特許第6029620号(P6029620)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6029620
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】人工土壌培地
(51)【国際特許分類】
   A01G 1/00 20060101AFI20161114BHJP
   A01G 7/00 20060101ALI20161114BHJP
【FI】
   A01G1/00 303E
   A01G7/00 602C
【請求項の数】4
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-139128(P2014-139128)
(22)【出願日】2014年7月4日
(62)【分割の表示】特願2014-512973(P2014-512973)の分割
【原出願日】2013年11月7日
(65)【公開番号】特開2014-176398(P2014-176398A)
(43)【公開日】2014年9月25日
【審査請求日】2014年8月29日
(31)【優先権主張番号】特願2012-252894(P2012-252894)
(32)【優先日】2012年11月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】東洋ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141586
【弁理士】
【氏名又は名称】沖中 仁
(72)【発明者】
【氏名】中島 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】五百蔵 吉幸
(72)【発明者】
【氏名】石坂 信吉
【審査官】 竹中 靖典
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−204245(JP,A)
【文献】 特開2001−098268(JP,A)
【文献】 特開2004−033047(JP,A)
【文献】 特開2000−139257(JP,A)
【文献】 特開2009−033985(JP,A)
【文献】 特開2000−336356(JP,A)
【文献】 米国特許第05649495(US,A)
【文献】 特開2005−006662(JP,A)
【文献】 特開平08−033420(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 1/00
A01G 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分を吸収/放出可能な基部を備えた複数の人工土壌粒子を含む人工土壌培地であって、
前記複数の人工土壌粒子は、前記基部が水分を吸収する状態又は前記基部から水分を放出する状態を示す水分吸放出特性が夫々異なるように設定された複数種の人工土壌粒子で構成され、
前記複数種の人工土壌粒子として、
(a)細孔を有する複数のフィラーを造粒してなる多孔質体を前記基部として有する第一人工土壌粒子と、
(b)繊維を集合してなる繊維塊状体を前記基部として有する第二人工土壌粒子と、
を含み、前記複数のフィラーの間に連通孔が形成されるとともに、当該連通孔の周囲に前記細孔が分散配置され、前記複数のフィラーは、細孔が陽イオン交換能を有する材料と、細孔が陰イオン交換能を有する材料との混合物を含み、前記繊維塊状体の外表部は、水分子が通過可能な超微細孔を有する膜で構成されたコントロール層で被覆されている人工土壌培地。
【請求項2】
前記複数種の人工土壌粒子は、異なる種類の人工土壌粒子の間で水分の移動が可能となるように構成されている請求項1に記載の人工土壌培地。
【請求項3】
前記第一人工土壌粒子と前記第二人工土壌粒子との混合割合を30:70〜70:30に調整してある請求項1又は2に記載の人工土壌培地。
【請求項4】
前記複数の人工土壌粒子は0.2〜10mmの粒径を有する請求項1〜3の何れか一項に記載の人工土壌培地。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物工場等において利用可能な人工土壌培地に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生育条件がコントロールされた環境下で野菜等の植物を栽培する植物工場が増加している。これまでの植物工場は、レタス等の葉物野菜の水耕栽培が中心であったが、最近では水耕栽培には向かない根菜類についても植物工場での栽培を試みる動きがある。根菜類を植物工場で栽培するためには、土壌としての基本性能に優れ、品質が高く、且つ取り扱いが容易な人工土壌を開発する必要がある。そして、人工土壌には、植物に対する水遣り回数を低減できる等、天然土壌では実現が困難な独自の機能が求められるようになっている。
【0003】
これまでに開発された人工土壌に関連する技術として、ピートモス等の植物質天然有機物とゼオライト等の鉱物性材料とを分散混合させた土壌改良剤があった(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1の土壌改良剤は、単独で植物質天然有機物又は鉱物性材料を用いたものよりも保水性が優れているため、水持ちの悪い土壌を改良することができるとされている。
【0004】
また、多孔性物質と非多孔性物質とからなる担体に界面活性剤を付着させた土壌浸透剤があった(例えば、特許文献2を参照)。特許文献2の土壌浸透剤は、非多孔性物質に付着した界面活性剤が灌水により速やかに離脱し、土壌中に拡散するため、直ちに水の浸透効果を発揮させることができ、一方、多孔性物質の細孔中に界面活性剤が保持されるため、灌水により界面活性剤が直ちに離脱することがない。従って、長期にわたって安定した水の浸透効果を発揮させることができるとされている。
【0005】
また、灌水回数を低減する目的で、酸変性熱可塑性樹脂発泡体と吸水性樹脂とを含有させてなる植栽基材があった(例えば、特許文献3を参照)。特許文献3の植栽基材は、過度な親水性を有さない酸変性熱可塑性樹脂と保水性に優れた吸水性樹脂とを組み合わせているため、充分な吸水性を有するとともに、灌水回数を大幅に低減できるとされている。
【0006】
さらに、赤玉土等の増量材と吸水性高分子とを組み合わせた栽培用土があった(例えば、特許文献4を参照)。特許文献4の栽培用土は、保水性及び吸気性(通気性)に優れているため、長期間水遣りをしなくても植物を枯らすことがなく、根腐れを起こすこともないとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−209760号公報(特に、請求項1を参照)
【特許文献2】特開平11−256160号公報(特に、第0011段落を参照)
