特許第6029596号(P6029596)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6029596
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】ビスホスホネートプロドラッグ
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/48 20060101AFI20161114BHJP
   A61K 31/704 20060101ALI20161114BHJP
   A61K 31/663 20060101ALI20161114BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20161114BHJP
   A61P 19/08 20060101ALI20161114BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20161114BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20161114BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20161114BHJP
【FI】
   A61K47/48
   A61K31/704
   A61K31/663
   A61K45/00
   A61P19/08
   A61P35/00
   A61P35/04
   A61P43/00 123
【請求項の数】10
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2013-554818(P2013-554818)
(86)(22)【出願日】2012年2月24日
(65)【公表番号】特表2014-512341(P2014-512341A)
(43)【公表日】2014年5月22日
(86)【国際出願番号】EP2012000813
(87)【国際公開番号】WO2012113571
(87)【国際公開日】20120830
【審査請求日】2015年2月23日
(31)【優先権主張番号】EP11001551
(32)【優先日】2011年2月24日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501477462
【氏名又は名称】ケイテーベー ツモルフォルシュングスゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クラッツ フェリクス
(72)【発明者】
【氏名】ホッホデルファー カトリン
【審査官】 深谷 良範
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−505974(JP,A)
【文献】 特表平08−501546(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/083614(WO,A1)
【文献】 Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters,2008年,Vol.18,p.816-820
【文献】 Biomacromolecules,2005年,Vol.6,p.2800-2808
【文献】 Calcified Tissue International,1996年,Vol.59,p.168-173
【文献】 Pharmaceutical Research,2001年,Vol.18, No.5,p.646-651
【文献】 Journal of Applied Polymer Science,2006年,Vol.101,p.3192-3201
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 47/48
A61K 31/663
A61K 31/704
A61K 45/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)薬学的におよび/または診断上活性な化合物と、
(b)薬学的におよび/または診断上活性な化合物に結合した開裂性リンカーと、
(c)開裂性リンカーに結合したスペーサー基と、
(d)スペーサー基に結合した1つまたは複数のビスホスホネート基と
を含むプロドラッグであって、1つまたは複数のビスホスホネート基の少なくとも1つが、以下の構造(IIc)
【化1】
[式中、
oは、0〜12から独立して選択される整数であり、
pは、0〜2から独立して選択される整数であり、
qは、0〜2から独立して選択される整数であり、
Xは、F、Cl、Br、I、NO、SOH、CN、OH、COOH、COOCH、−CHO、−CHOCH、C1−8アルキル基およびC1−6アリール基からなる群から選択され、
は、同じまたは異なってもよく、H、F、Cl、Br、I、NO、CN、COOCH、−CHO、−CHOCH、C1−8アルキル基およびC1−6アリール基からなる群から独立して選択され、
Eは、O、NH、炭素−炭素単結合、炭素−炭素二重結合または炭素−炭素三重結合を表し、
Mは、水素、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニウムおよび2−アンモニウム−2−ヒドロキシメチル−プロパン−1,3−ジオールから独立して選択され、
Gは、S、O、NH、炭素−炭素単結合、炭素−炭素二重結合またはトリアゾールを表す]
を有する、プロドラッグ
ここで、薬学的におよび/または診断上活性な化合物が、N−ニトロソウレア、アントラサイクリンドキソルビシン、2−ピロリノアントラサイクリン、モルホリノアントラサイクリン、ジアセタトキシアルキルアントラサイクリン、ダウノルビシン、エピルビシン、イダルビシン、ミトキサントロンおよびアメタントロン;アルキル化剤、クロラムブシル、ベンダムスチン、メルファラン、およびオキサザホスホリン;代謝拮抗物質、5−フルオロウラシル、2’−デオキシ−5−フルオロウリジン、シタラビン、クラドリビン、フルダラビン、ペントスタチン、ゲムシタビン、6−チオグアニンおよび6−メルカプトプリン;葉酸拮抗薬、メトトレキサート、ラルチトレキセド、ペメトレキセドおよびプレビトレキセド、タキサン、パクリタキセルおよびドセタキセル;カンプトセシン、トポテカン、イリノテカン、SN−38、10−ヒドロキシカンプトセシン、GG211、ラルトテカン、9−アミノカンプトセシンおよびカンプトセシン;ビンカアルカロイド、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシンおよびビノレルビン;カリケアマイシン;メイタンシノイド;アウリスタチン;エポチロン;デュオカルマイシン;ブレオマイシン、ダクチノマイシン、プリカマイシン、ミトマイシンCおよびcis−構造白金(ll)錯体からなる群から選択される細胞増殖抑制剤であり、
開裂性リンカー(b)が、酵素的におよび/またはpH依存的に開裂可能である基を含む
【請求項2】
開裂性リンカー(b)が、−Arg−、−Arg−Arg−、−Phe−Arg−、−Phe−Cit−、−Ile−Pro−Lys−、−Lys−、−Lys−Lys−、−Arg−Lys−、−Leu−Arg−、−Phe−Arg−、−Val−Arg−、−Ala−Leu−Ala−Leu−、−Phe−Lys−、−Phe−Lys−Ala−、−Val−Cit−、−Val−Ala−、−Val−Arg−、−Ala−Phe−Lys−、−D−Ala−Phe−Lys−、−Ser−Ser−Tyr−Tyr−Ser−Arg−、−Ser−Ser−Tyr−Tyr−Ser−Leu−、−Arg−Ser−Ser−Tyr−Tyr−Ser−Leu−、−Phe−Pro−Lys−Phe−Phe−Ser−Arg−Gln−、−Lys−Pro−Ile−Glu−Phe−Nph−Arg−Leu−、−Gly−Pro−Leu−Gly−Ile−Ala−Gly−Gln−、−Gly−Pro−Gln−Gly−Ile−Trp−Gly−Gln−、−Gly−Phe−Leu−Gly−、−Gly−Gly−、−Gly−Gly−Gly−および−Gly−Gly−Gly−Arg−Arg−からなる群から選択される酵素的に開裂可能なペプチド配列を含む、請求項に記載のプロドラッグ。
【請求項3】
開裂性リンカー(b)が、pH値の低下時に開裂可能である酸感受性基を含み、酸感受性基が、エステル、アセタール、ケタール、イミン、アコニチル、ヒドラゾン、アシルヒドラゾンおよびスルホニルヒドラゾン結合またはトリチル基を含有する結合から選択される、請求項に記載のプロドラッグ。
