特許第6029796号(P6029796)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6029796
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 1/00 20070101AFI20161114BHJP
   H02M 7/04 20060101ALI20161114BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20161114BHJP
   G01R 31/00 20060101ALI20161114BHJP
【FI】
   H02M1/00 A
   H02M7/04 C
   H02M7/48 M
   G01R31/00
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-520125(P2016-520125)
(86)(22)【出願日】2015年4月20日
(86)【国際出願番号】JP2015062015
【審査請求日】2016年4月4日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 真一郎
(72)【発明者】
【氏名】市原 昌文
【審査官】 栗栖 正和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−233194(JP,A)
【文献】 特開2012−151975(JP,A)
【文献】 特開2007−060866(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/038918(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 1/00
H02M 7/04
H02M 7/48
G01R 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源から供給される電力を変換して負荷へ出力する主回路と、前記主回路を制御する制御回路とを備えた電力変換装置であって、
前記制御回路は、
前記主回路の出力電流の検出値に基づいて推定される電力損失推定値と、前記主回路を冷却するフィンの温度と、前記フィンを冷却する流体の流量と、前記流体の温度検出値とに基づいて前記主回路のジャンクション温度をジャンクション温度推定値として推定するジャンクション温度推定部と
記流体の流量と前記主回路の負荷率とジャンクション温度判定値と対応付けられた前記ジャンクション温度推定値を表示部に表示させる表示情報を生成して、前記表示部に出力する表示情報生成部と、
を備えたことを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記表示情報生成部は、
前記ジャンクション温度判定値未満の前記ジャンクション温度推定値と、前記ジャンクション温度判定値以上の前記ジャンクション温度推定値とを前記表示部に表示させる表示情報を生成することを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記ジャンクション温度推定部で推定されたジャンクション温度推定値と前記流体の流量と前記主回路の負荷率とジャンクション温度判定値とを対応付けて記憶する記憶部を備え、
前記表示情報生成部は、前記記憶部に記憶されたジャンクション温度推定値と前記流体の流量と前記主回路の負荷率とジャンクション温度判定値を前記表示部に出力することを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記ジャンクション温度推定部は、
前記主回路の出力電流の検出値に基づいて推定される電力損失推定値と、前記フィンに設置されたフィン温度検出部で検出されたフィン温度検出値と、前記流体の流量を検出する流体流量検出部で検出された流体流量検出値と、前記流体の温度を検出する流体温度検出部で検出された流体温度検出値とに基づいて、前記主回路のジャンクション温度を推定することを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記制御回路は、
前記主回路の出力電流を検出する電流検出部で検出された電流検出値と、前記フィン温度検出値と、前記流体流量検出値と、前記流体温度検出値とを入力とし、前記表示情報を出力とすることを特徴とする請求項4に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記ジャンクション温度推定部は、
前記主回路の出力電流の検出値に基づいて推定される電力損失推定値と、前記フィンに設置されたフィン温度検出部で検出されたフィン温度検出値と、流体の流量を設定する流体流量設定部で設定された流体流量設定値と、前記流体の温度を設定する流体温度設定部で設定された流体温度設定値とに基づいて、前記主回路のジャンクション温度を推定することを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記制御回路は、
