(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本発明の第1実施形態である取水設備1の全体構成を示す図である。また
図2は、
図1の取水口8の横部分断面図である。また
図3は、
図1の取水口8の縦部分断面図である。また
図4は、
図3の開閉装置21の拡大図である。また
図5は、
図1の取水設備1の動作、作用を説明するための図である。まず取水設備1の全体構成について説明し、続いて取水口開口部15の開閉潮位について説明し、その後、動作、作用について説明する。
【0021】
取水設備1は、海岸付近に設置され発電所91に設置される熱交換器(図示省略)に冷却用の海水を供給する設備であって、海水を熱交換器へ送水する送水ポンプ11が設置される取水槽6と、取水槽6と取水口8とを連結する取水路7と、沖合に設置され海水を取込む取水口8と、を含み、取水口8から取込まれた海水が取水路7を通り取水槽6に貯留され、送水ポンプ11によって熱交換器へ送水される。
【0022】
送水ポンプ11と取水槽6と取水路7とは、従来の取水設備と同様であるため構成についての説明は省略する。
【0023】
取水口8は、中心に導水孔13を有し取水路7と接続される円板状の基台16と、基台16の上面に放射線状に一定間隔で複数設けられ上蓋12を支持する仕切壁14と、仕切壁14の上面に設けられ取水口8の上方を塞ぐ円板状の上蓋12とを含み、基台16と仕切壁14と上蓋12とで区切られ形成された海水の取込み口となる複数の開口部15を有する。各開口部15には、所定の潮位において開口部15を開閉する開閉装置21が設けられている。海水は、取水口8の側面方向から取込まれ、導水孔13を通じて取水路7へ導入される。
【0024】
開閉装置21は、開口部15を閉塞する仕切板34と、仕切板34の両脇に設けられ仕切板34の動作方向を上下方向に規制するスライドガイド33と、浮力で浮揚する浮き31と、仕切板34と浮き31とを繋ぐ連結具32と、を含み、浮き31の浮力と海面81の潮位変動とにより仕切板34を上下動させて開口部15を開閉する。各開閉装置21は、潮位変動に応じて同じ動きをする。
【0025】
仕切板34は、開口部15を閉塞可能な形状の板であり、仕切板34の下部両端には、上昇時にスライドガイド33からの抜けを防止する抜け止め52が設けられている。仕切板34の厚さや材質は、水圧で破損しないように適宜決めればよい。
【0026】
スライドガイド33は、仕切壁14に隣接して外側に配置され、仕切板34が上下スライド自在に嵌り込む溝58が設けられており、上端には仕切板34の上昇時に抜け止め52が係止するストッパー51が設けられている。スライドガイド33と仕切板34とは、開口部15を閉塞したときに内側からの水圧により密接(圧接)することで海水の流出を防止可能なように設置される。スライドガイド33は、例えばH形鋼を縦に配置したものを好適に用いることができる。
【0027】
浮き31は、浮力が仕切板34の質量よりも大きいものを使用し、仕切板34を浮力により上昇させる。
【0028】
連結具32は、ロープ状であり、両端が仕切板34の上部と浮き31の下部とに結ばれて取付けられており、長さを容易に調節することができる。
【0029】
続いて取水口開口部15の開閉潮位について説明する。表1は、
図5に記載の潮位、取水槽水位の一覧を示している。
【0031】
海面81は、通常時において満潮位H1と干潮位H2との間で変動する。本実施形態における潮位の異常低下は、地震等により引き潮が発生し、海面81が干潮位H2よりも大幅に低下する状況を想定する。
【0032】
取水槽6は、上端の高さが干潮位H2よりも低くなるように設置されている。このため通常時、潮位は、常に取水槽6の上端を上回っており、取水槽6は満水である。また取水槽6は、上端の高さが取水口8の上端の高さよりも高くなるように設置されている。このため地震等により引き潮が発生し潮位が異常低下して取水槽水面82の高さを下回ると、開閉装置21の動作を無視した場合、取水槽6内の海水が取水口8側に逆流し、潮位の低下に伴い取水槽水面82の高さも潮位に追従して低下する。
【0033】
また取水槽6には、特筆すべき水位として送水ポンプ吸込限界深さH6と発電下限水位H4とがある。
【0034】
送水ポンプ吸込限界深さH6は、送水ポンプ11の有効吸込ヘッドと必要吸込ヘッドとが等しくなる水位であり、取水槽水面82の高さが送水ポンプ吸込限界深さH6よりも低下すると送水不能となる。送水ポンプ吸込限界深さH6は、送水ポンプ11の性能や設置状態に依存し、設置時には既知である。