【請求項4】
開裂性リンカー(b)が、以下の基
【化2】
[式中、LおよびZは、O、SおよびNHから独立して選択され、Rは、F、Cl、Br、I、NO、CN、OH、C1−8アルキル基およびC1−6アリール基からなる群から独立して選択される、フェニル環の1つまたは複数の置換基を表す]
の1つから選択される自壊性基をさらに含み、薬学的におよび/または診断上活性な化合物(a)が自壊性基のZ末端に結合している、請求項1からのいずれか一項に記載のプロドラッグ。
【請求項5】
スペーサー基(c)が、マレインイミド基、ハロゲンアセトアミド基、ハロゲンアセテート基、ピリジルチオ基、ビニルカルボニル基、アジリジン基、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル基、ジスルフィド基、および置換または非置換アセチレン基からなる群から得られる単位を含む、請求項1からのいずれか一項に記載のプロドラッグ。
【請求項6】
スペーサー基(c)が、脂肪族鎖−(CH−(nは、1から12の整数である)、オリゴエチレングリコール−(O−CH−CH−(nは、1から12の整数である)、合成ポリ(エチレングリコール)、もしくはフェニル環(F、Cl、Br、I、NO、SOH、CN、OH、COOH、C1−8アルキル基およびC1−6アリール基からなる群から選択される1つまたは複数の置換基で必要に応じて置換されている)、またはそれらの組合せをさらに含む、請求項1からのいずれか一項に記載のプロドラッグ。
【請求項7】
式(IIc)中のGが、Sである、請求項1からのいずれか一項に記載のプロドラッグ。
【請求項8】
単位(c)が、以下の構造(IX)から(XII)
【化3】
[式中、PEGは、ポリ(エチレングリコール)を表し、l、mおよびnは、0から12の整数から独立して選択される]
の1つから選択される、請求項1からのいずれか一項に記載のプロドラッグ。
【請求項9】
単位(a)および(b)が、一緒になって、以下の構造(XIII)から(XVIII)
【化4】
の1つから選択される、請求項1からのいずれか一項に記載のプロドラッグ。
【請求項10】
請求項1からのいずれか一項に記載のプロドラッグと、必要に応じて薬学的に許容される担体、薬学的に許容されるアジュバントおよび/または希釈剤とを含む、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬学的におよび/または診断上活性な化合物と、1つまたは複数のビスホスホネート基とを含むプロドラッグ、そのようなプロドラッグを製造するための方法、ならびに、転移を含む骨がん等の骨関連障害の治療に使用される、前記プロドラッグを含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
健康な骨は、その寿命の間、再構築され続け、全体の骨格の約8%が毎年更新されている。骨形成および吸収、いわゆる再形成は、均衡状態にあり、完全に発達した骨の特徴であり、造骨細胞(骨芽細胞)および骨吸収細胞(破骨細胞)が前記プロセスに関与する。骨再構築における吸収は、広範な細胞膜である破骨細胞の波状縁の、骨表面に対する結合から始まる。表面接触の後、リソソーム酵素(例えば酸性ホスファターゼまたはカテプシン)およびマトリックスメタロプロテアーゼが分泌され、ATP−依存性イオンポンプが、いわゆる吸収窩を形成する骨の溝部におけるpH値を低下させる。吸収段階の終わりに、破骨細胞は骨表面から解放され、骨芽細胞またはその前駆細胞が窩内に定着し、骨形成を開始する。
【0003】
骨障害は、骨形成と骨吸収との間の不均衡を特徴とする。例えば、悪性疾患が進行すると、微小転移が形成されることがよくあるが、これは一次診断においては発見されないことが多い。最も一般的には、転移は、肝臓、肺および骨に形成される。骨転移の症状は重篤である。特に、骨髄における転移の成長により、周囲の骨質が冒される。一方では、これは圧力損傷によるものである。また一方では、腫瘍細胞が、腫瘍領域において骨形成と骨吸収との間の自然の均衡を変化させ、そのようにして骨質を破壊する物質を分泌する。これらのプロセスは、多くの場合疼痛をもたらし、最終的に、非常に治癒しにくい骨折を引き起こす可能性がある。脊椎が冒されると、神経または骨髄自体が椎体の崩壊により破砕されるという追加的なリスクがある。これは、麻痺および感覚障害の症状をもたらし得る。さらに、多くの場合において、その結果として、血液中のカルシウムが急増し、いわゆる高カルシウム血症となる。
【0004】
骨転移は、血流量が高くかつ再形成が顕著な領域に定着し、成長因子およびプロテアーゼが腫瘍細胞の増殖および侵入を促進する。骨転移は、X線写真上で造骨性または溶骨性に分類されるが、これらは骨芽細胞による骨形成と破骨細胞による骨吸収との間の不均衡により生じる。骨芽細胞および破骨細胞に加えて、骨転移は、線維芽細胞、マクロファージ、内皮細胞およびそれぞれの転移した原発性腫瘍の腫瘍細胞からなり、これらが共にいくつかの成長因子およびプロテアーゼ、特にマトリックスメタロプロテアーゼ、カテプシンおよびウロキナーゼを分泌し、これらが骨転移を開始および促進する。
【0005】
骨転移の現在の治療は対症療法的であり、化学療法、疼痛治療およびビスホスホネートの使用の組合せに基づいている。ビスホスホネートによる治療は、骨折および骨痛の発生を低減し、したがってクオリティオブライフを改善するが、患者の生存期間を延ばすことはない。対症療法および治療法の選択肢を改善するために、新たな治療法的アプローチが至急必要とされている。
【0006】
1つの有望な治療法的アプローチは、骨標的化である。特に、骨組織の最も著しい特徴は、主にアパタイトCa10(PO(式中、Xは、フッ化物(フッ素アパタイト)、ヒドロキシ(ヒドロキシアパタイト)または塩化物(クロロアパタイト)である)からなる、約70質量%のミネラル分を有する石化した細胞外基質である。さらに、有機基質が約20質量%、水が約10質量%を占める。
【0007】
過去において、ビスホスホネート、テトラサイクリン、ポリマロネートおよびポリアスパルテート、ならびにシアル酸が、骨標的化のための骨指向性リガンドとして提案され、ビスホスホネートの物質クラスが最も良く検証されてきた。
【0008】
ビスホスホネートは、ピロホスフェートの誘導体であり、加水分解に不安定な中心のP−O−P結合が、安定なP−C−P結合により置き換えられている。
【0009】
ビスホスホネートは、破骨細胞の不活性化をもたらすが、他の作用機序、例えばファルネシル−ピロホスフェートシンターゼまたはマトリックスメタロプロテアーゼの阻害等も仮定されている。ビスホスホネートと骨アパタイトとの間の親和性は非常に高い。
【0010】
また、抗腫瘍剤を含むビスホスホネート誘導体、例えばシスプラチンアナログのビスホスホネート錯体およびメトトレキサートのビスホスホネート誘導体等が開発されている。しかしながら、シスプラチンアナログのビスホスホネート錯体の場合、シスプラチンと比較して大幅に高い用量が必要である。さらに、メトトレキサートビスホスホネート誘導体は、著しい全身毒性を示す。
【0011】
WO−A−2007/092338は、ビスホスホネートおよび抗葉酸剤を含む組成物を開示している。さらに、WO−A−2008/077241は、ホスホネート化グリコペプチドおよびリポグリコペプチド抗生物質、ならびに骨および関節感染症の治療におけるそれらの使用を開示している。WO−A−02/083150および米国特許第6,214,812号には、ビスホスホネート複合体が記載されている。しかしながら、これらの文献はいずれも、所望の作用部位、すなわち骨の中/上において薬学的に活性な化合物を選択的に放出することができるプロドラッグ系は扱っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】WO−A−2007/092338
【特許文献2】WO−A−2008/077241
【特許文献3】WO−A−02/083150
【特許文献4】米国特許第6,214,812号
【非特許文献1】J.K.Woodward、I.Holen、R.E.Coleman、D.J.Buttle、Bone 2007、41、912
【非特許文献2】D.E.Chung、F.Kratz、Bioorg.Med.Chem.Lett.2006、16、5157〜5163頁
【非特許文献3】F.Kratz、Expert.Opin.Investig.Drugs 2007、16、855〜866頁
