特許第6029654号(P6029654)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6029654シリケート被覆MFI型ゼオライトとその製造方法およびそれを用いたp−キシレンの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6029654
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】シリケート被覆MFI型ゼオライトとその製造方法およびそれを用いたp−キシレンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 39/40 20060101AFI20161114BHJP
   B01J 29/40 20060101ALI20161114BHJP
   B01J 37/10 20060101ALI20161114BHJP
   C07C 6/12 20060101ALI20161114BHJP
   C07C 15/08 20060101ALI20161114BHJP
   C07C 15/04 20060101ALN20161114BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20161114BHJP
【FI】
   C01B39/40
   B01J29/40 Z
   B01J37/10
   C07C6/12
   C07C15/08
   !C07C15/04
   !C07B61/00 300
【請求項の数】9
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2014-508232(P2014-508232)
(86)(22)【出願日】2013年3月29日
(86)【国際出願番号】JP2013059742
(87)【国際公開番号】WO2013147261
(87)【国際公開日】20131003
【審査請求日】2016年1月19日
(31)【優先権主張番号】特願2012-83192(P2012-83192)
(32)【優先日】2012年3月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】JXエネルギー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】▲大▼高 衣里
(72)【発明者】
【氏名】荒木 泰博
【審査官】 小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/107076(WO,A1)
【文献】 特開2010−221095(JP,A)
【文献】 特表2003−500189(JP,A)
【文献】 特開平07−252170(JP,A)
【文献】 特開2001−031416(JP,A)
【文献】 特開2004−002160(JP,A)
【文献】 特開昭59−018112(JP,A)
【文献】 特表2011−523619(JP,A)
【文献】 長船行雄 他,"コア-シェル構造のMFI型ゼオライトを触媒に用いたトルエンのメチル化",第102回触媒討論会討論会A予稿集,2008年 9月23日,p.213
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 37/00−39/54
B01J 20/00−38/74
C07C 1/00−409/44
C07B 61/00
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
MFI型ゼオライトをシリケートで被覆したシリケート被覆MFI型ゼオライトであって、前記シリケート被覆MFI型ゼオライトのX線回折スペクトルにおいて、2θ=7.0〜8.4°にあるピークaと、2θ=8.4〜9.7°にあるピークbとのピーク面積比b/aが1以上で、かつ、ハメット指示薬により測定されたpKa値が+3.3以上であって、
前記シリケートが前記MFI型ゼオライトと同類の結晶構造で、かつ細孔が連通していることを特徴とするシリケート被覆MFI型ゼオライト。
【請求項2】
前記MFI型ゼオライトのX線回折スペクトルにおいて、2θ=7.0〜8.4°にあるピークa’と、2θ=8.4〜9.7°にあるピークb’とのピーク面積比b’/a’が1以上であることを特徴とする請求項1に記載のシリケート被覆MFI型ゼオライト。
【請求項3】
前記MFI型ゼオライトの骨格外のアルミニウム量は、10%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のシリケート被覆MFI型ゼオライト。
【請求項4】
粒子径が1μm以上40μm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載のシリケート被覆MFI型ゼオライト。
【請求項5】
p−キシレンを選択的に製造するために用いることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一つに記載のシリケート被覆MFI型ゼオライト。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のシリケート被覆MFI型ゼオライトを製造する方法であって、2θ=7.0〜8.4°にあるピークa’と、2θ=8.4〜9.7°にあるピークb’とのピーク面積比b’/a’が1以上であるMFI型ゼオライトを、シリカ源および構造規定剤を用いて水熱合成処理して、前記MFI型ゼオライトの外表面にシリケートを成長させることを特徴とするシリケート被覆MFI型ゼオライトの製造方法。
【請求項7】
前記MFI型ゼオライトが、シリカ源とアルミニウム源と構造規定剤とフッ素源とを用いて水熱合成処理して得られることを特徴とする、請求項6に記載のシリケート被覆MFI型ゼオライトの製造方法。
【請求項8】
前記MFI型ゼオライトの骨格外アルミニウムの除去工程を有することを特徴とする請求項6または7に記載のシリケート被覆MFI型ゼオライトの製造方法。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のシリケート被覆MFI型ゼオライトと芳香族炭化水素とを接触させて、不均化反応またはアルキル化反応を行うことにより、p−キシレンを選択的に製造させることを特徴とするp−キシレンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリケート被覆MFI型ゼオライトとその製造方法、ならびに該ゼオライトからなる触媒を用いた芳香族炭化水素、特にはトルエンの不均化反応またはアルキル化反応から、p−キシレンを製造する方法に関し、特には、高収率で高純度のp−キシレンを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
芳香族化合物の中でもキシレン類は、ポリエステルの原料であるテレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸などを製造する出発原料として、極めて重要な化合物であり、種々の製造方法により製造されている。中でもp−キシレンは、ポリエチレンテレフタレートのモノマー原料であるテレフタル酸の製造原料として有用であり、選択的にp−キシレンを製造する方法が種々提案されている。
【0003】
芳香族炭化水素(例えばトルエン)から選択的にp−キシレンを製造するために、MFI型ゼオライトの分子篩作用(又は形状選択性)を利用することが検討されているが、特に外表面の処理が行われていないMFI型ゼオライトには細孔内部と外表面に活性点(酸点)が存在し、細孔内で反応が起きると生成物の分子サイズからくる拡散制約により形状選択性が発現してp−キシレンのみが得られるが、外表面で反応すると形状選択性がなく、他の異性体(o−キシレンやm−キシレン)も生成する。また、細孔内で生成したp−キシレンが外表面酸点に接触することで、異性化されてo−キシレンやm−キシレンとなる反応も起きる。外表面処理されていないMFI型ゼオライトでは、外表面反応が優勢であるため、通常、生成物はo−、m−、p−キシレンの混合物となり、p−キシレンの選択率は熱力学的平衡の23%程度である。つまり、p−キシレンのみを選択的に得るには、MFI型ゼオライト細孔内の活性点のみが使われるようにする必要があり、外表面の活性点(酸点)であるアルミニウムを除去する技術、または被覆修飾する技術が提案されている。
【0004】
