特許第6029766号(P6029766)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6029766
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】エスカレータ手摺の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B66B 23/24 20060101AFI20161114BHJP
   D07B 1/06 20060101ALI20161114BHJP
   D07B 1/16 20060101ALI20161114BHJP
   B29C 47/02 20060101ALI20161114BHJP
【FI】
   B66B23/24 A
   D07B1/06 Z
   D07B1/16
   B29C47/02
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-539158(P2015-539158)
(86)(22)【出願日】2014年9月19日
(86)【国際出願番号】JP2014074810
(87)【国際公開番号】WO2015046041
(87)【国際公開日】20150402
【審査請求日】2016年1月21日
(31)【優先権主張番号】特願2013-199496(P2013-199496)
(32)【優先日】2013年9月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100073759
【弁理士】
【氏名又は名称】大岩 増雄
(74)【代理人】
【識別番号】100088199
【弁理士】
【氏名又は名称】竹中 岑生
(74)【代理人】
【識別番号】100094916
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 啓吾
(74)【代理人】
【識別番号】100127672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 憲治
(72)【発明者】
【氏名】西村 良知
(72)【発明者】
【氏名】羽田 智子
(72)【発明者】
【氏名】竹山 豪俊
【審査官】 大谷 光司
(56)【参考文献】
【文献】 特公昭63−046196(JP,B2)
【文献】 特開昭56−169886(JP,A)
【文献】 特開平07−033376(JP,A)
【文献】 特開平04−131218(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0321734(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 23/24
D07B 1/06,1/16
B29C 47/00−47/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属鋼線及び熱可塑性樹脂を含む複合材料を備えたエスカレータ手摺の製造方法であって、
心素線と前記中心素線を囲むように複数のストランドを配置すると共に、前記中心素線と前記ストランドとの距離同一となるように、当該中心素線及び当該ストランドの延伸方向に張力をかけて、前記金属鋼線を生成する金属鋼線生成工程と、
前記金属鋼線を溶融した前記熱可塑性樹脂の温度以上に加温するプリヒート工程と、
前記プリヒート工程にて加温された前記金属鋼線と溶融した前記熱可塑性樹脂を一体化し、前記エスカレータ手摺の断面形状に加工されたダイスから押し出して前記複合材料を形成する複合材料形成工程と、
前記複合材料形成工程にて形成された前記複合材料を強制冷却する冷却工程と、を含むことを特徴とするエスカレータ手摺の製造方法
【請求項2】
前記複合材料形成工程において、
前記ダイスの内部温度は溶融した前記熱可塑性樹脂の温度と同一に管理され、