【0035】
発電下限水位H4は、送水ポンプ吸込限界深さH6よりも高い位置に設定され、取水槽水面82の高さが発電下限水位H4を下回ると発電を停止する。つまり発電下限水位H4は、送水ポンプ吸込限界深さH6まで取水槽水面82が到達し送水不能となる前に一定の安全率をとって発電を停止するように設定されている。
【0036】
開口部閉塞開始潮位(開口部全開潮位)H3は、開口部15が閉まり始める潮位であり、開口部全閉潮位(開口部開口開始潮位)H5は、開口部15が全閉となる潮位である。開口部閉塞開始潮位H3と開口部全閉潮位H5との潮位差は、開口部15の開閉ストロークと等しくなる。開閉装置21の連結具32の長さを調節することで、この開口部全開潮位H3と開口部全閉潮位H5とを任意に設定することができる。
【0037】
開口部閉塞開始潮位H3は、通常時に仕切板34が下降して取水を妨げないように干潮位H2よりも低い位置に設定される。このため通常時において、開閉装置21が取水の抵抗となることはない。
【0038】
開口部全閉潮位H5は、送水ポンプ吸込限界深さH6よりも高い位置に設定される。このため送水ポンプ11は、潮位が開口部全閉潮位H5まで低下し、取水口8からの取水が停止された後も、取水停止時の取水槽水面82の高さとなる開口部全閉潮位H5から送水ポンプ吸込限界深さH6までの海水量83を送水することができる。この量は、少なくとも潮位が再び開口部全閉潮位H5まで上昇し、取水が再開されるまでの間、熱交換器が必要とする海水量とする。なお潮位低下後、取水が再開されるまでの時間は、適宜想定して決めればよい。
【0039】
続いて本発明の取水設備1の動作、作用について説明する。
図5(a)は、通常の潮位における取水設備1の状態を示す。また
図5(b)は、海面81が開口部全閉潮位H5まで低下したときの取水設備1の状態を示す。また
図5(c)は、開口部全閉潮位H5に到達後さらに潮位が低下したときの取水設備1の状態を示す。
【0040】
通常の潮位において仕切板34は、浮き31の浮力により常に上昇しており、開口部15が全開となっているため、開閉装置21は、取水時の抵抗とならず流量が制限されることなく海水を取込むことができる。
【0041】
地震等により引き潮が発生し、潮位が開口部閉塞開始潮位H3まで低下すると、その後は浮き31が潮位の低下に追従し、それに連動して仕切板34が徐々に下降する。この間、潮位が取水槽水面82まで低下すると海水が逆流して取水口8から流出するため、取水槽水面82も潮位に追従して低下し、発電下限水位H4を下回ると発電が停止する。そして潮位が開口部全閉潮位H5に達すると開口部15が全閉となり海水の流出が防止され、取水槽水面82の高さは開口部全閉潮位H5に一致する。その後は、潮位がさらに低下しても開口部15は全閉となっているため海水が流出することはない。
【0042】
開口部全閉潮位H5は、送水ポンプ吸込限界深さH6よりも高いので、送水ポンプ11は、開口部全閉潮位H5から送水ポンプ吸込限界深さH6までの海水量83を送水することが可能であり、熱交換器への送水を継続して行うことができる。
【0043】
引き潮が終わり、潮位が再び開口部開口開始潮位H5まで上昇すると、浮き31の上昇に連動して仕切板34が徐々に上昇し、開口部15が開き始め、海水が取水設備1に流入する。そして潮位が開口部全開潮位H3に達すると開口部15が全開となり、通常の状態に復帰する。
【0044】
以上のように第1実施形態の取水設備1は、地震等により引き潮が発生し潮位が異常低下しても取水口8からの海水の流出を防止する開閉装置21を備え、開閉装置21は、取水槽6の水位が送水ポンプ吸込限界深さH6よりも高い位置で開口部15を全閉とするので送水ポンプ11は、運転を継続することができる。また通常の潮位においては、開閉装置21は全開であるので開閉装置21が取水流量を制限することはなく、通常運転を支障なく行うことができる。
【0045】
また第1実施形態の取水設備1は、開口部全開潮位H3及び開口部全閉潮位H5は、連結具32の長さを変更することで容易に調節可能であり使い勝手が良い。また開閉装置21は、構造が簡単なため低コストで設置することができ、また開閉動作に電源が不要なので災害時においても問題なく使用することができる。
【0046】
