【実施例】
【0034】
(バルク体試験1)
先ず、バルク体からなる歪・応力センサについて、Cr添加量に応じた性能を評価した。歪・応力センサ用の試料としては、Sr
1-XAl
2O
4においてX=0.02として、Cr添加割合を0.1、0.5、1.0、5.0at%とした4種類を合成した。
【0035】
Cr添加Sr
1-XAl
2O
4の合成プロセスを示す。出発原料としてSrCO
3(99.9%、高純度化学製)と、α−Al
2O
3(99.99%>、高純度化学製)と、Cr
2O
3(99.9%>、高純度化学製)との各粉体を、それぞれの化学量論組成に合致するよう秤量し、エタノールを分散媒体としてZrO
2ボールとともにPET容器にて1時間混合した。混合後のスラリーに対して、130℃雰囲気中にてエタノールを飛散させて混合粉を抽出し、乳鉢にて粉砕しつつメッシュサイズ250μmのふるいにて整粒した。その後、直径30mmφ×厚み5mmtの形状に350kgf/mm
2の圧力にて一軸プレス成形した。この成形体を昇温速度200℃/hにて900℃まで加熱して1時間保持させて仮焼し、炉冷速度にて降温させた。仮焼後の焼結体を再度乳鉢にて粉砕しメッシュサイズ250μmのふるいにて整粒してから、エタノールを分散媒体としてZrO
2ボールおよびZrO
2ポットミルにて24時間粉砕処理した。この粉砕後のスラリーを同じく130℃雰囲気中にてエタノールを飛散させて混合粉を抽出し、乳鉢にて粉砕しつつメッシュサイズ250μmのふるいにて整粒した。その後、直径20mmφ×厚み2mmtに500kgf/mm
2の圧力にて一軸プレス成形した。この成形体の焼成(本焼)は、昇温速度を200℃/hとして1400℃まで加熱し、その温度を12時間保持してから、炉冷速度にて降温させるプロセスとした。焼成雰囲気はAr不活性雰囲気中とした。最後に、得られた焼結体を厚み0.5mmtの薄片状に加工して、酸化物系セラミックスを焼結したバルク体からなる歪・応力センサとした。これらの歪・応力センサを、模擬構造物としてのステンレス板(長さ150mmL×幅25mmW×厚み2mmt)に接着した。
【0036】
得られた各歪・応力センサについて、蛍光特性評価システム(堀場製作所製、Fluorolog)によりPL発光スペクトルを観測した。励起光を250〜620nmの波長範囲として変化させ、それぞれの励起光にて得られるPL発光を650〜850nmの波長範囲にて観測した。代表的なPL発光スペクトルとして、1.0at%のCrを添加したSr
0.98Al
2O
4の発光スペクトルを
図2に示す。これらの結果より、励起波長350nm、発光波長770nmにおける発光強度を
図3にグラフ化して示した。この
図3の結果から、1.0at%Cr添加Sr
1-XAl
2O
4における発光強度が最も高かった。
【0037】
(バルク体試験2)
次に、Cr添加割合を1.0at%に固定し、Cr添加Sr
1-XAl
2O
4におけるSr欠損量(Xの値)を、X=0.02、0.05、0.2としてバルク体試験1と同様に合成した3種類の歪・応力センサについて、それぞれPL発光スペクトルを観測した。それらの発光強度を比較するために、励起波長350nm、発光波長770nmにおける発光強度を
図4にグラフ化して示した。この
図4の結果から、X=0.05としたCr添加Sr
1-XAl
2O
4において最も発光強度が強かった。
【0038】
さらに、このSr欠損量を変えたCr添加Sr
1-XAl
2O
4それぞれについて引張変形を与えるために、油圧式材料強度試験装置(MTS製、858)の上下動する油圧シリンダーに引張用のグリップアタッチメントを取り付け、その間に各試験片をセットして、
図5に示すように引張変形を与えた。なお、符号1は模擬構造物としてのステンレス板、符号10は歪・応力センサ、符号100は試験片である。この油圧シリンダーの上下動を0.01mmステップで稼動させ、各試験片に定量的な引張歪を与えることができる。
【0039】