前記ダイスに注入される溶融した前記熱可塑性樹脂の注入圧力は、前記中心素線と前記ストランドとの距離が許容範囲内に維持され、前記中心素線と前記ストランドとの間に前記熱可塑性樹脂の欠損した空洞が形成されないように管理されることを特徴とする請求項1記載のエスカレータ手摺の製造方法
【請求項3】
前記複合材料形成工程の際に供給される前記熱可塑性樹脂は、分解されることなく粘度が最小値まで下がるように加熱されることを特徴とする請求項1または2に記載のエスカレータ手摺の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材料を備えたエスカレータ用の手摺、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エスカレータに用いられるエスカレータ手摺は、金属鋼線、熱可塑性樹脂、帆布等を有する複合材料を備えたものであり、熱可塑性樹脂内部に金属鋼線を配置した複合材料からなる異形成型品である。特許文献1には、樹脂材料と金属鋼線から成る樹脂−金属複合材料を備えたタイヤの製造方法が記載されている。特許文献1の樹脂−金属複合材料は、シランカップリング剤を含み且つ接触角80°以下である処理液(特定処理液)で接着強度を向上させていた。特許文献1の樹脂−金属複合材料の製造方法は、アルコール又は界面活性剤、水で希釈したシランカップリング剤溶液を金属鋼線へ塗布した後110℃で焼付け、これを樹脂に付与し一体成形するものであり、これにより樹脂に対する金属鋼線の引抜強度を向上させようとしていた。
【0003】
また、特許文献1のタイヤは、金属繊維のモノフィラメント(単線)、又はこれらの繊維を撚ったマルチフィラメント(撚線)の金属鋼線のコードが用いられ、特定処理液を用いることにより、金属鋼線として、マルチフィラメントが適用された場合においても、樹脂材料と金属鋼線との接着性に優れたものとなると、記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−11718号公報(0018段〜0020段、0063段、0074段、図1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のタイヤは金属繊維の単線や撚線が用いられていたが、エスカレータ手摺は強度を増すために中心素線と複数のストランドから構成される金属鋼線が用いられる場合がある。複合材料を形成するための金属鋼線が中心素線と複数のストランドから構成され、中心素線と複数のストランドとを撚り合わせて特許文献1のように撚線にする場合、中心素線とストランド間に熱可塑性樹脂を均一に充填することができず、熱可塑性樹脂材に対する金属鋼線の引抜強度のばらつきが大きく、所要の引抜強度が確保できない場合があるなどの問題があった。
【0006】
本発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、中心素線と複数のストランドから構成される金属鋼線を用いたエスカレータ手摺における熱可塑性樹脂に対する金属鋼線の引抜強度を向上させ、引抜強度を安定化させることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のエスカレータ手摺の製造方法、中心素線と中心素線を囲むように複数のストランドを配置すると共に、中心素線とストランドとの距離同一となるように、当該中心素線及び当該ストランドの延伸方向に張力をかけて、金属鋼線を生成する金属鋼線生成工程と、金属鋼線を溶融した熱可塑性樹脂の温度以上に加温するプリヒート工程と、プリヒート工程にて加温された金属鋼線と溶融した熱可塑性樹脂を一体化し、エスカレータ手摺の断面形状に加工されたダイスから押し出して複合材料を形成する複合材料形成工程と、複合材料形成工程にて形成された複合材料を強制冷却する冷却工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のエスカレータ手摺の製造方法によれば、中心素線とストランドとの距離同一となるように、当該中心素線及び当該ストランドの延伸方向に張力をかけて、金属鋼線を生成し、金属鋼線と溶融した熱可塑性樹脂を一体化し、エスカレータ手摺の断面形状に加工されたダイスから押し出して複合材料を形成するので、エスカレータ手摺における熱可塑性樹脂に対する金属鋼線の引抜強度を向上させ、引抜強度を安定化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施の形態1による異形押出成形装置を示す図である。