【特許文献3】特開2002−272266号公報(特に、第0048段落を参照)
【特許文献4】特開2003−250346号公報(特に、第0017段落を参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
人工土壌の開発に当たっては、天然土壌と同等の植物育成力を達成しながら、例えば、栽培対象の植物に対して水分や養分を適切に供給できるコントロール機能が求められる。特に、水分供給量のコントロール機能は、植物に対する水遣り回数の低減や、植物の種類に応じた最適な栽培スケジュールを実現するために重要となる。人工土壌から外部へ水分を放出したり、外部から人工土壌に水分を吸収したりする水分吸放出特性をコントロールできれば、天然土壌にはない独自の機能を有する付加価値の高い人工土壌を実現することができる。
【0009】
しかしながら、特許文献1〜4の人工土壌に関する技術は、いずれも人工土壌粒子単位で土壌設計を行うものである。微細な一つの人工土壌粒子内の改良だけで、人工土壌培地としての大幅な機能変更や改良を実現することには制約がある。保水性等の水分に関係する機能についても、単一の人工土壌粒子内での改良のみで機能を向上させることは困難である。例えば、特許文献2や特許文献3のように、一つの人工土壌粒子に異種の物質を含有させることで、人工土壌粒子単体で水分放出特性に程度差をつけたとしても、人工土壌粒子を集合させて人工土壌培地を構成した場合、人工土壌粒子の特性が平均化されるため、単一の人工土壌粒子内での機能の差異は人工土壌培地全体に現われ難くなり、設計どおりの機能が発揮されるとは限らない。
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、人工土壌粒子を集合してなる人工土壌培地において、栽培対象の植物に長期に亘って持続的に水分を供給したり、栽培対象の植物に応じて水分供給量を高度にコントロールすることが可能となる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための本発明に係る人工土壌培地の特徴構成は、
水分を吸収/放出可能な基部を備えた複数の人工土壌粒子を含む人工土壌培地であって、
前記複数の人工土壌粒子は、前記基部が水分を吸収する状態又は前記基部から水分を放出する状態を示す水分吸放出特性が夫々異なるように設定された複数種の人工土壌粒子で構成され、
前記複数種の人工土壌粒子として、
(a)細孔を有する複数のフィラーを造粒してなる多孔質体を前記基部として有する第一人工土壌粒子と、
(b)繊維を集合してなる繊維塊状体を前記基部として有する第二人工土壌粒子と、
を含み、前記複数のフィラーの間に連通孔が形成されるとともに、当該連通孔の周囲に前記細孔が分散配置され、前記複数のフィラーは、細孔が陽イオン交換能を有する材料と、細孔が陰イオン交換能を有する材料との混合物を含み、前記繊維塊状体の外表部は、水分子が通過可能な超微細孔を有する膜で構成されたコントロール層で被覆されていることにある。
【0012】
本構成の人工土壌培地によれば、水分吸放出特性が夫々異なるように設定された複数種の人工土壌粒子により人工土壌培地を構成しているため、各種の人工土壌粒子の水分吸放出特性が重畳することになり、夫々の人工土壌粒子の水分吸放出特性が相互に補完される。さらには、混合した人工土壌粒子の水分吸放出特性において相乗効果が現れる。例えば、一方の人工土壌粒子の水分吸放出特性が早期吸放出型であり、他方の人工土壌粒子の水分吸放出特性が後期吸放出型である場合、両者の水分吸放出特性が相互に補完され、あるいは水分吸放出特性において相乗効果が現れ、植物の栽培期間全体に亘って水分を放出可能な人工土壌培地が得られる。このように、本構成の人工土壌培地は、単一の人工土壌粒子からなる人工土壌培地と比較して、ブロードな水分吸放出特性が得られるため、栽培対象の植物に長期に亘って持続的に水分を供給することが可能となり、水遣りの頻度を低減することができる。また、人工土壌粒子の水分吸放出特性の設定を変更することにより、人工土壌粒子からの水分放出量や水分放出タイミングを任意に調整することができるので、栽培対象の植物に応じて水分供給量が高度にコントロールされた(すなわち、最適な水分放出スケジュールが設定された)人工土壌培地を実現することが可能となる。
また、本構成の人工土壌培地によれば、第一人工土壌粒子は、細孔を有する複数のフィラーを造粒してなる多孔質体を基部として有する後期吸放出型の人工土壌粒子として構成され、第二人工土壌粒子は、繊維を集合してなる繊維塊状体を基部として有する早期吸放出型の人工土壌粒子と、を含み、複数のフィラーの間に連通孔が形成されるとともに、当該連通孔の周囲に細孔が分散配置され、複数のフィラーは、細孔が陽イオン交換能を有する材料と、細孔が陰イオン交換能を有する材料との混合物を含み、繊維塊状体の外表部は、水分子が通過可能な超微細孔を有する膜で構成されたコントロール層で被覆されているため、混合した人工土壌粒子の水分吸放出特性に顕著な相乗効果が現れる。その結果、栽培対象の植物に長期に亘って持続的に水分を供給することが可能となり、水遣りの頻度を低減することができる。また、栽培対象の植物に応じて水分供給量を高度にコントロールすることも可能となる。さらに、人工土壌粒子に植物の育成に必要な肥料成分を担持させることができる。このため、天然土壌と同等の植物育成力を備えた人工土壌培地を実現することが可能となる。
【0013】
本発明に係る人工土壌培地において、
前記複数種の人工土壌粒子は、異なる種類の人工土壌粒子の間で水分の移動が可能となるように構成されていることが好ましい。
【0014】
本構成の人工土壌培地によれば、異なる種類の人工土壌粒子の間で水分の移動が可能となるため、夫々の人工土壌粒子の水分吸放出特性を設定することにより、人工土壌粒子からの水分放出量や水分放出タイミング等をより高度にコントロールすることができる。その結果、最適な水分放出スケジュールが設定された人工土壌培地を実現することが可能となる。
【0015】
本発明に係る人工土壌培地において、
前記第一人工土壌粒子と前記第二人工土壌粒子との混合割合を30:70〜70:30に調整してあることが好ましい。
【0016】
本構成の人工土壌培地によれば、第一人工土壌粒子と第二人工土壌粒子との混合割合を30:70〜70:30に調整することで、第一人工土壌粒子と第二人工土壌粒子とがバランスよく配合され、両者の水分吸放出特性が相互に補完され、あるいは水分吸放出特性において相乗効果が現れる。その結果、栽培対象の植物に長期に亘って持続的に水分を供給することが可能となり、水遣りの頻度を低減することができる。また、栽培対象の植物に応じて水分供給量を高度にコントロールすることも可能となる。
【0019】
本発明に係る人工土壌培地において、
