【文献】
H. M. MULLER-STEINHAGEN and C. A. BRANCH,Comparison of indices for the scaling and corrosion tendency of water,The Canadian Journal of Chemical Engineering,2009年 3月26日,Volume 66, Issue 6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
水質診断を行う溶液中における、カルシウムイオン濃度、炭酸イオン濃度、水素イオン濃度、水温およびカルシウムイオンと反応して難溶解性塩を形成する溶存イオン濃度の値を測定する第1工程と、
前記第1工程において測定された前記カルシウムイオン濃度、前記炭酸イオン濃度、前記水素イオン濃度および前記水温の値を用い、前記溶液中における炭酸カルシウムの過飽和係数を算出する第2工程と、
前記第1工程において測定された前記カルシウムイオンと反応して難溶解性塩を形成する溶存イオン濃度の値を用い、前記過飽和係数から、補正された修正過飽和係数を算出する第3工程と、
前記修正過飽和係数から水質を判定する第4工程と、
を含み、
前記過飽和係数は、前記カルシウムイオン濃度と前記炭酸イオン濃度と二価イオンの活量係数の2乗との積を炭酸カルシウムの溶解度積で除した値に基づく、水質診断方法。
前記第4工程では、カルシウムイオンと反応して難溶解性塩を形成する炭酸イオン以外の溶存イオンを含まない所定の水質におけるスケールが析出するまでの誘導期間およびスケールの成長速度を元に、前記修正過飽和係数に基づいて任意の使用期間でのスケールの付着量を算出し、
前記スケールの付着量が、閾値以上か否かを判定することにより水質を判定する、請求項1から3のいずれか1項に記載の水質診断方法。
前記第4工程では、カルシウムイオンと反応して難溶解性塩を形成する炭酸イオン以外の溶存イオンを含まない所定の水質におけるスケールが析出するまでの誘導期間およびスケールの成長速度を元に、前記修正過飽和係数に基づくスケールの付着量が許容スケール付着量に至るまでの時間を算出し指標とすることにより水質を判定する、請求項1から3のいずれか1項に記載の水質診断方法。
水質診断を行う溶液中における、カルシウムイオン濃度、炭酸イオン濃度、水素イオン濃度、水温およびカルシウムイオンと反応して難溶解性塩を形成する溶存イオン濃度の値を測定する測定部と、
前記測定部において測定された前記カルシウムイオン濃度、前記炭酸イオン濃度、前記水素イオン濃度および前記水温の値を用い、前記溶液中における炭酸カルシウムの過飽和係数を算出する算出部と、
前記測定部において測定された前記カルシウムイオンと反応して難溶解性塩を形成する溶存イオン濃度の値を用い、前記過飽和係数から、補正された修正過飽和係数を算出する補正部と、
前記修正過飽和係数から水質を判定する判定部と、
を備え、
前記過飽和係数は、前記カルシウムイオン濃度と前記炭酸イオン濃度と二価イオンの活量係数の2乗との積を炭酸カルシウムの溶解度積で除した値に基づく、水質診断装置。
前記判定部は、カルシウムイオンと反応して難溶解性塩を形成する炭酸イオン以外の溶存イオンを含まない所定の水質におけるスケールが析出するまでの誘導期間およびスケールの成長速度を元に、前記修正過飽和係数に基づいて任意の使用期間でのスケールの付着量を算出し、
前記スケールの付着量が、閾値以上か否かを判定することにより水質を判定する、請求項7から9のいずれか1項に記載の水質診断装置。
前記判定部は、カルシウムイオンと反応して難溶解性塩を形成する炭酸イオン以外の溶存イオンを含まない所定の水質におけるスケールが析出するまでの誘導期間およびスケールの成長速度を元に、前記修正過飽和係数に基づくスケールの付着量が許容スケール付着量に至るまでの時間を算出し指標とすることにより水質を判定する、請求項7から9のいずれか1項に記載の水質診断装置。
前記制御部は、オルトリン酸イオンまたはマグネシウムイオンを徐放する物質が充填された水質制御部と、貯湯タンクに給水される水が前記水質制御部を通るように調整する流量制御弁とから構成されている、請求項14に記載の給湯器システム。
【発明を実施するための形態】
【0016】
前述したとおり、本発明者らは、溶液中のカルシウムイオン濃度、炭酸イオン濃度、水素イオン濃度(pH)および水温が同等であっても、カルシウムイオンと反応して難溶解性塩を形成する溶存イオン濃度の影響にて、炭酸カルシウムの析出速度が大きく変化することを解明した(実施例参照)。そこで、まず、カルシウムイオンと反応して難溶解性塩を形成する溶存イオン濃度の影響を考慮した水質診断装置および水質診断方法について、理論的説明を含め、詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明に係る水質診断装置のブロック図を示す図である。
図1に示すように、水質診断装置100は、測定部101、算出部102、補正部103および判定部104から構成される。測定部101は、水質診断を行う溶液中における、カルシウムイオン濃度、炭酸イオン濃度、水素イオン濃度、水温およびカルシウムイオンと反応して難溶解性塩を形成する溶存イオン(オルトリン酸イオンまたはマグネシウムイオン等)濃度の値を測定する。算出部102は、測定されたカルシウムイオン濃度、炭酸イオン濃度、水素イオン濃度および水温の値を用い、溶液中における炭酸カルシウムの過飽和係数を算出する。補正部103は、カルシウムイオンと反応して難溶解性塩を形成する溶存イオン濃度の値を用い、炭酸カルシウムの析出速度へ与える影響を考慮して補正された修正過飽和係数を算出する。
【0018】
判定部104は、算出した修正過飽和係数から水質を判定する。本願において、水質を判定するという文言は、結果的に、スケール対策が必要であるか否か判定すること、または、熱交換器の洗浄・交換が必要となる時間(期間)を確認もしくは洗浄・交換の必要性を判定すること等を意図する。後の実施の形態2および3にて述べるように、判定部104は、補正部103にて算出された数値から、蓄積された特定のデータを用い、それぞれの実施の形態にて所望する数値を算出するための算出手段を含んでいる場合もある。判定手段の具体的な方法は、後に、実施の形態1から3において詳細に説明する。
【0019】
本発明者らは、固体核生成に関する均一核生成理論(例えば、後藤芳彦著、「結晶成長」第29〜44頁参照)を用いて、炭酸カルシウムの析出特性に対するリン酸イオンの影響を考察した。炭酸カルシウムの過飽和係数をS
1、水温をT(K)、析出核と水の間の界面エネルギーをγ(J/m
2)、ボルツマン定数をk(J/K)、溶液中のイオン分子の衝突頻度をA(1/s)とすると、炭酸カルシウムの析出速度Rは、以下の式にて与えられる。
【数1】
【0020】
また、溶液中のカルシウム濃度を[Ca
2+]、炭酸イオン濃度を[CO
32−]、二価イオンの活量係数をf
D、炭酸カルシウムの溶解度積をKspとすると、炭酸カルシウムの過飽和係数S
1は以下の式にて与えられる。
図1に示す算出部102は、測定部101において測定された各値を利用し以下の式を用いることにより、炭酸カルシウムの過飽和係数S
1を算出する。
【数2】
【0021】