図2】本発明の実施の形態1による金属鋼線の断面図である。
図3】本発明の実施の形態1によるエスカレータ手摺の断面図である。
図4図3の金属鋼線の周辺の拡大図である。
図5】本発明の実施の形態2による手摺中間生成物の断面図である。
図6】本発明の実施の形態2によるエスカレータ手摺の断面図である。
図7】本発明の実施の形態3によるエスカレータ手摺の断面図である。
図8】本発明の実施の形態3による他のエスカレータ手摺の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
図1は本発明の実施の形態1による異形押出成形装置を示す図であり、図2は本発明の実施の形態1による金属鋼線の断面図である。図3は本発明の実施の形態1によるエスカレータ手摺の断面図であり、図4図3の金属鋼線の周辺の拡大図である。異形押出成形装置20は、エスカレータ手摺30に仕上げる為に押出成形する押出成形部21と、押出成形中間物を冷却する冷却部23と、冷却部23を通過し硬化した押出成形中間物を引出す引出駆動部24と、エスカレータ手摺30を収納する収納部25を有する。図3に示すように、エスカレータ手摺30は、熱可塑性樹脂10と、帆布11と、金属鋼線3とを備えている。
【0011】
エスカレータ手摺30は、金属鋼線3、熱可塑性樹脂10、帆布11を有する複合材料を備えており、熱可塑性樹脂10内部に金属鋼線3を配置した複合材料からなる異形成型品である。エスカレータ手摺30のように、常に屈曲及び変形を伴う長尺形状物は、その用途上、可撓性を備えること、かつ金属鋼線3の強靭な引抜強度が要求される。このため、エスカレータ手摺30は、主構成材と副構成材からなる異形押出成形品が用いられる。エスカレータ手摺30の主構成材は熱可塑性樹脂10であり、副構成材は金属鋼線3である。屈曲及び変形動作を伴うエスカレータ手摺30は、主構成材である熱可塑性樹脂10に加えられた外力が、確実に、内部の副構成材である金属鋼線3に伝えることで、直線走行が可能となる。ここで、副構成材である金属鋼線3が主要強度メンバーとなるには、熱可塑性樹脂10内部に配置した金属鋼線3が、金属鋼線3周辺の樹脂材に対して十分な接着強度を確保しなければならない。この接着強度は、エスカレータ手摺30の機能を考慮して、熱可塑性樹脂10に対する金属鋼線3の引抜強度として定義できる。
【0012】
図2に示すように、金属鋼線3は中心素線8と複数のストランド9を有している。複数のストランド9は、中心素線8を囲むように配置される。中心素線8とストランド9との距離は、中心素線8の中心とストランド9の中心との距離であり、その距離は、当該中心素線8及び当該ストランド9の延伸方向のそれぞれの位置において、同一である。なお、距離における同一は、略同一(殆ど同一)を含んでいる。略同一とは、金属鋼線3成型時の巻き締りや緩みにおける誤差を考慮した許容範囲内のものである。中心素線8及びストランド9は、当該中心素線8及び当該ストランド9の延伸方向に張力が保持されている。中心素線8及びストランド9の張力については後述する。図4に示すように、金属鋼線3の中心素線8と複数のストランド9との間に、空洞を形成することなく、熱可塑性樹脂10が均一に充填される。図2図4では、1つの中心素線8の周りに6つのストランド9が配置された金属鋼線3の例を示した。なお、図3では、中心素線8と複数のストランド9を省略し、図4に記載した破線円15の領域を金属鋼線3として表示した。
【0013】
