特許第6029621号(P6029621)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6029621
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】血漿レニン活性の測定法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/37 20060101AFI20161114BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20161114BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20161114BHJP
   C12N 9/99 20060101ALI20161114BHJP
【FI】
   C12Q1/37
   G01N33/53 D
   G01N33/543 545H
   C12N9/99
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-143777(P2014-143777)
(22)【出願日】2014年7月14日
(65)【公開番号】特開2016-19481(P2016-19481A)
(43)【公開日】2016年2月4日
【審査請求日】2015年2月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006770
【氏名又は名称】ヤマサ醤油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宇津 貴央
(72)【発明者】
【氏名】濱沖 勝
【審査官】 戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−217272(JP,A)
【文献】 特表2008−508340(JP,A)
【文献】 日本内分泌学会雑誌,1981年,vol.57, no.11,pp.1645-1656
【文献】 J. Am. Soc. Nephrol.,2005年,vol.16, no.3,pp.592-599
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00−1/70
G01N 33/50−33/98
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/
WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)血漿をインキュベートし、アンジオテンシン−Iを産生させる反応と、(2)産生したアンジオテンシン−IをEIAにより定量する反応から成る血漿レニンの測定法において、血漿のインキュベートを行ったあと、レニン活性を阻害し、アンジオテンシン−Iの産生を抑制するために、アリスキレンまたはその塩を用いることを特徴とする、血漿レニン活性の測定法。
【請求項2】
(1)血漿をインキュベートし、アンジオテンシン−Iを産生させる反応と、(2)産生したアンジオテンシン−IをEIAにより定量する反応から成る血漿レニン活性の測定に使用する試薬キットであって、血漿のインキュベートを行ったあと、レニン活性を阻害し、アンジオテンシン−1の産生を抑制するための試薬として、アリスキレンまたはその塩を添付することを特徴とする、血漿レニン活性の測定試薬キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血漿レニン活性の測定法およびキットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
血漿レニン活性は、1964年、ブッチヤー(Boucher)らにより開発された、その後いくつもの改良が加えられ、現在は実施例に記載した方法が標準法といわれている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】日内分泌会誌、第57巻、第11号、1645−1656頁(1981年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、副腎の腫瘍でアルドステロンを過剰に産生する原発性アルドステロン症は、全高血圧の約5%程度を占めることが明らかにされ、従来考えられてきた割合よりも約10倍高いことから世界的に注目されている。
【0005】
通常、原発性アルドステロン症の診断には、血液中の血漿アルドステロン濃度及び血漿レニン活性を測定して、血漿アルドステロン濃度と血漿レニン活性比を検査することが、重要であると世界的にも確認され、ますますレニン活性の正確な測定が重要視されてきている。
【0006】
しかしながら、本発明者が検討した結果、後述実施例で示すように、ペプスタチン-Aを使用する標準法では、レニン活性を完全に阻害したとは言えず、アンジオテンシン-Iの産生を完全に抑制できていないことが明らかとなった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者は、鋭意検討した結果、ペプスタチン-Aの代わりに、アリスキレンと称されているδ−アミノ−γ−ヒドロキシ−ω−アリール−アルカン酸アミド誘導体またはその塩を用いることで、レニン活性を完全に阻害し、アンジオテンシン-Iの産生を完全に抑制できることを見出し、本発明を完成させた。したがって、本発明は以下のとおりである。
