【実施例】
【0014】
実施例に係る吸気ダクトは、吸い込み側の開口および吐き出し側の開口が横を向くと共に空気流通路が横引きとなる姿勢で車両に設置されるものである。
図1〜
図3に示すように、吸気ダクト10は、空気流通路12aを画成する筒状のダクト本体12が、該空気流通路12aの空気流通方向に沿う端縁を互いに組み付けた複数の分割体14で構成される。ここで、実施例のダクト本体12は、上向きに開放した樋状に形成された下側の下部分割体14Aと、下向きに開放した樋状に形成された上側の上部分割体14Bとの上下2つで構成される。そして、下部分割体14Aおよび上部分割体14Bは、下部分割体14Aの両上端縁に設けられた溝部15に、上部分割体14Bの両下端縁に下方へ突出する突片16を嵌め合わせて、互いに組み付けられる。なお、分割体14は、ポリプロピレン(PP)または高密度ポリエチレン(HDPE)などの合成樹脂を材質とし、インジェクション成形等によって得られる成形品である。
【0015】
各分割体14は、吸気ダクト10での吸気騒音を低減するための吸音構造を備えている。
図2〜
図4に示すように、実施例の吸音構造は、空気流通路12aを画成する壁部(通路部という)18に形成された開口部20を覆う吸音部材30と、吸音部材30の外側を覆うように通路部18と一体形成された保護部24と、この保護部24を内側に凹ませて該保護部24と一体形成され、開口部20を覆う吸音部材30を外側から支持する取付部25とから基本的に構成される。ここで、吸音部材30は、分割体14の内側(空気流通路12a側)から該吸音部材30を挟んで取付部25に取り付けられた保持部材40によって保持される。分割体14は、他の分割体14に組み付けられてダクト本体12を構成した際に、吸気ダクト10に必要とされる空気流通路12aの空気流通断面を満たすように通路部18が形成される。また、吸気ダクト10には、下部分割体14Aにおける上方に開放した凹形状に形成された通路部18の底部分に、開口部20が設けられると共に、上部分割体14Bにおける下方に開放した凹形状に形成された通路部18の天井部分に、開口部20が設けられて、2つの開口部20,20が空気流通路12aを挟んで上下に対向している。なお、実施例の開口部20は、空気流通路12aの空気流通方向に長手が延在する略矩形状に形成される。このように、実施例の吸気ダクト10には、2つの前記吸音構造が上下に対向して設けられる。ここで、下部分割体14Aと上部分割体14Bとでは、吸音構造の基本的な構成が同じであるので、下部分割体14Aの吸音構造を例に挙げて以下に説明し、上部分割体14Bの吸音構造については必要部分のみを説明する。
【0016】
前記分割体14には、通路部18から空気流通方向と交差する方向外側(下部分割体14Aでは下方、上部分割体14Bでは上方)へ膨らむように該通路部18と一体形成された保護部24が設けられ、開口部20に合わせて空気流通路12a側に開放する凹形状に形成された保護部24によって、開口部20の外側に空間が画成される(
図2および
図3参照)。ここで、保護部24は、共鳴型消音器のように共鳴室としての空間を画成するものではなく、空気流通路12aを流通する空気の圧力変動に伴って吸音部材30が変形した際に該吸音部材30に接触しない程度に間隔をあけて、開口部20に架設された吸音部材30の外側を覆うように形成される。なお、保護部24において開口部20に架設された吸音部材30に対向する対向面は、該吸音部材30から10mm以上離すのが望ましいが、前記共鳴室の如く容積を確保する必要はないので吸気ダクト10の周辺に設置される部材などに応じて適宜形状にすることができる。また、分割体14には、開口部20を囲むように第1係合部22が形成されている(
図2〜
図4参照)。第1係合部22は、空気流通路12a側(下部分割体14Aでは上方、上部分割体14Bでは下方)に突出するよう形成された突条片であり、開口部20の全周を囲む環状に延在している(
図5(b)参照)。
【0017】
図6および
図8に示すように、保護部24には、保持部材40を取り付けるための取付部25が、開口部20の開口内側に臨むように設けられている。ここで、保護部24には、空気流通方向に並ぶ複数(実施例では8箇所)の取付部25が、空気流通方向と交差する左右方向に2列設けられる。そして、各列の取付部25が、開口部20における空気流通方向に沿う内縁の夫々に近接した位置に並べて配置され、実施例では開口部20における開口内側の角隅部に配置されるものがある(
図5(b)および
