置情報共有システムは、衝突回避といった安全運行に利用される。
【0003】
本発明に関連する公知技術文献として、下記特許文献1〜8がある。特許文献1は、複数船舶の位置と状態を共有し、衝突事故の未然回避や効率的な運行を実施する技術を記載している。特許文献2は、船舶の安全性を確認するための高精度なシミュレーションについて記載している。特許文献3は、船舶相互間における避航操船に際して、相互に意思疎通し、コンピュータ画面上でも航過に伴う危険性を確認できるようにして、衝突防止のための安全性を向上させる、船舶間の航行意思疎通支援装置を記載している。特許文献4は、行動パターンから自船周囲に存在する船舶が不審船かどうかを判断する技術を記載している。特許文献5は、右舷灯または左舷灯の特定パターンの点滅を監視カメラで抽出し、船舶を特定する技術を記載している。特許文献6は、周囲の船舶が発信するAIS信号の特性を解析し、不審船であるか否かを判定する技術を記載している。特許文献7は、SAR(合成開口レーダ)画像を用いて移動体の速度と位置を計算し、自身と通信している移動体と通信していない移動体を特定する技術を記載している。特許文献8は、SAR画像に映った船舶に対して位置情報を要求し、SAR画像に映っているが要求に応じない船舶を不審船と判断することにより、不審船の位置情報を特定する技術を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−252823号公報
【特許文献2】特開2004−318380号公報
【特許文献3】特開2008−037252号公報
【特許文献4】特開2005−096674号公報
【特許文献5】特開2010−160626号公報
【特許文献6】特開2011−226798号公報
【特許文献7】特開2012−063186号公報
【特許文献8】特開2013−196097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、海賊の危険性が注目されている。この危険性に対し、危険海域の航行を避ける、内部進入防止のために船舶を改造する、重火器を携帯する警護要員を添乗させる、保険に追加加入する、最大船速で航行する、などの対策が講じられている。さらに、事態の収拾のために各国の海軍が常に哨戒し、船舶を警護している。これら対策は多大なコストを要するため、海賊による被害リスクを抑えつつ、対策コストを低減することが課題となっている。
【0006】
本発明においては、海賊被害を回避するために最大船速で航行する場合について注目する。一般的に船舶の航行において、燃料消費量は船速の3乗に比例することが知られている。一方、商船の通常船速は10ノットから12ノットが一般的であるが、危険水域ではこれまでの被害実績に鑑みて18ノット以上で航行することが推奨されている。船舶が12ノットから18ノットに船速を変更したとき、燃料消費量は3倍以上となり、燃料コストが大幅に増加する。このようなコスト増加が危険回避に対する対策として妥当であるか否かを判断する必要がある。しかし、海賊被害に遭遇する確率と船舶速度との間の明確な関連性を見出すことは難しく、燃料コストの増加を許す結果となっている。
【0007】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、移動体の移動速度と被害遭遇リスクとの相関関係を視覚的に把握できるようにすることにより、被害遭遇リスクに関する判断材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る航行リスク表示システムは、船舶および当該船舶周辺の他船舶の移動速度と船舶数に関する分布図を作成し、画面出力する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る航行リスク表示システムによれば、船舶の移動速度と船舶数との間の対応関係を分布図として表示することにより、被害リスクと移動速度との間の関係について視覚的に分析することができる。例えば、自船舶近隣を航行している他船舶の船速と自船の船速との間の相対的な関係を把握することにより、相対的な被害リスクの増大と相対的なコストの増大を認知することができる。これにより、局所的に発生する相対的な被害リスクとコストの増加のバランスについて早い段階で対処することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】航行リスク表示システム100の構成図である。
【
図2】ある日時におけるAISデータを発信する船舶を上空から俯瞰した図である。
【
図3】AISデータベース12の構成とデータ例を示す図である。