特許文献1では、MFI構造を有する第1ゼオライトと、前記第1ゼオライト上を少なくとも部分的に被覆し、MFI構造を有する第2ゼオライトと、を含むゼオライト結合ゼオライト触媒存在下で、トルエンとメチル化剤との反応によりp−キシレンを製造できることが開示されている。
【0005】
また、特許文献2では、ZSM−5からなる第一の多孔質無機物質を含有し、三次元構造を有するマクロ構造体の外面の一部を、シリカライトからなる第二の多孔質無機物質で被覆した、炭化水素転化に適する触媒が開示されている。
【0006】
さらに、特許文献3では、所定の結晶子径を有するMFI型ゼオライトの外表面を、所定の厚さのシリケートで修飾することにより、活性点であるアルミニウムを被覆した触媒が開示されている。
【0007】
また、フッ素源を導入してMFI型ゼオライトを合成し、該合成したMFI型ゼオライトを、フッ素源とシリカ源とともに水熱合成して、MFI型ゼオライト外表面にシリケート膜を形成した触媒も提案されている(非特許文献1参照)。
【0008】
一方、特許文献4では、所定のSiO/Al比ならびに一次粒子径を持つMFI型ゼオライトを結晶性シリケートで被覆し、該触媒の外表面に存在する酸点をハメット指示薬でpKa値を規定した触媒が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】長船行雄等著、第102回触媒討論会A予稿集、213ページ、2008年9月23日発表
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2001−504084号公報
【特許文献2】特表2003−500189号公報
【特許文献3】特開2010−221095号公報
【特許文献4】WO2010/107076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記の外表面を修飾したMFI型ゼオライトは、ベンゼンおよび/またはトルエンのアルキル化反応により、p−キシレンを高選択率で製造することが可能である。しかしながら、前記外表面を修飾したMFI型ゼオライトでは、MFI型ゼオライトの外表面酸点(アルミニウム)の被覆が不十分なため、原料希薄条件下でしかp−キシレンの高選択率が実現せず、p−キシレン収率が低いという問題があった。さらには、前記外表面を修飾したMFI型ゼオライトでは、原料希薄条件下でしか用いることができないため、トルエンのアルキル化反応よりも反応性が低いトルエン不均化反応に用いた場合、p−キシレンを高収率に製造することは困難であり、当該触媒を使用したトルエン不均化反応によるp−キシレン製造は実用上適していなかった。
【0012】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、p−キシレンを芳香族炭化水素、特にはトルエンのアルキル化反応や不均化反応により選択的かつ高収率で製造しうるシリケート被覆MFI型ゼオライト、シリケート被覆MFI型ゼオライトの製造方法およびp−キシレンの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、特定のMFI型ゼオライトをシリケートで被覆してなり、X線回折スペクトルにおいて2θ=7.0〜8.4°にあるピークaと、2θ=8.4〜9.7°にあるピークbとのピーク面積比b/aが1以上で、かつ、ハメット指示薬により測定されたpKa値が+3.3以上である該シリケート被覆MFI型ゼオライトを、芳香族炭化水素、特にはトルエン不均化反応またはアルキル化反応に用いることで、高純度のp−キシレンを高収率で製造できることを見出し、本発明を完成させた。
【0014】
即ち、本発明のシリケート被覆MFI型ゼオライトは、MFI型ゼオライトをシリケートで被覆したシリケート被覆MFI型ゼオライトであって、前記シリケート被覆MFI型ゼオライトのX線回折スペクトルにおいて、2θ=7.0〜8.4°にあるピークaと、2θ=8.4〜9.7°にあるピークbとのピーク面積比b/aが1以上で、かつ、ハメット指示薬により測定されたpKa値が+3.3以上であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明のシリケート被覆MFI型ゼオライトは、上記発明において、シリケートで被覆前のMFI型ゼオライトのX線回折スペクトルにおいて、2θ=7.0〜8.4°にあるピークa’と、2θ=8.4〜9.7°にあるピークb’とのピーク面積比b’/a’が1以上であることを特徴とする。ここで、2θ=7.0〜8.4°と、2θ=8.4〜9.7°の範囲については、シリケートで被覆後のMFI型ゼオライトのピークをa、bとし、シリケートで被覆前のMFI型ゼオライトのピークをa’、b’と区別した。
【0016】
また、本発明のシリケート被覆MFI型ゼオライトは、上記発明において、前記MFI型ゼオライトの骨格外のアルミニウム量は、10%以下であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明のシリケート被覆MFI型ゼオライトは、上記発明において、粒子径が1μm以上40μm以下であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明のシリケート被覆MFI型ゼオライトは、上記発明において、p−キシレンを芳香族炭化水素、特にはトルエン不均化反応またはアルキル化反応により、選択的に製造するために用いることを特徴とする。
【0019】
また、本発明のシリケート被覆MFI型ゼオライトの製造方法は、上記のいずれか一つに記載のシリケート被覆MFI型ゼオライトを製造する方法であって、2θ=7.0〜8.4°にあるピークa’と、2θ=8.4〜9.7°にあるピークb’とのピーク面積比b’/a’が1以上であるMFI型ゼオライトを、シリカ源および構造規定剤を用いて水熱合成処理して、前記MFI型ゼオライトの外表面にシリケートを成長させることを特徴とする。
【0020】
また、本発明のシリケート被覆MFI型ゼオライトの製造方法は、上記発明において、シリケートで被覆前のMFI型ゼオライトが、シリカ源とアルミニウム源と構造規定剤とフッ素源とを用いて水熱合成処理して得られることを特徴とする。
【0021】
また、本発明のシリケート被覆MFI型ゼオライトの製造方法は、上記発明において、前記MFI型ゼオライトの骨格外アルミニウムの除去工程を有することを特徴とする。
【0022】
また、本発明のp−キシレンの製造方法は、上記のいずれか一つに記載のシリケート被覆MFI型ゼオライトと芳香族炭化水素とを接触させて、不均化反応またはアルキル化反応を行うことにより、p−キシレンを選択的に製造させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明のシリケート被覆MFI型ゼオライトは、MFI型ゼオライトの外表面を不活性なシリケートで被覆しているため、MFI型ゼオライトの分子篩作用(又は形状選択性)を利用して、p−キシレンを選択的に製造するのに、好適に用いることができる。特に、シリケート被覆MFI型ゼオライトのX線回折スペクトルにおいて、2θ=7.0〜8.4°にあるピークaと、2θ=8.4〜9.7°にあるピークbとのピーク面積比b/aが1以上で、ハメット指示薬により測定されたpKa値が+3.3以上であるものを用いることで、形状選択性を持たないMFI型ゼオライト外表面酸点での反応を抑制し、芳香族炭化水素、特にはトルエンのアルキル化またはトルエンの不均化反応においてp−キシレンを選択的かつ高収率で製造することができるゼオライトを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、本発明のシリケート被覆MFI型ゼオライトの製造工程のフローチャートである。
図2図2は、合成例1に係るZSM−5型ゼオライトのX線回折図である。
図3図3は、合成例2に係るZSM−5型ゼオライトのX線回折図である。
図4図4は、合成例3に係るZSM−5型ゼオライトのX線回折図である。
図5図5は、合成例4に係るZSM−5型ゼオライトのX線回折図である。
図6図6は、合成例5に係るZSM−5型ゼオライトのX線回折図である。
図7図7は、合成例6に係るZSM−5型ゼオライトのX線回折図である。
図8図8は、合成例7に係るZSM−5型ゼオライトのX線回折図である。
図9図9は、市販ZSM−5型ゼオライトのX線回折図である。
図10図10は、実施例1に係るシリケート被覆ZSM−5型ゼオライトのX線回折図である。
図11図11は、実施例2に係るシリケート被覆ZSM−5型ゼオライトのX線回折図である。
図12図12は、実施例3に係るシリケート被覆ZSM−5型ゼオライトのX線回折図である。
図13図13は、実施例4に係るシリケート被覆ZSM−5型ゼオライトのX線回折図である。
