(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6029977
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】安定化された活性ハロゲン溶液
(51)【国際特許分類】
A01N 59/08 20060101AFI20161114BHJP
C02F 1/50 20060101ALI20161114BHJP
C02F 1/76 20060101ALI20161114BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20161114BHJP
A01N 25/02 20060101ALI20161114BHJP
A01N 25/22 20060101ALI20161114BHJP
【FI】
A01N59/08 A
C02F1/50 510A
C02F1/50 520K
C02F1/50 531M
C02F1/50 531P
C02F1/50 531K
C02F1/50 532D
C02F1/50 532E
C02F1/50 532J
C02F1/50 532H
C02F1/50 540B
C02F1/76 A
A01P3/00
A01N25/02
A01N25/22
【請求項の数】14
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-522018(P2012-522018)
(86)(22)【出願日】2010年7月26日
(65)【公表番号】特表2013-500290(P2013-500290A)
(43)【公表日】2013年1月7日
(86)【国際出願番号】EP2010004568
(87)【国際公開番号】WO2011012279
(87)【国際公開日】20110203
【審査請求日】2013年7月19日
(31)【優先権主張番号】61/228,778
(32)【優先日】2009年7月27日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】592233462
【氏名又は名称】ロンザ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100091351
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 哲
(74)【代理人】
【識別番号】100088683
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100109830
【弁理士】
【氏名又は名称】福原 淑弘
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100095441
【弁理士】
【氏名又は名称】白根 俊郎
(74)【代理人】
【識別番号】100084618
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 貞男
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100140176
【弁理士】
【氏名又は名称】砂川 克
(72)【発明者】
【氏名】ジャナク、ケビン・イー.
(72)【発明者】
【氏名】コペッキー、サラ・エリザベス
(72)【発明者】
【氏名】ルデンスキー、マイケル・レオニド
(72)【発明者】
【氏名】スウィーニー、フィリップ・ジャードン
【審査官】
斉藤 貴子
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第05565109(US,A)
【文献】
特開2009−249296(JP,A)
【文献】
特表2009−524673(JP,A)
【文献】
特開2007−105579(JP,A)
【文献】
特開2008−043836(JP,A)
【文献】
特表2009−523708(JP,A)
【文献】
特開2001−286870(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 59/08
C02F 1/50
C02F 1/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
産業的な水処理システムにおいて使用するための水溶液における活性塩素源を安定化するための方法であって、前記方法は、前記水溶液中の活性塩素源と、以下を含む水溶液とを混合する工程を含み、
(i)5,5-ジアルキルヒダントインおよびモルフォリンからなる群より選択される少なくとも1つの置換N−水素化合物と、