【
図4】軌跡計算部15がある期間におけるAISデータを用いて船舶毎/往路復路毎の軌跡を計算した結果を示す図である。
【
図5】
図4で例示した軌跡データの構成とデータ例を示す図である。
【
図6】ヒストグラム計算部17が求めるヒストグラムデータの例を示す図である。
【
図7】カーネル密度分布計算部16が求めるカーネル密度分布の例を示す図である。
【
図8】描画部18が作成する分布
図181の例を示す図である。
【
図10】
図5で例示した軌跡データに基づきヒストグラム計算部17とカーネル密度分布計算部16がそれぞれ求めたヒストグラムとカーネル密度を示す分布図の例である。
【
図11】航行リスク表示システム100の動作を説明するフローチャートである。
【
図12】航行リスク表示システム100の動作を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<システム構成図>
図1は、本発明に係る航行リスク表示システム100の構成図である。航行リスク表示システム100は、移動体が移動する際のリスクを計算して画面表示するシステムである。本実施形態においては移動体の例として船舶を用いるが、移動体の種類はこれに限られるものではなく、例えば航空機や車両であってもよい。
【0012】
航行リスク表示システム100は、AIS受信部11、AISデータベース12、条件入力部13、計算部14、描画部18、出力部19を備える。計算部(分布計算部)14はさらに、軌跡計算部15、カーネル密度分布計算部16、ヒストグラム計算部17を備える。
【0013】
AIS受信部11は、船舶から発信されたAIS信号を受信する。AISデータベース12は、AIS受信部11が受け取ったAISデータを格納する。条件入力部13は、後述する分布図を作成する際に用いる描画条件をユーザが入力するためのインターフェースである。計算部14は、AISデータベース12からAISデータを読み出して後述する分布図を計算する。描画部18は、計算部14による計算結果をグラフとして描画する。出力部19は、描画部18が描画したグラフを画面表示する。出力部19と描画部18は一体的に構成してもよい。
【0014】
軌跡計算部15は、AISデータを用いて船舶の移動軌跡を計算する。カーネル密度分布計算部16は、船舶とその船速の度数分布に関するカーネル密度分布を計算する。ヒストグラム計算部17は、船舶とその船速の度数分布に関するヒストグラムを計算する。
【0015】
条件入力部13、計算部14、描画部18、出力部19は、その機能を実現する回路デバイスなどのハードウェアを用いて構成することもできるし、その機能を実装したソフトウェアをCPU(Central Processing Unit)などの演算装置が実行することにより構成することもできる。出力部19は、ディスプレイなどの画面表示デバイスに対して画面出力を指示するインターフェースなどを適宜備える。
【0016】
AIS受信部11は、例えばレーダを介してAIS信号そのものを受信する機能部として構成することもできるし、AIS信号を所定の形式に加工したデータを受信する機能部として構成することもできる。船舶が比較的沿岸近くを航行する場合は、沿岸にレーダを接地してAIS信号を受信することができる。船舶が沿岸から離れている場合は、例えば衛星を介してAIS信号を受信し、そのAIS信号を加工したデータをAIS受信部11が受信するように構成することができる。
【0017】
AISデータベース12は、ハードディスク装置などの記憶装置内に、後述するデータ形式でAISデータを格納することによって構成することができる。
【0018】
<AISデータ構成>
図2は、ある日時におけるAISデータを発信する船舶を上空から俯瞰した図である。対象船舶22と、対象船舶22以外の他船舶23とが、対象範囲21内に存在している。対象範囲21と対象船舶22は、例えばユーザが航行リスク表示システム100に対して後述する分布図を描画するよう指示するとき、条件入力部13を介して指定することができる。
【0019】
図3は、AISデータベース12の構成とデータ例を示す図である。AISデータベース12は、MMSI(Maritime Mobile Service Identity)フィールド121、申告日時フィールド122、緯度フィールド123、経度フィールド124、進行方向フィールド125、SoG(Speed Over Ground)フィールド126を有する。MMSIフィールド121と申告日時122フィールドが主キーである。
【0020】