前記複数の人工土壌粒子は0.2〜10mmの粒径を有することが好ましい。
【0020】
本構成の人工土壌培地によれば、人工土壌粒子の粒径を0.2〜10mmに設定することにより、特に根菜類の栽培に適した取り扱いの容易な人工土壌とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、複数の人工土壌粒子を含む本発明の人工土壌培地の概念図である。
図2図2は、本発明の人工土壌培地を構成する人工土壌粒子の概念図である。
図3図3は、後期吸放出型の第一人工土壌粒子と早期吸放出型の第二人工土壌粒子とを約50:50の割合で混合して構成した人工土壌培地の説明図である。
図4図4は、第一人工土壌粒子及び第二人工土壌粒子の水分吸放出特性である含水率とpF値との関係を示したグラフである。
図5図5は、第一人工土壌粒子と第二人工土壌粒子との間における水分の挙動を段階的に表した説明図である。
図6図6は、第一人工土壌粒子と第二人工土壌粒子との間における養分の挙動を段階的に表した説明図である。
図7図7は、第一人工土壌粒子、第二人工土壌粒子、並びに第一人工土壌粒子及び第二人工土壌粒子の混合物について、水分保持時間と保水量との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る人工土壌培地に関する実施形態を図1図7に基づいて説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態や図面に記載される構成に限定されることを意図しない。
【0023】
<人工土壌粒子>
図1は、複数の人工土壌粒子50を含む本発明の人工土壌培地100の概念図である。人工土壌粒子50は、水分を吸収/放出可能なベースとなる基部10を備えている。基部10は、保水性材料を有している。保水性材料は、外部環境から水分を吸収して保持するとともに、保持している水分を外部環境に放出することが可能である。ここで、「外部環境」とは、人工土壌粒子50の外側の環境を意図する。図1に示す複数の人工土壌粒子50が集合した状態の人工土壌培地100においては、複数の人工土壌粒子50の間に形成される空隙Sが外部環境に相当する。外部環境には植物Pの育成に必要な水分が存在し得る。人工土壌粒子50は、基部10が外部環境から水分を吸収する状態(水分吸収特性)、あるいは外部環境に基部10が保持している水分を放出する状態(水分放出特性)をコントロールすることで、栽培対象の植物Pへの水分供給時期や水分供給量を調整することができる。ここで、「水分吸収特性」及び「水分放出特性」とは、水分吸収量、水分吸収タイミング、水分放出量、水分放出タイミング、保水量、含水量等の水分に関連する物理量や時間で表される状態であり、本明細書では、この「水分吸収特性」及び「水分放出特性」と、後述する湿潤性やpF値等の水分関連特性とを合わせて「水分吸放出特性」と規定する。
【0024】
〔第一人工土壌粒子〕
図2は、本発明の人工土壌培地100を構成する人工土壌粒子50の概念図であり、基部10の構成が異なる2つのタイプを例示したものである。図2(a)の人工土壌粒子50aは、第一のタイプの人工土壌粒子であり、基部10としての多孔質体10aを備えている。多孔質体10aは、複数のフィラー3が集合して粒状に構成される。多孔質体10a中において、複数のフィラー3は、それらが互いに接触していることは必須ではなく、一粒子内でバインダー等を介して一定範囲内の相対的な位置関係を維持していれば、複数のフィラー3が集合して粒状に構成したものと考えることができる。多孔質体10aを構成するフィラー3は、表面から内部にかけて多数の細孔4を有する。細孔4は、種々の形態を含む。例えば、フィラー3がゼオライトの場合、当該ゼオライトの結晶構造中に存在する空隙が細孔4であり、フィラー3がハイドロタルサイトの場合、当該ハイドロタルサイトの層構造中に存在する層間が細孔4である。つまり、本発明において「細孔」とは、フィラー3の構造中に存在する空隙部、層間部、空間部等を意図し、これらは「孔状」の形態に限定されるものではない。なお、複数のフィラー3の間には、水分を保持可能なサブμmオーダー乃至サブmmオーダーの連通孔5が形成されている。連通孔5の周囲には細孔4が分散配置されている。連通孔5には主に水分が保持されるため、人工土壌粒子50aに一定の保水性を持たせることができる。人工土壌粒子50aの粒径は、0.2〜10mm、好ましくは0.5〜10mmに調整される。
【0025】
フィラー3の細孔4のサイズは、サブnmオーダー乃至サブμmオーダーとなる。例えば、細孔4のサイズは、0.2〜800nm程度に設定可能であるが、フィラー3がゼオライトの場合、当該ゼオライトの結晶構造中に存在する空隙のサイズ(径)は、0.3〜1.3nm程度である。フィラー3がハイドロタルサイトの場合、当該ハイドロタルサイトの層構造中に存在する層間のサイズ(距離)は、0.3〜3.0nm程度である。この他に、フィラー3として有機多孔質材料を使用することもでき、その場合の細孔径は、0.1〜0.8μm程度となる。フィラー3の細孔4のサイズは、測定対象の状態に応じて、ガス吸着法、水銀圧入法、小角X線散乱法、画像処理法等を用いて、又はこれらの方法を組み合わせて、最適な方法により測定される。
【0026】
フィラー3は、人工土壌粒子50aが十分な保肥力を有するように、細孔4にイオン交換能が付与された材料を使用することが好ましい。この場合、イオン交換能が付与された材料として、陽イオン交換能が付与された材料、陰イオン交換能が付与された材料、又は両者の混合物を使用することができる。また、イオン交換能を有さない多孔質材料(例えば、高分子発泡体、ガラス発泡体等)を別に用意し、当該多孔質材料の細孔に上記のイオン交換能が付与された材料を圧入や含浸等によって導入し、これをフィラー3として使用することも可能である。陽イオン交換能が付与された材料として、陽イオン交換性鉱物、腐植、及び陽イオン交換樹脂が挙げられる。陰イオン交換能が付与された材料として、陰イオン交換性鉱物、及び陰イオン交換樹脂が挙げられる。
【0027】
陽イオン交換性鉱物は、例えば、モンモリロナイト、ベントナイト、バイデライト、ヘクトライト、サポナイト、スチブンサイト等のスメクタイト系鉱物、雲母系鉱物、バーミキュライト、ゼオライト等が挙げられる。陽イオン交換樹脂は、例えば、弱酸性陽イオン交換樹脂、強酸性陽イオン交換樹脂が挙げられる。これらのうち、ゼオライト、又はベントナイトが好ましい。陽イオン交換性鉱物及び陽イオン交換樹脂は、二種以上を組み合わせて使用することも可能である。陽イオン交換性鉱物及び陽イオン交換樹脂における陽イオン交換容量は、10〜700meq/100gに設定され、好ましくは20〜700meq/100gに設定され、より好ましくは30〜700meq/100gに設定される。陽イオン交換容量が10meq/100g未満の場合、十分に養分を取り込むことができず、取り込まれた養分も灌水等により早期に流失する虞がある。一方、陽イオン交換容量が700meq/100gを超えるように保肥力を過剰に大きくしても、効果は大きく向上せず、経済的ではない。