(ii)硫酸アンモニウムおよび尿素からなる群より選択される少なくとも1つの付加的な窒素化合物とを含み、(i)と(ii)のモル比が50:1〜0.02:1の範囲であり、該溶液のpHは3〜13の範囲であり、前記活性塩素源と、少なくとも1つの置換N−水素化合物(i)および少なくとも1つの付加的な窒素化合物(ii)の合計とのモル比は、6:1〜2:1の範囲にある方法。
【請求項2】
請求項1の方法であって、前記(i)と(ii)とのモル比が10:1〜0.1:1の範囲にある方法。
【請求項3】
請求項2の方法であって、前記(i)と(ii)とのモル比が7:1〜2:1の範囲にある方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の方法であって、前記置換N−水素化合物は、5,5−ジメチルヒダントインである方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項記載の方法であって、前記置換N−水素化合物は、モルフォリンである方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の方法であって、前記付加的な窒素化合物は、硫酸アンモニウムである方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項記載の方法であって、前記付加的な窒素化合物は、尿素である方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項記載の方法であって、該溶液のpHは3〜11の範囲にある方法。
【請求項9】
請求項8の方法であって、該溶液のpHは5〜10の範囲にある方法。
【請求項10】
請求項9の方法であって、該溶液のpHは7〜9.5の範囲にある方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項記載の方法であって、前記活性塩素源は、元素塩素および次亜塩素酸ナトリウムからなる群より選択される方法。
【請求項12】
水生系において、微生物バイオフィルムおよび/または微生物および/またはプランクトンの増殖を制御する方法であって、該方法は、請求項1〜11のいずれか1項記載の方法により得られた水溶液を前記水生系に添加することを含む方法。
【請求項13】
活性塩素を含有する水生系および/またはそのような水生系上の気相と接触する金属部分の腐食を低減する方法であって、該方法は、請求項1〜11のいずれか1項記載の方法により得られた水溶液を前記水生系に添加することを含む方法。
【請求項14】
請求項12または13記載の方法であって、前記水生系は、パルプ化または製紙産業におけるプロセス液である方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶液中の活性ハロゲン源を安定化するための組成物に関する。本発明はさらに、前記組成物の水溶液、水溶液中の活性ハロゲン源を安定化する方法、安定化された活性ハロゲン源の水溶液、水生系において微生物および/またはプランクトンの増殖を制御する方法、ならびに活性ハロゲンを含有する水生系と接触する金属部分の腐食を低減する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化剤は、広範な種類の水処理用途において使用され、化学的酸素要求量(COD)を減少させ、清浄度を増大させ、および/または生物学的な制御を提供する。そのような処理計画は、製紙、パルプ製造、廃水処理、レクリエーション水域(recreational waters)、および冷却水の再循環において特に有用である。次亜塩素酸ナトリウムまたは塩素ガスは殺菌剤として使用され得るが、不安定化遊離ハロゲン酸化剤の添加は、種々の系成分または不純物により生じる非効率に見舞われ、結果として、そのような成分の非存在下での微生物制御に必要とされる量よりも酸化剤要求量が大きくなる。これは、部分的には、遊離ハロゲンの高い酸化ポテンシャルおよびそれらの分解に対する効率的な動態学的経路によるものであり、結果として、種々の有機および無機の種の非選択的酸化を生じ、非効率的な利用および望ましくない副産物の生成へと導く。この点において、有機ハロゲン安定化剤の使用は、日光、プロセス添加剤、製紙用完成紙料(paper making furnish)成分、および他の系成分の存在下での不所望な副反応および遊離ハロゲンの分解を減少させながら、なお所望の殺菌作用を提供することが既知である。
【0003】