前記主回路の出力電流を検出する電流検出部で検出された電流検出値と、前記フィン温度検出値と、前記流体流量設定値と、前記流体温度設定値とを入力とし、前記表示情報を出力とすることを特徴とする請求項6に記載の電力変換装置。
【請求項8】
電源から供給される電力を変換して負荷へ出力する主回路と、前記主回路を制御する制御回路とを備えた電力変換装置であって、
前記主回路のジャンクション温度をジャンクション温度推定値として推定し、前記主回路に取り付けられたフィンを冷却する流体の流量と前記主回路の負荷率とジャンクション温度判定値と対応付けられ前記ジャンクション温度推定値を表示部に表示することを特徴とする電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源から供給される電力を変換して負荷へ出力する電力変換回路を備えた電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示される従来の電力変換装置は、ヒートシンク温度検出部で検出されたヒートシンク温度と規定ヒートシンク温度との比較結果に基づいて、電力変換装置の状態が規定の寿命を満たす使用環境条件下にあるかを判断し、または出力電流検出部で検出された電力変換装置の出力電流に基づいて算出された負荷率と規定負荷率との比較結果に基づいて、電力変換装置の状態が規定の寿命を満たす使用環境条件下にあるかを判断し、電力変換装置の状態が使用環境条件下にないと判断した場合、寿命条件外動作状態であることを表示する信号を外部に出力するように構成されている。また電力変換装置は、電力変換装置の状態が規定の寿命を満たす使用環境条件下にあるかを判断する機能の外にも、電力変換装置の保護機能として過電流保護機能および過熱保護機能を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−17602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、冷却フィン温度検出部で検出される温度は、電力変換装置が設置される環境により異なる場合があり、冷却フィンを冷却する液体または気体といった流体の単位時間当たりの流量が高まる程、冷却フィン温度検出部で検出される温度が低下する傾向を示す。従って、特許文献1に代表される従来の電力変換装置において、電力変換装置の動作可能な範囲をユーザが確認するためには、実際の設置環境下で電力変換装置を定格負荷または最大負荷まで運転させて、電力変換装置の過負荷エラーまたは熱保護が動作しないか、または電力変換装置が警報を出力しないか否かを検証する必要がある。このように特許文献1に代表される従来の電力変換装置では、実際の設置環境下で電力変換装置の試運転に時間を要するだけでなく、選定した電力変換装置が実際の設置環境下に適用可能であるか否かの判断をするためには専門的な知識を要する。特に実際の設置環境下における電力変換装置の適否を判断するためには、専門家を設置場所へ派遣するといった措置が必要となり、電力変換装置の設置に伴うコストの増加を招くという課題があった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、設置環境下への設置に伴うコストを低減可能な電力変換装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、電源から供給される電力を変換して負荷へ出力する主回路と、前記主回路を制御する制御回路とを備えた電力変換装置であって、前記制御回路は、前記主回路の出力電流の検出値に基づいて推定される電力損失推定値と、前記主回路を冷却するフィンの温度と、前記フィンを冷却する流体の流量と、前記流体の温度検出値とに基づいて前記主回路のジャンクション温度をジャンクション温度推定値として推定するジャンクション温度推定部と、前記流体の流量と前記主回路の負荷率とジャンクション温度判定値と対応付けられた前記ジャンクション温度推定値を表示部に表示させる表示情報を生成して、前記表示部に出力する表示情報生成部と、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明にかかる電力変換装置は、設置環境下への設置に伴うコストを低減できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施の形態1に係る電力変換装置を流体が流れる流路の外周面に設置した例を示す図
図2】本発明の実施の形態1に係る電力変換装置の構成図
図3】電力損失推定部、ジャンクション温度推定部、および表示情報生成部における動作を示すフローチャート
図4】電力変換装置の熱回路モデルを模式的に示す図
図5】熱抵抗推定部で推定される流体とフィンとの間の熱抵抗と、流体の流量との関係を示す図
図6】表示部に表示されるジャンクション温度の例を表す図
図7】本発明の実施の形態2に係る電力変換装置の構成図
図8】本発明の実施の形態3に係る電力変換装置の構成図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の実施の形態にかかる電力変換装置を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0010】
実施の形態1.
