特許第6029705号(P6029705)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6029705内燃機関におけるクランク室からのオイル排出構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6029705
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】内燃機関におけるクランク室からのオイル排出構造
(51)【国際特許分類】
   F01M 1/06 20060101AFI20161114BHJP
【FI】
   F01M1/06 Q
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-71046(P2015-71046)
(22)【出願日】2015年3月31日
(65)【公開番号】特開2016-191336(P2016-191336A)
(43)【公開日】2016年11月10日
【審査請求日】2015年9月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071870
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 健
(74)【代理人】
【識別番号】100097618
【弁理士】
【氏名又は名称】仁木 一明
(74)【代理人】
【識別番号】100152227
【弁理士】
【氏名又は名称】▲ぬで▼島 愼二
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 広之
【審査官】 小林 勝広
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−061386(JP,A)
【文献】 特開2001−263033(JP,A)
【文献】 特開2007−064081(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01M 1/00−9/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクシャフト(13)を回転自在に支持するクランクケース(14)内に、前記クランクシャフト(13)のクランクウエブ(13a)を収容するクランク室(22)が形成され、前記クランク室(22)内の圧力変動によって開閉するリード弁(85)が、その開弁時に前記クランク室(22)内のオイルを排出するようにして前記クランクケース(14)に配設される内燃機関において、
前記クランクウエブ(13a)の外周が描く回転軌跡(C)に対応して形成される前記クランク室(22)の内周壁(90)の下部に、上方に開いた略V字状に形成されて下方に突出する突部(91)が、前記クランク室(22)内の下部にオイル集合部(92)を形成するようにして設けられ、
前記リード弁(85)で閉じ得るオイル排出口(88)が、前記クランクシャフト(13)の軸線方向に沿う方向から見た側面視で、前記クランクウエブ(13a)の外周が描く回転軌跡(C)の半径方向内方に少なくとも一部が配置されるとともに、それの側縁の一部が前記突部(91)に沿って形成されるようにして、前記クランクケース(14)に設けられることを特徴とする内燃機関におけるクランク室からのオイル排出構造。
【請求項2】
矩形状に形成される前記オイル排出口(88)が、その1つの角部(88a)を最下点とするようにして前記クランクケース(14)に形成されることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関におけるクランク室からのオイル排出構造。
【請求項3】
前記リード弁(85)は、平板状である弁体(86)が前記クランクケース(14)に直接取付けられて成ることを特徴とする請求項1または2に記載の内燃機関におけるクランク室からのオイル排出構造。
【請求項4】
前記突部(91)が有する一対の内側面(91a,91b)の一方(91a)が、クランクウエブ(13a)の外周が描く回転軌跡(C)の接線(L)に沿うように形成され、矩形状の前記オイル排出口(88)の1つの側縁が、前記一方の内側面(91a)に沿って配置されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の内燃機関におけるクランク室からのオイル排出構造。
【請求項5】
前記クランクシャフト(13)に設けられるカムチェーン駆動スプロケット(55)を収容するようにして前記クランクケース(14)内に形成される内側チェーン室(68)と、前記クランクケース(14)ならびに該クランクケース(14)に結合される発電機カバー(64)間に形成される発電機室(63)とを隔てる隔壁部材(66)が、前記クランクケース(14)に取付けられ、前記リード弁(85)の前記クランクケース(14)への取り付け部が前記隔壁部材(66)で覆われる位置に配置されることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の内燃機関におけるクランク室からのオイル排出構造。