米国特許第7,407,590号明細書は、水生系において固着細菌の増殖(すなわち、バイオフィルム形成)を制御するための、ヒダントインを使用した次亜塩素酸塩安定化化学物質の使用を教示する。この発明者らは、この方法が、固着細菌に対して先行技術の遊離ハロゲン処理よりも効果的であることを見出した。さらに、この発明の方法は、遊離ハロゲン処理を伴う他の方法よりも、バイオフィルム制御に必要とされるハロゲンの全量が少なかった。発明者らは、さらに、酸化性ハロゲンは有機物との副反応において吸収性の有機ハロゲン(AOX)を生成するため、最も効率的な酸化性ハロゲン計画を利用することが望ましいことを見出した。AOXの生成を制限することにより、処理の環境への影響が低減される。
【0004】
ハロゲン安定化技術のもう1つの例は、米国特許第5,565,109号明細書に記載されており、5,5−ジメチルヒダントイン(DMH)のような選択されたN−水素化合物が、パルプスラリーにおける次亜塩素酸塩の殺菌効果を劇的に改善する一方、生物学的制御を達するのに必要な次亜塩素酸塩の量を有意に減少させることを教示する。この効果の増強は、DMHのようなN−水素化合物によって、遊離ハロゲンが結合ハロゲンへ変換されることにより生じるものと考えられ、有機成分および他の混入物の存在下での活性ハロゲンの寿命およびその残留性を効果的に増大させる。この安定化効果により、任意の時間において、製紙用途における系の残留ハロゲン濃度は、次亜塩素酸塩を単独で使用した場合の残留遊離塩素よりも高くなる。記載されているもう1つの際立った特徴は、次亜塩素酸塩と安定化化合物を約0.1:1〜約10:1の範囲という広範なモル比で使用することである。前記特許は、遊離塩素要求を示す物質の存在下でN−水素化合物を使用することにより、次亜塩素酸ナトリウムのような遊離塩素源の安定性を改善することを教示しているが、前記特許は、高いCl
2:Nモル比(例えば、Cl
2:NH
3 > 2〜3;下記参照)での、アンモニウム塩のような無機N−水素化合物に対する合計塩素収率における、N−水素化合物の混合物の相乗効果に関するものではない。
【0005】
上記例に加え、アンモニアのような無機N−水素化合物およびその対応する共役酸塩、ならびに尿素は、ハロゲン安定化および微生物制御のために使用される。アンモニアは、塩素または次亜塩素酸/次亜塩素酸塩と反応し、pHのようなプロセス条件に応じて、モノ−、ジ−、およびトリクロラミンを形成し得る。理論により制限されることなく、後者の2つの形態(ジクロロアミンおよびトリクロロアミン)は、塩素/次亜塩素酸塩:Nのモル比が1:1より大きく、特に不安定である場合に形成され、水生系において発熱しながらかなり迅速に窒素ガスおよび塩化水素に分解される。特定の系因子(例えばアルカリ度)に依存して、これは、いくつかの系において、劇的なpHの低下および腐食の増大を引き起こし得る。実際に、この不安定さは、飲料水産業におけるアンモニア除去のための方法として使用されており、当業者には「ブレークスルー」塩素化として周知の方法である。
【0006】
同様に、尿素の分解は、通常、過剰な次亜塩素酸塩の存在下で観察される(すなわち、NaOCl:尿素のモル比が2より大きいか、または尿素が2つの窒素原子を有し、NaOCl:Nの当量比が1より大きい場合)。例えば、米国特許第4,508,697号では、廃棄する次亜塩素酸塩の処理の流れにおける残留酸化剤の量を、尿素を使用することにより消失させる方法を教示しており、この処理における主反応は、以下の通りである:
3 NaOCl + CO(NH
2)
2 → 3 NaCl + N
2 + CO
2 + H
2O
最後に、記載されている方法は、米国のEPAガイドラインに適合するように、廃水の生物学的酸素要求量(B.O.D.)を低減する。
【0007】
それにもかかわらず、モノクロラミンのようなモノハラミンの形態の安定化ハロゲンは、パルプおよび紙の用途のような種々の産業用途において、プランクトンおよび固着細菌の両方に対して効果的であることも知られている。先行技術によると、ハロゲン源とアンモニアまたはアンモニウム塩源を混合するための条件の慎重な制御が要求される。例えば、米国特許第6,132,628号には、水生系を処理して微生物の増殖を阻害するためのハラミンの慎重な形成のための複合系について記載されている。記載されている処理方法の鍵となる特徴には、アンモニウム塩源を好ましい濃度である0.1〜6.0%に希釈することと、酸化剤:Nのモル比を1以下(好ましくは約1)に維持することと、殺菌性混合物のpHを少なくとも9.0に維持することとが含まれる。
【0008】
同様に、特許出願WO2007/089539 A2および米国特許出願公開第2007/0178173 A1号明細書には、特に定義された塩素(Cl