発光波長を計測する分光器には、CCDリニアイメージセンサにより200〜950nmの波長を一度に分光検出可能な分光器(浜松ホトニクス製、C10027−1)を採用した。各試験片に照射する励起光源としては、365nmに発光波長をもつUV−LED光源(浜松ホトニクス製、L9610)を使用した。
【0040】
また、比較例1として、1.0at%Eu添加SrAl
2O
4からなる酸化物系セラミックスからなる歪・応力センサについても、同様に試験した。このEu添加Sr
1-XAl
2O
4の合成プロセスでは、出発原料としてSrCO
3(99.9%、高純度化学製)と、α−Al
2O
3(99.99%>、高純度化学製)と、Eu
2O
3(99.95%>、関東化学製)との各粉体を、それぞれの化学量論組成に合致するよう秤量し、その後はCr添加Sr
1-XAl
2O
4と同様のプロセスによって製造した。ただし、Eu添加SrAl
2O
4成形体の焼成(本焼)は、昇温速度を200℃/hとして1300℃までの加熱とし、焼成雰囲気は4%H
2+Ar還元雰囲気中とした。
【0041】
これにより得られた引張歪に応じたPL発光スペクトルの波長をエネルギーに変換してガウス分布を仮定したフィッティングを行い、ガウス分布の中心波長としてピーク位置の波長を同定した。そのピーク波長のシフト量(縦軸)と引張歪の大きさ(横軸)との関係をまとめた結果を
図6に示す。
【0042】
図6の結果の傾きから、Sr欠損量x=0.02における単位歪(1%歪)あたりの波長変化(歪感度)は9.07nm/%(18.8meV/%)、x=0.05では7.89nm/%(16.4meV/%)、x=0.20では2.85nm/%(6.0meV/%)、比較例1としてのEu添加Sr
1-XAl
2O
4では−2.29nm/%(−10.6meV/%)と見積もることができ、Cr添加Sr
1-XAl
2O
4は比較例1よりも高い歪感度を有していることが確認された。この引張歪の増加に伴うPL発光スペクトルの変化にはヒステリシスのような履歴もなく、このPL発光スペクトルの時間変化を連続計測することで動的な歪に対する応答性を評価することも可能である。
【0043】
(薄膜試験)
次に、構造物へ成膜により設置した形態の歪・応力センサについても評価した。ここでの組成としては、上記バルク体試験2の結果を参考に、1.0at%Cr添加Sr
0.95Al
2O
4とした。一方、比較例2として、上記比較例1と同様に1.0at%Eu添加SrAl
2O
4とした。
【0044】
成膜の方法として、バルク体試験2におけるバルク体を粉砕した粉末をガラスフリットと混合し、その混合粉を構造物表面へ塗布して焼き付けるプロセスとした。まず、Cr添加Sr
0.95Al
2O
4もしくはEu添加SrAl
2O
4の焼結体を粉砕した粉体を用意し、ガラスフリット(日本フリット(株)製JYM0005M:推奨焼成温度650〜900℃)に対して重量比で7:3の割合で混合した。さらに、この混合粉をビヒクル(テルピネオールに対してPVB 7wt%添加)中に分散させて、自動乳鉢で約20分間混練することで印刷用ペーストとし、SUS430(100×20×0.5mm)基材の中央に直径9mmの円としてスクリーン印刷した。ビヒクルの割合はガラスフリットに対して200wt%(2倍)とした。その印刷膜を120℃にて乾燥した。Cr添加Sr
0.95Al
2O
4の印刷膜については雰囲気をAr中として、比較例2としてのEu添加SrAl
2O
4の印刷膜については雰囲気をAr+4%H
2中として、それぞれ900℃(昇温350℃/h、降温は炉冷)にて2時間焼き付けた。
【0045】
得られたCr添加Sr
0.95Al
2O
4印刷膜及び比較例2の歪・応力センサに、バルク体試験2と同様に引張変形を与え、バルク体試験2と同様にして求めたピーク波長のシフト量(縦軸)と引張歪の大きさ(横軸)との関係をまとめた結果を
図7に示す。
図7の結果の傾きから、Cr添加Sr
0.95Al
2O
4印刷膜における単位歪(1%歪)あたりの波長変化(歪感度)は2.11nm/%(4.4meV/%)、比較例2は−0.82nm/%(−3.8meV/%)と見積もることができ、Cr添加Sr
0.95Al
2O
4印刷膜は比較例2よりも高い歪感度を有していることが確認された。