【請求項6】
クランクシャフト(13)を回転自在に支持するクランクケース(14)内に、前記クランクシャフト(13)のクランクウエブ(13a)を収容するクランク室(22)が形成され、前記クランク室(22)内の圧力変動によって開閉するリード弁(85)が、その開弁時に前記クランク室(22)内のオイルを排出するようにして前記クランクケース(14)に配設される内燃機関において、
前記リード弁(85)で閉じ得るオイル排出口(88)が、前記クランクシャフト(13)の軸線方向に沿う方向から見た側面視で、前記クランクウエブ(13a)の外周が描く回転軌跡(C)の半径方向内方に少なくとも一部が配置されるようにして、前記クランクケース(14)に設けられ、
前記クランクシャフト(13)に設けられるカムチェーン駆動スプロケット(55)を収容するようにして前記クランクケース(14)内に形成される内側チェーン室(68)と、前記クランクケース(14)ならびに該クランクケース(14)に結合される発電機カバー(64)間に形成される発電機室(63)とを隔てる隔壁部材(66)が、前記クランクケース(14)に取付けられ、前記リード弁(85)の前記クランクケース(14)への取り付け部が前記隔壁部材(66)で覆われる位置に配置されることを特徴とする内燃機関におけるクランク室からのオイル排出構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クランクシャフトを回転自在に支持するクランクケース内に、前記クランクシャフトのクランクウエブを収容するクランク室が形成され、前記クランク室内の圧力変動によって開閉するリード弁が、その開弁時に前記クランク室内のオイルを排出するようにして前記クランクケースに配設される内燃機関に関し、特にクランク室からのオイル排出構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
クランク室の下部に溜まったオイルを、クランク室の圧力変動に応じて開閉するリード弁の開弁によってクランク室から排出するようにした内燃機関が、特許文献1で既に知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4530782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記特許文献1で開示されるものでは、クランクウエブの回転軌跡の外方にリード弁が配置されており、リード弁の配置スペースを確保するために、クランクケースが大型化している。
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、クランクケースの小型化を可能とした内燃機関におけるクランク室からのオイル排出構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、クランクシャフトを回転自在に支持するクランクケース内に、前記クランクシャフトのクランクウエブを収容するクランク室が形成され、前記クランク室内の圧力変動によって開閉するリード弁が、その開弁時に前記クランク室内のオイルを排出するようにして前記クランクケースに配設される内燃機関において、前記クランクウエブの外周が描く回転軌跡に対応して形成される前記クランク室の内周壁の下部に、上方に開いた略V字状に形成されて下方に突出する突部が、前記クランク室内の下部にオイル集合部を形成するようにして設けられ、前記リード弁で閉じ得るオイル排出口が、前記クランクシャフトの軸線方向に沿う方向から見た側面視で、前記クランクウエブの外周が描く回転軌跡の半径方向内方に少なくとも一部が配置されるとともに、それの側縁の一部が前記突部に沿って形成されるようにして、前記クランクケースに設けられることを第1の特徴とする。
【0007】
また本発明は、第1の特徴の構成に加えて、矩形状に形成される前記オイル排出口が、その1つの角部を最下点とするようにして前記クランクケースに形成されることを第2の特徴とする。
【0008】
本発明は、第1または第2の特徴の構成に加えて、前記リード弁は、平板状である弁体が前記クランクケースに直接取付けられて成ることを第3の特徴とする。
【0009】
本発明は、第1〜第3の特徴の構成のいずれかに加えて、前記突部が有する一対の内側面の一方が、クランクウエブの外周が描く回転軌跡の接線に沿うように形成され、矩形状の前記オイル排出口の1つの側縁が、前記一方の内側面に沿って配置されることを第の特徴とする。
【0010】