図14図14は、実施例5に係るシリケート被覆ZSM−5型ゼオライトのX線回折図である。
図15図15は、比較例1に係るシリケート被覆ZSM−5型ゼオライトのX線回折図である。
図16図16は、比較例2に係るシリケート被覆ZSM−5型ゼオライトのX線回折図である。
図17図17は、比較例3に係るシリケート被覆ZSM−5型ゼオライトのX線回折図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明者らは、X線回折スペクトルにおいて2θ=7.0〜8.4°にあるピークaと、2θ=8.4〜9.7°にあるピークbとのピーク面積比b/aが1以上で、ハメット指示薬により測定されたpKa値が+3.3以上であるシリケート被覆MFI型ゼオライトを、芳香族炭化水素、特にはトルエンの不均化反応またはアルキル化反応に用いることで、p−キシレンを高選択率、かつ高収率で製造できることを見出した。
【0026】
以下に、本発明の実施の形態に係るシリケート被覆MFI型ゼオライトおよび該シリケート被覆MFI型ゼオライトの製造方法について、図面等を参照して詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0027】
<シリケート被覆MFI型ゼオライト>
本発明のシリケート被覆MFI型ゼオライトは、X線回折スペクトルにおいて2θ=7.0〜8.4°にあるピークaと、2θ=8.4〜9.7°にあるピークbとのピーク面積比b/aが1以上で、ハメット指示薬により測定されたpKa値が+3.3以上である。より好ましくはピーク面積比b/aが1.4以上、さらに好ましくはピーク面積比b/aが1.9以上である。ピーク面積比b/aが1以上であると、原料ならびに生成物が拡散しやすい細孔のある方向にゼオライト結晶の厚さが相対的に薄いため、反応速度が向上してp−キシレンを高収率で製造できる。そして、ハメット指示薬により測定された該シリケート被覆MFI型ゼオライトのpKa値が+3.3以上であるため、形状選択性のない外表面酸点が反応に不活性なシリケートで覆われており、該シリケート被覆MFI型ゼオライトを芳香族炭化水素、特にはトルエンの不均化反応またはアルキル化反応に用いると、p−キシレンを高選択率で製造できる。
【0028】
本発明において、下記の条件によりX線回折図を取得した。なお、下記条件でX線回折図を取得できればよく、X線回折装置を限定するものではない。
装置:(株)リガク製 Ultima IV
X線源:CuKα1
管電源:30kV
管電流:20mA
スキャン速度:4°/分
ステップ幅:0.02°
【0029】
本明細書において、ピーク面積とは、X線回折図におけるピークの積分強度を意味する。シリケートで被覆したMFI型ゼオライトのX線回折スペクトルにおいて、2θ=7.0〜8.4°のピークをピークa、2θ=8.4〜9.7°のピークをピークb、コアとなるシリケート被覆前のMFI型ゼオライト(MFI型ゼオライト、またはシリケート被覆前のMFI型ゼオライトともいう。)のX線回折スペクトルにおいて、2θ=7.0〜8.4°のピークをピークa’、2θ=8.4〜9.7°のピークをピークb’とした。
【0030】
本発明のシリケート被覆前のMFI型ゼオライトは、X線回折スペクトルにおいて2θ=7.0〜8.4°にあるピークa’と、2θ=8.4〜9.7°にあるピークb’とのピーク面積比b’/a’が1以上であるものが好ましい。より好ましくはピーク面積比b’/a’が2以上、さらに好ましくはピーク面積比b’/a’が5以上、特に好ましくはピーク面積比b’/a’が9以上である。ピーク面積比b’/a’が1以上であると、原料ならびに生成物が拡散しやすい細孔のある方向にゼオライト結晶の厚さが相対的に薄いため、MFI型ゼオライトの外表面をシリケートで被覆しても、反応速度がほとんど低下せず、p−キシレンを高収率で製造できる。そして、ピーク面積比b’/a’が1以上であるMFI型ゼオライトをシリケート被覆すると、シリケート膜が外表面に成長しやすいため、シリケート膜が均一であり、かつ欠陥がほとんどなく、該シリケート被覆MFI型ゼオライトを芳香族炭化水素、特にはトルエンの不均化反応またはアルキル化反応に用いることで、p−キシレンを高選択率で製造できる。
【0031】
本発明のシリケート被覆前のMFI型ゼオライトは、ZSM−5、TS−1、TSZ、SSI−10、USC−4、NU−4等が好適に使用でき、特に好ましいのはZSM−5である。これらのMFI型ゼオライトは、細孔の大きさがp−キシレン分子の短径と同じ大きさ(約0.55nm)であるため、p−キシレンと、p−キシレンよりわずかに分子サイズが大きいo−キシレンやm−キシレンとを区別することができ、目的のp−キシレンの製造に、特に有効である。
【0032】
また、本発明のシリケート被覆前のMFI型ゼオライトのシリカ/アルミナ比(SiO/Alモル比)は、24以上500以下が好ましく、24以上100以下がより好ましく、24以上70以下がさらに好ましい。MFI構造を安定的に保持するために、シリカ/アルミナ比は24以上であることが好ましく、反応活性点である酸量(アルミニウム)を保持するために、シリカ/アルミナ比は500以下であることが好ましい。
【0033】
本発明のシリケート被覆MFI型ゼオライトは、MFI型ゼオライトの外表面をシリケートで被覆してなる。シリケートは非晶質でもよいが、好ましくは結晶質(具体的には、結晶性シリケート等を挙げることができる。)であり、より好ましくはコアとなるMFI型ゼオライトと同類の結晶構造を有し、かつ細孔が連している結晶性シリケート(具体的には、シリカライト等を挙げることができる。)である。シリケートがMFI型ゼオライトと同類の結晶構造で、かつ細孔が連していると、反応場であるMFI型ゼオライトの細孔を塞ぎにくいため、ゼオライト粒子内の原料や生成物等の拡散が阻害されず、非晶質シリケートで被覆した場合と比較して、反応の転化率が向上する傾向にある。なお、上記シリケートは、芳香族炭化水素(特にはトルエン)のアルキル化反応および不均化反応において不活性であることが望ましく、アルミニウムを含まない純シリカであることが好ましい。
【0034】
本発明のシリケート被覆MFI型ゼオライトは、X線回折スペクトルにおいて、2θ=7.0〜8.4°にあるピークaと、2θ=8.4〜9.7°にあるピークbとのピーク面積比b/aが1以上である。ピーク面積比b/aがかかる範囲内のシリケート被覆MFI型ゼオライトは、シリケート膜が均一であり、かつ欠陥がほとんどなく、当該シリケート被覆MFI型ゼオライトを芳香族炭化水素、特にはトルエンの不均化反応またはアルキル化反応に用いることで、p−キシレンを高選択率、かつ高収率で製造できる。
【0035】
本発明のシリケート被覆MFI型ゼオライトは、ハメット指示薬により測定されたpKa値が+3.3以上であることが特に好ましい。シリケート被覆MFI型ゼオライトのpKa値が+3.3以上であれば、外表面での芳香族炭化水素の不均化反応、アルキル化反応ならびに異性化反応に不活性であり、形状選択的反応を効率よく行うことができる。
【0036】
本発明のシリケート被覆MFI型ゼオライトのコアのゼオライト部分のシリカ/アルミナ比(SiO/Alモル比)は、MFI型構造が保持される範囲で限定されることはないが、24以上500以下が好ましく、24以上100以下がより好ましく、24以上70以下がさらに好ましい。MFI構造を安定的に保持するために、シリカ/アルミナ比は24以上であることが好ましく、反応活性点である酸量(アルミニウム)を保持するために、シリカ/アルミナ比は500以下であることが好ましい。
【0037】
<ハメット指示薬によるpKa値の測定による性能評価>
ハメット指示薬によるpKa値は、酸及び塩基の強度を示す指標であり、一般的な解説や測定法については、成書に詳しく記載がある。すなわち、pKa値が+7.0を中性として、+7.0より大きい値ほど塩基強度が強いことを示し、+7.0より小さい値ほど酸強度が強いことを意味する。
【0038】
本発明における具体的なpKa値の測定は、分光測色計を用いてもよい。具体的には、所定濃度のハメット試薬脱水ベンゼン溶液(各濃度を表1に示す)7mlに、0.25gのシリケート被覆MFI型ゼオライトを加え、シリケート被覆MFI型ゼオライトの色の変化、つまりハメット指示薬の変色による着色の程度を分光測色計を用いて判定することにより実施される。ここで、色の変化(着色の程度)の観察は、日本工業規格JIS Z 8729で定義されるL***表色系において、座標a*、b*の値を分光測色計で測定して行う。
【0039】
