特許第6029611号(P6029611)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6029611ガスケット用オーステナイト系ステンレス鋼板およびガスケット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6029611
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】ガスケット用オーステナイト系ステンレス鋼板およびガスケット
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20161114BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20161114BHJP
   F16J 15/08 20060101ALI20161114BHJP
【FI】
   C22C38/00 302Z
   C22C38/58
   F16J15/08 C
   F16J15/08 H
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-76264(P2014-76264)
(22)【出願日】2014年4月2日
(65)【公開番号】特開2015-196889(P2015-196889A)
(43)【公開日】2015年11月9日
【審査請求日】2016年7月20日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】714003416
【氏名又は名称】日新製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129470
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 高
(72)【発明者】
【氏名】熊野 尚仁
(72)【発明者】
【氏名】今川 一成
(72)【発明者】
【氏名】奥 学
【審査官】 鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−252208(JP,A)
【文献】 特開2003−82441(JP,A)
【文献】 特開2001−59141(JP,A)
【文献】 特開平5−105989(JP,A)
【文献】 特開2014−189863(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 − 38/60
F16J 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.015〜0.200%、Si:1.50〜5.00%、Mn:0.30〜2.50%、Ni:7.0〜17.0%、Cr:13.0〜23.0%、N:0.005〜0.250%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる化学組成を有し、常温硬さが430HV以下、板厚方向に垂直な断面のX線回折パターンにおけるオーステナイト結晶(311)面ピークの半価幅が0.10〜1.60°、表面粗さRaが0.30μm以下である、メタルガスケット用オーステナイト系ステンレス鋼板。
【請求項2】
さらに、質量%で、Mo:2.00%以下、Cu:4.00%以下、Nb:0.80%以下、Ti:0.50%以下、V:1.00%以下、Zr:1.00%以下、W:3.00%以下、Co:3.00%以下、B:0.020%以下の1種以上を含有する化学組成を有する請求項1に記載のメタルガスケット用オーステナイト系ステンレス鋼板。
【請求項3】
さらに、質量%で、Al:0.20%以下、REM(Yを除く希土類元素):0.20%以下、Y:0.20%以下、Ca:0.10%以下、Mg:0.10%以下の1種以上を含有する化学組成を有する請求項1または2に記載のメタルガスケット用オーステナイト系ステンレス鋼板。
【請求項4】
常温硬さと700℃での高温硬さの差ΔHVが300HV以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載のメタルガスケット用オーステナイト系ステンレス鋼板。
【請求項5】
板厚が0.10〜0.40mmである請求項1〜4のいずれか1項に記載のメタルガスケット用オーステナイト系ステンレス鋼板。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の鋼板を成形したメタルガスケットであって、プレス成形によるビードを有し、ビード頭頂部を接触相手材に押し当てて使用するメタルガスケット。
【請求項7】
600〜800℃の温度で使用する請求項6に記載のメタルガスケット。
【請求項8】