2として)と尿素のモル比(2:1〜1:2の範囲)で遊離塩素源と尿素を結合させる、水生系における微生物制御のための化学的組成物と、pHを10.0より高く維持するためのアルカリ塩基について記載されている。発明者らによると、アルカリ塩基の存在により、ある一定の組成比に対して、より高い安定性ならびに改善された殺菌効果が適用された。しかしながら、高いpH(12.4〜13.4)であり、Cl
2:尿素比が1:1〜2:1である場合であっても、合計ハロゲン収率は、48〜69%にすぎない。
【0009】
米国特許出願公開第2003/0029812 A1号明細書は、遊離ハロゲン産生殺虫剤、N−ハロゲン化合物安定化剤、および第四級アンモニウム化合物または殺菌性アミンの組み合わせにより、水溶液中の微生物の増殖を制御するか、または微生物を死滅させる方法を教示する。しかしながら、気相腐食の影響を低減し、ハロゲン化無機N−水素化合物の安定性を増大させるための組成物は開示されていない。
【0010】
それ故、上述したアンモニア、アンモニウム塩、および尿素の使用の重要な制限は、Cl
2:NH
3 (最大1:1) またはCl
2:尿素 (最大2:1; Cl
2:Nの比1:1に対応) の特定の最大モル比を維持するための厳格な要求である。上記の観点において、本願発明の目的は、水生系において活性ハロゲン源を安定化するための組成物を提供することにあり、広範なCl
2:N比で使用される一方、高い殺菌効果、懸濁または溶解された有機不純物との反応性を制限することによる吸収性有機ハロゲンの低い形成性、およびごくわずかな気相腐食性を維持する。
【発明の概要】
【0011】
本発明によると、組成物が提供され、それにより、N−水素化合物と少なくとも1つの付加的な窒素化合物(例えば、アンモニアまたはアンモニウム塩および/または尿素)との組み合わせから選択される少なくとも1つを含む溶液は、塩素源と容易に且つ単純に結合することができ、合計のCl
2:NH
3 および/またはCl
2:尿素の比(Cl
2:Nと表記する)が1:1より大きく、特に最大2:1〜60:1のモル比において、安定化塩素溶液を提供し、増強された殺菌効果を提供する。
【0012】
具体的には、出願人は、(i)p-トルエンスルホンアミド、5,5-ジアルキルヒダントイン、メタンスルホンアミド、バルビツール酸、5-メチルウラシル、イミダゾリン、ピロリドン、モルフォリン、アセトアニリド、アセトアミド、N-エチルアセトアミド、フタルイミド、ベンズアミド、スクシンイミド、N-メチロール尿素、N-メチル尿素、アセチル尿素、メチルアロファネート、メチルカーバメート、フタロヒドラジド、ピロール、インドール、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、ジシアノジアミド、エチルカーバメート、1,3-ジメチルビウレット、メチルフェニルビウレット、4,4-ジメチル-2-オキサゾリジノン、6-メチルウラシル、2-イミダゾリジノン、エチレン尿素、2-ピリミドン、アゼチジン-2-オン、2-ピロリドン、カプロラクタム、フェニルスルフィンイミド、フェニルスルフィンイミジルアミド、ジアリール-またはジアルキルスルフィンイミド、イソチアゾリン-1,1-ジオキシド、ヒダントイン、グリシン、ピぺリジン、ピペラジン、エタノールアミン、グリシンアミド、クレアチン、およびグリコールウリルからなる群より選択される少なくとも1つの置換N−水素化合物と、(ii)アンモニア、アンモニウム塩、および炭素−水素結合を含まない窒素化合物からなる群より選択される少なくとも1つの付加的な窒素化合物とを含む組成物が、(i)と(ii)のモル比が50:1〜0.2:1の場合において、産業的な水処理システムにおいて使用するための水溶液において、活性ハロゲン源を効果的に安定化し得ることを見出した。
【0013】
適切なアンモニウム塩には、限定されるものではないが、硫酸アンモニウム((NH
4)
2SO
4)、塩化アンモニウム (NH
4Cl)、炭酸アンモニウム((NH
4)
2CO
3)、および臭化アンモニウム(NH
4Br)が含まれる。炭素−水素結合を含まない窒素化合物には、有機および無機窒素化合物の両方が含まれ、限定されるものではないが、例えば、尿素、ビウレット、ホウ酸アミド、トリアンモニウムトリスルフィミド、オルトホスホリルトリアミド、シアヌル酸、メラミン、シアナミド、ナトリウムトリアミドメタホスフェート、およびスルホンアミドである。
【0014】
本発明の組成物は、水溶液中の活性ハロゲン源を効果的に安定化することができ、ハロゲンと付加的な窒素化合物(ii)のモル比を、100:1〜0.1:1の範囲、好ましくは50:1〜0.2:1の範囲、最も好ましくは30:1〜2:1の範囲にする。
【0015】
