(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6029758
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】量子干渉超伝導回路に磁束を印加するためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
H03K 3/38 20060101AFI20161114BHJP
H01L 39/22 20060101ALI20161114BHJP
H03K 19/195 20060101ALI20161114BHJP
【FI】
H03K3/38 CZAA
H01L39/22 C
H01L39/22 K
H03K19/195
【請求項の数】19
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-527495(P2015-527495)
(86)(22)【出願日】2013年8月8日
(65)【公表番号】特表2015-532806(P2015-532806A)
(43)【公表日】2015年11月12日
(86)【国際出願番号】US2013054161
(87)【国際公開番号】WO2014028302
(87)【国際公開日】20140220
【審査請求日】2015年2月26日
(31)【優先権主張番号】13/585,467
(32)【優先日】2012年8月14日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503178185
【氏名又は名称】ノースロップ グラマン システムズ コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】NORTHROP GRUMMAN SYSTEMS CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ハー、クエンティン ピー.
(72)【発明者】
【氏名】ネイアマン、オフェル
(72)【発明者】
【氏名】ハー、アナ ワイ.
【審査官】
柳下 勝幸
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第1998/008307(WO,A1)
【文献】
SEMENOV, V.K.,AVERIN, D.V.,SFQ control circuits for Josephson junction qubits,IEEE Transactions on Applied Superconductivity,米国,2003年,Vol.13, No.2,Pages 960-965
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03K 3/38
H01L 39/22
H03K 19/195
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子干渉超伝導回路に磁束を印加するシステムであって、
長いジョセフソン接合と、
前記ジョセフソン接合に結合された、且つ前記量子干渉超伝導回路に誘導的に結合された誘導ループと、
単一磁束量子(SFQ)コントローラと、を備え、
単一磁束量子(SFQ)コントローラは、
前記ジョセフソン接合の第1の端部に正の単一磁束量子(SFQ)パルスを印加することであって、前記ジョセフソン接合は、磁束量子を前記誘導ループに印加して第1の値の制御磁束を前記量子干渉超伝導回路に印加しつつ、前記ジョセフソン接合の第2の端部における整合負荷に正のSFQパルスを伝搬する、前記正の単一磁束量子(SFQ)パルスを印加すること、
前記ジョセフソン接合の前記第1の端部に負の単一磁束量子パルスを印加することであって、前記ジョセフソン接合が、前記第1の端部への前記正の単一磁束量子パルスの前記印加後に、磁束量子を前記誘導ループから除去して前記量子干渉超伝導回路に第2の値の制御磁束を印加しつつ、前記ジョセフソン接合の前記第2の端部における整合負荷に前記負の単一磁束量子パルスを伝搬する、前記負の単一磁束量子パルスを印加すること、
を実行するように構成されている、システム。
【請求項2】
前記ジョセフソン接合の第1の端部への単一磁束量子パルスの印加は、