さらに本発明は、第1〜第の特徴の構成のいずれかに加えて、前記クランクシャフトに設けられるカムチェーン駆動スプロケットを収容するようにして前記クランクケース内に形成される内側チェーン室と、前記クランクケースならびに該クランクケースに結合される発電機カバー間に形成される発電機室とを隔てる隔壁部材が、前記クランクケースに取付けられ、前記リード弁の前記クランクケースへの取り付け部が前記隔壁部材で覆われる位置に配置されることを第の特徴とする。
【0011】
さらに本発明は、クランクシャフトを回転自在に支持するクランクケース内に、前記クランクシャフトのクランクウエブを収容するクランク室が形成され、前記クランク室内の圧力変動によって開閉するリード弁が、その開弁時に前記クランク室内のオイルを排出するようにして前記クランクケースに配設される内燃機関において、前記リード弁で閉じ得るオイル排出口が、前記クランクシャフトの軸線方向に沿う方向から見た側面視で、前記クランクウエブの外周が描く回転軌跡の半径方向内方に少なくとも一部が配置されるようにして、前記クランクケースに設けられ、前記クランクシャフトに設けられるカムチェーン駆動スプロケットを収容するようにして前記クランクケース内に形成される内側チェーン室と、前記クランクケースならびに該クランクケースに結合される発電機カバー間に形成される発電機室とを隔てる隔壁部材が、前記クランクケースに取付けられ、前記リード弁の前記クランクケースへの取り付け部が前記隔壁部材で覆われる位置に配置されることを第6の特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の第1の特徴によれば、クランクシャフトの軸線方向に沿う方向から見た側面視でクランクウエブの外周が描く回転軌跡の半径方向内方にオイル排出口の少なくとも一部が配置されるので、リード弁をクランクシャフトの軸線に近づけて配置することができ、クランクケースの小型化が可能となる。
【0013】
また、クランク室の内周壁の下部に、上方に開いた略V字状に形成されて下方に突出する突部が設けられ、その突部でクランク室内の下部にオイル集合部が形成され、オイル排出口の側縁の一部が突部に沿って形成されるので、クランク室のデッドスペースを小さくして密封性を高めて、オイルの排出性能の向上を図ることができる。
【0014】
また本発明の第2の特徴によれば、矩形状のオイル排出口が、その1つの角部を最下点としてクランクケースに形成されるので、オイル排出口から確実にオイルを排出することができる。
【0015】
本発明の第3の特徴によれば、平板状である弁体をクランクケースに直接取付けることでリード弁が構成されるので、弁体を支持する支持ケース等を不要とし、部品点数を低減することができるとともに、オイル排出口をクランク室の最下点に近づけることを可能とし、クランク室内のオイル死残量を減らすことができる
【0016】
発明の第の特徴によれば、突部の一方の内側面が、クランクウエブの外周が描く回転軌跡の接線に沿うように形成され、矩形状のオイル排出口の1つの側縁が前記一方の内側面に沿って配置されるので、クランク室内でのクランクウエブの回転によってオイルをオイル集合部に効率よく集め、リード弁の開弁によって効果的にオイルをオイル排出口から排出することができる。
【0017】
さらに本発明の第5,第6の特徴によれば、カムチェーン駆動スプロケットを収容する内側チェーン室と、クランクケースおよび発電機カバー間に形成される発電機室とを隔てる隔壁部材で、リード弁のクランクケースへの取り付け部が覆われるので、隔壁部材を外した状態でのクランクケースへのリード弁の組付けが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】自動二輪車に搭載される内燃機関の右側面図である。
図2図1の2−2線断面図である。
図3図1の3−3線断面図である。
図4図1の内燃機関から発電機、発電機カバーおよび隔壁部材を外した状態を示す側面図である。
図5図4から調時伝動機構に関連する部分ならびにオイルポンプに関連する部分の一部を省略して示す側面図である。
図6図5で示す部分の斜視図である。
図7】右側クランクケース半体の内側を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態について添付の図面を参照しながら説明する。なお以下の説明で前後、上下および左右の各方向は内燃機関が搭載される自動二輪車に搭乗した乗員から見た方向を言うものとする。
【0020】
先ず図1および図2において、自動二輪車の車体フレーム(図示せず)には、強制空冷式の単気筒である内燃機関Eが後輪WRを駆動する動力を発揮するようにして上下揺動可能に懸架され、この内燃機関Eの機関本体11に連設されて前記後輪WRの右側まで延出される伝動ケース12内に無段変速機Mが収容され、前記後輪WRは前記伝動ケース12の後部に軸支される。
【0021】
