(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に、本発明を、図面を参照して詳細に説明する。なお、図面中同様の機能を奏する装置には同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0028】
図1は、従来の純水製造システムの構成を示すフロー図である。
図1に示される純水製造システム1は、処理ライン101に沿って、前処理システム10と、前処理システム10で処理された前処理水を貯留する前処理タンクT1と、前処理タンクT1の下流の一次純水システム20と、一次純水システム20で製造された一次純水を貯留する一次純水タンクT3と、一次純水タンクT3の下流の二次純水システム30とを有している。
【0029】
純水製造システム1の前処理タンクT1,タンクT2,一次純水タンクT3の直後にはそれぞれポンプPとして回転数可変ポンプが設置され、下流側に被処理水を送るとともに、その流量を調節できるようになっている。
【0030】
純水製造システム1は、循環配管102で一次純水を前処理タンクT1へ一次純水を循環させるよう構成されている。また、製造された純水がユースポイント(POU)へ供給され、余剰の純水がリターン配管103で一次純水タンクT3に循環されるよう構成されている。
【0031】
一次純水システムは、活性炭装置(AC)21、強酸性陽イオン交換装置(SC)22、脱炭酸装置(DG)23、強塩基性陰イオン交換装置(SA)24、タンクT2、逆浸透膜装置(RO)25、紫外線酸化装置(TOC−UV)26、混床式イオン交換装置(MB)27を順に備えている。
【0032】
二次純水システムは、紫外線酸化装置(TOC−UV)31、ポリッシャー(Polisher)32、脱気膜装置(MDG)33、限外ろ過膜装置(UF)34を順に備えている。
【0033】
本発明者らは、純水製造システム1と同様の構成であり、100m
3/h以上の処理流量で比抵抗18.2MΩ・cm以上、TOC濃度1.0μgC/L以下の純水が製造されている純水製造システムの脱炭酸装置23、混床式イオン交換装置27及びポリッシャー32の出水口の水質について、
図10に示されるように、TOC濃度が混床式イオン交換装置の出口水(細線)で一時的に急激に上昇し、これに若干遅れたタイミングでポリッシャーの出口水(太線)でも上昇していることを見出した。このとき、脱炭酸装置23の出口水のTOC濃度(破線)は、850μgC/L前後で見かけ上変動してない。しかし、本発明者らは、TOC濃度上昇の原因を詳細に追究して、末端近辺(POU近辺)でのTOC濃度が急激に上昇した水が脱炭酸装置で処理されていた頃に、純水製造システムの設置された敷地内において揮発性有機物を用いた作業が行われていたことを突き止め、このTOC濃度の一時的な上昇が揮発性有機物によるものであることを確認すべく次に示す追試験(実験1)を行った。
【0034】
(実験1)
以下の水処理装置を用いて、
図1と同様の構成の純水製造システム1を、床面積30m
2、天井高さ約4mの建屋300内に構成して純水を製造した。純水製造システム建屋の概略構成図を
図3に示す。
【0035】
純水製造システム1の脱炭酸装置23には、ブロー空気を送入するブローポンプ206の送気口近傍に、ブロー空気中の揮発性有機物濃度を測定するVOC計211を設置し、ブロー空気中の初期VOC濃度を測定した。
【0036】
純水製造システム1:処理流量1.6m
3/h、
原水:厚木市市水
前処理システム:メンブレンフィルター(MF):ファインセップ、野村マイクロ・サイエンス(株)社製、
タンクT1、タンクT2:容量2m
3、
【0037】
[一次純水システム]
活性炭装置21:クラレコール(登録商標、以下同じ。)GW−6−12(クラレケミカル(株)社製)、100L充填、
強酸性陽イオン交換装置22:デュオライト(登録商標、以下同じ。)C20(ダウケミカル社製)、64L充填、
脱炭酸装置23:高さ3.5m、充填層高さ:2.3m、
ブロー空気供給流量32m
3/h、被処理水流量1.6m
3/h、
揮発性有機物センサー(VOC計)211:
ポータブルVOC分析計 FV−250、(株)堀場製作所製、
TOC計:Sievers900、米国GE社製、
強塩基性陰イオン交換装置24:デュオライトA113(ダウケミカル社製)、110L充填、
逆浸透膜装置25:SUL−G20、東レ(株)社製、
紫外線酸化装置26:AUV、日本フォトサイエンス(株)社製、0.3kWh/m
3、
