特許第6029627号(P6029627)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6029627-車載カメラ用レンズ 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6029627
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】車載カメラ用レンズ
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/068 20060101AFI20161114BHJP
   C03C 3/089 20060101ALI20161114BHJP
   C03C 3/095 20060101ALI20161114BHJP
   C03C 3/097 20060101ALI20161114BHJP
   G02B 1/113 20150101ALI20161114BHJP
   G02B 13/00 20060101ALI20161114BHJP
【FI】
   C03C3/068
   C03C3/089
   C03C3/095
   C03C3/097
   G02B1/113
   G02B13/00
【請求項の数】9
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-165001(P2014-165001)
(22)【出願日】2014年8月13日
(62)【分割の表示】特願2013-186596(P2013-186596)の分割
【原出願日】2007年3月20日
(65)【公開番号】特開2014-237586(P2014-237586A)
(43)【公開日】2014年12月18日
【審査請求日】2014年9月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】蜂谷 洋一
(72)【発明者】
【氏名】立和名 一雄
【審査官】 吉川 潤
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−119368(JP,A)
【文献】 特開2006−219365(JP,A)
【文献】 特開昭59−008637(JP,A)
【文献】 特開昭51−142010(JP,A)
【文献】 特開昭49−087716(JP,A)
【文献】 特開2000−344510(JP,A)
【文献】 特開2006−011093(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 3/062 − 3/068
C03C 3/076 − 3/097
G02B 1/00 − 1/18
G02B 13/00
INTERGLAD
GAZ
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
最も物点側に配置された第1レンズを含む、複数枚のレンズによって構成された車載カメラ用レンズであって、
前記第1レンズは、SiO30乃至43質量%、Bを0.1乃至3質量%、ZrOを0.1乃至20質量%、Laを0.1乃至3質量%、Nb乃至19質量%、CaOを18乃至26質量%含み、
SiOおよびZrOの合計含有量が40乃至51質量%以上であり、
TiO、Nb5、Ta及びZrOの合計含有量が20質量%以上である、
日本光学硝子工業会規格に定める測定方法によるソラリゼーションの測定結果が2%以下であり、
日本光学硝子工業会規格に定める粉末法による耐酸性の測定結果が1級である、車載カメラ用レンズ。
【請求項2】
前記第1レンズは、日本光学硝子工業会規格に定める測定方法によるヌープ硬さの測定結果が6級以上である、請求項1に記載の車載カメラ用レンズ。
【請求項3】
前記第1レンズは、日本光学硝子工業会規格に定める測定方法による平均線膨張係数の測定結果が100×10−7−1以下である、請求項1または2に記載の車載カメラ用レンズ。
【請求項4】
前記第1レンズは、d線に対する屈折率が1.70以上である、請求項1〜3のいずれかに記載の車載カメラ用レンズ。
【請求項5】
前記第1レンズは、Al、LiO、NaO、KO、MgOSrO、BaO、ZnO、TiOGd、Y、Ta、WO、Sb、SnO及びFのうちの少なくとも一を含有する、請求項1〜4のいずれかに記載の車載カメラ用レンズ。
【請求項6】
前記第1レンズの物点側の第1面上には、光触媒膜が形成されている、請求項1〜のいずれかに記載の車載カメラ用レンズ。
【請求項7】
前記第1レンズの物点側の第1面上には、ハードコート膜が形成されている、請求項1〜のいずれかに記載の車載カメラ用レンズ。
【請求項8】
前記第1レンズの物点側の第1面上には、ハードコート膜が形成され、かつ、光触媒膜が形成されている、請求項1〜のいずれかに記載の車載カメラ用レンズ。
【請求項9】
前記第1レンズは、少なくとも一の面が非球面となっている、請求項1〜のいずれかに記載の車載カメラ用レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載カメラに搭載する撮像レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車運転中の運転者からの死角をなくすため、自動車に車載カメラを搭載することが提案されている。すなわち、自動車の後方や側方を撮像するカメラを自動車の車体に搭載し、このカメラによって撮像された映像を、運転者が視認可能な位置に表示することによって、死角をなくすことができる。
【0003】
このような車載カメラに搭載する撮像レンズ等の光学素子は、安価であり軽量であることから、特許文献1に記載されているように、プラスチック材料や、低屈折のガラス材料によって作成されたものが多く使用されている。
【0004】
