特許第6029576号(P6029576)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6029576密閉式混練装置のロータに加わるスラスト荷重の計測装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6029576
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】密閉式混練装置のロータに加わるスラスト荷重の計測装置
(51)【国際特許分類】
   B29B 7/28 20060101AFI20161114BHJP
   B29B 7/18 20060101ALI20161114BHJP
   B01F 7/08 20060101ALI20161114BHJP
   B01F 15/00 20060101ALI20161114BHJP
【FI】
   B29B7/28
   B29B7/18
   B01F7/08 D
   B01F15/00 Z
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-263891(P2013-263891)
(22)【出願日】2013年12月20日
(65)【公開番号】特開2015-120256(P2015-120256A)
(43)【公開日】2015年7月2日
【審査請求日】2015年9月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100061745
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 敏雄
(74)【代理人】
【識別番号】100120341
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】岡田 徹
(72)【発明者】
【氏名】田中 雄介
【審査官】 鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/116494(WO,A1)
【文献】 特開平6−179212(JP,A)
【文献】 特開平6−126737(JP,A)
【文献】 実開平5−70629(JP,U)
【文献】 特開2012−73086(JP,A)
【文献】 特開2012−130927(JP,A)
【文献】 特開2006−292445(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 7/00−7/94
B01F 7/00−7/32,15/00
G01L 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸心が互いに平行となるように所定の隙間をあけて隣接して配置されると共に互いに異なる方向へ回転する一対のロータを備え、前記一対のロータの両端側には各ロータに加わるラジアル方向の荷重を支持する軸受が設けられており、各ロータに加わるスラスト方向の荷重が両端側の前記軸受のうち一端側の前記軸受で支持されている密閉式混練装置に備えられたスラスト荷重の計測装置であって、
前記各ロータの両端側に設けられた前記軸受のうち、スラスト荷重を支持する前記軸受の外輪を固定する外輪固定部材または前記外輪固定部材が取り付けられたケーシングに、少なくとも1つ以上の変位センサが配備されており、
前記変位センサは、前記一端側の軸受の内輪を固定する内輪固定部材または前記内輪固定部材が取り付けられた前記ロータの軸方向に沿った、外輪と内輪との間の相対変位を測定可能とされており、
前記変位センサで計測された相対変位に換算係数を乗じることにより、前記ロータに加わるスラスト荷重を算出する荷重算出部が設けられている、
ことを特徴とする密閉式混練装置のロータに加わるスラスト荷重の計測装置。
【請求項2】
前記ロータには、当該ロータの軸線に対して螺旋状にねじれた翼が形成されており、
前記一端側の軸受に作用するスラスト荷重が軸方向の一方向に沿ったものであることを特徴とする請求項1に記載の密閉式混練装置のロータに加わるスラスト荷重の計測装置。
【請求項3】
前記変位センサは、当該ロータの軸心から等距離をあけて、且つ周方向に等間隔になるように複数個配置されており、
前記荷重算出部は、前記複数個の前記変位センサで計測された計測値を平均することで代表相対変位を求め、求められた代表相対変位から前記ロータに加わるスラスト荷重を算出することを特徴とする請求項1又は2に記載の密閉式混練装置のロータに加わるスラスト荷重の計測装置。
【請求項4】