前記機関本体11は、軸線を車幅方向に沿わせたクランクシャフト13を回転自在に支承するクランクケース14と、シリンダボア18を有して前記クランクケース14に結合されるシリンダボディ15と、該シリンダボディ15に結合されるシリンダヘッド16と、シリンダヘッド16に結合されるヘッドカバー17とを備える。
【0022】
前記クランクケース14は、右側クランクケース半体20と、左側クランクケース半体21とが結合されて成る。一方、前記クランクシャフト13は、左右一対のクランクウエブ13aと、それらのクランクウエブ13a間に設けられるクランクピン13bとを有するものであり、前記クランクウエブ13aを収容しつつ前記シリンダボア18に通じるクランク室22がクランクケース14内に形成される。また前記シリンダボア18に摺動可能に嵌合されるピストン23が前記クランクピン13bにコネクティングロッド24を介して連接される。
【0023】
前記クランクシャフト13は、前記右側クランクケース半体20および前記左側クランクケース半体21を回転自在に貫通して、それらのクランクケース半体20,21に回転自在に支持されており、前記クランクシャフト13および右側クランクケース半体20間には軸受である第1のボールベアリング25が介装され、前記クランクシャフト13および左側クランクケース半体21間には、軸受である第2のボールベアリング26と、第2のボールベアリング26の軸方向外方に配置される環状のシール部材27とが介装される。
【0024】
図3を併せて参照して、前記左側クランクケース半体21から突出して前記伝動ケース12内に突入した前記クランクシャフト13の右端部には、前記無段変速機Mの一部を構成する駆動プーリ28が設けられる。前記駆動プーリ28は、前記クランクシャフト13に固定される固定シーブ29と、その固定シーブ29の軸方向内方側に配置されて前記クランクシャフト13に軸方向移動可能に支持される可動シーブ30とを備え、前記固定シーブ29および前記可動シーブ30間にVベルト31が巻き掛けられる。
とを備える。
【0025】
前記可動シーブ30は、遠心式シフト機構32の働きによって前記クランクシャフト13の回転数増大に応じて前記固定シーブ29に近接する側に駆動されるものであり、前記遠心式シフト機構32は、前記可動シーブ30の前記固定シーブ29とは反対側の面に形成されるカム面33と、前記固定シーブ29とは反対側から前記可動シーブ30に対向するようにして前記クランクシャフト13に固定されるウエイト保持プレート34と、前記カム面33および前記ウエイト保持プレート34間に保持される複数のウエイト35とを備える。
【0026】
前記クランクシャフト13の左側端部には冷却ファン36が固定される。また前記機関本体11における前記クランクケース14の一部、前記シリンダボディ15および前記シリンダヘッド16は、シュラウド37で覆われており、前記冷却ファン36によって前記シュラウド37内に冷却空気が送り込まれる。しかも前記ピストン23の角部を臨ませて前記シリンダボディ15および前記シリンダヘッド16間に形成される燃焼室38に先端部を臨ませるようにして前記シリンダヘッド16の左側壁に点火プラグ39が取付けられており、前記冷却ファン36からの冷却空気を前記点火プラグ39の周囲に導くガイド壁40が前記シュラウド37内に固定配置される。
【0027】
前記クランクケース14および前記クランクシャフト13間に設けられる第1および第2のボールベアリング25,26のうちち前記クランクシャフト13の軸線に沿って最も右側に配置される第1のボールベアリング25からの前記クランクシャフト13の突出部には、カムチェーン駆動スプロケット43と、そのカムチェーン駆動スプロケット43よりも軸方向外方に配置されるオイルポンプ駆動歯車44を一体に有する円筒のボス部材45が固定される。また前記オイルポンプ駆動歯車44の軸方向外方には発電機46が配置されており、前記クランクシャフト13の右端部には前記発電機46のインナーロータ47が固定される。
【0028】
前記シリンダヘッド16には、図示しない吸気弁および排気弁が開閉作動可能に配設されており、前記シリンダヘッド16および前記ヘッドカバー17間に形成される動弁室49には、前記吸気弁および前記排気弁を開閉作動せしめる動弁機構50が収容される。
【0029】
前記動弁機構50は、前記クランクシャフト13と平行な軸線を有して前記シリンダヘッド16に回転自在に支承されるカムシャフト51と、該カムシャフト51および前記吸気弁間に設けられる吸気側ロッカアーム52と、前記カムシャフト51および前記排気弁間に設けられる排気側ロッカアーム53とを備える。
【0030】
図4を併せて参照して、前記動弁機構50の一部を構成する前記カムシャフト51には、前記クランクシャフト13からの回転動力が減速比を1/2とした調時伝動機構54によって伝達される。
【0031】
