(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記加工負荷データを取得する工程は、直前のワークを加工する際のトルク変動に基づいて前記加工負荷データを取得することを特徴とする請求項1に記載の円形穴加工方法。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の製造工程では、エンジンのシリンダブロックのボアを切削加工し、その後、シリンダヘッドやクランクケース等をシリンダブロックに組み付けることが行われている。
ここで、ボアに収容されるピストンは断面真円形状であるため、ボアの断面形状が真円に近い状態になるように切削加工している。
【0003】
ところが、シリンダブロックのボアを断面真円形状に加工したとしても、シリンダヘッドやクランクケース等が組み付けられると、ボアの形状が変形してしまう。このようにボアが変形すると、エンジンの使用時におけるボアとピストンとの摺動抵抗が増加する要因になり、エンジンが所望の性能を発揮できないおそれがある。
【0004】
そこで、シリンダブロックのボアを加工する際、シリンダヘッドを模したダミーヘッドを取り付けてボアの加工を行い、ボアの加工が終了すると、ダミーヘッドを取り外していた。
しかしながら、シリンダブロックのボア加工の都度、ダミーヘッド等の取り付け、取り外しを行うと、生産性が大幅に低下する、という問題がある。
【0005】
この問題を解決するため、以下のような手法が提案されている(特許文献1,2参照)。すなわち、まず、ダミーヘッドをシリンダブロックに装着して、工作機械によりボアを断面真円形状に加工する。次に、シリンダブロックからダミーヘッドを取り外す。すると、ダミーヘッドの組付けによる応力が解消されるので、ボアの形状が変形して断面非真円形となる。この断面非真円形状のボアの全体形状を測定して、NCデータを生成しておく。
【0006】
このNCデータは、具体的には、ダミーヘッドを取り外して断面非真円形状となったボアに対して、ボアの軸線に沿って所定間隔おきに測定点を設定し、各測定点でのボアの断面形状を測定したものである。
【0007】
その後、生成したNCデータに基づいて、ダミーヘッドを装着せずに、未加工のシリンダブロックのボーリング加工を行って、非真円形状のボアを形成する。
このようにすれば、シリンダブロックにダミーヘッドを取り付けずにボアを加工しても、シリンダヘッドを装着すると、ボアが真円形状となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1,2の手法によれば、シリンダヘッド装着時に真円形状となるようにシリンダブロックのボアを加工することができるものの、近年では、加工精度を高める更なる工夫が求められている。すなわち、シリンダブロックのボーリング加工(切削加工)では、刃具を押し当てて切削するため、ワークは、刃具により押圧される。刃具による押圧力(以下、加工負荷と呼ぶ)が大きくなると、ワークには弾性変形が生じてしまい、加工精度が低下してしまう。そこで、このような加工負荷に基づく加工精度の低下を防止する工夫が求められる。
【0010】
ここで、加工負荷は、刃具の摩耗具合によって異なり、摩耗が少ない刃具では加工負荷が小さいものの、摩耗の大きい刃具では加工負荷が大きくなる。そのため、摩耗が大きくなるたびに刃具を新刃に交換する対応が考えられるが、交換頻度が増大し、コストアップにつながるため、必ずしも好ましくない。また、切削の取代を小さくし、加工負荷を減少させる対応も考えられるが、取代を小さくした分だけ他の工程に影響を与えてしまう。すなわち、切削工程を荒工程及び仕上工程のような複数の工程に分割する必要や、切削工程の後に行う研磨工程において取代を大きくする必要等があり、全体のサイクルタイムが増大してしまう。
【0011】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、刃具の摩耗に関わらず精度良く加工可能な円形穴加工方法及び円形穴加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)ワーク(例えば、後述のシリンダブロック)に円形の穴を加工する円形穴加工方法であって、ワークを加工する際に刃先(例えば、後述の切削バイト13の刃先)に掛かる加工負荷に対応する加工負荷データを取得する工程(例えば、後述の加工負荷データ取得部401が実行する工程)と、前記工程により取得された加工負荷データとワークの部位(例えば、切削バイト13の刃先が接触する円周上の部分、ワークの深さ)毎の剛性データ(例えば、後述の弾性変形量)とを利用して、ワークの加工形状を予測する工程(例えば、後述の加工形状予測部402が実行する工程)と、前記工程により予測された加工形状を目標形状に対して反転した反転形状が形成されるようにワークに対して加工を行う工程(例えば、後述のモータ制御部403が実行する工程)と、を含むことを特徴とする円形穴加工方法。
