(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6029993
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】静止形周波数変換電源装置
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20161114BHJP
【FI】
H02M7/48 M
H02M7/48 F
H02M7/48 L
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-14148(P2013-14148)
(22)【出願日】2013年1月29日
(65)【公開番号】特開2014-147210(P2014-147210A)
(43)【公開日】2014年8月14日
【審査請求日】2015年3月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107928
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正則
(72)【発明者】
【氏名】神山 功
【審査官】
安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−286155(JP,A)
【文献】
特開平05−284756(JP,A)
【文献】
特開昭58−141681(JP,A)
【文献】
特開2010−259328(JP,A)
【文献】
特開2005−261052(JP,A)
【文献】
特開2011−050204(JP,A)
【文献】
特開昭59−122379(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/42−7/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流を入力し、電力変換器により負荷設備が要求する周波数の交流電力を出力する静止形周波数変換電源装置であって、
前記電力変換器の出力周波数及び出力電圧を制御する制御手段と、
前記電力変換器の出力側に設けられた電流検出器と、
前記電流検出器の検出電流値を第1の閾値と比較判定する第1の過電流検出手段と、
前記電流検出器の検出電流値を、前記第1の閾値より小さい第2の閾値と比較判定する第2の過電流検出手段と、
前記電流検出器の検出電流値が所定の電流制限値を超えたとき、電流制限値内となるように制御する電流制限制御手段と、
前記電力変換器を構成するスイッチング素子のゲート信号をオフして出力電流を遮断する出力遮断手段と
を具備し、
前記第1の過電流検出手段が過電流と判定したときは、前記出力遮断手段により前記電力変換器の出力電流を遮断し、
前記第2の過電流検出手段が過電流と判定したときは、前記出力遮断手段により前記電力変換器の出力電流を遮断すると共に、前記電流制限制御手段の出力を所定のプリセット値にセットし、且つ所定時間後に前記出力遮断手段による前記電力変換器の出力遮断を解除して通電を再開するようにし、
前記電流制限制御手段は、電流制限値1と電流制限値2の複数の電流制限設定値を有すると共に、これを切替える切替手段を更に設け、前記第2の過電流検出手段の検出結果に応じて、前記切替手段により電流制限値1と電流制限値2を切り替えるようにしたことを特徴とする静止形周波数変換電源装置。
【請求項2】
前記電力変換器の出力側にリアクトルを更に設け、
前記電力変換器の出力電流の変化率が負荷の特性や条件によらず一定の上限値以下となるようにし、これにより前記第2の過電流検出手段が前記第1の過電流検出手段より確実に先行して過電流検出するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の静止形周波数変換電源装置。
【請求項3】
前記所定のプリセット値は、装置定格の0〜20%の範囲としたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の静止形電力変換電源装置。
【請求項4】
