特許第6029650号(P6029650)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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6029650ドナー肺のEx−vivoにおける機械的灌流のための臓器保護溶液
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6029650
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】ドナー肺のEx−vivoにおける機械的灌流のための臓器保護溶液
(51)【国際特許分類】
   A01N 1/02 20060101AFI20161114BHJP
【FI】
   A01N1/02
【請求項の数】43
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2014-505362(P2014-505362)
(86)(22)【出願日】2012年4月13日
(65)【公表番号】特表2014-517821(P2014-517821A)
(43)【公表日】2014年7月24日
(86)【国際出願番号】US2012033626
(87)【国際公開番号】WO2012142487
(87)【国際公開日】20121018
【審査請求日】2015年4月6日
(31)【優先権主張番号】61/475,524
(32)【優先日】2011年4月14日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513257720
【氏名又は名称】トランスメディクス,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】ハッサネイン,ワリード,エイチ.
(72)【発明者】
【氏名】ファター,イハブ,アブデル
(72)【発明者】
【氏名】レズバーグ,ポール
(72)【発明者】
【氏名】カヤル,タマール,アイ.
(72)【発明者】
【氏名】ハーベナー,ロバート
(72)【発明者】
【氏名】アブデラジム,アナス
【審査官】 三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2008/0017194(US,A1)
【文献】 特表2011−511000(JP,A)
【文献】 特表2009−521931(JP,A)
【文献】 特表2008−544747(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/106724(WO,A1)
【文献】 米国特許第05552267(US,A)
【文献】 Roland L. Featherstone, David J. Chambers, and Frank J. Kelly,Comparison of Phosphodiesterase Inhibitors of Differing Isoenzyme Selectivity Added to St. Thomas' Hospital Cardioplegic Solution Used for Hypothermic Preservation of Rat Lungs,American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine,米国,2000年,Vol.162,pp.850-856
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 1/00−65/48
A01P 1/00−23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含有する、ドナー肺の機械的灌流のためのex−vivo灌流溶液:
高エネルギー灌流栄養素、
コロイド、
ホルモン、
ステロイド、
緩衝液、
無水硫酸マグネシウム、ならびに
cAMP選択性ホスホジエステラーゼ阻害剤および硝酸エステル
【請求項2】
前記cAMP選択性ホスホジエステラーゼ阻害剤がミルリノンである、請求項1に記載の溶液。
【請求項3】
前記硝酸エステルが、ニトログリセリンである、請求項1に記載の溶液。
【請求項4】
前記溶液が、前記cAMP選択性ホスホジエステラーゼ阻害剤および前記硝酸エステルを含み、前記cAMP選択性ホスホジエステラーゼ阻害剤がミルリノンであり、前記硝酸エステルがニトログリセリンである、請求項1に記載の溶液。
【請求項5】
溶液各1リットルにつき、ミルリノンを約4000mcgの量で、およびニトログリセリンを約10mg〜50mgの量で含有する、請求項に記載の溶液。
【請求項6】
さらに、全血を含有する、請求項1に記載の溶液。
【請求項7】
さらに、赤血球を含有する、請求項1に記載の溶液。
【請求項8】
さらに、全血を含有する、請求項に記載の溶液。
【請求項9】
さらに、赤血球を含有する、請求項に記載の溶液。
【請求項10】
前記栄養素がグルコース一水和物、塩化ナトリウム、塩化カリウム、およびM.V.I.Adult(登録商標)総合ビタミンまたは等価物を含み、前記コロイドがデキストラン40を含み、前記ホルモンがインスリンを含み、前記ステロイドがメチルプレドニゾロンを含み、前記緩衝液が無水リン酸二ナトリウム、リン酸一カリウムおよび重炭酸ナトリウムを含む、請求項に記載の溶液。
【請求項11】
溶液各1リットルにつき、以
キストラン40を約50gの量、
塩化ナトリウムを約8gの量、
塩化カリウムを約0.4gの量、
無水硫酸マグネシウムを約0.098gの量、
無水リン酸二ナトリウムを約0.046gの量、
リン酸一カリウムを約0.063gの量、
グルコース一水和物を約2gの量、
インスリンを約20IUの量、
総合ビタミンを約1ユニットバイアルの量、
重炭酸ナトリウムを約15mEqの量、
メチルプレドニゾロンを約1gの量
を含有する、請求項5に記載の溶液
【請求項12】
前記ホルモンがインスリンを含、請求項に記載の溶液。
【請求項13】
前記ホルモンが、溶液各1リットルにつき、約20IUのインスリンを含、請求項に記載の溶液。
【請求項14】
前記栄養素が総合ビタミンおよびグルコース一水和物を含、請求項に記載の溶液。
【請求項15】
前記総合ビタミンが脂溶性ビタミンおよび水溶性ビタミンを含む、請求項14に記載の溶液。
【請求項16】
栄養素が、溶液各1リットルにつき、約2gのグルコース一水和物を含、請求項に記載の溶液。
【請求項17】
前記緩衝液が、重炭酸ナトリウムを含、請求項に記載の溶液。
【請求項18】
前記緩衝液が、初は、溶液各1リットルにつき、約15mEqの重炭酸ナトリウムを含、請求項に記載の溶液。
【請求項19】
前記ステロイドが、グルココルチコイドステロイドを含、請求項に記載の溶液。
【請求項20】
前記グルココルチコイドステロイドが、メチルプレドニゾロンを含、請求項19に記載の溶液。
【請求項21】
前記ステロイドが、溶液各1リットルにつき、1gのメチルプレドニゾロンを含、請求項に記載の溶液。
【請求項22】
以下を含む、ドナー肺を、生理学的条件または生理学的条件に近い条件で流する方法:
灌流液を、ドナー肺の中を通して流すこと、ここで、前記灌流液が生理学的温度にあり、前記灌流液が、栄養素、コロイド、ホルモン、ステロイド、緩衝液、無水硫酸マグネシウム、抗菌剤、ならびにcAMP選択性ホスホジエステラーゼ3阻害剤および硝酸エステルを含む。
【請求項23】
前記栄養素がグルコース一水和物、塩化ナトリウム、塩化カリウム、および総合ビタミンを含み、前記コロイドがデキストラン40を含み、前記ホルモンがインスリンを含み、前記ステロイドがメチルプレドニゾロンを含み、前記緩衝液が無水リン酸二ナトリウム、リン酸一カリウムおよび重炭酸ナトリウムを含み、cAMP選択性ホスホジエステラーゼ阻害剤がミルリノンを含み、ならびに前記硝酸エステルがニトログリセリンを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
液体が、各1リットルにつき
ルリノンを約4000mcgの量、
ニトログリセリンを約10mg〜50mgの量、
デキストラン40を約50gの量、
塩化ナトリウムを約8gの量、
塩化カリウムを約0.4gの量、
無水硫酸マグネシウムを約0.098gの量、
無水リン酸二ナトリウムを約0.046gの量、
リン酸一カリウムを約0.063gの量、
グルコース一水和物を約2gの量、
インスリンを約20IUの量、
総合ビタミンを約1ユニットバイアルの量、
重炭酸ナトリウムを約15mEqの量、
メチルプレドニゾロンを約1gの量
を含む、請求項23に記載の方法
【請求項25】