前記調時伝動機構54は、前記クランクシャフト13に固定される前記カムチェーン駆動スプロケット43と、前記カムシャフト51に固定されるカムチェーン被動スプロケット55とに、無端状のカムチェーン56が巻き掛けられて成るものであり、このカムチェーン56を走行させるカムチェーン室57が、前記シリンダボア18よりも右側で前記機関本体11における前記右側クランクケース半体20、前記シリンダボディ15および前記シリンダヘッド16に形成される。
【0032】
而してクランクシャフト13および前記右クランクケース14半体間に介装される第1のボールベアリング25は気体の流通を許容するものであり、カムチェーン室57はクランク室22に連通している。
【0033】
前記カムチェーン56のうち前記カムチェーン駆動スプロケット43から前記カムチェーン被動スプロケット55に向けて走行することで弛む可能性がある部分にはカムチェーンテンショナーガイド58が摺接されており、このカムチェーンテンショナーガイド58の一端部は支軸59を介して右側クランクケース半体20に回動可能に支持される。また前記カムチェーンテンショナーガイド58を前記カムチェーン56側に押しつける付勢力を発揮するテンショナ60が前記シリンダボディ15に取付けられる。また前記カムチェーン56のうち前記カムチェーン被動スプロケット55から前記カムチェーン駆動スプロケット43に向けて走行する部分には、前記カムチェーン56の走行をガイドするカムチェーンガイド61が摺接されており、このカムチェーンガイド61の一端部は、右側クランクケース半体20に一体に設けられて前記クランクシャフト13側に開放した略V字状に形成される受け部62で受けられ、前記カムチェーンガイド61の中間部は前記シリンダボディ15および前記シリンダヘッド16間に回動可能に支持される。
【0034】
図5および図6を併せて参照して、前記右側クランクケース半体20には、前記発電機46を収容する発電機室63を前記右側クランクケース半体20との間に形成する発電機カバー64が結合される。
【0035】
前記右側クランクケース半体20には、有底筒状に形成される前記発電機カバー64の周壁を結合させる外筒部20aと、前記外筒部20aの下部に一部を沿わせるようにして前記外筒部20aの下方に偏った位置に配置される内筒部20bとが、外筒部20aの外端を内筒部20bの外端よりも外方に配置するようにして突設される。
【0036】
前記内筒部20bは開口部65を形成するようにして横断面円形に形成されており、前記開口部65が、前記内筒部20b内に液密に嵌合する前記隔壁部材66で閉じられ、前記開口部65の内周から内方に突出するようにして前記内筒部20bに一体に設けられる周方向2箇所の支持板部67に前記隔壁部材66が締結される。この隔壁部材66によって、前記カムチェーン駆動スプロケット55および前記オイルポンプ駆動歯車44を収容するようにして前記右側クランクケース半体20内に形成されるとともに前記カムチェーン室57の一部を構成する内側チェーン室68と、前記発電機室63とが隔てられる。
【0037】
前記隔壁部材66には、該隔壁部材66を取り外す際に治具を締結するための第1および第2のボス部69,70が前記内側チェーン室68側に突出するようにして一体に設けられており、第1のボス部69は、カムチェーン対向突部としてカムチェーン56に前記クランクシャフト13の軸線に沿う外方側から対向する位置に配置され、第2のボス部70は、カムチェーンガイド対向突部として前記カムチェーンガイド61に前記クランクシャフト13の軸線に沿う外方側から対向する位置に配置される。
【0038】
前記カムチェーンテンショナーガイド58の一端部を支持する前記支軸59は、前記クランクシャフト13の軸線に沿う方向から見て前記隔壁部材66の外側すなわち前記開口部65の外側に配置されるものであり、前記クランクシャフト13の軸線に沿う方向で前記クランクケース14の外側から該クランクケース14に挿通、支持される。
【0039】
前記右側クランクケース半体20は、第1のボールベアリング25を介して前記クランクシャフト13を回転自在に支持する軸受支持壁部20cと、前記内筒部20bおよび前記外筒部20a間で前記内筒部20bの外端よりも軸方向内方に配置されて前記軸受支持壁部20に外側から対向する側壁部20dとが設けられており、前記側壁部20には挿通孔71が設けられ、前記軸受支持壁部20cには、前記挿通孔71と同軸のねじ孔72が設けられる。
【0040】
前記支軸59は、前記挿通孔71に液密に嵌合する拡径頭部59aを有して前記ねじ孔72に螺合されるボルトであり、前記側壁部20dおよび前記軸受支持壁部20c間に配置される前記カムチェーンテンショナーガイド58の一端部が前記支軸59で回動可能に支持される。
【0041】
前記クランクケース14の下部にはオイル溜め75が形成されており、前記左側クランクケース半体21には、前記オイル打面75内のオイルの液面を外部から視認するための液面点検窓76が設けられる。