【0013】
(1)の円形穴加工方法によれば、刃先に掛かる加工負荷に対応する加工負荷データを取得し、この加工負荷データによりワークに生じる弾性変形を加味してワークの加工形状を予測する。そして、この予測した加工形状を目標形状に対して反転して、ワークに対して加工を行う。これにより、加工負荷の増大に伴いワークに生じる弾性変形に基づく誤差を相殺することができる。
その結果、刃先の摩耗度合いに関わらず、精度良くワークに対して円形の穴を加工することができる。また、刃先の交換頻度を抑えることができ、コストを低く抑えることができる。また、刃先の摩耗度合いに応じて切削の取代を小さくする必要もなく、サイクルタイムを抑えることができ、生産性を向上させることができる。
【0014】
(2)前記加工負荷データを取得する工程は、直前のワークを加工する際のトルク変動に基づいて前記加工負荷データを取得することを特徴とする(1)に記載の円形穴加工方法。
【0015】
(2)の円形穴加工方法によれば、トルク変動から所定の演算により加工負荷データを取得できるため、マスターデータを予め用意する必要がない。
【0016】
(3)ワークの加工台数と刃先の摩耗量に応じた加工負荷データとを対応付けたマスターデータ(例えば、後述の加工台数負荷対応テーブル405)を備え、前記加工負荷データを取得する工程は、加工台数に応じた加工負荷データを前記マスターデータから読み出すことで前記加工負荷データを取得する(1)に記載の円形穴加工方法。
【0017】
(3)の円形穴加工方法によれば、適切なマスターデータを一度用意してしまえば、オートマチックに加工を進めることができる。
【0018】
(4)前記加工は、ボーリング用刃具を用いて行うことを特徴とする(1)から(3)の何れかに記載の円形穴加工方法。
【0019】
(4)の円形穴加工方法によれば、刃先の摩耗が著しいボーリング用刃具を用いた加工において、刃先の摩耗に関わらず加工精度を向上させることができ好適である。
【0020】
(5)ワーク(例えば、後述のシリンダブロック)に円形の穴を加工する円形穴加工装置(例えば、後述の非真円形穴加工装置1)であって、ワークを加工する際に刃先(例えば、後述の切削バイト13の刃先)に掛かる加工負荷に対応する加工負荷データを取得する加工負荷データ取得部(例えば、後述の加工負荷データ取得部401)と、取得された加工負荷データとワークの部位(例えば、切削バイト13の刃先が接触する円周上の部分、ワークの深さ)毎の剛性データ(例えば、後述の弾性変形量)とを利用して、ワークの加工形状を予測する加工形状予測部(例えば、後述の加工形状予測部402)と、予測された加工形状を目標形状に対して反転した反転形状が形成されるようにワークに対して加工を行うモータ制御部(例えば、後述のモータ制御部403)と、を含むことを特徴とする円形穴加工装置。
【0021】
(6)前記加工負荷データ取得部は、直前のワークを加工する際のトルク変動に基づいて前記加工負荷データを取得することを特徴とする(5)に記載の円形穴加工装置。
【0022】
(7)ワークの加工台数と刃先の摩耗量に応じた加工負荷データとを対応付けたマスターデータ(例えば、後述の加工台数負荷対応テーブル405)を備え、前記加工負荷データ取得部は、加工台数に応じた加工負荷データを前記マスターデータから読み出すことで前記加工負荷データを取得する(5)に記載の円形穴加工装置。
【0023】
(8)ボーリング用刃具を用いた加工装置であることを特徴とする(5)から(7)の何れかに記載の円形穴加工装置。
【0024】
(5)〜(8)の円形穴加工装置によれば、(1)〜(4)と同様の効果を奏する。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、刃具の摩耗に関わらずワークに対する加工を精度良く行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る非真円形穴加工装置1の概略構成図である。