レンズ材料としての光学的性能を比較すると、プラスチック材料よりもガラス材料のほうが、いろいろな面で優れている。そこで、複数枚のレンズにより構成される撮像レンズにおいては、プラスチックレンズとガラスレンズとを併用することによって、製造コストを抑えつつ、光学的な性能を向上させることが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−11093公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、車載カメラにおいては、安全性の確保や記録性の向上のために、高解像度化及び撮像画角の広角化が求められる。このような要求を満たすことができる撮像レンズは、プラスチックレンズ及び低屈折のガラスレンズで構成することは困難である。そのため、車載カメラに搭載する撮像レンズにおいては、高屈折の光学ガラスを用いて構成することが考えられる。
【0007】
また、車載カメラに搭載される撮像レンズにおいては、一般的なカメラの撮像レンズとは異なり、自動車の走行に伴う衝撃や風圧、走行により跳ね上げられた砂塵による傷損や浸食を受ける可能性があり、さらに、酸性雨や、洗車などの際に使用される洗剤やワックスなどの薬剤による表面劣化や変質を生ずる虞がある。すなわち、撮像レンズの表面に、油脂や埃、粉塵などが付着すると、時間経過に伴ってレンズ表面に曇りが生ずる場合があり、また、レンズ表面に汚れが長時間接していると、レンズ表面が変質してしまう場合がある。
【0008】
さらに、車体の前方側に搭載する場合には、エンジンからの熱による劣化や、前方を走行する他の自動車からの排気ガスに含有される窒素酸化物による劣化を生ずる虞がある。また、紫外線を含む直射日光が長時間に亘って照射されるなど、過酷な環境に晒される場合が多く、特に、撮像画角を広くした場合には、撮像レンズの第1面の露出面積が大きくなり、環境から受ける影響が大きくなる。
【0009】
したがって、車載カメラに搭載される撮像レンズは、一般的な撮像レンズにおいて使用されるプラスチック材料や光学ガラス材料によって構成したのでは、十分な耐久性を確保できない虞がある。プラスチック材料や、非球面レンズの量産化を可能とする精密プレス成形に好適なガラス転移温度が低いガラス材料は、硬度が低く、傷が付きやすいからである。また、プラスチック材料は、ガラス材料よりも紫外線に対する耐性が低く、紫外線を長時間照射されると、劣化しやすい。
【0010】
ここで、化学的耐久性に優れるガラス材料で構成した保護用の部材を撮像レンズの最前面に配置し、風雨の進入を防ぐことも考えられる。しかし、このような保護用の部材を設置すると、撮像画角が制限されてしまう虞があり、撮像画角を十分に広くすることができなくなってしまう。
【0011】
そこで、本発明は、上述のような実情に鑑みてなされたものであり、酸性雨や薬剤に対する耐性に優れ、また、十分な硬度を有することにより傷が付きにくいとともに、紫外線による特性劣化が少なくなされ、さらに、高屈折率であって、過酷な環境に曝される車載カメラに搭載される撮像レンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述の課題を解決し、上記目的を達成する本発明の要旨は以下の通りである。
[1] 最も物点側に配置された第1レンズを含む、複数枚のレンズによって構成された車載カメラ用レンズであって、
上記第1レンズは、SiOを0.1乃至45重量%、Bを0.1乃至3重量%、ZrOを0.1乃至20重量%、Laを0乃至50重量%、Nbを0乃至30重量%含み、
SiOおよびZrOの合計含有量が13重量%以上であり、
日本光学硝子工業会規格に定める測定方法によるソラリゼーションの測定結果が2%以下であり、
日本光学硝子工業会規格に定める粉末法による耐酸性の測定結果が1級である、車載カメラ用レンズ。
【0013】
[2] 上記第1レンズは、日本光学硝子工業会規格に定める測定方法によるヌープ硬さの測定結果が6級以上である、上記[1]に記載の車載カメラ用レンズ。
【0014】
[3] 上記第1レンズは、日本光学硝子工業会規格に定める測定方法による平均線膨張係数の測定結果が100×10−7−1以下である、上記[1]または[2]に記載の車載カメラ用レンズ。
【0015】
[4] 上記第1レンズは、d線に対する屈折率が1.70以上である、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の車載カメラ用レンズ。
【0016】
[5] 上記第1レンズは、TiO、Nb5、Ta及びZrOの合計含有量が20重量%以上である、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の車載カメラ用レンズ。
【0017】
[6] 上記第1レンズは、Al、LiO、NaO、KO、MgO、CaO、SrO、BaO、ZnO、TiO、La、Gd、Y、Ta、WO、Sb、SnO及びFのうちの少なくとも一を含有する、上記[1]〜[5]のいずれかに記載の車載カメラ用レンズ。
【0018】
[7] 上記第1レンズの物点側の第1面上には、光触媒膜が形成されている、上記[1]〜[6]のいずれかに記載の車載カメラ用レンズ。
【0019】
[8] 上記第1レンズの物点側の第1面上には、ハードコート膜が形成されている、上記[1]〜[6]のいずれかに記載の車載カメラ用レンズ。
【0020】
[9] 上記第1レンズの物点側の第1面上には、ハードコート膜が形成され、かつ、光触媒膜が形成されている、上記[1]〜[6]のいずれかに記載の車載カメラ用レンズ。
【0021】
[10] 上記第1レンズは、少なくとも一の面が非球面となっている、上記[1]〜[9]のいずれかに記載の車載カメラ用レンズ。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る車載カメラ用レンズは、好ましくは、第1レンズが日本光学硝子工業会規格に定める粉末法による耐酸性の測定結果が1級乃至2級であるので、化学的耐久性(耐酸性)に優れる。
【0023】
本発明に係る車載カメラ用レンズは、好ましくは、第1レンズが日本光学硝子工業会規格に定める粉末法による耐水性の測定結果が1級であること、日本光学硝子工業会規格に定める測定方法によるヌープ硬さの測定結果が6級以上であること、日本光学硝子工業会規格に定める測定方法によるソラリゼーションの測定結果が2%以下であること、及び、日本光学硝子工業会規格に定める測定方法による平均線膨張係数の測定結果が100×10−7−1以下を満たすことのうちの少なくともいずれか一を満たすので、化学的耐久性(耐酸性)、耐傷性、耐紫外線性、または、温度特性に優れる。
