(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記結晶溶融層によって、前記酸化物結晶同士、および前記酸化物結晶と前記基板とが互いに融着していることを特徴とする、請求項2に記載の紫外光発生用ターゲット。
粉末状または粒状であり付活剤が添加された、Lu及びSiを含有する酸化物結晶を、紫外光を透過する基板上に堆積させ、前記酸化物結晶に対して熱処理を行うことにより、前記酸化物結晶の表面を溶融し、再び固化させて結晶溶融層を形成することを特徴とする、紫外光発生用ターゲットの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来より、紫外光源として、水銀キセノンランプや重水素ランプ等の電子管が用いられてきた。しかし、これらの紫外光源は、発光効率が低く、大型であり、また安定性や寿命の点で課題がある。また、水銀キセノンランプを用いる場合、水銀による環境への影響が懸念される。一方、別の紫外光源として、ターゲットに電子線を照射することにより紫外光を励起させる構造を備える電子線励起紫外光源がある。電子線励起紫外光源は、高い安定性を生かした光計測分野や、低消費電力性を生かした殺菌や消毒用、あるいは高い波長選択性を利用した医療用光源やバイオ化学用光源として期待されている。また、電子線励起紫外光源には、水銀ランプなどよりも消費電力が小さいという利点もある。
【0005】
また、近年、波長360nm以下といった紫外領域の光を出力しうる発光ダイオードが開発されている。しかし、このような発光ダイオードからの出力光強度は未だ小さく、また発光ダイオードでは発光面の大面積化が困難なので、用途が限定されてしまうという問題がある。これに対し、電子線励起紫外光源は、十分な強度の紫外光を発生することができ、また、ターゲットに照射される電子線の径を大きくすることにより、大面積で且つ均一な強度を有する紫外光を出力することができる。
【0006】
しかしながら、電子線励起紫外光源においても、紫外光発生効率の更なる向上が求められる。本発明は、紫外光発生効率を高めることが可能な紫外光発生用ターゲット、電子線励起紫外光源、及び紫外光発生用ターゲットの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、本発明による紫外光発生用ターゲットは、紫外光を透過する基板と、基板上に設けられ、電子線を受けて紫外光を発生する発光層とを備え、発光層が、粉末状または粒状であり付活剤が添加された、Lu及びSiを含有する酸化物結晶を含むことを特徴とする。
【0008】
本発明者は、付活剤が添加されたLu及びSiを含有する酸化物結晶、例えば(Pr
xLu
1−x)
2Si
2O
7(Pr:LPS、xの範囲は0<x<1)や、(Pr
xLu
1−x)
2SiO
5(Pr:LSO、xの範囲は0<x<1)などを紫外光発生用ターゲットに用いることを考えた。しかし、先行技術文献に記載されているような方法では、十分な紫外光発生効率を得ることが難しいことが判明した。これに対し、本発明者による試験及び研究の結果、付活剤が添加された、Lu及びSiを含有する酸化物結晶を粉末状または粒状とし、これを膜状に成形することによって、紫外光発生効率を顕著に高め得ることが見出された。すなわち、本発明による紫外光発生用ターゲットによれば、発光層が、粉末状または粒状であり付活剤が添加された、Lu及びSiを含有する酸化物結晶を含むので、紫外光発生効率を効果的に高めることができる。
【0009】
また、紫外光発生用ターゲットは、酸化物結晶の表面が、熱処理によって溶融し再び固化した結晶溶融層に覆われていることを特徴としてもよい。これにより、酸化物結晶同士、および酸化物結晶と基板とが互いに融着するので、バインダを用いることなく発光層の十分な機械的強度を得ることができ、且つ、発光層と基板との結合強度を高めて発光層の剥離を抑えることができる。
【0010】
また、紫外光発生用ターゲットは、酸化物結晶がLPS及びLSOのうち少なくとも一つを含むことを特徴としてもよい。
【0011】
また、紫外光発生用ターゲットは、付活剤がPrであることを特徴としてもよい。
【0012】
また、紫外光発生用ターゲットは、基板が、サファイア、石英または水晶から成ることを特徴としてもよい。これにより、紫外光が基板を透過し、また、発光層の熱処理を行う場合にはその温度にも耐えることができる。
【0013】
また、本発明による電子線励起紫外光源は、上記いずれかの紫外光発生用ターゲットと、紫外光発生用ターゲットに電子線を与える電子源とを備えることを特徴とする。この電子線励起紫外光源によれば、上記いずれかの紫外光発生用ターゲットを備えることによって、紫外光発生効率を高めることができる。