本発明におけるpKa値の測定に使用されるハメット指示薬は、2,4−ジニトロトルエン(pKa:−13.75)、p−ニトロトルエン(pKa:−11.35)、アントラキノン(pKa:−8.2)、ベンザルアセトフェノン(pKa:−5.6)、ジシンナマルアセトン(pKa:−3.0)、ベンゼンアゾジフェニルアミン(pKa:+1.5)、p−ジメチルアミノアゾベンゼン(pKa:+3.3)、4−(フェニルアゾ)−1−ナフチルアミン(pKa:+4.0)、メチルレッド(pKa:+4.8)、ニュートラルレッド(pKa:+6.8)等である。これらハメット指示薬は、MFI型ゼオライトの細孔内に入らない大きさの分子であるため、ゼオライト外表面に存在する酸点とのみ反応し、変色する。ゼオライトがハメット指示薬を変色した(ゼオライトが着色した)と判断する指標は、ハメット指示薬を変色しない高純度シリカ(東ソー・シリカ製、ニップジェルAZ−200)を、表1に示す各ハメット指示薬溶液に加えた時の色と該ゼオライトとの色差(△a*もしくは△b*)が表1に示す値となった時である。表1はハメット指示薬の着色判断指標である。なお、この着色の判定において、pKaがXのハメット指示薬を変色し、ゼオライトが着色した場合、該ゼオライトのpKa値をX未満と判定し、pKaがYのハメット指示薬を変色しない場合、該ゼオライトのpKa値をY以上と判定する。従って、ハメット指示薬により測定されたpKa値が+3.3以上とは、p−ジメチルアミノアゾベンゼン(pKa:+3.3)を変色しないことを意味する。
【0040】
【表1】
【0041】
本発明のシリケート被覆MFI型ゼオライトは、X線回折スペクトルにおいて、2θ=7.0〜8.4°のピークaと、2θ=8.4〜9.7°のピークbの面積比b/aが1以上で、かつ、ハメット指示薬により測定されたpKa値が+3.3以上を満たしさえすれば、製造法は特に限定されないが、例えば以下のシリケート被覆MFI型ゼオライトの製造方法を好ましく挙げることができる。
【0042】
<シリケート被覆MFI型ゼオライトの製造方法>
(コアの調製−構造規定剤)
本発明のシリケート被覆MFI型ゼオライトに係る製造方法において、コアとなるMFI型ゼオライトはテトラプロピルアンモニウムブロミド(TPABr)や、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAOH)、テトラエチルアンモニウムヒドロキシドなどの構造規定剤を使用して結晶化することが好ましく、なかでも、テトラプロピルアンモニウムブロミド(TPABr)を構造規定剤として使用することがより好ましい。
【0043】
(コアの調製−Si源、Al源、F源、鉱化剤等)
コアとなるMFI型ゼオライトを合成する際に用いるシリカ源としては、無定形シリカ、アモルファスシリカ、フュームドシリカ、コロイダルシリカ、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸リチウムなどが使用できる。
また、アルミニウム源としては、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウムなどが使用できる。
【0044】
シリカ源、アルミニウム源に加え、フッ化物イオン存在下でコアとなるMFI型ゼオライトを結晶化させてもよい。MFI型ゼオライトのX線回折スペクトルにおいて、2θ=7.0〜8.4°にあるピークa’と、2θ=8.4〜9.7°にあるピークb’とのピーク面積比b’/a’が1以上であるMFI型ゼオライトを得ることが期待できるため、水溶液中でフッ化物イオンとなるフッ素源として、フッ化アンモニウムやフッ化水素などを使用してもよい。
【0045】
なお、フッ素源を含まないで合成する際には、シリカ源としてTEOSのみを使用することが好ましい。シリカ源としてTEOSのみを使用してMFI型ゼオライトを合成した場合、理由は定かではないが、合成したMFI型ゼオライトのX線回折スペクトルにおいて、2θ=7.0〜8.4°のピークa’と、2θ=8.4〜9.7°のピークb’の面積比b/aが1以上になりやすいためである。また、フッ素源を含んでMFI型ゼオライトを合成する際には、シリカ源としてフュームドシリカを用いることが好ましい。フュームドシリカをフッ素源とともに使用してMFI型ゼオライトを合成した場合、理由は定かではないが、合成したMFI型ゼオライトのX線回折スペクトルにおいて、面積比b/aが1以上になりやすいためである。
【0046】
また、目的とするMFI型ゼオライトの組成に応じて、鉱化剤の存在下でコアとなるMFI型ゼオライトを結晶化してもよく、鉱化剤としては、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物が使用でき、具体的には水酸化ナトリウムなどを挙げることができる。
【0047】
(コアの調製−水熱合成)
コアとなるMFI型ゼオライトは、水熱合成等により結晶化させることが好ましい。水熱合成処理は一般的な方法をとることができ、例えば、シリカ源、アルミ源、フッ素源、鉱化剤、構造規定剤を水またはアルコール水溶液と混合して前駆液とし、得られた前駆液をオートクレーブに導入して加熱することにより行う。水熱合成処理の温度は、100℃以上、250℃以下とすることが好ましく、150℃以上、200℃以下の温度で水熱合成処理することがより好ましい。また、水熱合成処理の時間は、0.5時間以上120時間以下が好ましく、1時間以上100時間以下がより好ましく、10時間以上100時間以下とするのがさらに好ましい。なお、水熱合成処理は複数回行っても構わない。
【0048】
結晶化させたコアは80〜140℃で乾燥させ、焼成処理を行わずに(焼成履歴の無い状態で)、次いで、コアの外表面をシリケートで被覆することが好ましい。結晶化させたコアに焼成処理を行わないことにより、X線回折スペクトルにおいて、2θ=7.0〜8.4°にあるピークa’と、2θ=8.4〜9.7°にあるピークb’とのピーク面積比b’/a’を1以上であるMFI型ゼオライトを得ることが期待できる。
【0049】
コアとなるMFI型ゼオライトを調製する際に鉱化剤を使用した場合は、コアの外表面をシリケートで被覆する前にイオン交換処理を行ってもよい。ここでいうイオン交換処理は、ゼオライトをプロトン型にすることを指す。アルカリ金属イオン等をアンモニウムイオンと交換してゼオライトをアンモニウム型にした後、それを焼成処理してプロトン型にすることで、活性が発現する。アンモニウムイオン源としては、硝酸アンモニウムや塩化アンモニウム等が挙げられる。イオン交換処理は、結晶化させたコアを80〜140℃で乾燥させ、その後450℃〜700℃の温度で2〜10時間焼成処理を行った後、室温〜100℃のアンモニウムイオンの入った水溶液にゼオライトを投入し、10分〜1日撹拌した後、濾別する。次いで、80〜140℃で乾燥、250〜600℃の温度で0.5〜10時間焼成処理をさらに行うことで、プロトン型とする。コスト削減の観点から製造工程を減らしたい場合は、イオン交換後に行う乾燥の後、焼成処理を経ずにシリケート被覆を行ってもよい。
【0050】
コアとなるMFI型ゼオライトの細孔内や外表面にゼオライト骨格外に由来するアルミニウムがあると、シリケートで被覆する際にそのアルミニウムが溶け出し、ゼオライト外表面に取り込まれて酸点を発現してしまうため好ましくない。コアとなるMFI型ゼオライトに含まれる全アルミニウムのうち、ゼオライト骨格外に由来するアルミニウムの割合は、好ましくは10%以下であり、より好ましくは5%以下であり、さらに好ましくは1%以下である。
【0051】
ゼオライト骨格外に含まれるアルミニウムを除去する方法としては特に制限はないが、50〜100℃の水にゼオライトを投入し、10分〜1日撹拌したのち、濾別し、次いで80〜140℃で乾燥する方法があげられる。あるいは、前述したイオン交換処理によっても骨格外アルミニウムを除去できる。イオン交換処理で骨格外アルミニウムを除去すれば、イオン交換と同時にでき、より好ましい。
【0052】
(シリケート被覆)
コアとなるMFI型ゼオライトを被覆するシリケートは、芳香族炭化水素、特にはトルエン不均化反応およびアルキル化反応に不活性であることが望ましく、アルミナ成分(活性成分)を含まない純シリカ(例えばシリカライト)であることが好適である。純シリカは、酸点がほとんどないため、被覆後のMFI型ゼオライト表面を不均化反応等に対して不活性化することができる。MFI型ゼオライトを純シリカで均一に欠陥なく被覆することにより、外表面での不均化反応や異性化反応等を抑制し、細孔内の分子篩サイズに応じた反応のみを起こすことができる。
【0053】