前記灌流液と全血を混合することをさらに含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記灌流液と赤血球を混合することをさらに含む、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記灌流液と、白血球を枯渇させた全血を混合することをさらに含む、請求項24に記載の方法。
【請求項28】
生理学的条件に近い条件で肺を流するための溶液を作製する方法であって、以下の工程:
前もって計量された量のデキストラン40、塩化ナトリウム、塩化カリウム(KCL)、無水硫酸マグネシウム、無水リン酸二ナトリウム、リン酸一カリウム、グルコース一水和物、ミルリノン、ニトログリセリン、抗菌剤および水を、容器に加え、溶液を作製する工程、
完全に溶解するまで、前記溶液を混合および加熱する工程、
混合、およびpHを1M塩酸で調整する間、前記溶液のpHをモニターする工程、
前記溶液を冷却させる工程、
前記溶液をろ過する工程、
前記溶液を第一の容器に分注する工程、
満たされた前記第一の容器を、10−6の滅菌保証レベル(Sterility Assurance Level)が得られることが証されている滅菌サイクルを用いて、熱で滅菌する工程
を含む、方法
【請求項29】
以下を含む、灌流溶液を作製する方法:
もって計量され量の栄養素、コロイド、ホルモン、ステロイド、緩衝液、無水硫酸マグネシウム、ならびにcAMP選択性ホスホジエステラーゼ阻害剤および硝酸エステルを合わせ、生理学的条件に近い条件で肺を灌流するための溶液を作製すること。
【請求項30】
前記溶液が、前記cAMP選択性ホスホジエステラーゼ阻害剤および前記硝酸エステルを含み、そして、
前記栄養素はグルコース一水和物、塩化ナトリウム、塩化カリウムおよび総合ビタミンを含み、前記総合ビタミンは、M.V.I.Adult(登録商標)または等価物からなる群から選択され、前記コロイドはデキストラン40を含み、前記ホルモンはインスリンを含み、前記ステロイドはメチルプレドニゾロンを含み、緩衝液は無水リン酸二ナトリウム、リン酸一カリウムおよび重炭酸ナトリウムを含み、前記cAMP選択性ホスホジエステラーゼ阻害剤はミルリノンを含み、前記硝酸エステルはニトログリセリンを含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
が、各1リットルにつき、
ミルリノンを約4000mcgの量、
ニトログリセリンを約10mg〜50mgの量、
デキストラン40を約50gの量、
塩化ナトリウムを約8gの量、
塩化カリウムを約0.4gの量、
無水硫酸マグネシウムを約0.098gの量、
無水リン酸二ナトリウムを約0.046gの量、
リン酸一カリウムを約0.063gの量、
グルコース一水和物を約2gの量、
インスリンを約20IUの量、
総合ビタミンを約1ユニットバイアルの量、
重炭酸ナトリウムを約15mEqの量、
メチルプレドニゾロンを約1gの量

前記方法は、
完全に溶解するまで、前記溶液を混合および加熱すること、
混合、および1M塩酸でpHを調整する間、前記溶液のpHをモニターすること、
前記溶液を冷却させること、
前記溶液をろ過すること、
前記溶液を第一の容器に分注すること、
満たされた前記第一の容器を、10−6の滅菌保証レベル(Sterility Assurance Level)を得られることが証されている滅菌サイクルを用いて、熱で滅菌すること、
をさらに含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記灌流液を全血と混合することをさらに含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記灌流液を赤血球と混合することをさらに含む、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記灌流液を、白血球を枯渇させた全血と混合することをさらに含む、請求項31に記載の方法。
【請求項35】
以下を含む、生理学的条件または生理学的条件に近い条件で、肺灌流回路中にあるドナー肺を灌流するためのシステム:
単回使用ディスポーザブル肺保護モジュール、ここで、前記単回使用ディスポーザブル肺保護モジュールは、
単回使用モジュールへの連結のために適合されたインターフェース、ならびに
灌流溶液の肺への流入を可能にするための第一のインターフェース、および換気ガスでの肺の換気を可能にするための第二のインターフェースを有する肺チャンバアセンブリ、
を含む、および
前記肺チャンバアセンブリから灌流溶液のフローを排出するための排出システム、およ
流溶液、ここで、前記灌流溶液は、
デキストラン40、塩化ナトリウム、塩化カリウム、無水硫酸マグネシウム、無水リン酸二ナトリウム、リン酸一カリウム、グルコース一水和物、ミルリノン、ニトログリセリン、インスリン、総合ビタミン、重炭酸ナトリウムおよびメチルプレドニゾロンを含む。
【請求項36】
以下を含む、OCS上での保護の前に肺をフラッシングする方法:
ドナーの身体から肺を摘出する前に、栄養素、コロイド、緩衝液、無水硫酸マグネシウムおよび硝酸エステルを含有する溶液でドナー肺をフラッシングすること、
前記ドナーの身体から、前記ドナー肺を摘出すること、
臓器保護システム上に、前記肺を置くこと。
【請求項37】
前記栄養素はグルコース一水和物、塩化ナトリウムおよび塩化カリウムを含み、前記コロイドはデキストラン40を含み、前記緩衝液は無水リン酸二ナトリウムおよびリン酸一カリウムを含み、前記硝酸エステルはニトログリセリンを含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
溶液が、各1リットルにつき
トログリセリンを約10mg〜50mgの量、
デキストラン40を約50gの量、
塩化ナトリウムを約8gの量、
塩化カリウムを約0.4gの量、
無水硫酸マグネシウムを約0.098gの量、
無水リン酸二ナトリウムを約0.046gの量、
リン酸一カリウムを約0.063gの量、
グルコース一水和物を約2gの量
を含む、請求項37に記載の方法
【請求項39】
抗菌剤をさらに含有する、請求項1に記載の溶液。
【請求項40】
前記抗菌剤が、セファゾリン、シプロフロキサシン、およびボリコナゾールの内の少なくとも一つを含、請求項39に記載の溶液。
【請求項41】
溶液各1リットルにつき、セファゾリンを約1gの量、シプロフロキサシンを約0.2gの量、およびボリコナゾールを約0.2gの量含、請求項39に記載の溶液。
【請求項42】
以下を含有する、ドナー肺の機械的灌流のためのex−vivoの灌流溶液:
高エネルギー灌流栄養素、
コロイド、
ホルモン、
ステロイド、
緩衝液、
無水硫酸マグネシウム、
cAMP選択性ホスホジエステラーゼ阻害剤および硝酸エステルならびに
抗菌剤。
【請求項43】
前記溶液各1リットルにつき
キストラン40を約50gの量、
塩化ナトリウムを約8gの量、
塩化カリウムを約0.4gの量、
無水硫酸マグネシウムを約0.098gの量、
無水リン酸二ナトリウムを約0.046gの量、
リン酸一カリウムを約0.063gの量、
グルコース一水和物を約2gの量、
インスリンを約20IUの量、
総合ビタミンを約1ユニットバイアルの量、
重炭酸ナトリウムを約15mEqの量、
メチルプレドニゾロンを約1gの量、
セファゾリンを約1gの量、
シプロフロキサシンを約0.2gの量、
ボリコナゾールを約0.2gの量
をさらに含む、請求項5に記載の溶液
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連特許出願の相互参照
本出願は、2011年4月14日に出願された、「ORGAN CARE SOLUTION FOR EX−VIVO MACHINE PERFUSION OF DONOR LUNGS」と題する、米国仮特許出願第61/475,524号に対する優先権の利益を、米国特許法第119条(e)の下で、主張し、参照により、本明細書にその主題全体が援用される。本出願はまた、2008年4月8日に出願された、「SYSTEMS AND METHODS FOR EX VIVO LUNG CARE」と題する、米国特許出願第12/099,715号の全体について、参照により援用する。
【0002】
本開示は、主に、ex−vivoにおける臓器保護のための灌流溶液に関する。より具体的には、本開示は、生理学的条件または生理学的条件に近い条件での臓器保護システム(OCS)上のドナー肺の機械的灌流のための溶液に関する。
【背景技術】
【0003】
現在の臓器保護技術は、化学的灌流溶液中での臓器の低温保存に関するものが主である。肺の場合、通常、たとえばPerfadex(商標)等の冷却保護溶液でフラッシュし、次いで、移植されるまで、同じ冷却溶液中に浸される。これらの技術は様々な冷却保護溶液を利用しているが、虚血から生じる組織損傷から肺を十分に保護するものは無い。臓器(たとえば肺等)が、ドナーからレシピエントへの移植を意図されている場合においては、そのような損傷は特に望ましくない。