前記第2の過電流検出手段が過電流と判定した回数をカウントし、所定のカウント回数に到達したときには、前記電力変換器の出力遮断の解除を行わないようにしたことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の静止形電力変換電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、商用交流電源を所定の周波数、電圧に変換して任意の交流負荷あるいは負荷配電系統に給電する静止形周波数変換電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
商用交流電源の周波数は50Hzと60Hzの2種類があり、周知のとおり世界各国ではいずれか一方が、日本では両方が用いられている。周波数変換電源装置の用途としては、例えば商用交流電源が50Hzの地域で60Hz用の機器や装置等を試験するための試験用電源としての用途や、特許文献1に示されるような港湾に停泊中の船舶に陸上から給電するシステムにおいて、陸側の商用交流電源の周波数が船舶側電源系統の周波数と異なる場合に周波数変換して給電するなどの用途がある。
【0003】
上記周波数変換電源装置としては、回転機である電動機と発電機を直結した構成のいわゆる「MGセット」と呼ばれる装置が古くから実用に供されているが、回転機械であるために安全面や騒音対策のための付帯設備や建屋構造を要し、一般に設備の構成が複雑で大規模となる。また、基本的に機械設備であるため保守性は静止形の機器に比べ劣る。そこで、電力変換装置を用いた静止形周波数変換電源装置がこれに代わり用いられるようになってきている。静止形周波数変換電源装置は、PWMによる半導体スイッチング素子のオンオフ制御等によって出力電圧、周波数の精度が向上し、また安定性に優れる利点も有する。ただし、半導体素子を用いた電力変換装置は回転発電機に比べ定格電流に対する過電流の耐量が低く、運転継続不能となる過電流トリップレベルも低い。このために、短絡試験設備のように短時間大電流を供給する必要のある特定の用途では、現在でも専らMGセットが用いられている。
【0004】
ここで、前述の特許文献1に記載の船舶への給電を考えると、船舶内の負荷は様々な負荷により構成されており、また船舶の大きさ、種類や用途によって異なっている。停泊中の運用によっては、電動機の始動や変圧器の投入などのインラッシュ電流の発生も想定する必要がある。また、船内には保護リレー等を含む配電系統を有し大型船では大規模で複雑な配電系統を有している。一般に配電系統内での短絡事故等では過電流保護リレーによって事故フィーダの特定と解列がなされる。このためには、電源は保護リレーが過電流として判定できる電流を継続して供給する必要がある。上記のインラッシュ電流や系統事故時の過電流を総称して以下「過渡過電流」と称する。
【0005】
特許文献2には、この過渡過電流の供給に着目し、静止形変換器である他励式の電流形電力変換器と回転機である同期調相機の組み合わせで構成される周波数変換電源装置が提案されている。この提案は、船舶用の電機設備で「軸発電装置」として広く知られ実用化されている装置において、船舶の推進用原動機(エンジン)に直結された発電機の出力を前記電流形電力変換器の入力とするのに代えて商用電源を変換器の入力としたものであり、負荷の過電流は回転機である同期調相機(同期機)から供給することによって、過電流耐量を高くすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−237151号公報(全体)
【特許文献2】特開2007−151218号公報(全体)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に示される船舶への陸上からの電源供給用途では前述のとおり過渡過電流への対処が必要である。この過渡過電流に対する静止形周波数変換電源装置における最も簡単な対処方法は、想定される過電流が装置のトリップレベル以下になるように装置容量を選定することであるが、例えばこの過渡過電流は装置定格の10倍を超えるような電流値となり、一方で装置の瞬時過電流トリップレベルは、使用する半導体素子にもよるが、通常装置定格の2倍程度であるため、一般に極めて不経済な容量選定となって装置の寸法やコストの点から現実的な方法となり得ない。このため、静止形周波数変換電源装置は負荷側の系統の短絡による事故電流や、電動機や変圧器の投入時のインラッシュ電流などの短時間の過渡過電流の発生と給電継続を考慮しなければならないような負荷や用途には適用が難しかった。
【0008】