上述のように、金属鋼線3の中心素線8と複数のストランド9との間に熱可塑性樹脂10が均一に充填されるのが好ましい状態である。しかし、従来技術において、金属鋼線が中心素線及び複数のストランド9を撚り合わせた撚線から成る場合、本発明とは異なり、中心素線に樹脂が均一に充填されず接着強度が安定しない。そこで、従来の熱可塑性樹脂10に対する金属鋼線3の引抜強度の不安定さを解決する技術、すなわち熱可塑性樹脂10に対する金属鋼線3の引抜強度を向上させ、引抜強度を安定化させる技術を詳しく説明する。
【0014】
異形押出成形装置20の主要部について説明する。異形押出成形装置20の押出成形部21は、複合材料の一つである熱可塑性樹脂10を注入する押出成形機6(熱可塑性樹脂注入手段)と、複合材料の別の一つである帆布11を供給する布供給リール2と、複合材料の更に別の一つである金属鋼線3を供給する金属鋼線供給装置22と、これら3つの成形材料を加温するプリヒート装置4と、加温された3つの成形材料をまとめて取り込み所定形状に成形する成型金型であるダイス5で構成される。
【0015】
金属鋼線供給装置22は、金属鋼線3を生成する工程(金属鋼線生成工程)を実行する。金属鋼線供給装置22は、金属鋼線3を生成し、プリヒート装置4に供給する装置であり、中心素線8やストランド9の材料である金属線材が巻かれた複数のリール1を備えている。図2に示すように、中心素線8及びストランド9は、それぞれ4本の金属線材が撚り合わされたものである。金属鋼線供給装置22は、1つの中心素線8や1つのストランド9を生成するために、4つのリール1を使用する。図2のような、1つの中心素線8と6つのストランド9を有する金属鋼線3を生成するには、4つのリール1からなるリール対が7つ必要である。図1では、3つのストランド9と、1つの中心素線8を生成する4つのリール対のみ図示し、残り3つのリール対は省略した。
【0016】
金属鋼線供給装置22は、金属鋼線3に対する引張張力を中心素線8とストランド9の間に隙間ができる程度に管理を行う。この管理を行うことによって、中心素線8とストランド9の間に溶融した熱可塑性樹脂10を充填できる隙間を作ることができ、熱可塑性樹脂10を中心素線8とストランド9の間に十分に充填することが可能となる。
【0017】
上記の引張張力の管理について、詳しく説明する。金属鋼線供給装置22による金属鋼線3の引張張力の管理は、エスカレータ手摺30の製造の際に常に行われている。金属鋼線3と、熱可塑性樹脂10とを押出成形して複合材料を生成する際に、金属鋼線3の引張張力が大きいと、金属鋼線3が引っ張られ、中心素線8とストランド9の間に隙間が少なくなり、又は隙間がなくなり、溶融した熱可塑性樹脂10が中心素線8及びストランド9の周囲に十分に充填されなくなる。熱可塑性樹脂10が中心素線8及びストランド9の周囲に十分に充填されないと、熱可塑性樹脂10に対する金属鋼線3の引抜強度が低くなり、複合材料が安定化しない。
【0018】
上記の問題を防ぐために、金属鋼線供給装置22は、金属鋼線3に対する引張張力の管理を、中心素線8とストランド9の間に十分な隙間ができるように行う。金属鋼線供給装置22は、引張張力の管理を行うことによって、上述したように、金属鋼線3の中心素線8とストランド9の間に溶融した熱可塑性樹脂10を充填できる隙間を作ることができ、熱可塑性樹脂10を中心素線8とストランド9の間に十分に充填することが可能となる。
【0019】
プリヒート装置4は、金属鋼線3が金属鋼線供給装置22で生成された後に、熱可塑性樹脂10と一体成形する直前で金属鋼線3をプリヒートする工程(プリヒート工程)を実行する。プリヒート装置4は、金属鋼線3と帆布11を加温する装置である。この装置によって金属鋼線3は押出成形機6から押し出される熱可塑性樹脂10の温度と同等以上の温度(同一又はそれ以上の温度)でダイス5内に挿入することができる。金属鋼線3が、熱可塑性樹脂10の温度と同等以上の温度に維持されることによって、ダイス5内で金属鋼線3に熱可塑性樹脂10が接触した際にも熱可塑性樹脂10が金属鋼線3に熱を奪われて温度低下して固化が起きることを防ぐことができる。熱可塑性樹脂10は、金属鋼線3が熱可塑性樹脂10の温度と同等以上の温度に維持されることによって、ダイス5内においても押出成形機6から押し出された時と同等の均一な粘度及び流動性を保つことができる。