前記ロータの回転を検出する回転センサが設けられており、
前記変位センサは、前記回転センサで検出された前記ロータの一回転における、被混練材料の未投入状態での相対変位の波形と、被混練材料の投入状態での前記変位センサで計測された相対変位の波形とを計測し、
前記荷重算出部は、未投入状態における相対変位の計測波形と、投入状態における相対変位の計測波形との差分波形を用いて、前記ロータに加わるスラスト荷重を算出することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の密閉式混練装置のロータに加わるスラスト荷重の計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密閉式混練装置において、被混練材料を混練する際にロータに発生するスラスト荷重を計測するための計測技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ゴム、プラスチック等の被混練材料を混練する密閉式混練装置として特許文献1に開示されているものがある。特許文献1の密閉式混練装置は、混練室に圧入されたゴムやプラスチックなどの被混練材料を当該混練室内に設けられた2本のロータにより混練し、所望の混練状態となった被混練材料を外部に取り出す構成となっている。これら2本のロータは軸の両側が軸受で回転自由に支持されており、それぞれのロータのドライブ側の端部は外部へ突出する入力軸となっていて、隣接配置された駆動装置の出力軸とこれらの入力軸とがギヤカップリング等の接続装置を介して接続されている。
【0003】
特許文献1の密閉式混練装置では、ゴム、プラスチック等の被混練材料は各種の添加剤とともに上部の投入口からホッパ内に所定量づつ投入され、この被混練材料はフローティングウェイトの押し込み作用によって密閉状態の混練室内に圧入される。このようにして混練室に圧入された被混練材料は互いに異方向に回転するロータにより混練が行われる。
つまり、それぞれのロータには減速機を介して原動機の駆動力(回転)が伝達されており、各ロータが混練室の内壁を掃くように回転すると共に互いに異方向に回転し、混練室内に圧入された樹脂原料(被混練材料)が各種の添加剤とともに混練され、所望の混練状態となった被混練材料が外部に取り出される。
【0004】
また、ロータの外周面には翼(混練翼)が設けられており、特許文献1の密閉式混練装置ではこの翼はロータの軸線に対して螺旋状にねじれた構造となっている。このねじれた翼の作用で、ゴムやプラスチックの被混練材料は軸方向に押し込まれ、軸方向に沿って被混練材料を送る材料の流れが発生する。また、2本のロータにおいてはそれぞれが軸方向に逆向きの流れが生じるように翼はねじられており、チャンバー内を循環するように被混練材料を流すことで効果的な混練が実現される。
【0005】
ところで、特許文献1に開示された密閉式混練装置、言い換えれば、一般的な密閉式混練装置においては、ロータに形成された螺旋状にねじれた翼により被混練材料を軸方向に沿って送ると、その反作用で軸方向を向く反力(スラスト荷重)が発生する。このようなスラスト荷重は、ロータを支持する軸受の寿命に大きな影響を与えるので、軸受の寿命を判断するためにはスラスト荷重を精確に計測することが必要となる。また、スラスト荷重が精確に把握できない場合は、軸受に設計以上のスラスト荷重が加わっていたり、逆にオーバースペックの軸受を用いていたりするといった問題が生じる可能性もある。それゆえ、上述した種類の軸受を採用した場合にはロータに加わるスラスト方向の荷重を精確に計測できる手段を設けるのが好ましい。
【0006】
例えば、特許文献2には、軸受本体とケーシングとの間に荷重センサを設けて、軸受に作用する荷重を計測する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−44145号公報
【特許文献2】特開2001−277236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した特許文献2の方法は、ラジアル荷重(正確にはロール同士が径方向に離間する場合の荷重)を計測するものであるが、スラスト荷重を計測する場合にも十分適用できると思われる。
しかしながら、この方法で用いられる計測装置は構造が複雑で、設置に比較的大きなスペースを必要とし、設置スペースの制約で設置が困難となる場合がある。また、既設の混練設備に対して追加で取り付ける場合には、混練機のケーシングに対して大幅な改造を行わなくてはならなくなる可能性もあり、既存の設備に設置することも困難である。