特許文献2に示される方法は、軸発電機装置の特徴を利用して過渡過電流に対応しようとするものであるが、装置構成に回転機を含むため前述のMGセットと同様な問題を有し、また、過電流給電時には電流の大きさに応じて同期調相機の速度変動に伴う電源周波数の変動を生じ、これを防止するためにはフライホイールの追加設置など機械的な慣性の増加で対処することが必要で、要求される電源品質を満足するためには回転機械設備が更に大型化するという問題がある。
【0009】
なお、上記では負荷機器の投入や配電系統の事故などの過渡過電流を想定すべき例として船舶への給電の場合を例に述べたがこれに限るものでは無く、一般の工場内の試験用電源設備等においても用途等により同様の問題が生ずることは明らかである。
【0010】
本発明は上記に鑑みて為されたものであり、電力変換器を用いた静止形周波数変換電源装置を過渡過電流が想定される用途にも適用可能とすることを目的とする。より具体的には、過渡過電流に対する装置容量の増大を抑制しつつ装置の過電流トリップを防止して運転継続することができ、また、負荷側の配電系統事故時においては保護リレー等が動作可能な事故電流を供給することができ、過渡過電流の発生が想定される負荷設備への電力供給に好適な静止形周波数変換電源装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の静止形周波数変換電源装置は、交流を入力し、電力変換器により負荷設備が要求する周波数の交流電力を出力する静止形周波数変換電源装置であって、前記電力変換器の出力周波数及び出力電圧を制御する制御手段と、前記電力変換器の出力側に設けられた電流検出器と、前記電流検出器の検出電流値を第1の閾値と比較判定する第1の過電流検出手段と、前記電流検出器の検出電流値を、前記第1の閾値より小さい第2の閾値と比較判定する第2の過電流検出手段と、前記電流検出器の検出電流値が所定の電流制限値を超えたとき、電流制限値内となるように制御する電流制限制御手段と、前記電力変換器を構成するスイッチング素子のゲート信号をオフして出力電流を遮断する出力遮断手段とを具備し、前記第1の過電流検出手段が過電流と判定したときは、前記出力遮断手段により前記電力変換器の出力電流を遮断し、前記第2の過電流検出手段が過電流と判定したときは、前記出力遮断手段により前記電力変換器の出力電流を遮断すると共に、前記電流制限制御手段の出力を所定のプリセット値にセットし、且つ所定時間後に前記出力遮断手段による前記電力変換器の出力遮断を解除して通電を再開するようにし
、前記電流制限制御手段は、電流制限値1と電流制限値2の複数の電流制限設定値を有すると共に、これを切替える切替手段を更に設け、前記第2の過電流検出手段の検出結果に応じて、前記切替手段により電流制限値1と電流制限値2を切り替えるようにしたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、負荷側の短絡事故や負荷投入時の過渡過電流に対して、装置容量の増加を抑制しつつトリップすることなく運転を継続することが可能な静止形周波数変換電源装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施例1に係る静止形周波数変換電源装置の回路ブロック図。
【
図2】本発明の実施例2に係る静止形周波数変換電源装置の回路ブロック図。
【
図3】本発明の実施例3に係る静止形周波数変換電源装置の回路ブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0015】
以下、本発明の実施例1に係る静止形周波数変換電源装置を、
図1を参照して説明する。
図1は本発明の実施例1に係る静止形周波数変換電源装置の回路ブロック図である。
【0016】
交流電源1から与えられる3相交流電圧は、入力変圧器2によって適切な電圧に変換されて電力変換器3に供給される。電力変換器3は、本実施例では交流−直流変換器(順変換器)31、直流−交流変換器(逆変換器)32及び平滑コンデンサ33から構成されている。なお、電力変換器3の仕様によっては入力変圧器2を省略できる場合がある。電力変換器3の出力は負荷設備4に接続され、例えば交流電源1の周波数が50Hzであれば、これを負荷設備4の要求する周波数60Hzに変換すると共に、負荷設備4の定格電圧を供給する。電力変換器3の出力には電流検出器5が設けられ、この電流検出器5の出力は、過電流検出回路6Aと過電流検出回路7Aに入力されると共に、減算器9Aの減算側に入力される。