図7(b)参照)。また、保護部24には、開口部20の開口内側略中央部に臨むように、1つの取付部25が設けられる。なお、両列の取付部25は、空気流通方向と交差する左右方向に対向配置され、中央部の取付部25は、左右の取付部25に対して空気流通方向にずらした位置に配置される。
【0018】
空気流通方向と交差する左右方向に設けられる取付部25は、保護部24において開口部20に相対する壁(天井壁または底壁)を空気流通路12a側に突出させるのに合わせて、該保護部24において空気流通路12aと交差する方向に延在する壁(側壁)を開口部20の開口内側に凹ませて段状に形成される。また、開口部20の中央部に臨むように設けられる取付部25は、保護部24において開口部20に相対する壁(天井壁または底壁)を空気流通路12a側に突出させるのに合わせて当該壁を凹ませて段状に形成される。すなわち、取付部25は、保護部24を構成する壁を、内側に突出させるのに合わせて外側を凹ませて形成された棚部分であり、開口部20に臨む取付端面25aの中央部に内側(下部分割体14Aでは上方、上部分割体14Bでは下方)へ向けて突出形成された棒状の取付片26による係合により保持部材40を保持するようになっている。各取付部25は、取付端面25aを開口部20の開口面に揃うように形成したり(実施例)、取付端面25aを開口部20の開口面より僅かに外側に位置するように形成することができ、例えば取付端面25aを開口面よりも外側に配置することで、保持部材40を取り付ける際に該保持部材40を外側へ引き込み得る隙間を確保することができる。
【0019】
図6および
図8に示すように、保護部24には、前記開口部20を覆う吸音部材30を位置付けるための支持部27が、開口部20の開口内側に臨むように設けられている。下部分割体14Aの保護部24には、空気流通方向に並ぶ複数(実施例では6箇所)の支持部27が、左右の取付部25,25の列の間に位置して、空気流通方向と交差する左右方向に2列設けられる。下部分割体14Aにおいて、両列の支持部27,27は、空気流通方向と交差する左右方向に対向配置されると共に、左右の取付部25,25に対して空気流通方向にずらした位置に配置される(
図5(b)および
図7(b)参照)。上部分割体14Bの保護部24には、空気流通方向に並ぶ複数(実施例では6箇所)の支持部27が、左右の取付部25,25の列の間に位置して1列設けられる。上部分割体14Bにおいて列をなす支持部27は、左右の取付部25,25に対して空気流通方向にずらした位置に配置される。また、両分割体14A,14Bにおいて、複数の支持部27は、中央部の取付部25を空気流通方向に挟んで均等な数で振り分け配置されている。
【0020】
図2および
図3に示すように、各支持部27は、保護部24において開口部20に相対する壁(天井壁または底壁)を空気流通路12a側に突出させるのに合わせて当該壁を凹ませて段状に形成される。すなわち、支持部27は、保護部24を構成する壁を、内側に突出させるのに合わせて外側を凹ませて形成された段状部分であり、実施例では取付部25が保護部24の内側に角柱状に膨らむよう形成されるのに対し、支持部27が保護部24の内側に円柱状に膨らむように形成される。各支持部27は、空気流通路12a側に臨む支持端面27aを開口部20の開口面に揃うように形成したり(実施例)、支持端面27aを開口部20の開口面より僅かに外側に位置させたり、支持端面27aを開口部20の開口面より僅かに内側に位置させることができる。例えば、支持端面27aを開口部20の開口面よりも内側に配置することで、開口部20を覆う吸音部材30を支持端面27aで押して吸音部材30にテンションをかけることができる。また、支持端面27aを開口部20の開口面よりも外側に配置することで、開口部20を覆う吸音部材30の小さな幅での振動を許容するものの、吸音部材30の大きな幅での変形を支持端面27aとの当接により規制することができる。
【0021】
図6および
図8に示すように、保護部24の内側には、取付部25および支持部27よりも低いリブ28が形成される。下部分割体14Aでは、一方の列の支持部27間に空気流通方向に延在するリブ28が設けられる。また、上部分割体14Bでは、支持部27間に空気流通方向に延在するリブ28と、支持部27から保護部24の側面の間に空気流通方向と交差する左右方向に延在するリブ28とが設けられる。そして、分割体14は、通路部18、保護部24、取付部25、支持部27およびリブ28が同時成形されて、継ぎ目なく一体的になっている。
【0022】