【非特許文献4】F.Kratzら、J.Med.Chem.2002、45、5523〜5533頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、本発明の根本にある技術的課題は、骨転移を含む骨がん等の骨関連障害の治療のための標的指向性プロドラッグを提供することであり、このプロドラッグは、薬学的におよび/または診断上活性な化合物の骨内でのより効率的な放出を示すべきであり、遊離型の薬学的におよび/または診断上活性な化合物と比較して、全身毒性が低減されているべきであり、したがって副作用がより低くなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によれば、上記の技術的問題は、(a)薬学的におよび/または診断上活性な化合物と、(b)薬学的におよび/または診断上活性な化合物に結合した開裂性リンカーと、(c)開裂性リンカーに結合したスペーサー基と、(d)スペーサー基に結合した1つまたは複数のビスホスホネート基とを含むプロドラッグであって、1つまたは複数のビスホスホネート基の少なくとも1つが、以下の構造(IIc)
【0015】
【化1】
【0016】
[式中、
oは、0〜12から独立して選択される整数であり、
pは、0〜2から独立して選択される整数であり、
qは、0〜2から独立して選択される整数であり、
Xは、F、Cl、Br、I、NO、SOH、CN、OH、COOH、COOCH、−CHO、−CHOCH、C1−8アルキル基およびC1−6アリール基からなる群から選択され、
は、同じまたは異なってもよく、H、F、Cl、Br、I、NO、CN、COOCH、−CHO、−CHOCH、C1−8アルキル基およびC1−6アリール基からなる群から独立して選択され、
Eは、O、NH、炭素−炭素単結合、炭素−炭素二重結合または炭素−炭素三重結合を表し、
Mは、水素、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニウムおよび2−アンモニウム−2−ヒドロキシメチル−プロパン−1,3−ジオールから独立して選択され、Gは、S、O、NH、炭素−炭素単結合、炭素−炭素二重結合またはトリアゾール部分、好ましくはSを表す]
を有するプロドラッグを提供することにより解決される。
【0017】
特に、本発明によるプロドラッグの構造はまた、以下の構造により表すことができ、上に定義されたように、薬学的におよび/または診断上活性な化合物(a)は、開裂性リンカー(b)に結合し、開裂性リンカー(b)は、スペーサー基(c)に結合し、スペーサー基(c)は、1つまたは複数のビスホスホネート基(d)に結合している。
【0018】
【化2】
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】化合物14を用いた開裂試験(実施例4(a))のクロマトグラムである。
図2】化合物16を用いた開裂試験(実施例4(b))のクロマトグラムである。
図3】化合物23を用いた開裂試験(実施例4(c))のクロマトグラムである。特に、カテプシンBを用いたpH5.0および37℃での化合物23のインキュベーション試験のクロマトグラムが示されている。開裂生成物ドキソルビシンが参照として含まれている。
図4】pH7.4および37℃における、プロドラッグ14および23のヒドロキシアパタイト(HA)に対する結合を示す図である。
図5】37℃およびpH7.4で4時間後の、ビスホスホネートプロドラッグ14および23ならびにドキソルビシンの自然骨に対する結合試験を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明によるプロドラッグは、転移を含む骨がん等の骨関連障害の治療に特に好適である。本発明によるプロドラッグは、酸性環境または骨転移における特定酵素の発現を利用して、骨転移内で薬学的におよび/または診断上活性な化合物を放出するように設計されている。特に、骨転移は、pH値の低下および特定プロテアーゼの過剰発現を特徴とする。骨転移において過剰発現する最も重要なプロテアーゼは、マトリックスメタロプロテアーゼ、ADMAP(ディスインテグリンおよびメタロプロテイナーゼ)、カテプシンBおよびKならびにuPA(ウロキナーゼ−プラスミノーゲン活性化因子)ならびにtPA(組織−プラスミノーゲン活性化因子)である(J.K.Woodward、I.Holen、R.E.Coleman、D.J.Buttle、Bone 2007、41、912)。
【0021】
さらに、骨再形成および骨転移中にアパタイトマトリックスを分解するために、pH値は、生理的pH値に対して低下していなければならない。吸収窩におけるpH値は、酸性範囲内にある。pHの勾配は、炭酸脱水酵素II型によるHイオンの提供により確実となり、このイオンは、ATPイオンポンプを用いて破骨細胞から波状縁を介して外に運搬される。細胞外環境の酸性化により、リソソーム分泌されたプロテアーゼ、例えばカテプシンBおよびKは、そのタンパク質分解活性のための理想的な環境を有する。マトリックスメタロプロテアーゼおよびADMAP(ディスインテグリンおよびメタロプロテイナーゼ)の骨転移における過剰発現に加え、ウロキナーゼ−プラスミノーゲン活性化因子(uPA)の発現が、骨転移の形成に関連する。
【0022】
薬学的におよび/または診断上活性な化合物(a)は、好ましくは、細胞増殖抑制剤、細胞毒性薬、サイトカイン、免疫抑制剤、抗リウマチ剤、消炎剤、抗生物質、鎮痛剤、ウイルス静止剤、および抗真菌剤、転写因子阻害剤、細胞周期調節剤、MDR調節剤、血管破壊剤、プロテアソームまたはプロテアーゼ阻害剤、タンパク質キナーゼ阻害剤、アポトーシス調節剤、酵素阻害剤、血管形成阻害剤、ホルモンまたはホルモン誘導体、放射性物質、発光性物質、ならびに光吸収物質からなる群から選択される。
【0023】
抗腫瘍剤としてのプロドラッグの適用を考慮すると、薬学的におよび/または診断上活性な化合物は、N−ニトロソウレア、アントラサイクリンドキソルビシン、2−ピロリノアントラサイクリン、モルホリノアントラサイクリン、ジアセタトキシアルキルアントラサイクリン、ダウノルビシン、エピルビシン、イダルビシン、ミトキサントロンおよびアメタントロン、ならびにそれらの任意の誘導体;アルキル化剤クロラムブシル、ベンダムスチン、メルファラン、およびオキサザホスホリン、ならびにそれらの任意の誘導体;代謝拮抗物質5−フルオロウラシル、2’−デオキシ−5−フルオロウリジン、シタラビン、クラドリビン、フルダラビン、ペントスタチン、ゲムシタビン、6−チオグアニンおよび6−メルカプトプリン、ならびにそれらの任意の誘導体;葉酸拮抗薬メトトレキサート、ラルチトレキセド、ペメトレキセドおよびプレビトレキセド、タキサンパクリタキセルおよびドセタキセル、ならびにそれらの任意の誘導体;カンプトセシントポテカン、イリノテカン、SN−38、10−ヒドロキシカンプトセシン、GG211、ラルトテカン、9−アミノカンプトセシンおよびカンプトセシン、ならびにそれらの任意の誘導体;ビンカアルカロイドビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシンおよびビノレルビン、ならびにそれらの任意の誘導体;カリケアマイシンおよびその任意の誘導体;メイタンシノイドおよびその任意の誘導体;アウリスタチンおよびその任意の誘導体;エポチロンおよびその任意の誘導体;デュオカルマイシンおよびその任意の誘導体;ブレオマイシン、ダクチノマイシン、プリカマイシン、ミトマイシンCおよびcis−構造白金(II)錯体からなる群から選択される細胞増殖抑制剤であることが好ましい。
【0024】
開裂性リンカー(b)に結合するために、薬学的におよび/または診断上活性な化合物(a)は、誘導体化されてもよい。したがって、化学誘導体化に好適な部分を含有するために、本発明のプロドラッグの調製に使用される薬学的におよび/または診断上活性な化合物は、−COOH、−OH、−NH、−NH−NH、−CO−NH−NH、−SOH、−SHまたはカルボニル基から選択される少なくとも1つの官能基を含有してもよい。
【0025】