【0017】
電圧基準(V)生成回路10は所定の周波数指令値と電圧指令値によりPWM回路12の入力となる電圧基準信号を生成する。この電圧基準信号は乗算器11によって補正された後、PWM回路12に入力される。PWM回路12はその出力側に図示しないゲート制御回路を有し、ゲート遮断回路13を介して電力変換器3の直流―交流変換器(逆変換器)32の図示しないスイッチング素子のオンオフを制御して所定の電圧と周波数の交流を負荷設備4に給電する。ここで、
図1における電圧基準(V)生成回路10及びPWM回路12は電力変換器3の出力電圧及び周波数を制御する制御手段に相当する。
【0018】
ゲート遮断回路13に遮断指令が入力されるとゲート遮断回路13は、直流―交流変換器(逆変換器)32の全てのスイッチング素子をオフして出力を遮断する。ゲート遮断回路13の遮断指令は
図1に示すとおり、過電流検出回路6Aに設定された第1の閾値を超えたことを記憶するラッチ回路6Bの出力(遮断指令1)と、過電流検出回路7Aに設定された第2の閾値を超えたことを記憶するラッチ回路7Bの出力(遮断指令2)がOR回路8により論理合成されゲート遮断回路13に入力される。また、ラッチ回路6Bの記憶を解除するリセット入力は、図示しない故障リセット回路で生成され手動でリセットされる。一方、ラッチ回路7Bはタイマ回路7Cにより所定時間Td後に自動リセットされる。このラッチ回路7Bの出力は、後述するようにプリセット機能を有する比例積分器9Bのプリセット指令ともなっている。この比例積分器9Bは前段の減算器9Aの出力、すなわち電流制限値と電流検出値との偏差を増幅するが、その出力はリミッタ回路9Cにより0から1の範囲に制限され乗算器11に入力される。
【0019】
以上述べた本発明の実施例1に関わる静止形周波数変換電源装置の動作について、その特徴的な部分を主体に説明する。
【0020】
まず、過電流検出回路6Aと過電流検出回路7Aの動作について説明する。図示したように過電流検出回路6A及び過電流検出回路7Aは所定の入力の範囲を超えたとき1を出力するウインドコンパレータを使用している。過電流検出回路6Aは従来どおりの過電流故障検出のためのもので、電流検出器5によって検出した電流値が所定の第1の閾値を超えたことを検出し、電力変換器3を過電流による損傷から保護するために、電力変換器3をゲート遮断するとともに図示しない入力遮断器などの開放をおこなう。この場合、装置は故障状態となり運転動作を停止するいわゆる故障トリップ状態となり、負荷設備4への電力供給は停止し停電状態となる。
【0021】
過電流検出回路7Aは、その閾値が第1の閾値より小さい第2の閾値に設定され、例えば過電流検出回路6Aの第1の閾値が装置定格の200%のとき、過電流検出回路7Aの第2の閾値をこれより低い175%とする。負荷設備4で過渡過電流が発生して電流が急増した場合、この電流急増はまず過電流検出回路7Aで検出されることになる。この過電流検出はラッチ回路7Bの出力を1とし記憶されるとともにOR回路8で論理合成され直流−交流変換器32を直ちにゲート遮断することにより、過渡過電流は過電流検出回路7Aの第2の閾値の電流値で遮断され電流は急速に減少する。ラッチ回路7Bの出力が1となると、タイマ回路7Cは所定時間Td後にラッチ回路7Bのリセット入力を1としてリセット操作するが、すでに前述のゲート遮断により電流検出値は減少しているので、ラッチ回路7Bは直ちにリセットされゲート遮断は解除されて電力変換器3は負荷設備4への給電を再開する。すなわち第1の閾値は装置をトリップさせ運転停止させる必要のある限界的な過電流保護レベルであるのに対し、第2の閾値は若干余裕のある電流値であり、この第2の閾値で電力変換器3の電流を急速遮断することによって、負荷の過渡過電流を一定のレベル以下に抑制するとともに、電力変換器3の短時間内の再通電がスイッチング素子の温度などの制約を受けずに可能となる。例えば、上記タイマ回路7Cの設定時間Tdは一般的な半導体スイッチング素子を用いた電力変換器において数ミリ秒以下とすることができ、この電力供給の断続を負荷にとって実質的に影響ない短時間とすることが可能となる。
【0022】