【0042】
前記右側クランクケース半体20における前記軸受支持壁部20cの外側には、前記オイル溜め75からオイルを吸い上げて内燃機関Eの被潤滑部にオイルを供給するオイルポンプ77が配設されており、このオイルポンプ77は、前記クランクシャフト13を前記支軸59との間に挟む位置であって前記クランクシャフト13の軸線に沿う方向から見て前記隔壁部材66で覆われる位置に配置される。
【0043】
前記オイルポンプ77は、インナーロータ78と、該インナーロータ78に噛合するアウターロータ79とを備えるトロコイドポンプであり、前記軸受支持壁部20cに形成される凹部80に前記インナーロータ78および前記アウターロータ79が収容され、前記凹部80を閉じる平板状のポンプカバー81が前記軸受支持壁部20cに締結される。
【0044】
前記インナーロータ78は、前記ポンプカバー81を回転自在に貫通するとともに両端部が前記軸受支持壁部20cおよび前記隔壁部材66で回転自在に支持されるポンプ軸82に固定されており、前記ポンプカバー81および前記隔壁部材66間に配置されるオイルポンプ被動歯車83が前記ポンプ軸82に固定され、前記オイルポンプ駆動歯車44は前記オイルポンプ被動歯車83に噛合する。
【0045】
しかも前記隔壁部材66で閉じられる開口部65は、前記カムチェーン駆動スプロケット43と、前記オイルポンプ駆動歯車44と、前記オイルポンプ被動歯車83とを、前記クランクシャフト13の軸線に沿う方向から見て囲むように形成される。
【0046】
前記右側クランクケース半体20の前記軸受支持壁部20cには、前記クランク室22内の圧力変動によって開閉するリード弁85が、その開弁時に前記クランク室22内のオイルを排出するようにして配設されており、このリード弁85は、前記隔壁部材66で覆われる位置に配置される。
【0047】
前記リード弁85で閉じ得るオイル排出口88は、前記クランクシャフト13の軸線方向に沿う方向から見た側面視で、前記クランクウエブ13aの外周が描く回転軌跡Cよりも半径方向内方に少なくとも一部が配置されるようにして前記軸受支持壁部20cに設けられる。
【0048】
図7を併せて参照して、前記オイル排出口88は、矩形状に形成されており、その1つの角部88aを最下点とするようにして前記右側クランクケース半体20の前記軸受支持壁部20cに形成される。
【0049】
また前記リード弁85は、平板状である弁体86が前記右側クランクケース半体20の前記軸受支持壁部20cの外面に、たとえば一対のねじ部材89で直接取付けられて成るものであり、前記オイル排出口88を開く側への前記弁体86の作動端を規制する規制板87が、前記ねじ部材89による前記弁体86との共締めで前記軸受支持壁部20cに締結される。
【0050】
ところで前記クランク室22の内周壁90は、前記クランクウエブ13aの外周が描く回転軌跡Cに対応して形成されるのであるが、この内周壁90の下部に、上方に開いた略V字状に形成されて下方に突出する突部91が、前記クランク室22内の下部にオイル集合部92を形成するようにして設けられ、前記オイル排出口88の側縁の一部が前記突部91に沿って形成される。
【0051】
前記突部91が有する一対の内側面91,91bの一方91aが、クランクウエブ13aの外周が描く回転軌跡Cの接線Lに沿うように形成され、矩形状の前記オイル排出口88の1つの側縁が、前記一方の内側面91aに沿って配置される。
【0052】
次にこの実施の形態の作用について説明すると、カムシャフト51に動力を伝達するカムチェーン56を巻き掛けるカムチェーン駆動スプロケット43およびオイルポンプ駆動歯車44を収容するようにしてクランクケース14の右側クランクケース半体20内に形成される内側チェーン室68と、右側クランクケース半体20ならびに該右側クランクケース半体20に結合される発電機カバー64間に形成される発電機室63とを隔てる隔壁部材66が、右側クランクケース半体20に取付けられ、カムチェーン56に張力を付与するカムチェーンテンショナーガイド58の一端部を前記右側クランクケース半体20に回動可能に支持する支軸59が、クランクシャフト13の軸線に沿う方向から見て前記隔壁部材66の外側に配置されるとともに、前記クランクシャフト13の軸線に沿う方向で前記クランクケース14の外側から該クランクケース14に挿通、支持されるので、隔壁部材66を小型化することが可能であり、また支軸59のクランクケース14への取付けが容易となる。
【0053】
またオイルポンプ77が、前記クランクシャフト13を前記支軸59との間に挟む位置であって前記クランクシャフト13の軸線に沿う方向から見て前記隔壁部材66で覆われる位置に配置されるようにして前記右側クランクケース半体20に配設され、前記オイルポンプ77側に動力を伝達するオイルポンプ駆動歯車44が、前記カムチェーン駆動スプロケット43の軸方向外方で前記クランクシャフト13に設けられるので、オイルポンプ77を避けた位置で支軸59をクランクケース14に取付けるようにして、支軸59を短くすることができる。