内燃機関の燃焼ガスのシールに使用する請求項6または7に記載のメタルガスケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のエンジン、排ガス経路部材(エキゾーストマニホールド、触媒コンバータ)、インジェクタ、EGRクーラー、ターボチャージャーなど、高温に曝される部材のガスシールに好適な耐熱メタルガスケット用のオーステナイト系ステンレス鋼板、およびそれを素材に用いたメタルガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、600〜800℃の温度に曝されるガスケットのニーズが増加しているが、以下のような問題を抱えている。特許文献1、2、3の開示に代表されるSUS301やSUS431系の材料は、加熱される温度がマルテンサイト相の分解温度に相当するため軟化が著しく、耐へたり性に劣る。JIS G4902(耐食耐熱超合金板)に規定されるNCF625、NCF718や、JIS G4312(耐熱鋼板)に規定されるSUH660等の析出強化型の材料は、600〜800℃の析出強化には有効であるが、高価なNiを多量に含有するためコスト高となる。特許文献4、5、6、7には、Nにより強化されたFe−Cr−Mn−Niオーステナイト系ステンレス鋼が開示されており、一部の耐熱用ガスケットに適用されつつある。
【0003】
上記の各鋼種については、高温域での使用を想定してさらなる高強度化を図る方向で検討が進められている。しかし、マルテンサイト相を多く含む場合や、N含有量が高い場合には、降伏応力(0.2%耐力)が非常に高くなる。また、ガスケットには一般に冷間圧延仕上で強度を高めた材料(以下「HT」という)が適用されるため、ガスケットに成形する際に表面の肌荒れを生じ、延性が不足する場合は曲げR部でネッキングを生じる。これらの表面性状や加工形状の不良はガスシール性を著しく劣化させる要因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−3406号公報
【特許文献2】特開2008−111192号公報
【特許文献3】特開平7−278758号公報
【特許文献4】特開平2003−82441号公報
【特許文献5】特開平7−3407号公報
【特許文献6】特開平9−279315号公報
【特許文献7】特開平11−241145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した開示例では、成形に起因したガスリークの防止や、使用中の耐熱性、耐食性の維持についてまでを必ずしも十分に考慮した成分設計にはなっていない。
本発明は、加工しやすい強度レベル(常温硬さ)に調整されており、かつ優れた耐ガスリーク性を有する耐熱メタルガスケットを提供しようというものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明では、質量%で、C:0.015〜0.200%、Si:1.50〜5.00%、Mn:0.30〜2.50%、Ni:7.0〜17.0%、Cr:13.0〜23.0%、N:0.005〜0.250%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる化学組成を有し、常温硬さが430HV以下、板厚方向に垂直な断面のX線回折パターンにおけるオーステナイト結晶(311)面ピークの半価幅が0.10〜1.60°、表面粗さRaが0.30μm以下である、メタルガスケット用オーステナイト系ステンレス鋼板が提供される。
【0007】
上記鋼板の化学組成において、任意添加元素として、さらに、質量%で、Mo:2.00%以下、Cu:4.00%以下、Nb:0.80%以下、Ti:0.50%以下、V:1.00%以下、Zr:1.00%以下、W:3.00%以下、Co:3.00%以下、B:0.020%以下の1種以上を含有することができる。また、任意添加元素として、さらに、質量%で、Al:0.20%以下、REM(Yを除く希土類元素):0.20%以下、Y:0.20%以下、Ca:0.10%以下、Mg:0.10%以下の1種以上を含有することができる。
【0008】
上記鋼板の板厚は例えば0.10〜0.40mmとすることができ、0.15〜0.30mmの範囲としてもよい。常温硬さと700℃での高温硬さの差ΔHVが300HV以下であるものがより好適な対象となる。
【0009】
また、本発明では、上記の鋼板を成形したメタルガスケットであって、プレス成形によるビードを有し、ビード頭頂部を接触相手材に押し当てて使用するメタルガスケットが提供される。使用温度は例えば600〜800℃である。このガスケットは内燃機関の燃焼ガスのシールに使用することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、メタルガスケット用素材としては軟質であるため加工がしやすく、かつ優れた耐ガスリーク性を有する耐熱メタルガスケットが実現できた。素材コストも比較的安価である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ガスケット試験片の寸法形状を模式的に示す図。
図2】拘束治具へのガスケット試験片のセット状態を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