【0028】
陰イオン交換性鉱物は、例えば、ハイドロタルサイト、マナセアイト、パイロオーライト、シェーグレン石、緑青等の主骨格として複水酸化物を有する天然層状複水酸化物、合成ハイドロタルサイト及びハイドロタルサイト様物質、アロフェン、イモゴライト、カオリン等の粘土鉱物が挙げられる。陰イオン交換樹脂は、例えば、弱塩基性陰イオン交換樹脂、強塩基性陰イオン交換樹脂が挙げられる。これらのうち、ハイドロタルサイトが好ましい。陰イオン交換性鉱物及び陰イオン交換樹脂は、二種以上を組み合わせて使用することも可能である。陰イオン交換性鉱物及び陰イオン交換樹脂における陰イオン交換容量は、5〜500meq/100gに設定され、好ましくは20〜500meq/100gに設定され、より好ましくは30〜500meq/100gに設定される。陰イオン交換容量が5meq/100g未満の場合、十分に養分を取り込むことができず、取り込まれた養分も灌水等により早期に流失する虞がある。一方、陰イオン交換容量が500meq/100gを超えるように保肥力を過剰に大きくしても、効果は大きく向上せず、経済的ではない。
【0029】
フィラー3がゼオライトやハイドロタルサイトのような無機天然鉱物である場合、複数のフィラー3を集合して粒状物(人工土壌粒子50a)を構成するために、高分子ゲル化剤のゲル化反応が好適に利用される。高分子ゲル化剤のゲル化反応として、例えば、アルギン酸塩、アルギン酸プロピレングルコールエステル、ジェランガム、グルコマンナン、ペクチン、又はカルボキシメチルセルロース(CMC)と多価金属イオンとのゲル化反応、カラギーナン、寒天、キサンタンガム、ローカストビーンガム、タラガムなどの多糖類の二重らせん構造化反応によるゲル化反応が挙げられる。このうち、アルギン酸塩と多価金属イオンとのゲル化反応について説明する。アルギン酸塩の一つであるアルギン酸ナトリウムは、アルギン酸のカルボキシル基がNaイオンと結合した形態の中性塩である。アルギン酸は水に不要であるが、アルギン酸ナトリウムは水溶性である。アルギン酸ナトリウム水溶液を多価金属イオン(例えば、Caイオン)の水溶液中に添加すると、アルギン酸ナトリウムの分子間でイオン架橋が起こりゲル化する。本実施形態の場合、ゲル化反応は、以下の工程により行うことができる。初めに、アルギン酸塩を水に溶解させてアルギン酸塩水溶液を調製し、アルギン酸塩水溶液にフィラー3を添加し、これを十分攪拌して、アルギン酸塩水溶液中にフィラー3が分散した混合液を形成する。次に、混合液を多価金属イオン水溶液中に滴下し、混合液に含まれるアルギン酸塩を粒状にゲル化させる。その後、ゲル化した粒子を回収して水洗し、十分に乾燥させる。これにより、アルギン酸塩及び多価金属イオンから形成されるアルギン酸ゲル中にフィラー3が分散した粒状物としての人工土壌粒子50aが得られる。
【0030】
ゲル化反応に使用可能なアルギン酸塩は、例えば、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸アンモニウムが挙げられる。これらのアルギン酸塩は、二種以上を組み合わせて使用することも可能である。アルギン酸塩水溶液の濃度は、0.1〜5重量%とし、好ましくは0.2〜5重量%とし、より好ましくは0.2〜3重量%とする。アルギン酸塩水溶液の濃度が0.1重量%未満の場合、ゲル化反応が起こり難くなり、5重量%を超えると、アルギン酸塩水溶液の粘度が大きくなり過ぎるため、フィラー3を添加した混合液の攪拌や、混合液を多価金属イオン水溶液中に滴下することが困難になる。
【0031】
アルギン酸塩水溶液を滴下する多価金属イオン水溶液は、アルギン酸塩と反応してゲル化が起きる2価以上の金属イオン水溶液であればよい。そのような多価金属イオン水溶液の例として、塩化カルシウム、塩化バリウム、塩化ストロンチウム、塩化ニッケル、塩化アルミニウム、塩化鉄、塩化コバルト等の多価金属の塩化物水溶液、硝酸カルシウム、硝酸バリウム、硝酸アルミニウム、硝酸鉄、硝酸銅、硝酸コバルト等の多価金属の硝酸塩水溶液、乳酸カルシウム、乳酸バリウム、乳酸アルミニウム、乳酸亜鉛等の多価金属の乳酸塩水溶液、硫酸アルミニウム、硫酸亜鉛、硫酸コバルト等の多価金属の硫酸塩水溶液が挙げられる。これらの多価金属イオン水溶液は、二種以上を組み合わせて使用することも可能である。多価金属イオン水溶液の濃度は、1〜20重量%とし、好ましくは2〜15重量%とし、より好ましくは3〜10重量%とする。多価金属イオン水溶液の濃度が1重量%未満の場合、ゲル化反応が起こり難くなり、20重量%を超えると、金属塩の溶解に時間が掛かるとともに、過剰の材料を使用することになるため、経済的でない。
【0032】
人工土壌粒子50aを形成するためのフィラー3の粒状化は、上述のゲル化反応の他、バインダーを用いた造粒法によって行うこともできる。これは、例えば、フィラー3にバインダーや溶媒等を加えて混合し、混合物を造粒機に導入し、転動造粒、流動層造粒、攪拌造粒、圧縮造粒、押出造粒、破砕造粒、溶融造粒、噴霧造粒等の公知の造粒法により行うことができる。得られた造粒体は、必要に応じて乾燥及び分級が行われ、人工土壌粒子50aが完成する。また、フィラー3にバインダーを加え、さらに必要に応じて溶媒等を加えて混練し、これを乾燥してブロック状にしたものを、乳鉢及び乳棒、ハンマーミル、ロールクラッシャー等の粉砕手段で適宜粉砕して粒状物とすることも可能である。この粒状物は、そのまま人工土壌粒子50aとして用いることもできるが、篩にかけて所望の粒径に調整することが好ましい。
【0033】
バインダーは、有機バインダー又は無機バインダーの何れも使用可能である。有機バインダーは、例えば、ポリオレフィン系バインダー、ポリビニルアルコール系バインダー、ポリウレタン系バインダー、ポリ酢酸ビニル系バインダー等の合成樹脂系バインダー、デンプン、カラギーナン、キサンタンガム、ジェランガム、アルギン酸などの多糖類、膠などの動物性たんぱく質等の天然物系バインダーが挙げられる。無機バインダーは、例えば、水ガラス等のケイ酸系バインダー、リン酸アルミニウム等のリン酸塩系バインダー、ホウ酸アルミニウム等のホウ酸塩系バインダー、セメント等の水硬性バインダーが挙げられる。有機バインダー及び無機バインダーは、二種以上を組み合わせて使用することも可能である。
【0034】