【0014】
また、本発明による紫外光発生用ターゲットの製造方法は、粉末状または粒状であり付活剤が添加された、Lu及びSiを含有する酸化物結晶を、紫外光を透過する基板上に堆積させ、酸化物結晶に対して熱処理を行うことにより、結晶の表面を溶融し、再び固化させて結晶溶融層を形成することを特徴とする。この紫外光発生用ターゲットの製造方法によれば、結晶溶融層によって、酸化物結晶同士、および酸化物結晶と基板とが互いに融着するので、バインダを用いることなく発光層の十分な機械的強度を得ることができ、且つ、発光層と基板との結合強度を高めて発光層の剥離を抑えることができる。この製造方法において、熱処理の温度は1000℃以上2000℃以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明による紫外光発生用ターゲット、電子線励起紫外光源、及び紫外光発生用ターゲットの製造方法によれば、紫外光発生効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】一実施形態に係る電子線励起紫外光源の内部構成を示す模式図である。
【
図2】紫外光発生用ターゲットの構成を示す側面図である。
【
図3】第1実施例により作製された紫外光発生用ターゲットに電子線を照射して得られた紫外光のスペクトルを示すグラフである。
【
図4】表面にアルミニウム膜が蒸着されたPr:LuAG単結晶基板を示す図である。
【
図5】バインダを利用して形成された発光層の発光強度、及び熱処理により形成された発光層の発光強度の経時変化を示すグラフである。
【
図6】発光層のPr:LPS結晶粒子の状態を撮影した電子顕微鏡(SEM)写真である。
【
図7】発光層のPr:LPS結晶粒子の状態を撮影した電子顕微鏡(SEM)写真である。
【
図8】発光層のPr:LPS結晶粒子の状態を撮影した電子顕微鏡(SEM)写真である。
【
図9】発光層のPr:LPS結晶粒子の状態を撮影した電子顕微鏡(SEM)写真である。
【
図10】発光層を剥がした後のサファイア基板の表面を撮影したSEM写真である。
【
図11】発光層を剥がした後のサファイア基板の表面を撮影したSEM写真である。
【
図12】発光層に対する熱処理の条件を様々に設定して作製された紫外光発生用ターゲットに電子線を照射して得られた紫外光のスペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しながら本発明による紫外光発生用ターゲット、電子線励起紫外光源、及び紫外光発生用ターゲットの製造方法の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0018】
図1は、本実施形態に係る電子線励起紫外光源10の内部構成を示す模式図である。
図1に示されるように、この電子線励起紫外光源10では、真空排気されたガラス容器(電子管)11の内部の上端側に、電子源12および引き出し電極13が配置されている。そして、電子源12と引き出し電極13との間に電源部16から適当な引き出し電圧が印加されると、高電圧によって加速された電子線EBが電子源12から出射される。電子源12には、例えば大面積の電子線を出射する電子源(例えばカーボンナノチューブ等の冷陰極、或いは熱陰極)を用いることができる。
【0019】
また、容器11の内部の下端側には、紫外光発生用ターゲット20が配置されている。紫外光発生用ターゲット20は例えば接地電位に設定され、電子源12には電源部16から負の高電圧が印加される。これにより、電子源12から出射された電子線EBは紫外光発生用ターゲット20に照射される。紫外光発生用ターゲット20は、この電子線EBを受けて励起され、紫外光UVを発生する。
【0020】
図2は、紫外光発生用ターゲット20の構成を示す側面図である。
図2に示されるように、紫外光発生用ターゲット20は、基板21と、基板21上に設けられた発光層22と、発光層22上に設けられたアルミニウム膜23とを備えている。基板21は、紫外光を透過する材料から成る板状の部材であり、一例では、サファイア(Al
2O
3)、石英(SiO
2)または水晶(酸化珪素の結晶、rock crystal)から成る。基板21は、主面21aおよび裏面21bを有する。基板21の好適な厚さは、0.1mm以上10mm以下である。
【0021】
発光層22は、
図1に示された電子線EBを受けて励起され、紫外光UVを発生する。発光層22は、粉末状または粒状であり付活剤が添加された、Lu及びSiを含有する酸化物結晶を含む。このような酸化物結晶としては、例えば付活剤として希土類元素(一実施例ではPr)が添加されたLu