好ましい実施形態において、(i)と(ii)のモル比は、10:1〜0.1:1の範囲、より好ましくは7:1〜2:1の範囲である。
【0016】
少なくとも1つの置換N−窒素化合物(i)は、好ましくは、5,5-ジメチルヒダントインまたはモルフォリンである。
【0017】
好ましい実施形態において、付加的な窒素化合物(ii)は、硫酸アンモニウムまたは尿素である。
【0018】
好都合には、濃縮形態の本発明の安定化組成物は、0.5重量%〜35重量%、好ましくは1重量%〜20重量%、より好ましくは3重量%〜17重量%の範囲の量の少なくとも1つの置換N−水素化合物(i)と、0.15重量%〜35重量%、好ましくは0.3重量%〜17重量%、より好ましくは1重量%〜12重量%の範囲の量の少なくとも1つの付加的な窒素化合物(ii)とを含む。
【0019】
上記組成物は、3〜13の範囲、好ましくは3〜11の範囲、より好ましくは5〜10の範囲、最も好ましくは7〜9.5の範囲のpHを有する水溶液として、好都合に使用される。
【0020】
水溶液中の活性ハロゲン源を安定化するために、前記水溶液中の活性ハロゲン源は、上記組成物と混合され得る。
【0021】
あるいは、水溶液中のハロゲン源は、上記組成物を含む上述した水溶液と混合することにより安定化され得る。
【0022】
活性ハロゲン源および上記組成物または水溶液は、好ましくは、ハロゲン(合計のCl
2として)と付加的な窒素化合物(ii)のモル比が100:1〜0.1:1の範囲の量になるように混合される。
【0023】
好ましい実施形態において、活性ハロゲン源は、元素塩素、元素臭素、塩化臭素、アルカリ金属次亜ハロゲン酸塩、アルカリ土類金属次亜ハロゲン酸塩、モノ-および/またはジハロゲン化ヒダントイン、ハロゲン化シアヌレート、ハロゲン化シアヌル酸、および上記各々の間の混合物および/または臭化ナトリウムとの混合物からなる群より選択される。最も好ましくは、活性ハロゲン源は、アルカリ金属次亜ハロゲン酸塩、特に次亜塩素酸ナトリウムである。
【0024】
活性ハロゲン源と少なくとも1つの置換窒素化合物(i)および少なくとも1つの付加的な窒素化合物(ii)の合計とのモル比は、好ましくは50:1〜0.2:1の範囲である。より好ましくは、活性ハロゲン源と少なくとも1つの置換窒素化合物(i)および少なくとも1つの付加的な窒素化合物(ii)の合計とのモル比は、10:1〜1:1の範囲、最も好ましくは6:1〜2:1の範囲である。
【0025】
水溶液中の活性ハロゲン源を安定化するための、上記方法により得られる活性ハロゲン源の安定化水溶液についても権利主張する。
【0026】
前記安定化水溶液の好ましい実施形態において、活性ハロゲン源は、次亜塩素酸、そのアルカリ金属塩、そのアルカリ土類金属塩、およびこれらの混合物から選択される。
【0027】
上記活性ハロゲン源の安定化水溶液を水生系に添加することにより、水生系における微生物バイオフィルムおよび/または微生物および/またはプランクトンの増殖を制御する方法についても権利請求する。
【0028】
米国特許第6,132,628号明細書および米国特許出願公開第2007/0178173 A1号明細書の教示に対して、試薬の希釈、pH制御、または正確なCl
2:NH
3 もしくはCl
2:尿素のモル比の維持のための、複合体混合系に対する完全な要求はないが、望ましいか、または好ましい場合、そのような希釈およびpHの調整は行われ得る。それ故、本発明の溶液組成物は、Cl
2:NH
3またはCl
2:尿素のモル比とCl
2:安定化剤全体のモル比の両方について広い範囲で、濃縮された商業グレードの次亜塩素酸ナトリウム(例えば12.2%)のような濃縮されたハロゲン源と、前記濃縮溶液(例えば、15〜18%濃度)の直接的な混合を介して、紙パルプスラリーまたはタワー(tower)水の冷却のような水生系におけるハロゲン全体の安定化および微生物増殖の制御のための方法において使用され得る。理論により限定されることなく、Cl
2:合計の安定化剤のモル比が2:1〜6:1の範囲である場合に特に効果的であると考えられる。それ故、本発明により提供される適応性の特定の利点は、活性ハロゲン源および安定化組成物の相対量の容易な調節が可能になることであり、高いハロゲン要求量よび/または高いバイオフィルム傾向が存在する場合に、活性ハロゲンのより高い安定化機能が望まれ、および/または低い要求量の場合に対応して変化し得る。これは、固定されたモル比の生成物に関して利点を提供し、合計のハロゲン濃度が固定されて安定化の程度が変化すること(すなわち、Cl
2:合計の安定化剤、Cl
2:NH
3、およびCl
2:尿素のモル比)、合計のハロゲン濃度が変化して得られる安定化の程度が固定されること、またはその両方が調整され得る。