【0004】
従来法を用いると、ex−vivoで臓器が維持される時間の長さに応じて、組織損傷は増大する。たとえば、肺の場合は通常、移植に適さないようになるまで、約6時間〜約8時間しか、ex−vivoで保存することができない。その結果、所与のドナーがいる場所から臓器が届けられるレシピエントの数は制限され、従い、摘出肺に対するレシピエントプールも限定されることとなる。冷却虚血の影響を悪化させるため、現在の冷却保護技法からは、ex−vivoでの臓器の評価および分析の機能を除外している。このため、決して最適ではない臓器が移植されて移植後の臓器機能不全もしくは他の障害が発生し得、または蘇生可能な臓器が拒否され得る。
【0005】
信頼性のあるex−vivoでの長期臓器保護は、臓器移植分野の他にもまた利益をもたらす。たとえば、患者の身体は、多くの特定の臓器よりも、全身としてのほうが、通常、化学療法、生物学的療法および放射線療法に対する耐性が非常に低い。ex−vivo臓器保護システムは、身体から臓器を取り出し、分離された状態で、身体の他の部分へのダメージリスクを抑えながら治療することを可能にする。ゆえに、臓器の低温保存を必要とせず、臓器をex−vivoでより長期に健常な状態で保存できる灌流溶液および技法の開発が求められている。そのような技法により、移植結果を改善し、潜在的なドナーおよびレシピエントプールを拡大させることができるであろう。
【発明の概要】
【0006】
本開示は、ex−vivoでの臓器保護に関する改善方法、改善溶液および改善システムを提示する。本開示は概して、一つの態様において、生理学的条件に近い条件でのOCS上にあるドナー肺の機械的灌流のための、肺OCS溶液を特徴づける。他の態様において、本開示は、生理学的条件に近い条件での機能状態および生存状態を維持する期間を延長するための、ex−vivoでの一つ以上の肺の灌流システムおよび灌流方法を含む。他の態様において、本開示は、生理学的条件に近い条件でのドナー肺のex−vivo灌流のための溶液を作製する方法を含む。
【0007】
本開示において、OCS上のドナー肺の機械的灌流に用いることができるOCS肺灌流溶液を記述する。当該溶液は、高エネルギーの灌流栄養素、ならびに浮腫減少および肺への内皮支持を提供するための、治療剤、血管拡張剤、内皮安定剤および/または保存剤の供給を含んでもよい。より好ましい実施形態において、当該溶液は、デキストラン40、塩化ナトリウム、塩化カリウム、無水硫酸マグネシウム、無水リン酸二ナトリウム、リン酸一カリウム、グルコース一水和物、ミルリノン、ニトログリセリン、インスリン、総合ビタミン(M.V.I.Adult(登録商標)またはその同等物)、重炭酸ナトリウム、メチルプレドニソロン(SoluMedrol(登録商標)またはその同等物)、セファゾリン、シプロフロキサシン、ボリコナゾールを含有する。当該溶液は、OCS肺灌流溶液を作製するために、全血または濃厚赤血球と混合される。当該溶液は、生理学的条件に近い条件で、ex−vivoで生存し、機能する(たとえば、呼吸中である)肺を維持するための成分を提供する。
【0008】
ある特定の実施形態によれば、生理学的条件または生理学的条件に近い条件で機能する臓器を提供するために、特定の溶質および濃度を有する溶液が選択および調合される。たとえば、そのような条件には、生理学的温度または生理学的温度に近い温度で臓器機能を維持すること、および/または臓器を正常な細胞代謝(たとえば、タンパク質合成ならびにコロイド圧の増加、ならびに肺浮腫および細胞膨張の最小化)を可能とする状態に保つことが含まれる。
【0009】
他の実施形態において、肺灌流の方法が特徴づけられる。当該方法には、肺を、ex−vivo灌流回路中に位置づけること、特にOCS上でのドナー肺の機械的灌流のためのOCS肺溶液を、当該肺の中を通って循環させることであって、当該液体は肺動脈インターフェースを通じて肺に入り、左心房インターフェースを通じて肺を出ること、気管インターフェースを通じて換気ガスを流すことにより肺を換気すること、灌流溶液中の所定の第一酸素含有値に達するまで灌流溶液を脱酸素すること、灌流溶液中の所定の第二酸素含有値に達するまで酸素化ガスで肺を換気することにより灌流溶液を再酸素化すること、および、第一の酸素含有値から第二の酸素含有値にまで灌流溶液中の酸素含有レベルが変化するために肺がかかった時間にもとづき、肺の状態を決定すること、を含む。灌流のモードは、逐次的なモードでも、または連続的なモードでも良い。
【0010】
他の実施形態において、生理学的条件に近い条件で肺を潅流するための溶液を作製する方法が特徴づけられる。当該方法には、前もって計量した原材料(栄養素、コロイド、ホルモン、ステロイド、緩衝液および血管拡張剤を含む)を注入用水(WFI)と組み合わせ、完全に溶解するまで熱しながら混合すること、得られた溶液のpHレベルをモニターすること、当該溶液を冷却すること、冷却された当該溶液をろ過すること、当該溶液を第一の容器に分注すること、および満たされた容器を滅菌すること、を含む。
【0011】
他の態様において、肺保護システムが特徴づけられる。当該肺システムは、多重使用モジュールとの電気機械相互運用のために、単回使用ディスポーザブルモジュールと多重使用モジュールを連結させるための適合インターフェースを備える単回使用ディスポーザブルモジュール;肺OCS灌流溶液の肺への流入を可能にするための第一のインターフェース、換気ガスでの肺の換気を可能にするための第二のインターフェース、および灌流溶液を肺から流し出すことを可能にするための第三のインターフェースを任意選択的に有する肺チャンバアセンブリであって、当該肺チャンバアセンブリは、肺から灌流溶液を流しだすことを実行するための二重排管システムを含み、当該二重排管システムは、灌流溶液フローの一部分を灌流溶液ガス含量のセンサに向かわせるための測定排管、および灌流溶液フローの残りの部分を受け止めるための主要排管を含有する、肺チャンバアセンブリ;および、特にOCS上のドナー肺の機械的灌流のためのOCS肺灌流溶液、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0012】
以下の図は、類似の参照数値が類似の要素を指している、説明のための実施形態を図示する。これらの図示された実施形態は縮尺のために描かれたのではなく、図示のためであり、制限ではないことが理解される。
図1図1は、記載される実施形態の肺灌流回路の回路図である。
図2図2は、記載される実施形態に従う、正面図から45度の角度より描かれた臓器保護システムの図である。
図3図3は、記載される実施形態に従う、肺灌流モジュールの図である。
図4図4は、記載される実施形態に従う、肺動脈カニューレの図である。
図5図5は、記載される実施形態に従う、気管カニューレの図である。
図6図6は、記載される実施形態に従う、肺チャンバの分解図である。
図7図7は、肺灌流モジュールのガス関連構成要素の表現を含む、ポータブル臓器保護システムの記載される実施形態の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下の記載および図面は、実施形態を、当業者が十分にそれらを実行できるように説明するものである。他の実施形態により、構造的、論理的、電気的、プロセスの、および他の変化が組み込まれてもよい。実施例は単に可能性のある変動の典型例である。明示的に要求されない限り、個々の構成要素および機能は任意選択的であり、操作の順序は変化しうる。一部の実施形態の部分および特性は、他のそれらに対し組み込まれまたは置き換えられてもよい。実施形態の範囲は、クレームおよびそれらクレームの利用可能な同等物のすべての全範囲を包含する。
【0014】
改良されたex−vivoの臓器保護方法が提供される。より具体的には、様々な実施形態は、ex−vivoの環境中において、正常な生理学的条件で、または正常な生理学的条件に近い条件で肺を維持することに関する改善された方法および溶液を、対象としている。本明細書において、「生理学的な温度」とは、約25℃〜約37℃の間の温度を指している。より好ましい実施形態には、肺の代謝に必要な酸素含有量を十分に有するガスで肺を再呼吸させながら、肺血管系を介して灌流溶液を循環させることにより、平衡状態中に肺を維持する臓器保護システムと併せて施され得る、肺OCS灌流溶液が含まれる。
【0015】