MMSIフィールド121は、船舶を一意に示す番号であるMMSIを保持する。申告日時フィールド122は、AIS受信部11がAISデータを受信した日時を保持する。緯度フィールド123と経度フィールド124は、申告日時における当該船舶の座標を示す緯度値と経度値を保持する。進行方向フィールド125は、北をゼロとして右回りで表現される申告日時における当該船舶の進行方向を保持する。SoGフィールド126は、申告日時における当該船舶の対地速度を保持する。
【0021】
図4は、軌跡計算部15がある期間におけるAISデータを用いて船舶毎/往路復路毎の軌跡を計算した結果を示す図である。軌跡は上空から俯瞰した移動軌跡を示すデータとして作成される。軌跡データは、対象範囲41内においてある船舶が航行したときの軌跡42を記述するデータとして構成されている。軌跡データの構成については
図5を用いて説明する。軌跡データを算出する手順については後述の
図12で説明する。
【0022】
図5は、
図4で例示した軌跡データの構成とデータ例を示す図である。軌跡データは例えばテーブル形式のデータとして構成することができる。軌跡データは、MMSフィールドI151、進入申告日時フィールド152、脱出申告日時フィールド153、軌跡フィールド154、平均方向フィールド155、平均SoGフィールド156を有する。MMSIフィールド151と進入申告日時フィールド152が主キーである。
【0023】
MMSフィールドI151は、船舶のMMSIを保持する。進入申告日時フィールド152は、軌跡の開始点となるAISデータの申告日時を保持する。脱出申告日時フィールド153は、軌跡の終点となるAISデータの申告日時を保持する。軌跡フィールド154は、軌跡を構成するAISデータの座標を時系列昇順に整列して得られる軌跡データを例えばWKT(Well Known Text)/WKB(Well Known Binary)などの形式で保持する。平均方向フィールド155は、軌跡の平均方向を保持する。平均SoGフィールド156は、軌跡の平均SoGを保持する。
【0024】
図4〜
図5に示す軌跡データは、出力部19を介して画面出力するようにしてもよい。これにより、ある期間にわたって対象海域を航行する船舶の地理的密度を視覚的に把握することができる。例えば、実績上船舶数が少ない座標領域を低速で航行すると海賊被害リスクが高まる、などの判断を視覚的にすることができる。あるいは、期間にわたった軌跡データに代えて、指定した日時における対象海域内の各船舶の位置を出力部19から画面出力することもできる。これにより、当該日時について同様の判断を視覚的にすることができる。
【0025】
<グラフデータ>
図6は、ヒストグラム計算部17が求めるヒストグラムデータの例を示す図である。本ヒストグラムデータは、SoG171と船舶数172を含む。SOG171は、船速(SoG)を0.5ktの階級幅で階級に分割したものである。船舶数172は、ヒストグラム計算部17がAISデータベース12から読み取ったAISデータのうち、各階級に属する船舶数をカウントした結果である。SoG171は、表内の値を中心とし、±0.25ktの範囲を各階級とみなす。境界値はいずれの階級に含めてもよい。ヒストグラム計算部17は、各階級幅内に含まれる船舶を、対応する船舶数172としてカウントする。
【0026】
図7は、カーネル密度分布計算部16が求めるカーネル密度分布の例を示す図である。本カーネル密度分布は、SoG171とカーネル密度173を含む。カーネル密度173は、カーネル密度分布計算部16がAISデータベースから読み取ったAISデータを用いて、SoGと船舶数の分布について求めたカーネル密度である。カーネル密度分布を求める理由については後述する。変数xのカーネル密度分布f(x)は、下記式を用いて求めることができる。
【0028】
<グラフ図>
図8は、描画部18が作成する分布
図181の例を示す図である。描画部18は、ヒストグラム計算部17が求めたヒストグラムとカーネル密度分布計算部16が求めたカーネル密度をそれぞれヒストグラム182とカーネル密度分布183として描画する。ヒストグラム182の縦軸は船舶数、横軸はSoGである。カーネル密度分布183の縦軸は船舶数のカーネル密度、横軸はSoGである。
【0029】
条件入力部13は、ヒストグラム182とカーネル密度分布183を求める対象とする日時、座標範囲、後述する指定船舶などの条件を受け取る。ヒストグラム計算部17とカーネル密度分布計算部18は、その条件にしたがってそれぞれAISデータベース12から該当するAISデータを読み出し、ヒストグラムとカーネル密度を求める。描画部18はこれらの分布図を作成する。
【0030】