【0020】
押出成形機6は、熱可塑性樹脂10をダイス5に供給する工程(樹脂供給工程)を実行する。図1に示す押出成形機6は、熱可塑性樹脂10を押し出す熱可塑性樹脂10の注入圧力の管理を行っている。押出成形機6は、熱可塑性樹脂ペレットを熱可塑性樹脂ペレット挿入口7に挿入する熱可塑性樹脂ペレット挿入器12と、熱可塑性樹脂10の注入圧力の管理を行うコントローラ(図示せず)を備えている。押出成形機6は、熱可塑性樹脂10の注入圧力の管理を行うことで、金属鋼線3の中心素線8とストランド9の配置形状が殆ど変化せずに、熱可塑性樹脂10を金属鋼線3の隙間に十分に充填することが可能となる。熱可塑性樹脂10の注入圧力は、中心素線8とストランド9との距離が許容範囲内に維持され、中心素線8とストランド9との間に熱可塑性樹脂10の欠損した空洞が形成されないように管理される。なお、図2図4では、中心素線8及びストランド9における4本の金属線材の間に空間が記載されているが、4本の金属線材は撚られているので、4本の金属線材間の空間には熱可塑性樹脂10は充填されない。
【0021】
上記の注入圧力の管理について、詳しく説明する。熱可塑性樹脂10の注入圧力が大きいと、金属鋼線3の中心素線8とストランド9の配置形状が変化し、且つ中心素線8とストランド9の間に隙間がなくなる場合もある。中心素線8とストランド9の間に隙間が少なくなったり、隙間がなくなったりすると、溶融した熱可塑性樹脂10が中心素線8及びストランド9の周囲に十分に充填されなくなる。熱可塑性樹脂10が中心素線8及びストランド9の周囲に十分に充填されないと、熱可塑性樹脂10に対する金属鋼線3の引抜強度が低くなり、複合材料が安定化しない。
【0022】
また、熱可塑性樹脂10の注入圧力が小さいと、金属鋼線3の中心素線8とストランド9の間に熱可塑性樹脂10の欠損した空洞が発生し、溶融した熱可塑性樹脂10が中心素線8及びストランド9の周囲に十分に充填されなくなる。熱可塑性樹脂10の注入圧力が大きい場合と同様に、熱可塑性樹脂10に対する金属鋼線3の引抜強度が低くなり、複合材料が安定化しない。
【0023】
上記の問題を防ぐために、押出成形機6は、熱可塑性樹脂10の注入圧力の管理を行う。押出成形機6は、熱可塑性樹脂10の注入圧力の管理を、中心素線8とストランド9との距離が許容範囲内に維持され、中心素線8とストランド9との間に熱可塑性樹脂10の欠損した空洞が形成されないように行うことにより、金属鋼線3の中心素線8とストランド9の配置形状が殆ど変化せずに、熱可塑性樹脂10を金属鋼線3の隙間に十分に充填することが可能となる。
【0024】
また、熱可塑性樹脂ペレット挿入口7及び、押出成形機6の内部は、熱可塑性樹脂10が溶融する温度に設定される。熱可塑性樹脂10が溶融温度に達していないと、熱可塑性樹脂10が溶融せず、金属鋼線3に熱可塑性樹脂10が充填されない。
【0025】
このため本発明の押出成形機6では、熱可塑性樹脂10の溶融温度以上で、かつ熱可塑性樹脂10の分解温度以下の温度を設定して温度管理を行っている。このように温度管理することで、熱可塑性樹脂10の溶融温度は水の沸点より高くなるため、熱可塑性樹脂10に含有される水を蒸発させることができる。このため、熱可塑性樹脂10の溶融温度以上に設定されている押出成形機6内では、熱可塑性樹脂10内に含まれる水分が蒸発し、低含水率のエスカレータ手摺30を製作することが可能となる。エスカレータ手摺30は、押出成形機6内で含水率を低く管理することによって、エスカレータ手摺30内部に含まれる水分による劣化を緩和することが可能となる。
【0026】