【0029】
さらに、出願人は、本発明の組成物および水溶液が、活性ハロゲンを含有する水生系の腐食性を効果的に低減できることも見出した。従って、安定化ハロゲンを含有する上記混合物は、活性ハロゲンを含有する水生系および/またはそのような水生系上の気相と接触するタンク、パイプ、ポンプおよび撹拌器のような金属部分の腐食を低減するための方法においても使用することができる。
【0030】
従って、活性ハロゲンを含有する水生系および/またはそのような水生系上の気相と接触する金属部分の腐食は、上記安定化水溶液を前記水生系に添加することにより低減され得る。
【0031】
好ましい実施形態において、上述したように、微生物および/またはプランクトンの増殖が制御され、および/または金属部分の腐食が低減された水生系は、パルプ化または製紙産業におけるプロセス液である。
【0032】
安定化されるべき水溶液において(希釈して使用)、水溶液中の活性ハロゲン源を安定化するための方法、ならびに微生物バイオフィルムおよび/または微生物および/またはプランクトンの増殖を制御し、または腐食を低減するための方法において、安定化組成物または安定化組成物と塩素源との組み合わせは、少なくとも1つの置換N−水素化合物(i)および少なくとも1つの付加的な窒素化合物(ii)が合計で、0.1〜300ppm、好ましくは0.15〜100ppm、より好ましくは0.2〜20ppm(全ての濃度は重量に基づく)の範囲の量で存在する。
【0033】
以下に示す非限定的な例により本発明を説明するが、これらは本願発明をいずれかの側面において限定することを意図するものではない。
【0034】
実施例1
ハロゲン源との組み合わせにおける本発明の組成物の増強された安定性および適応性を示すために、連続的なフロー方式を構築し、PVDF静的混合「T」、栓、ならびに次亜塩素酸ナトリウム溶液および対応する安定化剤サンプルを添加するための2つのマスターフレックス(登録商標)に連結されたチューブアダプターで構成される。各データ点に対して、安定化剤および次亜塩素酸塩の混合流速を調節し、NaOClと活性成分(A.I)の望ましいモル比を維持した。溶液の温度を、フローの開始前と次亜塩素酸溶液との混合後に記録した。さらに、得られる回収溶液のpHを、連続的なフローの2分の間隔後に記録した。
【0035】
アンモニウム塩に水を加え、先行技術に示したレベルに濃NaOHでpHを調整する一方、塩濃度を本発明の組成物のレベルと同様に維持することにより(アンモニウム塩に対して15〜20% w/wでpH = 9.5〜10)、アンモニウム塩溶液を調製した。少なくとも1つの置換N−水素化合物(DMH = 5,5-ジメチルヒダントインおよび/またはアミン = エタノールアミン、モルフォリン)(i)、および少なくとも1つの付加的な窒素含有化合物(ii)を水で希釈し、必要な場合にはpHを7〜9.5に調整することにより、本発明の安定化溶液を調製した。得られる溶液は、15〜18%溶液として直接使用した。
【0036】
次亜塩素酸ナトリウム溶液は、高濃度(12.2%)で直接使用した。次亜塩素酸ナトリウムのpHを測定し(pH=12.6)、ΔpH測定のための初期値として使用した。
【0037】
酸化剤溶液と混合することにおける本発明の組成物の向上した安定性を、表1に示す。既知のアンモニアおよび尿素の化学と一致して(上記参照)、ハロゲン源とアンモニウム塩溶液を1より大きいCl
2:N比(例えば、2〜4)で混合することにより、通常、生じる分解反応による実質的な発熱温度の変化(ΔT、ケルビン)およびpHの低下を生じる。対照的に、本発明の組成物は、温度上昇および/またはpH低下が有意に少なく、混合物のより優れた安定性を示す。
【表1】
【0038】
実施例2
温度変化およびpH変化の減少に加え、本発明の組成物の増大した安定性を、同じ連続的なフロー方式および実験条件を使用して、上記と同様の方法で実証する。硫酸アンモニウムを水に溶解して所望の濃度にしながら、DMHおよびエタノールアミンを、水溶液中で硫酸アンモニウムと混合し、pHを9.5に調整した。混合後に残留する%Cl
2の合計収量をDPO試薬法により分析し、残留するクロラミンをHACHアンモニアTNTプラス(登録商標)試験キットを用いて分析し、残留%NH
2として報告した。
【0039】
表2に示すように、本発明の組成物は、ハロゲンの安定化および収量、ならびに形成されるクロラミンの分解の低減を示す。
【表2】
【0040】
実施例3
本発明の組成物は、先行技術の組成物と比較して増強された殺菌活性を示す。実験の条件は、ASTM E: 1839-07に記載されている方法を変更したものとした。1% パルプスラリーを、白色レーザープリンター紙を細かく刻み、適切な量の400ppmアルカリ性(CaCO