混床式イオン交換装置27:デュオライトC255(ダウケミカル社製)、21L及びN−Lite AGP(野村マイクロ・サイエンス(株)社製))、43L、混合充填。
TOC計:アナテルA−1000XP、(株)ハック社製、
【0038】
[二次純水システム]
紫外線酸化装置31:SUV、日本フォトサイエンス(株)社製、0.3kWh/m
3、
混床式イオン交換装置(ポリッシャー)32:MBGP、野村マイクロ・サイエンス(株)社製、
脱気膜装置33:リキセル(登録商標)18×28外圧型分離膜X−40、ポリポア(株)社製、
限外ろ過膜装置34:OLT−6036H、旭化成ケミカルズ(株)社製、
タンクT3:容量2m
3、
TOC計:アナテルA−1000XP、(株)ハック社製、
【0039】
実験1では、上記した供給流量32m
3/h(通常時の供給流量)でブロー空気を脱炭酸装置23に送入して純水を製造した。このとき、純水製造システムを稼働させた状態で、
図3に示される純水製造システム建屋300内の、脱炭酸装置のブローポンプ206の空気取入口から直線距離Lが3mの位置でキシレン50mLをプラスチック板301(面積1m
3)上に静かに流下して放置した。
なお、このとき、純水製造システム建屋300はドア等を閉鎖してほぼ密閉状態とした。
【0040】
キシレンの流下開始からの経過時間とブロー空気中の初期VOC濃度との関係を
図7に、脱炭酸装置23、混床式イオン交換装置27、ポリッシャー32の出水口で採取した処理水のTOC濃度との関係を
図8に示す。
【0041】
なお、
図8において、破線は脱炭酸装置23、細線は混床式イオン交換装置27、太線はポリッシャー32の出水中のTOC濃度をそれぞれ示している。
【0042】
実験1では、空気中には2.7mg/m
3以下の低濃度で難分解性の揮発性有機物が混入している(
図7参照)。このとき、
図8に示されるように、脱炭酸装置23の出口水のTOC濃度は1,200μgC/L前後で、見かけ上変動していないにもかかわらず、混床式イオン交換装置27、ポリッシャー3出口水のTOC濃度は空気中の揮発性有機物濃度の上昇に応答して上昇し、ポリッシャー32の各出口水では一時的に1.0μgC/Lを超えてしまうことが分かる。これは、揮発性有機物が混入した空気が脱炭酸装置23に送入されたためである。なお、脱炭酸装置23の出口水のTOC濃度が1,200μgC/L前後で、見かけ上変動していないことから、揮発性有機物の混入による脱炭酸処理水のTOC濃度への影響が極めてわずかであることがわかる。
【0043】
このように、本発明者らは、揮発性有機物がブロー空気中に予期せず混入した場合には、それが低濃度であっても、末端近辺での水質に悪影響を与えることを確認した。特に、難分解性の揮発性有機物である、ベンゼン、トルエン、キシレン等は、水への溶解性が低く、また、表面張力が小さいことから、配管表面に付着し易いと考えられる。そのため、一度処理水に混入すると、イオン成分やその他の有機物成分より比較的長時間配管内に滞留して末端水質に悪影響を与え続けるおそれもあると考えられる。
【0044】
また、本発明者らは、上記した知見に基づいて半導体製造工場内に設置された純水製造システム周辺の空気中VOC濃度について調査したところ、半導体製造工程において用いられるイソプロピルアルコール、アセトン、酢酸エチル、PGMEA(プロピレングリコール‐1−メチルエーテルアセテート)等のシンナー類などの排ガスが、例えばスクラバーから空気中に混入し、空気中の揮発性有機物濃度が高くなる場合があることをも突き止めた。
さらに、このような揮発性有機物の混入の頻度は、1年間に2〜3回程度であり、空気中のVOC濃度が急上昇したときからおおよそ24時間以内には揮発性有機物の混入のない通常時の状態に戻ることもわかった。
【0045】
次に、本発明者らがこの実験の結果に基づいて完成した本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0046】
(第1の実施形態)
第1の実施形態は揮発性有機物の混入を防止した純水製造方法である。
【0047】
本実施形態に用いられる純水製造システムは、比抵抗18.2MΩ・cm以上、TOC濃度1.0μgC/L以下の水質の純水を得られるよう、従来の同様の水処理装置を選択し、その規模や配置順序を決定して構成されていることが好ましい。そして、各水処理装置の出水口近傍に、例えば、比抵抗計、TOC計等の計測機器を適宜配置して、任意の水処理装置の出口水質をモニターすることができる。
【0048】
このような純水製造システムとして、本実施形態では、