前記ジョセフソン接合の前記第1の端部に正の単一磁束量子パルスを印加すること、及び前記ジョセフソン接合の第2の端部に正の単一磁束量子パルスを更に印加することを含み、前記ジョセフソン接合が、前記第1の端部への正の単一磁束量子パルスの前記印加後に、前記ジョセフソン接合の前記第1の端部に正の単一磁束量子パルスを伝搬し、磁束量子を前記誘導ループから除去して前記量子干渉超伝導回路に第2の値の制御磁束を印加する、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記誘導ループが、前記ジョセフソン接合の中間点で結合される、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記誘導ループがDC磁束バイアスされて、最初は第1の方向である前記誘導ループの双安定永久電流を確立するために磁束量子の半分を確立する、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
正の単一磁束量子パルスを用いた前記誘導ループへの磁束量子の印加は、前記量子干渉超伝導回路に第1の値の制御磁束を印加し、且つ前記第1の方向と反対の前記誘導ループにおける第2の方向に変化する前記誘導ループの前記双安定永久電流の変化に起因する、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
逆に前記第1の方向に変化する前記誘導ループの前記双安定永久電流の変化により、前記誘導ループから磁束量子を除去して前記量子干渉超伝導回路に第2の値の制御磁束を印加しつつ、前記第1の端部への正の単一磁束量子の印加後に、ジョセフソン接合アレイの前記第2の端部における整合負荷に負の単一磁束量子パルスを伝搬する前記ジョセフソン接合の前記第1の端部に前記負の単一磁束量子パルスを印加するか、又は前記第1の端部への正の単一磁束量子の印加後に、前記第2の端部に伝搬する前記ジョセフソン接合アレイの前記第2の端部に正の単一磁束量子パルスを印加する、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
量子干渉超伝導回路が量子ビットである、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
シフトレジスタと量子ビットとの間に結合された、請求項1に記載のNシステムを含むNビットデジタル/アナログ変換器であって、
異なるNシステムのそれぞれが、前記Nビットデジタル/アナログ変換器の関連ビットの重要度にそれぞれ関連する前記量子ビットに対して異なる結合効率を有するNビットデジタル/アナログ変換器。
【請求項9】
前記ジョセフソン接合が、長いジョセフソン接合制限配置及び単一の広いジョセフソン接合配置におけるジョセフソン接合アレイの1つとして構成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
第1の量子ビット及び第2の量子ビットに結合される磁束調整可能カプラに結合された請求項1に記載のシステムを含む、磁束調整可能カプラを作動させるシステム。
【請求項11】
量子干渉超伝導回路に磁束を印加するシステムであって、
長いジョセフソン接合制限配置におけるジョセフソン接合アレイとして構成された長いジョセフソン接合と、
前記ジョセフソン接合の中間点で前記ジョセフソン接合に結合され、且つ前記量子干渉超伝導回路に誘導的に結合される誘導ループと、
前記誘導ループに誘導的に結合されてDC磁束バイアスを供給して最初は第1の方向である前記誘導ループの双安定永久電流を確立するために磁束量子の半分を確立するDC源と、
前記ジョセフソン接合の第1の端部に正の単一磁束量子パルスを印加するように構成された単一磁束量子コントローラであって、前記ジョセフソン接合が、磁束量子を前記誘導ループに印加して前記量子干渉超伝導回路に第1の値の制御磁束に印加しつつ、前記ジョセフソン接合の第2の端部における整合負荷に前記正の単一磁束量子パルスを伝搬する、前記単一磁束量子コントローラとを備える、システム。
【請求項12】
前記単一磁束量子コントローラが、前記ジョセフソン接合の前記第1の端部に負の単一磁束量子パルスを印加するように構成されて、前記ジョセフソン接合が、前記第1の端部への正の単一磁束量子パルスの前記印加後に、前記磁束量子を前記誘導ループから除去して前記量子干渉超伝導回路に第2の値の制御磁束を印加しつつ、前記ジョセフソン接合の前記第2の端部における前記整合負荷に前記負の単一磁束量子パルスを伝搬する、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記正の単一磁束量子パルスを用いた、前記誘導ループに磁束量子を印加して前記量子干渉超伝導回路に第1の値の制御磁束を印加することが、前記誘導ループにおける第2の方向に変化する前記誘導ループの前記双安定永久電流の変化に起因する、請求項11に記載のシステム。