3として)水溶液を加えることにより調製した。スラリーを98(±2)℃に加熱しながら急速に混合し、室温まで冷却した。1N H
2SO
4を用いてpHを8.5に調整し、脱イオン化水を用いてスラリーを0.5%に希釈した。使用前に、98(±1) mL分量を125 mLサンプルフラスコに移し、蒸気滅菌し、室温まで冷却した。
【0041】
51,000 ppm または400 ppm (Cl
2として) のNaOClのストック溶液を新たに調製し、生物体負荷試験(organism challenge test)を行った。所望のCl
2:活性成分モル比のサンプル溶液を調製するために試験サンプルの希釈を行い、目的とする所望の合計Cl
2に従ってフラスコに入れた(2 ppmの合計Cl
2)。
【0042】
エンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes)(ATCC 13048) および緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)(ATCC 15442) の24時間培養液を試験のために使用した。既知の混釈平板技術により、トリプシンソイ寒天(TSA)を用いて微生物学的な計数を行った。最終的な接種細菌濃度は、2×10
6 〜1×10
7 CFU/mLとした。1 mLの接種を、試験されるべきサンプルの各々に対して行い、サンプルを34℃で3時間振とうした。3時間の接触時間の後、殺菌中和のための最初の一連の希釈チューブとしてDIFCO Dey-Engley (D/E) 中和ブロスを使用し、希釈液を10
6まで蒔いた。
【0043】
効果は、安定化剤なしで得られた細菌計数(CFU/mL)と安定化剤の添加により得られた細菌計数(CFU/mL)の一般的な対数の差に対応するΔlg値として表す。すなわち、
Δlg = lg[細菌計数 (CFU/mL)]
参照- lg[細菌計数 (CFU/mL)]
安定化サンプル
それ故、より高いΔlg値であることは、組成物の殺菌活性が増大したことを示す。
【0044】
微細な紙パルプスラリー中における本発明の組成物に基づく配合物の例の試験結果を、表3に示す。ここで、付加的な窒素化合物(ii)は、硫酸アンモニウムのようなアンモニウム塩である。
【表3】
【0045】
同様に、表4は、微細な紙パルプスラリー中で試験した本発明の組成物に基づく配合物の例の試験結果を示す。ここで、付加的な窒素化合物は尿素である。
【表4】
【0046】
表5は、ボックス紙パルプスラリーにおける本発明の組成物に基づく配合物の例の試験結果を示す。ここで、付加的な窒素化合物(ii)は、硫酸アンモニウムのようなアンモニウム塩である。
【表5】
【0047】
それ故、少なくとも1つの置換N−水素化合物と少なくとも1つの付加的な窒素化合物(ii)とを含む溶液は、5,5-ジメチルヒダントイン(DMH)のような置換N−水素化合物を含む単独の組成物に対して、ハロゲン源の微生物学的効果のより優れた増強を示す。
【0048】
実施例4(気相腐食)
提案された配合物の例の潜在的な気相腐食性を、以下の方法により評価した: 10.16 cm×15.24 cm×0.81cm
(4″×6″×0.032″)のQ-パネル(登録商標)タイプSクーポン(Q-Lab, Cleveland, OHから入手可能)、AISI普通C1010鋼 (くすんだ光沢のない面: 0.65〜1.65μm (25〜65μインチ) 粗さ; 接地面: 0.50〜1.15μm (20〜45μインチ) 粗さ) を、脱イオン化水でリンスし、ペーパータオルで乾燥し、4 Lビーカーに入れた。重炭酸ナトリウムを脱イオン化水で希釈して400ppmアルカリ性(CaCO
3として)とすることにより試験溶液を調製し、必要な場合に、1.0 N NaOH または1.0 N HClを使用して溶液のpHを8.0に調整した。250 mLのこの溶液を400 mLビーカーに加え、続いて合計2 ppmのCl
2を各実施例の配合組成物に加えた。各々のビーカーの溶液を、炭素鋼クーポンと共に別々の4L ビーカーに入れ、4 Lビーカーをプラスチックフィルムで覆い、37℃のオーブンに合計5日間置いた。各々250 mLの溶液を、試験の2日目に新たに調製したサンプルと置き換えた。2日目および5日目に、クーポン腐食を視覚で評価し、写真を撮り、表面酸化のパーセントの関数としてランク付けした。試験結果を表6に示す。
【表6】
以下に、本発明の実施態様を付記する。
1. 産業的な水処理システムにおいて使用するための水溶液における活性ハロゲン源を安定化するための組成物であって、前記組成物は、