図1に示されるものと同様の構成の純水製造システムを用いることが好ましい。
【0049】
本実施形態では、一次純水システムにおいて脱炭酸処理が行われるが、脱炭酸処理に際して、脱炭酸装置23へ供給するブロー空気中の揮発性有機物量を測定して、揮発性有機物の量に応じてブロー空気の供給量を調節する。
【0050】
図2は、この脱炭酸処理に用いられる脱炭酸装置2の一例を示す概略構成図である。
この脱炭酸装置2は、ブロー空気中への揮発性有機物の混入のない通常時で、脱炭酸処理水中の溶存炭酸ガス濃度を3.0mgC/L以下に低減できるものであることが好ましい。
【0051】
脱炭酸装置2としては、後述するような、内部に充填層の配設された脱炭酸塔を備えた装置であることが好ましい。また、脱炭酸装置2として、疎水性膜を介して気相と液相に分離され、疎水性膜を介して被処理水を気相に供給された空気と接触させることで脱炭酸を行う脱気膜装置を用いてもよい。
【0052】
脱炭酸装置2を構成する脱炭酸塔201内には、空隙率の大きい気液接触材が多数充填された充填層202が配設され、充填層202の下部には処理水貯溜部203が設けられている。被処理水は、給水管204に接続されたシャワーヘッドから充填層202に注下される。また、脱炭酸塔201にはブロー管205が接続されており、このブロー管205からブローポンプ206を介して外部の空気が送入され、脱炭酸塔201の上部より排出される。
【0053】
ブロー管205の入気口側に分枝して設けられたサンプルライン上には、送入されるブロー空気中の揮発性有機物の量を測定する揮発性有機物センサー209(揮発性有機物検知器)が備えられている。また、ブロー管205には、電磁バルブ207を介装した排出管208が分枝して接続されている。
【0054】
また、本実施形態に用いられる脱炭酸装置2は、揮発性有機物センサー209の出力でブロー空気供給量調節装置としてのブローポンプ206や電磁バルブ207を制御する制御装置210を備えている。具体的に例えば、制御装置210は、ブローポンプ206の回転数又は電磁バルブ207の開閉若しくは開度を制御することでブロー空気の供給量を調節するようになっている。
【0055】
なお、ブロー空気供給量調節装置として、ブロー管205上に電磁バルブを介装し、この電磁バルブの開閉や開度を制御装置210で制御して、ブロー空気の供給量を調節してもよい。
【0056】
揮発性有機物センサー209(揮発性有機物検知器)としては、空気中の低濃度の揮発性有機物を検出できるものであれば限定されず、触媒酸化−非分散形赤外線分析法(NDIR)、水素炎イオン化形分析法(FID)、光イオン化検出法(PID)等を利用した装置を用いることができる。
【0057】
揮発性有機物センサー209として、上記したもの以外にも、サンプルラインから採取したブロー空気中の揮発性有機物をスクラビングや溶解膜等の手段で純水に溶解させて揮発性有機物溶解水とし、この揮発性有機物溶解水のTOC濃度を測定して揮発性有機物濃度に換算するように構成した装置を用いてよい。この方法によれば、サンプルラインを介して揮発性有機物濃度をオンライン測定することができるだけでなく、応答性のよいTOC計を用いることで測定時間を短縮し、その結果、測定頻度を上げることができる。
【0058】
純水製造システム1では、揮発性有機物センサー209の検出値に基づいて、被処理水の供給流量に対するブロー空気の供給流量を調節する。
【0059】
ここで、脱炭酸装置23では、被処理水の供給流量に対するブロー空気の供給流量が多いほど被処理水から脱気される炭酸ガスの量も多くなることが知られている。一方で、ブロー空気中に揮発性有機物が混入した場合には、ブロー空気の供給流量が多ければ、揮発性有機物が脱炭酸処理水に混入する量も多くなり、末端水質への影響も大きくなる。このとき、ブロー空気の供給流量を少なくすると、脱炭酸能は落ちるが、脱炭酸処理水と接触する揮発性有機物量が少なくなり揮発性有機物が脱炭酸処理水へ移行しにくくなる。したがって、本実施形態では、ブロー空気中の揮発性有機物の濃度が0.01〜0.5mg/m
3の範囲の所定の値を超えたときに、被処理水の供給流量L(m
3/h)に対するブロー空気の供給流量G(Nm
3/h)の比(G/L、以下同じ。)を好ましくは0〜10(通常時の供給流量の約50%以下)、特に好ましくは0〜5(通常時の供給流量の約25%以下)とすることで、ブロー空気中の揮発性有機物の脱炭酸処理水への混入を防止することができる。
【0060】
そして、ブロー空気中の揮発性有機物の濃度がピーク値から減少して前記した所定の値以下となったときに、ブロー空気の供給流量を通常時の量(G/L=15〜25)とする。