2Si
2O
7(LPS)やLu
2SiO
5(LSO)が好適である。後述する実施例から明らかなように、本実施形態の発光層22では、上記酸化物結晶の表面が、熱処理によって溶融し再び固化した結晶溶融層に覆われている。なお、発光層22に含まれる上記酸化物結晶は、単結晶または多結晶のいずれであってもよく、双方が混在しても良い。また、異種の上記酸化物結晶(例えばLPSとLSO)が混在してもよい。
【0022】
本実施形態によって得られる効果について説明する。従来、電子線励起紫外光源用のターゲットとしてPr:LPS結晶やPr:LSO結晶といったLu及びSi含有の酸化物結晶を利用する場合、多結晶板の状態では、紫外光の透過率が小さ過ぎ、また高コストのため、実用的ではなかった。これに対し、後述する各実施例から明らかなように、付活剤が添加されたLu及びSiを含有する酸化物結晶(一例ではPr:LPS又はPr:LSO)を粉末状または粒状とし、これを膜状に成形することによって、板状の前記酸化物結晶を用いる場合よりも顕著に紫外光発生効率を高め得ることが見出された。また、材料の使用量が少なくて済むので、低コスト化も実現し得る。したがって、殺菌や分析の用途に有用な260nm帯の波長域において高出力・高安定な紫外光源として、また、大面積の紫外光源としても利用可能な紫外光発生用ターゲットを提供することができる。なお、このような作用は、付活剤が添加されたLu及びSiを含有する酸化物結晶を粉末状又は粒状とすることによって、その酸化物結晶と電子線との反応面積が増大することと光取り出し効率が増大することに因ると考えられる。
【0023】
また、本実施形態のように、上記酸化物結晶の表面は、熱処理によって溶融し再び固化した結晶溶融層に覆われていることが好ましい。これにより、後述する実施例から明らかなように、酸化物結晶同士、および酸化物結晶と基板21とが互いに融着するので、バインダを用いることなく発光層22の十分な機械的強度を得ることができ、且つ、発光層22と基板21との結合強度を高めて発光層22の剥離を抑えることができる。
【0024】
また、本実施形態の発光層22は、粉末状または粒状の酸化物結晶を基板21上に堆積する等の方法によって形成され得るので、大きな面積を有する紫外光発生用ターゲット20を容易に作製することができる。
【0025】
また、本実施形態のように、基板22は、サファイア、石英または水晶から成ることが好ましい。これにより、紫外光が基板21を透過し、また、発光層22の熱処理を行う場合には、基板21がその温度に耐えることができる。
【0026】
(第1実施例)
続いて、上記実施形態の第1実施例について説明する。本実施例では、まず、直径12mm、厚さ2mmのサファイア基板を準備した。次に、Pr:LPS多結晶基板を準備し、乳鉢を用いてこの多結晶基板を粉砕することにより、Pr:LPS多結晶を粉末状又は粒状とした。続いて、粉末状又は粒状のPr:LPS多結晶を沈降法によりサファイア基板上に堆積させることにより、発光層を形成した。その後、これらの発光層の上に有機膜(ニトロセルロース)を形成し、その有機膜上にアルミニウム膜を蒸着した。最後に、これらの発光層を焼成することにより、有機膜を分解し気化させて、発光層にアルミニウム膜が接する構造とした。焼成後における発光層の厚さは、10μmであった。
【0027】
図3のグラフG11は、本実施例により作製された紫外光発生用ターゲットに電子線を照射して得られた紫外光のスペクトルを示すグラフである。また、
図3には、比較のためグラフG12が併せて示されている。グラフG12は、
図4に示されるように表面にアルミニウム膜101が蒸着されたPr:LPS多結晶基板102に電子線を照射して得られた紫外光のスペクトルである。これらのグラフG11及びG12では、電子線の加速電圧を10kVとし、電子線の強さ(電流量)を200μAとし、電子線の径を5mmとした。
図3から明らかなように、粉末状又は粒状のPr:LPS多結晶を含む本実施形態の発光層では、Pr:LPS多結晶基板と比較して、電子線の照射により発生する紫外光のピーク強度が格段に大きくなる(すなわち発光効率が格段に高くなる)。なお
図3において、Pr:LPS多結晶基板の発光強度が全波長域にわたってほぼゼロとなっているのは、発光層が白濁しており紫外光が透過していないためである。Pr:LPS多結晶はその結晶構造が単斜晶系であるため、紫外光を透過する多結晶基板の作製は難しい。
【0028】