フィラー3が有機多孔質材料である場合、人工土壌粒子50aの形成は、バインダーを用いた上述のフィラーの粒状化法と同様の方法で行ってもよいが、フィラー3を、当該フィラー3を構成する有機多孔質材料(高分子材料等)の融点以上の温度に加熱し、複数のフィラー3の表面同士を熱融着させて粒状化することにより、人工土壌粒子50aを形成することも可能である。この場合、バインダーを使用しなくても、複数のフィラー3が集合した粒状物を得ることができる。そのような有機多孔質材料として、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、セルロール等の有機高分子材料を発泡させた有機高分子発泡体、前記有機高分子材料の粉体を加熱溶融して連続気泡構造を形成した有機高分子多孔質体が挙げられる。
【0035】
なお、図示しないが、人工土壌粒子50aの基部10の外表部に、後述する第二のタイプの人工土壌粒子50bと同様のコントロール層を設けることも可能である。コントロール層により、人工土壌粒子50aの水分吸放出特性をより精密にコントロールすることが可能となる。
【0036】
以上のように構成した複数のフィラー3を造粒してなる多孔質体10aを基部10として有する人工土壌粒子50aは、外部環境から比較的水分を吸収し難く、且つ外部環境に比較的水分を放出し難いという特性を有しており、水分吸放出速度が遅い後期吸放出型の人工土壌粒子(第一人工土壌粒子50a)として機能する。第一人工土壌粒子50aは、後述する第二人工土壌粒子50bよりも緩やかな水分放出特性を有する。
【0037】
〔第二人工土壌粒子〕
図2(b)の人工土壌粒子50bは、第二のタイプの人工土壌粒子であり、基部10としての繊維塊状体10bを備えている。繊維塊状体10bは、繊維1の集合体として構成される。繊維塊状体10bを構成する繊維1の間には、空隙2が形成されている。繊維塊状体10bは、空隙2に水分を保持することができる。従って、空隙2の状態(例えば、空隙2の大きさ、数、形状等)は、繊維塊状体10bが保持できる水分量、すなわち保水性に関係する。空隙2の状態は、基部10を形成する際の繊維1の使用量(密度)、繊維1の種類、太さ、長さ等を変更することにより調整可能である。なお、繊維1のサイズは、太さが1〜100μmのものが好ましく、長さが0.1〜10mmのものが好ましい。人工土壌粒子50bの粒径は、0.2〜10mm、好ましくは0.5〜10mmに調整される。
【0038】
繊維塊状体10bは、その内部に水分を保持できるように構成するため、繊維1として親水性の繊維を使用することが好ましい。これにより、繊維塊状体10bの保水性を一層高めることができる。繊維1の種類は、天然繊維又は合成繊維の何れでもよく、人工土壌粒子50bの種類に応じて、適宜選択される。好ましい親水性の繊維として、例えば、天然繊維では、綿、羊毛、レーヨン、セルロース等が挙げられ、合成繊維では、例えば、ビニロン、ウレタン、ナイロン、アセテート等が挙げられる。これらの繊維うち、綿及びビニロンがより好ましい。繊維1として、天然繊維と合成繊維とを混繊したものを使用することも可能である。
【0039】
繊維塊状体10bを構成するに際し、繊維1の間に別の保水性材料(保水性材料である繊維1と区別するため、以後、第二保水性材料とする)を導入することも可能である。この場合、繊維塊状体10bは、本来有する繊維1間の空隙2による保水性に加え、第二保水性材料による保水力を備えることができる。第二保水性材料を繊維塊状体10bに導入する方法として、例えば、繊維1を造粒によって基部10となる繊維塊状体10bを形成し、造粒中に第二保水性材料を添加する。また、繊維1の表面を第二保水性材料でコーティングする方法も有効である。これらの方法により繊維塊状体10bに導入された第二保水性材料は、繊維1間の空隙2で露出していることが好ましい。この場合、繊維塊状体10bは空隙2の保水力が大きく向上する。
【0040】
第二保水性材料は、吸水性を有する高分子保水材を使用することができる。例えば、ポリアクリル酸塩系ポリマー、ポリスルホン酸塩系ポリマー、ポリアクリルアミド系ポリマー、ポリビニルアルコール系ポリマー、ポリアルキレンオキサイド系ポリマー等の合成高分子系保水性材料、ポリアスパラギン酸塩系ポリマー、ポリグルタミン酸塩系ポリマー、ポリアルギン酸塩系ポリマー、セルロース系ポリマー、デンプン等の天然高分子系保水性材料が挙げられる。これらの第二保水性材料は、二種以上を組み合わせて使用することも可能である。また、第二保水性材料として、セラミックス等の多孔質材を使用することも可能である。
【0041】
繊維塊状体10bは、公知の造粒法により形成される。例えば、繊維1をカーディング装置等で引揃え、3〜10mm程度の長さに切断し、切断した繊維1を転動造粒、流動層造粒、攪拌造粒、圧縮造粒、押出造粒等の方法で造粒することにより形成することができる。造粒の際、繊維1に樹脂や糊等のバインダーを混合して造粒を行ってもよいが、繊維1は互いに絡まり合って固着化し易いため、バインダーを使用しなくても繊維1を塊状に加工することが可能である。
【0042】
基部10として構成される繊維塊状体10bの外表部は、図2(b)に示すように、コントロール層20を被覆することができる。コントロール層20を設けることにより、繊維塊状体10bの水分吸放出特性をより精密にコントロールすることが可能となる。コントロール層20は、水分子が通過可能な超微細孔を有する膜である。あるいは、水分が一方側から浸透して他方側に移動可能な浸透性膜とすることもできる。コントロール層20は、例えば、以下の方法により繊維塊状体10bの外表部に形成される。先ず、造粒した繊維塊状体10bを容器に移し、繊維塊状体10bの体積(占有容積)の半分程度の水を加え、繊維塊状体10bの空隙2に水を浸み込ませる。次に、水を浸み込ませた繊維塊状体10bに、繊維塊状体10bの体積の1/3〜1/2の樹脂エマルジョンを添加する。樹脂エマルジョンには、顔料、香料、殺菌剤、抗菌剤、消臭剤、殺虫剤等の添加物を混合しておくことも可能である。次に、繊維塊状体10bの外表部に樹脂エマルジョンが均一に付着するように転動させながら、繊維塊状体10bの外表部から樹脂エマルジョンを含浸させる。このとき、繊維塊状体10bの中心部には水が浸み込んでいるため、樹脂エマルジョンは繊維塊状体10bの外表部付近で留まる。その後、樹脂エマルジョンが付着した繊維塊状体10bをオーブンで乾燥させ、次いで、樹脂を溶融させ、繊維塊状体10bの外表部付近の繊維1に樹脂を融着させてコントロール層20としての樹脂被膜を形成する。これにより、繊維塊状体10bは外表部がコントロール層20で被覆され、人工土壌粒子50bが完成する。コントロール層20は、樹脂が溶融する際に樹脂エマルジョンに含まれていた溶媒が蒸発し、多孔質構造が形成される。得られた人工土壌粒子50bは、必要に応じて、乾燥及び分級が行われ、粒径が調整される。コントロール層20は、繊維塊状体10bを構成する繊維1の絡み合い部分(繊維1同士が接触する部分)を補強するように、繊維塊状体10bの外表部から若干内側に浸透した状態にまで厚みを形成してもよい。これにより、人工土壌粒子50bの強度及び耐久性を向上させることができる。コントロール層20の膜厚は、1〜200μmに設定され、好ましくは10〜100μmに設定され、より好ましくは20〜60μmに設定される。なお、コントロール層20は必要に応じて設ければよく、コントロール層20が存在しない繊維塊状体10bをそのまま人工土壌粒子50bとすることも可能である。