シリケート膜の質量は、コアとなるMFI型ゼオライト100質量部に対して、1質量部以上、100質量部以下とすることが好ましい。コアとなるMFI型ゼオライト100質量部に対してシリケート膜が1質量部未満では、シリケート膜の分子篩作用を十分に発揮することができず好ましくない。また、コアとなるMFI型ゼオライト100質量部に対してシリケート膜が100質量部を超えると、触媒中のコアとなるMFI型ゼオライトの割合が低くなったり、原料や生成物がシリケート膜を通過する際の抵抗が大きくなったりして、反応の転化率を低下させるため好ましくない。シリケート膜の質量は、コアとなるMFI型ゼオライト100質量部に対して、10質量部以上、70質量部以下とすることが特に好ましい。
【0054】
本発明にかかるシリケート被覆MFI型ゼオライトは、粒子径が1μm以上40μm以下であることが好ましく、1μm以上25μm以下であることがさらに好ましい。シリケート被覆MFI型ゼオライトの粒子径が40μmより大きいと、シリケート被覆MFI型ゼオライト細孔の長さが長くなって反応基質(原料)の細孔内拡散速度が遅くなり、実用的な転化率が得られなくなるためである。また、シリケート被覆MFI型ゼオライトの粒子径が1μmより小さいと、コアとなるMFI型ゼオライトが凝集し、シリケートで均一に被覆することが困難となるためである。
【0055】
(シリケート被覆−シリケート膜形成用前駆液の調製)
コアとなるMFI型ゼオライトのシリケート被覆方法は、以下に記載の方法に限定されるものではないが、水熱合成法を使用することができる。例えば、原料であるオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)、フュームドシリカ、コロイダルシリカなどのシリカ源、テトラプロピルアンモニウムブロミド(TPABr)や、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAOH)などの構造規定剤を、水またはアルコール水溶液に溶かしてシリケート膜形成用前駆液を調製する。この時、該前駆液はフッ化物イオンを含まないことが好ましい。なお、シリケート膜形成用前駆液において、シリカ源は酸化物基準で水120モルに対して0.5〜5モル、構造規定剤は水120モルに対して0.01〜0.5モルとなるよう混合することが好ましい。
【0056】
(シリケート被覆−水熱合成)
コアとなるMFI型ゼオライトとシリケート膜形成用前駆液とを入れたオートクレーブをオーブンに入れて加熱することにより行う。この水熱合成処理の温度は、100℃以上、250℃以下とすることが好ましく、150℃以上、200℃以下の温度で水熱合成処理することがより好ましい。また、水熱合成処理の時間は、0.5時間以上、48時間以下が好ましく、1時間以上、36時間以下とするのがより好ましい。
【0057】
(シリケート被覆MFI型ゼオライトの焼成処理)
水熱合成処理後、シリケート被覆MFI型ゼオライトを取り出して80〜140℃で乾燥し、さらに焼成処理を行う。焼成処理は、必要に応じて0.1℃〜10℃/分の昇温速度で昇温し、その後450℃〜700℃の温度で2〜10時間熱処理することにより行えばよい。焼成によって細孔内にある構造規定剤を除去し、コアおよびシリケート膜に分子篩となる細孔を形成する。
【0058】
(シリケート被覆MFI型ゼオライトのイオン交換処理)
コアとなるMFI型ゼオライトを調製する際に鉱化剤を使用した場合は、前記焼成処理後、さらにシリケート被覆MFI型ゼオライトをイオン交換処理して、本発明のシリケート被覆MFI型ゼオライトを得ることが好ましい。イオン交換処理方法は、先の記述([004])と同様である。ただし、シリケート被覆処理前にイオン交換処理を行っている場合は、シリケート被覆後のイオン交換処理を行わなくてよい。
つまり、コアとなるMFI型ゼオライトを調製する際に鉱化剤を使用した場合は、前述のコアとなるMFI型ゼオライトの調製段階、またはシリカ被覆MFI型ゼオライトの焼成処理の後のいずれかにイオン交換処理を行えばよい。
【0059】
以下、本発明のシリケート被覆MFI型ゼオライトの製造方法について、図1を参照して説明する。図1は、本発明のシリケート被覆MFI型ゼオライトの製造工程の一例である。
【0060】
図1に示すように、本発明のシリケート被覆MFI型ゼオライトの製造工程において、まず、コアとなるMFI型ゼオライトを合成するため、前駆液を調製して(ステップS101)、水熱合成処理によりMFI型ゼオライトを形成し(ステップS102)、乾燥を行う(ステップS103)。コアとなるMFI型ゼオライトは上記の方法で調製したものであっても良いし、ピーク面積比b/aが1以上のものであれば、市販品を使用することもできる。
【0061】
続いて、MFI型ゼオライトを、シリカ源と構造規定剤とを水またはアルコール水溶液に所定量分散させたシリケート膜形成用前駆液に浸漬する(ステップS104)。シリケート膜形成用前駆液に浸漬前のMFI型ゼオライトは、S102の水熱合成処理の後、焼成処理されないもの、なわち、焼成履歴の無いものが好ましい。焼成処理を行わないMFI型ゼオライトはシリケート膜が均一に成長しやすいためである。
【0062】
その後、シリケート膜形成用前駆液に浸漬したMFI型ゼオライトを、所定温度で水熱合成処理してシリケート膜を形成する(ステップS105)。水熱合成処理は、100〜250℃の温度範囲で0.5〜48時間行われる。
【0063】
水熱合成処理後、シリケート被覆MFI型ゼオライトを乾燥し(ステップS106)、450℃〜700℃の温度範囲で所定時間焼成する焼成処理を行う(ステップS107)。該焼成処理により、コアおよびシリケート膜に分子篩となる細孔を形成してシリケート被覆MFI型ゼオライトを製造する。
【0064】
上記の方法により調製したシリケート被覆MFI型ゼオライトは、pKa値が+3.3であるハメット指示薬(p−ジメチルアミノアゾベンゼン)で着色されない、すなわち、pKa値が+3.3以上であり、MFI型ゼオライトの外表面酸点が反応に不活性なシリケートで被覆されている。上記の方法により調製したシリケート被覆MFI型ゼオライトを、芳香族炭化水素、特にはトルエン不均化反応またはアルキル化反応に用いることで、p−キシレンを高選択率で製造することができる。
【0065】
なお、上記のステップS101およびS102において、鉱化剤を含むMFI型ゼオライト前駆液を使用してコアとなるMFI型ゼオライトを水熱合成処理した場合には、ステップS103の乾燥工程後に焼成してイオン交換処理を行うか、もしくはステップS107の焼成工程後にイオン交換処理を行うことが好ましい。
【0066】
<芳香族炭化水素の不均化反応>
本発明の実施の形態に係るシリケート被覆MFI型ゼオライトを用いた、芳香族炭化水素の不均化反応によるp−キシレンの製造について説明する。
【0067】
p−キシレン製造の原料としては、トルエンが好ましい。原料であるトルエンは、不純物として水、オレフィン、硫黄化合物および窒素化合物を含み得るが、不純物含有量は少ないほうが好ましい。水分含有量は、200質量ppm以下が好ましく、100質量ppm以下であることがさらに好ましい。また、オレフィン含有量は、1質量%以下が好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。さらに、窒素化合物含有量は、1質量ppm以下が好ましい。
なお、ここでいう水分含有量はJIS K 2275「原油及び石油製品−水分試験方法」のカールフィッシャー式電量滴定法で、オレフィン含有量はJIS K 2536「石油製品−成分試験方法」の蛍光指示薬吸着法で、窒素化合物含有量はJIS K 2609「原油及び石油製品−窒素分試験方法」の化学発光法で測定される値である。
【0068】
芳香族炭化水素の不均化反応は、芳香族炭化水素を液空間速度(LHSV)0.01h−1〜10h−1の範囲で供給して、本実施の形態に係るシリケート被覆MFI型ゼオライトと接触させることが好ましい。芳香族炭化水素の液空間速度(LHSV)は、0.1h−1〜5h−1の範囲で供給するのがさらに好ましい。
【0069】
芳香族炭化水素の不均化反応は、200℃〜550℃の範囲で加熱して反応を行うことが好ましい。反応温度が200℃より低いと反応が進行し難く、反応温度が550℃より高いと、p−キシレンの選択率が下がったり、エネルギー消費が大きくなったりするため好ましくない。反応温度は、230℃〜530℃がさらに好ましく、260℃〜510℃が特に好ましい。また、反応時圧力は、大気圧〜10MPaGで行うことが好ましく、0.5MPaG〜5MPaGで行うことがさらに好ましい。
【0070】
<芳香族炭化水素のアルキル化反応>
本発明の実施の形態に係るシリケート被覆MFI型ゼオライトを用いた、芳香族炭化水素のアルキル化反応によるp−キシレンの製造について説明する。
【0071】