【0024】
本発明に係る車載カメラ用レンズは、好ましくは、第1レンズがSiO及びZrOの合計含有量が10重量%以上であることにより、化学的耐久性(耐酸性)に優れる。
【0025】
本発明に係る車載カメラ用レンズは、好ましくは、第1レンズがTiO、Nb、Ta及びZrOの合計含有量が20重量%以上であるので、化学的耐久性(耐酸性)に優れる。
【0026】
本発明に係る車載カメラ用レンズは、好ましくは、第1レンズがd線に対する屈折率が1.70以上であるので、全長の短い車載カメラ用レンズや、画角の広い車載カメラ用レンズとして好適である。
【0027】
本発明に係る車載カメラ用レンズの第1レンズは、好ましくは、化学的耐久性(耐酸性)に優れ、耐傷性に優れ、耐紫外線性に優れ、または、温度特性に優れているので、少なくとも、物点側の第1レンズ(最も被写体側のレンズ)として用いることができる。本発明に係る車載カメラ用レンズでは上記第1レンズを使用するため、第2レンズ以降にプラスチックレンズを使用しても、第1レンズによって紫外線が遮断、減衰されるため、第2レンズ以降に紫外線による劣化を生じさせることがない。
【0028】
本発明に係る車載カメラ用レンズは、好ましくは、少なくとも、第1レンズの物点側の第1面上には、光触媒膜が形成されているので、耐環境性に優れ、画角の広いカメラに対応することができる。
【0029】
本発明に係る車載カメラ用レンズは、好ましくは、少なくとも、第1レンズの物点側の第1面上には、ハードコート膜が形成されているので、耐傷性に優れている。
【0030】
本発明に係る車載カメラ用レンズは、好ましくは、少なくとも、第1レンズの物点側の第1面上には、ハードコート膜が形成され、かつ、光触媒膜が形成されているので、耐環境性に優れ、画角の広いカメラに対応することができるとともに、耐傷性にも優れている。
【0031】
本発明に係る車載カメラ用レンズは、好ましくは、第1レンズは、少なくとも一の面が非球面となっているので、収差の少ない良好な結像特性を有する。
【0032】
すなわち、本発明は、酸性雨や薬剤に対する耐性に優れ、また、十分な硬度を有することにより傷が付きにくいとともに、紫外線による特性劣化が少なくなされ、さらに、高屈折率であって、過酷な環境に曝される車載カメラに搭載される撮像レンズ(車載カメラ用レンズ)を提供することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】車載カメラの構造を示す断面図である。
図2】日本光学硝子工業会規格に定める粉末法による耐酸性の測定に使用する溶出かごの構成を示す側面図及び平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明に係る車載カメラ用レンズの最良の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0035】
図1は、車載カメラの構造を示す断面図である。
【0036】
本発明に係る車載カメラ用レンズは、車載カメラ用レンズ硝材で構成されている。なお、車載カメラ用硝材は、車載カメラ用レンズを構成するためのガラスである。
【0037】
車載カメラは、自動車の車体の外方側に搭載されるカメラであって、図1に示すように、車載カメラ用レンズ(撮像レンズ)1と、この車載カメラ用レンズ1が結像する像を撮像する撮像素子(CCD)2とを有して構成されている。なお、この車載カメラは、車体の後方部に搭載されて後方確認用に使用されたり、車体の前方部に搭載されて前方確認用または側方確認用や、前車との距離の確認用などとして使用される。
【0038】
車載カメラ用レンズ1は、複数枚のレンズによって構成され、物点(被写体)側となる第1レンズ1aより被写体からの光束が入射する。この光束は、第2以降のレンズに順次入射し、撮像面上において被写体の像として結像する。
【0039】
このような車載カメラ用レンズを構成する車載カメラ用レンズ硝材は、雨、特に酸性雨に曝されるため、少なくとも第1レンズ1aについて、化学的耐久性(耐酸性)が必要である。酸性雨は、大気中に存在する複数の汚染物質によるものである。本発明に係る車載カメラ用レンズ硝材は、十分な化学的耐久性を有するものである。この車載カメラ用レンズ硝材の化学的耐久性については、希硝酸を用いて評価することができ、酸性雨による影響も評価することができる。
【0040】
すなわち、本発明に係る車載カメラ用レンズ硝材は、日本光学硝子工業会規格(1999年(平成11年)版)に定める粉末法による耐酸性の測定結果が1級乃至2級となっている。同規格に定める光学ガラスの化学的耐久性(粉末法)において、耐酸性が3級以上では、酸性雨に浸食され、ガラスが曇り、鮮明な画像を撮影できなくなるからである。なお、1級であることがより好ましく、さらに、減量率が0.1%未満であればより好ましい。
【0041】
日本光学硝子工業会規格(JOGIS)とは、日本光学硝子工業会が規定している光学ガラスの特性の測定法に関する規格である。日本光学硝子工業会規格(1999年(平成11年)版)に定める粉末法による化学的耐久性(耐酸性)の測定は、以下の手順により行う。まず、以下のようにして、試料を調整する。
【0042】
(1)新しい破面のガラスを乳鉢で粉砕し、補助網ふるい710μmを通過した粉末から、標準網ふるい600μmを通過し、425μmにとどまる大きさの粉末を採取する。なお、ふるいは、JIS Z 8801(標準ふるい)に規定する標準ふるいを用いる。
【0043】
(2)ガラスの比重グラムの約3倍量を50mlビーカに入れ、15mlの99.5vol%のメチルアルコールを加え、傾斜法によってガラス微粉を除去する。
【0044】
(3)この洗浄を5回繰返した後、120乃至130℃の空気浴中で60分間乾燥し、シリカゲルデシケータ中に保存する。
【0045】
次に、耐酸性の測定は、以下の手順により行う。
【0046】
(1)ガラスの比重グラムの試料を、溶出用かごに採取し、軽く振動した後、蓋付き秤量びんの中に入れ精秤する。溶出用かごは、白金製の標準ふるい177乃至210μmからなり、構造及び寸法は図2に示す通りのものである。