【0043】
繊維塊状体10bを造粒するにあたり、繊維1として短繊維を使用することも可能である。短繊維の長さは、0.01〜3mm程度が好ましい。この場合、短繊維を撹拌混合造粒装置で撹拌しながら樹脂エマルジョンを少量ずつ投入して造粒する。これにより、繊維塊状体10bを形成する短繊維同士が一部で固定化され、強固な基部10を形成することができる。なお、短繊維に先に水を加えて造粒し、その後、コントロール層20にエマルジョンを添加して繊維塊状体10bを仕上げることも可能である。
【0044】
コントロール層20の材質は、水に不溶性で酸化され難いものが好ましく、例えば、樹脂材料が挙げられる。そのような樹脂材料として、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等の塩化ビニル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリスチレン等のスチロール系樹脂が挙げられる。これらのうち、ポリエチレンが好ましい。また、樹脂材料に代えて、ポリエチレングリコール等の合成高分子系のゲル化剤、又はアルギン酸ナトリウム等の天然ゲル化剤を使用することも可能である。
【0045】
繊維塊状体10b及びコントロール層20には、イオン交換能を付与することもできる。繊維塊状体10b及びコントロール層20の少なくとも何れか一方にイオン交換能を付与することで、人工土壌粒子50bに植物の育成に必要な肥料成分を担持させることができるので、天然土壌と同等の植物育成力を備えた人工土壌培地を実現することが可能となる。
【0046】
以上のように構成した繊維を集合してなる繊維塊状体10bを基部10として有する人工土壌粒子50bは、外部環境から比較的水分を吸収し易く、且つ外部環境に比較的水分を放出し易いという特性を有しており、水分吸放出速度が速い早期吸放出型の人工土壌粒子(第二人工土壌粒子50b)として機能する。第二人工土壌粒子50bは、前述の第一人工土壌粒子50aよりも急激な水分放出特性を有する。
【0047】
<人工土壌培地>
本発明の人工土壌培地100は、水分吸放出特性が夫々異なるように設定された複数種の人工土壌粒子50で構成される。図3は、人工土壌培地100の一例を示す説明図であり、図2(a)に示す水分吸放出速度が遅い(水分吸放出特性が緩やかな)後期吸放出型の第一人工土壌粒子50aと、図2(b)に示す水分吸放出速度が速い(水分吸放出特性が急激な)早期吸放出型の第二人工土壌粒子50bとを約50:50の割合で混合して構成したものである。この場合、人工土壌培地100中において、第一人工土壌粒子50aと第二人工土壌粒子50bとは互いに接触した状態となっている確率が高い。本発明者らによる鋭意研究の結果、第一人工土壌粒子50aと第二人工土壌粒子50bとが接触した状態、又は接触に近い状態にある人工土壌培地に散水を行うと、両粒子間で水分及び養分が特異的な挙動を示すことを突き止めた。以下、人工土壌培地100における植物の栽培に必要な水分及び養分の挙動メカニズムについて説明する。
【0048】
図4は、第一人工土壌粒子50a及び第二人工土壌粒子50bの水分吸放出特性である含水率とpF値との関係を示したグラフである。pF値とは、水柱の高さで表した土壌水分の吸引圧の常用対数値のことであり、土壌中の水分が土壌の毛管力によって引き付けられている強さの程度を表す値である。pF値が2.0のとき、水柱100cmの圧力に相当する。pF値は土壌の湿り具合を表すものでもあり、土壌が十分に水分を含んでいるとpF値は低くなり、植物の根が水分を吸収し易い状態となる。一方、土壌が乾燥するとpF値は高くなり、植物の根が水分を吸収するためには大きな力を要する。土壌中の隙間に空気が存在せず、全て水で充たされている状態がpF値0であり、100℃の熱乾状態の土壌であり、土壌と化合した水しか存在しない状態がpF値7となる。一般に、植物を栽培可能な土壌のpF値は1.5〜2.7の範囲であり、本発明の人工土壌培地においても、pF値を1.5〜2.7の範囲に設定すれば、植物を生育させることが可能となる。本発明の人工土壌培地における好ましいpF値は1.7〜2.7の範囲であり、より好ましいpF値は1.7〜2.3の範囲である。図4のグラフのプロフィールより、pF値が1.5〜2.7の範囲では、第一人工土壌粒子50aの含水率は約5〜27%となり、第二人工土壌粒子50bの含水率は約0〜25%となる。第一人工土壌粒子50aと第二人工土壌粒子50bとを比較すると、pF値が1.5〜2.7の範囲において、第一人工土壌粒子50aの含水率と第二人工土壌粒子50bの含水率とが等しい条件では、第一人工土壌粒子50aのpF値は第二人工土壌粒子50bのpF値より常に高くなる。このため、第一人工土壌粒子50aと第二人工土壌粒子50bとが混在する土壌環境では、第二人工土壌粒子50bから第一人工土壌粒子50aへと水分が移動することになる。
【0049】
図5は、第一人工土壌粒子50aと第二人工土壌粒子50bとの間における水分の挙動を段階的に表した説明図である。図5では、第一人工土壌粒子50a及び第二人工土壌粒子50bの内部構造は省略し、粒子内部の水分の状態を斜線で示してある。なお、この水分の状態(斜線領域)は水分量を分かり易く示したものであり、実際の粒子内における水分の分布を示すものではない。
【0050】
人工土壌培地100に散水を行うと、図5(a)に示すように、水分吸放出速度が遅い第一人工土壌粒子50aにはまだ完全に水分が吸収されないが、水分吸放出速度が速い第二人工土壌粒子50bは略完全に水分を吸収した状態となる。散水が完了すると、第二人工土壌粒子50bは吸収した水分を外部に放出する。水分の放出により第二人工土壌粒子50bのpF値が第一人工土壌粒子50aのpF値を大きく下回ると(すなわち、第二人工土壌粒子50bの含水率が約20〜25%になると)、水分はpF値が低い第二人工土壌粒子50bからpF値が高い第一人工土壌粒子50aへと移動し易くなり、図5(b)に示すように、第二人工土壌粒子50bから放出された水分により第一人工土壌粒子aは満水状態に近づく。なお、第二人工土壌粒子50bから放出された水分の一部は、植物にも直接供給されることになるため、この間に植物が水分不足となることはない。図5(c)に示すように、第二人工土壌粒子50bが殆どの水分を放出すると、水分を十分に吸収した第一人工土壌粒子50aは植物にゆっくりと水分を放出する。ちなみに、第一人工土壌粒子50aから水分が放出されている途中で人工土壌培地100に散水を行うと、図5(a)〜図5(c)の段階が繰り返され、永続的に植物への水分供給を行うことが可能となる。このように、本発明の人工土壌培地100は、第一人工土壌粒子50aと第二人工土壌粒子50bとの間で水分が移動することで、両者の水分吸放出特性が相互に補完され、さらには、混合した人工土壌粒子50の水分吸放出特性に顕著な相乗効果が現れる。その結果、単一の人工土壌粒子からなる従来の人工土壌培地と比較してブロードな水分吸放出特性が得られ、栽培対象の植物に長期に亘って持続的に水分を供給することが可能となり、水遣りの頻度を低減することができる。なお、人工土壌培地100を構成する複数種の人工土壌粒子50の水分吸放出特性の設定を変更すれば、水分放出量や水分放出タイミングを任意に調整することができるので、栽培対象の植物に応じて水分供給量が高度にコントロールされた(すなわち、最適な水分放出スケジュールが設定された)人工土壌培地を実現することが可能となる。