本発明によれば、開裂性リンカー(b)は、開裂可能な基を含む。前記開裂は、好ましくは、所望の作用部位、例えば骨、特に骨転移において起きる。骨転移は、pH値の低下および特定酵素の過剰発現を特徴とするため、開裂性リンカーは、酵素的におよび/またはpH依存的に開裂可能である基を含むことが好ましい。例えば、本発明のプロドラッグの開裂性リンカーは、好ましくはプロテアーゼの開裂性ペプチド配列内に位置する少なくとも1つのペプチド結合を含有してもよい。したがって、ペプチド結合は、それぞれのペプチド配列を開裂性リンカー内に挿入することにより実現され得る。好適な酵素は、例えば、プロテアーゼおよびペプチダーゼ、例えばマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)、システインプロテアーゼ、セリンプロテアーゼおよびプラスミン活性化因子であり、これらは、関節リウマチまたはがん等の疾患において増強された様式で形成または活性化され、過剰組織分解、炎症および転移をもたらす。酵素の好ましい例は、メタロプロテアーゼ、ADMAP(ディスインテグリンおよびメタロプロテイナーゼ)、カテプシンBおよびKならびにuPA(ウロキナーゼ−プラスミノーゲン活性化因子)ならびにtPA(組織−プラスミノーゲン活性化因子)であるが、これらの酵素が一般に骨転移において過剰発現されるためである。
【0026】
本発明の好ましい実施形態において、開裂性リンカーは、
−Arg−、−Arg−Arg−、−Phe−Arg−、−Phe−Cit−、−Ile−Pro−Lys−、−Lys−、−Lys−Lys−、−Arg−Lys−、−Leu−Arg−、−Phe−Arg−、−Val−Arg−、−Ala−Leu−Ala−Leu−、−Phe−Lys−、−Phe−Lys−Ala−、−Val−Cit−、−Val−Ala−、−Val−Arg−、−Ala−Phe−Lys−、−D−Ala−Phe−Lys−、−Ser−Ser−Tyr−Tyr−Ser−Arg−、−Ser−Ser−Tyr−Tyr−Ser−Leu−、−Arg−Ser−Ser−Tyr−Tyr−Ser−Leu−、−Phe−Pro−Lys−Phe−Phe−Ser−Arg−Gln−、−Lys−Pro−Ile−Glu−Phe−Nph−Arg−Leu−、−Gly−Pro−Leu−Gly−Ile−Ala−Gly−Gln−、−Gly−Pro−Gln−Gly−Ile−Trp−Gly−Gln−、−Gly−Phe−Leu−Gly−、−Gly−Gly−、−Gly−Gly−Gly−および−Gly−Gly−Gly−Arg−Arg−
からなる群から選択される酵素的に開裂可能なペプチド配列を含む。
【0027】
本発明の別の好ましい実施形態において、開裂性リンカーは、pH値の低下時に開裂可能である酸感受性基を含む。好ましくは、この酸感受性基は、少なくとも1つの酸感受性結合を含有する。酸感受性基は、エステル、アセタール、ケタール、イミン、アコニチル、ヒドラゾン、アシルヒドラゾンおよびスルホニルヒドラゾン結合またはトリチル基を含有する結合から選択されることが特に好ましい。骨転移は、一般にpH値の低下を特徴とするため、そのような酸感受性基は、所望の部位、すなわち転移において開裂可能である。
【0028】
薬学的におよび/または診断上活性な化合物を放出するために、開裂性基は、所望の作用部位で開裂し、そのようにして薬学的におよび/または診断上活性な化合物を解放する。開裂性リンカー(b)は、ペプチド開裂または酸感受性結合の開裂後に、不安定な自壊性スペーサー薬物誘導体(自然反応では加水分解し、薬学的におよび/または診断上活性な化合物を放出する)を生成する1つまたは複数の自壊性基をさらに含有してもよい。好ましくは、開裂性リンカーは、以下の基
【0029】
【化3】
【0030】
[式中、ZおよびLは、O、SおよびNHから独立して選択され、Rは、F、Cl、Br、I、NO、CN、OH、C1−8アルキル基およびC1−6アリール基からなる群から独立して選択される、フェニル環の1つまたは複数の置換基を表す]
の1つから選択される自壊性基を含み、薬学的におよび/または診断上活性な化合物(a)は、自壊性基のZ末端に結合している。
【0031】
さらに、本発明によるプロドラッグは、開裂性リンカー(b)に結合したスペーサー基(c)をさらに含む。この基は、単なるスペーサーとしての機能を有し得るが、さらにプロドラッグの水溶性、生体適合性および/または分子質量を高める機能も有し得る。さらに、スペーサー基(c)はまた、合成上の理由のみから存在してもよく、すなわち、好都合な合成経路による1つまたは複数のビスホスホネート基(d)への開裂性リンカー(b)の接続を可能とするために存在してもよい。したがって、スペーサー基(c)は、制限されず、1つまたは複数のビスホスホネート基(d)への開裂性リンカー(b)の好都合な接続を可能とする任意の基を含み得る。
【0032】
スペーサー基(c)は、例えば、アミド結合、エステル結合、エーテル結合、チオエーテル結合、ジスルフィド結合、または炭素−炭素単結合、炭素−炭素二重結合もしくは炭素−炭素三重結合により、1つまたは複数のビスホスホネート基(d)に結合してもよい。
【0033】
例えば、スペーサー基(c)は、マレインイミド基、ハロゲンアセトアミド基、ハロゲンアセテート基、ピリジルチオ基、ビニルカルボニル基、アジリジン基、N−ヒドロキシスクシンイミドエステル基、ジスルフィド基、および置換または非置換アセチレン基からなる群から得られる単位を含み得る。特に、好適な試薬の添加後、上記の基は、以下の例示的に示される構造を有してもよく、式中、Zは、O、SまたはNHであってもよい。
【0034】
【化4】
【0035】
本発明のさらに好ましい実施形態において、スペーサー基(c)はまた、脂肪族鎖−(CH−(nは、1から12の整数である)、オリゴエチレングリコール−(O−CH−CH−(nは、1から12の整数である)、合成ポリ(エチレングリコール)、もしくはフェニル環(F、Cl、Br、I、NO、SOH、CN、OH、COOH、C1−8アルキル基およびC1−6アリール基からなる群から選択される1つまたは複数の置換基で必要に応じて置換されている)、またはそれらの組合せを含み得る。スペーサー基は、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、モノメトキシPEG(mPEG)、ポリグリセロール(PG)、ポリ(エチレンイミン)(PEI)およびN−(2−ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド(HPMA)コポリマー、ならびにそれらの組合せからなる群から選択される合成ポリマーを含有することが特に好ましい。スペーサー基は、例えば1,000から50,000Daの範囲の質量を有するPEGを含むことが特に好ましい。PEGは、2,000から20,000Daの範囲の質量を有することがより好ましい。そのようなスペーサー基の例は、以下の構造SuOOC−CH−CH−PEG−CH−CH−S−TrtのPEGの市販の保護メルカプト誘導体から得ることができる。この基は、構造−OOC−CH−CH−PEG−CH−CH−S−を有するスペーサー基の単位に変換され得る。
【0036】
上記リンカー基は、プロドラッグの効率的な合成の面で有利となり得る。さらに、合成ポリマーは、プロドラッグの水溶性、生体適合性、分子質量および生体内分布の面で有利となり得る。
【0037】
本発明によれば、プロドラッグは、スペーサー基に結合した1つまたは複数のビスホスホネート基(d)を含み、1つまたは複数のビスホスホネート基の少なくとも1つ、好ましくは全てが、上記式(IIc)の構造を有する。本発明の好ましい実施形態において、プロドラッグは、1つから12個のビスホスホネート基を含有する。プロドラッグは、1つ、2つまたは3つのビスホスホネート基を含有することが特に好ましい。プロドラッグが2つより多いビスホスホネート基を含有する場合、ビスホスホネート基は、式(IIc)に従うビスホスホネート基の他に、任意の好適なビスホスホネート基から選択され得る。本発明の好ましい実施形態において、ビスホスホネート基は、式(IIc)に従うビスホスホネート基の他に、エチドロネート、クロドロネート、チルドロネート、パミドロネート、1−アミノ−1,1−ジホスホネートメタン(アミノBP)、リセドロネート、イバンドロネート、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸(HEDP)、アレンドロネートおよびゾレドロネートからなる群から独立して選択される。上記ビスホスホネートは、スペーサー基に結合し得るような様式で化学修飾されてもよい。本発明の特に好ましい実施形態において、ビスホスホネート基は、パミドロネートである。
【0038】
別の好ましい実施形態において、ビスホスホネート基(d)は、式(IIc)に従うビスホスホネート基以外に、独立して、以下の構造(IIa)から(Va)、(IIb)から(Vb)