溶解度積のKspは、温度によって決定される物性値(例えば、Plummer et al, Geochimica Et Cosmochimica Acta, 1982. 46(6): p. 1011-1040参照)である。例えば、水温10℃、20℃、60℃において、それぞれ、3.89×10
−9、3.53×10
−9、1.74×10
−9である。つまり、高温になるほど溶解度積は小さくなり、一定の溶液組成に対する過飽和係数S
1は大きくなる。これは、高温ほど炭酸カルシウムが析出し易いことを意味する。一方、二価イオンの活量係数f
Dは水溶液の電気伝導率、水素イオン濃度によって変化するが、通常の水道水であれば、0.6〜0.8の範囲である。
【0022】
例えば、カルシウムイオンと反応して難溶解性塩を形成する溶存イオンがオルトリン酸イオンである場合について述べると、通常、溶液中のカルシウム濃度、炭酸イオン濃度、水素イオン濃度(pH)および水温が同等であれば、水温と過飽和係数S
1は一定のはずである。ボルツマン定数kと衝突頻度Aも不変なので、溶液中のオルトリン酸イオン濃度の炭酸カルシウムの析出速度に対する影響は、析出核と水の間の界面エネルギーγがγ→γ'に変化したことに起因すると説明できる(以下の式参照)。
【数3】
【0023】
ここで、オルトリン酸イオン添加の炭酸カルシウムの析出速度Rへの影響を補正する目的で、以下の式を満たすような修正過飽和係数S
2を導入する。
【数4】
【0024】
オルトリン酸イオン濃度をC
Pとして、上記の数4の式を用い、後述の実施例1における炭酸カルシウムの析出速度Rとオルトリン酸イオン濃度C
Pの測定結果とを解析した。すると、C
Pが3.0mg/L未満の場合においては、修正過飽和係数S
2と過飽和係数S
1の間には以下の範囲の関係式が成立することがわかった。すなわち、修正過飽和係数S
2は、オルトリン酸イオン濃度C
Pの多項式からなる分母で規格化された0.6〜1.4倍の過飽和係数S
1の範囲に含まれる。その中央値は、1.0倍である。代表値は、中央値を用いて算出する。
【数5】
【0025】
C
Pが3.0mg/L以上では炭酸カルシウムの析出速度Rは一定なので、この場合においては、修正過飽和係数S
2と過飽和係数S
1の間には以下の範囲の関係式が成立することがわかった。この場合の中央値は、0.227S
1となる。代表値は、中央値を用いて算出する。従って、
図1に示す補正部103は、測定部101により測定されたオルトリン酸イオン濃度の値に基づき、上記の数5または下記の数6の式を用い、過飽和係数S
1から、オルトリン酸イオンの炭酸カルシウムの析出速度へ与える影響を考慮して補正された修正過飽和係数S
2を算出する。
【数6】
【0026】
このように、オルトリン酸イオン濃度の影響を考慮する水質診断では、まず、カルシウムイオン濃度、炭酸イオン濃度、水素イオン濃度および水温、さらにはオルトリン酸イオン濃度を測定する。その後、カルシウムイオン濃度、炭酸イオン濃度および水素イオン濃度以外の溶存イオンを考慮しない、炭酸カルシウムの過飽和係数S
1を算出する。次いで、当該オルトリン酸イオン濃度に基づき、修正過飽和係数S
2として補正・算出する。
図1に示す判定部104では、当該修正過飽和係数S
2を用いて水質を判定する。
【0027】
一方、例えば、カルシウムイオンと反応して難溶解性塩を形成する溶存イオンがマグネシウムイオンである場合でも、ある関係式が成立することがわかった。マグネシウムイオン濃度をC
M(mol/L)、カルシウムイオン濃度をC
C(mol/L)として、前述の数4の式を用い、後述する実施例2における炭酸カルシウムの析出速度Rとマグネシウムイオン濃度C
Mの測定結果を解析した。すると、修正過飽和係数S
2と過飽和係数S
1の間には以下の範囲の関係式が成立することがわかった。すなわち、修正過飽和係数S
2は、C
M/C
Cを含む1次式からなる分母で規格化された0.6〜1.4倍の過飽和係数S
1の範囲に含まれる。その中央値は1.0倍である。この場合でも同様に、
図1に示す補正部103は、測定部101により測定されたマグネシウムイオン濃度およびカルシウムイオン濃度の値を下記の数7の式に当てはめ、過飽和係数S
1から、マグネシウムイオンの炭酸カルシウムの析出速度へ与える影響を考慮して補正された修正過飽和係数S
2を算出する。
【数7】
【0028】
このように、マグネシウムイオン濃度の影響を考慮する水質診断では、まず、カルシウムイオン濃度、炭酸イオン濃度、水素イオン濃度および水温、さらにはマグネシウムイオン濃度を測定する。その後、カルシウムイオン濃度、炭酸イオン濃度および水素イオン濃度以外の溶存イオンを考慮しない、炭酸カルシウムの過飽和係数S
1を算出する。次いで、算出したマグネシウムイオン濃度およびカルシウムイオン濃度の値を用い、上記の数7の式にて修正飽和係数S
2として補正する。
図1に示す判定部104では、当該修正過飽和係数S
2を用いて水質を判定する。その結果、給湯器システム等の熱交換器を流れる水において、カルシウムスケール付着に影響を与える水質を、より精度よく診断することができる。
【0029】
(実施の形態1)
図2は、実施の形態1に係る水質診断方法を示すフローチャートである。
図2に示すように、水質診断では、まず、カルシウムイオン濃度、炭酸イオン濃度、水素イオン濃度、水温およびカルシウムイオンと反応して難溶解性塩を形成する溶存イオン濃度(オルトリン酸イオン濃度またはマグネシウムイオン濃度等)の値を測定する(ステップS11)。次に、測定されたカルシウムイオン濃度、炭酸イオン濃度、水素イオン濃度および水温の値から過飽和係数S
1を算出する(ステップS12)。そして、過飽和係数S
1から、修正過飽和係数S
2を算出する(ステップS13)。ここで、修正過飽和係数S
2が、閾値S
0以上か否かを判定する(ステップS14)。修正過飽和係数S
2が閾値S
0以上である場合には(ステップS14;YES)、カルシウムスケール付着が進行すると判断できるので、スケール対策が必要であると判断する(ステップS15)。修正過飽和係数S
2が閾値S
0未満である場合には(ステップS14;NO)、カルシウムスケール付着は進行しないと判断できるので、スケール対策は不要と判断する(ステップS16)。
【0030】
閾値S
0とは、後に詳細に説明するが、例えば本実施の形態1に係る水質診断方法が利用・適用される給湯器に応じて決定される値である。後述する実施の形態4から7では、実施の形態1にて説明した水質診断方法が適用された給湯器システムについて詳細に説明する。実施の形態4から7では、修正過飽和係数S
2が、閾値S
0以上であると判定された場合、修正過飽和係数S
2を下げるよう、カルシウムスケール付着抑制として機能・動作する種々の水質(診断)制御器を備える給湯器システムについて述べている。しかし、例えば、実施の形態1にて述べた水質診断工程・ステップのみを行う装置を備える給湯器システムにおいて、別個として水質制御装置または水質改善装置等を取り外し可能となるように設計してもよい。
【0031】
(実施の形態2)
実施の形態2では、修正過飽和係数S
2を用いてスケールの付着量を計算し、水質を判定する水質診断方法について説明する。この方法によると、前述の実施の形態1の水質診断方法の精度をさらに高める。
【0032】
カルシウムイオン、炭酸イオンおよび水素イオン以外のカルシウムと反応して難溶解性塩を形成する溶存イオンを含まない所定の水質における炭酸カルシウムの析出速度Rは、前述した数1の式において同様に与えられる。ここで、スケールが析出するまでの時間を誘導期間t
