(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
特許文献1の
図1に示される自動車用エンジンの位相可変装置は、クランクシャフトによって駆動する駆動回転体に対し、カムシャフトに同軸に一体化されたセンターシャフトを第1電磁クラッチまたは逆回転機構によって進角方向(駆動回転体の回転方向)または遅角方向(駆動回転体の回転方向に対する逆方向)のいずれかに相対回動させて、駆動回転体とカムシャフトの相対位相角を変化させることで、エンジンバルブの開閉タイミングを変更するものである。
【0003】
特許文献1の
図1、
図6(b)に示されるように、カムシャフトと一体のセンターシャフトに設けられた六角柱型の保持部には、駆動回転体の円筒部の内周面に内接する3つのロックプレートが、センターシャフトに対して相対回動不能な状態に保持される。各ロックプレートは、第1制御回転体に設けられた二つのピンと、圧縮コイルばねにより、第1制御回転体と一体になって回動する。第1制御回転体が、第1電磁クラッチまたは逆回転機構によってトルクを受けると、第1制御回転体からトルクを受ける3つのロックプレートは、保持部を介してセンターシャフトを駆動回転体に対して進角方向または遅角方向のいずれかに相対回動させ、エンジンバルブの開閉タイミングを変化させる。
【0004】
一方、カムシャフトには、特許文献1の
図8に示されるようにエンジンバルブの開閉時において、バルブスプリングの反力によるカムトルクが入力される。カムトルクは、進角方向と遅角方向に交互に入力され、駆動回転体に対する相対回動トルクとしてカムシャフトに作用する。従って、カムトルクは、第1電磁クラッチまたは逆回転機構の停止時において、保持されていた駆動回転体に対するカムシャフトの相対位相角にズレを生じさせる原因となる。そこで、特許文献1の自動車用エンジンの位相可変装置には、カムトルクを受けたセンターシャフトが、駆動回転体に対して相対回動しないように保持されることによって、前記相対位相角のズレを防止するセルフロック機構が設けられている。
【0005】
セルフロック機構は、主に、駆動回転体の円筒部と、前記円筒部の内周面に内接する複数のロックプレートと、6つのプレート押圧面によってロックプレートを保持する六角柱状の保持部によって構成される。遅角方向のカムトルクを受けたセンターシャフトの保持部は、各プレート押圧面の中央から進角方向にずれた位置において、各ロックプレートにカムシャフト中心軸に直交する向きのセルフロック力を作用させる。また、進角方向のカムトルクを受けたセンターシャフトの保持部は、各プレート押圧面の中央から遅角方向にずれた位置において、カムシャフト中心軸に直交する向きのセルフロック力を各ロックプレートに作用させる。
【0006】
各ロックプレートの円弧状の外周面は、前記セルフロック力により、駆動回転体の円筒部の内周面に押し付けられ、駆動回転体の円筒部の内周面及び各ロックプレートの間には、カムトルクと逆向きの摩擦トルクが発生する。特許文献1のセルフロック機構は、カムトルクの発生時に、カムトルク以上の摩擦トルクを各ロックプレートと駆動回転体との間に発生させることにより、センターシャフトを駆動回転体に対して相対回動不能に保持するセルフロック効果を発生させる。
【0007】
尚、特許文献1の自動車用エンジンの位相可変装置は、第1電磁クラッチまたは逆回転機構によって駆動回転体に対するカムシャフトの相対位相角を変更しようとする方向に対して、逆向きのカムトルクによるセルフロック効果が発生している場合(例えば、前記相対位相角を遅角側に変更した場合において、進角方向のカムトルクに基づくセルフロック効果が発生している場合)、第1電磁クラッチまたは逆回転機構は、駆動回転体と各ロックプレートの間に発生する摩擦トルクに打ち勝つトルクを第1制御回転体に付与することが出来ないため、相対位相角を変更することが出来ない。
【0008】
従って、特許文献1の自動車用エンジンの位相可変装置においては、カムトルクの方向が駆動回転体に対するカムシャフトの相対位相角を変更しようとする方向に対して逆向きから同じ方向に切り替わることによりセルフロック効果が解除された時、または、セルフロック効果が、前記相対位相角を変更しようとする方向と同じ方向のカムトルクによって発生している場合において、セルフロック効果を発生させる摩擦トルクにうち勝つトルクを第1電磁クラッチまたは逆回転機構から第1制御回転体に付与することにより、駆動回転体に対するセンターシャフト(カムシャフト)の相対位相角を変更している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
各ロックプレートとセンターシャフトの保持部との間には、製造誤差等による微小隙間が形成されることで、ガタつきが生じる場合がある。特許文献1の3つのロックプレートにおいては、
図6(a)に示されるように、3つのロックプレートの3つの境界に配置された二つのピンと、一つの圧縮コイルばねによって、3つのロックプレートを保持部に付勢し、微小隙間の発生を抑制しようとしている。
【0011】
しかし、特許文献1の圧縮コイルばね及び2つのピンによって各ロックプレートをセンターシャフトの保持部に付勢した場合、各ロックプレートと保持部との間の一部の場所で微小隙間の抑制が不十分になるために、3つのロックプレート全てに力が伝達するまでの時間、即ちセルフロック効果が発生するまでの時間が長くなる問題が発生する。セルフロック効果が発生するまでの時間が長くなると、カムトルクなどの外乱によるガタつきが、センターシャフトの保持部と各ロックプレートとの間に発生しやすくなる点で問題がある。
【0012】
一方、駆動回転体の円筒部と各ロックプレートの間にセルフロック効果が発生している間、駆動回転体に対するカムシャフトの相対位相角は、駆動回転体の円筒部と各ロックプレートの間に発生する摩擦トルクに逆らって変更しなければならない。従って、駆動回転体に対するセンターシャフト(カムシャフト)の相対位相角の変更動作をする際に各ロックプレートと駆動回転体との間に発生するセルフロック効果は、第1電磁クラッチまたは逆回転機構による相対位相角の変更動作を低下させるおそれがある点で望ましくない。