【0039】
【化5】
【0040】
【0041】
【0042】
[式中、
oは、0〜12から独立して選択される整数であり、
pは、0〜2から独立して選択される整数であり、
qは、0〜2から独立して選択される整数であり、
rは、1または2から独立して選択される整数であり、
sは、0〜12から独立して選択される整数であり、
tは、0〜2から独立して選択される整数であり、
uは、0または1から独立して選択される整数であり、
vは、0〜2から独立して選択される整数であり、
XおよびYのそれぞれは、F、Cl、Br、I、NO、SOH、CN、OH、COOH、COOCH、−CHO、−CHOCH、C1−8アルキル基およびC1−6アリール基からなる群から独立して選択され、
は、同じまたは異なってもよく、H、F、Cl、Br、I、NO、CN、COOCH、−CHO、−CHOCH、C1−8アルキル基およびC1−6アリール基からなる群から独立して選択され、
Eは、O、NH、炭素−炭素単結合、炭素−炭素二重結合または炭素−炭素三重結合を表し、
Mは、水素、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニウムおよび2−アンモニウム−2−ヒドロキシメチル−プロパン−1,3−ジオールから独立して選択される]
の1つを有する。
【0043】
本発明によれば、異なる成分(a)、(b)、(c)および(d)は、いかなる制限もなしに任意に組み合わされて、本発明のプロドラッグを生成し得る。
【0044】
本発明の好ましい実施形態において、プロドラッグは、以下の一般式(I):
【0045】
【化6】
【0046】
[式中、単位(d)は、上に定義された上記構造(II)から(V)の1つを有する1つまたは複数のビスホスホネート基を表し、単位(c)は、スペーサー基を表し、単位(b)は、開裂性リンカーを表し、単位(a)は、薬学的におよび/または診断上活性な化合物を表す]
を有する。
【0047】
一般式(I)の上記プロドラッグにおいて、1つより多くのビスホスホネート基が存在する場合、単位(d)は、式(IIc)に従うビスホスホネート基以外に、以下の構造(VIa)から(VIIIa)または(VIb)から(VIIIb)
【0048】
【化7】
【0049】
【0050】
[式中、
は、同じまたは異なってもよく、H、F、Cl、Br、I、NO、CN、COOCH、−CHO、−CHOCH、C1−8アルキル基およびC1−6アリール基からなる群から独立して選択され、
Mは、水素、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アンモニウムおよび2−アンモニウム−2−ヒドロキシメチル−プロパン−1,3−ジオールから独立して選択される]
の1つを含有し得る。
【0051】
また、一般式(I)の上記プロドラッグにおいて、単位(c)は、以下の構造(IX)から(XII)
【0052】
【化8】
【0053】
の1つから選択されることが好ましい。
【0054】
上記構造(IX)から(XII)において、l、mおよびnは、0から12の整数から独立して選択される。上記構造(IX)および(X)において、nが1から12の整数である場合、mは、好ましくは0であり、mが1から12の整数である場合、nは、好ましくは0である。上記構造(IX)および(X)において、lは3であり、mは5であり、nは0であることが特に好ましい。上記構造(XI)において、PEGは、ポリ(エチレングリコール)を表し、lおよびmは、好ましくは2であり、nは、好ましくは5である。
【0055】
一般式(I)の上記プロドラッグにおいて、単位(a)および(b)は、一緒になって、以下の構造(XIII)から(XVII)
【0056】
【化9】
【0057】
【0058】
の1つから選択されることがさらに好ましい。
【0059】
上記単位(XIII)において、開裂性リンカーは、ウロキナーゼにより開裂され得るGly−Gly−Gly−Arg−Argペプチド配列を含む。上記単位(XIV)および(XVIII)において、開裂性リンカーは、酸に不安定なヒドラゾン単位を含む。上記単位(XV)および(XVI)において、開裂性リンカーは、それぞれ、カテプシンBにより開裂され得るPhe−LysおよびVal−Alaペプチド配列を含む。
【0060】
本発明の別の態様は、上に定義されたプロドラッグ、ならびに必要に応じて薬学的に許容される担体、および/または薬学的に許容されるアジュバント、および/または希釈剤を含む医薬組成物に関する。
【0061】
医薬組成物は、例えば、溶媒および希釈剤、例えば塩化ナトリウム溶液または任意の薬学的に許容される緩衝剤を含有する溶液を含有してもよい。さらに、本発明の医薬組成物は、患者への投与に好適な任意の形態、例えば注射剤の形態、錠剤もしくはカプセル剤、または吸入用組成物であってもよい。
【0062】
特定の実施形態によれば、上に定義された医薬組成物は、骨関連障害の治療、特に骨転移を含む骨がんの治療に使用される。
【0063】
本発明の別の実施形態によれば、上に定義されたプロドラッグは、キットに含まれてもよく、キットは、1種または複数種のアジュバント、例えば緩衝剤または薬学的に許容される担体をさらに含有してもよい。
【0064】
本発明のプロドラッグの合成経路は制限されない。一例において、本発明のプロドラッグは、マレインイミド基、開裂性リンカーならびに薬学的におよび/または診断上活性な化合物を含む構成単位を使用して合成され得る。前記構成単位の合成は、先行技術から知られている(例えばD.E.Chung、F.Kratz、Bioorg.Med.Chem.Lett.2006、16、5157〜5163頁;F.Kratz、Expert.Opin.Investig.Drugs 2007、16、855〜866頁を参照されたい)。
【0065】
ビスホスホネートは、実施例1および2に示されるように、まず二重結合を、次いで遊離スルフヒドリル基を含有する脂肪族側鎖を導入し、次いでマレイミドを保持するプロドラッグと反応させることにより、テトラエチルメチレン−ビスホスホネートから調製され得る。
【0066】
本発明によれば、好ましくは所望の作用部位においてプロドラッグが開裂した際に、プロドラッグに含有される薬学的におよび/または診断上活性な化合物の促進された特異的な放出を有利に示す、新規な標的指向性プロドラッグが提供される。したがって、最新技術と比較して、例えば、骨がん等の骨障害の細胞増殖抑制治療の高い有効性へと繋がる、極めて改善された薬物放出が有利に達成される。したがって、例えばがん患者の骨転移の治療の改善が可能であり、プロドラッグに含有される細胞増殖抑制剤は、より低い副作用を示す。
【0067】
本発明を以下の実施例において例示するが、決してこれらに限定するものではない。
【実施例1】
【0068】
ドキソルビシンプロドラッグ、ドキソルビシンの6−マレイミドカプロイルヒドラゾン(hydazone)誘導体(DOXO−EMCH)および(3−メルカプトプロピルチオ)エチレン−ビスホスホン酸に基づくビスホスホネートプロドラッグの合成を、以下で説明する。DOXO−EMCHは、酸感受性チオール結合薬であり、pH5.0で開裂可能でドキソルビシンを放出する(F.Kratzら、J.Med.Chem.2002、45、5523〜5533頁)。
【0069】
【化10】
【0070】
ジエチルアミン(2.28mL、21.91mmol、1当量)およびパラホルムアルデヒド(3.29g、109.56mmol、5当量)の65mLメタノール中の懸濁液を、無色溶液となるまで加温した。混合物を室温に冷却し、テトラエチルメチレン−ビスホスホネート7を添加した。次いで、反応混合物を24時間還流し、溶媒を減圧下で除去した。残渣をトルエン中に溶解し、溶液を濃縮して真空下で乾燥させると、6.0g(82%)の8が無色油として得られた。
化合物8の1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ[ppm] 1.34 (t, 12H, J = 7.1 Hz), 2.69 (tt, 1 H, J = 11.0 Hz, J = 23.8 Hz), 3.37 (s, 3H), 3.89 (td, 2H, J = 5.5 Hz, J = 16.2 Hz), 4.14-4.21 (m, 8H). 13C NMR (125 MHz, CDCl3): δ[ppm] 16.3, 16.4, 38.8 (t, J = 132.6 Hz), 58.7, 62.6 (t, J = 6.6 Hz), 68.0.