図6は、本発明の第2実施形態である取水設備2の全体構成及び動作、作用を説明するための図である。第1実施形態に示す取水設備1と同一の構成には、同一の符号を付して説明を省略する。なお
図6(a)は、通常の潮位における取水設備2の状態を示し、
図6(b)は、海面81が開口部全閉潮位H5まで低下したときの取水設備2の状態を示す。
【0047】
第2実施形態に示す取水設備2の構成は、第1実施形態に示す取水設備1の構成と基本的に同じであるが、第2実施形態の取水設備2では、浮き31を常に海面81で視認することができるようにスライドガイド37が上方に延長された開閉装置22が設けられている。取水口開口部15の開閉潮位は、第1実施形態の取水設備1と同様に設定すればよい。取水設備2では、浮き31を常に視認可能であるため、取水口8の位置を海上から即座に把握することができる。
【0048】
図7は、本発明の第3実施形態である取水設備の取水口8の縦部分断面図である。第1実施形態に示す取水設備1と同一の構成には、同一の符号を付して説明を省略する。第3実施形態に示す取水設備の構成は、第1実施形態に示す取水設備1の構成と基本的に同じであるが、開閉装置の構成が異なる。
【0049】
本発明に係る取水設備において、取水口開口部15の開閉潮位は、開口部全開潮位H3を干潮位H2よりも低い位置とし、開口部全閉潮位H5を送水ポンプ吸込限界深さH6よりも高い位置として設定するが、取水流量を確保するために開口部15の高さを高くする必要がある場合等においては、干潮位H2と送水ポンプ吸込限界深さH6との高低差よりも開口部15の開閉ストロークの方が大きくなり、上記のように開閉潮位を設定することができないことがある。そこで第3実施形態の開閉装置23では、開口部15の開閉ストロークを半減させるべく仕切板を上下2枚に分割した構成としている。
【0050】
第3実施形態の開閉装置23は、浮き31と、連結具32と、スライドガイド33と、開口部15の上半分を上から閉じる上側仕切板35と、開口部15の下半分を下から閉じる下側仕切板36と、下側仕切板36を上昇させるバネ54と、バネ54を支持するシャフト55と、浮き31の上下動に対して下側仕切板36を逆方向に上下動させる滑車56と、を含む。浮き31と連結具32とは、上側仕切板35に一対、下側仕切板36に一対、それぞれ取付けられる。また浮き31は、上側仕切板35用と下側仕切板36用とで同一の高さに設定される。
【0051】
上側仕切板35は、縦が第1実施形態の仕切板34のおよそ半分の長さであり、第1実施形態の仕切板34と同様、浮き31の上下動に連動して上下動し、下部両端に抜け止め52が設けられている。
【0052】
下側仕切板36の大きさは、上側仕切板35と同一である。連結具32は、下側仕切板36の下部に取付けられ、基台16の下面に設置された滑車56を介して、基台16に設けられた貫通孔72に通され、浮き31に取付けられる。また下側仕切板36の上部両端の内側には、バネ54を受けるバネ受け53が設けられており、バネ受け53とバネ54とは、基台16に固定されたシャフト55に摺動自在に支持されている。また下側仕切板36の上昇時には、シャフト頭部57によりバネ受け53が係止され抜けを防止する。
【0053】
浮き31が上昇すると、上側仕切板35は上昇して抜け止め52がストッパー51に係止され、下側仕切板36は滑車56を介して連結具32に引っ張られることで下降して収納口71に収まり、開口部15が全開となる。潮位が低下し浮き31が下降すると、上側仕切板35は下降し、下側仕切板36はバネ54の弾性力により上昇する。そして潮位が開口部全閉潮位H5まで低下すると、上側仕切板35の下面と下側仕切板36の上面とが開口部15の中央で密接(圧接)し、開口部15が全閉となる。
【0054】
上記のように構成される第3実施形態の取水設備は、開口部15の開閉ストロークを半減することができ、開口部15の開閉潮位の設定上の制約を低減することができる。これにより取水口の形状設計や設置高さの自由度が高まる。
【0055】
図8は、本発明の第4実施形態である取水設備の取水口8の縦部分断面図である。第1実施形態に示す取水設備1と同一の構成には、同一の符号を付して説明を省略する。
【0056】
第4実施形態に示す取水設備の構成は、第1実施形態に示す取水設備1の構成と基本的に同じであるが、開閉装置の構成が異なる。第1実施形態の開閉装置21は、各開口部15に一つずつ設けられていたが、第4実施形態の開閉装置24は、一つで全ての開口部15を開閉するように構成されている。