この所定の値が0.01mg/m
3未満であると、脱炭酸処理水質の悪化の影響が大きくなり強塩基性陰イオン交換装置24の再生頻度が多くなりすぎ、0.5mg/m
3を超えると、混入した揮発性有機物による末端水質の悪化につながり、それぞれ安定した水質の純水を得難くなる。
【0061】
ブロー空気の供給流量は、揮発性有機物センサー209の出力を制御装置210に入力し、ブローポンプ206の回転数や電磁バルブ207の開閉若しくは開度を制御することで、調節することができる。
例えば、
図2では、揮発性有機物センサー209の出力を制御装置210に入力し、電磁バルブの開閉を制御して、ブロー空気の一部を、分枝管208を介して排出することで、ブロー空気の供給流量を調節するようになっている。
【0062】
さらに、本実施形態に用いられる純水製造システムにおいて、脱炭酸装置23の後段には、強塩基性陰イオン交換樹脂が充填された強塩基性陰イオン交換装置24を備えており、脱炭酸処理水を強塩基性陰イオン交換装置24に通水して陰イオン交換処理水を得ることができるようになっている。強塩基性陰イオン交換樹脂としては、交換容量が好ましくは0.8〜1.4meq/mL、より好ましくは1.0〜1.3meq/mLのものなどを用いることができる。また、イオン交換樹脂の加水分解が少なく有機系陽イオン成分の超純水への溶出が少ないため、官能基として第4級アンモニウム基を有するスチレン系樹脂などが好ましく用いられる。
【0063】
なお、本実施形態において、強塩基性陰イオン交換装置24に代えて、交換容量が0.8〜1.4meq/mL、より好ましくは1.0〜1.3meq/mLの弱塩基性陰イオン交換樹脂を備えた弱塩基性陰イオン交換装置や、上記した弱塩基性陰イオン交換樹脂と強塩基性陰イオン交換樹脂を上下2段に配置した複床式イオン交換装置等を用いてもよい。
【0064】
このような強塩基性陰イオン交換装置24等は、通常時には、原水中の陰イオン成分の濃度に応じてあらかじめ再生サイクルが決定され、決定された再生サイクルで再生処理を行うことが一般的である。
【0065】
本実施形態において、ブロー空気中の揮発性有機物量が多くなったときには、上記したように被処理水流量に対するブロー空気の供給流量を調節するので、その間だけ脱炭酸処理水中の炭酸ガス濃度が上昇する。この炭酸ガス濃度は、原水水質にもよるが、例えば12.0mgC/L以上となることがある。そのため、強塩基性陰イオン交換装置24への負荷が通常時よりやや大きくなって、強塩基性陰イオン交換樹脂の破過が通常より早期に起こると考えられる。
【0066】
そのため、本実施形態では、強塩基性陰イオン交換樹脂の破過に起因する処理水質の悪化を抑制するために、ブロー空気中の揮発性有機物の濃度が0.01〜0.5mg/m
3の範囲の所定の値を超えたときには強塩基性陰イオン交換装置24の再生サイクルは通常時より短縮することが好ましい。
【0067】
また、強塩基性陰イオン交換装置24の出口水(陰イオン交換処理水)の比抵抗を測定して、比抵抗値で評価される水質が悪化したときに停止してその再生処理を行うことができる。
【0068】
強塩基性陰イオン交換装置24は、陰イオン交換処理水の比抵抗値で好ましくは5.0MΩ・cmより水質が悪化したとき、より好ましくは、1.0〜5.0MΩ・cmに水質が悪化したとき、さらに好ましくは、3.0〜5.0MΩ・cmに水質が悪化したときに停止することができる。比抵抗値で1.0MΩ・cm未満の水質で強塩基性陰イオン交換装置24を停止した場合には、強塩基性陰イオン交換樹脂の破過によって陰イオン交換処理水の水質が悪化するおそれがあるが、1.0MΩ・cm以上で停止することで、陰イオン交換処理水質の悪化を抑制することができる。
【0069】
なお、強塩基性陰イオン交換装置24を複数台並列に接続し、揮発性有機物センサーの検出値が所定の値を超えたときに、この並列接続された強塩基性陰イオン交換装置24の複数台のうち少なくとも1台を残して同時に稼働させて、再生処理工程を通常時と同様のサイクルとする方法もある。
【0070】
脱炭酸装置2での被処理水の流量は、処理流量や各水処理装置、配管設備の大きさ等に応じて変更することができ、0.5〜600m
3/hであることが好ましく、0.5〜4.0m
3/hであることがより好ましく、1.0〜2.0m
3/hであることがさらに好ましい。流量が小さすぎると脱炭酸が十分でないためにTOCの低減が十分に行えず、一方、流量が大きすぎると、脱炭酸装置23内での被処理水中の炭酸ガス濃度の不均一化が起こり、それぞれ処理水中のTOCの低減が十分に行えないおそれがある。