図1は本発明の実施の形態1に係る電力変換装置を流体が流れる流路の外周面に設置した例を示す図である。図1に示す電力変換装置100は、電力変換装置100の外郭を構成する筐体101と、筐体101の内部に設置される回路基板105と、回路基板105に搭載され電源から供給される電力を変換して負荷へ出力する主回路102と、回路基板に搭載され主回路102を制御する制御回路104と、主回路102で発生した熱を放熱する放熱用のフィン106と、フィン106の温度を検出するフィン温度検出部103と、を備える。
【0011】
流路200の内部には液体の流体が流れており、流路200に設置された流体温度検出部201では流体の温度が検出され、流路200に設置された流体流量検出部202では流体の流量が検出される。実施の形態1の電力変換装置100は、板状の放熱用のフィン106を備え、流路200にフィン106を直接接触させて、主回路102で発生した熱をフィン106と流路200を介して流体に吸熱させることで、主回路102の熱を効果的に放熱させる構造である。
【0012】
図2は本発明の実施の形態1に係る電力変換装置の構成図である。電力変換装置100は、交流入力端子1Aと交流出力端子1Bとの間に配置され、複数の半導体素子で構成される主回路102と、主回路102を制御する制御回路104と、主回路102の出力電流を検出する電流検出器5と、電流検出器5で検出された電流に正比例した電圧を制御回路104が取り扱い可能な電圧に変換して出力する出力電流検出部107とを有する。交流入力端子1Aには交流電源20が接続され、交流出力端子1Bには電力変換装置100により駆動される図示しない負荷が接続される。
【0013】
主回路102は、交流入力端子1Aに接続され、複数の整流ダイオードで構成される整流回路2と、複数のスイッチング素子で構成され、整流回路2から出力される直流電力を交流電力に変換して交流出力端子1Bに出力するインバータ回路4と、一端が整流回路2とインバータ回路4との間の正極母線に接続され、他端が整流回路2とインバータ回路4との間の負極母線に接続される平滑コンデンサ3とを備える。インバータ回路4を構成する複数のスイッチング素子の各々には、パワートランジスタ、パワーMOSFET(Metal−Oxide−Semiconductor Field−Effect Transistor)、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)といった半導体素子を用いてもよいし、窒素ガリウムまたは炭化ケイ素といったワイドバンドギャップ半導体を用いてもよい。
【0014】
制御回路104は、出力電流検出部107で検出された電流検出値に基づいて主回路102で生じる電力損失を推定する電力損失推定部104−1と、電力損失推定部104−1で推定された電力損失推定値と、フィン温度検出部103で検出されたフィン温度検出値と、流体流量検出部202で検出された流体流量検出値と、流体温度検出部201で検出された流体温度検出値とに基づいて、流体の流量と主回路102の負荷率とに対応付けた主回路102のジャンクション温度、または流体の流量と主回路102の出力電流の検出値とに対応付けた主回路102のジャンクション温度を推定するジャンクション温度推定部104−2と、ジャンクション温度判定値を記憶する判定値記憶部104−4と、判定値記憶部104−4に記憶されたジャンクション温度判定値とジャンクション温度推定部104−2で推定されたジャンクション温度推定値と流体の流量と主回路102の負荷率とを対応付けて表示部300に表示させる表示情報を生成して表示部300に出力する表示情報生成部104−3とを備える。このように制御回路104は、電流検出値とフィン温度検出値と流体流量検出値と流体温度検出値とを入力とし表示情報を出力とする。なお、制御回路104は、電流検出値に基づいてインバータ回路4を構成する複数のスイッチング素子の各々のオンオフ制御するためのスイッチング信号に生成する信号生成部を有するが、図2では信号生成部の図示を省略している。
【0015】