原料の芳香族炭化水素としては、ベンゼン及びトルエンが挙げられる。なお、原料の芳香族炭化水素は、ベンゼン及びトルエン以外の炭化水素化合物を含んでいてもよい。ただし、p−キシレンが目的生成物であることから、m−キシレンやo−キシレンを原料に含むものは好ましくない。反応性の高いトルエンが原料としてより好ましい。
【0072】
芳香族炭化水素のアルキル化反応に用いるアルキル化剤としては、メタノール、ジメチルエーテルが挙げられる。これらは、市販品を利用することもできるが、例えば、水素と一酸化炭素との混合ガスである合成ガスから製造したメタノールやジメチルエーテルや、メタノールの脱水反応で製造したジメチルエーテルを出発原料としてもよい。なお、ベンゼン、トルエン及びメタノール、ジメチルエーテル中に存在する可能性がある不純物としては、水、オレフィン、硫黄化合物及び窒素化合物が挙げられるが、これらは少ない方が好ましい。水分含有量としては200重量ppm以下、より好ましくは100重量ppm以下、オレフィン含有量としては1重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下、硫黄化合物含有量及び窒素化合物含有量としては1重量ppm以下、より好ましくは0.1重量ppm以下である。
なお、ここでいう水分含有量はJIS K 2275「原油及び石油製品−水分試験方法」のカールフィッシャー式電量滴定法で、オレフィン含有量はJIS K 2536「石油製品−成分試験方法」の蛍光指示薬吸着法で、硫黄化合物含有量はJIS K 241「原油及び石油製品−硫黄分試験方法」で、窒素化合物含有量はJIS K 2609「原油及び石油製品−窒素分試験方法」の化学発光法で測定される値である。
【0073】
芳香族炭化水素のアルキル化反応におけるアルキル化剤と芳香族炭化水素の比率については、メチル基と芳香族炭化水素のモル比として5/1〜1/20が好ましく、2/1〜1/10がより好ましく、1/1〜1/5が特に好ましい。芳香族炭化水素に対してアルキル化剤が極端に多い場合は、望ましくないアルキル化剤同士の反応が進行してしまい、触媒劣化の原因となるコーキングを引き起こす可能性があるため好ましくない。また、芳香族炭化水素に対してアルキル化剤が極端に少ない場合には、芳香族炭化水素へのアルキル化反応が進行せず、芳香族炭化水素のリサイクルが増えてしまうため、好ましくない。
【0074】
芳香族炭化水素のアルキル化反応は、原料の芳香族炭化水素を液空間速度(LHSV)0.01h−1以上、より好ましくは0.1h−1以上であり、10h−1以下、より好ましくは5h−1以下で供給して、本実施の形態に係るシリケート被覆MFI型ゼオライトと接触させることにより行うことが望ましい。
アルキル化反応の反応条件は、特に限定されるものではないが、反応温度が好ましくは200℃以上、より好ましくは230℃以上、特に好ましくは260℃以上であり、好ましくは550℃以下、より好ましくは530℃以下、特に好ましくは510℃以下であり、また、圧力が好ましくは大気圧以上、より好ましくは0.1MPaG以上、特に好ましくは0.5MPaG以上、好ましくは10MPaG以下、より好ましくは5MPaG以下である。
【0075】
また、アルキル化反応には、窒素やヘリウムのような不活性ガスやコーキングを抑制するための水素を流通してもよく、その際、圧力は大気圧であっても加圧してもよい。なお、反応温度が低すぎると、芳香族炭化水素やアルキル化剤の活性化が不充分であるため、原料芳香族炭化水素の転化率が低く、一方、反応温度が高すぎると、エネルギーを多く消費してしまうことに加え、触媒寿命が短くなる傾向がある。
【0076】
本発明にかかるシリケート被覆MFI型ゼオライトは、シリケート被覆MFI型ゼオライトのX線回折スペクトルにおいて、2θ=7.0〜8.4°にあるピークaと、2θ=8.4〜9.7°にあるピークbとのピーク面積比b/aが1以上で、かつ、ハメット指示薬により測定されたpKa値が+3.3以上であることを特徴とし、本発明のシリケート被覆MFI型ゼオライトを、芳香族炭化水素、特にはトルエンの不均化反応またはアルキル化反応に使用することにより、高純度のp−キシレンを高い選択率で製造することができる。
【実施例】
【0077】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。本発明は、以下に説明する実施例に制限されるものではない。
【0078】
<シリケート被覆MFI型ゼオライトの調製>
最初に、ピーク面積比b’/a’が1以上のZSM−5(合成例1〜および7)と、ピーク面積比b’/a’が1未満のZSM−5を製造または用意した(合成例6および市販品)。合成例1〜7および市販品のZSM−5を、シリケート被覆してシリケート被覆MFI型ゼオライトを調製した(実施例1〜5、比較例1〜3)。
【0079】
(合成例1)
オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)、硝酸アルミニウム、水酸化ナトリウム、テトラプロピルアンモニウムブロミド(TPABr)および脱イオン水を用いて、SiO:Al:NaO:TPABr:HO=1:0.01:0.1:0.2:42(モル比。シリカ源、アルミナ源およびナトリウム源は酸化物基準でのモル比)とし、180℃で24時間水熱合成した。水熱合成後、得られた生成物を25℃でイオン交換水を用いて洗浄ろ過して、130℃で乾燥した。得られたZSM−5のSiO/Alは97(モル比)であった。
【0080】
(合成例2)
フュームドシリカ、水酸化アルミニウム、テトラプロピルアンモニウムブロミド、フッ化アンモニウムおよび脱イオン水を用いて、SiO:Al:TPABr:F:HO=1:0.025:0.125:0.9:33(モル比。シリカ源およびアルミナ源は酸化物基準でのモル比)とし、180℃で70時間水熱合成した。水熱合成後、得られた生成物を25℃でイオン交換水を用い洗浄ろ過して、130℃で12時間乾燥後、550℃にて7時間焼成処理した後、イオン交換し、130℃で12時間乾燥し、450℃で2時間焼成した。得られたZSM−5のSiO/Alは69(モル比)であった。X線光電子分光法にて得られたZSM−5のフッ素含有量を測定したところ、0.1mol%未満であり、ZSM−5中にはフッ素は含有されていないことがわかった。
【0081】
(合成例3)
オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)、硝酸アルミニウム、水酸化ナトリウム、テトラプロピルアンモニウムブロミド、フッ化アンモニウムおよび脱イオン水を用いて、SiO:Al:NaO:TPABr:F:HO=1:0.01:0.1:0.2:1.4:42(モル比。シリカ源、アルミナ源およびナトリウム源は酸化物基準でのモル比。)とし、180℃で70時間水熱合成した。水熱合成後、得られた生成物を25℃でイオン交換水を用い洗浄ろ過して、乾燥後、550℃にて7時間焼成処理した後、イオン交換し、130℃で12時間乾燥し、450℃で2時間焼成した。得られたZSM−5のSiO/Alは97(モル比)であった。
【0082】
(合成例4)
フュームドシリカ、水酸化アルミニウム、テトラプロピルアンモニウムブロミド、フッ化アンモニウムおよび脱イオン水を用いて、SiO:Al:TPABr:F:HO=1:0.042:0.125:0.9:33(モル比。シリカ源およびアルミナ源は酸化物基準でのモル比)とし、180℃で70時間水熱合成した。水熱合成後、得られた生成物を水で洗浄ろ過して、130℃で12時間乾燥後、550℃にて7時間焼成処理した後、イオン交換し、130℃で12時間乾燥し、450℃で2時間焼成した。得られたZSM−5のSiO/Alは60(モル比)であり、全アルミニウム中の骨格外アルミニウムの割合は0%であった。
【0083】
(合成例5)
合成例4で得たZSM−5を635メッシュ(20μm)のふるいを用いて分級し、微粉ZSM−5を得た。
【0084】
(合成例6)
合成例1で得たZSM−5を、550℃で2時間焼成処理した後、イオン交換し、130℃で12時間乾燥し、450℃で2時間焼成した。SiO/Alは合成例1と同様97(モル比)であった。
【0085】
(合成例7)
合成例4と同様の処方および工程で、180℃で70時間の水熱合成処理および550℃で7時間の焼成処理を行なった後、イオン交換処理を行なわずに得られた生成物を25℃でイオン交換水を用い洗浄ろ過して、130℃で12時間乾燥後、550℃にて7時間焼成処理した。得られたZSM−5のSiO/Al2(モル比)であり、全アルミニウム中の骨格外アルミニウムの割合は42%であった。
【0086】
(市販ZSM−5)