【0013】
上記課題に鑑み、本願発明は、駆動回転体に対するカムシャフトの相対位相角を変更しない場合に各ロックプレートとカムシャフトとの間に発生するガタつきを防止し、かつカムトルクと同方向に前記相対位相角を変更しようとする場合において、変更動作をより迅速にした自動車用エンジンの位相可変装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1の自動車用エンジンの位相可変装置は、円筒部を有し、クランクシャフトによって駆動する駆動回転体と、制御回転体及び駆動回転体を同軸かつ相対回動可能に支持するカムシャフトと、前記制御回転体に進角方向または遅角方向のトルクを付与する回動操作力付与手段と、カムシャフトの外周にフランジ状に一体形成された保持部と、外周面が前記円筒部に内接し、かつ受圧部が前記保持部によってカムシャフトに対して相対回動不能に保持される複数のロックプレートと、前記制御回転体に設けられ、制御回転体に付与されたトルクを複数のロックプレートに伝達する複数の伝達部材と、を有しカムトルクを受けた保持部が、ロックプレートを駆動回転体の円筒部に押し付けるセルフロック機構によって、駆動回転体に対するカムシャフトの相対位相角を維持し、回動操作力付与手段が(制御回転体、伝達部材、ロックプレート、保持部を介して)カムシャフトにトルクを伝達することによって前記相対位相角を変更し、エンジンバルブの開閉タイミングを変更する、自動車用エンジンの位相可変装置において、前記保持部は、複数のプレート押圧面からなる多角柱形状を有し、前記ロックプレートは、一のプレート押圧面によって第1受圧部を支持される第1部材と、一のプレート押圧面に隣接するプレート押圧面によって第2受圧部を支持される第2部材と、前記第1部材及び第2部材を互いに引き離す方向に付勢する圧縮ばねと、を有し、前記複数の伝達部材が、前記複数のロックプレートの間にそれぞれ微小隙間を空けて配置されるようにした。
【0015】
(作用)各ロックプレートの第1部材と第2部材は、伝達部材との間に形成された微小隙間の分だけ、駆動回転体の円筒部の内周面に沿って互いに引き離される方向に移動出来る。従って、圧縮ばねによって互いに引き離される方向の付勢力を受けた第1部材と第2部材は、各受圧部と、ロックプレート押圧面との間に製造誤差などによる隙間がある場合、前記製造誤差などによる隙間を埋める方向に移動し、第1受圧部の外側端部及び第2受圧部の外側端部において、ロックプレート押圧面にそれぞれ接触する。その結果、ロックプレートと受圧部との間に製造誤差等による隙間が、解消される。
【0016】
尚、第1部材と第2部材の各受圧部の内側端部は、受圧部の外側端部が、圧縮ばねによってプレート押圧面に付勢されることによって、プレート押圧面から浮き上がる。
【0017】
従って、カムシャフトにカムトルクが発生すると、各ロックプレートの第1部材と第2部材のうち一方は、カムシャフト中心軸に直交する方向のセルフロック力をカムシャフトの保持部から受けて駆動回転体の円筒部に押し付けられることにより、円筒部に対して移動出来ないように保持される。また、第1部材と第2部材のうちもう一方は、受圧部の内側端部が、カムシャフトの保持部から離れているため、セルフロック力を受けない状態に保持される。
【0018】
駆動回転体に対するカムシャフトの相対位相角は、回動操作力付与手段によって制御回転体に伝達されたトルクを複数の伝達部材から複数のロックプレートにそれぞれ伝達することによって変更される。回動操作力付与手段から制御回転体に付与されたトルクを複数の伝達部材から、第1部材と第2部材のうちセルフロック力を受けていない方の部材に作用させた場合、セルフロック力を受けていない方の部材の受圧部は、圧縮コイルばねによる付勢力を伝達部材のトルクによって相殺されるため、保持部から浮き上がり、保持部との間に隙間を形成する。
【0019】
セルフロック力を受けていない方の部材とロックプレートとの間に隙間が形成された状態において、駆動回転体に対するカムシャフトの相対位相角を変更する方向と同じ方向にカムトルクの方向が切り替わった場合、第1部材及び第2部材のうち、セルフロック力を受けていた方の部材は、セルフロック効果を解除され、もう一方の部材は、伝達部材からトルクを伝達されている間、保持部と受圧部との間に形成された隙間によって、保持部と接触しない状態、即ちセルフロック効果を解除した状態に維持される。
【0020】
つまり、ロックプレートを形成する第1部材と第2部材の双方において、セルフロック効果を解除した状態で駆動回転体に対するカムシャフトの相対位相角を変更出来るため、前記相対位相角が迅速に変更される。
【0021】
また、請求項2は、請求項1の自動車用エンジンの位相可変装置であって、前記第1部材は、対向するプレート押圧面の進角側領域に接触することなく、遅角側領域のみに接触可能に形成され、前記第2部材は、対向するプレート押圧面の遅角側領域に接触することなく、進角側領域のみに接触可能に形成されるようにした。
【0022】
(作用)第1部材の第1受圧部は、ロックプレート押圧面の進角側領域に接触出来ず、第2部材の第2受圧部は、ロックプレート押圧面の遅角側領域に接触出来ない。その結果、センターシャフトに進角方向に作用するカムトルクに基づいて保持部に作用するセルフロック力は、各ロックプレートの第1部材にしか作用せず、カムシャフトに遅角方向に作用するカムトルクに基づいて保持部に作用するセルフロック力は、各ロックプレートの第2部材にしか作用しない。即ち、第1部材と第2部材のうち一方は、駆動回転体に対してロックされない状態に保持される。
【0023】