ジャンクション温度推定部104−2は、電力損失推定値とフィン温度検出値と流体流量検出値と流体温度検出値とに基づいて、主回路102を構成する半導体素子と流体との間の熱抵抗を、流体の流量に対応付けて推定する熱抵抗推定部6と、熱抵抗推定部6で推定された熱抵抗推定値と、主回路102の負荷率または主回路102の出力電流の検出値と、流体温度検出値とに基づいて、流体の流量と主回路102の負荷率とに対応付けた主回路102のジャンクション温度を推定する温度推定部9と、を備える。
【0016】
以下、図3から図6を用いて電力変換装置100の動作を説明する。
【0017】
図3は電力損失推定部、ジャンクション温度推定部、および表示情報生成部における動作を示すフローチャート、図4は電力変換装置の熱回路モデルを模式的に示す図、図5は熱抵抗推定部で推定される流体とフィンとの間の熱抵抗と、流体の流量との関係を示す図、図6は表示部に表示されるジャンクション温度の例を表す図である。
【0018】
インバータ回路4を構成する複数のスイッチング素子が制御回路104から出力されるスイッチング信号に従い動作することにより、交流電源20から供給される交流電力が直流電力に変換され、直流電力はインバータ回路4で交流電力に変換され、電力変換装置100の負荷に供給される。
【0019】
(ステップS1)電力損失推定部104−1では、主回路102の動作時における電流検出値に基づいて、主回路102で生じる電力損失が推定される。主回路102全体の電力損失は、整流回路2を構成する複数の整流ダイオードで生じる電力損失とインバータ回路4を構成する複数のスイッチング素子で生じる電力損失とを足し合わせた値に等しく、下記(1)式で表される。Ptotalは主回路102全体の電力損失、PCONVは整流回路2の電力損失、PINVはインバータ回路4の電力損失である。整流回路2と主回路102の各々の電力損失は、例えば半導体素子のターンオンスイッチング損失、ターンオフスイッチング損失、PWMキャリア周波数といった要素を考慮して計算または回路シミュレーションで推定可能であるが、電力損失の推定方法は公知でり、説明を割愛する。
Ptotal=PCONV+PINV・・・(1)
【0020】
(ステップS2)熱抵抗推定部6は、主回路102を構成する半導体素子と流体との間の熱抵抗を、流体の流量に対応付けて推定する。図4にはフィン106を介して流体で冷却される半導体素子の熱回路モデルが示される。Trは流体温度であり、Tfinはフィン温度である。またΔTfin−rは流体とフィンとの間の温度差、すなわちフィンの温度上昇量である。
【0021】
Tfinは下記(2)式で表される。
Tfin=ΔTfin−r+Tr・・・(2)
【0022】
ここで、ΔTfin−rはフィンの温度上昇量であることから、フィンの温度上昇量は下記(3)式で表される。Rfin−rは流体とフィンとの間の熱抵抗、Ptotalは主回路102全体で生じる電力損失である。
ΔTfin−r=Rfin−r×Ptotal・・・(3)
【0023】
上記(2)式に上記(3)式を代入することによりTfinは下記(4)式で表される。
Tfin=Rfin−r×Ptotal+Tr・・・(4)
【0024】
上記(4)式を変形することでRfin−rは下記(5)式で表される。
Rfin−r=(Tfin−Tr)÷Ptotal・・・(5)
【0025】
なお、図4に示すΔTc−finは、半導体素子のチップを内包するケースとフィンとの間の温度差、すなわち半導体素子のケースの温度上昇量であり、ΔTj−cは、半導体素子のチップとケースとの間の温度差、すなわちチップの温度上昇量である。ΔTc−finは、ケースとフィンとの間の熱抵抗と、主回路102で生じる電力損失とにより求まり、ΔTj−cは、ケースとチップとの間の熱抵抗と、主回路102で生じる電力損失とにより求まる。
【0026】
熱抵抗推定部6は、流体温度検出値とフィン温度検出値との差分に相当するフィン温度上昇量を演算し、演算した温度上昇量と主回路102で生じる電力損失とにより、半導体素子と流体との間の熱抵抗を流体流量に対応付けて推定する。
【0027】