市販されているZSM−5を用いた。SiO/Alは49(モル比)であった。
【0087】
(実施例1)
オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAOH)、エタノール(EtOH)および脱イオン水を用いて、SiO:TPAOH:EtOH:HO=2:0.05:0.8:120(モル比)となるようにシリケート膜形成用前駆液を調製した。合成例1で得たZSM−5と調製したシリケート膜形成用前駆液を混合し、180℃で24時間水熱合成を行った。水熱合成後、得られた生成物を25℃でイオン交換水を用い洗浄ろ過して、130℃で12時間乾燥後、550℃にて5時間焼成処理した後、イオン交換し、130℃で12時間乾燥し、550℃にて2時間焼成してシリケート被覆MFI型ゼオライトを得た。得られたシリケート被覆MFI型ゼオライトのpKa値は、+3.3以上、即ち、pKaが+3.3のハメット指示薬を変色しなかった。
【0088】
(実施例2)
オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAOH)、エタノール(EtOH)および脱イオン水を用いて、SiO:TPAOH:EtOH:HO=2:0.05:0.8:120(モル比)となるようにシリケート膜形成用前駆液を調製した。合成例2で得たZSM−5と調製したシリケート膜形成用前駆液を混合し、180℃で24時間水熱合成を行った。水熱合成後、得られた生成物を25℃でイオン交換水を用い洗浄ろ過して、130℃で12時間乾燥後、550℃にて5時間焼成処理してシリケート被覆MFI型ゼオライトを得た。得られたシリケート被覆MFI型ゼオライトのpKa値は、+3.3以上、即ち、pKaが+3.3のハメット指示薬を変色しなかった。
【0089】
(実施例3)
オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAOH)、エタノール(EtOH)および脱イオン水を用いて、SiO:TPAOH:EtOH:HO=2:0.05:0.8:120(モル比)となるようにシリケート膜形成用前駆液を調製した。合成例3で得たZSM−5と調製したシリケート膜形成用前駆液を混合し、180℃で24時間水熱合成を行った。水熱合成後、得られた生成物を25℃でイオン交換水を用い洗浄ろ過して乾燥後、550℃にて5時間焼成処理した後、イオン交換し、130℃で12時間乾燥し、550℃にて5時間焼成してシリケート被覆MFI型ゼオライトを得た。得られたシリケート被覆MFI型ゼオライトのpKa値は、+3.3以上、即ち、pKaが+3.3のハメット指示薬を変色しなかった。
【0090】
(実施例4)
オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAOH)、エタノール(EtOH)および脱イオン水を用いて、SiO:TPAOH:EtOH:HO=2:0.05:0.8:120(モル比)となるようにシリケート膜形用成前駆液を調製した。合成例4で得たZSM−5と調製したシリケート膜形成用前駆液を混合し、180℃で24時間水熱合成を行った。水熱合成後、得られた生成物を25℃でイオン交換水を用い洗浄ろ過して、130℃で12時間乾燥後、550℃にて5時間焼成処理してシリケート被覆MFI型ゼオライトを得た。得られたシリケート被覆MFI型ゼオライトのpKa値は、+3.3以上、即ち、pKaが+3.3のハメット指示薬を変色しなかった。
【0091】
(実施例5)
オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAOH)、エタノール(EtOH)および脱イオン水を用いて、SiO:TPAOH:EtOH:HO=2:0.05:0.8:120(モル比)となるようにシリケート膜形成用前駆液を調製した。合成例5で得たZSM−5と調製したシリケート膜形成用前駆液を混合し、180℃で24時間水熱合成を行った。水熱合成後、得られた生成物を25℃でイオン交換水を用い洗浄ろ過して、130℃で12時間乾燥後、550℃にて5時間焼成処理してシリケート被覆MFI型ゼオライトを得た。得られたシリケート被覆MFI型ゼオライトのpKa値は、+3.3以上、即ち、pKaが+3.3のハメット指示薬を変色しなかった。
【0092】
(比較例1)
オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAOH)、エタノール(EtOH)および脱イオン水を用いて、SiO:TPAOH:EtOH:HO=2:0.05:0.8:120(モル比)となるようにシリケート膜形成用前駆液を調製した。合成例6で得たZSM−5と調製したシリケート膜形成用前駆液を混合し、180℃で24時間水熱合成を行った。水熱合成後、得られた生成物を25℃でイオン交換水を用い洗浄ろ過して、130℃で12時間乾燥後、550℃にて5時間焼成処理してシリケート被覆MFI型ゼオライトを得た。得られたシリケート被覆MFI型ゼオライトのpKa値は、−3.0以上+1.5以下、即ち、pKaが+1.5のハメット指示薬を変色し、−3.0のハメット指示薬を変色しなかった。
【0093】
(比較例2)
オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAOH)、エタノール(EtOH)および脱イオン水を用いて、SiO:TPAOH:EtOH:HO=2:0.05:0.8:120(モル比)となるようにシリケート膜形成用前駆液を調製した。市販ZSM−5と調製したシリケート膜形成用前駆液を混合し、180℃で24時間水熱合成を行った。水熱合成後、得られた生成物を25℃でイオン交換水を用い洗浄ろ過して、130℃で12時間乾燥後、550℃にて5時間焼成処理してシリケート被覆MFI型ゼオライトを得た。得られたシリケート被覆MFI型ゼオライトのpKa値は、−5.6以上−3.0以下、即ち、pKaが−3.0のハメット指示薬を変色し、−5.6のハメット指示薬を変色しなかった。
【0094】
(比較例3)
オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAOH)、エタノール(EtOH)および脱イオン水を用いて、SiO:TPAOH:EtOH:HO=2:0.05:0.8:120(モル比)となるようにシリケート膜形成用前駆液を調製した。合成例7で得たZSM−5と調製したシリケート膜形成用前駆液を混合し、180℃で24時間水熱合成を行った。水熱合成後、得られた生成物を25℃でイオン交換水を用い洗浄ろ過して、130℃で12時間乾燥後、550℃にて5時間焼成処理してシリケート被覆MFI型ゼオライトを得た。得られたシリケート被覆MFI型ゼオライトのpKa値は、−3.0以上+1.5以下、即ち、pKaが+1.5のハメット指示薬を変色し、−3.0のハメット指示薬を変色しなかった。
【0095】
<触媒特性>
上記のようにして得た合成例1〜7、市販ZSM−5、実施例1〜5および比較例1〜3の触媒について、X線により結晶構造を解析した。図2〜8に合成例1〜7、図9に市販ZSM−5、図10〜14に実施例1〜5、図15図17に比較例1〜3に係るZSM−5型ゼオライト触媒のX線回折図を示す。
【0096】
X線回折スペクトルを取得する際の分析条件は、下記のとおりである。
装置:(株)リガク製 Ultima IV
X線源:CuKα1
管電源:30kV
管電流:20mA
スキャン速度:4°/分
ステップ幅:0.02°
【0097】
また、実施例1〜5ならびに比較例1〜3については、取得したX線回折図から、結晶化度、結晶子径、X線回折スペクトルの7.0〜8.4°にあるピークa面積と、X線回折スペクトルの8.4〜9.7°にあるピークb面積、およびピーク面積b/a比を求めた。合成例1〜7および市販ZSM−5については、結晶化度、結晶子径、X線回折スペクトルの7.0〜8.4°にあるピークa’面積と、X線回折スペクトルの8.4〜9.7°にあるピークb’面積、およびピーク面積b’/a’比を求めた。また、上記合成例、実施例、および比較例について、29Al−NMRにより骨格内アルミニウム(骨格内Al)の割合、骨格内SiO/Al比を求めるとともに、レーザー回折式の粒度分布測定装置により粒子径を測定した。結果を表2に示す。
なお、本願において、骨格内アルミニウムとは29Al−NMRにより測定された四配位アルミニウムのことをいい、骨格外アルミニウムとは29Al−NMRにより測定された六配位アルミニウムのことをいう。従って、上記骨格内アルミニウムの割合とは、29Al−NMRスペクトルより算出された四配位および六配位アルミニウムの和に対する四配位アルミニウムの割合をいう。また、粒子径は、体積基準の粒度分布におけるモード径(最頻度径)である.