なお、上述したように多結晶を粉末状又は粒状とすることに関する効果は、Pr:LPS多結晶と類似の組成を有する付活剤添加のLu及びSi含有酸化物結晶、例えばPr:LSO多結晶においても同様に得られ、また、多結晶に限らず単結晶の場合においても同様に得られると考えられる。
【0029】
(第2実施例)
続いて、上記実施形態の第2実施例について説明する。本実施例では、バインダを利用した発光層の形成と、バインダを利用しない、熱処理による発光層の形成とを説明する。
【0030】
<バインダを利用した発光層の形成>
先ず、直径12mm、厚さ2mmのサファイア基板を準備した。次に、Pr:LPS多結晶基板を準備し、乳鉢を用いてこのPr:LPS多結晶基板を粉砕することにより、粉末状又は粒状のPr:LPS多結晶を作製した。
【0031】
そして、粉末状又は粒状のPr:LPS多結晶、純水、並びにバインダ材料としての珪酸カリウム(K
2SiO
3)水溶液及び酢酸バリウム水溶液を混合し、該混合液をサファイア基板上に塗布し、沈降法によりPr:LPS多結晶およびバインダ材料をサファイア基板上に堆積させて、発光層を形成した。続いて、発光層の上に有機膜(ニトロセルロース)を形成し、その有機膜上にアルミニウム膜を真空蒸着により形成した。最後に、発光層を大気中において350℃で焼成することにより有機膜を分解し気化させて、発光層にアルミニウム膜が接する構造とした。
【0032】
<熱処理による発光層の形成>
先ず、直径12mm、厚さ2mmのサファイア基板を準備した。次に、Pr:LPS多結晶基板を準備し、乳鉢を用いてこのPr:LPS多結晶基板を粉砕することにより、粉末状又は粒状のPr:LPS多結晶を作製した。
【0033】
そして、粉末状又は粒状のPr:LPS多結晶及び溶媒(エタノール)を混合し、その混合液をサファイア基板上に塗布したのち溶媒を乾燥させた。こうしてPr:LPS多結晶をサファイア基板上に堆積させて、発光層を形成した。続いて、減圧された雰囲気中において該発光層の熱処理を行った。この熱処理は、粉末状又は粒状のPr:LPS多結晶の表面を溶融させて、結晶粒子同士、および結晶粒子とサファイア基板の表面とを互いに融着した構造とすることにより、発光層の付着力を強める為に行われた。その後、発光層の上に有機膜(ニトロセルロース)を形成し、その有機膜上にアルミニウム膜を真空蒸着により形成した。最後に、発光層を大気中において350℃で焼成することにより有機膜を分解し気化させて、発光層にアルミニウム膜が接する構造とした。
【0034】
図5は、バインダを利用して形成された発光層の発光強度、及び熱処理により形成された発光層の発光強度の経時変化を示すグラフである。
図5において、縦軸は規格化された発光強度(初期値は1.0)を示しており、横軸は電子線照射時間(単位:時間)を対数目盛で表している。また、グラフG21はバインダを利用して形成された発光層のグラフを示しており、グラフG22は熱処理(1000℃、2時間)により形成された発光層のグラフを示している。なお、グラフG21及びG22では、電子線の加速電圧を10kVとし、電子線の強さ(電流量)を20μAとした。
【0035】
図5に示されるように、バインダを利用せずに熱処理によって発光層を形成した場合(グラフG22)、バインダを利用した場合(グラフG21)よりも発光強度の経時変化(発光強度低下)が小さくなった。具体的には、10時間後の光出力維持率(開始直後の光出力強度に対する、10時間後の光出力強度の割合)が、熱処理された発光層では91.1%であったのに対し、バインダを利用した発光層では79.4%であった。これは、次のような理由に因ると考えられる。すなわち、バインダを利用して発光層を形成した場合、完成した発光層の中には、Pr:LPS結晶に加えてバインダ材料が含まれる。この発光層に強いエネルギーの電子線を照射すると温度の上昇やX線の発生が起こり、高温やX線の影響によりバインダ材の変質や分解が起こる。結晶表面に付着した変質したバインダ材が結晶からの紫外光を吸収するため外部に放射される光量が低下すると考えられる。
【0036】
これに対し、熱処理によって発光層を形成した場合、発光層にバインダ材料が含まれないため、バインダ材の変質や分解は起こらず、紫外光の透過率が比較的長時間にわたって維持されると考えられる。したがって、熱処理によって発光層を形成することが望ましい。
【0037】
ここで、
図6〜
図9は、発光層のPr:LPS多結晶粒子の状態を撮影した電子顕微鏡(SEM)写真である。これらの図において、(a)は熱処理前の状態を示しており、(b)は(a)と同一の箇所における熱処理(1500℃、2時間)の後の状態を示している。
【0038】
図6〜