図5には、熱抵抗推定部6で推定される熱抵抗Rfin−rと流体の流量との関係が示される。横軸は流体の流量を表し、縦軸は熱抵抗Rfin−rを表す。熱抵抗推定部6は、例えば特定の流量Aが測定されたときの熱抵抗Rfin−rと、流量Aよりも低い流量Bが測定されたときの熱抵抗Rfin−rとを各々推定する。熱抵抗推定部6は、推定した2つの熱抵抗Rfin−rの間を線形補間することにより、実線で示す熱抵抗Rfin−r、すなわち流量に対応した熱抵抗Rfin−rを推定する。
【0028】
このように熱抵抗推定部6は、数点の測定結果を用いて、例えば電力変換装置100を定格負荷または最大負荷といった負荷条件まで運転させることなく、熱抵抗Rfin−rを流体の流量に対応付けて推定する。
【0029】
(ステップS3)次に温度推定部9は、出力電流検出部107で検出された電流値に基づいて主回路102の負荷率を演算し、演算した負荷率と熱抵抗推定部6で推定された熱抵抗推定値と流体温度検出値とに基づいて、ジャンクション温度の上昇量を演算する。具体的には例えば電流検出値を、予め温度推定部9に設定された定格電流値で除することで、定格電流値に対する電流検出値の割合が負荷率として演算される。なお、温度推定部9は、演算した負荷率の代わりに出力電流検出部107で検出された電流値を用いて、当該電流値と熱抵抗推定値と流体温度検出値とに基づいてジャンクション温度の上昇量を演算する構成でもよい。
【0030】
(ステップS4,ステップS5)温度推定部9は、演算した負荷率の値を変化させ、その負荷率の値に対応した電力損失値と熱抵抗推定部6で推定された熱抵抗推定値とを用いて、流体流量に対応付けた主回路102のジャンクション温度を推定する。具体的には、温度推定部9は、推定したジャンクション温度推定値とジャンクション温度判定値とを比較し、ジャンクション温度推定値がジャンクション温度判定値よりも高い場合(ステップS5,No)、温度推定部9は、負荷率を低下させてジャンクション温度を推定する。なお温度推定部9は、演算した負荷率の代わりに出力電流検出部107で検出された電流値を用いる場合、電流値に対応した電力損失値と熱抵抗推定値とに基づいて流体流量に対応付けた主回路102のジャンクション温度を推定する。具体的には、温度推定部9は、推定したジャンクション温度推定値とジャンクション温度判定値とを比較し、ジャンクション温度推定値がジャンクション温度判定値よりも高い場合(ステップS5,No)、検出された電流値を低下させてジャンクション温度を推定する。
【0031】
ジャンクション温度推定値がジャンクション温度判定値よりも低い場合(ステップS5,Yes)、表示情報生成部104−3ではステップS6の処理が行われる。なお、ジャンクション温度推定値がジャンクション温度判定値よりも高い場合でも、例えば温度推定部9では推定した2つのジャンクション温度推定値の間を線形補間することにより、線形補間後のジャンクション温度推定値を求めることができる。線形補間後のジャンクション温度推定値により、温度推定部9ではジャンクション温度判定値よりも低い値のジャンクション温度を推定できる。そのため、線形補間後のジャンクション温度推定値がジャンクション温度判定値よりも低い場合においても表示情報生成部104−3ではステップS6の処理が行われる。
【0032】
(ステップS6)図6には表示部300に表示されるジャンクション温度の例が示され、横軸は負荷率、縦軸はジャンクション温度を表す。図6に示す判定値はジャンクション温度判定値である。図6には3つの流量A,B,Cの各々に対応したジャンクション温度が示されている。流量A,B,Cの各々に対応するジャンクション温度は、負荷率が0%から50%までの範囲では判定値より低い。そのため電力変換装置100は流量A,B,Cの何れの流量においても負荷率50%まで運転が可能であることが分かる。ところが負荷率が50%から70%までの範囲では、流量Aに対応するジャンクション温度は判定値を超過するため、電力変換装置100は流量Aにおいては負荷率50%以上の運転が困難であることが分かる。また負荷率が70%から100%までの範囲では、流量A,Bの各々に対応するジャンクション温度は判定値を超過するため、電力変換装置100は流量A,Bにおいては負荷率70%以上の運転が困難であることが分かる。