結晶化度は、N.E.CHEMCAT社製のZSM−5(SiO/Al=30)を600℃で5時間焼成したものの(101)面の強度と各ゼオライトの(101)面の強度の比から算出した(計算式は以下の通り)。結晶子径は、(101)面の値である。
結晶化度(%)=(各ゼオライトの(101面)の強度)/(N.E.CHEMCAT社製ZSM−5の(101)面の強度)×100
【0098】
【表2】
【0099】
図2図6および表2に示すように、合成例1〜5は、X線回折図の7.0〜8.4°にあるピークa’面積と、8.4〜9.7°にあるピークb’面積とのピーク面積比b’/a’は、1以上(2.3、9.6、1.4、1.、1.2)であることがわかった。これに対し、図7およびに示すように、合成例6および市販ZSM−5のピーク面積比b’/a’は、0.8、0.9と1より小さく、明らかにZSM−5の発達した結晶面が合成例1〜5とは異なることがわかる。図および表2に示すように、焼成処理後イオン交換を行なわずに水で洗浄した合成例7は、ピーク面積比b’/a’は、1以上であるが、骨格内アルミニウムの比率が小さい(58%)、即ち、骨格外アルミニウムが多く存在する(42%)ことがわかった。
【0100】
さらに、また、図10〜14および表2に示すように、実施例1〜5は、X線回折図の7.0〜8.4°にあるピークa面積と、8.4〜9.7°にあるピークb面積とのピーク面積比b/aは、1以上(1.4、1.9、1.2、1.1、1.4)であるとともに、pKa値は+3.3以上であることがわかった。これに対し、比較例1および2のピーク面積比b/aは、図15および16に示すように、0.8、0.9と1より小さく、明らかにシリケート被覆後のZSM−5の発達した結晶面が実施例1〜5とは異なることがわかる。また、図17および表2に示すように、比較例3は、ピーク面積比b/aは、1以上であるが、pKa値が-3.0〜+1.5であることがわかった。また、イオン交換処理をおこなわずに水洗浄を行った比較例3は、骨格内アルミニウムの比率が100%ではない(92%)、即ち、骨格外アルミニウムが存在する(8%)ことがわかった。
【0101】
<触媒性能評価試験1>
合成例1〜3、および6、市販ZSM−5、実施例1〜3、ならびに比較例1および2のMFI型ゼオライトおよびシリケート被覆MFI型ゼオライトの存在下、トルエンの不均化反応を行い、トルエンの転化率およびp−キシレンの選択率を測定した。
【0102】
固定層反応容器に20mgのMFI型ゼオライトまたはシリケート被覆MFI型ゼオライトを充填し、水素/トルエンを60mol/molとして、LHSVを0.48h−1、0.9MPaG、400℃で不均化反応を行った。反応容器出口の生成物をガスクロマトグラフィーにより分析し、トルエンの転化率およびp−キシレンの選択率を求めた。
【0103】
測定装置:島津製作所製GC−2014 カラム:キャピラリーカラムXylene Master、内径0.32mm、長さ50m
温度条件:カラム初期温度50℃、昇温速度2℃/分、検出器(FID)温度250℃
キャリアガス:ヘリウム
【0104】
なお、トルエン転化率およびp―キシレン選択率は以下の式により算出した。
トルエン転化率(mol%)=100−(未反応トルエン(mol)/(原料トルエン(mol))
)×100
p−キシレン選択率(mol%)=(生成p−キシレン(mol)/(生成C8芳香族炭化水素(mol)))×100
【0105】
下記の表3に、触媒性能評価試験の結果をpKa値とともに示す。
【0106】
【表3】
【0107】
表3に示すように、本発明にかかるシリケート被覆MFI型ゼオライトを用いた実施例1〜3では、シリケート被覆前の合成例1〜3の転化率を保持しながら(4〜5%程度)、p−キシレンの選択率を大幅に向上できることがわかった。
一方、本発明を満たさないシリケート被覆MFI型ゼオライトを用いた比較例1および2は、シリケート被覆前の合成例6および市販ZSM−5より転化率が劣ると同時に、p−キシレンの選択率も向上できないことが分かる。
【0108】
<触媒性能評価試験2>
実施例2、4、5ならびに比較例3のシリケート被覆MFI型ゼオライトの存在下、トルエンの不均化反応を行い、トルエンの転化率およびp−キシレンの選択率を測定した。
【0109】
固定層反応容器に0.5gのシリケート被覆MFI型ゼオライトを充填し、水素/トルエンを1.0mol/molとして、LHSVを6.0h−1、常圧、500℃で不均化反応を行った。反応容器出口の生成物をガスクロマトグラフィーにより分析し、トルエンの転化率およびp−キシレンの選択率を求めた。
【0110】
【表4】
【0111】
表4に示すように、シリケート被覆前にイオン交換処理を行ない、骨格外アルミニウムが0%のシリケート被覆MFI型ゼオライトを触媒として使用した実施例4は、水で洗浄処理し、骨格外アルミニウムが8%のシリケート被覆MFI型ゼオライトを触媒として使用した比較例3より、p−キシレン選択率が高くなることがわかった。また、粒子径が小さいシリケート被覆MFI型ゼオライトを触媒として使用した実施例5は、粒子径が大きいシリケート被覆MFI型ゼオライトを触媒として使用した実施例4より、p−キシレン選択率を保持しながらトルエン転化率が向上することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0112】
以上説明したように、本発明にかかるシリケート被覆MFI型ゼオライト、およびシリケート被覆MFI型ゼオライトの製造方法は、工業的に実施可能な形態となっており、芳香族炭化水素(特にはトルエン)の不均化反応またはアルキル化反応によるp−キシレンの製造に有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17