【請求項14】
前記ジョセフソン接合の前記第1の端部に負の単一磁束量子パルスを印加して、前記ジョセフソン接合が、前記第1の端部への正の単一磁束量子パルスの前記印加後に、前記第1の方向に逆に変化する前記誘導ループの前記双安定永久電流の変化により磁束量子を前記誘導ループから除去して前記量子干渉超伝導回路に第2の値の制御磁束を印加しつつ、前記ジョセフソン接合の前記第2の端部における前記整合負荷に前記負の単一磁束量子パルスを伝搬する、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
量子干渉超伝導回路に磁束を印加する方法であって、
長いジョセフソン接合の中間点で前記ジョセフソン接合に結合され、且つ前記量子干渉
超伝導回路に誘導的に結合される誘導ループを提供すること、
前記誘導ループにDC磁束バイアスを印加して、最初に第1の方向である前記誘導ループの双安定永久電流を確立するために磁束量子の半分を確立すること、
前記ジョセフソン接合の第1の端部に正の単一磁束量子パルスを印加することであって、前記ジョセフソン接合が、磁束量子を前記誘導ループに印加して前記量子干渉超伝導回路に第1の値の制御磁束を印加しつつ、前記ジョセフソン接合の第2の端部における整合負荷に前記正の単一磁束量子パルスを伝搬することを備える、方法。
【請求項16】
前記ジョセフソン接合の前記第1の端部に負の単一磁束量子パルスを印加して、前記ジョセフソン接合が、前記第1の端部への正の単一磁束量子の印加後に、磁束量子を前記誘導ループから除去して前記量子干渉超伝導回路に第2の値の制御磁束を印加しつつ、前記ジョセフソン接合の前記第2の端部における前記整合負荷に前記負の単一磁束量子パルスを伝搬することを更に備える、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記正の単一磁束量子パルスを用いた、前記誘導ループに磁束量子を印加して前記量子干渉超伝導回路に第1の値の制御磁束を印加することが、前記第1の方向と反対の第2の方向に変化する前記誘導ループの前記双安定永久電流の変化に起因する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記ジョセフソン接合の前記第1の端部に負の単一磁束量子パルスを印加して、前記ジョセフソン接合が、前記第1の端部への正の単一磁束量子パルスの前記印加後に、前記第1の方向に逆に変化する前記誘導ループの前記双安定永久電流の変化により磁束量子を前記誘導ループから除去して前記量子干渉超伝導回路に第2の値の制御磁束を印加しつつ、前記ジョセフソン接合の前記第2の端部における前記整合負荷に前記負の単一磁束量子パルスを伝搬する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記ジョセフソン接合が、長いジョセフソン接合制限配置及び単一の広いジョセフソン接合配置におけるジョセフソン接合アレイの1つとして構成される、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して超伝導回路に関し、特に量子干渉超伝導回路に磁束を印加するシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
量子コンピュータにおいて、量子アルゴリズムは、各パルスシーケンスが量子ゲートを実現するように、一連のパルスを複数の量子ビット及び結合素子に印加することによって実行される。複数の超伝導実装形態(位相、磁束及びトランスモン量子ビットに基づいたアーキテクチャなど)において、これらの制御パルスは、量子ビットに印加される磁束の形をとる。これらの制御パルスは、室温の電子機器によって典型的に生成され、同軸線を介して低温パッケージに導入される。しかしながら、同軸線による解決法は、有用な量子プロセッサにおいて要求される程度までスケーラブルではない。所望の集積レベルを達成するために、制御回路を、量子ビット低温パッケージに且つ好ましくは量子ビットと同じチップ上に集積することが必要である。超伝導単一磁束量子(SFQ:superconducting single−flux−quantum)デジタル技術は、集積制御回路を実現するための自然な選択である。