本実施形態は、たとえば3〜24時間以上等の長期間中、肺をex−vivoで維持することを可能にする。そのような長期のex−vivo維持時間は、ドナー肺に対する潜在的なレシピエントプールを拡大し、ドナーとレシピエントの間の地理的な距離による問題を小さくする。また、ex−vivoで長時間、維持できることにより、ドナー臓器と臓器レシピエントの間のより良い遺伝子マッチングおよびHLAマッチングのために要する時間が得られ、好ましい結果をもたらす可能性が増大する。生理学的な機能条件に近い条件で臓器を維持することにより、ex−vivoで臨床医が臓器の機能を評価し、ダメージを受けている臓器を鑑別することもまた可能となる。肺は多くの場合、ドナーの死亡原因に直接的または間接的な結果として関わるため、これは特に肺の場合において有益である。上述のように、新しく摘出された肺でさえも、ダメージを受けていることがある。摘出された臓器を素早く評価できることにより、外科医が肺の質を決定することを可能にし、もしダメージがあった場合には、問題の性質を決定することができる。次いで、外科医は、その肺を棄てるか、肺に治療を施すかを決定することができる。治療には、肺の損傷部分を除去またはステープルで固定すること、分泌物を吸引すること、出血している血管を焼灼すること、および放射線治療を施すこと等の回復プロセスが挙げられる。評価できること、および、必要に応じて摘出から移植までのいくつかの段階で肺への治療を施すことにより、全体的な肺移植成功の可能性を大幅に改善し、移植に利用可能な臓器の数を増加させる。一部の例において、改善された評価機能および長期化された維持時間により、微細な欠陥を有するドナー臓器に医術者が物理的な修復を施すことが容易となる。ex−vivoでの臓器維持時間が増加することにより、臓器を患者から除去し、ex−vivoで分離された中で治療され、その後に患者の身体に戻すこともまた、可能となる。そのような治療には、限定されないが、薬学的な治療、ガス治療、外科的治療、化学療法、生物学的療法、遺伝子療法および/または放射線治療が挙げられる。
【0016】
OCS灌流溶液の概要
ある特定の実施形態によると、ある特定の溶質を含んだ肺OCS灌流溶液により、高エネルギー栄養素、酸素給付、最適化されたコロイド浸透圧、pHおよび臓器代謝が供給されることにより、肺が生理学的条件および温度、または生理学的条件および温度に近い条件と温度で機能する。灌流溶液はまた、肺が維持されることを助け、虚血、再灌流損傷および灌流中の他の悪影響から防御するための治療用の成分を含み得る。治療方法はまた、浮腫を緩和することを助け、肺に対する全般的な内皮組織の支持を提供し、さもなければ肺への防御的または予防的な治療を提供しうる。
【0017】
提示される溶質の量は、溶液中の他の構成要素と比較して好ましい量を記述しており、十分な量の組成物を提供するために増減されてもよい。
【0018】
一部の実施形態において、溶液はホスホジエステラーゼ阻害剤を含んでもよい。ガス交換を改善し、白血球増加症を減少させるために、アデノシン−3´,5´環状一リン酸塩(cAMP)選択ホスホジエステラーゼIII型(PDEIII)阻害剤(たとえば、ミルリノン、アムリノン、アナグレリド、ブクラデシン、シロスタミド、シロスタゾール、エノキシモン、KMUP−1、クアジノン、RPL−554、シグアゾダン(siguazodan)、トレキンシン(trequinsin)、ベスナリノン、ザルダベリン(zardaverine))が添加されてもよい。好ましい実施形態において、ミルリノンが添加される。ミルリノンは、筋小胞体へのカルシウム取込みの改善、cAMP介在性トランス筋線維鞘カルシウム流出による変力作用(筋細胞収縮)、およびおそらくアクチン−ミオシン複合体解離の改善による拡張(筋細胞弛緩)に伴う血管緊張低下の効果を有する。好ましい実施形態において、ミルリノンは、溶液各1Lあたり、約3400mcg〜約4600mcgの量で存在する。特に好ましい実施形態において、ミルリノンは、溶液各1Lあたり、約4000mcgの量で存在する。
【0019】
ある特定の実施形態において、溶液は、窒素循環に有用な硝酸エステルを含んでもよい。ニトログリセリンは、肺の血行動態の安定化を促し、移植後の動脈酸素供給の改善ために灌流溶液に添加され得る硝酸エステルである。肺が身体から除去されると、一酸化窒素レベルは、再灌流の間に生成されたスーパーオキシドにより消去されるため、すぐに低下し、肺組織の損傷をもたらす。ニトログリセリンは、グアニル酸シクラーゼを直接刺激、またはエフェクター細胞内で局所的に一酸化窒素を放出する細胞内S−ニトロソチオール中間体を経由して、ex−vivoでの肺の一酸化窒素レベルを促進するように作用することができる。この目的を達成するために、ニトログリセリンは血管のホメオスタシスを改善し、移植後により良い動脈酸素供給を提供することにより、臓器機能を改善する。より好ましい実施形態において、ニトログリセリンは溶液各1Lにつき、約10mg〜約50mgの量で存在する。
【0020】
他の一つの実施形態において、無水硫酸マグネシウムを溶液に添加してもよい。肺動脈血圧は、身体の他の部分の血圧よりも低く、肺高血圧症の場合においては、硫酸マグネシウムは、平滑筋細胞中のカルシウムの取り込み、結合および分布を調整することにより肺動脈の収縮筋における血管拡張を促進し、それにより平滑筋の脱分極頻度を減少させ、血管拡張を促進する。無水硫酸マグネシウムは、溶液各1Lにつき、約0.083g〜約0.1127gの量で存在する。特に好ましい実施形態においては、無水硫酸マグネシウムは、溶液各1Lにつき、約0.098gの量で存在する。
【0021】
好ましい実施形態において、コロイドの添加により、赤血球変形能の改善、赤血球凝集の阻害、すでに凝集してしまった細胞の分離、および内皮−上皮膜の保護を含む、非常に多くの効果が得られる。コロイドはまた、内皮表面および血小板を被覆できることによる、抗血栓症効果をも有する。本実施形態において、デキストラン40は、溶液各1Lにつき、約42.5g〜約57.5gの量で存在する。特に好ましい実施形態において、デキストラン40は、溶液各1Lにつき、約50gの量で存在する。
【0022】
溶液はまた、たとえばナトリウム、カリウム、塩化物、硫酸塩、マグネシウム、ならびに他の無機および有機荷電種、またはそれらの組み合わせ等の電解質を含んでもよい。適切な構成要素は、原子価および安定性が可能とする、イオン形態で、プロトン化もしくは非プロトン化形態で、塩形態もしくは遊離塩基形態で、または水溶液中で加水分解し、その構成要素を利用可能にする他の構成要素と組み合わせたイオン性置換基もしくは共有結合性置換基であってもよい。この実施形態において、塩化ナトリウムは、溶液各1Lにつき、約6.8g〜約9.2gの量で存在する。特に好ましい実施形態において、塩化ナトリウムは、溶液各1Lにつき、約8gの量で存在する。
【0023】
好ましい実施形態において、溶液は、低カリウム濃度を有してもよい。低レベルのカリウムは、肺機能の改善をもたらす。低カリウムレベルはまた、高流量の再灌流の間、肺を保護し、PA圧およびPVRを下げ、動的気道コンプライアンスの減少率を下げ、および湿乾比の減少をもたらしうる。この実施形態において、塩化カリウムは、溶液各1Lにつき、約0.34g〜約0.46gの量で存在する。特に好ましい実施形態において、塩化カリウムは、溶液各1Lにつき、約0.4gの量で存在する。
【0024】
溶液は、臓器が正常な生理学的機能を営むことを補助するため、高エネルギーの構成要素を一つ以上含んでもよい。これらの構成要素には、代謝可能な高エネルギー物質、および/または灌流の間、臓器がエネルギー源を合成するために用いることができるような物質の構成要素が挙げられる。例示的な高エネルギー分子の源として、たとえば、一つ以上の炭水化物が挙げられる。炭水化物の例として、グルコース一水和物、単糖、二糖、オリゴ糖、多糖もしくはそれらの組み合わせ、またはそれらの前駆体もしくは代謝物が挙げられる。限定されないが、溶液に適した単糖の例として、オクトース;ヘプトース;たとえばフルクトース、アロース、アルトロース、グルコース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトースおよびタロース等のヘキソース;たとえばリボース、アラビノース、キシロースおよびリキソース等のペントース;たとえばエリスロースおよびスレオース等のテトロース;およびたとえばグリセルアルデヒド等のトリオースが挙げられる。好ましい実施形態において、グルコース一水和物が、溶液各1Lにつき、約1.7g〜約2.3gの量で存在する。特に好ましい実施形態において、グルコース一水和物は、溶液各1Lにつき、約2gの量で存在する。
【0025】
溶液は、臓器の維持を支援し、虚血、再灌流損傷および灌流中の他の悪影響から防御するために、他の構成要素を含んでもよい。ある特定の例示的な実施形態において、これらの構成要素は、炭水化物代謝および脂質代謝を促進および調節するためのホルモンを含んでもよい。インスリンは、細胞への最適なグルコースおよびグリコーゲンの取り込みを促進するように作用することにより、細胞機能を改善する役割を果たす。この好ましい実施形態において、溶液各1Lにつき、約17IUインスリン〜約23IUインスリンが含有されてもよい。特に好ましい実施形態において、溶液各1Lにつき、20IUインスリンが含有されてもよい。