また図6の表示例によれば、負荷率毎のチップジャンクション温度が判定値に対してどの程度のマージンがあるか、または不足をしているかを判別することができる。このように実施の形態1の電力変換装置100によれば、流体流量、流体温度、負荷率といった運転条件毎に判定値以下または判定値以上となるジャンクション温度を視覚化して表示部300に表示させることにより、ユーザは電力変換装置100の動作可能な範囲と動作が困難な範囲と運転条件毎に確認することが可能である。なお温度推定部9において線形補間後のジャンクション温度推定値が求められた場合、表示情報生成部104−3は、線形補間後のジャンクション温度推定値とジャンクション温度判定値と流体の流量と主回路102の負荷率とを対応付けて表示部300に表示する。このように実施の形態1の電力変換装置100によれば、流体流量、流体温度、負荷率といった運転条件毎に判定値以下または判定値以上となるジャンクション温度を視覚化して表示部300に表示させることにより、ユーザは電力変換装置100の動作可能な範囲と動作が困難な範囲と運転条件毎に確認することが可能である。
【0033】
前述した従来技術では実際の設置環境下で電力変換装置を定格負荷または最大負荷まで運転させて、電力変換装置の過負荷エラーまたは熱保護が動作しないか、または電力変換装置が警報を出力しないか否かを検証する必要があった。特に電力変換装置が水冷方式である場合、冷却フィンを冷却するための流体の流量が変化するため、電力変換装置が設置される環境によって冷却能力が変動する。従って、電力変換装置が動作可能な負荷範囲を求めるためには、実際の設置環境下に電力変換装置を設置した後、種々の運転パターンで過負荷エラーが生じないか、または電力変換装置内部の温度異常が生じないかといった検証が必要となり、電力変換装置の設置に伴うコストの増加を招くという課題があった。
【0034】
これに対して、実施の形態1に係る電力変換装置100では定格負荷または最大負荷まで運転させることなく、電力変換装置100の動作可能範囲を容易に確認することができる。また実施の形態1に係る電力変換装置100では電力変換装置100の動作可能範囲が表示部300に表示されるため、専門家を電力変換装置100の設置場所へ派遣するといった措置をとらなくとも、ユーザは電力変換装置100の動作可能範囲を容易に確認することができ、電力変換装置100の設置に伴うコストの増加を抑制することが可能である。
【0035】
実施の形態2.
図7は本発明の実施の形態2に係る電力変換装置の構成図である。実施の形態2では、実施の形態1と同一部分に同一符号を付してその説明を省略し、異なる部分についてのみ述べる。実施の形態2の電力変換装置100Aでは、実施の形態1の制御回路104の代わりに制御回路104Aが用いられ、実施の形態1の流体温度検出部201と流体流量検出部202とジャンクション温度推定部104−2の代わりに、流体の温度を設定する流体温度設定部201Aと流体の流量を設定する流体流量設定部202Aとジャンクション温度推定部104−2Aとが用いられる。実施の形態2の制御回路104Aは、電流検出値とフィン温度検出値と流体流量設定値と流体温度設定値とを入力とし、表示情報を出力とする。
【0036】
ジャンクション温度推定部104−2Aは、電力損失推定値とフィン温度検出値と流体流量設定値と流体温度設定値とに基づいて、主回路102を構成する半導体素子と流体との間の熱抵抗を、流体の流量に対応付けて推定する熱抵抗推定部6と、熱抵抗推定部6で推定された熱抵抗推定値と、主回路102の負荷率または主回路102の出力電流の検出値と、流体温度設定部201Aで設定された流体温度とに基づいて、流体の流量と主回路102の負荷率とに対応付けた主回路102のジャンクション温度を推定する温度推定部9と、を備える。実施の形態2では、流体温度検出部201と流体流量検出部202を用いなくとも、電力変換装置100の動作可能範囲を容易に確認することができるため、より一層のコスト低減を図ることが可能である。
【0037】
実施の形態3.
