【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の第1の発明は、熱変色性インキを内蔵した熱変色性筆記具であって、軸筒2内に少なくとも1本の筆記用芯体6と少なくとも1本の摩擦用芯体7とを前後方向に移動可能に収容し、前記筆記用芯体6の内部に熱変色性インキ63を収容し、前記筆記用芯体6の前端に前記熱変色性インキ63が吐出可能なペン先61を設け、前記摩擦用芯体7の前端に、前記熱変色性インキ63の筆跡を摩擦しその際に生じる摩擦熱で該筆跡を熱変色可能なチップ71を設け、前記筆記用芯体6のペン先61と前記摩擦用芯体7のチップ71を択一的に軸筒の前端孔31から出没可能にする出没機構を備えたことを要件とする。
【0008】
前記第1の発明の熱変色性筆記具1は、前記筆記用芯体6のペン先61と前記摩擦用芯体7のチップ71(即ち複数の芯体の中から1本の芯体のペン先61またはチップ71)を択一的に軸筒2の前端孔31から出没可能にしたことにより、片手で迅速に筆記可能状態(ペン先突出状態)または保管状態(ペン先没入状態)にすることができるとともに、筆記後、その熱変色性インキ63による筆跡を摩擦変色する際に、軸筒2を片手に把持した状態のまま、軸筒2を大きく持ち替えることなく、チップ突出状態にでき、迅速に摩擦変色作業に移行できる。前記筆記用芯体6は、少なくとも1本(即ち1本または複数本)が軸筒2内に収容され、前記摩擦用芯体7は、少なくとも1本(即ち1本または複数本)が軸筒2内に収容される。
【0009】
前記第1の発明において、前記出没機構は、軸筒2内に設けられる。前記出没機構は、操作部81の押圧または回転等の操作によりペン先61とチップ71を択一的に出没させるものである。前記操作部81は、軸筒2の後端や軸筒2の側壁に設けられる。前記操作部81は、熱変色性筆記具1を片手で把持した状態で、その把持した手によって、操作可能である。
【0010】
前記出没機構は、例えば、前記操作部81を軸筒2の後端より後方に突設させ、前記操作部81を前方に押圧操作することにより、ペン先61またはチップ71を前端孔31より外部に突出させる構成(いわゆる後端ノック式)、前記操作部81を軸筒2側壁より径方向外方に突設させ、前記操作部81を前方に押圧操作することにより、ペン先61またはチップ71を前端孔31より外部に突出させる構成(いわゆるサイドスライド式)、前記操作部81を軸筒2側壁より径方向外方に突設させ、前記操作部81を筆記用芯体6の径方向内方に押圧操作することにより、ペン先61またはチップ71を前端孔31より外部に突出させる構成(いわゆるサイドノック式)、または、軸筒2の後部に設けた操作部81を軸筒2の前部に対して回転させることによりペン先61またはチップ71を前端孔31より外部に突出させる構成(いわゆる回転式)等を挙げることができる。尚、前記ペン先61は、例えば、ボールペンチップ、繊維束の樹脂加工体、繊維束の熱融着加工体、フェルト加工体、パイプ状ペン体、先端にスリットを有する万年筆型板状ペン体、毛筆ペン体、合成樹脂の多孔質気泡体、軸方向のインキ誘導路を有する合成樹脂の押出成形体等が挙げられる。
【0011】
本願の第2の発明は、前記第1の発明において、前記筆記用芯体6が、ペン先61と、前記ペン先61を前端に備え且つ内部に熱変色性インキ63が収容されたインキ収容管62とからなり、前記ペン先61が、前端にボールが回転可能に抱持されるとともに前記ボールがボール用弾発体65により前方に付勢され且つ内向きの前端縁部内面に密接されるボールペンチップ71よりなり、前記摩擦用芯体7が、軟質材料よりなるチップ71と、該チップ71を前端に備える硬質材料よりなる軸部72とからなることを要件とする。
【0012】