ビード成形部を有するメタルガスケットの一般的な評価方法として耐へたり性の測定試験がある。これは、メタルガスケット試験片を双方の接触相手材の間に挟んで所定荷重で押さえつけ、その状態で所定環境に保持する試験を行い、試験前後でのビード高さの変化量を調べるものである。その変化量が小さいほど材料が変形しにくく、高強度材であると評価される。本発明者らは、種々のステンレス鋼板素材を用いてビード成形部を有するガスケット試験片を作製し、実際に平板治具(双方の接触相手材が平板であるもの)に組み込み、600〜800℃の温度に曝した後のガスリーク量を測定することにより、従来の耐へたり性試験による評価方法の妥当性を検証した。その結果、必ずしも耐へたり性試験で良好な評価となる高強度材が、耐ガスリーク性に優れるとは限らないことがわかった。耐ガスリーク性を向上させるためには、材料強度以外の因子についての考慮も重要となる。
【0013】
〔表面粗さ〕
ガスケットに成形するための素材鋼板において、表面粗さが小さいことが重要である。素材の表面粗さが大きいと、ビード成形したときに、接触相手材と接触するビード凸部の頂上部(以下「頭頂部」という)付近の曲げ加工部で肌荒れが大きくなり、優れたシール性(封止性)を確保することが難しくなる。種々検討の結果、板厚0.4mm以下あるいは0.3mm以下のオーステナイト系ステンレス鋼板においては、表面粗さRaを0.30μm以下とする必要があり、0.20μm以下とすることがより望ましい。素材の表面粗さは、主として冷間圧延に使用するワークロールの材質および表面粗度の管理によってコントロールすることができる。
【0014】
〔常温硬さ〕
従来一般的なガスケット材はHT仕上であるため、ガスケットに成形したときの強度(弾性応力)が高いため、これを双方の接触相手材の間に挟んで締め付けたとき、材料に加わる応力(以下「面圧」という)が高くなる。常温付近で使用されるガスケットであれば、この面圧が大きいほどシール性は良好であると考えられる。しかし、耐熱ガスケットでは材料温度が上昇したときに上記の高い面圧によって逆に材料が大きく変形し、顕著な場合には頭頂部が陥没してガスリークすることがわかった。すなわち、常温硬さが硬すぎない素材を使用することが、むしろ耐ガスリーク性の向上には有効であることが明らかとなった。また、軟質であることにより、ガスケットへの加工もしやすくなる。詳細な検討の結果、本発明では常温のビッカース硬さが430HV以下に調整された板材を対象とする。425HV以下であることがより好ましい。例えば190HV〜430HVあるいは190HV〜425HVの範囲で調整すればよい。250HV〜400HVの範囲に管理してもよい。常温硬さは主として合金の成分組成と冷間圧延率によってコントロールすることができる。
【0015】
〔X線回折によるひずみ指標〕
オーステナイト結晶に蓄えられている加工歪が小さいことも、面圧を低減するうえで有利となる。ここでは、オーステナイト結晶の加工歪を、X線回折パターンにおけるオーステナイト結晶の(311)面ピーク半価幅によって評価する。この半価幅が1.60°を超えると耐ガスリーク性が急激に低下することがわかった。1.57°以下であることがより好ましい。加工歪のない焼鈍材ではこの半価幅は小さくなるが、通常0.10°以上の半価幅を持つ。オーステナイト結晶のひずみ量は、化学組成に依存したオーステナイト安定度も影響するが、主として冷間圧延率によってコントロールすることができる。X線はCo−Kα線を使用する。
【0016】
〔高温硬さ〕
上述のように常温硬さを低く制限することが耐ガスリーク性を向上させるうえで極めて有効である。ただし、高温での硬さの低下が大きいと、高温に昇温したときの面圧が低下しやすい。過度の面圧低下は耐ガスリーク性の低下要因となる。種々検討結果、常温硬さと700℃での高温硬さの差ΔHVが300HV以下であることが好ましく、250HV以下であることがより好ましい。ΔHVの測定は、常温(例えば20℃)および700℃での断面硬さの測定によって求めることができる。焼鈍材では一般にΔHVは小さくなるが、通常、常温硬さと700℃の硬さの差である当該ΔHVは50HV以上の値となる。
【0017】
〔化学組成〕
以下において、化学組成に関する「%」は特に断らない限り「質量%」を意味する。
Cは、高温強度の向上に有効な合金成分であり、固溶強化や析出強化によってステンレス鋼を強化する。C含有量は0.015%以上とする必要があり、0.020%以上とすることがより効果的である。C含有量が多すぎると高温保持中に巨大な粒界炭化物が析出しやすくなり、材料を脆化させる要因となる。C含有量は0.200%以下に制限される。
【0018】
Siは、フェライト形成元素であり、オーステナイト相中で大きな固溶強化能を呈し、高温保持中に歪み時効によって時効硬化を促進させる。これらの作用は1.50%以上のSi含有量を確保することによって顕著となる。2.00%を超えるSi含有量とすることがより効果的であり、3.00%を超える含有量に管理してもよい。過剰のSi含有は高温割れを誘発する要因となる。Si含有量は5.00%以下に制限される。