【0026】
さらに、溶液は、抗酸化体および補酵素を提供し、身体の正常な抵抗力および修復プロセスを維持するのに役立つ総合ビタミンを含んでもよい。総合ビタミンは、たとえばビタミンA、ビタミンD、ビタミンEおよびビタミンK等のある特定の脂溶性ビタミン、およびたとえばビタミンC、ナイアシンアミド、ビタミンB、B、Bおよびデクスパンテノール等の水溶性ビタミン、ならびに安定剤および保存料を含んでもよい。好ましい実施形態において、溶液各1Lにつき、M.V.I.Adult(登録商標)総合ビタミンの1ユニットバイアルが含有される。M.V.I.Adult(登録商標)は、たとえばビタミンA、ビタミンD、ビタミンEおよびビタミンK等の脂溶性ビタミン、およびたとえばビタミンC、ナイアシンアミド、ビタミンB、B、Bおよびデクスパンテノール等の水溶性ビタミン、ならびに水溶液中での安定剤および保存料を含む。
【0027】
溶液はまた、たとえばグルココルチコイドステロイド等の抗炎症剤を含む。グルココルチコイドステロイドは、細胞のグルココルチコイド受容体(核内で抗炎症タンパク質の発現を順にアップレギュレートし、炎症誘発性のタンパク質の発現を減少する)を活性化することにより、抗炎症剤としての役割を果たす。グルココルチコイドステロイドには、メチルプレドニゾロン、ヒドロコルチゾン、酢酸コルチゾン、プレドニゾン、デキサメタゾン、ベタメタゾン、トリアムシノロン、ベクロメタゾン、酢酸フルドロコルチゾンおよびアルドステロンが含まれる。この好ましい実施形態において、溶液各1Lにつき、約0.85g〜約1.15gのメチルプレドニゾロン(SoluMedrol(登録商標)またはその同等物)を含んでもよい。特に好ましい実施形態において、溶液各1Lにつき、1gのメチルプレドニゾロン(SoluMedrol(登録商標)またはその同等物)を含んでもよい。
【0028】
さらに、溶液を最適なpHに維持するため、溶液に緩衝液が含まれてもよい。肺組織灌流の間、溶液の平均pHを維持するために、これらには、無水リン酸二ナトリウム、生理学的平衡緩衝液またはリン酸一カリウムが含まれてもよい。この実施形態において、無水リン酸二ナトリウムが、溶液各1Lにつき、約0.039g〜約0.052gの量で存在する、および/またはリン酸一カリウムが約0.053g〜約0.072gの量で存在する。特に好ましい実施形態において、無水リン酸二ナトリウムが0.046gの量で存在する、および/またはリン酸一カリウムが0.063gの量で存在する。一部の実施形態において、溶液は、重炭酸ナトリウム、リン酸カリウムまたはTRIS緩衝液を含有する。好ましい実施形態において、重炭酸ナトリウムは、溶液各1Lにつき、約12.75mEq〜約17.25mEqの量で存在する。特に好ましい実施形態において、溶液各1Lにつき、最初は重炭酸ナトリウム約15mEq(各500mLの瓶につき5mEqで、2〜3本の瓶を使用する)を含有し、臨床判断に基づき追加の量が保護中に添加されてもよい。たとえば、20〜40mEqをプライミング部分としてシステムに添加することができる。
【0029】
他の適切な緩衝液として、2−モルホリノエタンスルホン酸一水和物(MES)、カコジル酸、HCO/NaHCO(pKa1)、クエン酸(pKa3)、ビス(2−ヒドロキシエチル)−イミノ−トリス−(ヒドロキシメチル)−メタン(Bis−Tris)、N−カルバモイルメチルイミジノ酢酸(ADA)、3−ビス[トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノ]プロパン(Bis−Trisプロパン)(pKa1)、ピペラジン−1,4−ビス(2−エタンスルホン酸)(PIPES)、N−(2−アセタミド)−2−アミノエタンスルホン酸(ACES)、イミダゾール、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−2−アミノエタンスルホン酸(BES)、3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS)、NaH.sub.2PO.sub.4/Na.sub.2HPO.sub.4(pK.sub.a2)、N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−2−アミノエタンスルホン酸(TES)、N−(2−ヒドロキシエチル)−ピペラジン−N´−2−エタンスルホン酸(HEPES)、N−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン−N´−(2−ヒドロキシプロパンスルホン酸)(HEPPSO)、トリエタノールアミン、N−[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]グリシン(Tricine)、トリスヒドロキシメチルアミノエタン(Tris)、グリシンアミド、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)グリシン(Bicine)、グリシルグリシン(pKa2)、N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル−3−アミノプロパンスルホン酸(TAPS)、またはそれらの組み合わせが挙げられる。
【0030】
溶液には、感染を防ぐために、抗菌剤または抗真菌剤が含有されてもよい。これらには、グラム陰性およびグラム陽性細菌の両方に対する防御をもたらす細菌抗菌剤および真菌抗菌剤が含まれてもよい。適切な抗菌剤または抗真菌剤には、セファゾリン、シプロフロキサシン、およびボリコナゾールまたはその同等物が挙げられる。好ましい実施形態において、セファゾリンが溶液各1Lにつき約0.85g〜1.15gの量で存在する、シプロフロキサシンが溶液各1Lにつき約0.17g〜2.3gの量で存在する、およびボリコナゾールが溶液各1Lにつき約0.17g〜約2.3gの量で存在する。特に好ましい実施形態において、セファゾリンが溶液各1Lにつき約1gの量で存在する、シプロフロキサシンが溶液各1Lにつき約0.2gの量で存在する、およびボリコナゾールが溶液各1Lにつき約0.2gの量で存在する。あるいは、溶液は、任意の効果的な抗菌剤または抗真菌剤を含有してもよい。
【0031】
好ましくは、溶液は、生理学的な温度で提供され、灌流および再循環の間中、生理学的な温度に近い温度で維持される。
【0032】
好ましい実施形態において、OCS肺灌流溶液は、栄養素、コロイド、血管拡張剤、ホルモンおよびステロイドを含有する。
【0033】
他の好ましい実施形態において、溶液は、グルコース一水和物、塩化ナトリウム、塩化カリウム、総合ビタミン(脂溶性ビタミンおよび水溶性ビタミンを含む)を含む栄養素、デキストラン40を含むコロイド、インスリンを含むホルモン、メチルプレドニゾロンを含むステロイド、無水リン酸二ナトリウム、リン酸一カリウムおよび重炭酸ナトリウムを含む緩衝剤、ミルリノン、ニトログリセリンおよび無水硫酸マグネシウムを含む血管拡張剤、セファゾリン、シプロフロキサシンおよびボリコナゾールを含む抗菌剤または抗真菌剤を含有する。
【0034】
他の好ましい実施形態において、溶液は、デキストラン40、塩化ナトリウム、塩化カリウム、無水硫酸マグネシウム、無水リン酸二ナトリウム、リン酸一カリウム、グルコース一水和物、ミルリノン、ニトログリセリン、インスリン、総合ビタミン(M.V.I.Adult(登録商標)またはその同等物)、重炭酸ナトリウム、メチルプレドニゾロン(SoluMedrol(登録商標)またはその同等物)、セファゾリン、シプロフロキサシン、ボリコナゾールの有効量を含有する。
【0035】
OCS肺灌流溶液の好ましい実施形態において、溶液各1Lにつき、ミルリノンは約4000mcgの量で、ニトログリセリンは約10〜50mgの量で、デキストラン40は約50gの量で、塩化ナトリウムは約8gの量で、塩化カリウムは約0.4gの量で、無水硫酸マグネシウムは約0.098gの量で、無水リン酸二ナトリウムは約0.046gの量で、リン酸一カリウムは約0.063gの量で、グルコース一水和物は約2gの量で、インスリンは約20IUの量で、総合ビタミン(M.V.I.Adult(登録商標)またはその同等物)は約1ユニットバイアルの量で、重炭酸ナトリウムは、最初は約15mEqの量で存在し、メチルプレドニゾロンは約1gの量で含まれる。
【0036】