【0003】
しかしながら、SFQデジタル制御を量子干渉超伝導回路にインターフェースすることには、幾つかの困難が存在する。第1に、SFQ論理において典型的に用いられる分路抵抗器は、散逸環境を量子ビットに提供する可能性がある。第2に、SFQパルスは、一般に、数ピコ秒の程度の非常に高速な立ち上がり時間を有し、それらを数GHzの動作周波数を有する量子ビットに直接印加することは、望ましくない遷移を量子ビットに誘導することによって、忠実度の著しい損失を引き起こす。例として、10GHzで動作する量子ビットのために、SFQパルスの立ち上がり時間は、制御部を断熱的に保つためにナノ秒程度に増加されなければならない。従って、SFQパルスを用いた量子ビットの断熱制御は、制御パルスを生成する接合部を極度に減衰させるか又はSFQパルスの厳しい低域フィルタリングを必要とする。フィルタ設計の当業者は、いずれの低域フィルタも、少なくとも単独で終端されなければならず、従ってSFQパルスのフィルタリングが、同様に著しい減衰を伴うことを理解されよう。散逸源への量子ビットのいずれの結合も、そのコヒーレンスを著しく低下させるので、量子ビットと制御回路との間の結合は、非常に小さくしなければならず、従って、SFQ源から干渉量子ビット回路に制御磁束を効率的に印加することは、依然として課題である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の実施形態によれば、量子干渉超伝導回路に磁束を印加するシステムが提供される。システムは、長いジョセフソン接合(LJJ:long Josephson junction)と、LJJに接続され、且つ量子干渉超伝導回路に誘導的に結合された誘導ループと、LJJの第1の端部にSFQパルスを印加するように構成された単一磁束量子(SFQ)コントローラであって、LJJが、磁束量子を誘導ループに印加して量子干渉超伝導回路に第1の値の制御磁束を印加しつつ、LJJの第2の端部にSFQパルスを伝搬する、単一磁束量子(SFQ)コントローラと、を備える。
【0005】
更に別の実施形態によれば、量子干渉超伝導回路に磁束を印加するシステムが提供される。システムは、LJJと、LJJの中間点でLJJに接続され、且つ量子干渉超伝導回路に誘導的に結合された誘導ループと、誘導結合ループに誘導的に結合されて誘導ループの双安定永久電流を確立するために磁束量子磁束バイアスの半分をループに供給するDC源であって、双安定永久電流が、最初に、量子干渉超伝導回路に印加される第1の値の制御磁束に起因する第1の循環方向にある、DC源とを備える。システムは、正のSFQパルスをLJJの第1の端部に印加するように構成されたSFQコントローラであって、LJJが、第1の循環方向から、量子干渉超伝導回路に印加される第2の値の制御磁束に起因する第2の循環方向に切り替わる誘導ループの双安定永久電流のための磁束量子を誘導ループに印加しつつ、LJJの第2の端部における整合負荷に正のSFQパルスを伝搬する、SFQコントローラを更に含む。
【0006】
別の実施形態によれば、量子干渉超伝導回路に磁束を印加する方法が提供される。方法は、LJJの中間点でLJJに接続され、且つ量子干渉超伝導回路に誘導的に結合される誘導ループを提供することを含む。方法は、DC磁束バイアスを誘導ループに印加して誘導ループにおける双安定永久電流を確立するために磁束量子磁束バイアスの半分を確立することであって、双安定永久電流が、最初に、量子干渉超伝導回路に印加される第1の値の制御磁束に起因する第1の方向にあること、LJJアレイの第1の端部に正の単一SFQパルスを印加することであって、LJJアレイが、磁束量子を誘導ループに印加して量子干渉超伝導回路に第2の値の制御磁束を印加しつつ、正の単一SFQパルスをLJJアレイの第2の端部における整合負荷に伝搬すること、を更に含む。方法は、LJJアレイの第1の端部に負のSFQパルスを印加して、LJJアレイが、誘導ループによって囲まれた磁束に対して初期値へのリセットを実行して制御磁束を量子干渉回路に印加して初期値にリセットしつつ、負のSFQパルスをLJJアレイの第2の端部における整合負荷に伝搬することを更に含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】量子干渉超伝導回路に磁束を印加するシステムにおける実施形態の機能ブロック図を示す。
【
図2】長いジョセフソン接合制限配置におけるジョセフソン伝送線(JTL:Josephson transmission line)の一部における例示的な概略図を示す。