【0047】
(2)洗浄乾燥した丸底フラスコに、10m mol/l{0.01N}硝酸水溶液を80ml入れ、冷却管を付けて、加熱装置の中で10分間保持する。硝酸は、JIS K 8541〔硝酸(試薬)〕に規定する特級を用いる。加熱装置は、丸底フラスコの球体部分を完全に収容できる深さの沸騰水浴を用いる。水浴の水の温度は、丸底フラスコの底部から20±10mmの水平位置で、99℃以上を保持できるものでなければならない。
【0048】
(3)試料を入れた溶出用かごを、丸底フラスコの中に静かに挿入し、加熱装置の中で60分間処理した後、取り出す。
【0049】
(4)約80mlの99.5vol%のメチルアルコールを100mlビーカに入れ、その中にかごを浸漬して洗浄する。
【0050】
(5)(4)の操作を3回繰り返した後、秤量びんに入れ、120乃至130℃の空気浴中で60分間乾燥する。
【0051】
(6)シリカゲルデシケータに移し、60分間放冷後、蓋をした状態で精秤する。
【0052】
(7)(6)の操作を2回繰り返す。
【0053】
(8)試料の質量とその減量から減量率(重量%)を算出し、2回の平均値を求める。
【0054】
そして、減量率(重量%)に応じて、級が決められる。減量率(重量%)0.20未満を1級、0.20以上0.35未満を2級、0.35以上0.65未満を3級、0.65以上1.20未満を4級、1.20以上2.20未満を5級、2.20以上を6級とする。
【0055】
また、本発明に係る車載カメラ用レンズ硝材の好ましい態様は、さらに、以下の特性の少なくとも1つ以上を備えるガラスである。
【0056】
すなわち、酸性雨以外の雨や水道水による洗車に耐えるため、日本光学硝子工業会規格(1999年(平成11年)版)に定める光学ガラスの化学的耐久性の測定方法(粉末法)において耐水性が1級であることが好ましい。さらに好ましくは減量率が0.02%未満である。
【0057】
また、車載カメラは、走行中や屋外へ駐停車中に砂塵を受けるため、日本光学硝子工業会規格(1975年(昭和50年)版)に定める光学ガラスのヌープ硬さの測定方法において6級以上であることが好ましく、特に好ましくは、7級である。
【0058】
また、車載カメラは、紫外線に曝されるため日本光学硝子工業会規格(2005年(平成17年)版)に定める光学ガラスのソラリゼーションの測定方法において測定値が2%以下であることが好ましく、特に好ましくは、1%以下である。
【0059】
また、車載カメラは、直射日光を受けると車体温度が60℃以上に達し、雨や洗車の水によって急冷されることがある。したがって、熱衝撃を小さくするため、熱膨張係数は小さい方が好ましい。日本光学硝子工業会規格(2003年(平成15年)版)に定める平均線膨張係数が100を越えると、熱衝撃によりクラックが入ったり、応力で一時的に屈折率性能が影響を受けたりすることがある。したがって、平均線膨張係数は100×10−7−1以下が好ましく、さらに好ましくは90×10−7−1以下である。
【0060】
これら耐水性、ヌープ硬さ、ソラリゼーション特性及び平均線膨張係数に係る特性の少なくとも一を満たすことが好ましく、同時に満たすことが特に好ましい。
【0061】
日本光学硝子工業会規格(1999年(平成11年)版)に定める粉末法による耐水性の測定は、前述の粉末法による耐酸性の測定における(2)の「10m mol/l{0.01N}硝酸水溶液」に代えて、純水を入れ、他は耐酸性の測定と同様に行う。
【0062】
耐水性における級は、減量率(重量%)0.05未満を1級、0.05以上0.10未満を2級、0.10以上0.25未満を3級、0.25以上0.60未満を4級、0.60以上1.10未満を5級、1.10以上を6級とする。
【0063】
日本光学硝子工業会規格(1975年(昭和50年)版)に定めるヌープ硬さは、ヌープ圧子(対稜角が172°30′と130°のダイヤモンド四角錐圧子)を用いて、測定面に四角錐のくぼみをつけたときの荷重を、永久くぼみの長い方の対角線の長さから求めたくぼみの投射面積で除した商であり、このヌープ硬さHkは、以下の式で表されるものである。
【0064】
Hk=F/{9.807・(1/2)cot(1/2)(172°30′)・tan(1/2)(130°)・l
=F/(0.68923・l)=1.451・F/l
ここで、Fは荷重(N)、lは長い方の対角線の長さ(mm)である。
【0065】
なお、荷重Fの単位が[kgf]の場合は、ヌープ硬さHkは、以下の式で表される。
【0066】
Hk=14.23・F/l
測定には、JIS B 7734(微小硬さ試験機)に適合するもの、または、これに準ずる試験機を用い、圧子には、前述したヌープ圧子を用いる。試料の測定面は、研磨面、または、これに準ずる面とし、試料の厚さは、くぼみの長い方の対角線の長さの1.5倍以上であることを要する。
【0067】
測定は、以下の手順で行う。
【0068】
(1)荷重の大きさは、0.98N{0.1kgf}を標準とする。
【0069】
(2)試料の試験面は、圧子取付け軸に垂直に置く。
【0070】
(3)加重を規定の大きさに保つ時間は、15秒を標準とする。
【0071】
(4)くぼみの長い方の対角線の長さは、加重を完全に除去した後に測定する。
【0072】
なお、測定は、顕微鏡の視野の20乃至70%の範囲内で行うことが望ましい。
【0073】
(5)測定は、少なくとも5回行い、その平均値を求める。
【0074】
ヌープ硬さの級は、150未満を1級、150以上250未満を2級、250以上350未満を3級、350以上450未満を4級、450以上550未満を5級、550以上650未満を6級、650以上を7級とする。
【0075】
また、日本光学硝子工業会規格(2005年(平成17年)版)に定めるソラリゼーションの測定は、主に太陽光線、または、紫外線照射によって生ずる光学ガラスの分光透過率の変化を測定するものである。この測定には、紫外線照射装置を用いる。この紫外線照射装置は、光源(超高圧水銀灯)の周囲を試料支持具が毎分2回転するようになっており、冷却ファンを備えて構成されている。分光透過率測定装置として、JIS Z 8722(色の測定方法・反射及び透過物体色)に準ずるものを使用する。
【0076】