【0009】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、装置の構成が簡単で、既存の設備にも追加で設置可能なものでありながら、ロータに加わるスラスト荷重を高精度に計測することができる密閉式混練装置のロータに加わるスラスト荷重の計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の密閉式混練装置のロータに加わるスラスト荷重の計測装置は以下の技術的手段を講じている。
即ち、本発明の密閉式混練装置のロータに加わるスラスト荷重の計測装置は、軸心が互いに平行となるように所定の隙間をあけて隣接して配置されると共に互いに異なる方向へ回転する一対のロータを備え、前記一対のロータの両端側には各ロータに加わるラジアル方向の荷重を支持する軸受が設けられており、各ロータに加わるスラスト方向の荷重が両端側の前記軸受のうち一端側の前記軸受で支持されている密閉式混練装置に備えられたスラスト荷重の計測装置であって、前記各ロータの両端側に設けられた前記軸受のうち、スラスト荷重を支持する前記軸受の外輪を固定する外輪固定部材または前記外輪固定部材が取り付けられたケーシングに、少なくとも1つ以上の変位センサが配備されており、前記変位センサは、前記一端側の軸受の内輪を固定する内輪固定部材または前記内輪固定部材が取り付けられた前記ロータの軸方向に沿った、外輪と内輪との間の相対変位を測定可能とされており、前記変位センサで計測された相対変位に換算係数を乗じることにより、前記ロータに加わるスラスト荷重を算出する荷重算出部が設けられていることを特徴とする。
【0011】
なお、好ましくは、前記ロータには、当該ロータの軸線に対して螺旋状にねじれた翼が形成されており、前記一端側の軸受に作用するスラスト荷重が軸方向の一方向に沿ったものであるとよい。
なお、好ましくは、前記変位センサは、当該ロータの軸心から等距離をあけて、且つ周方向に等間隔になるように複数個配置されており、前記荷重算出部は、前記複数個の前記変位センサで計測された計測値を平均することで代表相対変位を求め、求められた代表相対変位から前記ロータに加わるスラスト荷重を算出するとよい。
【0012】
なお、好ましくは、前記ロータの回転を検出する回転センサが設けられており、
前記変位センサは、前記回転センサで検出された前記ロータの一回転における、被混練材料の未投入状態での相対変位の波形と、被混練材料の投入状態での前記変位センサで計測された相対変位の波形とを計測し、前記荷重算出部は、未投入状態における相対変位の計測波形と、投入状態における相対変位の計測波形との差分波形を用いて、前記ロータに加わるスラスト荷重を算出するとよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の密閉式混練装置のロータに加わるスラスト荷重の計測装置によれば、装置の構成が簡単で、既存の設備にも追加で設置可能なものでありながら、ロータに加わるスラスト荷重を高精度に計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】第1実施形態のスラスト荷重の計測装置が設けられた密閉式混練装置の内部断面を示した図である。
図2】密閉式混練装置の混練部及び第1実施形態の計測装置を示した図である。
図3】密閉式混練装置の混練部及び第1実施形態の計測装置を模式的に示した図である。
図4】(a)は第2実施形態の計測装置を模式的に示した図であり、(b)は第2実施形態の計測装置の断面図である。
図5】計測波形を修正することを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[第1実施形態]
以下、第1実施形態のスラスト荷重の計測装置1を図面に基づき詳しく説明する。まず、スラスト荷重の計測装置1の説明に先立ち、第1実施形態の計測装置1が設けられる密閉式混練装置2について説明する。
図1は、第1実施形態の密閉式混練装置2を模式的に示したものである。
【0016】
図1及び図2に示すように、第1実施形態の密閉式混練装置2は、内部が混練室3とされたハウジング4と、このハウジング4の内部に設けられた一対のロータ5、5とを備えており、これら一対のロータ5、5で混練室3に圧入されたゴムやプラスチックなどの被混練材料を混練し、所望の混練状態となった被混練材料を外部に取り出す構成となっている。これら一対のロータ5、5はいずれも軸方向の両端側を軸受6、7で回転自由に支持されている。また、ロータ5の軸方向の一端側(反駆動側)はハウジング4の外部へ突出していないが、軸方向の他端側(駆動側)はハウジング4の外部へ突出しており、この突出したロータ5の他端側にはギヤカップリング等の接続装置が接続されていて、駆動装置で発生した駆動力が接続装置を経由して入力されている。