【
図3】量子干渉超伝導回路に磁束を印加するシステムの実施形態の一部における回路図を示す。
【
図4】シミュレートされ最適化された量子干渉超伝導回路に磁束を印加する例示的なシステムを示す。
【
図5】
図4に示されている回路のSPICEシミュレーションの結果を示す。
【
図6】NビットDACにおける本発明の適用の例示的な実施形態を示す。
【
図7】磁束調整可能カプラを作動させる本発明の例示的な適用を示す。
【
図8】量子干渉超伝導回路に磁束を印加する方法の流れ図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1は、量子干渉超伝導回路(quantum-coherent superconducting circuit)18に磁束を印加するシステム10の実施形態の機能ブロック図を示す。システム10は、比較的大きな結合効率、緩やかなパルス立ち上がり時間を備え、量子回路のコヒーレンスを低下させることなしに、SFQコントローラ12への量子干渉超伝導回路18の結合を可能にするように構成される。
図1の例において、量子干渉超伝導回路18は、量子ビットである。しかしながら、システム10は、量子回路のコヒーレンスを低下させることなしに、様々な他の量子干渉超伝導回路に磁束を印加することができる。
【0009】
システム10は、長いジョセフソン接合(Long Josephson junction : LJJ)14を利用する。LJJは、入力インダクタンスと出力インダクタンスとの間で結合され、且つ接合技術を特徴とする接合と並列に分布容量を有する単一の広いジョセフソン接合(例えば、幅2μm×長さ200〜500μm)配置とすることができる。代替として、LJJは、長いジョセフソン接合制限配置(long-Josephson-junction limit arrangement)におけるジョセフソン接合アレイとして構成することができ、ジョセフソン接合アレイは、非分路ジョセフソン接合(即ち、ジョセフソン接合と並列の分路抵抗器がない)の並列アレイである。長い接合制限配置におけるジョセフソン接合アレイは、長さで約600μm〜約1000μmに及び得るLJJ配置に対する直列インダクタ(例えば、長さ約30μm)を備えたジョセフソン接合(例えば、約3μm×約3μm)を含むことができる。非分路ジョセフソン接合の並列アレイは、小さなインダクタを介して密結合され(tightly coupled)、長いジョセフソン接合制限(LJJ配置14)において受動ジョセフソン伝送線(Josephson transmission line : JTL)を形成する。LJJ14は、SFQコントローラ12を量子ビット18に結合するように協力するために、誘導ループ16と並列に結合される。LJJ14は、DCから量子ビット周波数の数倍までの広帯域にわたって、SFQコントローラ12における散逸源(dissipation source)及び整合負荷26(matched load)からの、量子ビット18の必要な電気的絶縁を提供する。
【0010】
かかるLJJ配置40の例が、
図2に示されているジョセフソン接合伝送線(JTL)回路図に示されている。LJJ配置40は、長いJTL又はLJJ配置を形成するコンデンサ(C)と並列に接続された非分路ジョセフソン接合(インダクタンスL
Jを有する)の並列アレイを含む。アレイにおける繰り返しセルは、直列インダクタLによって相互接続される。LJJ配置40は、LJJを記述するサイン−ゴルドン方程式(sine-Gordon equation)のフラクソン−ソリトン解(fluxons-soliton solutions)としてSFQパルスの伝搬を可能にする。LJJは、量子ビットの周波数範囲より数倍高く設定できる遮断周波数を備えた微小振動モードのマルチセクション高域フィルタとして動作し、SFQコントローラ12に関連する散逸素子(dissipative element)から量子ビットを効果的に分離する。
【0011】
「長い接合限界(Long junction limit)」は、JTLにおいて、ジョセフソン接合のインダクタンス(
【0012】
【数1】
であり、ここでI_0が、接合臨界電流である)が直列インダクタンスLより大きい場合を指す。
図1に示されているような「LJJ」は、並列に接続された長い接合限界アレイ配置におけるJTLの幾つかの段(stage)(例えば、