試料の大きさは、30mm×13mm×10mmとし、30mm×13mmの両面を研磨する。なお、測定前の試料は、紫外線、放射線などの照射を避けなければならない。
【0077】
測定は、以下の手順で行う。
【0078】
(1)照射前の試料の分光透過率を、JIS Z 8722に準じて測定する。
【0079】
(2)試料を装置の試料支持具の中に、安定した状態で挿入する。
【0080】
(3)光源を点灯し、光量が所定の値になるように光源の入力を調整する。
【0081】
(4)試料を回転させながら、紫外線を4時間照射する。
【0082】
(5)紫外線照射中の試料温度が、100±5℃になるように冷却ファンの風量を調整する。
【0083】
なお、冷却ファンの風量の調整は、試料の位置に置いたダミー試料の紫外線照射面に示温材を貼付けておき、これが100±5℃を示すように調整すればよい。ソラリゼーションの程度は、試料の温度に大きく依存することがわかっており、試料の温度調整は重要である。
【0084】
(6)紫外線照射後の試料は、室温で暗所に保存し24時間以内に分光透過率を測定する。
【0085】
なお、分光透過率には、反射損失が含まれる。
【0086】
そして、紫外線照射前の分光透過率80%に対応する波長において、紫外線照射後の分光透過率の減少を小数点第1位までの%で表示したものがソラリゼーションの程度を示す値となる。
【0087】
そして、日本光学硝子工業会規格(2003年(平成15年)版)に定める平均線膨張係数の測定は、光学ガラスの常温付近における平均線膨張係数を測定するものである。ここで、常温付近とは、標準温度20℃を中心とした−30℃から+70℃の温度付近をいう。
【0088】
測定装置として、石英ガラス製試料支持具、伝達棒、及び、少なくとも1μmの長さの変化が測定できる示差熱膨張計を用いる。炉体として、冷媒を通して炉内温度を−60℃以下に下げられ、かつ、+100℃位まで加熱でき、試料全体が加熱される部分の炉内温度分布を±1℃以内に保持できる構造のものを用いる。冷媒としては、一般に液体窒素、炭酸ガス、ドライアイスなどを使用するが、いずれを用いるかは、炉体の構造及び容量による。
【0089】
試料は、長さ20mm以上、直径4±0.5mmの丸棒とし、ひずみ検査器でひずみの認められないものを使用する。
【0090】
測定は、以下の手順で行う。
【0091】
(1)室温における試料の長さを、ノギス、または、マイクロメータを用いて測定する。
【0092】
(2)試料は、石英ガラス製試料支持具と伝達棒の間に、間隙のないように、かつ、安定した状態に設置し、試料端面に98mN{10gf}から196mN{20gf}の力を加える。
【0093】
(3)温度測定用の熱電対を、試料の中央部に接近した状態に設置する。
【0094】
(4)炉体に冷媒を通し、炉内温度を−60℃以下に下げる。
【0095】
(5)試料の昇温速度は、毎分2℃とし、温度と試料の伸びとを測定する。
【0096】
そして、平均線膨張係数を、以下の式によって計算する。
【0097】
α−30〜+70℃={dλ/(λ×dT)}+Q
ここで、α−30〜+70℃は、平均線膨張係数(℃−1)であり、λは、室温における試料の長さ(mm)であり、dTは、−30℃から+70℃の温度差(℃)であり、dλは、dTの温度差に対応する試料の長さ変化(mm)であり、Qは、−30℃から+70℃の温度範囲における石英ガラスの平均線膨張係数である。石英ガラスの平均線膨張係数は、一般に、5×10−7−1を用いる。求められた平均線膨張係数は、10−7−1の単位で、整数第1位まで表示する。
【0098】
なお、光学ガラスの遷移温度Tg以上における平均線膨張係数は、上記と同様の試料を用いて、以下のようにして求める。
【0099】
(1)室温における試料の長さを、ノギス、または、マイクロメータを用いて測定する。
【0100】
(2)試料は、石英ガラス製試料支持具と伝達棒の間に、間隙のないように、かつ、安定した状態に設置し、試料端面に98mN{10gf}から196mN{20gf}の力を加える。
【0101】
(3)温度測定用の熱電対を、試料の中央部に接近した状態に設置する。
【0102】
(4)試料の昇温速度は、毎分4℃とし、温度と試料の伸びとを測定する。
【0103】
そして、平均線膨張係数を、以下の式によって計算する。
【0104】
α100〜300℃={dλ/(λ×dT)}+Q
ここで、α100〜300℃は、平均線膨張係数(℃−1)であり、λは、室温における試料の長さ(mm)であり、dTは、100℃から300℃の温度差(℃)であり、dλは、dTの温度差に対応する試料の長さ変化(mm)であり、Qは、100℃から300℃の温度範囲における石英ガラスの平均線膨張係数である。ここで、石英ガラスの平均線膨張係数は、一般に、6×10−7−1を用いる。求められた平均線膨張係数は、10−7−1の単位で、整数第1位まで表示する。
【0105】
次いで、本発明の光学ガラスの組成例について述べる。
【0106】
本発明に係る車載カメラ用レンズ硝材は、前述のような、耐酸性、耐水性、高硬度、耐紫外線及び高屈折率を実現するため、SiO及びZrOの合計含有量が10重量%以上であることが好ましい。SiO及びZrOの合計含有量を15重量%以上とすることがより好ましく、20重量%以上とすることがさらに好ましい。SiOは、ガラスの基本成分であり、化学的耐久性を決定する重要な成分である。ZrOは、高屈折を高めると同時に、化学的耐久性を向上させる成分である。SiO+ZrOの合計含有量を上記の範囲内にすることにより、化学的耐久性を良好とし、かつ、高屈折率のガラスとすることができる。
【0107】
なお、ガラスの化学的耐久性を良好にするためには、SiOを0.1重量%以上とし、高屈折率のガラスを得やすくするめには、SiOを45重量%以下とすることが好ましいため、SiOの含有量は、1重量%乃至30重量%とすることがより好ましい。
【0108】
さらに、本発明に係る車載カメラ用レンズ硝材は、透明結晶化ガラスからなるものとしてもよい。透明結晶化ガラスは、例えば、結晶核形成剤を含有するSiO−Al−LiO系組成をベースとした原ガラスを溶融し結晶化熱処理することにより得られるものである。なお、透明結晶化ガラスとしては、LiO−Al−SiO系低膨張透明結晶化ガラスが知られている。これらの結晶化ガラスの中には、組成あるいは熱処理条件によって透明なものが存在し、その多くのものは、結晶化促進剤としてTiOを1.5%乃至5%程度含んだβ−石英固溶体結晶を主結晶とする結晶化ガラスである。