前記吸音部材30は、通気性を有する不織布からなるシート状物であり、開口部20および該開口部20を囲う第1係合部22を少なくとも覆い得る大きさに設定されている。また、吸音部材30は、撥水剤や止水剤などの表面処理等により撥水性および止水性を有していてもよいが、保護部24によって外側が覆われる構成であるので、表面処理を省略することもできる。ここで、不織布としては、ポリエステル系繊維やポリプロピレン系繊維などの熱可塑性樹脂繊維からなり、スパンボンド法などによって得られるものを用いることができ、特に限定されないが70g/m
2〜300g/m
2の目付量であるのが好ましい。また、不織布は、所要パターンで型押しすることで、熱可塑性樹脂繊維が溶融して圧着した圧着部分と、圧着されていないまたは該圧着部分よりも圧着度合いが小さい一般部分とを設ける所謂エンボス加工が施されている。実施例の吸音部材30には、線状の圧着部分が互いに交わる格子状に延在するようにエンボス加工が施され、この圧着部分によって引っ張り強度が向上されると共に伸び難くなっている。吸音部材30には、前記取付部25の取付片26が挿通可能な挿通孔30aが、各取付片26に対応して厚み方向に貫通形成されている。挿通孔30aは、後述する第1係合部22と第2係合部48との噛み合いによる吸音部材30の引っ張りを阻害しないように、取付片26の外径より大きく形成される。
【0023】
図5(a)および
図7(a)に示すように、前記保持部材40は、開口部20の外側を囲う第1係合部22よりも一回り大きく形成された部材であり、分割体14と同様に樹脂成形品が用いられている。保持部材40は、開口部20に合わせて略矩形状に形成された外枠42と、この外枠42で画成される開口内側に交差するように延在する複数の内枠44とを有する網目状に形成される。保持部材40には、外枠42の開口内側に前記取付部25に合わせて取付板46が設けられ、この取付板46に内外方向に貫通する取付孔46aが形成される。保持部材40には、各列の取付部25に対応した取付板46が、外枠42における空気流通方向に沿う内縁の夫々に近接した位置に並べて配置され、実施例では外枠42における開口内側の角隅部に配置されるものがある。また、中央部の取付部25に対応した取付板46が、内枠44に支持されて外枠42における開口内側の略中央部に配置される。取付板46は、保持部材40を分割体14に取り付けた際に、取付部25の取付端面25aに重なる位置に配置されると共に、実施例では取付端面25aと略同じ形状(実施例は略矩形状)でかつ略同じ大きさで形成される。保持部材40は、空気流通方向に延在するように対向する外枠42間に架設された内枠44と、空気流通方向と交差する左右方向に延在するように対向する外枠42間に架設された内枠44とを有している。そして、保持部材40は、分割体14に取り付けた際に支持部27の支持端面27aに重なる部位に位置する内枠44の交差部44aを有し、この重複交差部44aが支持端面27aと略同じ形状(実施例は略円形)でかつ略同じ大きさで形成される。なお、保持部材40は、前記重複交差部44a以外に、支持部27の支持端面27aから外れた位置でも縦横の内枠44が交差している。
【0024】
図2〜
図4に示すように、保持部材40の外周縁を構成する外枠42には、第2係合部48が第1係合部22に対応して形成される。第2係合部48は、外側へ向けて開口する凹溝状に形成され、この凹溝が外枠42の全周に亘って連なっている。保持部材40は、開口部20を覆うように配置した吸音部材30を、分割体14の第1係合部22と第2係合部48との間に挟んで、挿通孔30aおよび取付孔46aを介して内側に突出した取付片26の先端を熱により潰す所謂熱カシメによって分割体14に固定される。ここで、保持部材40は、分割体14に取り付けた際に、凹形状の第2係合部48と突形状の第1係合部22とが噛み合って、両係合部22,48間に挟んだ吸音部材30を開口部20の開口面方向外側に向けて引っ張るようになっている(
図9参照)。吸音部材30は、外周縁が両係合部22,48に挟まれて保持されると共に、取付部25の取付端面25aと保持部材40の取付板46との間に挟まれて保持される。また、保持部材40は、分割体14に取り付けた際に内枠44を開口部20の開口面に揃うように形成したり、内枠44を開口部20の開口面より僅かに外側に位置させたり、内枠44を開口部20の開口面より僅かに内側に位置させることができる。例えば、保持部材40は、内枠44を開口部20の開口面よりも外側に配置することで、開口部20を覆う吸音部材30を内枠44で押して吸音部材30にテンションをかけることができる。また、保持部材40は、内枠44を開口部20の開口面よりも外側に配置することで、開口部20を覆う吸音部材30の小さな幅での振動を許容するものの、吸音部材30の大きな幅での変形を内枠44との当接により規制することができる。実施例では、支持部27の支持端面27aおよび内枠44が開口部20の開口面に合わせて形成されて、開口部20を覆う吸音部材30が支持部27の支持端面27aと内枠44の重複交差部44aとの間に挟まれて保持されると共に、支持部27から外れた位置に延在する内枠44が吸音部材30の内面に当接している。