図2は、3つの段を示す)から構成される。LJJにおけるSFQは、幾つかの段にわたって広げられ(spread)、典型的にはこの数は、L_J/Lの平方根であり、LJJは、JTLの少なくともその複数の段を有しなければならない。
図4で説明されている回路において、平方根(L_J/L)が約4であるのに対して、LJJの長さは、合計26のJTLステージである。
【0013】
再び
図1を参照すると、量子ビット18へのインターフェースは、LJJ14の第1のLJJ部20及びLJJ14の第2のLJJ部22の中間点24において、LJJ14と並列のインダクタンスL
bを有する誘導ループ16を接続することによって確立される。磁束量子の半分のDC磁束バイアス(
図3に示されている)が、量子ビットのインダクタL2と相互に結合されたインダクタL1を有する誘導ループ16に外部的に印加される。DC磁束バイアスは、誘導ループ16によって囲まれる全磁束がゼロであるように、最初は、外部的に印加される磁束を遮る循環電流28である、誘導ループ16における双安定永久電流(bi-stable persistent current)を確立する。循環電流28は、例えば第1の共振周波数において量子ビットを設定するために、第1の値の制御磁束を量子ビットに供給する相互インダクタンスMにより量子ビットに磁束を誘導する。
【0014】
LJJ14に沿って移動する正のフラクソン(fluxon)32は、誘導ループ16を通過し、且つ誘導ループ16によって囲まれた全磁束を磁束量子全体によって変化させて、誘導ループ16における永久電流(persistent current)30の循環方向(direction of circulation)を逆転し、且つ相互インダクタンスMを介して量子ビット18に結合された磁束における変化をもたらす。これにより、第2の値の制御磁束を量子ビットに供給して、例えば第2の共振周波数において量子ビットを設定する。正のフラクソン32は、いずれの可能な反射も軽減するために、整合負荷インピーダンス26において終端する。代替として、負のフラクソンが、LJJ14の第2の端部から第1の端部に送信され得、且つLJJ14の第1の端部から第2の端部まで移動する正のフラクソン32と同じ効果を有することができる。
【0015】
図3は、量子干渉超伝導回路に磁束を印加するシステム50の実施形態の一部における回路図を示す。
図3は、量子ビット56とLJJ54の一部との間の誘導ループ(inductive loop)52を詳細に示す。量子ビットは、LJJアレイの中間点55で並列に接続された、インダクタンスL
b(L
b>>LJJ54のL)を有する誘導ループ52に、相互インダクタンスMを介して結合される。インダクタンスL
bを有する誘導ループ52、並びにLJJ54からのジョセフソン接合J
1及びJ
2の並列組み合わせが、RF−SQUIDとして周知の装置を形成し、その装置は、磁束バイアス線58からの、インダクタL3及びL4を介した磁束量子の半分のDC磁束バイアスΦ
0/2によって通られる(threaded)。このようにバイアスされると、RF−SQUIDは、双安定(bi-stable)であり、ループにおける合計磁束は、ゼロ(ループにおける永久電流が、外部的に印加される磁束バイアスを遮る)又は単一磁束量子(ループにおける永久電流が、外部的に印加される磁束バイアスを追加する)のいずれかである。RF−SQUIDは、接合J
1及びJ
2の位相を2πだけ進めることによって、一方の状態(ゼロ磁束)から他方の状態(一磁束量子)へ切り替えることができ、これは、両接合J
1及びJ
2を通る
図3におけるLJJ54を通して左から右に単一フラクソンを移動させることによって達成される。
【0016】
誘導ループ52によって囲まれた合計磁束は、LJJ54を通して右から左へ単一フラクソンを移動させることによって、又は代替としてLJJアレイ54を通して左から右へ反フラクソン(anti-fluxon)を移動させることによって、ゼロにリセットすることができる。
図3に示されている例において、双安定永久電流は、最初は右回りの電流62であり、LJJアレイ54を通って左から右に移動する反フラクソン60は、右回りの方向における永久電流を左回りの電流64へと反転させる。結合ループ52における双安定永久電流I
pは、今度は、量子ビット56内で、大きさ±MI
pを備えた磁束を誘導する。従って、量子ビットに印加される磁束スイングは、Φ
q=2MI
pであり、LJJアレイ54上を伝搬するフラクソンの速度によって決定され、且つサイン−ゴルドンソリトンの一般的なパルス波形を有する立ち上がり時間を備える。