indとすると、誘導期間t
indは前述の数1の逆数に比例するので、以下の式の比例関係が求められる。
【数8】
【0033】
従って、過飽和係数S
1および誘導期間t
indと、オルトリン酸イオン濃度およびマグネシウムイオン濃度を考慮した水質における修正過飽和係数S
2での誘導期間t’
indとの関係は、以下の式で与えられる。
【数9】
【0034】
ここで、予め、析出核と水の間の界面エネルギーγの値を求めておく。さらに、同装置において、オルトリン酸イオンおよびマグネシウムイオン等のカルシウムイオンと反応して難溶解性塩を形成する溶存イオンを含まない所定の水質における誘導期間t
indを測定しておく。すると、修正過飽和係数S
2に係る水質における誘導期間t’
indを計算することができる。界面エネルギーγに関しては、リン酸を含まない場合のスケールの界面エネルギーγは0.018J/m
2である。リン酸を含む場合のスケールの界面の界面エネルギーγは0.024J/m
2である。
【0035】
さらに、スケールの成長速度Uは過飽和係数Sを用いて、以下の式で計算される。kは、反応速度係数であり、温度によって変化する物性値である。
【数10】
【0036】
水温が異なる場合は、上記の反応速度係数kは、以下の式で計算される。
【数11】
【0037】
ε
aは活性化エネルギーであり、温度に依存しない物質固有の物性値である(例えば、Wiecher et al, Water Research, 1975, 9(9): 835-845参照)。炭酸カルシウムの場合は、10.3kcal/molである。これらの値を用いると、水温T
1、過飽和係数S
1、成長速度U
1における場合と、水温T
2、修正過飽和係数S
2、成長速度U
2における場合とでの、成長速度U
1と成長速度U
2の相対値は以下の式で計算される。
【数12】
【0038】
数12を用いると、前述した数5、数6および数7より算出される修正過飽和係数S
2から、この場合のスケールの成長速度U
2が、オルトリン酸イオンおよびマグネシウムイオン等のカルシウムイオンと反応して難溶解性塩を形成する溶存イオンを含まない所定の水質における成長速度U
1の何倍に当たるかを、計算することができる。このように、オルトリン酸イオン濃度等を考慮しない過飽和係数S
1である水質の同装置における誘導期間t
indおよび成長速度U
1、さらには特定の期間におけるスケールの付着量V
1を測定しておくことで、修正過飽和係数S
2における誘導期間t’
indおよび成長速度U
2を計算することができる。誘導期間はスケールの析出が開始するまでの時間であり、成長速度は析出したスケールが成長する速度であって、スケールの付着量は析出開始後の成長速度に比例する。そのため、診断において、オルトリン酸イオン濃度およびマグネシウムイオン濃度を考慮した水質における任意の時間(例えば、想定使用期間)でのスケール付着量V
2を計算することができる。本実施の形態2に係る水質診断方法は、このように計算された任意の時間でのスケール付着量V
2を判定することにより水質を判定する。
【0039】
図3は、実施の形態2に係る水質診断方法を示すフローチャートである。
図3に示すように、修正過飽和係数S
2を算出するまでのステップS21、ステップS22およびステップS23は、それぞれ、前述の実施の形態1において述べたステップS11、ステップS12およびステップS13と同様である。
【0040】
ステップS23の次に、上述した方法にて、修正過飽和係数S
2を用い、オルトリン酸イオンおよびマグネシウムイオン等のカルシウムイオンと反応して難溶解性塩を形成する溶存イオンを含まない所定の水質における同装置での誘導期間t
indおよび成長速度U
1の値を元とし、誘導期間t’
indおよび成長速度U
2を算出する。さらに任意の使用時間におけるスケール付着量V
2を算出する(ステップS24)。ここで、スケール付着量V
2が、許容スケール付着量V
0以上か否かを判定する(ステップS25)。スケール付着量V
2が許容スケール付着量V
0以上である場合には(ステップS25;YES)、スケール付着による機能低下が想定されるので、スケール対策が必要であると判断する(ステップS26)。スケール付着量V
2が許容スケール付着量V
0未満である場合には(ステップS25;NO)、スケール付着による機能低下は許容範囲内であると想定されるので、スケール対策は不要と判断する(ステップS27)。許容スケール付着量V
0とは、前述の実施の形態1に係る閾値S
0と同意図の規定となる値であり、例えば本実施の形態2に係る水質診断方法が利用・適用される給湯器に応じて適宜決定される値である。
【0041】
(実施の形態3)
実施の形態3では、前述の実施の形態2のように、スケール付着量V
2から水質を判定する水質診断方法ではなく、スケール対策または熱交換器の洗浄・交換が必要となるに至る時間を算出し指標とすることにより、水質を判定する水質診断方法について説明する。
【0042】
図4は、実施の形態3に係る水質診断方法を示すフローチャートである。
図4に示すように、修正過飽和係数S
2を算出するまでのステップS31、ステップS32およびステップS33は、それぞれ、前述の実施の形態1において述べたステップS11、ステップS12およびステップS13と同様である。
【0043】
ステップS33の次に、実施の形態2において前述した方法にて、修正過飽和係数S
2を用い、オルトリン酸イオンおよびマグネシウムイオン等のカルシウムイオンと反応して難溶解性塩を形成する溶存イオンを含まない所定の水質における同装置での誘導期間t
indおよび成長速度U
1の値を元とし、誘導期間t’
indおよび成長速度U
2を算出する(ステップS34)。次に、当該算出された誘導期間t’
indおよび成長速度U
2から、診断対象の水質のスケール付着量が許容スケール付着量V’
0(スケール対策または熱交換器の洗浄・交換が必要となるスケール付着量)に至るまでの時間(t’
0とする)を算出する。このスケール対策または熱交換器の洗浄・交換が必要となるに至るまでの時間t’
0を指標として、水質を判定する(ステップS35)。例えば、時間t’
0が熱交換器の通常の想定使用期間より短ければ、スケール対策または熱交換器の洗浄・交換対策を行う必要がある水質であると判断することができる。一方、時間t’
0が想定使用期間より長ければ、長期間においてスケール対策または熱交換器の洗浄・交換は不要な水質であると判断することができる。
【0044】
算出されたスケール対策または熱交換器の洗浄・交換が必要となるに至るまでの時間t’
0は、例えば、本実施の形態3に係る水質診断方法が利用・適用される水質診断装置または給湯器において表示されるよう構成されていてもよい。許容スケール付着量V’
0(スケール対策または熱交換器の洗浄・交換が必要となるスケール付着量)は、前述の実施の形態1および2において述べた規定値と同様に、例えば、本実施の形態3に係る水質診断方法が利用・適用される給湯器に応じて適宜決定される値である。
【0045】
(実施の形態4)
実施の形態4以降では、実際の給湯器システムの形態について、詳細に説明する。前述の実施の形態1から3では、スケール対策または熱交換器の洗浄・交換の必要性の判定手段の段階において、それぞれ異なる手段を述べたが(ステップS14、ステップS25またはステップS35)、以下、代表して、実施の形態1にて述べたステップS14の判定手段を用いて説明する。当業者であれば、下記を基に、他の判定手段を用いた給湯器システムへと応用することは容易であろう。