前記第2の発明の熱変色性筆記具1は、筆記用芯体6のペン先61が、ボール用弾発体65により前方に付勢されたボールが内向きの前端縁部内面に密接される構成であるため、非筆記時において、筆記用芯体6のペン先61からのインキの蒸発及びインキの漏出を防止できる。また、前記第2の発明の熱変色性筆記具1は、摩擦用芯体7が、軟質材料よりなるチップ71と、該チップ71を前端に備える硬質材料よりなる軸部72とからなることにより、摩擦熱を容易に発生させ迅速に熱変色性インキ63による筆跡を変色させることができると同時に、摩擦用芯体7のチップ71の安定した出没作動が得られる。
【0013】
本願の第3の発明は、前記第1または第2の発明において、前記筆記用芯体6を後方に付勢する弾発体21と、前記摩擦用芯体7を後方に付勢する弾発体21とを軸筒2内に収容し、前記筆記用芯体6の後端に操作体8を連結し、前記摩擦用芯体7の後端に操作体8を連結し、前記軸筒2の側壁に前後方向に延びる複数の窓孔41を径方向に貫設し、前記各々の窓孔41から径方向外方に前記各々の操作体8を突出させ、一つの操作体8を窓孔41に沿って前方にスライドさせることにより、その一つの操作体8に対応した筆記用芯体6のペン先61または摩擦用芯体7のチップ71を軸筒2の前端孔31から外部に突出させるとともに、先に突出状態にあった筆記用芯体6のペン先61または摩擦用芯体7の
チップ71を軸筒2内に没入させてなる出没機構を備え、前記筆記用芯体6の後端に連結した操作体8が、その筆記用芯体6内に収容される熱変色性インキ63の発色状態の色を呈する表示部を備え、前記摩擦用芯体7の後端に連結した操作体8が、軸筒2内に収容される筆記用芯体6の表示部の色以外の色を呈する表示部を備え、前記各々の表示部が外部より視認可能に構成されることを要件とする。
【0014】
前記第3の発明の熱変色性筆記具1は、摩擦用芯体7を使用する際、摩擦用芯体7の表示部を容易に識別でき、筆記用芯体6と間違えることなく、確実に、摩擦用芯体7のチップ71を軸筒2の前端孔31から外部に突出させることができる。
【0015】
本願の第4の発明は、前記第3の発明において、筆記用芯体6内に収容される熱変色性インキ63が、発色状態において、透明、白色、灰色、及び淡色以外の色を呈し、前記筆記用芯体6の後端に連結した操作体8が、その筆記用芯体6内に収容される熱変色性インキ63の発色状態の色を呈する表示部を備え、前記摩擦用芯体7の後端に連結した操作体8が、透明、白色、灰色、または淡色のいずれかを呈する表示部を備えることを要件とする。
【0016】
筆記用芯体6の後端に連結した操作体8の表示部が、透明、白色、灰色、及び淡色以外の色(即ち透明、白色、灰色、及び淡色ではない色)を呈し、摩擦用芯体7の後端に連結した操作体8の表示部が、透明、白色、灰色、または淡色のいずれかを呈することにより、摩擦用芯体7を使用する際、摩擦用芯体7の表示部を容易に識別でき、筆記用芯体6と間違えることなく、より確実に、摩擦用芯体7のチップ71を軸筒2の前端孔31から外部に突出させることができる。尚、本発明で、淡色とは、その色による筆跡を目視により容易に確認できない程度の淡い色をいう。尚、前記透明、白色、灰色、及び淡色以外の色とは、例えば、黒、青、赤、黄、緑、橙、紫、紺、ピンク、水色等が挙げられる。前記透明は、例えば、無色透明、または、白色、灰色もしくは黒味を帯びた有色透明等が挙げられる。前記摩擦用芯体7の表示部は、白色または灰色(即ち、黒色を除く無彩色)が好ましい。
【0017】
本願の第5の発明は、前記第1、第2、第3、または第4の発明において、前記前端孔31を有する軸筒2の前端部が透明な硬質材料よりなり、前記摩擦用芯体7のチップ71が軟質材料よりなり、前記チップ71が前端孔31から出没する際、前記チップ71が前端孔31内面を摺動することを要件とする。
【0018】