図9を参照すると、熱処理後のPr:LPS多結晶粒子では、熱処理前と比較して、表面が溶融して再び固化していることがわかる。換言すれば、熱処理後の発光層では、熱処理により溶融し再び固化した結晶溶融層がPr:LPS多結晶粒子の表面を覆っている。そして、隣り合うPr:LPS多結晶粒子の結晶溶融層同士が互いに融着することにより、Pr:LPS多結晶粒子同士が互いに強固に結合されるので、上述したバインダを用いることなく、発光層の機械的強度を増すことができる。
【0039】
また、上述した結晶溶融層は、Pr:LPS多結晶粒子と基板との結合にも寄与する。ここで、
図10及び
図11は、発光層を剥がした後のサファイア基板の表面を撮影した電子顕微鏡(SEM)写真である。これらの図において、(a)は熱処理により形成された発光層を剥がした場合を示しており、(b)はバインダを利用して形成された(熱処理がされていない)発光層を剥がした場合を示している。なお、本実施例では、ベンコット(登録商標)を用いて発光層を強く擦ることにより、発光層を除去した。
【0040】
図10(a)及び
図11(a)を参照すると、熱処理により形成された発光層を剥がした場合、Pr:LPS多結晶を完全には除去することができず、サファイア基板の表面にPr:LPS多結晶の結晶溶融層が残っている。一方、
図10(b)及び
図11(b)を参照すると、バインダを利用して形成された(熱処理がされていない)発光層を剥がした場合、Pr:LPS多結晶を完全に除去することができ、サファイア基板の表面のみが写っている。これらのSEM写真から、熱処理により形成された発光層では、結晶溶融層が基板表面に融着することにより、Pr:LPS多結晶粒子と基板とがより強固に結合され、発光層の剥離が抑制されていると考えられる。
【0041】
なお、上述したような粉末状又は粒状の多結晶を熱処理することに関する効果は、Pr:LPS多結晶と類似の組成を有する付活剤添加のLu及びSi含有酸化物結晶、例えばPr:LSO多結晶においても同様に得られ、また、多結晶に限らず単結晶の場合においても同様に得られると考えられる。
【0042】
また、本実施例では発光層に対する熱処理の温度を1500℃としたが、熱処理の温度は1000℃以上であることが好ましく、また2000℃以下であることが好ましい。熱処理の温度が1000℃以上であることによって、結晶粒子表面の結晶溶融層を十分な厚さに形成し、結晶粒子同士、および結晶粒子と基板との付着力を高め、電子線照射の際の発光層の剥離を効果的に防ぐことができる。また、熱処理の温度が2000℃以下であることによって、結晶構造の変化を抑制し、発光効率の低下を防ぐことができる。また、基板(特にサファイア基板)の変形を防ぐことができる。
【0043】
図12に示されるグラフG31〜G34は、発光層に対する熱処理の条件を以下のように設定して作製された紫外光発生用ターゲットに電子線を照射して得られた紫外光のスペクトルを示すグラフである。
グラフG31:真空中、1000℃、2時間
グラフG32:真空中、1400℃、2時間
グラフG33:真空中、1500℃、2時間
グラフG34:大気中、1400℃、2時間
また、
図12には、比較のためグラフG35が併せて示されている。グラフG35は、バインダを利用して形成された発光層を有する紫外光発生用ターゲットに電子線を照射して得られた紫外光のスペクトルを示すグラフである。これらのグラフG31〜G35では、電子線の加速電圧を10kVとし、電子線の強さ(電流量)を200μAとし、電子線の径を5mmとした。
図12において、縦軸は紫外発光ピーク強度を1.0として規格化された発光強度を示しており、横軸は波長(単位:nm)を示している。
図12を参照すると、熱処理時の温度や雰囲気によって、紫外発光のピーク波長が変化することがわかる。
【0044】
すなわち、バインダあり(熱処理なし)の場合では、発光スペクトルが1種類のみで変えることができないが、バインダなし(熱処理あり)の場合では、熱処理時の雰囲気・温度を変えることによって発光波長を変化させることができる。つまり、熱処理条件を変えることにより用途に適合した最適な波長を選択することが可能となる。
【0045】
本発明による紫外光発生用ターゲット、電子線励起紫外光源、及び紫外光発生用ターゲットの製造方法は、上述した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態および各実施例では発光層の上にアルミニウム膜を蒸着しているが、上記実施形態および各実施例ではアルミニウム膜は省略されてもよい。なお、アルミニウム膜は帯電防止用の導電膜として機能しており、アルミニウム以外の導電膜としても良い。