【0046】
図5は、ヒートポンプ熱交換式の給湯器システムの冷媒回路と水回路の構成を示す概略図である。
図5に示すように、一般的な給湯器システム1は、圧縮機2と、第1冷媒配管3と、冷媒/水熱交換器4と、貯湯タンク5と、ポンプ6と、第1水配管7と、第2水配管8と、第2冷媒配管9と、膨張弁10と、第3冷媒配管11と、蒸発器12と、送風機13と、第4冷媒配管14と、第1給水配管15と、第2給水配管16とから構成されている。
【0047】
まず、一般的なヒートポンプ熱交換式の給湯システムについて、
図5を参照して説明する。圧縮機2により高温高圧になった加熱ガス冷媒(例えば、二酸化炭素またはハイドロフルオロカーボン等)は、第1冷媒配管3を通り、冷媒/水熱交換器4に流入する。貯湯タンク5に蓄えられた水は、ポンプ6により押し出され、第1水配管7を通り、冷媒/水熱交換器4に流入する。冷媒/水熱交換器4では、加熱ガス冷媒と水が熱交換することで水を加熱する。加熱された水は第2水配管8を通り貯湯タンク5へと戻る。
【0048】
水へ熱を伝えた加熱ガス冷媒は、第2冷媒配管9を通り膨張弁10に送られる。膨張弁10に送られた加熱ガス冷媒は減圧され、第3冷媒配管11を通り蒸発器12に流入する。蒸発器12では、送風機13から送られた外気により吸熱した後、第4冷媒配管14を通り、圧縮機2へと戻る。加熱された水は、第2給水配管16からユースポイントへ供給される。
【0049】
例えば、深夜電力を利用して湯沸する一般的なヒートポンプ給湯器システムでは、昼間に貯湯タンク5の湯が使用されると、第1給水配管15から水道水が使用湯量に応じて貯湯タンク5に供給される。貯湯タンク5内の水は攪拌が無い限り、高温層と低温層の2層に分離しているため、水道水の供給により高温層と低温層の境界層部分が貯湯タンク5の上部(貯湯タンク5の出水側)へと移動する。したがって、昼間に高温の湯が常時供給される。ここで、スケールが付着する水質で一般的なヒートポンプ給湯器システムを動作させた場合、スケールは冷媒/水熱交換器4の出口側水回路伝熱面に付着する。
【0050】
図6は、本発明の実施の形態4に係る給湯器システムの構成を示す概略図である。基本的構成要素は
図5と同様であるが、
図6に示すように、実施の形態4の給湯器システム1は、さらに、水質制御部17と、第1流量制御弁18と、第2流量制御弁19と、導電率計20と、水質診断制御器201と、水質測定器202とを備えている。
【0051】
図6に示すように、第1給水配管15から貯湯タンク5に供給される水道水は、第1流量制御弁18によって流水量が調整されている水質制御部17から流入する水と、第2流量制御弁19によって流水量が調整されている水質制御部17を通らずに直接流入する水とが合流したものである。水質制御部17を通る流水量を調整させることで、貯湯タンク5に流入する水の水質が改善される仕組みとなっている。具体的には、水質測定器202のデータから、スケールが付着する水質であると判断された場合、基準値を外れた項目について、給水の水の一部を水質制御部17に通すことで、貯湯タンク5への流入水が基準内に収まるようにし、スケール付着を防止する。その際、水質診断制御器201が、第1流量制御弁18と第2流量制御弁19との開閉状態を制御する。
【0052】
水質測定器202は、pH電極、電気伝導率電極、リン酸イオン電極、カルシウムイオン電極、炭酸イオン電極および熱電対等を備える。各電極や熱電対からの出力信号を各水質項目の数値に変換する変換器であり、水質診断制御器201を制御するアナログもしくはデジタル信号を発生する。
【0053】
ここで、水質制御部17の具体例として、イオン交換樹脂に代表される純水化樹脂や、オルトリン酸イオンまたはマグネシウムイオンを徐放する物質を充填したカートリッジ等が考えられる。
【0054】
純水化樹脂としては、例えば、スチレン−ジビニルベンゼンの共重合体を基本構造とした高分子を用いることができる。純水化樹脂は、一般的に酸性を示す官能基を持つものは陽イオンを選択的に交換し、塩基性を示す官能基を示すものは陰イオンを選択的に交換する機能を持つことが知られている。例えば、実施の形態4での水質診断制御器201にて計算される修正過飽和係数S
2は、カルシウムイオン濃度、炭酸イオン濃度が大きいほど大きく、オルトリン酸イオン濃度が小さいほど大きい値を持つ。従って、例えば、水道水にオルトリン酸イオンが含まれる場合には、陽イオン交換樹脂のみによってカルシウムイオンを除去し、オルトリン酸イオンは通過させることが望ましい。特に、スルホン酸基を交換基として持つ樹脂は、カルシウムイオンを効率的に除去できるので、より望ましい。
【0055】
また、水道水にオルトリン酸イオンが含まれない場合には、陽イオン交換樹脂および陰イオン交換樹脂を用いてカルシウムイオンと炭酸イオンを除去するのが望ましい。また、純水化樹脂の官能基としてアミノ基を導入した樹脂は炭酸イオンを効率的に除去できるため、より望ましい。
【0056】
一方で、イオン交換能力に関する寿命が来るとカルシウムイオンや重炭酸イオンを捕捉しにくくなるため、水素イオンや水酸化物イオンとのイオン交換が行えなくなる。その状態を検知するために、導電率計20は処理水の導電率を監視すればよい。例えば、導電率計20にアラーム機能を持たせ、導電率が10μS/cmを超えた場合にアラームが鳴るように設定すれば、純水化樹脂の交換時期を知らせることができる。また、水質診断制御器201に導電率計20の測定値を送信して、水質診断制御器201からアラームを発してもよい。
【0057】
なお、カートリッジに充填されるオルトリン酸イオンを徐放する物質としては、FePO
4・2H
2O、AlPO
4・2H
2O、CaHPO
4、Ca
4H(PO
4)
3、Ca
10(PO
4)
6(OH)
2、Ca
10(PO
4)
6F
2、CaHAL(PO
4)
2、CaF
2、MgNH
4PO
4、FeNH
4PO
4またはFe
2(PO
4)
2等の、オルトリン酸系イオンを結晶内部に含有する塩が望ましい。オルトリン酸イオンを徐放する物質の形状は、円筒状、球状、中空形状または繊維状等を選択することができ、水1m
3当たりの接触面積が、1m
2以上の微細構造を持つことが望ましい。
【0058】
カートリッジに充填されるマグネシウムイオンを徐放する物質としては、Mg(OH)
2、MgSO
4、CaMg(CO
3)
2、Mg
3Si
2O
5(OH)
4、Mg
2Si
3O
7.5(OH)・3H
2O、Mg
3Si
4O
10(OH)
2・H
2OまたはMgNH
4PO
4等の、マグネシウムイオンを結晶内部に含有する塩が望ましい。マグネシウムイオンを徐放する物質の形状は、オルトリン酸イオンの場合と同様に、円筒状、球状、中空形状または繊維状等を選択することができ、水1m
3当たりの接触面積が、1m
2以上の微細構造を持つことが望ましい。
【0059】
実施の形態4に係る給湯器システム1では、水質測定器202内における水質診断コック(
図6では図示せず、後述する実施の形態5および
図7参照)から抜き取られた水の水質を、前述の実施の形態1から3に係る水質診断方法を利用して診断する。さらには、当該結果に基づき給水される水の水質を制御する。具体的には、