次のステップにおいて、2.2gのテトラエチル2−メトキシエチレン−ビスホスホネート8(6.62mmol、1当量)を、150mLの無水トルエン中に希釈し、0.18gのp−トルエンスルホン酸(0.97mmol、0.15当量)を添加した。分子篩4Åを含有するソックスレー装置を使用して反応混合物を一晩還流し、溶媒を減圧下で除去すると、やや黄色の油が得られた。50mLのCClを粗生成物に添加した後、溶液を水(3×30mL)で洗浄し、水層を真空下で凍結乾燥により乾燥させた。化合物9が無色の油(1.68g、85%)として得られた。
化合物9の1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ[ppm] 1.33 (t, 12H, J= 7.1 Hz), 4.07-4.18 (m, 8H), 6.97 (dd, 2H, J = 33.8 Hz, J = 35.8 Hz). 13C NMR (125 MHz, CDCl3): δ[ppm] 16.2, 62.6, 132.0 (t, J = 166.5 Hz), 149.2. 31P NMR: δ[ppm] 13.0.
ビスホスホネートエステルを加水分解するために、9(0.97g、3.02mmol、1当量)を無水CHCl(20mL)中に希釈し、溶液を0℃に冷却した。次いで、トリメチルシリルブロミド(4.39mL、33.23mmol、11当量)を滴加した。溶液を室温に加温し、48時間撹拌した。溶媒を減圧下で除去した後、メタノール(15mL)を添加し、混合物を室温で20分間撹拌した。最後に、溶媒を蒸発させ、残渣を真空下で乾燥させると、化合物10が黄色の油として得られた。粗生成物を、それ以上精製を行わずに次のステップに使用した。
【0071】
雰囲気下で、0.84gの粗生成物10(4.49mmol、1当量)を5mLの1−ブタノールで希釈し、1,3−プロパンジチオール11を添加し、溶液を還流下で3.5時間加熱した。混合物を室温に冷却し、30mLのHOを添加した。この溶液をヘキサン(4×20mL)で抽出し、水層を凍結乾燥させると、12が無色の固体(0.84g、94%)として得られた。
化合物12の1H NMR (400 MHz, D2O): δ[ppm] 1.77 (p, 2H, J = 7.1 Hz), 2.43 (tt, 1 H, J = 6.5 Hz, J = 23.0 Hz), 2.50 (t, 2H, J = 7.0 Hz), 2.59 (t, 2H, J = 7.1 Hz), 2.90 (td, 2H, J = 6.4 Hz, J = 16.0 Hz). 13C NMR (125 MHz, D2O): δ[ppm] 22.5, 27.0 (t, J = 4.3 Hz), 30.2, 32.2, 39.1 (t, J = 124.1 Hz). 31P NMR: δ[ppm] 19.7.
MS(ESI):m/z 295(M−H)
【0072】
最後のステップにおいて、8mLの10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4)およびtert−ブタノール(1:1)中に溶解した21.44mg(3.5mmol)のDOXO−EMCH 13を、8mLの50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4)中に溶解した9.5mgの12に、室温で滴加し、試料を5分間撹拌した。溶媒を高真空下で除去すると、70mgの14が赤色粉末として得られた。Synergi MAX−RP 4μm(4.6×250mm)HPLCで、15%のアセトニトリルおよび85%の20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)を移動相Aとして、30%のアセトニトリルおよび70%の20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)を移動相Bとして使用して、純度を測定した。勾配は、100%の相Bまで0から35分、相Aまで35から40分であった。流量1mL/分。
【0073】
質量スペクトルは、アグリコンを含まない生成物の主ピークを示した。MS(ESI):m/z 916.2(M−H)
【実施例2】
【0074】
ビスホスホネートドキソルビシンプロドラッグ、カテプシンBにより開裂されるEMC−Phe−Lys−PABC−Doxo(15)(EMC=6−マレイミドカプロン酸;doxo=ドキソルビシン;PABC=パラ−アミノベンジルオキシカルボニル)および(3−メルカプトプロピルチオ)エチレン−ビスホスホン酸12(4つのステップ(上記参照)において合成)の合成を、以下に示す。
【0075】
【化11】
【0076】
最後のステップにおいて、14mLのエタノール中に溶解した60mg(3.4mmol)のEMC−Phe−Lys−PABC−Doxo 15を、14mLの50mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.4)中に溶解した16.7mgの12(3.4mmol)の溶液に、37℃で滴下により添加し、試料を30分間撹拌した。溶媒を遠心分離し、溶媒を高真空下で除去すると、140mgの16が赤色粉末として得られた。Synergi MAX−RP 4μm(4.6×250mm)HPLCで、15%のアセトニトリルおよび85%の20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)を移動相Aとして、30%のアセトニトリルおよび70%の20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)を移動相Bとして使用して、純度を測定した。勾配は、100%の相Bまで0から35分、相Aまで35から40分であった。流量1mL/分。MS(ESI):m/z 1457(M+H)
【実施例3】
【0077】
ビスホスホネートドキソルビシンプロドラッグ、カテプシンBにより開裂されるEMC−Val−Ala−PABC−Doxo(18)および(3−メルカプトプロピルチオ)エチレン−ビスホスホン酸12(4つのステップ(上記参照)において合成)の合成を、以下に示す。
【0078】
【化12】
【0079】
ドキソルビシンプロドラッグ22、EMC−Val−Ala−PABC−Doxoを、以下で説明される6つのステップで合成した。
【0080】
10mLのTHF中に希釈した2.0gのFmoc−Val−OSu(4.58mmol、1当量)を、15mLのHO中に溶解した0.43gのH−Ala−OH(4.81mmol、1.05当量)の溶液および0.40gのNaHCO(4.81mmol、1.05当量)の溶液に添加した。直ちに、無色溶液が濁った。HO、THFおよびジエチルエーテルの混合物(60mL、1:1:1)を、透明溶液が生じるまで添加した。溶液を室温で十分に撹拌した。1週間後、溶媒を減圧下で除去し、30mLのクエン酸(15%水溶液)および50mLの酢酸エチルを添加し、混合物を室温で1時間撹拌した。相を分離し、水層を酢酸エチルで3回(3×100mL)抽出した。合わせた有機相を乾燥させ、溶媒を蒸発させた。その後、残渣をシリカゲルでのフラッシュクロマトグラフィー(CHCl/MeOH 30:1+1%AcOH)により精製すると、無色固体(1.60g、85%)が得られた。
1H NMR (DMSO-d6): δ[ppm] 0.87 (d, 3H, J = 6.8 Hz), 0.90 (d, 3H, J = 6.8 Hz), 1.27 (d, 3H, J = 7.3 Hz), 1.94-2.06 (m, 1 H), 3.90 (t, 1 H, J = 7.2 Hz), 4.17-4.31 (m, 4H), 7.30-7.35 (m, 2H), 7.39-7.44 (m, 3H), 7.76 (t, 2H, J= 6.6 Hz), 7.89 (d, 2H, J = 7.5 Hz), 8.22 (d, 1 H, J = 6.9 Hz), 12.50 (bs, 1 H). 13C NMR (DMSO-d6): δ[ppm] 17.5, 18.6, 19.6, 30.9, 47.1, 47.9, 60.2, 66.1, 120.5, 125.8, 127.5, 128.1, 141.1, 144.2, 144.3, 156.5, 171.4, 174.4.