ダイス5は、金属鋼線3、熱可塑性樹脂10、帆布11を一体化し、複合材料を形成する工程(複合材料形成工程)を実行する。ダイス5は、複合材料を押し出す断面形状がエスカレータ手摺30の断面形状に加工されている。図1に示すダイス5は、その内部温度が熱可塑性樹脂10の溶融する温度に管理される。ダイス5は、ダイス5内の温度を熱可塑性樹脂10が溶融する温度と同一に管理することによって、プリヒート装置4で加温された金属鋼線3及び押出成形機6から供給された熱可塑性樹脂10の温度を同一に維持することができ、金属鋼線3の中心素線8とストランド9との間に熱可塑性樹脂10の欠損した空洞が発生せずに熱可塑性樹脂10を充填できる。ダイス5から生成された複合材料は、金属鋼線3の中心素線8とストランド9との間に熱可塑性樹脂10の欠損した空洞が発生しないので、金属鋼線3と熱可塑性樹脂10と帆布11から構成されるエスカレータ手摺30に好適である。ダイス5から生成された複合材料を用いたエスカレータ手摺は、金属鋼線3の中心素線8とストランド9との間に熱可塑性樹脂10の欠損した空洞が発生しないので、熱可塑性樹脂10に対する金属鋼線3の引抜強度が向上し、引抜強度が安定する。
【0027】
上記のダイス5の温度の管理について、詳しく説明する。ダイス5の温度が熱可塑性樹脂10の溶融温度に設定されていないと、押出成形機6から吐出された熱可塑性樹脂10の温度が低下し、熱可塑性樹脂10が固化してしまい、またプリヒート装置4から出てきた加温された金属鋼線3も冷却され、熱可塑性樹脂10の粘度及び流動性が低下する。熱可塑性樹脂10の粘度及び流動性が低下すると、金属鋼線3の中心素線8とストランド9との間に熱可塑性樹脂10の欠損した空洞が発生し、金属鋼線3に熱可塑性樹脂10が十分に充填されない。
【0028】
上記の問題を防ぐために、ダイス5は熱可塑性樹脂10が溶融する温度に管理される。ダイス5は、内部の温度を熱可塑性樹脂10が溶融する温度に管理されることによって、金属鋼線3及び熱可塑性樹脂10の温度を同一に維持することができ、金属鋼線3の中心素線8とストランド9との間に熱可塑性樹脂10の欠損した空洞が発生せずに熱可塑性樹脂10を充填できる。ダイス5から生成された複合材料は、金属鋼線3の中心素線8とストランド9との間に熱可塑性樹脂10の欠損した空洞が発生しないので、金属鋼線3と熱可塑性樹脂10と帆布11から構成されるエスカレータ手摺30に好適である。異形押出成形装置20で製造するエスカレータ手摺30は、金属鋼線3の中心素線8とストランド9との間に熱可塑性樹脂10の欠損した空洞が発生しないので、熱可塑性樹脂10に対する金属鋼線3の引抜強度が向上し、引抜強度が安定する。
【0029】
上記の異形押出成形装置20を使用してエスカレータ手摺30を成形する工程を説明する。
【0030】
金属鋼線供給装置22は、金属鋼線3を生成し、金属鋼線3を下流側へ送り出す(金属鋼線生成工程)。金属鋼線供給装置22により生成された金属鋼線3と、布供給リール2から出てきた帆布11とを、ダイス5内で熱可塑性樹脂10の溶融温度と同じ温度になるように、熱可塑性樹脂10の溶融温度と同等以上の温度にプリヒート装置4にて加温する(プリヒート工程)。押出成形機6から温度及び注入圧力の管理された熱可塑性樹脂10がダイス5に供給され(樹脂供給工程)、加温された金属鋼線3及び帆布11を、ダイス5内で溶融した熱可塑性樹脂10と同じ温度で合流させる。金属鋼線3、帆布11、熱可塑性樹脂10が合流した後、金属鋼線3、熱可塑性樹脂10、帆布11が一体化した複合材料が、ダイス5内からエスカレータ手摺30の形に押し出され(複合材料形成工程)、その形状を維持するために冷却部23において冷却水にて強制的に冷却(強制冷却)を行う(冷却工程)。冷却後、引出駆動部24にて硬化した複合材料であるエスカレータ手摺30を引出し、エスカレータ手摺30を収納部25に収納する(収納工程)。
【0031】