図6に示す水質診断制御器201および水質測定器202において、測定、計算、補正および判定等が行われる。さらに詳細には、まず、カルシウムイオン濃度、炭酸濃度および水素イオン濃度の測定値と、貯湯タンク5内部の水温設定値から過飽和係数S
1を計算する。次いで、溶液中に含まれるオルトリン酸イオン濃度(またはマグネシウムイオン濃度等)の測定値を用いて過飽和係数をS
1からS
2に補正する。補正された修正過飽和係数S
2が閾値S
0以上の場合には、冷媒/水熱交換器4へのカルシウムスケール付着が進行すると判断する。
【0060】
基準を満たさない場合(カルシウムスケール付着が進行すると判断された場合)には、第1流量制御弁18の流水量を調整し、水質制御部17の流水量を増加させ、水質診断コックから抜き取られた水の水質を再び診断する。基準を満たさない場合には、再度、第1流量制御弁18の流水量を調整し、水質制御部17の流水量を増加させる。このような調整を繰り返すことで、スケールが付着しない水質が得られる。なお、第2流量制御弁19の流水量を減少させることで、同様な調整を行ってもよいし、第1流量制御弁18と第2流量制御弁19の双方を調整してもよい。
【0061】
補正された修正飽和係数S
2と比較する設定値S
0は、運転条件、水質および給湯機のメンテ頻度に応じて決定することができる。一般的に、定期メンテナンスを15年以上実施しない場合には、設定値S
0=1として水質改善システムを運用するのが望ましい。定期メンテナンスを5年毎に実施する場合には、設定値S
0=6として水質改善システムを運用するのが望ましい。定期メンテナンスを1年毎に実施する場合には、設定値S
0=12として水質改善システムを運用するのが望ましい。
【0062】
このように、本実施の形態4に係る給湯器システム1は、被加熱水のより精度のよい正確な水質診断結果に基づいて、水質制御手段やカルシウムスケール付着抑制手段を動作するので、冷媒/水熱交換器4の伝熱面へのスケール付着を確実に防止できるという効果がある。
【0063】
(実施の形態5)
図7は、本発明の実施の形態5に係る給湯器システムの構成を示す概略図である。
図7に示すように、本実施の形態5に係る給湯器システム1は、前述の実施の形態4の給湯器システム1に、さらなる追加の構成要素として水質診断制御器301と、水温センサー303とが備えられた形態である。なお、
図7では、水質診断コック21を除き、水質診断制御器201および水質測定器202の構成については省略して示されている。
【0064】
本実施の形態5に係る給湯器システム1では、第2水配管8内の水温センサー303の信号に基づき、圧縮機2の回転数、送風機13の回転数および/または膨張弁10の流路隙間を調節する水質診断制御器301を有する。当該構成は、第2水配管8内の水温を制御することを目的としている。
【0065】
例えば、温度を下げる際は、圧縮機2および送風機13の回転数を低下させ、膨張弁10の流路隙間を広げる動作を行なう。水質診断制御器301は、過飽和係数を入力するためのインターフェースを有しており、入力された係数をもとに上記の制御を行なう。水質診断制御器301は、実施の形態4にて述べた水質診断制御器201(図示せず)と一体化されたものであってもよい。その場合は、水質診断制御器301にて、直接、過飽和係数S
1および修正過飽和係数S
2が算出・補正等されてもよい。
【0066】
一般的に、貯湯タンク5における保有熱量を最大化するには、蒸発器12の出口の水温を最大化することが有効であり、通常60〜90℃に設定することが多い。しかし、高温ほど炭酸カルシウムが析出し易いため、水温が高温になるほど一定の溶液組成に対する過飽和係数S
1は大きくなる。つまり、前述した実施の形態1から3に係る水質診断方法では、カルシウムイオン濃度、炭酸イオン濃度、水素イオン濃度および水温から計算される過飽和係数S
1が増加すると、補正された修正過飽和係数S
2も、過飽和係数S
1に比例して増加する。
【0067】
本実施の形態5においても、第1給水配管15に設けられた供給水の水質診断コック21から抜き取られた水の水質を、前述したような水質診断方法を用い、水質診断制御器301(または水質診断制御器201(図示せず))にて診断する。しかし、本実施の形態5における水質診断方法では、抜き取られた水のカルシウムイオン濃度、炭酸イオン濃度および水素イオン濃度の測定値と、第2水配管8内の水温センサー303による水温測定値から過飽和係数S
1を計算し、溶液中に含まれるオルトリン酸イオン濃度(またはマグネシウムイオン濃度)の測定値を用いて過飽和係数をS
1からS
2に補正し、補正された修正過飽和係数S
2が閾値S
0以上の場合には、水/冷媒熱交換器4へのカルシウムスケール付着が進行すると判断する。
【0068】
基準を満たさない場合(カルシウムスケール付着が進行すると判断された場合)には、まず、前述の実施の形態1に係る水質診断方法を用いて補正された修正飽和係数S
2が閾値S
0未満にするための第2水配管8内の水温を計算する。次に、水質診断制御器301により、圧縮機2の回転数、送風機13の回転数および/または膨張弁10の流路隙間を調節することで、第2水配管8内の水温を所定の温度に設定する。
【0069】
前述の実施の形態4と同様に、補正された修正過飽和係数S
2と比較する設定値S
0は、運転条件、水質、そして給湯機のメンテ頻度に依存して決定することができる。一般的に、定期メンテナンスを15年以上実施しない場合には、設定値S
0=1として水質改善システムを運用するのが望ましい。定期メンテナンスを5年毎に実施する場合には、設定値S
0=6として水質改善システムを運用するのが望ましい。定期メンテナンスを1年毎に実施する場合には、設定値S
0=12として水質改善システムを運用するのが望ましい。
【0070】
水/冷媒熱交換器4の出口の水温が低下すると、貯湯タンク5における保有熱量が低下するので、湯切れなどの問題が発生する問題がある。従って、水質診断制御器301によって第2水配管8内の水温を制御する場合には、40℃〜90℃に設定することが望ましい。
【0071】
このように、本実施の形態5に係る給湯器システム1は、被加熱水のより精度のよい正確な水質診断結果に基づいて、水質制御手段やカルシウムスケール付着抑制手段を動作するので、冷媒/水熱交換器4の伝熱面へのスケール付着を確実に防止できるという効果がある。また、前述の実施の形態4に係る給湯器システム1と併用することで、伝熱面へのスケール付着防止効果において、より確実性を有している。
【0072】
(実施の形態6)
図8は、本発明の実施の形態6に係る給湯器システムの構成を示す概略図である。
図8に示すように、実施の形態6に係る給湯器システム1は、
図5に示す一般的な給湯器システム1の構成要素以外に、バイパス回路配管22と、自動開閉弁23と、水質診断制御器401と、水質測定器402(内部に水質診断コックを備える)とを備えている。
【0073】
前述の実施の形態4および実施の形態5では、水質診断の結果により、スケール付着が起こると判断される運転条件の場合、水質制御手段または水温制御手段を用いて伝熱面へのスケール付着を補正された修正過飽和係数S
2を、閾値S
0未満に制御する装置について、その具体的構成を開示した。本実施の形態6に係る給湯器システム1では、補正された修正過飽和係数S
2が、閾値S
0以上であっても、第1水配管7および第2水配管8を流れる水流量を制御することにより、冷媒/水熱交換器4へのスケール付着を防止する。