前記第5の発明の熱変色性筆記具1は、チップ71の出没時の摺動により、前端孔31内面に付着した熱変色性インキ63を除去、または摩擦熱で有色から無色に変化する熱変色性インキ63を消去(無色化)することができ、軸筒2の前端部の見栄えが損なわれるおそれがない。前記硬質材料よりなる前端孔31を有する軸筒2の前端部は、ペン先61が前端孔31より外部に突出された状態(即ち筆記時)のペン先61の外面または筆記用芯体6のペン先61近傍外面を支持し、且つ、チップ71が前端孔31より外部に突出された状態(即ち摩擦変色時)のチップ71の外面または摩擦用芯体7のチップ71近傍外面を支持する。特に、前記前端孔31を有する軸筒2の前端部により、軟質材料よりなるチップ71の外面が支持され、摩擦変色時のチップ71のぐらつきが効果的に抑えられる。前記前端部を構成する硬質材料は、例えば、ポリカーボネイト、ポリプロプレン、ポリエチレンテレフタレート等の合成樹脂が採用される。
【0019】
本願の第6の発明は、軸筒2内に少なくとも1本(即ち1本または複数本)の筆記用芯体6を前後方向に移動可能に収容し、前記筆記用芯体6の内部に熱変色性インキ63を収容し、前記筆記用芯体6の前端に前記熱変色性インキ63が吐出可能なペン先61を設け、前記筆記用芯体6のペン先61を軸筒2の前端孔31から出没可能にする出没機構を備えた熱変色性筆記具1に用いる筆記用芯体レフィルであって、ペン先61と、該ペン先61を前端に備え且つ内部に熱変色性インキ63が収容されたインキ収容管62と、該インキ収容管62の後端に連結され、使用時、軸筒2の側壁より突出され、前方にスライド操作することにより軸筒2の前端孔31からペン先61を突出させる操作体8とからなり、前記操作体8が、前記熱変色性インキ63の発色状態の色を呈する、外部より視認可能な表示部を備えることを要件とする。
【0020】
前記第6の発明の筆記用芯体レフィルは、操作体8の表示部を外部より視認することによって、軸筒2内に収容する前における他の筆記用芯体(または他の筆記用芯体レフィル)との識別が容易となる。尚、前記筆記用芯体レフィルの操作部8の表示部の色(即ち熱変色性インキの発色状態の色)は、例えば、黒、青、赤、黄、緑、橙、紫、紺、ピンク、水色等が挙げられる。
【0021】
本願の第7の発明は、軸筒2内に少なくとも1本(即ち1本または複数本)の筆記用芯体6と少なくとも1本(即ち1本または複数本)の摩擦用芯体7とを前後方向に移動可能に収容し、前記筆記用芯体6の内部に熱変色性インキ63を収容し、前記筆記用芯体6の前端に前記熱変色性インキ63が吐出可能なペン先61を設け、前記摩擦用芯体7の前端に、前記熱変色性インキ63の筆跡を摩擦しその際に生じる摩擦熱で該筆跡を熱変色可能なチップ71を設け、前記筆記用芯体6のペン先61と前記摩擦用芯体7のチップ71を択一的に軸筒2の前端孔31から出没可能にする出没機構を備えた熱変色性筆記具1に用いる摩擦用芯体レフィルであって、軟質材料よりなるチップ71と、該チップ71を前端に備える硬質材料よりなる軸部72と、該軸部72の後端に連結され、使用時、軸筒2の側壁より突出され、前方にスライド操作することにより軸筒2の前端孔31からチップ71を突出させる操作体8とからなり、前記操作体8が、透明、白色、灰色、または淡色のいずれかを呈する、外部より視認可能な表示部を備えることを要件とする。
【0022】
前記第7の発明の摩擦用芯体レフィルは、操作体8の表示部を外部より視認することによって、軸筒2内に収容する前における筆記用芯体6(または筆記用芯体レフィル)との識別が容易となる。
【0023】
・チップ
尚、本発明で、前記チップ71を構成する軟質材料とは、弾性を有する樹脂(ゴム、エラストマー)が挙げられ、例えば、シリコーン樹脂、SBS樹脂(スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体)、SEBS樹脂(スチレン−エチレン−ブタジエン−スチレン共重合体)、フッ素系樹脂、クロロプレン樹脂、ニトリル樹脂、ポリエステル系樹脂、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)等が挙げられる。前記チップ71を構成する軟質材料は、高摩耗性の弾性材料(例えば、消しゴム等)からなるものよりも、低摩耗性の弾性材料からなるものが、磨耗屑が生じない点で有効である。