不活性ガス雰囲気下で、0.36gのFmoc−Val−Ala−OH 17(0.88mmol、1当量)、0.13gの4−アミノベンジルアルコール(1.06mmol、1.2当量)および0.33gのEEDQ(1.33mmol、1.5当量)のジクロロメタン中の懸濁液を、透明な溶液が生じるまでメタノールで処理した。その次の2日間の間に、沈殿物が形成された。濾過後、沈殿物をジエチルエーテルで洗浄し、室温で15分間超音波処理した。この手順を2回繰り返し、生成物18を高真空下で乾燥させた(0.29g、64%)。
1H NMR (DMSO-d6): δ[ppm] 0.86 (d, 3H, J = 6.8 Hz), 0.90 (d, 3H, J = 6.8 Hz), 1.31 (d, 3H, J = 7.1 Hz), 1.96-2.04 (m, 1 H), 3.92 (t, 1 H, J = 7.2 Hz), 4.21 -4.34 (m, 3H), 4.40-4.46 (m, 3H), 5.11 (t, 1 H, J = 5.7 Hz), 7.24 (d, 2H, J = 8.5 Hz), 7.33 (t, 2H, J = 7.4 Hz), 7.40-7.47 (m, 3H), 7.54 (d, 2H, J = 8.4 Hz), 7.75 (t, 2H, J = 7.1 Hz), 7.89 (d, 2H, J = 7.5 Hz), 8.17 (d, 1 H, J = 7.0 Hz), 9.93 (bs, 1 H). 13C NMR (DMSO-d6): δ[ppm] 18.6, 18.7, 19.6, 30.8, 47.1, 49.4, 60.4, 63.0, 66.1, 119.3, 120.5, 125.8, 127.3, 127.5, 128.0, 128.1, 137.8, 138.0, 141.1, 144.2, 144.3, 156.6, 171.3, 171.4.
窒素雰囲気下で、4.2mLのN,N−ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)(24.55mmol、3当量)を、Fmoc−Val−Ala−PABOH 18(4.22g、8.18mmol、1当量)およびビス−PNPカーボネート(3.73g、12.28mmol、1.5当量)の無水ジクロロメタン(84mL)中の懸濁液に添加した。この黄色混合物を、透明溶液が生じるまで42mLの無水N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)で処理し、室温で一晩撹拌した。次いで、溶液を水(60mL)で洗浄し、相を分離した。水層をジクロロメタン(30mL)で4回抽出し、合わせた有機相を乾燥させ、溶媒を減圧下で除去した。油状の黄色残渣をジエチルエーテル(30mL)で処理し、超音波処理し、沈殿物を真空下で乾燥させると、生成物19が白色固体(4.1g、74%)として単離された。
1H NMR (DMSO-d6): δ[ppm] 0.87 (d, 3H, J = 6.8 Hz), 0.90 (d, 3H, J = 6.7 Hz), 1.32 (d, 3H, J = 7.0 Hz), 1.96-2.05 (m, 1 H), 3.94 (t, 1 H, J = 7.3 Hz), 4.21 -4.34 (m, 3H), 4.45 (p, 1 H, J = 7.0 Hz and 13.8 Hz), 5.25 (s, 2H), 7.31-7.47 (m, 7H), 7.55-7.77 (m, 6H), 7.89 (d, 2H, J = 7.5 Hz), 8.21 (d, 1 H, J = 6.9 Hz), 8.30-8.33 (m, 2H), 10.10 (s, 1 H). 13C NMR (DMSO-d6): δ[ppm] 18.4, 18.7, 19.6, 30.8, 47.1, 49.5, 60.4, 66.1, 70.7, 119.5, 120.5, 123.6, 125.8, 126.6, 127.5, 128.1, 129.9, 139.9, 141.1, 144.2, 144.3, 145.6, 152.4, 155.7, 156.6, 171.5, 171.7.
窒素雰囲気下で、化合物19(Fmoc−Val−Ala−PABC−PNP、89mg、0.13mmol、1.1当量)、ドキソルビシン・HCl(69mg、0.12mmol、1当量)およびDIPEA(20μL、0.12mmol、1当量)を、2mLのDMF(無水)中に溶解し、室温で一晩撹拌した。ジエチルエーテルおよびヘキサンの混合物(5:1、100mL)を用いた5分間にわたる滴下により、粗生成物を沈殿させた。沈殿物を遠心分離し、ジエチルエーテルで2回洗浄し、真空下で乾燥させた。この粗生成物20(130mg)を、それ以上精製を行わずに次のステップに使用した。
【0081】
20(130mg、0.12mmol、1当量)を、3mLのピペリジン(DMF中20%)に溶解し、室温で10分間撹拌した。ジエチルエーテルおよびヘキサンの混合物(100mL、4:1)により生成物を沈殿させ、次いでフラッシュクロマトグラフィー(CHCl/MeOH 30:1)により精製した。溶媒の除去後、2つのステップで49%の収率で生成物21が得られた(51mg)。
【0082】
窒素下で、HN−Val−Ala−PABC−DOXO 21(0.44g、0.51mmol、1当量)を、ジクロロメタン(無水)および無水N,N−ジメチルホルムアミドの混合物(5:1、42mL)中に溶解した。234mgの6−マレイミドカプロン酸(maleimimidocaproic acid)N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(EMC−OSu)(0.76mmol、1.5当量)の添加後、溶液を71μLのトリエチルアミン(0.51mmol、1当量)で処理し、室温で18時間撹拌した。粗生成物を、600mLのヘキサンおよび100mLのジエチルエーテルの混合物で沈殿させた。赤色固体をエーテルで2回洗浄し、真空下で乾燥させ、シリカゲルでのフラッシュクロマトグラフィー(CHCl/MeOH 31:1)により精製すると、生成物22が赤色固体(213mg、40%)として得られた。
【0083】
Waters Symmetry 300Å C18 5μm[4.6×250mm]およびプレカラム[3.9×20mm]を用いてHPLC分析を行った。クロマトグラフィー条件:流量:1.0mL/分、移動相A:15%のCHCN、85%の20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0);移動相B:30%のCHCN、70%の20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0);注入体積:50μL;勾配:0〜1.5分 100%移動相A;1.5〜20分 30%のCHCN、70%の20mMリン酸ナトリウム緩衝液に上昇;20〜45分 70%のCHCN、30%の20mMリン酸ナトリウム緩衝液;45〜55分 初期移動相に低下;55〜58分 100%移動相A。C536118、HRMS ESI−TOF:計算値[M+Na] 1078.39、実測値1078.2。
【0084】