【0074】
詳細には、
図8に示すように、冷媒/水熱交換器4へ送水するポンプ6の入口側と出口側を繋ぐバイパス回路配管22を設け、当該バイパス回路配管22に、自動開閉弁23を設置し、定期的に弁を開閉する。その結果、冷媒/水熱交換器4に送られる水に脈流が生じることにより、スケール付着を防止することができる。水質診断は水質診断制御器401および水質測定器402により、前述の実施の形態(特に、実施の形態4)と同様に診断され、その結果に基づき、適宜、弁の開閉について制御、調整される。
【0075】
脈流パターンとしては、正弦波、矩形波または三角波等を用いることができ、流量を最大流量Q
1と最小流量Q
2の間を周期的に変動させることが望ましい。流量Q
1の時間T
1(脈流の幅)は0.1〜10秒の範囲が望ましく、脈流の頻度T
2は脈流の幅T
1の1〜20倍の範囲で調節することが望ましい。
【0076】
使用する水質や給湯条件によって最適な脈流の条件は変動する。出湯温度40〜60℃であり、室温における補正された修正過飽和係数S
2が2以下の水質の場合には、脈流における最大流量Q
1/最小流量Q
2の比率は1〜2の範囲で定めることが望ましい。室温における補正された修正過飽和係数S
2が2以上の水質の場合には、炭酸カルシウムがより発生し易い水質に対しては最大流量Q
1/最小流量Q
2の比率を1〜4の範囲で定めることが望ましい。さらに、室温における補正された修正過飽和係数S
2が2以上の水を60〜90℃に加熱する場合には、脈流における最大流量Q
1/最小流量Q
2の比率は1〜6の範囲で定めることが望ましい。
【0077】
このように、本実施の形態6に係る給湯器システム1は、より精度のよい正確な水質診断結果に基づいて、冷媒/水熱交換器4に送られる水に脈流を生じさせることで、冷媒/水熱交換器4の水側伝熱面の流速に変化をつけて、析出したスケールの付着を防止することができる。
【0078】
(実施の形態7)
図9は、本発明の実施の形態7に係る給湯器システムの構成を示す概略図である。また、
図10は、実施の形態7の変形例に係る給湯器システムの構成を示す概略図である。
図9および
図10に示すように、本実施の形態7に係る給湯器システム1は、前述の実施の形態4の給湯器システム1に、さらなる追加の構成要素としてスケール粒子捕捉部24と、第3流量制御弁25と、第4流量制御弁26とが備えられた形態である。なお、
図9および
図10では、水質診断コック21を除き、実施の形態4の給湯器システム1の構成要素である、水質制御部17、第1流量制御弁18、第2流量制御弁19、導電率計20、水質診断制御器201および水質測定器202の構成については省略して示されている。
【0079】
実施の形態7では、第1水配管7または第2水配管8の流路にスケール粒子捕捉部24を設置することにより、前述の実施の形態4の給湯器システム1における効果だけでなく、第1水配管7および第2水配管8内で発生した炭酸カルシウムスケール粒子を捕捉することができる。
【0080】
図9および
図10に示すように、適宜、スケール粒子捕捉部24を通る流水量を第3流量制御弁25にて調整し、スケール粒子捕捉部24を通らない流水量を第4流量制御弁26にて調整すると、貯湯タンク5と冷媒/水熱交換器4との間において、第1水配管7または第2水配管8から供給される水道水の水質は改善される。第3流量制御弁25および第4流量制御弁26の調整は、例えば、水質診断制御器201および水質測定器202(図示せず)を以て動作される。
図9と
図10に示すスケール粒子捕捉部24での作用および効果は同じであるが、
図9のスケール粒子捕捉部24に流入する水温は、
図10のスケール粒子捕捉部24に流入する水温より10〜40℃程度高いので、
図9の給湯器システム1の構成の方がスケール粒子捕捉部24における捕捉性能が1.2〜2倍高くなる。
【0081】
水/冷媒熱交換器4にスケールが付着するメカニズムとして、水/冷媒熱交換器4の伝熱面において直接スケールが成長する場合と、第1水配管7および第2水配管8または貯湯タンク5の水中において発生したスケール微粒子が水/冷媒熱交換器4の伝熱面に付着する場合とがある。本実施の形態7におけるスケール粒子捕捉部24は、後者の原因に対応する水中で発生したスケール微粒子を除去し、水中において発生したスケール微粒子の水/冷媒熱交換器4内部への付着を抑制するものである。
【0082】
スケール粒子捕捉部24の内部に充填する付着体の材料としては、銅、黄銅、ステンレス、シリコーンゴム、ガラス、鉄、酸化鉄(III、II)、ポリテトラフルオロエチレン(テフロン(登録商標)樹脂(PTFE、PFA))、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリスルフォン、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴムまたは芳香族ポリアミド(ナイロン6またはナイロン6−6等)等を用いることができる。これらのうち、銅、黄銅、ステンレス、シリコーンゴム、ガラス、鉄、酸化鉄(III、II)、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリスルフォン、イソプレンゴム、ブタジエンゴムまたはスチレンブタジエンゴムのいずれかの材料が好ましい。
【0083】
図11は、スケール付着体の構造におけるカール状繊維を示す図である。例えば、スケール粒子捕捉部24の内部には、このようなカール径D
1、繊維径D
2であるカール状繊維から構成される集合体を用いることもできる。実用的には、カール繊維の引っ張り強度は2〜4kgであることが望ましい。この条件は、60℃以上に加熱する給湯器システム1において、10年以上の腐食耐久力に対応する。ステンレス製のカール繊維であれば、繊維径D
2は10μm以上であっても対応できる。スケール粒子捕捉部24の充填物が占める体積V
1は、貯湯タンク5の内部体積V
2を目安として、V
2/V
1=10〜500の範囲で設定することが望ましい。
【0084】
水質診断は、第1給水配管15に設けられた供給水の水質診断コック21から抜き取られた水を用い、前述の実施の形態1から3に係る方法を用いて行う。本実施の形態7に係る給湯器システム1では、前述の実施の形態4と同様に、水質診断制御器201および水質測定器202(図示せず)にて、カルシウムイオン濃度、炭酸イオン濃度および水素イオン濃度の測定値と、貯湯タンク5内部の水温設定値とから過飽和係数S
1を計算し、溶液中に含まれるオルトリン酸イオン濃度(またはマグネシウムイオン濃度等)の測定値を用いて過飽和係数をS
1からS
2に補正し、補正された修正過飽和係数S
2が閾値S
0以上の場合には、水/冷媒熱交換器4へのカルシウムスケール付着が進行すると判断する。
【0085】
カルシウムスケール付着が進行すると判断された場合には、第3流量制御弁25の流水量を調整し、スケール粒子捕捉部24を通過する水流量Q
3を増加させ、水中において発生したスケール微粒子の一部を除去する。これにより、水/冷媒熱交換器4の伝熱面に付着するスケール量を抑制することができる。ここで、第4流量制御弁26を通過する水流量をQ
4とする。修正過飽和係数S
2と閾値S
0との差(S
2−S
0)が0以上5未満の場合には、水流量の比Q
3/(Q
3+Q