【0109】
また、Bもガラスの基本成分であるのと同時に、溶融性を向上させるのに有効な成分である。0.1重量%未満ではその効果が十分でなく、逆に、25重量%を越えるとガラスの化学的耐久性が劣化傾向を示す。したがってBの含有量は0.1乃至25重量%とすることが好ましい。好ましくは0.1乃至20重量%である。
【0110】
ZrOは、屈折率を高めると同時に、化学的耐久性を向上させる成分である。ZrOが0.1重量%未満ではその効果が低く、20重量%を越えるとガラス化が困難になる。したがって、ZrOの含有量は、0.1乃至20重量%にすることが好ましい。より好ましくは、1乃至15重量%である。
【0111】
Laは、高屈折率を実現するための成分であり、収差の少ない撮像を容易にする。0.1重量%未満ではその効果が無く、50重量%を越えるとガラスが失透しやすくなる。したがって、Laの含有量は、0.1乃至50重量%にすることが好ましい。より好ましくは、0.1乃至40重量%である。さらに好ましくは、0.1乃至30重量%である。
【0112】
Nbも、高屈折かつ化学的耐久性に優れたガラスを実現する成分である。0.1重量%未満ではその効果が無く、30重量%を越えると失透しやすくなる。したがって、Nbの含有量は、0.1乃至30重量%にすることが好ましい。より好ましくは、1乃至30重量%であり、さらに好ましくは、10乃至30重量%である。
【0113】
前述の成分をまとめると、SiOを0.1乃至45重量%、Bを0.1乃至25重量%、ZrOを0.1乃至20重量%、Laを0乃至50重量%、Nbを0乃至30重量%含有していることが好ましい。
【0114】
さらに、この車載カメラ用レンズ硝材において、Al、LiO、NaO、KO、MgO、CaO、SrO、BaO、ZnO、TiO、La、Gd、Y、Ta、WO、Sb、SnO及びFのうちの少なくとも一を含有することが好ましい。これらは必須の成分ではないが、屈折率特性の調整、溶融性の向上、熱膨張特性の調整、清澄、化学的耐久性の向上などの目的で添加することができる。
【0115】
なお、Nb、TiOは、屈折率を高めつつ、紫外線遮断効果及び化学的耐久性も同時に高める成分であるから、TiO、Nb、Ta及びZrOの合計含有量が、20重量%以上であることが好ましい。または、TiOとNbとの合計含有量が0.1乃至0.3重量%であって、及び/又は、CeOとFeとの合計含有量が0.1乃至1重量%であることが好ましい。
【0116】
そして、車載カメラは広い視野が必要とされるため、本発明に係る車載カメラ用レンズ硝材においては、高屈折であることが好ましい。d線の屈折率(nd)が1.70未満では、小型で画角の広いレンズを構成することが困難である。したがって、この車載カメラ用レンズ硝材は、d線に対する屈折率が1.70以上であることが好ましい。より好ましくは1.75以上であり、さらに好ましくは1.80以上である。
【0117】
アッベ数(νd)は、多様なものが選択できるが、νdは15乃至60が好ましく、より好ましくは20乃至50であり、さらに好ましくは25乃至45である。
【0118】
本発明に係る車載カメラ用レンズ硝材は、一般的な光学ガラスの製造工程によって作製することができる。
【0119】
例えば、ガラス原料として、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、塩化物、硫化物などを適宜用いて、所望の組成になるように秤量し、混合して調合原料とする工程、調合原料を予め加熱してガラス化する工程、溶融ガラスを白金含有量が95重量%以上の耐熱容器において加熱する工程、溶融ガラスを表面の白金含有量が95重量%以上の羽根付き棒にて攪拌し均質化する工程、溶融ガラス中の気泡を脱泡し清澄する工程を経て、製造される。このようにして均質化された溶融ガラスは、枠に流し出され成形された後、ガラスの徐冷点近くまで加熱した炉において、室温まで冷却される。
【0120】
こうして得られたブロック状のガラスからガラス片を切り出し、ガラス片を研削、研磨して、レンズやプリズムなどの光学素子を作製することができる。あるいは、ガラスブロックからガラス片を切り出し、プレス成形用素材に加工した後、この素材を加熱、軟化させ、プレス成形型を用いて光学素子に近似する形状にプレス成形する。次いで、プレス成形品を研削、研磨して、レンズやプリズムなどの光学素子を作製することができる。
【0121】
いずれの方法においても、ガラスを研磨する工程を有するが、本発明に係る車載カメラ用レンズ硝材は、ヌープ硬さが大きいので、レンズ表面を滑らか、かつ、高い形状精度に仕上げやすい。また、平均線膨張係数が低いため、研削、研磨工程でのガラスの破損防止も容易である。さらに、この車載カメラ用レンズ硝材は、優れた耐酸性及び耐水性を有するので、研磨洗浄後のいわゆる青ヤケや白ヤケを防止することもできる。このように、本発明に係る車載カメラ用レンズ硝材は、光学素子として使用する上からも、光学素子を製造する上からも、有利な諸特性を備えているといえる。
【0122】
本発明に係る車載カメラ用レンズ硝材は、前述の諸特性を備えているため、車載カメラ用レンズを構成する材料として好適である。車載カメラ用レンズを複数枚のレンズで構成する場合には、被写体(物点)側の第1レンズ1aを本発明に係る車載カメラ用レンズ硝材によって構成することが好ましい。
【0123】
すなわち、本発明に係る車載カメラ用レンズは、少なくとも、物点側の第1レンズ1aが、前述した本発明に係る車載カメラ用レンズ硝材からなるものである。この車載カメラ用レンズにおいては、第2レンズ以降のレンズは、第1レンズ1aによって、風雨(酸性雨)、紫外線、砂塵による傷損、各種薬品の接触から保護される。
【0124】
また、この車載カメラ用レンズにおいては、少なくとも、第1レンズ1aの物点側の第1面上に、光触媒膜を形成することが好ましい。
【0125】