描画部18はさらに、条件入力部13が指定する船舶のSoGが属する階級を指し示すマーク184を分布図上に追加することもできる。さらには、マーク184が指し示す階級よりもSoGが高い階級と低い階級それぞれに属する船舶数が全船舶数に対して占める割合を併記することもできる。
図8に示す例によれば、指定された船舶が属する階級よりもSoGが低い階級に属する船舶は存在せず、SoGがより高い階級に属する船舶数は全船舶数の83%であることが分かる。
【0031】
オペレータは、マーク184およびこれと併記する割合値を見ることにより、指定船舶のSoGがその周辺の全船舶と比較してどの程度高いか(あるいは低いか)を視覚的に把握することができる。一般に海賊の心理として、よりSoGが遅い船舶をターゲットにする可能性が高いと考えられるので、
図8のような分布図により、オペレータは指定船舶が海賊に襲われるリスクを他船舶との比較の観点から視覚的に把握することができる。
【0032】
図8においては、指定船舶が属する階級以外の階級に属する船舶数の割合を画面表示したが、これに代えて指定船舶よりも速度が速い(または遅い)他船舶の割合を画面表示してもよい。
【0033】
図9は、
図8と同様の分布
図181の別例を示す図である。
図8とは異なり指定船舶はSoGが最も高い階級に属しているので、指定船舶が海賊から襲われるリスクは他船舶と比較して相対的に低いと推測することができる。
【0034】
図10は、
図5で例示した軌跡データに基づきヒストグラム計算部17とカーネル密度分布計算部16がそれぞれ求めたヒストグラムとカーネル密度を示す分布
図181の例である。軌跡計算部15は、条件入力部13を介して指定された期間または座標範囲にわたってAISデータを追跡することにより、
図5で例示した軌跡データを求めることができる。ヒストグラム計算部17とカーネル密度分布計算部16は、AISデータベース12が格納しているAISデータに代えてその軌跡データを用いることにより、当該期間または座標範囲に対応するヒストグラムとカーネル密度を求めることができる。
【0035】
図8〜
図9はある日時における分布図であるのに対し、
図10はある期間にわたった分布図である。ある日時における分布図は、その日時における瞬時的なリスクを判断するため用いるのに適している。一方である期間にわたった分布図は、航行を開始する前に当該海域をどの程度のSoGで航行すればリスクが相対的に低いかを判断するため用いるのに適している。
【0036】
カーネル密度分布とヒストグラムを併用する理由について補足する。ヒストグラムは離散的なサンプルの度数分布を視覚的に把握する場合は適しているが、船速の度数分布のように連続的なサンプルの場合は、階級幅をどの程度に設定すべきか一律に判断することが難しいという課題がある。例えば階級幅を大きくしすぎると、相対的にリスクが高い船舶と低い船舶が同じ階級に属することになり、指定船舶のリスクを適切に判断できなくなってしまう可能性がある。そこで本発明においては、連続的なサンプルを取り扱うのに適したカーネル密度分布を用いることとした。
【0037】
<処理フロー>
図11は、航行リスク表示システム100の動作を説明するフローチャートである。ここでは
図8〜
図9で例示した分布
図181を画面出力する動作を示す。以下、
図11の各ステップについて説明する。
【0038】
(
図11:ステップS111〜S112)
オペレータは条件入力部13を介して、分布図を作成する対象とする日時、座標範囲、対象船舶などの条件を入力する(S111)。対象船舶は例えばMMSIを用いて指定することができる。計算部14は、条件入力部13を介して指定された条件にしたがって、対象とするAISデータをAISデータベース12から読み出す(S112)。
【0039】
(
図11:ステップS113〜S114)
カーネル密度分布計算部16は、ステップS112において読み出されたAISデータを用いて、
図7で例示したカーネル密度データを計算する(S113)。ヒストグラム計算部17は、ステップS112において読み出されたAISデータを用いて。
図6で例示したヒストグラムデータを計算する(S114)。
【0040】
(
図11:ステップS115〜S116)
描画部18は、
図8〜
図9で例示した分布
図181(ヒストグラム182、カーネル密度分布183、マーク184および割合値を含む)を描画する(S115)。このとき、カーネル密度値はヒストグラムの最大値を基準として正規化してもよい。出力部19は、描画部18が描画した分布図を画面出力する(S116)。
【0041】
図12は、航行リスク表示システム100の動作を説明するフローチャートである。ここでは