非真円形穴加工装置1は、例えば、ワークとしての自動車エンジンのシリンダブロックのボアに加工ヘッド10を挿入し、ボーリング加工を行う。
この非真円形穴加工装置1は、加工ヘッド10を回転させる回転駆動機構20と、この回転駆動機構20を進退させる進退機構30と、これらを制御する制御装置40と、ワークのボアの内径形状を測定する真円度測定器51と、この真円度測定器51の測定結果を解析して制御装置40に出力する上位コンピュータ52と、を備える。
また、上位コンピュータ52には、ワークのシミュレーション解析を行うCAEシステム54、及び、ワークの設計を行うCADシステム53が接続されている。
【0028】
回転駆動機構20は、円筒形状のアーバ21と、アーバ21の内部に収納されたシャフト22と、アーバ21を回転駆動するアーバモータ23と、シャフト22を回転駆動するシャフトモータ24と、アーバモータ23を収容するハウジング25と、を備える。
ここで、アーバ21の回転軸とシャフト22の回転軸とは、同軸である。
【0029】
ハウジング25には、アーバモータ23のほか、アーバ21を回転可能に保持するベアリング251と、アーバ21の回転速度及び回転角を検出する第1ロータリエンコーダ252と、進退機構30が螺合されるナット部253と、が設けられている。
【0030】
シャフトモータ24には、シャフト22の回転速度及び回転角を検出する第2ロータリエンコーダ241が設けられている。
【0031】
進退機構30は、送りねじ機構であり、ねじが刻設された軸部31と、この軸部31を回転駆動する進退モータ32と、軸部31の回転速度及び回転角を検出する第3ロータリエンコーダ33と、を備える。軸部31は、ハウジング25のナット部253に螺合されている。
この進退機構30によれば、進退モータ32を駆動することにより軸部31が回転し、回転駆動機構20を進退させることができる。
【0032】
加工ヘッド10は、アーバ21に一体に連結される円筒形状のアーバ11と、アーバ11の内部に収納されてシャフト22に一体に連結されるシャフト12と、アーバ11の外周面に突没可能に設けられた切削バイト13と、を備える。
【0033】
アーバ11の先端側には、アーバ11の回転軸に交差する方向に延びる貫通孔111が形成されている。
切削バイト13は、棒状であり、貫通孔111に挿入されて、図示しない付勢手段により、シャフト12に向かって付勢されている。
【0034】
図2に示すように、シャフト12には、切削バイト13を突出する方向に押圧するカム121が設けられている。
カム121は、例えば、真円形状であり、シャフト12は、この真円形の中心からずれた位置に設けられている。これにより、シャフト12の回転中心からカム121の周縁までの距離は、連続的に変化する。
なお、カム121の形状は、真円形状に限らないが、コストを低減するため、真円形状が好ましい。
【0035】
このカム121の周縁には、切削バイト13の基端縁が当接する。したがって、アーバ11に対するシャフト12の角度を変化させることで、カム121の周縁のうち切削バイト13に当接する部分が変化し、切削バイト13のアーバ11の外周面からの突出量が変化する。
【0036】
図2(a)は、カム121の突出量がtである状態を示す模式図であり、
図2(b)は、切削バイト13の突出量がゼロである状態を示す模式図である。
図2中、カム121の回転中心からカム121の周縁のうちシャフト12から最も遠い部分に至る直線を、カム121の基準線Qとし、切削バイト13の中心軸を通る直線を、切削バイト13の基準線Rとする。そして、カム121の基準線Qと切削バイト13の基準線Rとの成す角度を、カム角度とする。
【0037】
切削バイト13の突出量がtとなる状態では、カム角度はαである。このαを初期角度とする。一方、切削バイト13の突出量がゼロとなる状態では、カム角度は(α+β)である。
カム121の半径をCrとし、カム121の中心から回転中心までのオフセット寸法をCoとすると、カム121の回転中心から切削バイト13の基端縁までの最大寸法L1及び最小寸法L2は、以下の式(1)、(2)で表される。
【0038】
L1=Co×cos(α)+Cr ・・・(1)
L2=Co×cos(α+β)+Cr ・・・(2)
【0039】
以上より、カム角度のストロークはβ(揺動角)となり、切削バイト13の突出量のストロークはtとなり、以下の式(3)が成立する。
【0040】