【0019】
Mnは、オーステナイト形成元素であり、高価なNiの一部を代替することができる。また、Sを固定して熱間加工性を改善する作用を有する。Mn含有量は0.30%以上とすることが効果的であり、0.50%以上とすることがより好ましい。多量のMn含有は高温強度や機械的性質を低下させる要因となるので、本発明ではMn含有量を2.50%以下に制限する。2.00%未満、あるいは1.50%以下に管理してもよい。
【0020】
Niは、安定なオーステナイト組織を得るために必須の元素であり、本発明では7.0%以上のNi含有量を確保する。11.0%以上のNi含有量とすることがより好ましい。過剰のNi含有は不経済となる。本発明ではNiを17.0%以下の範囲で含有させる。15.0%以下の範囲に管理してもよい。
【0021】
Crは、耐食性、耐酸化性の向上に必要な元素であり、過酷な高温腐食環境に曝されるメタルガスケットの用途を考慮すると13.0%以上のCr含有量が必要である。15.0%を超えるCr含有量とすることがより好ましい。過剰のCr含有はδフェライト相を生成を促し、安定したオーステナイト相組織を維持するうえで不利となる。Cr含有量は23.0%以下に制限され、20.0%以下に管理してもよい。
【0022】
Nは、オーステナイト系ステンレス鋼の高温強度の上昇に有効な元素である。0.005%以上のN含有量を確保することが望ましい。ただし過剰に添加されたNは、M236系(MはCrなど、XはC、Nなど)析出物の生成に消費され、高温強度の向上に有効な固溶Nの増大に繋がらない。種々検討の結果、N含有量は0.250%以下に制限され、0.200%以下とすることがより好ましい。
【0023】
Moは、任意添加元素であり、耐食性の向上に有効であるとともに、高温保持中に炭窒化物となって微細分散し高温強度の向上に寄与する。Moを添加する場合は0.01%以上の含有量とすることがより効果的であり、0.10%以上とすることが一層効果的である。ただし、多量のMo含有はδフェライトの形成を招くので、Mo含有量は2.00%以下に制限される。
【0024】
Cuは、任意添加元素であり、メタルガスケットとして使用する際の昇温に伴ってMX系やM2X系とは異種のCu系析出物を形成し、高温強度および耐軟化性の改善に寄与する。Cuを添加するは0.01%以上の含有量とすることが効果的であり、0.10%以上とすることが一層効果的である。多量のCu含有は熱間加工性を低下させる要因となる。Cu含有量は4.00%以下に制限され、2.00%以下の範囲に管理してもよい。
【0025】
Nbは、任意添加元素であり、メタルガスケットが曝される高温雰囲気下で析出物を形成し、あるいはオーステナイトマトリックス中に固溶し、硬度上昇および耐軟化性向上に寄与する。Nbを添加する場合は0.01%以上の含有量とすることがより効果的であり、0.05%以上とすることが一層効果的である。過剰のNb含有は高温延性低下に起因して熱間加工性を低下させる。Nb含有量は0.80%以下に制限され、0.50%以下の範囲に管理してもよい。
【0026】
Tiは、任意添加元素であり、硬度上昇、耐へたり性改善に有効な析出物を形成する。Tiを添加する場合は0.01%以上の含有量とすることがより効果的であり、0.05%以上とすることが一層効果的である。過剰のTi含有は表面疵を発生させる要因となる。Ti含有量は0.50%以下に制限される。
【0027】
Vは、任意添加元素であり、硬度上昇、耐へたり性改善に有効な析出物を形成する。Vを添加する場合は0.01%以上の含有量とすることがより効果的であり、0.05%以上とすることが一層効果的である。過剰のV含有は加工性、靭性の低下要因となる。V含有量は1.00%以下に制限される。
【0028】
Zrは、任意添加元素であり、高温強度の向上に有効であるとともに、微量の添加で耐高温酸化性を向上させる作用を有する。Zrを添加する場合は0.01%以上の含有量とすることがより効果的であり、0.05%以上とすることが一層効果的である。過剰のZr含有はσ脆化を招き、鋼の靱性を損なう。Zr含有量は1.00%以下に制限される。
【0029】
Wは、任意添加元素であり、高温強度の向上に有効である。Wを添加する場合は0.01%以上の含有量とすることがより効果的であり、1.00%以上とすることが一層効果的である。過剰にWを含有させると鋼が過度に硬質となり、原料コストも高くなる。W含有量は3.00%以下に制限され、2.00%以下の範囲に管理してもよい。
【0030】
Coは、任意添加元素であり、高温強度の向上に有効である。Coを添加する場合は0.01%以上の含有量とすることがより効果的であり、1.00%以上とすることが一層効果的である。過剰にWを含有させると鋼が過度に硬質となり、原料コストも高くなる。W含有量は3.00%以下に制限される。
【0031】