4)を0〜0.5の範囲に調節することが望ましい。また、修正過飽和係数S
2と閾値S
0との差(S
2−S
0)が5以上11以下の場合には、水流量の比Q
3/(Q
3+Q
4)を0.25〜1.0の範囲に調節することが望ましい。
【0086】
このようなカルシウムスケール付着抑制手段を用いたヒートポンプ給湯器システムにおいて、補正された修正飽和係数S
2と比較する設定値S
0は、運転条件、水質、さらに給湯器システム1のメンテナンス頻度に応じて決定することができる。一般的に、定期メンテナンスを15年以上実施しない場合には、設定値S
0=1として水質改善システムを運用するのが望ましい。定期メンテナンスを5年毎に実施する場合には、設定値S
0=6として水質改善システムを運用するのが望ましい。定期メンテナンスを1年毎に実施する場合には、設定値S
0=12として水質改善システムを運用するのが望ましい。
【0087】
このように、本実施の形態7に係る給湯器システム1は、被加熱水のより精度のよい正確な水質診断結果に基づいて、水質制御手段や複数のカルシウムスケール付着抑制手段を動作するので、冷媒/水熱交換器4の伝熱面へのスケール付着をより確実に防止できるという効果がある。
【実施例】
【0088】
図12は、実施例にて使用したスケール析出実験装置の構成を示す図である。
図12に示すように、スケール析出実験装置600は、耐熱ガラス製容器601と、電気伝導率電極602と、シリコーンゴム603と、磁気撹拌子604と、恒温槽605とから構成されている。
【0089】
具体的には、実験において、内部を酸洗浄した耐熱ガラス製容器601(容量585mL)に、電気伝導率電極602(CT−27112B、TOADKK製)を挿入し、シリコーンゴム603でガス相が最小となるように封止した。ガラス瓶内の試料水は、PTFE製の磁気撹拌子604を用いて300rpm程度で常時撹拌した。なお、恒温槽605によって試料水の水温を65℃で一定に調節した。
【0090】
また、スケール析出実験装置600を用いての実験中にスケール(CaCO
3)の析出が始まると、水溶液はわずかに白濁する。CaCO
3析出後の耐熱ガラス製容器601内部には無数のCaCO
3の微粒子が付着しているため、耐熱ガラス製容器601、電気伝導率電極602および磁気撹拌子604を、0.01mol/L塩酸に常温で20分以上浸漬して、微粒子を完全に溶解させた。なお、実験において試料水を加熱する前には、窒素ガス(工業用窒素ガス、純度99.995%、CO
2濃度0.1ppm以下)を各水溶液に5〜10分間通気してpHを8.4〜8.7に調整するようにした。
【0091】
一般的に、CaCO
3析出反応に伴い溶液中のイオン濃度が減少するため、溶液の電気伝導率は低下する。溶液中のリン酸濃度がCaCO
3析出反応に与える影響を定量化することを目的として、スケール析出実験装置600を用いての溶液の電気伝導率の時間変化を記録した。以下に詳細な実施例およびその結果を示す。
【0092】
(実施例1)
実施例1では、スケール析出実験装置600を用いて、前述のとおり窒素ガスを事前に通気し、pHを8.4〜8.7に調整した様々な試料水を65℃で数百時間以上保持した実験結果について示す。当該様々な試料水としては、欧州で採取した水道水(以下、水道水という)と、模擬水溶液(以下、模擬水という)と、模擬水にK
3PO
4を1mg/Lにて添加した水溶液(実験水1)と、模擬水にK
3PO
4を5mg/Lにて添加した水溶液(実験水2)とを用いた。
【0093】
図13は、実施例1に係る加熱前の水質分析結果を示す図である。水道水と模擬水とを比較すると、模擬水は、水道水に含まれる主要イオンであるNa
+、K
+、Ca
2+、Mg
2+、Cl
−、NO
3−およびSO
42−に関して、およそ同量のイオンを含んでおり(一部イオンについては図示せず)、pHも同等であることがわかった。また、模擬水にK
3PO
4を5mg/Lにて添加した水溶液(実験水2)のHPO
42−濃度についても、水道水に含まれる3.2mg/Lよりやや低い2.2mg/Lであるが、同等であった。
【0094】
図14は、実施例1に係る加熱後のpH、Ca硬度およびMアルカリ度の変化を示す図である。加熱前に、窒素ガスの通気にてpHを8.4〜8.7に調整していたが、各試料水のpHは数百時間の加熱によって徐々に低下し、7.6〜8.2となっていた。これは、炭酸カルシウムの析出に伴いCO
32−が消費され、HCO
3−の解離反応(HCO
3−⇔H
++CO
32−)の平衡が右にずれ、H
+が生成したことによるものと考えられる。また、加熱に伴って、Ca硬度およびMアルカリ度も減少していた。
【0095】
各試料水において、加熱前の炭酸カルシウムに対する過飽和係数(溶液中のイオン量の飽和状態のイオン量に対する比率)は112〜165倍であったが、加熱後には過飽和係数は1.7〜3.4倍まで減少し、ほぼ平衡状態に到達していた。なお、水溶液中に析出した固体粒子のX線回折を評価したところ、炭酸カルシウム(CaCO
3)は含まれていたが、リン酸カルシウム(Ca
4(PO
4)
3)は含まれていなかった。
【0096】
ここで、水道水と模擬水にK
3PO
4を5mg/Lにて添加した水溶液(実験水2)とを比較すると、
図14に示すように、150時間程の加熱に対して、pHとCa硬度の減少幅はおおむね同等であった。一方、K
3PO
4を添加していない模擬水では、150時間程の加熱でほぼ平衡状態に到達していた。通常、添加されたK
3PO
4は電離し、さらに7.2<pH<12.7では、PO
43−は、直ちにHPO
42−に変化する(HPO
42−→PO
43− + H
+(解離定数Ka=10
−12.67))。つまり、模擬水に添加されたK
3PO
4は、HPO
42−に変化し、水道水に含まれるHPO
42−と同様の効果でCaCO
3析出反応を抑制したと考えられる。
【0097】
図15は、実施例1に係る加熱中の試料水の電気伝導率の時間変化を示す図である。CaCO
3析出反応に伴い溶液中のイオン濃度が減少するため、各試料水の電気伝導率は低下する。水道水の電気伝導率は、加熱開始から約50時間は68mS/m〜69mS/mの範囲で緩やかに推移し、それ以降に減少し始め定常に到達するのに400時間以上を要する(定常に達するまでの推移は図示せず)。
【0098】
図15に示すように、水道水以外の試料水においては、模擬水に添加するK
3PO
4量が多いほど電気伝導率は緩やかに減少し、K
3PO
4が添加されていない模擬水では約150時間後、模擬水にK
3PO
4を1mg/Lにて添加した水溶液(実験水1)では約250時間後に定常に達した。模擬水にK
3PO
4を5mg/Lにて添加した水溶液(実験水2)では、加熱開始後の約150時間は56〜67mS/mの範囲で緩やかに推移し、それ以降に減少し始め定常に到達するのに400時間以上を要した。
【0099】
しかし、上述した結果では、初期の電気伝導率の絶対値が異なるため、そのままではCaCO
3析出反応速度を比較することができない。そこで、各実験での電気伝導率の初期値と定常値に基づき、「電気伝導率の変化率」として規格化し、平衡状態への到達率20%に達するために要する時間t
1を比較した。
【0100】
その結果、K
3PO
4が添加されていない模擬水ではt
1=1.6時間であり、模擬水にK
3PO
4を1mg/Lにて添加した水溶液(実験水1)ではt
1=5時間であり、模擬水にK
3PO