図1に示すプリヒート装置4及びダイス5は、プリヒート装置4からダイス5への移動で、熱可塑性樹脂10の溶融温度よりも低下しないように配置される。なお、プリヒート装置4をダイス5に近接して配置し、プリヒート装置4からダイス5への移動で、加温された金属鋼線3及び帆布11の温度が低下しない場合は、プリヒート装置4にて金属鋼線3及び帆布11を加温する温度を熱可塑性樹脂10の溶融温度と同じ温度にしてもよい。
【0032】
実施の形態1の金属鋼線3は、プリヒート装置4、温度管理されたダイス5を備えたので、温度が低下しないままプリヒート装置4からダイス5に送出でき、金属鋼線3の温度を熱可塑性樹脂10の温度と同等以上の温度(温度範囲は熱可塑性樹脂の溶融温度以上で分解温度以下)に維持することができる。
【0033】
金属鋼線3の温度が熱可塑性樹脂10の温度と同等以上の温度(温度範囲は熱可塑性樹脂の溶融温度以上で分解温度以下)に維持されることによって、実施の形態1の熱可塑性樹脂10は、ダイス5内で金属鋼線3に接触しても、金属鋼線3に熱を奪われて温度低下して固化を起こすことなく、押出成形機6から押し出された時と同等の均一な粘度及び流動性を保つことができる。
【0034】
したがって、実施の形態1のエスカレータ手摺30は、複合材料を用いた異形押出成形プロセスにおいて、金属鋼線3の温度と熱可塑性樹脂10の温度を同一にすることによって、熱可塑性樹脂10をダイス5内で熱可塑性樹脂10が固化することなく、金属鋼線3の中心素線8とストランド9との間に熱可塑性樹脂10を均一に且つ十分に充填することができ、熱可塑性樹脂10に対する金属鋼線3の引抜強度が向上することができる。なお、温度における同一は、略同一(殆ど同一)を含んでいる。略同一とは、誤差を考慮した許容範囲内のものである。実施の形態1のエスカレータ手摺30は、熱可塑性樹脂10に対する金属鋼線3の引抜強度が向上するので、長期にわたって引抜強度の安定化を図ることができる。
【0035】
実施の形態1の異形押出成形装置20は、複合材料を用いた異形押出成形プロセスにおいて、熱可塑性樹脂10の注入圧力及び温度の管理を行い、熱可塑性樹脂10をダイス5に押し出すことで、金属鋼線3の中心素線8とストランド9との間に熱可塑性樹脂10の欠損した空洞が発生せずに均一且つ十分に金属鋼線3に熱可塑性樹脂10を充填することができる。実施の形態1の異形押出成形装置20は、熱可塑性樹脂10に対する金属鋼線3の引抜強度が向上し、複合材料の強度が安定化したエスカレータ手摺30、すなわち品質が向上したエスカレータ手摺30を製造することができる。
【0036】
以上のように、実施の形態1のエスカレータ手摺30によれば、金属鋼線3が、中心素線8と中心素線8を囲むように配置された複数のストランド9とを備え、中心素線8とストランド9との距離は、当該中心素線8及び当該ストランド9の延伸方向のそれぞれの位置において、同一であり、中心素線8とストランド9との間に熱可塑性樹脂10が空洞を形成することなく充填されていることを特徴とするので、エスカレータ手摺30における熱可塑性樹脂10に対する金属鋼線3の引抜強度を向上させ、引抜強度を安定化させることができる。
【0037】
実施の形態1のエスカレータ手摺の製造方法によれば、中心素線8と中心素線8を囲むように複数のストランド9を配置すると共に、中心素線8とストランド9との距離が同一となるように、当該中心素線8及び当該ストランド9の延伸方向に張力をかけて、金属鋼線3を生成する金属鋼線生成工程と、金属鋼線3を溶融した熱可塑性樹脂10の温度以上に加温するプリヒート工程と、プリヒート工程にて加温された金属鋼線3と溶融した熱可塑性樹脂10を一体化し、エスカレータ手摺30の断面形状に加工されたダイス5から押し出して複合材料を形成する複合材料形成工程と、複合材料形成工程にて形成された複合材料を強制冷却する冷却工程と、を含むことを特徴とするので、熱可塑性樹脂10に対する金属鋼線3の引抜強度が向上し、引抜強度が安定化したエスカレータ手摺30、すなわち品質が向上したエスカレータ手摺30を製造することができる。
【0038】
実施の形態2.