その状態で、回動操作力付与手段によって制御回転体に付与したトルクを伝達部材から、第1部材と第2部材のうちセルフロック力を受けていない方の部材に作用させた場合、ロックプレートを形成する第1部材と第2部材の双方において、セルフロック効果を解除されるため、駆動回転体に対するカムシャフトの相対位相角が、迅速に変更される。
【0024】
また、請求項3は、請求項1または2に記載の自動車用エンジンの位相可変装置であって、前記保持部は、6以上のロックプレート押圧面からなる多角柱形状を有し、前記複数のロックプレートが、ロックプレート押圧面数の半数組設けられた。
【0025】
(作用)駆動回転体の円筒部の内周面に対して、3以上のロックプレートを周方向略等分複数箇所に設けたことにより、各ロックプレートは、セルフロック効果の発生時において、前記内周面の全周に均等に押し付けられやすくなる。仮にロックプレートが駆動回転体の円筒部の内周面全周に均等に押し付けられない場合、押し付けられたロックプレートは、前記内周面に食い込み易くなって、セルフロック機能の解除を阻害する。しかし、請求項3の自動車用エンジンの位相可変装置における各ロックプレートは、駆動回転体の円筒部の内周面全周に均等に押し付けられることによって、前記内周面に食い込まないため、駆動回転体に対するカムシャフトの相対位相角を変更する際にセルフロック機能が確実に解除される。
【発明の効果】
【0026】
請求項1から請求項3の自動車用エンジンの位相可変装置によれば、駆動回転体に対するカムシャフトの相対位相角を変更しない場合において、圧縮コイルばねによって複数のロックプレートをカムシャフトの保持部に付勢することによって両者のガタツキを防止できる。更に、セルフロック機能を解除した状態で駆動回転体に対するカムシャフトの相対位相角を変更出来るため、駆動回転体に対するカムシャフトの相対位相角を迅速に変更できる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本実施例に示す自動車用エンジンの位相可変装置は、エンジンに組付けられ、クランクシャフトの回転に同期して吸排気弁が開閉するようにクランクシャフトの回転をカムシャフトに伝達するとともに、エンジンの負荷や回転数などの運転状態によってエンジンの吸排気弁の開閉タイミングを変更するための装置である。
【0029】
本実施例の自動車用エンジンの位相可変装置1は、
図1から
図6に示す通り、クランクシャフトによって駆動回転する駆動回転体2、第1制御回転体3、カムシャフト6、相対位相角変更機構10、セルフロック機構11によって構成される。
【0030】
尚、各図においては、第2電磁クラッチ側を装置前方(符号Fr方向)、駆動回転体側を装置後方(符号Re方向)として説明する。また、(上方:下方:左方:右方=Up、Dw、Le、Ri)として説明する。また、カムシャフト6の中心軸線L0周りに回転する駆動回転体2の回転方向については、装置前方から見て時計回りとなる方向を進角方向(符号D1方向)、反時計回りとなる方向を遅角方向(符号D2方向)として説明する。
【0031】
図1,
図2、
図4、
図6に示すとおり、駆動回転体2は、クランクシャフトから駆動力を受けるスプロケット4と駆動円筒5と円板9を一体化することによって構成されている。スプロケット4は、中心の円孔4aと、円孔4aの周囲に複数設けられた段差付挿通孔4bを有する。駆動円筒5は、底部5c及び円筒部20からなる有底円筒形状を有する。底部5cは、中心に設けられる円孔5aと、円孔5aの周囲に設けられる複数の(本実施例では6箇所の)雌ねじ孔5bが設けられる。底部5cの前面には、各雌ねじ孔5bの形成位置に沿ってリング形状の有底溝5dが設けられる。また、円筒部20の前面20bには、複数の(本実施例では8箇所の)雌ねじ孔20cが設けられている。
【0032】
円板9は、
図1,
図2、
図6(a)に示す通り、中心の円孔9a、複数の(本実施例では8箇所の)段差付挿通孔9b、周方向等間隔に設けられた複数の(本実施例では3箇所の)の円周方向溝9c及び後述する軸状部材32を固定する固定孔9dを有する。スプロケット4は、段差付挿通孔4bに複数のボルト2aを挿通し、かつ駆動円筒5の雌ねじ孔5bにネジ止めすることで駆動円筒5に一体化される。また、円板9は、複数のボルト2bを段差付挿通孔9bに挿通し、かつ円筒部20の雌ねじ孔20cにネジ止めすることで駆動円筒5に一体化される。
【0033】
図1,
図2、
図4、
図5(c)に示すとおり、第1制御回転体3は、前縁部にフランジ部3aを有する円筒部3bとその後方に連続する底部3cによって形成される。底部3cには、中心の円孔3d、複数のピン固定孔28、中心軸線L0から所定半径を有する円周上に設けられた円周方向溝30、中心軸線L0からガイド溝への距離が進角側D1方向に向けて減少する曲線状の第1縮径ガイド溝31が設けられる。
【0034】
また、
図4に示すとおり、カムシャフト6は、カムシャフト本体6aと、センターシャフト7によって形成される。カムシャフト本体6aは、外周に設けられた複数のカム6bと、中心に設けられた雌ねじ孔6cを有する。
図1,
図2、
図4に示すとおり、センターシャフト7は、中心軸線L0に沿って前後に連続する第1円筒部7a、フランジ部7b、第2円筒部7c、及び第3円筒部7dを有する。第3円筒部7dの基端部の周囲には、ロックプレートの保持部12がフランジ状に形成され、センターシャフト7の中心には、円孔7eが形成される。カムシャフト本体6aは、円孔7eとの雌ねじ孔6cにボルト37を挿入することによって、センターシャフト7に同軸かつ相対回動不能に一体化される。
【0035】
保持部12は、正多角形の垂直断面(中心軸線L0に直交する断面)を有する偶数のプレート押圧面(12a〜12f)によって形成される。尚、本実施例における保持部12は、
図1,
図6(a)に示すように、正6角形の垂直断面(中心軸線L0に直交する断面)を有する6つのプレート押圧面(12a〜12f)によって形成されている。
【0036】
図1、
図2,