4を5mg/Lにて添加した水溶液(実験水2)ではt
1=28時間であった。一方、水道水ではt
1=61時間であった。K
3PO
4の添加量をさらに増加し、HPO
42−濃度3.0mg/L以上の水溶液において同様に電気伝導率の変化率を測定し、平衡状態への到達率20%に達するのに要する時間t
1について評価したところ、HPO
42−濃度3.0mg/L以上の水溶液においては、t
1=60時間で一定であった(図示せず)。
【0101】
CaCO
3析出速度Rは単位時間あたりの電気伝導率の変化率に比例するので、平衡状態への到達率20%に達するのに要する時間t
1に反比例する。従って、K
3PO
4が添加されていない模擬水の場合の析出速度をR=100とすると、模擬水にK
3PO
4を1mg/Lにて添加した水溶液(実験水1)(HPO
42−濃度0.4mg/L)の場合の析出速度はR=32であり、模擬水にK
3PO
4を5mg/Lにて添加した水溶液(実験水2)(HPO
42−濃度2.2mg/L)の場合の析出速度はR=5.7である。水道水(HPO
42−濃度3.2mg/L)の場合の析出速度はR=2.6となる。
【0102】
図16は、実施例1に係るオルトリン酸濃度に対する修正過飽和係数の値を示す図である。
図16における斜線部が、前述の数5および数6で示した修正過飽和係数の範囲である。実線は、当該範囲の中央を通る代表値である。
【0103】
以上の実施例1の結果から、水溶液中のCa硬度(カルシウムイオン濃度)、炭酸イオン量に対応するアルカリ度、pHおよび水温が同等であっても、溶液中のオルトリン酸イオン濃度(HPO
42−濃度)によってCaCO
3の析出速度Rが大きく変化することがわかった。
【0104】
(実施例2)
実施例2では、前述の実施例1と同様に、スケール析出実験装置600を用いて、窒素ガスを事前に通気し、pHを8.4〜8.7に調整した様々な試料水を65℃で数百時間以上保持した実験結果を示す。様々な試料水としては、前述の実施例1と同様の模擬水と、模擬水にMg(OH)
2を87mg/Lにて添加した水溶液(実験水3)と、模擬水にMg(OH)
2を175mg/Lにて添加した水溶液(実験水4)とを用いた。
【0105】
図17は、実施例2に係る加熱前の水質分析結果を示す図である。
図17に示すように、模擬水にMg(OH)
2を87mg/Lにて添加した水溶液(実験水3)では、Mg
2+濃度が35.6mg/L(1.5×10
−3mol/L)であり、模擬水にMg(OH)
2を175mg/Lにて添加した水溶液(実験水4)では、Mg
2+濃度が71.3mg/L(3.0×10
−3mol/L)であった。なお、模擬水中にはCa
2+が約3.0×10
−3mol/L含まれているので、Mg
2+/Ca
2+のモル濃度比は、実験水3では0.5であり、実験水4では1.0であった。
【0106】
前述の実施例1と同様に加熱を行うと、各試料水のpHは数百時間の加熱によって徐々に低下し、7.6〜8.2に到達した(図示せず)。これは、前述したとおり、炭酸カルシウムの析出に伴いCO
32−が消費され、HCO
3−の解離反応(HCO
3−⇔H
++CO
32−)の平衡が右にずれ、H
+が生成したことによるものと考えられる。
【0107】
各試料水において、加熱前の炭酸カルシウムに対する過飽和係数(溶液中のイオン量の飽和状態のイオン量に対する比率)は112〜165倍であったが、加熱後には過飽和係数は1.5〜2.5倍まで減少し、ほぼ平衡状態に到達していた。なお、水溶液中に析出した固体粒子のX線回折を評価したところ、炭酸カルシウム(CaCO
3)が含まれていたが、炭酸マグネシウム(MgCO
3)は含まれていなかった。
【0108】
図18は、実施例2に係る加熱中の電気伝導率の時間変化を示す図である。CaCO
3析出反応に伴い溶液中のイオン濃度が減少するため、溶液の電気伝導率が低下する。模擬水の電気伝導率は添加する水酸化マグネシウム量が多いほど緩やかに減少し、
図18に示すように、水酸化マグネシウムなしの模擬水では約150時間後に、Mg
2+濃度が35.6mg/L(1.5×10
−3mol/L)の実験水3では約180時間後に定常に達した。また、Mg
2+濃度が71.3mg/L(3.0×10
−3mol/L)の実験水4では、加熱開始後の約30〜40時間は60〜67mS/mの範囲で緩やかに推移し、それ以降に減少し始め定常に到達するのに200時間以上を要した。
【0109】
各実験での電気伝導率の初期値と定常値に基づき、「電気伝導率の変化率」として規格化し、平衡状態への到達率20%に達するのに要する時間t
1を比較した。その結果、水酸化マグネシウムを添加していない模擬水ではt
1=1.6時間であり、Mg
2+濃度が35.6mg/L(1.5×10
−3mol/L)の実験水3ではt
1=4時間であり、Mg
2+濃度が71.3mg/L(3.0×10
−3mol/L)の実験水4ではt
1=10時間であった。
【0110】
CaCO
3析出速度Rは単位時間あたりの電気伝導率の変化率に比例するので、平衡状態への到達率20%に達するのに要する時間t
1に反比例する。従って、K
3PO
4および水酸化マグネシウムが添加されていない模擬水の場合の析出速度をR=100とすると、Mg
2+濃度が35.6mg/L(1.5×10
−3mol/L)の実験水3の場合の析出速度はR=40であり、Mg
2+濃度が71.3mg/L(3.0×10
−3mol/L)の実験水4の場合の析出速度はR=16となる。
【0111】
すなわち、Mg
2+/Ca
2+のモル濃度比が0.5の場合には析出速度R=40であり、Mg
2+/Ca
2+のモル濃度比が1.0の場合には析出速度R=16であった。水溶液中のCa
2+濃度が1〜1000mg/Lの範囲で同様の実験を行ったところ、Ca
2+濃度によらずMg
2+/Ca
2+のモル濃度比が0.5の場合には析出速度R=40であり、Mg
2+/Ca
2+のモル濃度比が1.0の場合には析出速度R=16であることがわかった(図示せず)。なお、前述の実施例1と同様に、Mg
2+/Ca
2+のモル濃度比に対する修正過飽和係数の関係を以って、前述の数7の式を求めた(図示せず)。
【0112】
以上の実施例2の結果から、水溶液中のCa硬度(カルシウムイオン濃度)、炭酸イオン量に対応するアルカリ度、pHおよび水温が同等であっても、溶液中のマグネシウムイオンがCaCO
3の析出速度Rに大きな影響を与えることがわかった。また、実施例1の結果も考慮すると、オルトリン酸イオンおよびマグネシウムイオンだけでなく、シリカイオン等のカルシウムイオンと反応して難溶解性塩を形成するイオンについても同様にCaCO
3の析出速度Rに影響を与えることがわかる。
【0113】
上記実施の形態および実施例は、いずれも本発明の趣旨の範囲内で各種の変形が可能である。上記実施の形態は本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定することを意図したものではない。本発明の範囲は実施形態よりも添付した請求項によって示される。請求項の範囲内、および発明の請求項と均等の範囲でなされた各種変形は本発明の範囲に含まれる。
【0114】
本出願は、2013年3月29日に出願された、明細書、特許請求の範囲、図面、および要約書を含む日本国特許出願2013−71777号に基づく優先権を主張するものである。この元となる特許出願の開示内容は参照により全体として本出願に含まれる。