【0017】
なお、以降の説明において、図2の紙面の左側を、計測装置を説明する際の「反駆動側」または「一端側」、また紙面の右側を、計測装置を説明する際の「駆動側」または「他端側」という。また、図1の紙面の上側を、計測装置を説明する際の「上側」、また紙面の下側を、計測装置を説明する際の「下側」という。
図1に示すように、混練室3の上部には、上方に向かって開口する開口部8が形成されている。この開口部8の上側には、ゴムやプラスチック等の被混練材料を上下方向に沿って案内(導入)する材料導入路9が形成されている。また、材料導入路9の上部には下方に向かって揺動させることで開口可能なホッパ10が設けられており、このホッパ10からはゴムやプラスチックなどの母材に添加剤などが配合された被混練材料が投入されている。また、材料導入路9の内部にはフローティングウエイト11が材料導入路9の形成方向(上下方向)に沿って移動可能に設けられており、フローティングウエイト11を下方に移動させることで材料導入路9の内部に投入された被混練材料を下方の混練室3内に押し込むことが可能となっている。
【0018】
混練室3は、2つの円筒状の空洞を、外周面の一部が互いに重なり合うように左右に並べたような形状(軸垂直方向に沿った断面がめがね穴の形状)に形成されており、その内部には上述した一対のロータ5、5が配備されている。これら一対のロータ5、5は、これら2つの円筒状の空洞の中心に軸心が略一致するようにそれぞれ配備されている。
図2に示すように、各ロータ5の外周面には被混練材料を混練する翼12が形成されている。このロータ5の外周面に設けられた翼12は、いずれのロータ5でも軸方向(軸線)に対してねじれた構造とされており、右側のロータ5と左側のロータ5とでは被混練材料に互いに軸方向の逆向きに流れを生起できるように形成されている。
【0019】
ロータ5の両端側にはこのロータ5を回転自在に支持する軸受6、7がそれぞれ設けられており、これら両端側の軸受6、7は、ラジアル方向の荷重のみならずスラスト方向の荷重も支持できる軸受が採用されている。このような軸受6、7には複列の円錐ころ軸受けや自動調芯ころ軸受が用いられる。なお、ロータ5の他方側の軸受7は、ロータ5の熱伸びを吸収する為に、スラスト方向にスライドできる構造となっている。
【0020】
また、ロータ5の軸方向の他端側には、原動機などの駆動装置で発生した駆動力(回転)を減速して伝達する減速機が設けられており、この減速機で減速された回転駆動力が上述した接続装置(減速機の軸芯とロータ5の軸芯との偏差を許容すると共に、ロータ5の軸方向の移動を許容可能なギヤカップリング)を介して各ロータ5に入力され、各ロータ5が互いに異方向に回転する。さらに、ロータ5の軸方向の一端側は先端に向かってテーパ状に形成されており、このテーパ状の部分に軸受6の内輪13が取り付けられている。
【0021】
すなわち、上述した密閉式混練装置2では、翼12が混練室3の内壁を掃くようにロータ5が回転して、混練室3内に圧入された被混練材料が各種の添加剤とともに混練される。このとき、各ロータ5は、翼12のねじれ方向が同じで回転方向が互いに逆となっているので、図3の上側に示すロータ5では、軸方向の他端側(駆動側)から一端側(反駆動側)に向かうスラスト荷重が発生し、図3の下側に示すロータ5では、軸方向の一端側(反駆動側)から他端側(駆動側)に向かうスラスト荷重が発生する。ここで、図3の上側に示すロータ5および下側に示すロータ5で発生したスラスト荷重は、いずれも一端側の軸受6で支持される。
【0022】
このようにしてロータ5を回転させることで混練が行われた被混練材料は、混練室3の下側に形成された排出口14のドロップドア15を開くことで、排出口14から混練室3の外部に取り出される。そして、被混練材料を取り出した後は、ドロップドア15を再び上方に揺動して混練室3の排出口14を閉塞し、投入口からフローテイングウエイト11を用いて次バッチの被混練材料を混練室3内に押し込む。このようなバッチ式の混練サイクルを繰り返すことで、上述した密閉式混練装置2では混練が行われる。
【0023】
ところで、被混練材料の混練に伴ってロータ5に発生するスラスト荷重は、ロータ5を支持する軸受(スラスト軸受)の寿命に大きな影響を与えるので、軸受の寿命を判断するためにはスラスト荷重を精確に計測することが必要となる。