t=L1−L2=Co×{cos(α)−cos(α+β)} ・・・(3)
【0041】
この式(3)に基づいて、カム角度と切削バイト突出量との関係を
図3に示す。
図3中実線で示すように、切削バイト13の突出量は、カム角度の変化に対して、非線形つまり円弧状に変化する。一方、
図3中破線で示すように、理想的なカムでは、切削バイトの突出量は直線状(リニア)に変化する。よって、切削バイトの突出量を直線状(リニア)に変化させた場合に比べて、切削バイト13の突出量の誤差は、カム角度α(初期角度)とカム角度(α+β)との中間付近で最も大きくなる。
【0042】
したがって、切削バイト13をΔtだけ突出させたい場合には、この突出量(Δt)に対応するカム角度(α+Δβ)を、カム角度の指令値とする。これにより、容易に突出量を直線状(リニア)に変化させることができる。
具体的には、例えば、突出量(Δt)と、カム角度の指令値(α+Δβ)とが対応付けられた突出量カム角度対応テーブル91(
図1参照)を生成して、予め主制御装置41のメモリ90に記憶させておき、後述の同期コントローラ42により、この指令値(α+Δβ)を呼び出せるようにする。なお、これに限らず、突出量カム角度対応テーブル91を、同期コントローラ42自体に記憶させてもよいし、また、上位コンピュータ52から同期コントローラ42に出力させてもよい。
【0043】
図1に戻って、制御装置40は、アーバ21及びシャフト22を同期して回転させつつ、アーバ21の回転角の位相に対してシャフト22の回転角の位相を進角化または遅角化することにより、切削バイト13のアーバ11の外周面からの切削バイト13の突出量を調整することができる。
この制御装置40は、主制御装置41、同期コントローラ42、第1サーボアンプ43、第2サーボアンプ44、及び第3サーボアンプ45を備える。
【0044】
主制御装置41は、上位コンピュータからの出力に従って、第1サーボアンプ43及び第3サーボアンプ45を介して、アーバモータ23及び進退モータ32を駆動し、ワークに対する切削バイト13の切削速度及び軸線上の位置を制御する。すなわち、主制御装置41は、いわゆるNC(数値)制御装置と同様の動作をする装置である。この主制御装置41は、突出量カム角度対応テーブル91を記憶したメモリ90を備えている。
【0045】
同期コントローラ42は、ワークのボアに対する切削バイト13の向き(すなわちアーバ21の回転角)と、ワークのボアに対する切削バイト13の軸線上の位置(すなわち進退機構30の軸部31の回転角)とに応じて指令信号を出力する。これにより、第2サーボアンプ44を介してシャフトモータ24を駆動し、切削バイト13の突出寸法(すなわちアーバ11の外周面からの切削バイト13の突出量)を調整する。
【0046】
具体的には、アーバ21の回転角及び加工ヘッド10の進退方向の位置(すなわち切削バイト13のワークのボアに対する軸線上の位置)と、切削バイト13の突出量との関係を示すマップが、上位コンピュータからの出力に基づいて生成され、このマップは、同期コントローラ42により、当該同期コントローラ42内のメモリに記憶される。
マップとは、パラメータを配列したものである。すなわち、上述のマップは、加工ヘッド10の進退方向の位置(すなわち切削バイト13のワークのボアに対する軸線上の位置)毎に、アーバ21の回転角及び切削バイト13の突出量との関係を示すボアの断面2次元データを求め、軸線方向に配列したものである。
【0047】
そして、同期コントローラ42は、第1ロータリエンコーダ252で検出したアーバ21の回転速度及び回転角(具体的には、単位時間当たりのロータリエンコーダが発生するパルス数、すなわち、サンプリング時間のパルス数)、ならびに、第3ロータリエンコーダ33で検出した軸部31の回転角(具体的には、単位時間当たりのロータリエンコーダが発生するパルス数、すなわち、サンプリング時間のパルス数)に基づいて、前記同期コントローラ42内のメモリに記憶された、切削バイト13の突出量の関係を示すマップを参照して、第2サーボアンプ44を介して、シャフトモータ24を駆動する。
このとき、第2サーボアンプ44により、第2ロータリエンコーダ241で検出したシャフト22の回転速度及び回転角(具体的には、単位時間当たりのロータリエンコーダが発生するパルス数、すなわち、サンプリング時間のパルス数)に応じて、シャフトモータ24をフィードバック制御する。
【0048】