【0071】
このとき、強塩基性陰イオン交換装置24での通水時の空間速度SVは、5〜60h
−1であることが好ましく、10〜40h
−1であることがより好ましい。これにより、ブロー空気の供給流量を調節した際にも、脱炭酸処理水中の陰イオン成分をほとんど除去することができる。
【0072】
本実施形態に用いられる純水製造システムは、強塩基性陰イオン交換装置24の後段に、逆浸透膜装置25を備えており、陰イオン交換処理水を逆浸透膜装置25に通水することで逆浸透膜処理水を得ることが好ましい。
【0073】
さらに、逆浸透膜装置25の後段に、180〜190nmの波長を含む紫外線を照射する低圧紫外線ランプを備えた紫外線酸化装置26と、混床式イオン交換装置27とをこの順に備え、逆浸透膜処理水をこれらに順に通水して紫外線酸化処理水、イオン交換処理水を順に得ることが好ましい。
【0074】
混床式イオン交換装置27としては、交換容量が好ましくは1.8〜2.5meq/mL、より好ましくは1.9〜2.2meq/mLの強酸性陽イオン交換樹脂及び交換容量が好ましくは0.8〜1.4meq/mL、より好ましくは1.0〜1.3meq/mLの強塩基性陰イオン交換樹脂を混合して充填した混床式イオン交換装置が好適に用いられる。
【0075】
混床式イオン交換装置27における強酸性陽イオン交換樹脂と強塩基性陰イオン交換樹脂の混合比は、強酸性陽イオン交換樹脂と強塩基性陰イオン交換樹脂の交換容量で示される比でおおむね1:1となるようにすることが好ましい。
【0076】
さらに、本実施形態では、ブロー空気中の揮発性有機物の濃度が0.01〜0.5mg/m
3の範囲の所定の値を超えたときには、混床式イオン交換装置27の再生サイクルを通常時より短縮することが好ましい。
【0077】
また、混床式イオン交換装置27の出水口近傍に比抵抗計(比抵抗測定器)を配置して、比抵抗値で評価されるイオン交換処理水の水質が悪化したときに停止してその再生処理を行うことが好ましい。
【0078】
混床式イオン交換装置27は、比抵抗で好ましくは17.0MΩ・cm未満より水質が悪化したとき、より好ましくは17.5MΩ・cm未満より水質が悪化したときに停止してその再生処理を行うことができる。比抵抗値で17.0MΩ・cm未満の水質で混床式イオン交換装置27を停止した場合には、混床式イオン交換樹脂の破過によってイオン交換処理水の水質が悪化するおそれがあるが、17.0MΩ・cm以上で停止することで、イオン交換処理水質の悪化を抑制することができる。
【0079】
また、強塩基性陰イオン交換装置24と同様、複数台の混床式イオン交換装置27を並列に接続して、ブロー空気中の揮発性有機物の濃度が所定の値を超えたときには少なくとも1台を停止して、それ以外の複数台を同時に稼働させてもよい。
【0080】
これにより、脱炭酸装置2でのブロー空気の供給流量を調節したことで一時的に脱炭酸処理水の水質が悪化しても、得られる純水の水質を高水質で安定に維持することができる。
【0081】
揮発性有機物は、逆浸透膜装置25での除去率が低いが、本実施形態では、揮発性有機物の混入を脱炭酸装置23において防止しているので、紫外線酸化装置26での紫外線照射量を必要最低限とすることができる。すなわち、揮発性有機物の混入を加味して紫外線の照射量を決定した場合と比べて、紫外線照量(kW・h/m
3)でおおよそ10〜70%削減できるから、紫外線の過剰照射による過酸化水素の発生を抑制することができ、その結果、高水質の純水を安定に製造することができる。さらに、紫外線酸化装置は純水装置システムの中でも高価な水処理装置の1つであるが、紫外線照射量を削減することで、この紫外線酸化装置の設置台数を削減できるため、純水製造コストを削減することができる。
【0082】
また、一次純水システムの逆浸透膜装置25を、逆浸透膜装置を2段とした2段逆浸透膜装置とすれば、有機物の除去率を向上させて二次純水システム30の負荷を軽減することもできる。
【0083】
また、逆浸透膜装置25に供給される被処理水を、例えば、水酸化ナトリウムを添加して、pHを7以上のアルカリ性とすることもできる。この場合、逆浸透膜装置25でのホウ素、シリカ等の除去率を向上させてより高水質の純水を製造することができる。逆浸透膜装置25に供給される被処理水のpHは、9.0以上とすることが好ましく、10以上とすることがより好ましい。
【0084】