このようなスラスト荷重が作用した場合、ラジアル荷重とスラスト荷重とがいずれも支持可能な軸受には、外輪16と内輪13との間の変位(相対変位)が生じることとなる。本発明者は、この相対変位に着目し、相対変位からスラスト荷重を算出する技術を知見するに至った。
【0024】
つまり、本発明の密閉式混練装置2では、スラスト荷重を支持できる軸受6に発生する相対変位からスラスト荷重を計測する計測装置1を設けている。
具体的には、この計測装置1では、スラスト荷重を支持する軸受6の外輪16を固定する外輪固定部材17(ベアリング抑え)または外輪固定部材17が取り付けられたケーシング18に、少なくとも1つ以上の変位センサ19が配備されている。そして、この変位センサ19は、一端側の軸受6の内輪13を固定する内輪固定部材20または内輪固定部材20が取り付けられたロータ5の位置、つまり外輪16に対する内輪13の軸方向に沿った相対変位を測定可能とされている。また、計測装置1には、この変位センサ19で計測された相対変位に換算係数を乗じることにより、ロータ5に加わるスラスト荷重を算出する荷重算出部が設けられている。
【0025】
次に、本発明の計測装置1を構成する変位センサ19及び荷重算出部の詳細について説明する。
変位センサ19は、軸方向に設けられた軸受6、7のうち、スラスト荷重が加わる一端側の軸受6に設けられており、この軸受6の外輪16と内輪13との間に発生する軸方向に沿った変位を計測する構成とされている。
【0026】
具体的には、変位センサ19は、軸受6の外輪側の部材に取り付けられており、軸受6の内輪側の部材までの距離に基づいて相対変位(軸受6の外輪16に対する軸受6の内輪13のズレ量)を計測する構成とされている。この変位センサ19が取り付けられる「軸受6の外輪側の部材」は、外輪16が外側から見えない場合には外輪16と同じように固定された部材、例えば外輪16を固定する外輪固定部材17または外輪固定部材17が設けられたケーシング18などが採用される。また、変位センサ19により変位が計測される「軸受6の内輪側の部材」は、内輪13が外側から見えない場合は内輪13と一体に軸方向に移動可能な部材(内輪13と同じ動きをする部材)、例えば内輪13を固定する内輪固定部材20または内輪固定部材20が取り付けられたロータ5などが用いられる。
【0027】
さらに、このような変位センサ19には、レーザや渦電流などを用いた非接触の変位計などを好適に用いることができるが、接触式の変位計などを用いても良い。
なお、本実施形態の変位センサ19は、外輪固定部材17の表面から反駆動側に向かって突出状に取り付けられた取付部材22の先端にレーザ式の変位計を設けた構造とされており、ロータ5の端面(ロータ5のキャップ23)の軸方向位置をレーザを用いて計測することで、外輪16と内輪13との間の軸方向に沿った相対変位を計測する構成とされている。
【0028】
荷重算出部は、図示は省略するが上述した変位センサ19で計測された相対変位から、一端側の軸受6に加わるスラスト荷重を算出できるようになっている。
具体的には、荷重算出部では、変位センサ19で計測された相対変位に換算係数を乗じることで、一端側の軸受6に加わるスラスト荷重、言い換えればロータ5に発生するスラスト荷重を算出する構成とされている。この換算係数は、荷重が相対変位に対してバネのように弾性的に変化することから導かれるバネ定数であり、その値は、ロータ5の軸に既知のスラスト荷重(ロードセルを介して油圧シリンダーで押す等)を与えて、ロータ5を回転させた状態で相対変位を計測しつ校正を行うことで算出することができる。
【0029】
つまり、予め換算係数の数値を入手しておき、荷重算出部に換算係数を入力しておけば、変位センサ19で計測された相対変位にこの換算係数を乗じることでスラスト荷重を算出することが可能となる。なお、実際の荷重算出部としては、変位センサ19の計測結果をデータロガーやメモリなどを用いて取り込んで計算を行うパソコンなどが用いられる。
次に、上述した計測装置1を用いてスラスト荷重を計測する方法、言い換えれば本発明のスラスト荷重の計測方法について説明する。
【0030】
図2に示すように、上述したロータ5を回転させると、軸方向に沿って螺旋状にねじれた翼12が被混練材料を混練し、その混練に伴い、ロータ5にはスラスト荷重が発生する。このようにして発生したスラスト荷重は、ロータ5の一端側に配備された軸受6で支持される。具体的には、図2の上側のロータ5において、この一端側の軸受6では、スラスト荷重の付与により固定された外輪16に対して内輪13の方が一端側に向かって水平にスライドする。この外輪16に対する内輪13のスライド量はスラスト荷重の大きさに応じて変化するので、本発明の計測方法では、上述した変位センサ19で相対変位を計測し、計測された相対変位に換算係数を乗じることでスラスト荷重を算出している。