【0025】
[実施例の作用]
前記吸気ダクト10によれば、開口部20を覆う吸音部材30の外側が保護部24で覆われて保護されているので、吸気ダクト10の取り付け時や車両のメンテナンス時などに、吸音部材30を傷付けたり、吸音部材30が開口部20からずれたりする等の問題の発生を防止することができる。また、保護部24によって開口部20および吸音部材30が覆われているので、開口部20および通気性を有する吸音部材30を介して吸気ダクト10の空気流通路12aに対して外から水が入ることを防止できる。吸気ダクト10は、吸音部材30の外側を保護する手段として後付けで取り付けるカバーなどではなく、空気流通路12aを画成する通路部18と一体形成された保護部24を用いている。これにより、保護する手段を取り付けるための構成を必要としないので、吸気ダクト10の構成の複雑化を回避し得ると共に、保護する手段を後付けする手間がかからない。しかも、分割体14の内側に吸音部材30および保持部材40を取り付けた後に、分割体14,14同士を組み合わせる構成であるので、吸音部材30および保持部材40を分割体14を組み付ける前の内側(空気流通路12a側)を開放した状態で簡単に取り付けることができる。すなわち、吸気ダクト10によれば、簡易な構成で、かつ手間なく吸音部材30を適切に保護することができる。また、保持部材40を、開口部20の開口内側に臨むように保護部24に一体形成された取付部25に取り付ける構成であるので、保護部24の内側のスペースを有効利用して吸音部材30または保持部材40の設置に要するスペースを小さくすることができる。
【0026】
前記保持部材40を開口部20との間に吸音部材30を挟んで分割体14に取り付けた際には、吸音部材30の外周縁が凸形状の第1係合部22によって凹形状の第2係合部48に押し込まれることで、吸音部材30が開口部20の開口面外側に向けて引っ張られる。ここで、第1係合部22および第2係合部48は吸音部材30の外周縁を全周に亘って挟持するので、吸音部材30における開口部20を覆う部分全体に四方に向けてテンションが一様にかけられる。このように、両係合部22,48の凹凸による簡単な構成で、吸音部材30を適度に引っ張ることができる。実施例の吸気ダクト10によれば、開口部20を覆う吸音部材30に適度なテンションをかけることで、ダクト本体12の内部圧力変動に応じて吸音部材30を振動させることができる。すなわち、吸音部材30が通気性を有するものでありながら所謂振動膜としても機能するので、該振動膜としての消音効果も得られ、ダクト本体12の吸気騒音をより低減することができる。
【0027】
前記開口部20に開設された吸音部材30が保持部材40の内枠44の重複交差部44aと支持部27の支持端面27aとの間に位置付けてある。すなわち、重複交差部44aと支持端面27aとの間に吸音部材30を挟持すれば、吸音部材30の変形を防止することができ、重複交差部44aまたは支持端面27aで吸音部材30を押すことで吸音部材30にテンションをかけることができ、重複交差部44aおよび支持端面27aから吸音部材30を離せば、吸音部材30の小さな幅での振動を許容するものの、吸音部材30の大きな幅での変形を重複交差部44aまたは支持端面27aとの当接により規制することができる。このように、支持部27によって吸音部材30を外側から位置規制する態様や、保持部材40の内枠44によって吸音部材30を内側から位置規制する態様を変更して、必要とされる吸音特性や配設される吸音部材30の可撓性などに応じて適宜調節可能である。
【0028】
(変更例)
前述した構成に限定されず、以下のように変更することも可能である。
(1)保持部材の取り付けは、熱カシメに限定されず、孔と爪とによる機械的な締結、または接着などその他の手段を用いてもよい。
(2)保護部には、水抜き孔等の小孔を設けてもよい。
(3)実施例では、保持部材で吸音部材を挟んで分割体に保持したが、取付部に吸音部材を接着したり、取付部の取付片を熱カシメすること等により、保持部材を用いず、吸音部材を取付部に直接取り付けてもよい。