図4に示すとおり、スプロケット4は、円孔4aを介してセンターシャフト7の第1円筒部7aに回動可能に支持され、駆動円筒5は、円孔5aに第2円筒部7cを挿通されると共に複数のボルト2aによってスプロケット4に一体化される。駆動円筒5の底部5cの有底溝5dには、後述するガイドリング8が取り付けられ、ガイドリング8の前方には、後述するロックプレート14が配置される。円板9は、ロックプレート14の前方に配置される。また、円板9は、円孔9aにセンターシャフト7の第3円筒部7dを挿通されると共に複数のボルト2bによって駆動円筒5に一体化される。
【0037】
スプロケット4,駆動円筒5及び円板9からなる駆動回転体2は、センターシャフト7によって回動可能に支持される。また、第1制御回転体3は、中心の円孔3dを介してセンターシャフト7の第3円筒部7dに支持され、駆動回転体2,第1制御回転体3,カムシャフト6,センターシャフト7は、中心軸線L0上に同軸に配置される。
【0038】
図1,
図2、
図4に示す、相対位相角変更機構10は、クランクシャフトの回転に連動する駆動回転体2に対し、センターシャフト7に一体化されたカムシャフト6を進角方向D1または遅角方向D2のいずれかに相対回動させる機構である。相対位相角変更機構10は、第1制御回転体3、センターシャフト7,セルフロック機構11、及び軸状部材32、第1制御回転体3を制動することによって駆動回転体2に対して相対回動させる第1電磁クラッチ21、及び駆動回転体2に対して、第1電磁クラッチ21の作動時と逆向きに第1制御回転体3を相対回動させる逆回転機構22によって構成される。
【0039】
セルフロック機構11は、駆動回転体2とセンターシャフト7との間に介装され、カムシャフト6が図示しないバルブスプリングから受けるカムトルクを原因とした、駆動回転体2に対するカムシャフト6の組付角のズレの発生を防止する機構であり、センターシャフト7の保持部12,ロックプレート14,駆動回転体2の円筒部20によって構成される。
【0040】
ロックプレート14は、
図1,
図6(b)、
図7に示すように、保持部12のプレート押圧面(12a〜12f)の数の半数組(本実施例では3組)設けられる。本実施例においてロックプレート14は、第1ロックプレート14a、第2ロックプレート14b及び第3ロックプレート14cの3つによって形成される。各ロックプレート(14a〜14c)は、それぞれ扇形に近似する形状を第1部材(18a〜18c)と第2部材(19a〜19c)に2分割してなる形状を有する。第1部材(18a〜18c)と第2部材(19a〜19c)は、それぞれ駆動回転体2の円筒部20の内周面20aに沿った円弧形状の外周面(18d、19d)を有する。また、第1部材(18a〜18c)の内周面には、第1受圧部(15a〜15c)が設けられ、第2部材(19a〜19c)の内周面には、第2受圧部(16a〜16c)が設けられる。一対になる第1部材(18a〜18c)と、第2部材(19a〜19c)の対向面(23c、23d)には、それぞれ段差孔(23a,23b)がそれぞれ設けられる。また、隣り合うロックプレートの隣接面(23g、23h)には、周方向内側に凹む凹部(23e、23f)がそれぞれ設けられる。また各ロックプレート(14a〜14c)の裏面には、ガイドリング8を係合させる円弧形状の有底溝23iがそれぞれ設けられる。
【0041】
第1部材(18a〜18c)は、軸状部材(24a〜24c)によって第2部材(19a〜19c)に連結される。軸状部材(24a〜24c)は、外周に圧縮コイルばね(25a〜25c)を配置した状態で、第1部材(18a〜18c)と第2部材(19a〜19c)の段差孔(23a,23b)にを挿入固定される。圧縮コイルばね(25a〜25c)は、カムシャフト中心軸線L0に直交する方向に配置される。第1部材(18a〜18c)と第2部材(19a〜19c)は、圧縮コイルばね(25a〜25c)によって互いに離間する方向に付勢される。
【0042】
また、第1部材(18a〜18c)の第1受圧部(15a〜15c)と第2部材(19a〜19c)の第2受圧部(16a〜16c)は、
図6(b)及び
図7に示す通り、共に凸となる曲面として形成される。
【0043】
尚、
図6(a)及び
図7に示す符号S1〜S6は、中心軸線L0を通り、各プレート押圧面(12a〜12f)に直交する仮想面(S1〜S6)を示す。また、符号C1〜C6は、仮想面(S1〜S6)と各プレート押圧面(12a〜12f)との交線を示す。また、センターシャフト7に設けられた保持部12の各プレート押圧面(12a〜12f)は、交線(C1〜C6)から進角方向にある進角側領域(13a〜13f)と、交線(C1〜C6)から遅角方向にある遅角側領域(13g〜13L)によって構成される。
【0044】
図6(b)及び
図7に示すように、各ロックプレート(14a〜14c)は、保持部12と、駆動回転体2の円筒部20の内周面20aとの間に配置される。第1部材(18a〜18c)及び第2部材(19a〜19c)の外周面(18d、19d)は、内周面20aに内接する。また、第1受圧部(15a〜15c)は、プレート押圧面(12a,12c,12e)に対向して配置され、第2受圧部(16a〜16c)は、プレート押圧面(12b,12d,12f)に対向して配置される。
【0045】
第1受圧部(15a〜15c)は、
図8(a)〜(c)に示す通り、それぞれの外側端部23jが内側端部23kに向けて、プレート押圧面(12a,12c,12e)から徐々に離間する凸型曲面として形成されるため、プレート押圧面(12a,12c,12e)の進角側領域(13a,13c,13e)に接触することなく、遅角側領域(13g,13i,13k)のみに接触可能に形成される。また、また、第2受圧部(16a〜16c)は、それぞれの外側端部23mから内側端部23nに向けて、プレート押圧面(12b,12d,12f)から徐々に離間する凸型曲面として形成されるため、プレート押圧面(12b,12d,12f)の遅角側領域(13h,13j,13L)に接触することなく、進角側領域(13b,13d,13f)のみに接触可能に形成される。
【0046】