Bは、任意添加元素であり、高温強度の上昇に有効な炭窒化物の微細析出を促進させ、熱間圧延温度域においてはS等の粒界偏析を抑制しエッジクラックの発生を防止する作用を呈する。Bを添加する場合は0.001%以上の含有量とすることがより効果的であり、0.005%以上とすることが一層効果的である。過剰量のBを添加すると低融点硼化物が生成しやすくなり、却って熱間加工性を劣化させる要因となる。B含有量は0.020%以下に制限される。
【0032】
Alは、任意添加元素であり、製鋼での脱酸剤として作用するとともに、鋼板をガスケット形状に打抜く際の打抜き性に悪影響を及ぼすA2系介在物を低減させる効果が大きい。Alを添加する場合は0.001%以上の含有量となるように添加量を調整することがより効果的であり、0.005%以上とすることが一層効果的である。Alを過剰に添加しても上記効果は飽和し、また、表面欠陥の増大を招く要因となる。Al含有量は0.20%以下に制限される。
【0033】
REM(Yを除く希土類元素)、Y、Ca、Mgは、任意添加元素であり、いずれも熱間加工性や耐酸化性の改善に有効である。これらの1種以上を添加する場合、いずれもそれぞれ0.001%以上の含有量とすることがより効果的である。過剰に添加しても上記の効果は飽和する。REM(Yを除く希土類元素)は0.20%以下、Yは0.20%以下、Caは0.10%以下、Mgは0.10%以下の含有量範囲でそれぞれ添加すればよい。
【実施例】
【0034】
表1に示す化学組成の鋼を300kg真空溶解炉で溶製し、熱間鍛造、熱間圧延、焼鈍、酸洗、冷間圧延、焼鈍、酸洗の工程で焼鈍鋼板とし、一部の例を除きさらに冷間圧延を施し、板厚0.15〜0.30mmの供試鋼板を得た。最終の冷間圧延の圧延率は表2に示してある。
【0035】
【表1】
【0036】
各供試鋼板について、板厚方向に垂直な面のX線回折パターンを、Co管球、40kV、200mAの条件で測定し、オーステナイト結晶(311)面ピークの半価幅を求めた。また、表面粗さおよび常温での硬さを測定した。供試鋼板の断面について常温硬さと700℃の硬さを測定し、そのビッカース硬さの差ΔHVを求めた。
【0037】
〔耐ガスリーク性試験〕
各供試鋼板からφ50mmの円形試験片を採取し、その中央に内径32mmの円形の開口を形成し、その開口部の周辺に幅3mm、高さ0.5mmのビードをプレス成形により形成してメタルガスケット試験片を得た。図1にその試験片の形状を模式的に示す。図1中の右側の図は円形のガスケット試験片の円中心を含む板厚方向に平行な断面における試験片の断面形状(円中心に対し片側のみ)を表したものである。このメタルガスケット試験片を鋼製の拘束治具にセットした。図2に、拘束治具へガスケット試験片をセットした状態の断面を模式的に示す。メタルガスケットの接触相手材である拘束治具の接触表面はフラットである。なお、図2中の締結ボルトおよびナットは、便宜的に外観形状を表示してある。この拘束治具を試験片が拘束されている状態のまま800℃で100h保持した後、室温まで徐冷した。徐冷後、拘束治具の一方の接触相手材のみに取り付けてあるガス導入管から、窒素ガスを0.1MPaの圧力で、ガスケットと拘束治具(上下の接触相手材)に囲まれる空間に導入し、その空間から外部にリークするガスの流量を測定した。この試験においてリークするガスの流量が100cm3/min以下であれば、耐熱ガスケットとして優れたシール性能を有していると判断できる。
【0038】
〔耐酸化性試験〕
供試鋼板から25mm×35mmの試験片を採取し、エメリー研磨紙にて最終番手#400で乾式研磨を施したのち、電気炉での600〜800℃×5min加熱と大気中での5min冷却を繰り返す耐酸化性試験を2000サイクル実施した。試験開始前と2000サイクル終了後の試験片の重量を比較し、重量変化が10mg/cm2以下のものを○(耐酸化性;良好)、10mg/cm2を超えるものを×(耐酸化性;不良)と評価した。この試験方法で○評価のものは、600〜800℃で使用されるメタルガスケットとして実用的な耐酸化性を有していると判断される。
【0039】
〔耐食性試験〕
排ガスの凝縮水に対する耐食性すなわち鋭敏化特性を評価するために、JIS G0575「ステンレス鋼の硫酸・硫酸銅腐食試験方法」にて耐食性試験を行い、加工割れのないものを○(耐食性;良好)、加工割れのあるものを×(耐食性;不良)と評価した。
これらの結果を表2に示す。
【0040】
【表2】
【0041】
本発明例のものはいずれも、耐ガスリーク性に優れ、耐酸化性、耐食性も良好であった。
これに対し、比較例No.21は、本発明例No.12と同じ鋼であるが、冷間圧延率が高かったのでオーステナイト結晶のひずみ量が大きく、また常温硬さが高くなり、耐ガスリーク性に劣った。No.22も本発明例No.12と同じ鋼であるが、表面粗さが粗かったので耐ガスリーク性に劣った。No.23は、本発明で規定する化学組成を有するが、冷間圧延率が高かったのでオーステナイト結晶のひずみ量が大きくなり、耐ガスリーク性に劣った。No.24〜28は本発明の規定を外れる化学組成を有するものであり、良好な耐ガスリーク性は得られていない。
図1
図2