【0031】
すなわち、本発明の計測装置1では、上述した軸受6の外輪16を固定する外輪固定部材17に変位センサ19を取り付けておき、この変位センサ19を用いて軸受6の内輪13を固定する内輪固定部材20の軸方向位置を計測する。このようにすれば、軸受6の外輪16と内輪13との間隔、つまり軸受6の外輪16と内輪13との間に発生する軸方向に沿った相対変位を計測することが可能となる。
【0032】
このようにして変位センサ19で計測された相対変位の結果は、荷重算出部に送られる。この荷重算出部では、相対変位の結果に既知の換算係数を乗じることでスラスト荷重を算出している。
上述した計測装置1は、密閉式混練装置2のロータ5の軸受6に取り付けられた複数の変位センサ19と、これらの変位センサ19の計測結果を処理する荷重算出部とだけで構成されているので、装置自体は極めて簡便な構成にもかかわらず、軸受6の外輪16と内輪13との間に生じる相対変位からロータ5に加わるスラスト荷重を高精度に計測することができる。
【0033】
また、ロータ5に変位センサ19を取り付けるのみであれば、装置を大幅に改造することなく、既存の設備に追加で設けることができ、計測装置1の利便性という面でも優れている。
さらに、上述した計測装置1で相対変位を定期的に計測し、相対変位が管理値から外れないように監視することにより、軸受6の摩耗等の異常も観測することが可能である。軸受6の摩耗が進展すると、軸受6の隙間(ガタ)が増加し、相対変位が増加するからである。それゆえ、相対変位の増加を観測すれば、軸受6の適切な交換時期を決定することが可能となる。
【0034】
なお、上述した計測装置1において外輪16と内輪13との間の変位を計測して荷重を算出する際、軸受に隙間(ガタ)があると精度が落ちてしまう。なぜならば、スラスト荷重の作用方向に軸受6の隙間がある(軸受にガタがある)場合には、小さな荷重でも大きな相対変位が計測されてしまうため、荷重算出部で大きな荷重が発生したと誤って判断されてしまい、スラスト荷重を正確に算出することが困難となる虞があるからである。
【0035】
しかしながら、本発明の計測装置1が適用される密閉式混練機2においては、混練中、軸受6にガタつきは発生しないこととなる。これは、各ロータ5は、翼12のねじれ方向が同じで回転方向が互いに逆となっているので、図3の上側に示すロータ5では、軸方向の他端側(駆動側)から一端側(反駆動側)に向かうスラスト荷重が発生し、図3の下側に示すロータ5では、軸方向の一端側(反駆動側)から他端側(駆動側)に向かうスラスト荷重が発生するからである。つまり、各ロータ5には、混練中、軸方向の一方向に沿ったスラスト荷重が発生するため、図3の上側に示すロータ5では、軸受の内輪が一端側(反駆動側)に押され、図3の下側に示すロータ5では、軸受の内輪が他端側(駆動側)に押されるため、軸受6は隙間を有しているにも拘わらず、混練中の軸受6にガタつきは発生しないこととなるのである。それ故、相対変位とスラスト荷重との間に線形関係が成立するようになり、スラスト荷重を正確に算出することが可能となる。
【0036】
ところで、上述した変位センサ19で計測される相対変位には、ロータ5の回転成分(うねり成分)が誤差として含まれる場合があり、誤差を排除しなくてはスラスト荷重を精度良く算出できない場合がある。
例えば、図4(b)に示すように、回転するロータ5には径外側に向かってラジアル荷重が発生している。そのため、ラジアル荷重によりロータ5は軸方向の中途側が下方に向かって撓みつつ回転することになる。そうすると、この撓みが原因となってロータ5が水平方向に対して傾斜するようになり、ロータ5の端面(計測面)が垂直に沿ったものでなくなり、計測波形にロータ5の回転周期に同期した回転成分が生じる。
【0037】
つまり、ロータ5の端面上側に変位センサ19を設けた場合と、端面下側に変位センサ19を設けた場合とでは計測値が異なってしまい、正確な相対変位を計測することが困難となってしまう。ロータ5の端面中央部で変位を計測できれば、回転成分は計測値に含まれなくなるが、一般に端面中央部にはロータ5への冷却水の供給配管の接続等が設けられているため、ロータ5の端面中央部に変位センサ19を配備することは困難な場合が多い。
【0038】
このような場合は、相対変位からロータ5の回転成分の影響を誤差として排除(補正)する以下のような補正手段(第1の補正手段)を設けるのが好ましい。