【0057】
開閉装置24は、浮き31と、連結具32と、開口部15全体を覆うことが可能な開閉蓋38と、開閉蓋38の動作方向を上下方向に規制する柱状のスライドガイド39と、を含み、浮き31は、連結具32を介して開閉蓋38に取付けられており、潮位変動による浮き31の上下動に連動して開閉蓋38が上下動し、開口部15を開閉する。
【0058】
開閉蓋38は、取水口8の上蓋12を上から覆う椀形状をしており中心にスライドガイド39が挿通する挿通孔が設けられている。潮位が開口部全閉潮位H5まで低下し、開閉蓋38が下降すると全ての開口部15が全閉となり海水の流出を防止することができる。
【0059】
スライドガイド39は、取水口8の上蓋12の上部中心に取付けられており、開閉蓋38を上下スライド自在に支持する。またスライドガイド39の上端には、開閉蓋38の抜けを防止するストッパー59が設けられている。
【0060】
第4実施形態の取水設備においても開口部15の開閉潮位の設定については、第1実施形態の取水設備1と同様である。上記のように構成される第4実施形態の取水設備は、構成をより単純化することができる。
【0061】
図9は、本発明の第5実施形態である取水設備の開閉装置25の縦断面図である。第1実施形態に示す取水設備1と同一の構成には、同一の符号を付して説明を省略する。
【0062】
第5実施形態に示す取水設備の構成は、第1実施形態に示す取水設備1の構成と基本的に同じであるが、仕切板を上下にスライドさせる方式に代えて、蝶番61によって回動させる方式としている。また取水口は、仕切板60の回動時に仕切壁14と干渉しないように形状が矩形等に適宜変更される。
【0063】
第5実施形態の開閉装置25は、浮き31と、連結具32と、連結具32に取付けられ開口部15を閉じるときに上蓋12に設けられた貫通孔64を塞ぐ封止具63と、開口部15を開閉する回動式の仕切板60と、仕切板60を回動可能に支持する蝶番61と、開口部15を閉じるときに仕切板60と当接するストッパー62と、を含み、浮き31の上下動に連動して仕切板60が回動して開口部15を開閉する。
【0064】
第5実施形態の取水設備においても開口部15の開閉潮位の設定は、第1実施形態の取水設備1と同様である。仕切板60によって開口部15を閉じたときには、内側からの水圧により仕切板60とストッパー62とが密接(圧接)し、海水の流出を効果的に防止することができる。このように仕切板を回動式としても開口部15の開閉を容易に行うことができ、潮位の異常低下時に海水を確保することができる。
【0065】
以上、第1から第5実施形態の取水設備を用いて説明したように本発明の取水設備を用いると、通常時の取水流量を制限することなく、低コストで、潮位の異常低下時において送水ポンプが継続して運転可能な量の海水を確保することができる。
【0066】
本発明において通常時の取水流量を制限することなく、潮位の異常低下時において送水ポンプ11が継続して運転可能な量の海水を確保するための最低限の条件は、開口部全開潮位H3が干潮位H2よりも低いことと、開口部全閉潮位H5が送水ポンプ吸込限界深さH6よりも高いことである。上記の条件の元で確保する海水量を適宜想定し、開口部全開潮位H3と開口部全閉潮位H5とを設定すればよい。
【0067】
本発明の取水設備は、上記実施形態に限定されるものではなく、要旨を変更しない範囲で種々の形態に変更し使用することができる。例えば、第1実施形態において開口部全閉潮位H5は、発電下限水位H4と送水ポンプ吸込限界深さH6との間に設定したため、潮位低下時において取水槽水面82の高さが発電下限水位H4を下回ると発電を停止したが、開口部全閉潮位H5を発電下限水位H4よりも高い位置に設定し、発電に必要な海水量を確保することができれば、発電を継続させることができる。
【0068】
また第1実施形態の取水設備1の取水槽6は、上端の高さが干潮位H2よりも低くなるように設置されているが、本発明の取水設備の取水槽は、これに限定されず、上端の高さが干潮位H2よりも高くなる位置に設置されていてもよい。
【0069】
また仕切板やスライドガイド、ストッパー等に海水の漏れを防止するパッキン(図示省略)を適宜設けてもよく、連結具32は、ロープ状ではなく剛性のある棒状の部材を使用してもよい。また上記実施形態に示す取水設備は、発電所の取水設備であるが、本発明の取水設備は、発電所以外の取水設備にも適用することができる。