OCS肺灌流溶液の特に好ましい実施形態において、溶液各1Lにつき、ミルリノンは約4000mcgの量で、ニトログリセリンは約10〜50mgの量で、デキストラン40は約50gの量で、塩化ナトリウムは約8gの量で、塩化カリウムは約0.4gの量で、無水硫酸マグネシウムは約0.098gの量で、無水リン酸二ナトリウムは約0.046gの量で、リン酸一カリウムは約0.063gの量で、グルコース一水和物は約2gの量で、インスリンは約20IUの量で、総合ビタミン(M.V.I.Adult(登録商標)またはその同等物)は約1ユニットバイアルの量で、重炭酸ナトリウムは、最初は約15mEqの量で存在し、メチルプレドニゾロンは約1gの量で、セファゾリンは約1gの量で、シプロフロキサシンは約0.2gの量で、ボリコナゾールは約0.2gの量で含まれる。
【0037】
ある特定の実施形態において、灌流溶液は、生理学的温度に近い温度で維持され、肺に供給される。一つの実施形態によると、灌流溶液は、より正確に正常な生理学的条件を再現するため、血液産物をベースにした灌流溶液を使用する。灌流溶液は、細胞性媒体を補給されてもよい。細胞性媒体には、たとえば全血または濃厚赤血球、同種の濃厚赤血球(白血球は枯渇/減少させている)、ドナーの全血(白血球および血小板は枯渇/減少させている)、および/または15〜30%の循環ヘマトクリットが得られるヒト血漿等の血液産物が挙げられる。
【0038】
生理学的温度に近い温度での肺灌流のための溶液作製方法の概要
他の態様において、生理学的温度に近い温度での肺灌流のための溶液作製方法が提示される。好ましい方法において、前もって計量された原材料およびWFIがステンレススチールの混合タンクに加えられ、熱しながら、完全に溶解するまで混合される。得られた溶液のpHはモニターされ、混合プロセスの間、1Mの塩酸(HCl)で調整される。当該溶液は冷却が許され、次いで、0.2μmのフィルターを通してろ過され、最後に、第一の容器へ分注される。満たされた当該容器は、10−6の滅菌保証レベル(Sterility Assurance Level)を得られることが認証されている滅菌サイクルを用いて、熱により最終的に滅菌される。好ましい実施形態において、原材料には、生理学的条件に近い条件で肺を灌流するための栄養素、コロイド、血管拡張剤、ホルモンおよびステロイドが含まれる。
【0039】
他の好ましい実施形態において、原材料には、グルコース一水和物、塩化ナトリウム、塩化カリウム、総合ビタミン(M.V.I.Adult(登録商標)またはその同等物)を含む栄養素、デキストラン40を含むコロイド、インスリンを含むホルモン、メチルプレドニゾロンを含むステロイド、無水リン酸二ナトリウム、リン酸一カリウムおよび重炭酸ナトリウムを含む緩衝剤、ミルリノン、ニトログリセリンおよび無水硫酸マグネシウムを含む血管拡張剤、抗菌剤または抗真菌剤が含まれる。
【0040】
他の好ましい実施形態において、生理学的条件に近い条件で肺を灌流するために、原材料には、デキストラン40、塩化ナトリウム、塩化カリウム、無水硫酸マグネシウム、無水リン酸二ナトリウム、リン酸一カリウム、グルコース一水和物、ミルリノン、ニトログリセリン、インスリン、総合ビタミン(M.V.I.Adult(登録商標)またはその同等物)、重炭酸ナトリウム、メチルプレドニゾロン(SoluMedrol(登録商標)またはその同等物)、セファゾリン、シプロフロキサシンおよびボリコナゾールを含む抗菌剤または抗真菌剤を含む。
【0041】
好ましい実施形態において、溶液各1Lにつき、原材料には、ミルリノンは約4000mcgの量で、ニトログリセリンは約10〜50mgの量で、デキストラン40は約50gの量で、塩化ナトリウムは約8gの量で、塩化カリウムは約0.4gの量で、無水硫酸マグネシウムは約0.098gの量で、無水リン酸二ナトリウムは約0.046gの量で、リン酸一カリウムは約0.063gの量で、グルコース一水和物は約2gの量で、インスリンは約20IUの量で、総合ビタミン(M.V.I.Adult(登録商標)またはその同等物)は約1ユニットバイアルの量で、重炭酸ナトリウムは、最初は約15mEqの量で存在し、メチルプレドニゾロンは約1gの量で、および抗菌剤または抗真菌剤が含まれる。
【0042】
他の特に好ましい実施形態において、溶液各1Lにつき、原材料には、ミルリノンは約4000mcgの量で、ニトログリセリンは約10〜50mgの量で、デキストラン40は約50gの量で、塩化ナトリウムは約8gの量で、塩化カリウムは約0.4gの量で、無水硫酸マグネシウムは約0.098gの量で、無水リン酸二ナトリウムは約0.046gの量で、リン酸一カリウムは約0.063gの量で、グルコース一水和物は約2gの量で、インスリンは約20IUの量で、総合ビタミン(M.V.I.Adult(登録商標)またはその同等物)は約1ユニットバイアルの量で、重炭酸ナトリウムは、最初は約15mEqの量で存在し、メチルプレドニゾロンは約1gの量で、セファゾリンは約1gの量で、シプロフロキサシンは約0.2gの量で、ボリコナゾールは約0.2gの量で含まれる。
【0043】
ドナーからの摘出とOCS上での計装の間の、溶液を用いた臓器フラッシング方法の概要
他の態様において、身体からの摘出とOCS上での計装の間の、溶液を用いた臓器フラッシングの方法が提示される。この実施形態において、ドナー胸郭からの外科的切除のためのドナー肺を準備し、肺から古いドナー血液すべてを除去するために、ドナー肺は、ドナー肺の温度が約0℃〜約30℃の範囲になるまで、肺動脈を用いて、溶液で順行性にフラッシュされる。さらに、ドナー胸郭からの肺の外科的切除の前に、ドナー肺中に残っている血餅すべてを取り除き、すべての肺セグメントにフラッシュ溶液が適切に均一分布することを確実にするために、溶液を使用して、肺静脈を用いる逆行性肺フラッシュを行ってもよい。肺は、溶液の均一分布を可能にし、ドナー肺胞中の酸素濃度を増加させドナー肺に対する虚血/再灌流障害の影響を最小化するために、順行性および逆行性フラッシングの両方の間、ベンチレーターを用いて、換気される。順行性および逆行性のドナー肺フラッシングが完了した時点で、肺は、肺胞の崩壊を最小化するために膨らまされながら、外科的に除去される。ドナー肺がドナーの身体から完全に除去された時点で、OCS灌流の次のフェーズのための準備が整う。
【0044】
一つの実施形態において、溶液は高エネルギー灌流栄養素、コロイド、ホルモン、緩衝液、無水硫酸マグネシウムおよび硝酸エステルを含有する。他の実施形態において、溶液はデキストラン40、塩化ナトリウム、塩化カリウム、無水硫酸マグネシウム、無水リン酸二ナトリウム、リン酸一カリウム、グルコース一水和物、ニトログリセリンを含有する。
【0045】
特に好ましい実施形態において、順行性フラッシュのための溶液各1Lにつき、デキストラン40を約50gの量で、塩化ナトリウムを約8gの量で、塩化カリウムを約0.4gの量で、無水硫酸マグネシウムを約0.098gの量で、無水リン酸二ナトリウムを約0.046gの量で、リン酸一カリウムを約0.063gの量で、グルコース一水和物を約2gの量で、ニトログリセリンを約50mgの量で、含有する。
【0046】
他の特に好ましい実施形態において、逆行性フラッシュのための溶液各1Lにつき、デキストラン40を約50gの量で、塩化ナトリウムを約8gの量で、塩化カリウムを約0.4gの量で、無水硫酸マグネシウムを約0.098gの量で、無水リン酸二ナトリウムを約0.046gの量で、リン酸一カリウムを約0.063gの量で、グルコース一水和物を約2gの量で、ニトログリセリンを約10mgの量で、含有する。
【0047】
肺OCS灌流溶液を用いる機械的灌流法の概要
他の態様において、ドナー肺の機械的灌流方法が提示される。当該方法は、ドナー肺をOCS肺灌流溶液(デキストラン40、塩化ナトリウム、塩化カリウム、無水硫酸マグネシウム、無水リン酸二ナトリウム、リン酸一カリウム、グルコース一水和物、ミルリノン、ニトログリセリン、インスリン;少なくとも二つのビタミン、重炭酸ナトリウム、メチルプレドニゾロン(SoluMedrol(登録商標)またはその同等物)、抗菌剤または抗真菌剤、を含有する)で潅流することを含む。
【0048】
さらなる態様において、当該方法は、ドナー肺を特に好ましいOCS肺灌流溶液(溶液各1Lにつき、ミルリノンは約4000mcgの量で、ニトログリセリンは約10〜50mgの量で、デキストラン40は約50gの量で、塩化ナトリウムは約8gの量で、塩化カリウムは約0.4gの量で、無水硫酸マグネシウムは約0.098gの量で、無水リン酸二ナトリウムは約0.046gの量で、リン酸一カリウムは約0.063gの量で、グルコース一水和物は約2gの量で、インスリンは約20IUの量で、総合ビタミン(M.V.I.Adult(登録商標)またはその同等物)は約1ユニットバイアルの量で、重炭酸ナトリウムは、最初は約15mEqの量で存在し、メチルプレドニゾロンは約1gの量で、セファゾリンは約1gの量で、シプロフロキサシンは約0.2gの量で、ボリコナゾールは約0.2gの量で含有される)で潅流することを含む。
【0049】
肺灌流回路の概要