尚、圧縮コイルばね(25a〜25c)は、円筒部20の内周面20aに沿って遅角方向D2にスライドする付勢力を第1部材(18a〜18c)に付与し、かつ円筒部20の内周面20aに沿って進角方向D1にスライドする付勢力を第1部材(18a〜18c)に付与する。その結果、第1受圧部(15a〜15c)の外側端部23jは、圧縮コイルばね(25a〜25c)によってプレート押圧面(12a,12c,12e)の遅角側領域13bにそれぞれ付勢され、第2受圧部(16a〜16c)の外側端部23mは、圧縮コイルばね(25a〜25c)によってプレート押圧面(12b,12d,12f)の進角側領域13aにそれぞれ付勢される。従って、本実施例の自動車用エンジンの位相可変装置においては、駆動回転体に対するカムシャフトの相対位相角を変更しない場合において、各ロックプレート(14a〜14c)とセンターシャフト7の保持部12との間にガタツキが発生しない。
【0047】
また、第1受圧部(15a〜15c)の外側端部23jは、プレート押圧面(12a,12c,12e)の遅角側領域13bから進角方向(D1方向)のカムトルクによるセルフロック力Fを受ける(
図8(a)を参照)。第2受圧部(16a〜16c)の外側端部23mは、プレート押圧面(12b,12d,12f)の進角側領域13aから遅角方向(D2方向)のカムトルクによるセルフロック力Fを受ける。
【0048】
駆動円筒5の有底溝5dに取り付けられたガイドリング8は、
図1及び
図2に示す通り、ロックプレート(14a〜14c)の裏面の有底溝23iに係合される。
【0049】
また、
図2及び
図5(c)に示す、第1制御回転体3の3つのピン固定孔28には、第1制御回転体3の裏面側から3つのトルク伝達ピン26(請求項1の伝達部材)が取り付けられる。3つのトルク伝達ピン26は、中空太丸軸26aと、その内側に係合固定される細丸軸26bから構成され、細丸軸26bは、ピン固定孔28に取り付けられる。一方、中空太丸軸26aは、円板9の円周方向溝9cから円板9の後方に突出し、各ロックプレート(14a〜14c)の凹部23と、凹部23fとの間に配置される。
【0050】
図7(a)(b)に示す通り、凹部(23e,23f)と中空太丸軸26aとの間には、それぞれ微小隙間(26c、26d)が設けられる。微小隙間(26c、26d)は、圧縮コイルばね(25a〜25c)による付勢力を受けた第1部材(18a〜18c)及び第2部材(19a〜19c)を微小隙間(26c、26d)の長さ分だけD2方向及びD1方向に移動可能にする。各ロックプレート(14a〜14c)と保持部12の間に製造誤差による隙間が発生した場合、第1部材(18a〜18c)及び第2部材(19a〜19c)は、圧縮コイルばね(25a〜25c)の付勢力によって微小隙間(26c、26d)の長さ分だけ移動し、プレート押圧面(12a〜12f)に押し付けられるため、各ロックプレート(14a〜14c)と、保持部12との間には、ガタツキが発生しない。
【0051】
また、円板9の固定孔9dには、
図1、
図2、
図6(b)に示すとおり、太丸軸32aと細丸軸32bからなる軸状部材32の太丸軸32aが固定される。細丸軸32bの先端は、第1制御回転体3の円周方向溝30に挿通されて、底部3cの前方に突出する。
【0052】
また、
図1,
図2、
図4に示す通り、第1電磁クラッチ21は、図示しないエンジンの内部に固定されたカバー部材36に固定された状態で、第1制御回転体3の前方に配置される。作動時の第1電磁クラッチ21は、第1制御回転体3のフランジ部3aの前面3eを吸着して摩擦材21aに接触させる。また、逆回転機構22は、第1制御回転体3の第1縮径ガイド溝31、軸状部材32、第2電磁クラッチ38,第2制御回転体39,第2制御回転体39の第2縮径ガイド溝40,クランク部材41、第1及び第2のピン機構(42,43)によって構成される。
【0053】
図1,
図2、
図5(a)に示すとおり、第2制御回転体39は、円盤形状を有し、かつ中心の貫通円孔39aと第2縮径ガイド溝40を有する。第2制御回転体39は、貫通円孔39aを介し、センターシャフト7の第3円筒部7dによって回動可能に支持される。第2縮径ガイド溝40は、後方に開口する有底溝であり、かつ中心軸線L0から第2縮径ガイド溝40への距離が遅角側D2方向に向けて減少する曲線溝で有る。第1及び第2制御回転体(3,39)の前面(3e、39b)は、
図4に示すように互いに面一となるように配置され、第1及び第2制御回転体(3、39)はボルト37に取付けられるホルダー44によって前方に抜け止めされる。また、第1電磁クラッチ21の内側において、第2制御回転体39の前方には、第2電磁クラッチ38が配置される。作動時の第2電磁クラッチ38は、第2制御回転体39の前面39bを吸着して摩擦材38aに接触させる。
【0054】
図1,
図5(b)に示すように、第1制御回転体3の前方に配置されるクランク部材41は、半径方向に厚肉となるリング部本体45と、リング部本体45から半径方向外側に突出する突出部46と、リング部本体45の外周の一部を切り欠いて薄肉部として形成された切欠部47と、を有する。切欠部47は、突出部46から進角方向(D1方向)の領域にほぼ形成されている。突出部46には、前後に貫通するピン孔48が形成される。リング部本体45には、前後に貫通する第1及び第2ピン孔(49,50)が設けられる。第1及び第2ピン孔(49,50)は、
図5(b)において、突出部から遅角方向(D2方向)の領域に形成されている。
【0055】
図1、
図5(c)、
図6(a)に示すとおり、第1制御回転体3の第1縮径ガイド溝31から前方に突出した細丸軸32bは、クランク部材41のピン孔48に係合し、クランク部材41は、円板9に固定された細丸軸32bによって回動可能に支持される。
【0056】
また、
図1,