【0008】
(1)血漿レニン活性を測定する際、レニン活性を阻害し、アンジオテンシン-Iの産生を抑制するために、δ−アミノ−γ−ヒドロキシ−ω−アリール−アルカン酸アミド誘導体またはその塩を用いることを特徴とする、血漿レニン活性の測定法。
【0009】
(2)血漿レニン活性の測定に使用する試薬キットであって、レニン活性を阻害し、アンジオテンシン−1の産生を抑制するための試薬として、δ−アミノ−γ−ヒドロキシ−ω−アリール−アルカン酸アミド誘導体またはその塩を添付することを特徴とする、血漿レニン活性の測定試薬キット。
【発明の効果】
【0010】
本発明の最大の特徴は、ペプスタチン−Aの代わりに、アリスキレンと称されているδ−アミノ−γ−ヒドロキシ−ω−アリール−アルカン酸アミド誘導体またはその塩を用いることで、これにより、従来の標準法と比較し、以下の効果を奏し、産業上きわめて有益である。
【0011】
(1)ペプスタチン−Aより安価なアリスキレンを使用でき、アリスキレンは化学合成品であるため、比較的安価に安定的に入手することが可能である。
【0012】
(2)ペプスタチン−Aは、一般に遊離酸であるため、水あるいは種々の緩衝液、及び有機溶媒に難溶であり、高濃度に溶解することが困難である。一方、アリスキレンは一般に塩酸塩またはヘミフマル酸塩の形で供給され、いずれも水、緩衝液、有機溶媒に可溶である。
【0013】
(3)ペプスタチン−Aは、溶解性が悪いため高濃度の溶液が調製できず、高濃度あるいは高比活性のレニン活性を抑制することはできない。一方、アリスキレンは、低濃度の溶液であっても、高濃度あるいは高い比活性のレニン活性を抑制することができ、従って検体中に含まれるアンジオテンシン−Iの濃度を長期間一定に保つことがはじめて可能となった。
【0014】
(4)通常のレニン活性測定キットはトレーサー溶液中にレニン阻害剤としてのペプスタチン−Aを含む構成となっている。このことはキットを構成する試薬数を少なく抑えるができる構成となっている一方で、血漿のインキュベート(アンジオテンシン−Iの産生反応)を行ったあと直ちに測定を行わなければならないことを示している。すなわち直ちに測定を開始しなければ血漿のインキュベートから測定までの間にレニンにより新たなアンジオテンシン−Iが産生される可能性があるため、信頼できる測定値を得ることが困難である。
【0015】
また、ペプスタチン−Aのレニンに対する阻害効果が不完全であるために、測定する検体によっては測定中に新たにアンジオテンシン−Iが産生されてしまう可能性も否定できない。アリスキレンを用いる本発明の系では血漿のインキュベート(アンジオテンシン−Iの産生反応)を行った後アリスキレンを含む停止液を検体に添加することで、レニンの活性を完全に抑制することができる。従って血漿のインキュベートから測定までに時間が経過してしまっても、安定したアンジオテンシン−I測定値を得ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、アンジオテンシン−I産生実験において、レニンの阻害剤としてペプスタチン−A(1mM)を用いた場合のアンジオテンシン−I濃度の経時的変化を示す。
図2図2は、アンジオテンシン−I産生実験において、レニンの阻害剤としてペプスタチン−A(3mM)を用いた場合のアンジオテンシン−I濃度の経時的変化を示す。
図3図3は、アンジオテンシン−I産生実験において、レニンの阻害剤としてペプスタチン−A(10mM)を用いた場合のアンジオテンシン−I濃度の経時的変化を示す。
図4図4は、アンジオテンシン−I産生実験において、レニンの阻害剤としてアリスキレン(2μM)を用いた場合のアンジオテンシン−I濃度の経時的変化を示す。
図5図5は、アンジオテンシン−I産生実験において、レニンの阻害剤としてアリスキレン(5μM)を用いた場合のアンジオテンシン−I濃度の経時的変化を示す。
図6図6は、アンジオテンシン−I産生実験において、レニンの阻害剤としてアリスキレン(15μM)を用いた場合のアンジオテンシン−I濃度の経時的変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、血漿レニン活性を測定する際、レニン活性を阻害し、アンジオテンシン-Iの産生を抑制するために、アリスキレンを用いることを特徴とする、血漿レニン活性の測定法に関するものである。
【0018】
使用するサンプルとしては、ヒト、あるいは動物由来の血漿であればよい。
【0019】
本発明に使用するアリスキレンとしては、δ−アミノ−γ−ヒドロキシ−ω−アリール−アルカン酸アミド誘導体またはその塩を例示することができる。この化合物群と塩は公知の化合物でありいずれも使用可能である。
【0020】
具体的には、特表2007-512382に記載の化合物を例示することができ、より具体的には2(S),4(S),5(S),7(S)−N−(2−carbamoyl−2−methylpropyl)−5−amino−4−hydroxy−2,7diisopropyl−8−(4−methoxy−3−(3−methoxypropoxy)phenyl)octanamideまたはその塩(塩酸塩またはヘミフマル酸塩など)を好適なものとして例示することができる。
【0021】
アリスキレンの使用濃度としては、レニン活性を阻害できる濃度であれば良く、具体的には0.1〜100μMの範囲から適宜小規模試験にて決定することができる。