光触媒膜は、光触媒粒子単独からなる表面層、または、光触媒粒子を含む表面層をレンズ表面に形成したものであり、表面を親水化(超親水化)する作用を有するため、表面に付着した水滴を瞬間的に表面全体に広げることにより、塵挨等による表面の汚染を防止する効果を有する。
【0126】
光触媒粒子としては、アナターゼ型、ルチル型等の結晶性酸化チタンが好ましい。他にも、光触媒粒子としては、ZnO、SnO、SrTiO、WO、Bi、Fe等の金属酸化物が挙げられる。また、表面層は、これら光触媒粒子の他に、シリカやシリコーンを含むものとしてもよい。
【0127】
光触媒粒子を含有する親水性の表面層を形成する方法として、以下、酸化チタン(チタニア)を例にとって説明すると、無定形チタニアの形成、シリカ配合チタニアの塗布、酸化錫配合チタニアの塗布、チタニア含有シリコーン塗料の塗布等が挙げられる。
【0128】
無定形チタニアの形成は、まず被塗装面を無定形チタニアで被覆し、これを焼成して結晶性チタニアに相変化させる方法であり、次のいずれかの方法を採用することができる。
【0129】
(1)有機チタン化合物の加水分解と脱水縮重合
チタンのアルコキシド、例えば、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラn−プロポキシチタン、テトラブトキシチタン、テトラメトキシチタンに、塩酸、または、エチルアミンのような加水分解抑制剤を添加し、エタノールやプロパノールのようなアルコールで希釈した後、部分的に加水分解を進行させながら、または、完全に加水分解を進行させた後、混合物を塗布し、常温から200℃の温度で乾燥させる。乾燥により、チタンのアルコキシドの加水分解が完遂して水酸化チタンが生成し、水酸化チタンの脱水縮重合により無定形チタニアの層が形成される。チタンのアルコキシドに代えて、チタンのキレート又はチタンのアセテートのような他の有機チタン化合物を用いてもよい。
【0130】
(2)無機チタン化合物による無定形チタニアの形成
無機チタン化合物、例えば、TiCl、または、Ti(SOの酸性水溶液を塗布し、100〜200℃の温度で乾燥させることにより加水分解と脱水縮重合を行い、無定形チタニアの層を形成する。あるいは、TiClの化学蒸着により被塗装面に無定形チタニアの層を形成してもよい。
【0131】
(3)スパッタリングによる無定形チタニアの形成金属チタンのターゲットに酸化雰囲気で電子ビームを照射することにより、被塗装面に無定形チタニアの層を形成する。
【0132】
シリカ配合チタニアの塗布は、チタニアとシリカとの混合物からなる層を被塗装面に形成することである。チタニアとシリカの合計に対するシリカの割合は、5mol%乃至90mol%、好ましくは、10mol%乃至70mol%、より好ましくは、10mol%乃至50mol%である。
【0133】
また、シリカ配合チタニアからなる表面層の形成方法には以下の方法を採用することができる。
【0134】
(1)アナターゼ型又はルチル型チタニアの粒子とシリカの粒子を含む懸濁液を被塗装面に塗布し、基材(被塗装物)の軟化点以下の温度で焼成する。
【0135】
(2)無定形シリカの前駆体(例えば、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラn−プロポキシチタン、テトラブトキシチタン、テトラメトキシチタン、等のテトラアルコキシシラン)と結晶性チタニアゾルとの混合物を基材の表面に塗布し、必要に応じて加水分解させてシラノールを形成した後、約100℃以上の温度で加熱してシラノールを脱水縮重合に付すことにより、チタニアが無定形シリカで結着された表面層(光触媒コーティング)を得る。特に、シラノールの脱水縮重合を約200℃以上の温度で行えば、シラノールの重合度を増し、光触媒コーティングの耐アルカリ性能を向上させることができる。
【0136】
(3)無定形チタニアの前駆体(チタンのアルコキシド、キレート又はアセテートのような有機チタン化合物、または、TiCl、または、Ti(SOのような無機チタン化合物)の溶液にシリカの粒子を分散させてなる懸濁液を基材の表面に塗布し、チタン化合物を常温から200℃の温度で加水分解と脱水縮重合に付すことにより、シリカ粒子が分散された無定形チタニアの薄膜を形成する。次いで、チタニアの結晶化温度以上の温度、かつ、基材の軟化点以下の温度に加熱することにより、無定形チタニアを結晶性チタニアに相変化させる。
【0137】
(4)無定形チタニアの前駆体(チタンのアルコキシド、キレート又はアセテートのような有機チタン化合物、または、TiCl、または、Ti(SOのような無機チタン化合物)の溶液に無定形シリカの前駆体(例えば、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラn−プロポキシチタン、テトラブトキシチタン、テトラメトキシチタン、等のテトラアルコキシシラン、それらの加水分解物であるシラノール、または平均分子量3000以下のポリシロキサン)を混合し、基材の表面に塗布する。次いで、これらの前駆体を加水分解と脱水縮重合に付すことにより、無定形チタニアと無定形シリカの混合物からなる薄膜を形成する。次いで、チタニアの結晶化温度以上の温度、かつ、基材の軟化点以下の温度に加熱することにより、無定形チタニアを結晶性チタニアに相変化させる。
【0138】
酸化錫配合チタニアの塗布は、チタニアと酸化錫との混合物からなる層を被塗装面に形成することである。チタニアと酸化錫との合計に対する酸化錫の割合は、1mol%乃至95mol%、好ましくは1mol%乃至50mol%である。
【0139】
さらに、酸化錫配合チタニアからなる表面層の形成方法には以下の方法を採用することができる。
【0140】
(1)アナターゼ型又はルチル型チタニアの粒子と酸化
錫の粒子を含む懸濁液を被塗装面に塗布し、基材(被塗装物)の軟化点以下の温度で焼成する。
【0141】
(2)無定形チタニアの前駆体(チタンのアルコキシド、キレート又はアセテートのような有機チタン化合物、または、TiCl、または、Ti(SOのような無機チタン化合物)の溶液に酸化錫の粒子を分散させてなる懸濁液を基材の表面に塗布し、チタン化合物を常温から200℃の温度で加水分解と脱水縮重合に付すことにより、酸化錫粒子が分散された無定形チタニアの薄膜を形成する。次いで、チタニアの結晶化温度以上の温度、かつ、基材の軟化点以下の温度に加熱することにより、無定形チタニアを結晶性チタニアに相変化させる。