【0017】
理想的には、フラクソンの伝搬速度は、任意に小さくすることができ、量子ビットにおける磁束パルスの立ち上がり時間を任意に長くし得ることを示唆する。しかしながら、遅いフラクソンは、LJJアレイ54における不均質性による散乱及びトラッピング(trapping)を受けやすく、その散乱及びトラッピングは、利用可能なフラクソン速度の可能な範囲に実際的な限界を課する。1ns程度の立ち上がり時間は、現在の技術を用いれば実際的なものと見なすことができるものの範囲内にある。
【0018】
図4は、シミュレートされ最適化された、量子干渉超伝導回路に磁束を印加する例示的なシステム70を示す。コンポーネントの数値は、特定の製造プロセス用に与えられており、コンポーネントの数値が、用途及びプロセス要件に基づいて、任意の所与の実装形態において異なり得ることが分かる。量子ビット72が、26個の接合アレイ70の中心点で結合され、アレイ70の各セルは、10μAの臨界電流(第1及び最後のセルは、境界効果を補償するために、より高い臨界電流を有しても良い)を備えた2つのジョセフソン接合を有する、且つ各接合が0.5のピコファラドコンデンサによって分路された正方形として図において描かれている。接合のそれぞれに接続されたコンデンサには、2つの目的があり、1)フラクソンの伝搬速度を低減すること、及び2)フラクソンの有効質量を増加させてフラクソンが熱雑音の影響をそれほど受けないようにすることである。セルのそれぞれは、
図2に示されているように、1つの接合を次の接合に接続する2つのインダクタL=1.83pHを更に含む。
【0019】
LJJの均質性を向上させ、且つ量子ビットに接続されるセルからのフラクソンの散乱を回避するために、アレイ70における1つ置きのセル78(
図4における実線の正方形)は、セル78に並列に設けられ、且つΦ
0/2の外部磁束を囲む(enclosing)インダクタL
b=350pHを有する(しかし量子ビットには接続されない)。アレイ70における他のセル80(破線の正方形)は、磁束バイアスされず、且つ追加のインダクタを自らに接続しない。アレイ70は、整合負荷終端76、及びSFQパルス発生器72とアレイ70との間のソース終端74で追加的に終端される。本発明者らは、ソース終端74が、代わりに、SFQ発生器72の一部として含まれても良いことに注目する。負荷終端が、代わりに、LJJの状態を監視可能か又は更なるデジタル処理により生じるフラクソンを使用可能な追加の回路、例えば受信機の一部とし得ることが更に理解されるべきである。ソース終端及び負荷終端の値は、おおよそR=Lvを介してフラクソン速度によって決定され、ここでvは速度であり、Lは、単位長さ当たりのアレイにおける直列インダクタンスである。LJJは、0.5nsの幅及び正又は負いずれかの極性を備えた極度に減衰されたSFQパルスをSFQコントローラ72から供給される。
【0020】
図5は、
図4に示されている回路のSPICEシミュレーションの結果を示す。パネル(a)は、ソリトン波形がアレイを通って移動するときのソリトン波形を示す。パネル(b)は、0.5nsの立ち上がり時間を備えた良く制御された磁束信号を量子ビットに印加する際における装置の動作を説明する。別のシミュレーションにおいて、量子ビットの線質係数に対するソース及び負荷終端抵抗器の影響が調査された。結合ループに対する量子ビットの所与の相互インダクタンスMに対して、量子ビットから見た実効アドミタンスの実数部が計算され、これから、量子ビット緩和時間T
1及び位相緩和時間T
φが計算される。シミュレーションは、M=45pH(10%に近い結合効率)で、緩和時間及び位相緩和時間が、それぞれ10μs及び500μsを超過することを示し、終端抵抗器からの効率的な広帯域分離を実証する。
【0021】
LJJにおける接合の数を増加させることによって、より多くの分離を得ることが可能である。しかしながら、量子ビットからLJJへの寄生容量結合は、実際上は分離を制限する可能性がある。
図4の例において、量子ビット結合セルの両側における13の接合は、接合数を増加させることに基づく収穫逓減(diminishing returns)で十分な分離を提供する。更に
図4に示されている構成は、製造プロセス臨界電流密度における全体的変動に対して堅牢であると判断され、且つ装置全体にわたる接合臨界電流の不均質性に対して±20%の動作マージンを有する。
【0022】