図2に示すとおり、第1のピン機構42は、軸状部材42aと、第1中空長円軸42bによって構成される。軸状部材42aは、小径部42cを介してクランク部材41の第1のピン孔49に後方から固定され、第1中空長円軸42bは、クランク部材41の後方で、軸状部材42aによって回動自在に支持される。第2のピン機構43は、軸状部材43aと、第2中空長円軸43bによって構成される。軸状部材43aは、小径部43cを介してクランク部材41の第2ピン孔50に前方から固定され、第2中空長円軸43bは、クランク部材41の前方で、軸状部材43aによって回動自在に支持される。第1中空長円軸42bは、第1縮径ガイド溝31に係合し、かつ第1縮径ガイド溝31に沿って変位可能に保持される。第2中空長円軸43bは、第2縮径ガイド溝40に係合し、かつ第2縮径ガイド溝40に沿って変位可能に保持される。
【0057】
ここで、
図9と
図10によりセルフロック機構11について説明する。駆動回転体2と共に回転するカムシャフト6には、駆動回転体に対するカムシャフトの相対位相角を変更する場合または、変更しない場合のいずれにおいても、バルブスプリング(図示せず)によるカムトルクが、進角方向であるD1方向と遅角方向であるD2方向に交互に入力されている。カムトルクは、第1及び第2電磁クラッチ(21,39)の停止時、即ち、駆動回転体に対するカムシャフトの相対位相角を保持する場合において、駆動回転体2に対するカムシャフト6の相対位相角にズレを生じさせることにより、バルブの開閉タイミングを狂わせるおそれがある。セルフロック機構11は、カムトルクの発生時に第1から第3ロックプレート(14a〜14c)の第1部材(18a〜18c)の外周面18dまたは第2部材(19a〜19c)の外周面19dのいずれかを駆動円筒5の円筒部20の内周面20aに押し付けて、保持部12を有するセンターシャフト7を駆動回転体2に対して回動不能に保持するセルフロック効果により、前記相対位相角のズレを防止するものである。
【0058】
図9(a)〜(c)は、カムシャフト6に進角方向であるD1方向にカムトルクが発生した場合におけるセルフロック効果を示すものである。カムシャフト6のセンターシャフト7が、進角方向であるD1方向のカムトルクを受けると、断面正六角形の保持部12は、D1方向に回動しようとする。その際、第1から第3ロックプレート(14a〜14c)の第1部材(18a〜18c)の第1受圧部(15a〜15c)は、外側端部23jにおいてプレート押圧面(12a,12c,12e)の遅角側領域(13g,13i,13k)からカムシャフトの回転中心軸線L0に直交する方向のセルフロック力F1を受ける。
【0059】
一方、第2部材(19a〜19c)の第2受圧部(16a〜16c)の内側端部23nは、プレート押圧面(12b,12d,12f)に接触しないように離間して配置されているため、保持部12がD1方向に回動しても、プレート押圧面(12b,12d,12f)からカムシャフトの回転中心軸線L0に直交する方向の力を受けない。従って、この場合、第2部材(19a〜19c)は、駆動回転体2の円筒部20の内周面に対して周方向に移動可能に維持される。
【0060】
図9(a)〜(c)において、第1部材(18a〜18c)の外側端部23jを通り、仮想面(S1,S3,S5)に平行な仮想面をそれぞれ(S7〜S9)とし、仮想面(S7〜S9)と、第1部材(18a〜18c)の外周面18dとの交線を(P1〜P3)とすると、円筒部20の内周面20aは、交線(P1〜P3)において第1部材(18a〜18c)の外周面18dから力F1を受ける。力F1は、円筒部20の内周面20aと、第1部材(18a〜18c)の外周面18dとの間に摩擦力を発生させる。
【0061】
前記摩擦力は、以下のように表される。まず、
図8(a)において、交線(P1〜P3)を通り、第1部材(18a〜18c)の外周面18dの接線方向に延びる直線をそれぞれL1とし、仮想面(S4〜S6)にそれぞれ直交する直線をL2とし、直線L1に直交する直線をL3とし、L3と仮想面(S4〜S6)との傾きをそれぞれθ1(以降は、θ1を摩擦角という)とし、摩擦面の摩擦係数をμとする。カムトルクにより、駆動回転体2に対するセンターシャフト7(カムシャフト6)の相対位相角にズレを発生させる力は、交線(P1〜P3)において、外周面18dの接線方向の力F・sinθ1としてそれぞれ表される。一方、円筒部20の内周面20aと、第1部材(18a〜18c)の外周面18dとの間に発生する摩擦力は、μ・F1・cosθ1によってそれぞれ表される。
【0062】
前記摩擦力が相対位相角にズレを発生させる力よりも大きい場合、即ち、F1・sinθ1<μ・F1・cosθ1の条件を満たす場合、第1部材(18a〜18c)は、セルフロック力Fに基づく摩擦力により、円筒部20の内周面20aに対して相対回動出来ない。従って、θ1<tan
-1μを満たすように摩擦角θ1を設定した場合、保持部12を介して第1から第3ロックプレート(14a〜14c)を保持するセンターシャフト7(カムシャフト6)は、円筒部20を有する駆動回転体2に対して相対回動出来ないように保持される。
【0063】
一方、
図10(a)〜(c)は、カムシャフト6(センターシャフト7)に遅角方向であるD2方向のカムトルクが発生した場合におけるセルフロック効果を示すものである。センターシャフト7が、D2方向のカムトルクを受けると断面正六角形の保持部12は、D2方向に回動しようとする。その際、第1から第3ロックプレート(14a〜14c)の第2部材(19a〜19c)の第2受圧部(16a〜16c)は、外側端部23mにおいてプレート押圧面(12b,12d,12f)の進角側領域(13b,13d,13f)からカムシャフトの回転中心軸線L0に直交する方向のセルフロック力F2を受ける。
【0064】
一方、第1部材(18a〜18c)の第1受圧部(15a〜15c)の内側端部23kは、プレート押圧面(12a,12c,12e)に接触しないように離間して配置されているため、保持部12がD2方向に回動しても、プレート押圧面(12a,12c,12e)からカムシャフトの回転中心軸線L0に直交する方向の力を受けない。従って、この場合、第1部材(18a〜18c)は、駆動回転体2の円筒部20の内周面に対して周方向に移動可能に維持される。