図1は、上述の灌流溶液を循環させるために用いられる肺灌流回路の例示を図示する。当該回路は、肺灌流モジュール内に完全に収納され、そのすべての構成要素がディスポーザブルである。臓器保護システム(OCS)が公開される、米国特許出願第12/099,715号は、肺灌流回路の例示的な実施形態を含有し、参照によりその全体が援用される。肺OCS灌流溶液250は、貯水タンク内に置かれ、次いで、肺404の血管系を通過する前に、肺灌流モジュールの様々な構成要素を通過する灌流回路内を循環する。ポンプ226により、灌流溶液250は肺灌流回路を循環する。貯水タンク224から灌流溶液250を受け、溶液を、コンプライアンスチャンバ228を通じてヒーター230へ、ポンプで汲み出す。コンプライアンスチャンバ228は、ポンプ226のフロー特有の性質を改良するのに役立つ管類の可塑性部分である。ヒーター230は、流体循環の間に、灌流溶液250による環境への熱損失を補う。記述される実施形態において、ヒーターは、灌流溶液250を、生理学的な温度または、生理学的な温度に近い温度(30〜37℃、好ましくは約34〜37℃)に維持する。肺に用いられる最新の臨床モデルでは、37℃である。ヒーター230を通過した後、灌流溶液250は、ガス交換器402内へ流入する。ガス交換器402は、ガス透過性の中空糸膜を介してガスと灌流溶液250の間で、ガスを交換させる。しかし、ガス交換器は、約1平方メートルの有効ガス交換表面積(肺の有効交換面積50〜100平方メートルのごくわずかのみである)を有している。ゆえに、ガス交換器402は、肺と比較して、わずかなガス交換能しか有していない。血液ガス電磁弁204は、ガス交換器402へのガスの供給を調節する。サンプリング/注入ポート236は、灌流溶液250が肺に到達する直前の、サンプルの除去または化学物質の注入を容易にする。灌流溶液は、次いで、カニューレ挿管された肺動脈232を通じて肺404に入る。フロープローブ114は、システムを通じて、灌流液250の流量を測定する。記述される実施形態において、フロープローブ114は、肺動脈に導くように、灌流液ライン上に置かれる。圧力センサ115は、灌流液250が肺に入った時点での肺動脈圧力を測定する。記述される実施形態において、灌流溶液250は、前述の肺OCS溶液である。
【0050】
図2は、半ば組み込まれた位置にある、単回使用のディスポーザブル肺灌流モジュールを示すOCSコンソール100の全体図である。図2に広く示されているように、単回使用のディスポーザブル肺灌流モジュールは、OCSコンソール100にフィットし、連結するような大きさであり、そのように形作られている。概して、ユニットは、米国特許出願第11/788,865号に記述される臓器保護システムに似た形態を有している。取り外し可能な肺灌流モジュール400は、図2に示されるような、前面から臓器コンソールモジュールに、モジュール400を滑り込ませ、次いで、ユニットの背面へ旋回する旋回メカニズムを用いて、OCSコンソール100に挿入可能である。クラスプメカニズム2202は、肺灌流モジュール400を所定の位置に固定する。代替的な実施形態においては、肺灌流モジュール400の他の構造およびインターフェースを用いて、モジュールとOCS100を連結させる。所定の位置に固定される場合、電気的接続および光学的接続(示されない)により、電源およびOCSコンソール100と肺灌流モジュール400の間の連絡がもたらされる。電気的接続および光学的接続の詳細は、2005年10月7日に出願された米国特許出願第11/246,013号に記載されており、その明細書は参照により本明細書にその全体が援用される。肺灌流モジュール400の重要な構成要素は、臓器チャンバ2204であり、以下に詳述される。バッテリーコンパートメント2206およびメンテナンスガスシリンダー220(示されない)は、OCSコンソール100の基盤部分に位置する。OCSコンソール100は、取り外し可能なパネル(たとえば、前面パネル2208)により保護される。肺灌流モジュールの直下に、灌流溶液サンプリングポート234および236がある。OCSモニター300が、OCSコンソール100の上に取り付けられる。
【0051】
図3は、肺灌流モジュール400の前面図である。臓器チャンバ2204には、取り外し可能な蓋2820および筐体2802が含まれる。サンプリングポート(LAサンプリングポート234およびPAサンプリングポート236を含む)が、臓器チャンバ2802の下に見える。ガス交換器402、送風機418および送風機プレート2502がまた、図中に見える。
【0052】
灌流溶液の循環経路(肺灌流モジュール400の構成要素に関して、図2に関連して最初に記述されている)は、ここで記述する。灌流溶液貯水タンク224が、臓器チャンバ2204の下に取り付けられ、灌流溶液250を貯蔵する。灌流溶液は、一方向の流入バルブ2306、ライン2702およびポンプドーム2704を通じて、ポンプ226へ排出される(示されない)。灌流溶液は、コンプライアンスチャンバ228を通じて、灌流溶液ライン2404を通じ、ポンプで汲み出され、次いで、灌流溶液ヒーター230へ汲み出される。ヒーター230を通過した後、灌流溶液は、接続ライン2706を通じて、ガス交換器402へ移動する。
【0053】
肺動脈(PA)カニューレは、肺404の血管系と灌流回路を接続する。肺動脈(PA)カニューレの例示的な実施形態を、図4に示す。図4に関し、単一のPAカニューレ802は、単一PAへの挿入のための単一の挿入チューブ804を有し、二つの肺へと分枝する前のポイントでPAにカニューレ挿管するために用いられる。カニューレを肺動脈に接続するために、挿入チューブ804がPAへと挿入され、そのPAは縫合でチューブ上に固定される。気管カニューレ700は、気管に挿入され、肺灌流モジュール400ガス回路と肺の間の接続手段を提供する。図5は、例示的な気管カニューレを図示する。カニューレ700は、気管がケーブルタイまたは他の手段により固定される、気管挿入部分704を含む。気管カニューレは、肺404の内外で気流を密封する計装に先立ち、可塑性部分706に固定されてもよい。任意選択的なロックナット708がまた図示される。
【0054】
灌流溶液は、血液ガス交換器402を流出し、接続ライン2708を通じて、肺動脈を備えるインターフェースへと流出する。肺の中での循環ならびに肺静脈および左心房を介しての流出の後、灌流溶液は、以下に記述されるように、臓器チャンバ2204の基盤部分を通って排出される。これらの排出により、灌流溶液が貯水タンク224へ供給され、再度、サイクルが開始される。
【0055】
OCSコンソール100および肺灌流モジュール400を記述したところで、今度は、臓器チャンバ2204を記述する。図6は、臓器チャンバ2204の構成要素の分解図を示す。チャンバ2204の基盤部分2802は、灌流溶液の排出を促進するように、肺灌流モジュール400内に形づけられ、位置づけられる。臓器チャンバ2204は、測定排管2804および主要排管2806(測定排管から溢れたものを受け止める)の2つの排管を有する。測定排管2804は、約0.5l/分の速度(灌流溶液250が肺404の中を通る流速(1.5l/分〜4l/分の間)よりかなり遅い)で灌流溶液を排出する。測定排管は、SaO値を計測する酸素プローブ118に繋がり、次いで、貯水タンク224に繋がる。主要排管2806は、酸素計測することなく、貯水タンク224に直接繋がる。酸素プローブ118は、記述される実施形態にあるパルスオキシメーターであり、灌流溶液250に気泡が実質的に無い状態でなければ、灌流溶液の酸素レベルを正確に測定することができない。気泡が無い灌流溶液カラムを得るために、肺404から、排管2804の上に集まるプール内へと排出される灌流溶液250を集めるように、基盤部分2802が形成される。灌流溶液プールは、灌流溶液が排管2804に入る前に気泡を消散させる。排管2804の上のプールの形成は、壁2808により促進され、灌流溶液プールがフローから泡が確実に消えるのに十分な大きさになるまで、測定排管2804から主要排管2806への灌流溶液のフローを部分的にブロックする。主要排管2806は、測定排管2804より低く、そのため、灌流溶液がいったん排管2804を取り囲む窪みから溢れると、壁2808の周囲を流れ、主要排管2806から排出される。二重排出システムの代替的な実施形態においては、他のシステムを用いて、灌流溶液が、測定排管へと供給するプール内へと集められる。一部の実施形態において、肺からのフローは、たとえば小さいカップのような器へと向かい、測定排管へと供給される。灌流溶液でカップが満たされると、過剰な血液はカップを溢れ、主要排管へ、そして貯水プールへと向かう。この実施形態において、灌流溶液が酸素センサへ向かう過程で測定排管へと流入する前に泡を消すことができる灌流溶液の小さなプールを形成することにより、カップは上述の実施形態における壁2808と類似の機能を果たす。