また、本実施形態の変形例として、塩基性陰イオン交換装置24を設置せずに一次純水システムを構成して純水を製造することもできる。この場合には、脱炭酸装置23のブロー空気量を調整した間の脱炭酸処理水中の炭酸ガス濃度が第1の実施形態と比べて大きくなるため、混床式イオン交換装置27の再生サイクルを通常時に比べてより短くすることが好ましい。さらに、この変形例の場合には、高水質の純水を製造するために、逆浸透膜装置25に供給される被処理水を上述したようにアルカリ性とすることが好ましい。
【0085】
本実施形態に用いられる純水製造システムにおいて、二次純水システムは、一次純水をさらに高純度とするためのシステムであり、紫外線酸化装置31と非再生式の混床式イオン交換装置(ポリッシャー)32とをこの順に備えることが好ましい。この場合、一次純水中に微量残存する有機物を分解、吸着除去して高純度の純水を製造することができる。
【0086】
このように、二次純水システムにおいても紫外線酸化装置31及び混床式イオン交換装置32にこの順に通水することで、一次純水中に微量残存する有機物をも効率的に分解し、高水質の純水を製造することができる。
【0087】
さらに、紫外線酸化装置31として、180〜190nmの波長を含む紫外線を照射する低圧紫外線ランプを備えた紫外線酸化装置を用いれば、有機物をより効率的に分解することができる。
【0088】
このように、本実施形態では、脱炭酸装置2において、難分解性の揮発性有機物の脱炭酸処理水への混入が抑制されるから、二次純水システム30の負荷を低減することができる。例えば紫外線酸化装置31での分解効率を向上させることができるし、ポリッシャー32の寿命を延長することもできる。また、難分解性の揮発性有機物の脱炭酸処理水への混入が抑制されるので、例えば、TOC濃度が1.0μgC/L以下の高水質の純水を安定に製造することができる。
【0089】
また、本実施形態によれば、逆浸透膜装置や紫外線酸化装置で十分に除去することができない難分解性の揮発性有機物の脱炭酸処理水への混入を防ぐことができる。そのため、難分解性の揮発性有機物に起因する処理水のTOC濃度の上昇を防止することができる。
【0090】
さらに、既存の純水製造システムの装置構成をほとんど変更することがなく、運転管理も簡便であるため、効率よく高純度の純水を製造することが可能である。
【0091】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態は、第1の実施形態において、純水製造システム1の混床式イオン交換装置27の出口水のTOC濃度をモニターして、このTOC濃度に基づいて一次純水を系外に排出する、又は前処理タンクT1に循環させるものである。その他については第1の実施形態と同様であるため詳細な説明を省略する。
【0092】
ところで、TOC濃度を測定する一般的なTOC計は、第1の実施形態で用いられる揮発性有機物検知器に比べて例えば短時間で測定できるなど、応答性のよいことが知られている。
本実施形態は、比較的簡易な揮発性有機物検知器を用いた場合であっても、揮発性有機物の混入を防止しつつ脱炭酸処理することができる。
【0093】
例えば、測定時間が30分の揮発性有機物検出器を用い、第1の実施形態と同様に揮発性有機物検出器の検出値に基づいてブロー空気の供給流量を調節する場合には、揮発性有機物の検出にかかる30分間は、揮発性有機物の混入した脱炭酸処理水が下流に送られるおそれが残る。ここで、混床式イオン交換装置27の処理水の水質を、例えば測定時間が10分のTOC計で測定して所定の水質以下の脱炭酸処理水が二次純水システムへ流入しないようにすることで、末端における水質をより安定に高水質で維持することができる。
【0094】
第1の実施形態では、
図5に示されるように混床式イオン交換装置27の出口水は、揮発性有機物の混入のない通常時の状態で、TOC濃度が2.0μgC/L付近で定常状態(通常時約60分平均)となっている。
【0095】
本実施形態では、好ましくはTOC濃度が定常状態から+0.1〜+1.2μgC/Lの範囲、より好ましくは+0.1〜+0.5μgC/Lを超える範囲に第1の閾値を決定し、混床式イオン交換装置27の出口水中のTOC濃度が第1の閾値を超えた時に、一次純水を系外に排出し、又は前処理タンクT1に循環させる。
【0096】
第1の閾値を小さくすれば純水製造システムの末端付近におけるTOC濃度を低濃度で安定に維持できるが、小さすぎると排出又は循環される一次純水の量が多くなりコスト増を招くおそれがある。また第1の閾値が大きすぎると得られる純水水質が悪化するおそれがある。
【0097】
第1の閾値は、測定されるTOC濃度が定常状態+0.5μgC/Lとすることが特に好ましい。