図6は、量子ビット126を制御するNビットDAC100における本発明の適用の例示的な実施形態を示す。DAC100の各ビットは、LJJ124を介して量子ビット126に結合され、各LJJ124の結合効率は、最上位ビットにおけるkの最大値から、最下位ビット用のk/2
nの値に変化し、ここでnは、ビット数である。DACシフトレジスタ120には、「データイン」ポートを介して低速で連続的に供給することができ、データは、高速で並列に量子ビットに印加することができ、DACコードの各更新は、「更新」ポートにおいてSFQパルスによってトリガされる。更新パルスは、例えば、プログラムカウンタのタイムアウト条件に応じて生成されても良く、又は量子プロセッサにおける異なる量子ビットの測定結果に基づいて条件付きで発せられる中断に応じて生成されても良い。DACシフトレジスタ120は、破壊読み出しタイプ若しくは非破壊読み出しタイプであっても良く、又はアドレス指定可能プログラムメモリレジスタとして実現することができる。LJJが、
図6に示されているように、直接に、又は直接相互結合及び1つ若しくは複数の磁束トランスを通した結合の任意の組み合わせを介して、各DACビットを量子ビット126に接続されても良いことが理解されるべきである。
【0023】
図7は、磁束調整可能カプラ146を作動させる本発明の例示的な適用を示す。量子ビットQ
A及びQ
Bが両方ともRF−SQUIDに結合され、その結果、2つの量子ビット間の有効相互インダクタンスは、RF−SQUIDに印加される磁束の関数である。データは、SFQドライバ142によって、LJJ144を通して磁束調整可能カプラ146に供給される。この適用において、散逸からの回路の分離は、直接量子ビット制御におけるのと同じように重要であるが、しかし制御パルスの立ち上がり時間に対する要件は、それほど厳格でなくても良い。
【0024】
前述の構造及び上記の機能的特徴を考慮すれば、例示的な方法論が、
図8に関連して一層良く理解されよう。説明の簡略化のために、
図8の方法論は、連続的に実行されるように図示され説明されているが、本発明が、示されている順序によって限定されないことが理解され認識されるべきである。何故なら、他の例において、幾つかの動作が、本明細書で示され説明されている順序と異なる順序で、且つ/又は同時に行われ得るからである。
【0025】
図8は、量子干渉超伝導回路に磁束を印加する方法の流れ図を示す。方法は、202で始まり、202において、長いジョセフソン接合(LJJ)又は長いジョセフソン接合制限配置におけるジョセフソン接合アレイに中間点で結合され、且つ量子干渉超伝導回路に誘導的に結合される誘導ループが提供される。次に、方法は、204に進み、204において、DC磁束バイアスが誘導ループに印加されて、最初に第1の方向(例えば、左回りの方向)である誘導ループの双安定永久電流を確立するために磁束量子の半分を確立する。これにより、制御磁束の第1の値が、量子干渉回路に印加される。206において、正の単一磁束量子(SFQ)パルスが、LJJの第2の端部における整合負荷に正のSFQパルスを伝搬するLJJの第1の端部に印加されるとともに、磁束量子が誘導ループに印加されて第2の値の制御磁束が量子干渉超伝導回路に印加される。量子干渉超伝導回路に印加される第2の値の制御磁束は、正のSFQの通過によって誘導された誘導ループの双安定永久電流における循環方向の反転(例えば、右回りの方向への)による。次に、方法は、208に進む。
【0026】
208において、リセットされたSFQパルスがLJJに供給されて、第1の方向(例えば、左回りの方向)に逆に変化する誘導ループの双安定永久電流に起因する磁束量子を誘導ループから除去して制御磁束の第1の値へのリセットが量子干渉超伝導回路に適用される。リセットされたSFQパルスは、LJJアレイの第2の端部における整合負荷に負のSFQパルスを伝搬するLJJアレイの第1の端部への負のSFQパルスの印加、又はLJJアレイの第1の端部に伝搬するLJJアレイの第2の端部への正のSFQパルスの印加とすることができる。
【0027】
上記で説明されたものは、本発明の例である。もちろん、本発明を説明するためのコンポーネント又は方法の全ての考えられる組み合わせを説明することは不可能であるが、しかし当業者は、本発明の多数の更なる組み合わせ及び置き換えが可能であることを理解されよう。従って、本発明は、添付の特許請求の範囲を含む本出願の範囲内に入る全てのかかる変更形態、修正形態及び変形形態を包含するように意図されている。