【0051】
図6は、第一人工土壌粒子50aと第二人工土壌粒子50bとの間における養分の挙動を段階的に表した説明図である。図6図5と同様に、第一人工土壌粒子50a及び第二人工土壌粒子50bの内部構造は省略し、粒子内部の養分の状態をドットで示してある。なお、この養分の状態(ドット領域)は養分量を分かり易く示したものであり、実際の粒子内における養分の分布をそのまま反映したものではない。
【0052】
養分は水に溶解した状態で植物に吸収されるため、養分の移動の仕方は、基本的には、第一人工土壌粒子50aと第二人工土壌粒子50bとの間における水分の挙動に支配されたものとなる。ここで、第一人工土壌粒子50aはイオン交換能が付与されているため、図6(a)に示すように、第一人工土壌粒子50aには予め植物の成長に必要な養分を担持させておく。養分としては、三大要素である窒素、リン、カリウムの各成分の他、中量要素である、マグネシウム、カルシウム、硫黄の各成分、微量要素である鉄、銅、亜鉛、マンガン、モリブデン、ホウ素、塩素、ケイ酸の各成分等が挙げられる。人工土壌培地100に散水を行うと、上述のように、水分吸放出速度が遅い第一人工土壌粒子50aにはまだ完全に水分が吸収されないが、水分吸放出速度が速い第二人工土壌粒子50bは略完全に水分を吸収した状態となる。散水が完了すると、図6(b)に示すように、第一人工土壌粒子50aに担持されていた養分が第一人工土壌粒子50aに吸収された水分に溶解し、第一人工土壌粒子50aは養分の一部を水分とともに外部の植物に放出する。また、第一人工土壌粒子50aの養分の一部は、一旦外部に放出された後、第二人工土壌粒子50bにも吸収される。なお、第二人工土壌粒子50bの水分含有量が略一杯の状態になったとしても、養分の濃度差により、第一人工土壌粒子50aから第二人工土壌粒子50bへの養分の移動は可能である。その後、第一人工土壌粒子50a及び第二人工土壌粒子50bにおける養分濃度が略等しくなると、図6(c)に示すように、第一人工土壌粒子50a及び第二人工土壌粒子50bから夫々の水分放出速度に依存する速度で養分が植物に向けて放出される。人工土壌培地100は、第一人工土壌粒子50aと第二人工土壌粒子50bとの間で水分が移動することによりブロードな水分吸放出特性を発揮するものであるから、栽培対象の植物に長期に亘って持続的に養分を供給することも可能となる。
【0053】
図7は、第一人工土壌粒子50a、第二人工土壌粒子50b、並びに第一人工土壌粒子50a及び第二人工土壌粒子50bの混合物について、水分保持時間と保水量との関係を示したグラフである。各グラフは、夫々の人工土壌粒子を灌水した後の保水量の経時変化を示したものである。図7のグラフのプロフィールより、第一人工土壌粒子50aと第二人工土壌粒子50bとを混合した人工土壌培地(一点鎖線)は、第一人工土壌粒子50aを単独で使用した人工土壌培地(実線)、又は第二人工土壌粒子50bを単独で使用した人工土壌培地(破線)と比べて、水分保持時間が顕著に延長され、ブロードな水分吸放出特性が得られることが理解される。これは、上述したように、第一人工土壌粒子50aと第二人工土壌粒子50bとの間において水分が特異的な移動の仕方をすることに起因すると考えられる。従って、第一人工土壌粒子50aと第二人工土壌粒子50bとを混合して人工土壌培地100を構成すると、両者の水分吸放出特性が重畳し、さらには水分吸放出特性に顕著な相乗効果が現れることとなり、その結果、栽培対象の植物に長期に亘って持続的に水分を供給したり、栽培対象の植物に応じて水分供給量を高度にコントロールすることが可能となる。
【0054】
<別実施形態>
上述した実施形態以外の態様として、本発明の人工土壌培地100において採用し得る形態を以下に別実施形態として説明する。
【0055】
(1)本発明の人工土壌培地100における第一人工土壌粒子50aと第二人工土壌粒子50bとの混合割合は、上記実施形態において例示した約50:50の割合に限定されず、栽培対象の植物の種類等に応じて適宜変更することが可能である。例えば、乾燥に強い植物を栽培する場合、第一人工土壌粒子50aを第二人工土壌粒子50bより多くすることができる。また、栽培初期に多量の水分を必要とする植物を栽培する場合、第二人工土壌粒子50bを第一人工土壌粒子50aより多くすると、第二人工土壌粒子50bから放出された水分は、第一人工土壌粒子50aに吸収されるとともに人工土壌粒子間の空間を満たすため、湿潤な土壌環境を形成することができる。第一人工土壌粒子50aと第二人工土壌粒子50bとの混合割合は、人工土壌培地100に要求される特性に応じて、30:70〜70:30の範囲で調整することができる。
【0056】
(2)図3に示した人工土壌培地100の例では、後期吸放出型の第一人工土壌粒子50aと、早期吸放出型の第二人工土壌粒子50bとを混合しているが、人工土壌粒子の種類は2種類に限定されず、水分吸放出特性がこれらとは異なる人工土壌粒子をさらに混合することも可能である。例えば、第一人工土壌粒子50aと第二人工土壌粒子50bとの間を補完する中期吸放出型の複数種の人工土壌粒子をさらに混合し、多段階で水分吸放出特性をコントロールすることも可能である。
【実施例】
【0057】
次に、本発明の人工土壌培地を使用した実施例について説明する。この実施例では、植物栽培期間において、人工土壌培地の違いによる水分関連特性の変化を測定した(植物栽培試験1)。さらに、植物栽培期間における植物の生育状態を確認した(植物栽培試験2)。先ず、植物栽培試験を実施するに先立ち、第一人工土壌粒子及び第二人工土壌粒子を作製した。さらに、第一人工土壌粒子及び/又は第二人工土壌粒子を用いて、実施例及び比較例に供する人工土壌培地を調製した。
【0058】
〔第一人工土壌粒子の作製〕