最後のステップにおいて、35mgの化合物12を29mLの50mM重炭酸アンモニウム緩衝液(pH7.4)で溶解し、3.2mMのチオール濃度を得た。40mLの10mM重炭酸アンモニウム緩衝液(pH7.4、3.2mM)中に溶解した99mgのEMC−Val−Ala−PABC−DOXO 22の溶液を、5分間にわたりビスホスホネート溶液に滴加した。混合物を室温で15分間十分に撹拌し、液体窒素で凍結させた。凍結乾燥後、赤色の粗生成物を、CHCN/HO(HPLCグレード)1:1で溶出するフラッシュクロマトグラフィー(RP 18)により精製すると、23が赤色固体として得られた。Waters Symmetry 300Å C18 5μm[4.6×250mm]およびプレカラム[3.9×20mm]を用いてHPLC分析を行った。クロマトグラフィー条件:流量:1.2mL/分、移動相A:20%のCHCN、80%の20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0);移動相B:70%のCHCN、30%の20mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0);注入体積:20μL;勾配:0〜5分 100%移動相A;5〜40分 70%のCHCN、30%の20mMリン酸ナトリウム緩衝液に上昇;40〜50分 70%のCHCN、30%の20mMリン酸ナトリウム緩衝液;50〜60分 初期移動相に低下;60〜65分 100%移動相A。C587524、HRMS ESI−TOF:計算値[M−H] 1350.3640、実測値1350.3772。
【実施例4】
【0085】
化合物14、16および23を用いた開裂試験
(a)化合物14を用いた開裂試験
50mMリン酸ナトリウム緩衝液中の14の300μΜ溶液1mLを調製し、50μL試料を逆相HPLCにより分析した(図1Aを参照)。400μLのこの溶液に、4μLの濃リン酸を添加すると、3.8のpH値が得られた。室温で5分後、50μLの試料を逆相HPLCにより分析すると(図1Bを参照)、参照としての純ドキソルビシン(図1Cを参照)との比較により示されるように、ドキソルビシンへの迅速な開裂が起きたことが示された。
(b)化合物16を用いた開裂試験
カテプシンBを用いた16の開裂のために、100mM NaCl、4mM EDTA Naおよび0.15mgのL−システインを含有する150μLの50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)、6.7μLのカテプシンB溶液(23.8U/mg、Calbiochem製、ドイツ)を、16の100μL溶液(50mMリン酸ナトリウム緩衝液、pH7.0中300μΜ)に添加し、溶液を37℃で1時間インキュベートした。
【0086】
図2Aは、t=0時間でのクロマトグラムを示すが、16は約45.7分で溶出している(50μL注入)。1時間のインキュベーション時間の後、50μLの試料を逆相HPLCにより分析すると(図2Bを参照)、参照としての純ドキソルビシン(図2Cを参照)との比較により示されるように、ドキソルビシンへの完全な開裂が起きたことが示された。
【0087】
Symmetry300、C18、5μm(4.6×250mm)HPLCを用い、15%のアセトニトリルおよび85%の20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)を移動相Aとして、30%のアセトニトリルおよび70%の20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)を移動相Bとして使用して、HPLCを行った。勾配は、0から1.5分 100%相A、1.5から20分 100%Bまで、20分から45分 100%B、45から55分 100%Aまでであった。流量1mL/分;注入体積:50μL。
(c)化合物23を用いた開裂試験
176μLの化合物23[1.5mM]のストック溶液を、9μLのカテプシンB(0.4mg/mL、23.8U/mg、Calbiochem製、ドイツ)およびL−システイン(8mM)を含有する264μLの緩衝液(50mM酢酸ナトリウム、100mM NaCl、4mM EDTA、pH5.0)で希釈した。混合物を37℃でインキュベートし、0分後、20分後、40分後、60分後および120分後に一定量(65μL)を採取し、HPLCにより分析した。
【0088】
Symmetry300 C18 5μm[4.6×250mm]およびプレカラム[3.9×20mm]を用いてHPLCを行った。クロマトグラフィー条件;流量:1.2mL/分、移動相A:20%のCHCN、80%の20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0);移動相B:70%のCHCN、30%の20mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0);注入体積:20μL;勾配:0〜5分 100%移動相A;5〜40分 70%のCHCN、30%の20mMリン酸ナトリウム緩衝液に上昇;40〜50分 70%のCHCN、30%の20mMリン酸ナトリウム緩衝液;50〜60分 初期移動相に低下;60〜65分 100%移動相A。
【0089】
図3は、t=0分、20分、40分、60分および120分でのクロマトグラムを示すが、23は約19分(50μL注入)で溶出している。2時間のインキュベーション時間の後、50μLの試料を逆相HPLCにより分析すると(図3を参照)、参照としての純ドキソルビシン(図3を参照)との比較により示されるように、ドキソルビシンへの完全な開裂が起きたことが示された。
【実施例5】
【0090】
化合物14および23のヒドロキシアパタイトに対する結合試験
一般手順:ファルコンチューブ内で、試験化合物をリン酸緩衝液(150mM NaClを含有する4mM NaHPO、pH7.4)中に希釈し、300μΜの濃度の溶液を得た。ヒドロキシアパタイト(30当量)を添加し、懸濁液を十分撹拌して37℃でインキュベートした。ヒドロキシアパタイトを含まない試料の別の溶液を、対照として使用した。それぞれの場合において、0時間後、1時間後、2時間後、3時間後、4時間後、5時間後、6時間後および20時間後に、試料を遠心分離し(4000rpm、時間:60秒、Heraeus(登録商標)Megafuge(登録商標)1.0)、上澄みの吸光度を分光光度計で495nmの波長で測定した(ε495(doxorubicin)=10650M−1cm−1)。それぞれの結果は3回の測定の算術平均を表し、HA結合のパーセントを計算した。
【0091】
図4に示されるように、プロドラッグ14および23は、ヒドロキシアパタイトに速やかに結合し、pH7.4および37℃において、1時間後ですでに両方のプロドラッグの約50%がヒドロキシアパタイトに結合している。時間が経つにつれて上澄みの赤色の強度が低下し、元の白色のヒドロキシアパタイト粉末がそれに伴って赤く着色するのが観察された。カテプシン開裂性プロドラッグ23については、5時間後の結合は90%を超え、24時間後では本質的に100%であった。酸感受性プロドラッグ14は、同様の曲線形状を示したが、5時間後にHA結合の飽和が生じ、14の約80%がHAに結合した。
【実施例6】
【0092】
化合物14および23の自然骨基質に対する結合試験
この結合アッセイのために、ウシの骨断片を小片(6mm×4mm×1mm)に切断した。骨片は未処理のままとし、水(再蒸留)および無水エタノールで洗浄し、室温で一晩乾燥させた。次いで、ファルコンチューブ内で、プロドラッグをリン酸緩衝液(150mM NaClを含有する4mM NaHPO、pH7.4)中に溶解し、300μΜの濃度を得た。約50mgの未処理骨片を透明赤色溶液に添加し、試料を37℃で撹拌下インキュベートした。4時間後、試料を遠心分離し(4000rpm、時間:60秒、Heraeus(登録商標)Megafuge(登録商標)1.0)、上澄みの吸光度を分光光度計で495nmの波長で測定した(ε495(doxorubicin)=10650M−1cm−1)。骨結合のパーセントを計算した。
【0093】
対照として、骨断片と共にインキュベートしたドキソルビシンを使用した。予想通り、ドキソルビシンの自然骨への結合は観察されなかった(図5参照)。対照的に、両方のプロドラッグは50〜75%が、pH7.4で4時間後に骨基質に結合した(図5)。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]