以上のように構成される非真円形穴加工装置1では、切削バイト13の摩耗具合に応じて、自動車エンジンのシリンダブロックのボアをボーリング加工する。以下、詳細に説明する。
図4は、制御装置40の機能的構成を示すブロック図である。なお、以下に示す構成は、制御装置40を構成する主制御装置41が備えることとしてもよく、また、同期コントローラ42が備えることとしてもよい。
【0049】
図4を参照して、制御装置40は、加工負荷データ取得部401と、加工形状予測部402と、モータ制御部403と、メモリ404と、を含んで構成される。メモリ404は、加工台数負荷対応テーブル405と、加工負荷変形量対応テーブル406と、を含んで構成される。
【0050】
加工負荷データ取得部401は、切削バイト13がワークを加工する際に刃先に掛かる加工負荷に対応する加工負荷データを取得する。ここで、刃先に掛かる加工負荷とは、切削バイト13がワークを押圧する力であり、加工負荷が大きくなるとアーバモータ23のトルクが増大する。そこで、加工負荷データ取得部401は、アーバモータ23のトルクを監視し、トルクの変動から所定の演算により加工負荷に対応する加工負荷データを取得する。
【0051】
また、切削バイト13の刃先が摩耗すると、ワークを切削せずに押圧する力が増大することから、刃先に掛かる加工負荷は、切削バイト13の刃先が摩耗するほど増大する。ここで、ワークが同一であるため、刃先の摩耗度は加工したワークの台数(加工台数)と対応付けて定量的に算出することができる。
図5は、加工台数、刃先の摩耗及び加工負荷の関係を模式的に示す図である。対応関係G1は、加工台数と刃先の摩耗との関係を示しており、加工台数が増加すると、刃先の摩耗も増大する。また、対応関係G2は、加工台数と加工負荷との関係を示しており、加工台数が増加すると、刃先に掛かる加工負荷も増大する。このような関係(特に対応関係G2)を予め算出しておき、加工台数負荷対応テーブル405(マスターデータ)としてメモリ404に記憶する。
そして、加工負荷データ取得部401は、現在の加工台数に応じた加工負荷に対応する値を加工台数負荷対応テーブル405から読み出して、加工負荷に対応する加工負荷データを取得することとしてもよい。
【0052】
ここで、加工負荷(刃先がワークを押圧する力)が増大すると、ワークに弾性変形が生じ、加工精度が低下してしまう。そこで、加工形状予測部402は、加工負荷データ取得部401が取得した加工負荷データとワークの剛性データとを利用してワークを加工した際の加工形状を予測する。
図6は、加工負荷とワークの弾性変形量(剛性データ)との関係を模式的に示す図である。対応関係G3は、加工負荷とワークの弾性変形量との関係を示しており、加工負荷が増大すると、弾性変形量も増大する。そこで、このような関係を予め算出しておき、加工負荷変形量対応テーブル406(マスターデータ)としてメモリ404に記憶する。
【0053】
なお、ワークの弾性変形量は、ワークによって一定ではなく、切削バイト13の刃先が接触する部分によって異なる。そこで、加工負荷変形量対応テーブル406は、切削バイト13の刃先が接触する円周上の部分毎に加工負荷と弾性変形量との関係を規定しておくことが好ましい。
また、ワークの弾性変形量は、ワークの円周上の部分だけでなく、ワークの深さによっても異なる。具体的には、ボアのボーリング加工は、
図7のように深さR1〜R3まで連続して行われるが、ワークの表面(深さR1,R3)は、ワークの内部(深さR2)よりも変形し易い。そこで、加工負荷変形量対応テーブル406は、ワークの深さ毎に加工負荷と弾性変形量との関係を規定しておくことが好ましい。
【0054】
加工形状予測部402は、加工負荷データ取得部401が取得した加工負荷データに応じた弾性変形量を加工負荷変形量対応テーブル406から読み出し、ボーリング加工の目標形状にこの弾性変形量を加味してボーリング加工した際の加工形状を予測する。
なお、加工負荷データ取得部401がアーバモータ23のトルクから加工負荷データを取得する場合、取得した加工負荷データは、加工負荷データを取得しているワークの次のワークに対する加工形状の予測に用いられる。
【0055】
モータ制御部403は、加工形状予測部402が予測した加工形状を目標形状に対して反転させた反転形状が加工されるように、各種モータ23,24,32を制御し、ワークに対して加工を行う。
【0056】
図8は、ボアの加工形状の断面図である。
図8において加工目標とするボアの内周面の位置(目標形状)を基準線T0とする。