【0065】
図10(a)〜(c)において、第2部材(19a〜19c)の外側端部23mを通り、仮想面(S2,S4,S6)に平行な仮想面をそれぞれ(S10〜S12)とし、仮想面(S10〜S12)と、第2部材(19a〜19c)の外周面19dとの交線を(P4〜P6)とすると、円筒部20の内周面20aは、交線(P4〜P6)において、第2部材(19a〜19c)の外周面19dから力F2を受ける。力F2は、円筒部20の内周面20aと、第2部材(19a〜19c)の外周面19dとの間に以下に示す摩擦力を発生させる。
【0066】
まず、
図10(a)〜(c)において、交線(P4〜P6)から第2部材(19a〜19c)の外周面19dの接線方向に延びる直線をそれぞれL4とし、仮想面(S10〜S12)にそれぞれ直交する直線をL5とし、直線L4に直交する直線をL6とし、L6と仮想面(S10〜S12)との傾きをそれぞれθ2(以降は、θ2を摩擦角という)とする。カムトルクにより、駆動回転体2に対するセンターシャフト7(カムシャフト6)の相対位相角にズレを発生させる力は、交線(P4〜P6)において、それぞれ第2部材(19a〜19c)の外周面19dの接線方向の力F2・sinθ2として表される。一方、円筒部20の内周面20aと、第2部材(19a〜19c)の外周面19dとの間に発生する摩擦力は、μ・F2・cosθ2によってそれぞれ表される。
【0067】
即ち、F2・sinθ2<μ・F2・cosθ2の条件を満たす場合、第2部材(19a〜19c)は、円筒部20の内周面20aに対して相対回動出来ない。従って、θ2<tan
-1μを満たすように摩擦角θ2を設定した場合、センターシャフト7(カムシャフト6)は、駆動回転体2(図示しないクランクシャフト)に対して相対回動出来ないように保持される。
【0068】
図9及び
図10に示す通り、セルフロック機構11においては、進角方向であるD1方向または遅角方向であるD2方向のいずれのカムトルクがカムシャフト6に発生しても、駆動回転体2(図示しないクランクシャフト)に対するカムシャフト6の相対位相角がズレることなく保持される、セルフロック効果が発生する。
【0069】
次に、駆動回転体2に対するセンターシャフト7(カムシャフト6)の相対位相角の変更動作を説明する。第1及び第2電磁クラッチ(21、38)が作動していない場合、カムシャフト6、第1制御回転体3及び第2制御回転体39は、クランクシャフト(図示せず)によって駆動する駆動回転体2と共にD1方向に回転する(
図1及び
図5(a)(c)を参照)。
【0070】
駆動回転体2に対するセンターシャフト7(カムシャフト)の相対位相角を遅角方向であるD2方向に変更する場合には、第1電磁クラッチ21を作動させる。第1電磁クラッチ21によって吸着された第1制御回転体3は、摩擦材21aと接触することによって制動トルクを受け、駆動回転体2に対してD2方向に回転遅れを生じる。
【0071】
その際、
図6(b)及び
図8(a)〜(c)に示す、3つのトルク伝達ピン26は、円板9の円周方向溝9c内を遅角方向であるD2方向に移動し、かつ
図6(b)に示す第1から第3ロックプレート(14a〜14c)の第2部材(19a〜19c)の凹部23fにそれぞれ接触し、D2方向の回動トルクを第2部材(19a〜19c)に付与する。
【0072】
進角方向であるD1方向のカムトルクがカムシャフトに基づくセルフロック力が第1部材(18a〜18c)に作用している場合において、第2部材(19a〜19c)の第2受圧部(16a〜16c)は、圧縮コイルばね(25a〜25c)による付勢力をトルク伝達ピン26によって伝達された、第1電磁クラッチ21によるD2方向の制動トルクによって相殺されるため、プレート押圧面(12b,12d,12f)から浮き上がり、第2受圧部(16a〜16c)と、プレート押圧面(12b,12d,12f)との間には、隙間が形成される。
【0073】
第2受圧部(16a〜16c)と、プレート押圧面(12b,12d,12f)との間に隙間が形成された状態において、カムシャフトに発生するカムトルクの方向がD2方向に切り替わった場合、セルフロック力を受けていた第1部材(18a〜18c)は、セルフロック効果を解除され、第2部材(19a〜19c)は、第2受圧部(16a〜16c)と、プレート押圧面(12b,12d,12f)との間に隙間が形成された状態でトルク伝達ピン26からトルクを受ける。
【0074】
つまり、ロックプレート(14a〜14c)は、第1部材(18a〜18c)と第2部材(19a〜19c)の双方において、駆動回転体2の円筒部20の内周面20aとの間に発生するセルフロック効果を解除された状態でトルク伝達ピン26から遅角方向であるD2方向のトルクを受けると共に、当該トルクをセンターシャフト7の保持部12に伝達する。カムシャフト6は、セルフロック効果を解除された状態でセンターシャフトの保持部12に遅角方向であるD2方向のトルクが作用することにより、駆動回転体2に対して遅角方向に相対回動する。その結果、駆動回転体に対するカムシャフトの相対位相角は、遅角方向であるD2方向に変更され、図示しないエンジンバルブの開閉タイミングが変更される。
【0075】
その際、
図5(b)(c)に示す通り、軸状部材42aに支持された第1中空長円軸42bは、第1縮径ガイド溝31によってガイドされながら、第1縮径ガイド溝31内を略時計回りとなるD3方向に移動する。その際、クランク部材41は、第1のピン孔49に連結された軸状部材42aが第1縮径ガイド溝31に沿って第1制御回転体3の半径方向内側に移動することにより、軸状部材32の周りを反時計回りD2方向に回動する。一方、第2ピン孔50に連結された軸状部材43aがクランク部材41によって移動すると、第2中空長円軸43bは、第2縮径ガイド溝40内を略反時計回りとなるD4方向に移動することにより、第2縮径ガイド溝40の内周面に半径方向内向きの力を付与する。その結果、第2制御回転体39は、センターシャフト7に対して進角方向であるD1方向に相対回動する。