【0142】
チタニア含有シリコーン塗料の塗布は、未硬化の若しくは部分的に硬化したシリコーン(オルガノポリシロキサン)またはシリコーンの前駆体からなる塗膜形成要素にチタニア(光触媒粒子)を分散させた塗料を用いる。具体的には、上記塗料を基材の表面に塗布し、塗膜形成要素を硬化させた後、光触媒を光励起すると、シリコーン分子の珪素原子に結合した有機基は光触媒の作用により水酸基に置換され、表面の水に対する接触角が0°近くになり親水化(超親水化)される。この方法は、比較的低温で塗膜形成要素を硬化せしめることができ、また必要に応じ何度でも塗布することができ、かつ、太陽光でも容易に親水化させることができる等の利点がある。
【0143】
また、この車載カメラ用レンズにおいては、少なくとも、第1レンズ1aの物点側の第1面上に、ハードコート膜を形成することが好ましい。
【0144】
ハードコート膜は、耐光性、耐候性、透明性、耐擦傷性、表面硬度、耐磨耗性、耐熱性等が良好なガラス表面に形成される皮膜であって、反射防止膜、増反射膜、選択透過膜、紫外線カット膜などの光学薄膜として使用されるものである。このようなハードコート膜は、例えば、ルチル型酸化チタン超微粒子を核微粒子とし、この核微粒子と一種以上の金属酸化物を含む被覆層から構成される複合酸化物超微粒子、または、そのゾルや、硬化性バインダ成分及び水または有機溶剤を含有してなるコーティング組成物により形成される。また、皮膜の組成物としては、アルコキシシラン加水分解物及び五酸化二ニオブ(Nb)の微粒子(酸化ニオブ微粒子)をアニオン系界面活性剤で分散安定化してコロイド状態で分散させたものなども使用できる。さらに、この皮膜組成物には、塗膜性及び外観性能を改良するため、必要に応じて、微量の紫外線吸収剤(ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系等)、酸化防止剤、分散染料(水分散染料)、帯電防止剤、界面活性剤(疎水基がジメチルシリコーンオイル、親水基がポリエーテルから構成されるノニオン型の界面活性剤など)を添加するようにしてもよい。
【0145】
ハードコート膜組成物のガラスへの塗布方法としては、ガラスを酸、アルカリ洗浄や溶剤による脱脂洗浄、プラズマ処理、超音波洗浄などにより前処理した後に、刷毛塗り塗装、浸漬塗装、ローラ塗装、スプレー塗装、スピン塗装等を用いることができる。乾燥硬化条件としては、例えば、80℃乃至150℃で、好ましくは、100℃乃至120℃で、1時間乃至5時間程度である。また、ハードコート皮膜の硬化膜厚は、0.5μm乃至20μmの範囲で適宜選定することができる。
【0146】
なお、ガラスとハードコート皮膜との間には、プライマー膜を設けることが望ましい。プライマー膜は、耐衝撃性、密着性向上の作用を奏する。具体的なプライマー組成物としては、塗膜形成樹脂の全部または主体が熱可塑性ポリウレタン(TPU)又はエステル系熱可塑性エラストマー(TPEE)としたものに、酸化ニオブ微粒子をコロイド状態で分散させてなるTPU系やTPEE系のプライマー組成物を挙げることができる。
【0147】
なお、この車載カメラ用レンズの第1レンズ1aの物点側の第1面上には、ハードコート膜を形成し、かつ、光触媒膜を形成することがより好ましい。
【0148】
そして、この車載カメラ用レンズにおいては、複数枚のレンズのうちの少なくとも一の面を非球面とすることにより、収差の減少、解像度の向上など、光学的特性の向上を図ることができる。
【実施例】
【0149】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0150】
本発明者らは、以下の〔表1〕に示すように、本発明に係る車載カメラ用レンズ硝材の実施例1、実施例5及び比較例を作成した。
【0151】
【表1】
【0152】
光学ガラス級の純度の原料を使用し、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、塩化物、硫酸塩などの原料を〔表1〕に示した組成になるように秤量して混合した調合原料を、白金坩堝に入れ、1300℃乃至1500℃に加熱し、溶融させた後、白金性羽根の付いた攪拌棒で撹拌し、均質化を行った後、静置し清澄を行い、鋳型に流し込んだ。ガラスが固化した後、ガラスの徐冷点近くに加熱しておいた電気炉に移し、室温まで徐冷した。
【0153】
得られたガラスブロックから、測定に必要なテストピースを切り出し、前述した日本光学硝子工業会規格にしたがって、各特性(平均線膨張係数α、耐水性DW、耐酸性DA、ヌープ硬さHk、ソラリゼーション)の評価を行った。
【0154】
各実施例の車載カメラ用レンズ硝材及び比較例の硝材を、直径25mm、中心肉厚2mmの凹メニスカスレンズに研磨加工し、反射防止(AR)コートを行い、これを第1レンズとして車載カメラ用レンズを構成した。この車載カメラ用レンズを搭載した車載カメラの筐体を、人工的に作製したpH=4の酸性雨溶液(硫酸:硝酸:塩酸=4:2:1)に浸漬した。溶液の温度は、50℃とした。1000時間浸せき後に取り出し、表面を観察した。その結果、各実施例の車載カメラ用レンズ硝材では変化がなかったが、比較例の硝材では、表面に曇り状の面荒れが発生した。
【0155】
また、各実施例の車載カメラ用レンズ硝材のガラスブロックからガラス片を切り出し、プレス成形用素材に加工した後、この素材を加熱、軟化させ、プレス成形型を用いて、レンズに近似する形状にプレス成形した。次いで、プレス成形品を研削、研磨して、レンズを作製した。
【0156】
いずれの方法においても、ガラスを研磨する工程を有するが、ヌープ硬さが大きいので、レンズ表面を滑らか、かつ、高い形状精度に仕上げることが容易であった。また、平均線膨張係数が低いため、研削、研磨工程でのガラスの破損防止も容易であった。さらに、各車載カメラ用レンズ硝材の実施例ともに、優れた耐酸性、耐水性を有するので、研磨洗浄後のいわゆる青ヤケ、白ヤケを防止することができた。
【符号の説明】
【0157】
1 車載カメラ用レンズ
2 撮像素子(CCD)
図1
図2