図8(a)を参照して、加工形状予測部402が予測した加工形状S1について説明する。加工負荷に応じてワークが弾性変形するため、
図8(a)に示すように、加工形状予測部402が予測する加工形状S1は、加工目標の基準線T0に対して所定の誤差を有する。
【0057】
そこで、
図8(b)に示すように、モータ制御部403は、加工形状S1を加工目標の基準線T0に対して反転し、反転形状S2を生成する。すなわち、加工形状S1において基準線T0よりもΔTだけ内側に位置する部分を基準線T0で反転し、基準線T0よりもΔTだけ外側に位置することとする。
そして、モータ制御部403は、この反転形状S2が加工されるように、各種モータ23,24,32を制御する。これにより、ワークの弾性変形に基づく誤差が相殺され、基準線T0と略一致する目標形状S0(
図8(c)参照)が加工されることになり、加工精度を向上させることができる。
【0058】
次に、以上のように構成される非真円形穴加工装置1を用いて、自動車エンジンのシリンダブロックのボアをボーリング加工する手順について、
図9のフローチャートを参照して説明する。
【0059】
初めに、加工負荷データ取得部401は、切削バイト13がワークを加工する際に刃先に掛かる加工負荷をワークの部位(円周及び深さ)毎に測定して加工負荷データを取得する(ステップST1)。なお、加工負荷データの取得は、上述のように切削バイト13を回転させるアーバモータ23のトルクの変動から算出することとしてもよく、また、切削バイト13が加工したワークの加工台数から算出することとしてもよい。
【0060】
続いて、加工形状予測部402は、目標形状にステップST1で測定した加工負荷に応じた弾性変形量を加味して、ボーリング加工した際の加工形状を予測する(ステップST2)。続いて、モータ制御部403は、ステップST2で予測した加工形状を目標形状に対して反転し、この反転形状が加工されるように各種モータ23,24,32を制御し、ワークに対して非真円形加工を行う(ステップST3)。
【0061】
以上説明した本実施形態によれば、以下のような効果がある。
切削バイト13を用いた加工を繰り返すと、切削バイト13の刃先が摩耗し加工精度が低下する。この点、本実施形態の非真円形穴加工装置1では、摩耗による加工精度の低下を抑制するように各種モータ23,24,32を制御し、ワークに対して非真円形加工を行う。具体的には、摩耗による加工精度の低下がワークの弾性変形に基づくものであることに着目し、刃先に掛かる加工負荷に対応した加工負荷データを取得し、この加工負荷データからワークの弾性変形量を算出する構成とした。そして、算出した弾性変形量を加味(反転)してワークに対して加工を行うことで、ワークの弾性変形に基づく誤差を相殺する。
これにより、本実施形態の非真円形穴加工装置1によれば、切削バイト13の刃先の摩耗度合いに関わらず、精度良くワークに対して非真円形加工を行うことができる。その結果、刃先の交換頻度を抑えることができ、コストを低く抑えることができる。また、刃先の摩耗度合いに応じて切削の取代を小さくする必要もなく、サイクルタイムを抑えることができ、生産性を向上させることができる。
【0062】
なお、加工負荷データは、ワークを加工する際のアーバモータ23のトルク変動から所定の演算により算出することとしてもよく、また、加工台数と加工負荷とを対応付けたマスターデータを設け、このマスターデータを参照して算出することとしてもよい。
トルク変動から算出する場合、マスターデータを予め用意する必要がなく好適である。また、マスターデータを参照して算出する場合、一度マスターデータを用意してしまえば、オートマチックに加工を行うことができ好適である。
【0063】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【0064】
本実施形態では、ワークであるシリンダブロックを固定し、この状態で、加工ヘッド10を回転させてボアを加工したが、これに限らない。すなわち、加工ヘッドを回転させずに、ワークであるシリンダブロックを回転させて、ボアを加工してもよい。このような加工にも、本発明を適用することができる。
【0065】
また、本実施形態では、ワークであるシリンダブロックに形成された穴の内周面を加工したが、これに限らず、ワークの外周面を加工してもよい。すなわち、例えば、エンジンのカムシャフトのカム部及びジャーナル部、ピストン、ロータリーエンジンのロータ、クランクシャフトのピン部及びジャーナル部等が挙げられる。