図10で例示した分布
図181を画面出力する動作を示す。以下、
図12の各ステップについて説明する。
【0042】
(
図12:ステップS121〜S122)
オペレータは条件入力部13を介して、分布図を作成する対象とする期間の開始日時と終了日時、座標範囲、対象船舶などの条件を入力する(S121)。計算部14は、条件入力部13を介して指定された条件にしたがって、対象とするAISデータをAISデータベース12から読み出す(S122)。
【0043】
(
図12:ステップS123)
軌跡計算部15は、ステップS122において読み出されたAISデータを、MMSI毎に時系列昇順の軌跡データに変換する。AISデータのなかには、同一の軌跡を往復している船舶も含まれている。本ステップにおいては、往復を併せて単一の軌跡として取り扱うのではなく、往路と復路を分離する。軌跡の始点は、船舶が対象座標範囲外から対象座標範囲内へ入った直後のAISデータである。軌跡の終点は、対象座標範囲内から対象座標範囲外へ出る直前のAISデータである。軌跡計算部15は、MMSI毎に時系列昇順にグループ化した軌跡をさらに、この始点と終点を端点としてAISデータをグループ化し、WKT/WKBなどの線分ベクトルデータとして軌跡フィールド154に格納する。軌跡計算部15は、軌跡フィールド154が示す軌跡に沿って船舶の移動距離を計算し、移動距離と対象期間に基づき当該軌跡における平均速度を求め、SoGフィールド156に格納する。さらに、軌跡を構成するAISデータの平均方向を方向フィールド155として格納しておけば、往路と復路のグラフを作成する際にこれを利用することができる。
【0044】
(
図12:ステップS124〜S127)
これらステップは、AISデータに代えて軌跡データを用いる点を除いて、ステップS113〜S116と同様である。
【0045】
<本発明のまとめ>
以上のように、本発明に係る航行リスク表示システム100は、船舶の速度と船舶数の分布図を作成して画面出力する。これにより、他船舶の速度との比較の観点に基づき、海賊被害に遭遇する相対的リスクを視覚的に分析することができる。例えば、対象海域を航行するとき他船舶よりも相対的に高速に航行すれば、海賊被害に遭遇するリスクは低下すると考えられる。そこでオペレータは、上記分布図を用いて、対象海域を航行する船舶のうち、実績上安全であるとみなされている船速で航行している船舶の割合、やや減速航行している船舶の割合、などを把握する。これにより、指定船舶が他船舶と比較して相対的にリスクの高い速度で航行をしているか否かを分析し、適切な航行指示を出すことができる。
【0046】
また、本発明に係る航行リスク表示システム100は、船舶の速度と船舶数のカーネル密度分布図を作成して画面出力する。これにより、ヒストグラム182の階級幅を適切に定めることが難しい場合であっても、他船舶と比較した指定船舶の相対的リスクを視覚的に把握することができる。
【0047】
また、本発明に係る航行リスク表示システム100は、指定した期間にわたる船舶の軌跡データを求め、その軌跡データの平均船速と船舶数の分布図を作成して画面表示する。これにより、対象海域を航行する船舶の平均的な速度を基準として、当該海域をどの程度の速度で航行すれば相対的リスクを下げることができるかを、視覚的に分析することができる。オペレータはその分析結果にしたがって、指定船舶に対して当該海域を航行する際の速度をあらかじめ指示することができる。
【0048】
また、本発明に係る航行リスク表示システム100は、
図4〜
図5で例示した軌跡データ、または指定日時における各船舶の位置情報を、出力部19から画面出力する。これにより、他船舶の地理的密度の観点から、指定船舶の相対的リスクを視覚的に把握することができる。
【0049】
本発明に係る航行リスク表示システム100は、必ずしも船舶内に搭載する必要はなく、例えば船舶の航行を管制する施設内に設置することもできる。各機能部をソフトウェアなどのコンピュータ構成要素として実装する場合、各機能部は単一のコンピュータ上に実装することもできるし、複数のコンピュータ上に分散して実装し互いに連動するように構成することもできる。各機能部を回路デバイスなどのハードウェアによって実装する場合、各機能部は単一の装置内に実装することもできるし、複数の装置上に分散して実装し互いに連動するように構成することもできる。
【符号の説明】
【0050】
11:AIS受信部、12:AISデータベース、13:条件入力部、14:計算部、15:軌跡計算部、16:カーネル密度分布計算部、17:ヒストグラム計算部、18:描画部、19:出力部、100:航行リスク表示システム。