図8は本発明の実施の形態3に係る電力変換装置の構成図である。実施の形態3では、実施の形態1と同一部分に同一符号を付してその説明を省略し、異なる部分についてのみ述べる。
【0038】
図8に示す電力変換装置100Bは、実施の形態1の制御回路104の代わりに制御回路104Bが用いられ、実施の形態1の流体温度検出部201と流体流量検出部202の代わりに、流体の温度情報を入力する流体温度入力部201Bと流体の流量情報を入力する流体流量入力部202Bとを備える。流体温度入力部201Bと流体流量入力部202Bには、流体の温度および流量を制御する制御装置400が接続される。制御装置400は、流体温度を検出する流体温度検出部401と、流体の流量を検出する流体流量検出部402とを有し、流体温度検出部401で検出された流体温度は流体温度情報として流体温度入力部201Bに入力され、流体流量検出部402で検出された流体流量は流体流量情報として流体流量入力部202Bに入力される。
【0039】
実施の形態3では、流体の温度および流量の制御は基本的に外部の制御装置400で実施されるため、制御装置400で制御している流体の温度および流量の結果を電力変換装置100Bに入力することで、電力変換装置100Bにおける流体の温度検出部および流体流量検出器を削減してコストを低減することが可能である。
【0040】
なお実施の形態1,2,3ではインバータ回路を主回路102として用いた例を説明したが、実施の形態1,2,3の電力変換装置はコンバータ回路を主回路102として用いたものでもよい。また実施の形態1,2,3では液体の流体の温度および流量を検出してジャンクション温度を推定する例を説明したが、流体は液体に限定されるものではなく空気または冷媒ガスといった気体であってもよい。また実施の形態1,2,3では判定値記憶部104−4に記憶されたジャンクション温度判定値を用いたがジャンクション温度判定値は電力変換装置100の外部から直接入力したものでもよい。
【0041】
以上に説明したように実施の形態1,2,3に係る電力変換装置は、主回路の出力電流の検出値に基づいて推定される電力損失推定値と、主回路を冷却するフィンの温度と、フィンを冷却する流体の流量と、流体の温度検出値とに基づいて、流体の流量と主回路の負荷率とに対応付けた主回路のジャンクション温度、または前記流体の流量と前記主回路の出力電流の検出値とに対応付けた前記主回路のジャンクション温度を推定するジャンクション温度推定部と、ジャンクション温度推定部で推定されたジャンクション温度推定値と流体の流量と主回路の負荷率とジャンクション温度判定値とを対応付けて表示部に表示させる表示情報を生成して、表示部に出力する表示情報生成部とを備える。この構成により、電力変換装置を定格負荷または最大負荷まで運転させることなく、電力変換装置の動作可能範囲を容易に確認することができる。また実施の形態1,2に係る電力変換装置では電力変換装置の動作可能範囲が表示部300に表示されるため、専門家を電力変換装置の設置場所へ派遣するといった措置をとらなくとも、ユーザは電力変換装置の動作可能範囲を容易に確認することができ、電力変換装置の設置に伴うコストの増加を抑制することが可能である。
【0042】
また実施の形態1,2,3に係る電力変換装置は、ジャンクション温度推定部で推定されたジャンクション温度推定値と流体の流量と主回路の負荷率とジャンクション温度判定値とを対応付けて記憶する記憶部を備え、表示情報生成部は、記憶部に記憶されたジャンクション温度推定値と流体の流量と主回路の負荷率とジャンクション温度判定値を表示部に出力するように構成してもよい。この構成により、冷媒の温度および流量の異なる複数のジャンクション温度の推定結果が記憶されるため、ユーザにとっては適切な冷媒の条件を検討しやすくする。
【0043】
以上の実施の形態に示した構成は、本発明の内容の一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【符号の説明】
【0044】
1A 交流入力端子、1B 交流出力端子、3 平滑コンデンサ、4 インバータ回路、5 電流検出器、6 熱抵抗推定部、9 温度推定部、20 交流電源、100 電力変換装置、100A 電力変換装置、100B 電力変換装置、101 筐体、102 主回路、103 フィン温度検出部、104 制御回路、104−1 電力損失推定部、104−2 ジャンクション温度推定部、104−2A ジャンクション温度推定部、104−3 表示情報生成部、104−4 判定値記憶部、104A,104B 制御回路、105 回路基板、106 フィン、107 出力電流検出部、200 流路、201 流体温度検出部、201A,201B 流体温度入力部、202,202A,202B 流体流量入力部、300 表示部、400 制御装置、401 流体温度検出部、402 流体流量検出部。
【要約】
電力変換装置100は、主回路102の出力電流の検出値に基づいて推定される電力損失推定値と、主回路102を冷却するフィンの温度と、フィンを冷却する流体の流量と、流体の温度検出値とに基づいて、流体の流量と主回路102の負荷率とに対応付けた主回路102のジャンクション温度、または前記流体の流量と前記主回路の出力電流の検出値とに対応付けた前記主回路のジャンクション温度を推定するジャンクション温度推定部104−2と、ジャンクション温度推定部104−2で推定されたジャンクション温度推定値と流体の流量と主回路102の負荷率とジャンクション温度判定値とを対応付けて表示部に表示させる表示情報を生成して、表示部に出力する表示情報生成部104−3とを備える。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8