すなわち、第1の補正手段は、変位センサ19を周方向に等間隔に複数(2個以上)設けておき、複数の変位センサ19で計測される計測値の平均を用いることで、回転成分の影響を排除するものである。
【0039】
つまり、これら複数の変位センサ19は、各ロータ5の軸心から互いに等距離となるように、且つそれぞれが周方向に等間隔になるように配置されている。例えば、図4(a)の上に示す例では、ロータ5の端面の上側の「計測点1」と下側の「計測点2」とにそれぞれ変位センサ19が設けられており、周方向に180°の位相差をあけて1つのロータ5につき2個の変位センサ19が配備されている。また、図4(a)の下に示す例では、ロータ5の端面の上側の「計測点1」と下側の「計測点2」及び「計測点3」とに変位センサ19が設けられており、周方向に120°の位相差をあけて1つのロータ5につき3個の変位センサ19が配備されている。
【0040】
このように複数の変位センサ19を周方向に等しい距離(位相差)をあけて配備すれば、各変位センサ19で計測される相対変位の計測結果が等しい位相差をあけて計測される。そのため、すべての変位センサ19の計測結果の和を計算すれば、それぞれの計測値に含まれる回転成分の影響を合わせて打ち消して排除することが可能となる。つまり、複数個の変位センサ19で計測された計測値を平均した代表相対変位を求めれば、それぞれの計測結果に含まれていたロータ5の回転成分の影響が打ち消され、求められた代表相対変位はロータ5の回転成分の影響を含まないものとなるので、複雑な算術処理を行わなくてもロータ5の回転成分の影響を排除することができる。
【0041】
一方、ロータ5の端部(変位センサ19の計測面)が平坦でなくうねりや凹凸がある場合、相対変位の計測結果にその影響が現れることがある。この影響を排除するために、以下のような補正手段(第2の補正手段)を設けるのが好ましい。
第2の補正手段は、ロータ5の外周面にロータ5の回転状態をセンシングする標識24(応答部)などを貼り付けておき、ロータ5の外周面のさらに外周側に、標識24を検出する回転センサ25を設けた構成となっている。そして、回転センサ25で標識24が検出される度にロータ5が一回転したものとして、回転センサ25でロータ5の一回転分と判断された相対変位を変位センサ19で計測する。
【0042】
次に、被混練材料の未投入状態での相対変位の波形と、被混練材料の投入状態での変位センサ19で計測された相対変位の波形とを変位センサ19で計測し、未投入状態における相対変位の計測波形と、投入状態における相対変位の計測波形との差分波形を用いて、荷重算出部でロータ5に加わるスラスト荷重を算出する構成となっている。この差分波形の計算は、一回転分(1パルス)のデータが計測される度に計算され、計算結果の波形が補正後の計測値として出力される。
【0043】
このような第2の補正手段を用いて得られる差分波形では、ロータ5の回転成分の影響が除かれたものとなっている。そのため、このような差分波形を用いてもスラスト荷重を高精度に計測することができると判断される。
例えば、図5(a)に示す相対変位の計測波形では、材料の投入前を見れば明らかなように、計測波形が周期的に変動しており、計測波形にロータ5の回転成分の影響が含まれている。ところが、上述した補正手段で補正を行った図5(b)では、計測波形が周期的に変動しておらず、計測波形にロータ5の回転成分の影響が排除されていることがわかる。
【0044】
上述した第1及び第2の補正手段は、軸方向の長さが長く、回転に伴う撓みが発生しやすいような密閉式混練装置2において、スラスト荷重を計測する場合に特に有用となる。また、上述した計測装置1では、ハブ構造の内部に変位センサ19が組み込まれている(ハブ構造を有する軸受6の径内側に変位センサ19が組み込まれている)ため、撓みの影響をさらに小さくすることができる。
【0045】
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。特に、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。
【符号の説明】
【0046】
1 スラスト荷重の計測装置
2 密閉式混練装置
3 混練室
4 ハウジング
5 ロータ
6 一端側の軸受
7 他端側の軸受
8 開口部
9 材料導入路
10 ホッパ
11 フローティングウエイト
12 翼
13 内輪
14 排出口
15 ドロップドア
16 外輪
17 外輪固定部材
18 ケーシング
19 変位センサ
20 内輪固定部材
22 取付部材
23 ロータのキャップ
24 標識(応答部)
25 回転センサ
図1
図2
図3
図4
図5