図5は本発明の実施の形態2による手摺中間生成物の断面図であり、図6は本発明の実施の形態2によるエスカレータ手摺の断面図である。実施の形態2のエスカレータ手摺30は、多層成型されたものである。実施の形態2のエスカレータ手摺30は、まず、金属鋼線3、熱可塑性樹脂10、帆布11をダイス5内で一体成形し冷却することにより、一層成型を行う。一層成型が終了したものは、手摺中間生成物26である。一層成型を行った後、剛性を持たせるため、手摺中間生成物26における帆布11と反対側である熱可塑性樹脂10の露出部27に、熱可塑性樹脂10と同じ材料である熱可塑性樹脂28を分厚く盛る多層成型を行っている。図6に示すように、実施の形態2のエスカレータ手摺30は、手摺中間生成物26と、熱可塑性樹脂28を備えている。
【0039】
一層成型を行う際、熱可塑性樹脂10は金属鋼線3を覆う程度の所定膜厚としている。具体的には、手摺中間生成物26における金属鋼線3を覆う第一熱可塑性樹脂(熱可塑性樹脂10)は、エスカレータ手摺30が装着されるエスカレータに対向する内面(帆布11が装着された側)と内面の逆側である露出部27の外面との膜厚が、前記所定膜厚であり、例えば金属鋼線3における第一熱可塑性樹脂(熱可塑性樹脂10)の膜厚方向の高さの2倍以内である。熱可塑性樹脂10の量が少ない程、ダイス5から出た後の手摺中間生成物26の冷却スピードが速く、硬化した熱可塑性樹脂10によって金属鋼線3は固定される。これにより、金属鋼線3への熱可塑性樹脂10の充填が密になり、引抜強度が強くなる。実施の形態2のエスカレータ手摺30は、実施の1と同様に、中心素線8とストランド9とが接触することなく配置され、かつ複数のストランド9のそれぞれが接触する事無く配置することが可能となる。
【0040】
実施の形態3.
熱可塑性樹脂10は、押出成形機6を通ってダイス5内に注入される。実施の形態3では、押出成形機6内の温度を最適化することで、実施の形態1や実施の形態2よりも金属鋼線3への熱可塑性樹脂の充填が密で、引抜強度が強いエスカレータ手摺30について説明する。
【0041】
図7は本発明の実施の形態3によるエスカレータ手摺の断面図であり、図8は本発明の実施の形態3による他のエスカレータ手摺の断面図である。実施の形態3では、押出成形機6内の温度は、熱可塑性樹脂10と同じ材料である熱可塑性樹脂29の分解が始まらない上限の温度まで加熱する。熱可塑性樹脂29は温度が高い程、粘度が下がる特性を持つため、押出成形機6内を高温にすることで、押出成形機6を通過する熱可塑性樹脂29の粘度が下がる。押出成形機6内を高温にし、分解されることなく粘度が最小値まで下がった熱可塑性樹脂29を用いることにより、ダイス5内で金属鋼線3への熱可塑性樹脂29の入り込みが良くなり、中心素線8とストランド9の周囲に熱可塑性樹脂29が十分に充填され、熱可塑性樹脂29に対する金属鋼線3の引抜強度が高くなる。
【0042】
実施の形態3のエスカレータ手摺30は、分解されることなく粘度が最小値まで下がった熱可塑性樹脂29を用いることにより、実施の形態1及び実施の形態2よりも金属鋼線3への熱可塑性樹脂29の充填が密になり、引抜強度が強くなる。
【0043】
なお、本発明は、その発明の範囲内において、各実施の形態を自由に組み合わせたり、各実施の形態を適宜、変形、省略することが可能である。
【符号の説明】
【0044】
3 金属鋼線、5 ダイス、8 中心素線、9 ストランド、
10 熱可塑性樹脂、27 露出部、28 熱可塑性樹脂、
29 熱可塑性樹脂、30 エスカレータ手摺。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8