フィラーとしてゼオライト及びハイドロタルサイトを使用し、アルギン酸塩としてアルギン酸ナトリウムを使用し、多価金属イオン水溶液として5%塩化カルシウム水溶液を使用した。和光純薬工業株式会社製の試薬アルギン酸ナトリウムを水に溶解させて濃度0.5%の水溶液を調製し、アルギン酸ナトリウム0.5%水溶液100重量部に株式会社エコウエル製の人工ゼオライト「琉球ライト600」10重量部、及び和光純薬工業株式会社製の試薬ハイドロタルサイト10重量部を添加して混合した。混合液を5%塩化カルシウム水溶液中に1滴/秒の速度で滴下した。滴下した液滴が粒子状にゲル化した後、粒子状ゲルを回収して水洗し、55℃に設定した乾燥機で24時間乾燥させた。乾燥を終えた粒子状ゲルを篩にかけて分級し、2mmオーバー、4mmアンダーとした第一人工土壌粒子を得た。この人工土壌粒子の陽イオン交換容量は23meq/100gであり、陰イオン交換容量は25meq/100gであり、粒径は0.2〜10mmの範囲内であった。
【0059】
〔第二人工土壌粒子の作製〕
見かけの容積で1000ccのビニロン短繊維(長さ0.5mm 株式会社クラレ製)を撹拌混合造粒装置(有限会社G−Labo製)で撹拌、転動させながらポリエチレンエマルジョン(セポルジョン(登録商標)G315、住友精化株式会社製、濃度40重量%)を約10倍に希釈したものを加えて造粒し、内部にポリエチレンエマルジョンを含浸させた粒子状の繊維塊状体を形成した。次いで、同じポリエチレンエマルジョンを体積の1/2となるように加えて外表部にエマルジョンが均一に付着するように転がしながら含浸させた。エマルジョンが含浸した繊維塊状体をオーブンで60℃で乾燥した後、100℃でエマルジョン中のポリエチレンを溶融させて繊維に融着させることにより短繊維同士を固定化し、さらに繊維塊状体の外表部を多孔質ポリエチレンの通水性膜で被覆し、第二人工土壌粒子を得た。この第二人工土壌粒子の粒径は0.5〜10mmの範囲内であった。
【0060】
〔人工土壌培地の調製〕
実施例1として、第一人工土壌粒子50重量%、及び第二人工土壌粒子50重量%を含む人工土壌培地を調製した。実施例2として、第一人工土壌粒子30重量%、及び第二人工土壌粒子70重量%を含む人工土壌培地を調製した。比較例1として、第一人工土壌粒子のみのもの(第一人工土壌粒子100重量%)を人工土壌培地とした。比較例2として、第二人工土壌粒子のみのもの(第二人工土壌粒子100重量%)を人工土壌培地とした。さらに、比較例3として、市販の植物育成用人工土壌培地「セラミス(登録商標)」を使用した。
【0061】
〔植物栽培試験1〕
夫々の人工土壌培地を入れたポットに植物としてポトスを植栽し、栽培開始時に人工土壌培地に十分な散水を行った。その後、追加の散水は行わず、20日間に亘って植物を栽培した。夫々の人工土壌培地の水分吸放出特性を確認するため、栽培期間中における水分関連特性として、湿潤性、吸水量、放水速度、及び保水日数の変化を測定した。ここで、湿潤性は、人工土壌培地の瞬間的な水分保持力の指標となるものである。湿潤性は、上下が開口したカラムに人工土壌培地を充填し、上部から補給した水分量と下部から排出された水分量との差から、単位体積あたりの人工土壌培地が瞬間的に保持し得る水分量(mL/100mL)として求められる。吸水量は、人工土壌培地の長期的な水分保持力を示すものである。吸水量は、通常の単位体積あたりの人工土壌培地が保持し得る水分量(mL/100mL)として求められる。吸水量は、一般に、湿潤性試験で求めた水分値よりも大きくなる。放水速度は、人工土壌培地を入れたポットから栽培系外に水分が放出される速度である。放水速度は、例えば、水を張ったバットにポットを入れて底面灌水を行い、栽培期間中のバットの水面の低下量(すなわち、水分減少量)から求められる。バットからの水分の蒸発量は略一定と見なせるため、人工土壌培地の違いによる相対的な水分減少量の評価が可能となる。保水日数は、人工土壌培地が水分を保持し得る日数である。保水日数は、植物を植栽した時点から植物が萎れた時点までの日数より間接的に求められる。夫々の人工土壌培地の水分関連特性の評価結果を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
実施例1及び実施例2の人工土壌培地は、水分の湿潤性及び吸水量は良好であった。また、放水速度及び保水日数は非常に良好であった。この結果、実施例1及び実施例2の人工土壌培地で栽培した植物は、栽培初期から良好な外観を示し、その後も順調に生育した。一方、比較例1の人工土壌培地は、水分の湿潤性がやや不良であり、放水速度も若干劣る傾向が見られた。この結果、比較例1の人工土壌培地で栽培した植物は、葉の一部が枯れて変色し、外観を低下させるものとなった。比較例2の人工土壌培地は、放水速度がやや不良であり、保水日数は不良であった。比較例3の市販の人工土壌培地は、放水速度、及び保水日数が不良であった。
【0064】
〔植物栽培試験2〕
次に、夫々の人工土壌培地を入れたポットに植物としてハツカダイコンの種子を播種し、栽培開始時に人工土壌培地に十分な散水を行った。その後、適宜散水を行い、20日間に亘って植物を栽培した。植物の生育状態を確認するため、栽培期間終了後における実の大きさ、根長、根径を測定した。夫々の人工土壌培地における植物生育状態を表2に示す。
【0065】
【表2】
【0066】
実施例1及び実施例2の人工土壌培地で栽培した植物は、栽培初期から良好な生育状態を示し、その後も順調に生育した。その結果、実の大きさ、根長、根径はいずれも十分なサイズであった。一方、比較例1の人工土壌培地で栽培した植物は、実がほとんど育たず、しかも根が出現しなかった。比較例2の人工土壌培地で栽培した植物は、実の大きさがやや小振りであり、根長及び根径についても、実施例1や実施例2と比較すると一回り小さいものであった。比較例3の市販の人工土壌培地で栽培した植物は、根長は十分であったが、実の大きさ及び根径については、実施例1や実施例2よりも劣る結果となった。
【0067】
以上より、本発明の人工土壌培地は、土壌としての基本性能が高く、天然土壌にも劣らない優れた植物育成力を有していることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の人工土壌培地は、植物工場等で行われる植物の栽培に利用可能であるが、その他の用途として、施設園芸用土壌培地、緑化用土壌培地、成型土壌培地、土壌改良剤、インテリア用土壌培地等にも利用可能である。
【符号の説明】
【0069】
1 繊維
3 フィラー
4 細孔
5 連通孔
10 基部
10a 多孔質体
10b 繊維塊状体
20 コントロール層
50 人工土壌粒子
50a 第一人工土壌粒子
50b 第二人工土壌粒子
100 人工土壌培地
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7