【0098】
このとき、第1の実施形態と同様、TOC計の出力を制御装置に入力することで、循環ライン102やリターンライン103に介設された三方弁を切り替えて、一次純水の流路を切り替えることができる。
【0099】
なお、TOC濃度の測定場所は特に限定されず、純水製造システム1のタンクT2の直後からタンクT3の直前までの任意の場所であってよい。TOC濃度の測定場所は、TOC濃度の変化をモニターし易いため、逆浸透膜装置25の直後又は混床式イオン交換装置27の直後であることが特に好ましい。
【0100】
また、TOC濃度測定器は特に限定されず、例えば応答性に優れる導電率式のTOC計が好ましく使用される。
【0101】
このように、本実施形態では、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。すなわち、既存の装置構成をほとんど変えることなく難分解性の揮発性有機物の脱炭酸処理水への混入を防止することができるので、例えば、TOC濃度が1.0μgC/L以下の高水質の純水を安定に製造することができる。
【実施例】
【0102】
(実施例1)
実験1で用いた装置において、脱炭酸装置23を
図2に示される脱炭酸装置2とし、VOC計211の検出値が0.5mg/m
3を超えたときに脱炭酸塔201へのブロー空気の送入を停止し(G/L=0)、検出値がピーク値から減少して0.5mg/m
3以下となったときに通常時と同じ32m
3/h(G/L=20)で送入した以外は実験1と同じ装置、同じ条件で純水を製造した。
【0103】
実施例1では、純水製造システム1から供給される純水の比抵抗が18.2MΩ・cm以上、TOC濃度が1.0μgC/L以下の基準値で安定している状態で、実験1と同様にキシレンをプラスチック板に流下して放置した。
【0104】
キシレン流下開始からの経過時間と、VOC計211で測定されるブロー空気中の初期VOC濃度との関係を
図4に、脱炭酸装置23、混床式イオン交換装置27、ポリッシャー32の出口水のTOC濃度との関係を
図5に示す。
図5において、破線は脱炭酸装置23、細線は混床式イオン交換装置27、太線はポリッシャー32の出水中のTOC濃度を示している。後述する
図6、
図9も同様である。
【0105】
また、ブロー空気を停止していた間の脱炭酸装置23の出口水中の炭酸ガス濃度は、最大で12.1mgC/Lとなった。
【0106】
図4、5に示されるように、実施例1ではブロー空気中に2.7mg/m
3以下で揮発性有機物が混入しているが、混床式イオン交換装置27、ポリッシャー32の各出口水のTOC濃度がそれぞれ安定に推移している。特に、ポリッシャー32の出口水のTOC濃度は安定して1.0μgC/L以下を維持している。
【0107】
(実施例2)
実施例1において、VOC計211の検出値が0.5mg/m
3を超えたときに脱炭酸塔201へのブロー空気の供給流量が8.0m
3/h(G/L=5)となるように、ブロー空気の一部を、排出管208を介して系外に排出した以外は実施例1と同じ装置、同じ条件で純水を製造した。
【0108】
キシレンの流下開始からのVOC計211で測定される初期VOC濃度の変化は
図4とほぼ同様であり、初期VOC濃度のピーク値は2.5mg/m
3であった。
【0109】
キシレン流下開始からの経過時間と、脱炭酸装置23、混床式イオン交換装置27、ポリッシャー32の出口水のTOC濃度との関係を
図6に示す。
また、ブロー空気供給流量を上記した値とした間の脱炭酸装置23の出口水中の炭酸ガス濃度は、最大で3.1mgC/Lとなった。
【0110】
実施例2ではブロー空気中に2.5mg/m
3以下で揮発性有機物が混入したが、
図6に示されるように、混床式イオン交換装置27、ポリッシャー32の各出口水のTOC濃度がそれぞれ安定に推移している。特に、ポリッシャー32の出口水のTOC濃度は安定して1.0μgC/L以下を維持している。
【0111】
(例3−1〜3−10)
実施例1において、混床式イオン交換装置27の出口水のTOC濃度を測定して、このTOC濃度の上昇値があらかじめ決定した閾値を超えたときに混床式イオン交換装置27の直後に分枝して設けたブローライン(図示せず)から一次純水を系外に排出するようにした。その他は実施例1と同じ装置、同じ条件で純水を製造し、キシレンの流下開始から250分間のポリッシャー32の出口水のTOC濃度をモニターした。
【0112】
キシレンの流下開始からのVOC計211で測定される初期VOC濃度の変化はそれぞれ