【0054】
また前記隔壁部材66で閉じられる開口部65が前記右側クランクケース半体20に設けられ、この開口部65が、前記カムチェーン駆動スプロケット43と、前記オイルポンプ駆動歯車44と、前記オイルポンプ77のポンプ軸82に固定されて前記オイルポンプ駆動歯車44に噛合するオイルポンプ被動歯車83とを、前記クランクシャフト13の軸線に沿う方向から見て囲むように形成されるので、カムチェーン56のカムチェーン駆動スプロケット43への巻き掛けを容易とするとともに、オイルポンプ77の組立を容易として、組み付け作業性の向上を図ることができる。
【0055】
また前記カムチェーン56に前記クランクシャフト13の軸線に沿う外方側から対向するカムチェーン対向突部である第1のボス部69が、前記隔壁部材66に突設されるので、部品点数の増大を回避しつつ、カムチェーン56のカムチェーン駆動スプロケット43からの脱落を防止することができる。
【0056】
またクランクシャフト13および前記カムシャフト51間での前記カムチェーン56の走行をガイドするカムチェーンガイド61に前記クランクシャフト13の軸線に沿う外方側から対向するカムチェーンガイド対向突部としての第2のボス部70が、前記隔壁部材66に突設されるので、部品点数の増大を回避しつつ、カムチェーンガイド61の脱落を防止することができる。
【0057】
またクランク室22内の圧力変動によって開閉するリード弁85が、その開弁時に前記クランク室22内のオイルを排出するようにして前記右側クランクケース半体20に配設され、そのリード弁85で閉じ得るオイル排出口88が、前記クランクシャフト13の軸線方向に沿う方向から見た側面視で、前記クランクウエブ13aの外周が描く回転軌跡Cよりも半径方向内方に少なくとも一部が配置されるようにして前記右側クランクケース半体20に設けられるので、リード弁85をクランクシャフト13の軸線に近づけて配置することができ、クランクケース14の小型化が可能となる。
【0058】
また矩形状に形成される前記オイル排出口88が、その1つの角部88aを最下点とするようにして前記右側クランクケース半体20に形成されるので、オイル排出口88から確実にオイルを排出することができる。
【0059】
また前記リード弁85が、平板状である弁体86が前記右側クランクケース半体20に直接取付けられて成るので、弁体86を支持する支持ケース等を不要とし、部品点数を低減することができるとともに、オイル排出口88をクランク室22の最下点に近づけることを可能とし、クランク室22内のオイル死残量を減らすことができる。
【0060】
またクランクウエブ13aの外周が描く回転軌跡Cに対応して形成される前記クランク室22の内周壁90の下部に、上方に開いた略V字状に形成されて下方に突出する突部91が、前記クランク室22内の下部にオイル集合部92を形成するようにして設けられ、前記オイル排出口88の側縁の一部が前記突部91に沿って形成されるので、クランク室22のデッドスペースを小さくして密封性を高めて、オイルの排出性能の向上を図ることができる。
【0061】
また突部91が有する一対の内側面91a,91bの一方91aが、クランクウエブ13aが描く回転軌跡Cの接線Lに沿うように形成され、矩形状の前記オイル排出口88の1つの側縁が前記一方の内側面91aに沿って配置されるので、クランク室22内でのクランクウエブ13aの回転によってオイルをオイル集合部92に効率よく集め、リード弁85の開弁によって効果的にオイルをオイル排出口88から排出することができる。
【0062】
さらに前記リード弁85の前記クランクケース14への取り付け部が前記隔壁部材66で覆われる位置に配置されるので、隔壁部材66を外した状態でのクランクケース14へのリード弁85の組付けが容易となる。
【0063】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行うことが可能である。
【符号の説明】
【0064】
13・・・クランクシャフト
13a・・・クランクウエブ
14・・・クランクケース
22・・・クランク室
55・・・カムチェーン駆動スプロケット
63・・・発電機室
64・・・発電機カバー
66・・・隔壁部材
68・・・内側チェーン室
85・・・リード弁
88・・・オイル排出口
88a・・・オイル排出口の角部
86・・・弁体
90・・・内周壁
91・・・突部
91a,91b・・・突部の内側面
92・・・オイル集合部
C・・・回転軌跡
E・・・内燃機関
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7