(i)p-トルエンスルホンアミド、5,5-ジアルキルヒダントイン、メタンスルホンアミド、バルビツール酸、5-メチルウラシル、イミダゾリン、ピロリドン、モルフォリン、アセトアニリド、アセトアミド、N-エチルアセトアミド、フタルイミド、ベンズアミド、スクシンイミド、N-メチロール尿素、N-メチル尿素、アセチル尿素、メチルアロファネート、メチルカーバメート、フタロヒドラジド、ピロール、インドール、ホルムアミド、N-メチルホルムアミド、ジシアノジアミド、エチルカーバメート、1,3-ジメチルビウレット、メチルフェニルビウレット、4,4-ジメチル-2-オキサゾリジノン、6-メチルウラシル、2-イミダゾリジノン、エチレン尿素、2-ピリミドン、アゼチジン-2-オン、2-ピロリドン、カプロラクタム、フェニルスルフィンイミド、フェニルスルフィンイミジルアミド、ジアリール-またはジアルキルスルフィンイミド、イソチアゾリン-1,1-ジオキシド、ヒダントイン、グリシン、ピぺリジン、ピペラジン、エタノールアミン、グリシンアミド、クレアチン、およびグリコールウリルからなる群より選択される少なくとも1つの置換N−水素化合物と、
(ii)アンモニア、アンモニウム塩、および炭素−水素結合を含まない窒素化合物からなる群より選択される少なくとも1つの付加的な窒素化合物と
を含み、(i)と(ii)のモル比が50:1〜0.02:1の範囲である組成物。
2. 1の組成物であって、前記(i)と(ii)とのモル比が10:1〜0.1:1の範囲にある組成物。
3. 2の組成物であって、前記(i)と(ii)とのモル比が7:1〜2:1の範囲にある組成物。
4. 1〜3のいずれかの組成物であって、前記置換N−水素化合物は、5,5−ジメチルヒダントインである組成物。
5. 1〜3のいずれかの組成物であって、前記置換N−水素化合物は、モルフォリンである組成物。
6. 1〜5のいずれかの組成物であって、前記付加的な窒素化合物は、硫酸アンモニウムである組成物。
7. 1〜5のいずれかの組成物であって、前記付加的な窒素化合物は、尿素である組成物。
8. 1〜7のいずれかの組成物を含む水溶液であって、該溶液のpHは3〜13の範囲である水溶液。
9. 8の水溶液であって、該溶液のpHは3〜11の範囲にある水溶液。
10. 9の水溶液であって、該溶液のpHは5〜10の範囲にある水溶液。
11. 10の水溶液であって、該溶液のpHは7〜9.5の範囲にある水溶液。
12. 水溶液中の活性ハロゲン源を安定化する方法であって、該方法は、前記水溶液中の活性ハロゲン源と1〜11のいずれかの組成物または水溶液とを混合する工程を含む方法。
13. 12の方法であって、Cl2の合計として決定されるハロゲンと付加的な窒素化合物(ii)とのモル比は、100:1〜0.1:1の範囲にある方法。
14. 12または13の方法であって、前記活性ハロゲン源の源は、元素塩素、元素臭素、塩化臭素、アルカリ金属次亜ハロゲン酸塩、アルカリ土類金属次亜ハロゲン酸塩、モノ-および/またはジハロゲン化ヒダントイン、ハロゲン化シアヌレート、ハロゲン化シアヌル酸、ならびに上記各々の間の混合物および/または臭化ナトリウムとの混合物からなる群より選択される方法。
15. 12または14のいずれかの方法であって、活性ハロゲン源と、少なくとも1つの置換N−水素化合物(i)および少なくとも1つの付加的な窒素化合物(ii)の合計とのモル比は、50:1〜0.2:1の範囲にある方法。
16. 15の方法であって、前記活性ハロゲン源と、少なくとも1つの置換N−水素化合物(i)および少なくとも1つの付加的な窒素化合物(ii)の合計とのモル比は、10:1〜1:1の範囲にある方法。
17. 16の方法であって、前記活性ハロゲン源と、少なくとも1つの置換N−水素化合物(i)および少なくとも1つの付加的な窒素化合物(ii)の合計とのモル比は、6:1〜2:1の範囲にある方法。
18. 12〜17のいずれかの方法により得られる、活性ハロゲン源の安定化水溶液。
19. 18の安定化水溶液であって、前記活性ハロゲン源は、次亜塩素酸、そのアルカリ金属塩、そのアルカリ土類金属塩、または上述したものの混合物である安定化水溶液。
20. 水生系において、微生物バイオフィルムおよび/または微生物および/またはプランクトンの増殖を制御する方法であって、該方法は、18または19の安定化水溶液を前記水生系に添加することを含む方法。
21. 活性ハロゲンを含有する水生系および/またはそのような水生系上の気相と接触する金属部分の腐食を低減する方法であって、該方法は、18または19の安定化水溶液を前記水生系に添加することを含む方法。
22. 20または21の方法であって、前記水生系は、パルプ化または製紙産業におけるプロセス液である方法。