図4とほぼ同様であり、初期VOC濃度のピーク値は2.3〜2.7mg/m
3の値であった。
また、ブロー空気を停止していた間の脱炭酸装置23の出口水中の炭酸ガス濃度は、いずれも最大で12.0mgC/Lとなった。
【0113】
閾値は表1のように混床式イオン交換装置27の出口水TOC濃度の定常状態(約60分平均)から0.1〜1.4μgC/Lを超えた値の間で変更した。それぞれの場合のポリッシャー32の出口水のTOC濃度を表1に示す。
【0114】
なお、表1において例(3−1)〜(3−9)は実施例であり、例(3−10)は比較例である。
【0115】
【表1】
【0116】
表1において、閾値を混床式イオン交換装置27の出口水TOC濃度の定常状態から+0.5μgC/L(Δ0.5μgC/L)以下として一次純水を系外に排出した例(3−1)〜(3−5)では、ポリッシャー32の出口水のTOC濃度は0.43μgC/L以下を維持している。これは、揮発性有機物の混入がない場合に実施形態の純水製造システム1で製造される純水と同等の水質が安定して得られていることを示す。一方、閾値を1.4μgC/L以上とした例(3−10)では、ポリッシャーの出口水が、一般的に要求される水質であるTOC濃度1.0μgC/Lを超えてしまう場合があることが分かる。
【0117】
(例4−1〜4−10)
実施例1において、VOC計211の検出が、表2に示されるそれぞれの値を超えたときに、ブロー空気を停止し(G/L=0)、検出値がピーク値から減少してそれぞれの値以下となったときに通常時と同じ32m
3/h(G/L=20)で送入した以外は実験1と同じ装置、同じ条件で純水を製造した。
【0118】
キシレン流下開始からのVOC計211で測定される初期VOC濃度の変化はそれぞれ
図4とほぼ同様であり、初期VOC濃度のピーク値は2.3〜2.7mg/m
3の値であった。
このときの、ポリッシャー32出口水のTOC濃度の最大値を表2に示す。
なお、例(4−1)〜(4−9)は実施例であり、例(4−10)は比較例である。
【0119】
【表2】
【0120】
また、ブロー空気を停止していた間の脱炭酸処理水中の炭酸ガス濃度は、いずれも最大で12.1mgC/Lとなった。
【0121】
表2に示されるように、例(4−1)〜(4−5)では、ポリッシャー32の処理水のTOC濃度は0.43μgC/L以下を維持している。これは、揮発性有機物の混入がない場合に実施形態の純水製造システム1で製造される純水と同等の水質が安定して得られていることを示す。例(4−10)では、ポリッシャーの出口水が、一般的に要求される水質であるTOC濃度1.0μgC/Lを超えてしまう場合があることが分かる。
【0122】
(比較例1)
実施例1において、VOC計211の検出値が0.5mg/m
3を超えたときにブロー空気の供給流量が20.8m
3/L(G/L=13)となるように、ブロー空気の一部を、排出管208を介して排出した以外は実施例1と同じ装置、同じ条件で純水を製造した。
【0123】
キシレンの流下開始からのVOC計211で測定される初期VOC濃度の変化は
図4とほぼ同様であり、初期VOC濃度のピーク値は2.3mg/m
3であった。
【0124】
キシレン流下開始からの経過時間と、脱炭酸装置23、混床式イオン交換装置27、ポリッシャー32の出口水のTOC濃度との関係を
図9に示す。
また、ブロー空気供給流量を上記した量とした間の脱炭酸装置23の出口水中の炭酸ガス濃度は、最大で2.8mgC/Lとなった。
【0125】
図9より、比較例1では実験1と同様、混床式イオン交換装置27、ポリッシャー3出口水のTOC濃度が一時的に上昇し、ポリッシャー32の各出口水では1.0μgC/Lを超えてしまう場合があることが分かる。
【0126】
また、実施例1、例3、例4、比較例1、実験1におけるG/Lの値と脱炭酸装置出口水中の炭酸ガス濃度を表3に示す。
【0127】
【表3】
表3より、ブロー空気の供給流量を調節した場合には、脱炭酸装置23の出口水中の炭酸ガス濃度は通常時より若干上昇する。そのため、強塩基性陰イオン交換装置24への負荷が高くなるが、表3に示されるように炭酸ガス濃度が上昇した場合であっても、強塩基性陰イオン交換装置24の再生サイクルを通常時に比べて短くすることで、末端での純水のTOC濃度を1.0μgC/L以下で安定に維持することができる。
【0128】
以上より、実施形態の純水製造システムによれば、既存の装置構成をほとんど変えることなく、予期せぬ揮発性有機物の混入を防止できることが分かる。そのため、難分解性の揮発性有機物に起因する処理水のTOC濃度の上昇を防止することができる。