【0076】
一方、駆動回転体2に対するセンターシャフト7(カムシャフト6)の相対位相角を進角方向であるD1方向に変更する場合には、第2電磁クラッチ38を作動させる。第2電磁クラッチ38によって吸着された第2制御回転体39は、摩擦材38aと接触することによって制動される。
【0077】
図5(a)に示す通り、第2電磁クラッチ38によって制動された第2制御回転体39は、センターシャフト7に対して遅角方向であるD2方向に回転遅れを生じる。第2中空長円軸43bは、第2縮径ガイド溝40の内周面から力を受けることにより、第2縮径ガイド溝40内を略時計回りとなるD5方向に移動し、クランク部材41に連結された軸状部材42aは、第1制御回転体3の半径方向外側に移動する。その際、
図5(c)に示す第1中空長円軸42bは、第1縮径ガイド溝31内を略反時計回りとなるD6方向に移動し、第1縮径ガイド溝31の内周面に半径方向外向きの力を付与する。第1制御回転体3は、第1縮径ガイド溝31内をD6方向に移動する第1のピン機構42の第1中空長円軸42bにより、駆動回転体2に対し、進角方向であるD1方向に相対回動するトルクを受ける。
【0078】
その際、
図6(b)及び
図8(a)〜(c)に示す、3つのトルク伝達ピン26は、円板9の円周方向溝9c内を進角方向であるD1方向に移動し、かつ
図6(b)に示す第1から第3ロックプレート(14a〜14c)の第1部材(18a〜18c)の凹部23eにそれぞれ接触し、D1方向の回動トルクを第1部材(18a〜18c)に付与する。
【0079】
遅角方向であるD2方向のカムトルクがカムシャフトに基づくセルフロック力が第2部材(19a〜19c)に作用している場合において、第1部材(18a〜18c)の第1受圧部(15a〜15c)は、圧縮コイルばね(25a〜25c)による付勢力をトルク伝達ピン26によって伝達された、D1方向のトルクによって相殺されるため、プレート押圧面(12a,12c,12e)から浮き上がり、第1受圧部(15a〜15c)と、プレート押圧面(12a,12c,12e)との間には、隙間が形成される。
【0080】
第1受圧部(15a〜15c)と、プレート押圧面(12a,12c,12e)との間に隙間が形成された状態において、カムシャフトに発生するカムトルクの方向がD1方向に切り替わった場合、セルフロック力を受けていた第2部材(19a〜19c)は、セルフロック効果を解除され、第1部材(18a〜18c)は、第1受圧部(15a〜15c)と、プレート押圧面(12a,12c,12e)との間に隙間が形成された状態でトルク伝達ピン26からトルクを受ける。
【0081】
ロックプレート(14a〜14c)は、駆動回転体2の円筒部20の内周面20aとの間に発生するセルフロック効果を解除された状態でトルク伝達ピン26から進角方向であるD1方向のトルクを受けると共に、当該トルクをセンターシャフト7の保持部12に伝達する。カムシャフト6は、セルフロック効果を解除された状態で進角方向であるD1方向のトルクを受けることにより、駆動回転体2に対して進角方向に相対回動する。その結果、駆動回転体に対するカムシャフトの相対位相角は、進角方向であるD1方向に戻され、図示しないエンジンバルブの開閉タイミングが変更される。
【0082】
また、
図9及び
図10に示す通り、このセルフロック機構11によれば、D1方向またはD2方向のいずれのカムトルクを受けても、第1から第3ロックプレート(14a〜14c)の全てにセルフロック機能が発生する。第1から第3ロックプレート(14a〜14c)は、駆動回転体2の駆動円筒5の円筒部20の内周面20a内の周方向等分複数箇所に配置されている。従って、円筒部20の内周面20aには、均等な力Fにより、全周にわたって均等なセルフロック効果が発生する。全周にわたって均等なセルフロック効果が発生した場合、ロックプレート14は、セルフロック効果の発生時に円筒部20の内周面20aに食い込まなくなり、駆動回転体2は、カムシャフトの中心軸線L0に対して傾かなくなる。従って、駆動回転体2に対するカムシャフト6の相対位相角を変更する際に、ロックプレート14と円筒部20との間には、余分な摩擦力が発生せず、駆動回転体2と駆動回転体2を保持するセンターシャフト7との間にも、余分な摩擦力が発生しない。その結果、第1または第2電磁クラッチ(21,39)の作動時において、駆動回転体2(図示しないクランクシャフト)に対するカムシャフト6の相対位相角は、セルフロック機構11の影響を受けることなくスムーズに変更される。
【0083】
尚、保持部12の形状は、4以上の偶数の正多角形断面及びプレート押圧面を有するものであればよく、正6角形断面及び6つのプレート押圧面を有する形状に限られない。
【0084】
また、第1受圧部(15a〜15c)は、プレート押圧面(12a,12c,12e)の進角側領域(13a,13c,13e)に接触しない形状であれば、凸型曲面に限られない。また、第2受圧部(16a〜16c)は、プレート押圧面(12b,12d,12f)の遅角側領域(13h,13j,13L)に接触しない形状であれば、凸型曲面に限られない。例えば、第1受圧部(15a〜15c)の進角側領域(13a,13c,13e)に対向する部分と、第2受圧部(16a〜16c)受圧部(15a〜15cの遅角側領域(13h,13j,13L)に対向する部分を共に外周面(18d、19d)に向かって凹む段差状にしても良い。
【0085】
また、圧縮コイルばね(25a〜25c)は、第1部材(18a〜18c)と第2部材(19a〜19c)互いに離間する方向に付勢するばね部材であればよく、コイルばねに限られない。
【0086】
また、トルク伝達ピン26は、第1制御回転体3から各ロックプレートの間に突出する形態を有し、第1電磁クラッチ21または逆回転機構22によるトルクを各ロックプレート(14a〜14c)に伝達できるものであれば、ピンに限られない。