【0024】
・熱変色性インキ
尚、本発明で、前記熱変色性インキ63は、可逆熱変色性インキが好ましい。前記可逆熱変色性インキは、発色状態から加熱により消色する加熱消色型、発色状態又は消色状態を互変的に特定温度域で記憶保持する色彩記憶保持型、又は、消色状態から加熱により発色し、発色状態からの冷却により消色状態に復する加熱発色型等、種々のタイプを単独又は併用して構成することができる。
【0025】
また、前記可逆熱変色性インキに含有される可逆熱変色性マイクロカプセル顔料は、従来より公知の(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、及び(ハ)前記両者の呈色反応の生起温度を決める反応媒体、の必須三成分を少なくとも含む可逆熱変色性組成物をマイクロカプセル中に内包させたものが有効である。
【0026】
本発明の熱変色性インキ63に適用される可逆熱変色性組成物は、
図8に示すように、温度変化による着色濃度の変化をプロットした曲線の形状が、温度を変色温度域より低温側から上昇させていく場合と逆に変色温度域より高温側から下降させていく場合とで異なる経路を辿って変色し、完全発色温度(t
1)以下の低温域での発色状態、又は完全消色温度(t
4)以上の高温域での消色状態が、特定温度域〔t
2〜t
3の間の温度域(実質的二相保持温度域)〕で記憶保持できる色彩記憶保持型熱変色性組成物が適用されることが好ましい。
図8において、ΔHは、ヒステリシスの程度を示す温度幅(即ちヒステリシス幅)を示す。ΔHの値が小さいと、変色前後の両状態のうち一方の状態しか存在しえない。ΔHの値が大きいと、変色前後の各状態の保持が容易となる。
【0027】
前記実質的二相保持温度域は、目的に応じて設定できるが、本発明では、前記高温側変色点〔完全消色温度(t
4)〕を、25℃〜95℃(好ましくは、36℃〜90℃)の範囲に設定し、前記低温側変色点〔完全発色温度(t
1)〕を、−30℃〜+20℃(好ましくは、−30℃〜+10℃)の範囲に設定することが有効である。それにより、常態(日常の生活温度域)で呈する色彩の保持を有効に機能させることができると共に、可逆熱変色性インキによる筆跡をチップ71による摩擦熱で容易に変色することができる。
【0028】
前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料は、粒子径の平均値が0.5〜5.0μm、好ましくは1〜4μmの範囲にあることが好ましい。平均粒子径が5.0μmを越える系では、ボールペンチップ71やマーキングペンチップ71の毛細間隙からの流出性が低下し、平均粒子径が0.5μm未満の系では高濃度の発色性を示し難くなる。
【0029】
前記可逆熱変色性マイクロカプセル顔料は、インキ組成物全量に対し、2〜50重量%(好ましくは3〜40重量%、更に好ましくは、4〜30重量%)配合することができる。2重量%未満では発色濃度が不充分であり、50重量%を越えるとインキ流出性が低下し、筆記性が阻害される。
【0030】
前記熱変色性インキ63は、摩擦熱により有色から無色に変化するインキが有効である。それにより、熱変色性インキ63よりなる有色の筆跡を、摩擦用芯体7のチップ71の摩擦による摩擦熱で前記筆跡を無色化でき、その無色状態の被筆記面に、再度筆記することにより、熱変色性インキ63よりなる有色の筆跡を形成することができる。これは、ユーザーに、あたかも、鉛筆芯によりなる筆跡を消しゴムで消去し、その後、その被筆記面に再度筆記するような感覚を与える。具体的には、前記熱変色性インキ63は、加熱により有色状態から無色状態に変化し、冷却により無色状態から有色状態に変化する可逆熱変色性インキが有効である。尚、本発明の熱変色性インキ63は、マイクロカプセル中またはインキ中に非熱変色性の着色剤(染料、顔料等)を配合することにより、摩擦熱により有色からその有色とは異なる有色に変化するインキを採用することもできる。