【0022】
本発明のレニン活性測定は、レニン活性阻害剤として、ペプスタチン-Aの代わりに、アリスキレンを用いる以外は、レニン活性測定法の標準法に準じて、(1)血漿とインキュベートし、アンジオテンシン-Iを産生させる反応と(2)産生したアンジオテンシン-IをEIAにより定量する反応に分け、実施すればよく、使用する試薬も、たとえば、実施例に示した試薬を使用することができるが、例示された試薬でなくても、この分野で常用されている他の試薬にも変更可能である。

【0023】
ただし、従来の標準法では、血漿のインキュベート(アンジオテンシン−Iの産生反応)を行ったあと直ちに測定を行わなければならなかったが、本発明方法では、レニンの活性を完全に抑制することができるため、血漿のインキュベートからEIAによる測定までに時間が経過してしまっても、安定したアンジオテンシン−I測定値を得ることが可能になる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例をあげて具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【0025】
本発明法の測定手順
本発明の血漿レニン活性測定キットを、以下の試薬類により構成される。
A.ヤギ抗ウサギIgG抗体固相プレート
B.アンジオテンシン−I標準液(0ng/mL〜60ng/mL)
C.HRP標識アンジオテンシン−I液(ヤマサ醤油社製、5pmol/mL)
D.ウサギ抗アンジオテンシン−Iポリクローナル抗体液(Bachem社製、0.1μg/mL)
E.洗浄液(0.05%TWEEN20含有PBS)
F.発色液A(3,3,5,5−テトラメチルベンジジン)
G.発色液B(過酸化水素水)
H.発色停止液(硫酸)
I.pH調整液(EDTA含有クエン酸緩衝液)
J.阻害剤A(フッ化フェニルメチルスルホニル)
K.阻害剤B(ペプスタチン−Aまたはアリスキレン)
【0026】
また、測定用試料として、4種類の濃度でリコンビナントレニンを添加したヒト血漿を用意した。
【0027】
レニン活性測定法の標準法においては、(1)血漿とインキュベートし、アンジオテンシン−Iを産生させる反応と(2)産生したアンジオテンシン−IをEIAにより定量する反応に分けられるが、今回は測定中にレニンにより新たにアンジオテンシン−Iが産生されるかどうかを確認するため、以下の(5)に示すように、阻害剤B添加後の加温開始後、1、3、6時間後にサンプリングを行い、それぞれのアンジオテンシン−Iを測定した。
【0028】
<アンジオテンシン−I産生手順>
(1)リコンビナントレニンを添加した血漿、pH調整液、阻害剤Aを20:2:1の比で混合した。
(2)(1)の試料を等容量ずつ分注した。
(3)(2)の試料に対し、さらに等容量の阻害剤Bを添加し、混合した。
(4)阻害剤Bを添加した(3)の試料を一度凍結後、30℃の水浴に移し加温した。
(5)加温開始1、3、6時間後にサンプリングを行い、直ちに凍結した。
(6)全てのサンプルを回収後一斉に解凍し、以下に記述する手順に従いEIAを行い、各試料中に含まれるアンジオテンシン−Iの濃度を定量した。
【0029】
<EIA手順>
(1)ヤギ抗ウサギIgG抗体固相プレートにアンジオテンシン−I標準液または各試料を50μL/ウェル添加した。
(2)さらにHRP標識アンジオテンシン−I液及びウサギ抗アンジオテンシン−Iポリクローナル抗体液をそれぞれ50μL/ウェル添加した。
(3)プレートをプレートシェーカーに載せ、25℃にて、800rpmの速度で撹拌しながら1時間反応させた。
(4)ウェル内の反応液を吸引除去し、洗浄液(0.05%TWEEN20含有PBS)を300μL/ウェル添加し、吸引する洗浄操作を計3回行った。
(5)発色液Aと発色液Bを用時等量混合し調製した発色液を100μL/ウェル添加し、20分間発色させた。
(6)発色停止液を100μL/ウェル添加し、各ウェルの450nmにおける吸光度をプレートリーダーにて測定した。
(7)標準液の吸光度より検量線を作成し、その検量線より各試料のアンジオテンシン−Iを算出した。
【0030】
測定結果
図1図3に、レニン阻害剤(阻害剤B)として1mM〜10mM ペプスタチン−A 50%メタノール溶液を用いた場合のアンジオテンシン−I濃度の経時変化を示す。1mMペプスタチン−Aを用いた場合は、いずれのレニン添加血漿においても反応時間の延長に伴うアンジオテンシン−I濃度の増加が見られた。すなわち1mMペプスタチン−Aではレニンの活性を完全に抑制できていない。ペプスタチン−Aの濃度を3あるいは10mMに増量すると経時的なアンジオテンシン−I濃度の増加は抑制される傾向が見られたが、それでも完全に抑制されなかった。また、10mMペプスタチン−Aは澄明な溶液とならず、懸濁状態となっており、このことはキットとしての試薬の供給上不適切な形態である。
【0031】
一方、図4図6にはレニン阻害剤(阻害剤B)として15〜2μM アリスキレンヘミフマル酸塩 50%メタノール溶液を用いた場合のアンジオテンシン−I濃度の経時変化を示した。いずれの使用濃度においても、反応時間の延長に伴うアンジオテンシン−I濃度の増加は全く見られなかった。このことは、アリスキレンの添加によりレニンの活性を完全に抑制し、従ってアンジオテンシン−Iの測定値が安定することを示している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6