【0056】
肺404は、支持表面2810により支持される。当該表面は、肺404が灌流溶液を穏やかに排出するのを促すため、下葉に向かってやや下に曲げられる間、不必要な圧力をかけることなく肺404を支持するように作られる。支持表面には、肺404から生じる灌流溶液を集めて導き、排管2814(灌流溶液を、測定排管2804の血液プールへ直接供給する。)へと灌流溶液を向かわせるための排水チャンネル2812を含む。肺へのさらなる支持を与えるため、肺404は、支持表面2810に置かれた際、ポリウレタンラップで包まれる(示されない)。ポリウレタンラップは、肺404を支え、生理学的な構造に肺が維持されることを補助し、気管支が捻じれたり、総膨張体積が制限されることを防ぐ。ラップにより、臓器チャンバ2204と接触する肺外面が平滑な表面となり、チャンバが肺404のいずれかの部分に過剰な圧力をかけ、望まない出血を引き起こすリスクを減少させる。
【0057】
図7は、肺灌流モジュールのガス関連構成要素を含む、記述される実施形態のポータブル臓器保護システムの回路図である。コントローラ202は、バルブ、ガス選択スイッチ216およびベンチレーター214を制御することにより、メンテナンスガスおよび分析ガス(「保護」および「モニタリング」ガスともまた呼ばれる)の放出を管理し、メンテナンスモードにおいて肺の保護を、または分析モードの内の一つにおいて肺の分析を実行する。血液ガス電磁弁204は、血液ガス交換器402へ流入するガスの量を制御する。細流電磁弁212は、ベンチレーション回路へ流入するガスの量を制御する。気道圧力センサ206は、分離膜(図示しない)の通過を感知しながら、肺404の気道中の圧力をサンプリングする。分離膜は、特許出願第12/099,715号(全体が参照により援用される)の参照番号408により認識される。安全弁アクチュエータ207は、空気圧で制御され、安全弁(図示されない)を制御する。安全弁は、特許出願第12/099,715号(全体が参照により援用される)の参照番号412により認識される。制御される空気経路をブロックまたは脱ブロックする開口部制限器を膨張させる、または収縮させることにより、空気圧制御が実行される。この制御方法により、肺コンソールモジュール200中の制御システムと、肺灌流モジュール400中の換気ガスループの間の完全な分離が可能となる。空気圧制御208は、安全弁207および送風機バルブアクチュエータ210を制御する。ベンチレーター214は、送風機418を収縮および拡張させるアクチュエータアームを備えた機械デバイスであり、肺404内外へのガスの吸入および吐出をもたらす。
【0058】
使用モデル
臓器保護システムでの上述の溶液を用いる例示的なモデルを以下に記述する。
【0059】
計装のためのOCS灌流モジュール400を準備するプロセスは、前述の生理学的温度に近い温度で肺を灌流するための溶液を作製する方法により、溶液を作製することから始まる。次いで、約800ml〜約2000mlのOCS肺灌流溶液をOrgan Care System(OCS)滅菌灌流モジュール400内へと加える。次いで、当該溶液に、約500ml〜約1000mlの細胞性媒体を補給する。細胞性媒体には、15〜30%の総循環ヘマトクリット濃度を達成するように、以下のうちの一つまたは組み合わせが含まれてもよい。白血球を枯渇/減少させている型分類された同種の濃厚赤血球(pRBCs)、白血球および血小板を枯渇/減少させたドナーの全血、および/または15〜30%循環ヘマトクリットを達成するヒト血漿。OCSデバイスは、内蔵型の流体加温器およびガス交換器402を用いて当該溶液を加温および酸素化する間、当該溶液および細胞性媒体の循環および混合を操作する。当該溶液が完全に混合、加温および酸素化された時点で、溶液のpHを、必要に応じて、重炭酸ナトリウムまたは他の利用可能な緩衝液を用いて調整する。溶液のヘマトクリット、温度およびpHレベルが受容可能な状態に到達した時点で、ドナー肺がOCS上に装着される。
【0060】
溶液が完全に混合された時点で、pHは7.35〜7.45に調整され、ヘマトクリットが15〜30%に調整され、ドナー肺がOCS上に装着される。計装を開始するために、OCSポンプ226の流速を最初に適切な流速(現在のところ予定される実施形態において、約0.05L/分)にセットし、灌流溶液が、気管カニューレ700を接続する前にPAライン233を出ないようにする。肺をOCS臓器チャンバ224に置き、気管カニューレ700をOCS気管コネクタ710に接続し、セクション706で気管カニューレを留め金から外す。次いで、圧力センサ115を備えたPA圧力モニタリングラインをPAカニューレ802に接続する。OCSのPAカニューレ802を整え、OCSのPAラインコネクタ231へ接続する準備をする。次に、OCSのポンプ226のフローを上げ、溶液の低フローカラムをPAライン233から出す。現在のところ予定されている本発明の実施形態において、流速は、約0.3〜約0.4L/分である。次いで、肺PAカニューレ802をOCSのPAラインコネクタ231に接続し、徐々にPAカニューレ802を灌流溶液で満たすことにより、肺からすべての空気を除去する。空気の無い溶液カラムがPAカニューレ802内に届いた時点で、PAカニューレ802とOCSのPAラインコネクタ231の間の接続を密封する。
【0061】
次に、徐々にOCS流体加温器230の温度を37℃に挙げ、灌流溶液温度を32℃から37℃に挙げる。次いで、ポンプフローを徐々に上げ、肺流速が標的とする流速(少なくとも1.5L/分)に達するまで、肺動脈圧力(PAP)を確実に20mmHg未満のままにする。肺が約30℃〜約32℃の温度に達したとき、OCSベンチレーター214を「保護」モードに切り替えることにより、OCSベンチレーションを開始する。計装及び保護に対するベンチレーターのセッティングを、表1に明記する。
【0062】
【表1】
【0063】
次に、最大ベンチレーションおよび灌流に達するまで、約30分間まで、灌流およびベンチレーション速度を徐々に増加させ、ベンチレーションパラメータを安定させる。OCS上のドナー肺のベンチレーションパラメータが安定した時点で、肺を包み、ex−vivoでのドナー肺に対する過剰膨張損傷を避ける。肺はまた、ベンチレーションを開始する前の「休止保護」の間にも、包まれていてもよい。OCS上での肺保護の間、ベンチレーションの設定は、表1に記載のように維持され、平均PAPは、約20mmHgより下に維持され、ポンプフローは、約1.5L/分以上で維持される。血液グルコース、電解質およびpHレベルはモニターされ、追加注入により正常な生理学的範囲内に調整される。肺酸素化機能は、肺コンプライアンスに加えて、OCS肺システムを用いて分析され得る。一部の例においては、前述のように、肺に治療を施すことが望ましい。OCSデバイス上で、ex−vivoでドナー肺のファイバー気管支鏡検査が実施されてもよい。OCSシステム上のドナー肺の保護および分析が完了した時点で、肺は冷却され、OCSシステムから移し、レシピエントへと移植される。
【0064】
ドナー肺の冷却は、最初にOCS脈動ポンプ226を止め、OCSシステム上でベンチレーションを継続しながら、約0℃〜約15℃の温度の約3リットルの灌流溶液でドナー肺をフラッシュすることにより達成されうる。フラッシュが完了した時点で、OCSから、気管カニューレ700および肺動脈カニューレ802の接続を外すことができ、肺を、外科的にレシピエントに取り付けられる(移植される)まで、冷却保護溶液に浸す。あるいは、肺がOCS上で換気されている間、OCS溶液を循環している全システムを、熱交換器および冷却デバイスを用いて0℃〜約15℃まで冷却してもよい。約0℃〜約15℃の標的温度に達した時点で、OCSから気管カニューレ700および肺動脈カニューレ802の接続を外し、外科的にレシピエントに取り付けられる(移植される)まで、肺を冷却保護溶液に浸す。
【0065】
記述されたシステムは、肺OCS灌流溶液の任意の実施形態に利用し得る。好ましい実施形態において、溶液は赤血球と混合され、システムでの使用のために、システム貯水タンク内に置かれる。
【0066】
本発明は様々に説明される実施形態に関連して記述されているが、前述の説明は説明を意図しており、添付のクレーム範囲により定義される本発明の範囲を制限するものではないことが理解される。たとえば、本開示に基づき様々なシステムおよび/または方法が実行されてもよく、それらはなお本発明の範囲内に入る。他の態様、利点および改変も以下のクレームの範囲内である。本明細書に引用される全ての参照文献は、それらの全体が参照により援用され、本発明の一部分を形成する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7