ラッチ回路7Bの出力は比例積分器9Bのプリセット指令としても入力されており、この動作を次に説明する。電流制限値を例えば装置定格の150%に設定すると、通常の給電時は負荷電流が装置定格の100%以下であるから、減算器9Aの出力は+50%以上であって次段の比例積分器9Bの出力はリミッタ回路9Cによって出力は1に飽和している。従って電力変換器3の出力は、電圧基準値(V)生成回路10によって生成された基準値どおりに制御されている。ここで何らかの原因で負荷電流が増加し電流制限値を超えた場合は、減算器9Aの出力は負となって比例積分器9B及びリミッタ回路9Cの出力は減少して、乗算器11の作用により電圧基準の振幅を減少させるように動作して電力変換器3の出力電圧を絞る。この電圧低減により負荷設備4への電流が減少し電流制限値と一致したところで出力電圧は保持される。
【0023】
ここで負荷の過渡過電流の場合について考えると、前述のとおりその要因は電動機の始動や変圧器の投入、負荷系統の短絡事故などであり、これらは共通的に負荷側のインピーダンスの急激な低下としてとらえることができる。この場合、電流増加の変化率(di/dt)が大きく、上記の電流制限制御による電流絞込みが間に合わないという問題がある。そこで、前述の過電流検出回路7Aによる短時間ゲート遮断の動作と連動して、ゲート遮断中にあらかじめ電圧を絞り込んでおけば、タイマ回路7Cに設定した所定時間Td後の再通電時に負荷電流を所定の電流制限値に安定して制御して給電することができる。この電流制限値上限で負荷給電する間に、電動機の加速による始動電流の減少や変圧器の過渡現象の終了、負荷側系統の事故部位の解列などで負荷電流が電流制限値より減少すると、比例積分器9Aの出力は自動的に増加し、電力変換器3の出力電圧は定格に戻る。上記はラッチ回路7Bの出力が1であるとき、比例積分器9Bを所定のプリセット値にセットするように構成すれば簡単に実現できる。比例積分器9Bを所定のプリセット値にセットするとは、比例積分器9Bの積分回路の積分値、すなわち比例積分器9Bの出力を所定のプリセット値にセットするということである。このプリセット値としては、一般に装置定格の0〜20%程度で所望の特性が得られ、厳密な調整は必要ない。すなわち、通電を再開したときの電力変換器3の出力電流は0〜20%という低い値から比例積分器9Bの制御応答性に従って次第に増大するようになるので、安定した運転を行うことが可能となる。
【0024】
以上、説明したように本実施例によれば、負荷に過渡過電流が発生した場合でも故障検出してトリップすることなく運転継続でき、所定の電流制限値内で安定した通電をおこなうことができる静止形周波数変換電源装置が比較的簡単な構成で得られる。また、以下に説明する他の実施例についても同様に上記利点が活かされている。
【実施例2】
【0025】
図2は本発明の実施例2に係わる静止形周波数変換電源の回路ブロック図である。この実施例2の各部について、
図1の本発明の実施例1に係る静止形周波数変換電源装置の各部と同一部分は同一符号で示し、その説明は省略する。この実施例2が実施例1と異なる点は、電力変換器3の出力側にリアクトル14を設けた点である。
【0026】
このリアクトル14は負荷の過渡過電流の電流変化率(di/dt)を抑制するために設ける。電力変換器3は一般に直流回路に平滑コンデンサ33を有する電圧形電力変換器が用いられるが、電圧形電力変換器は負荷に対して電圧源として作用するので、負荷側の短絡事故等で想定されるインピーダンスが小さいほど過渡過電流の電流変化率が大きくなる。一方、過電流検出回路6Aおよび7Aの検出時間遅れのばらつきなどから、電流変化率が大きすぎると過電流検出回路7Aによるゲート遮断動作の前に過電流検出回路6Aが動作し装置が故障トリップする恐れがある。
【0027】
このように負荷特性によって過渡過電流の電流変化率が大きすぎ、回路動作の確実性が損なわれる場合は、リアクトル14を設けることで過渡過電流の変化率の最大値を制限することができる。適正なリアクタンス値は回路の動作時間のばらつきや遅れ時間にもよるが、通常、装置定格ベースの%IXで5〜10%程度のリアクトルの設置で安定した動作が得られる。
【0028】
なお、リアクトル14は、負荷側に図示しないコンデンサを接続することによって、上記過渡電流の変化率抑制の効果と同時に、電力変換器3のPWM出力電圧をフィルタリングするフィルタ用リアクトルとして兼用することもできる。
【実施例3】
【0029】
図3は本発明の実施例3に係わる静止形周波数変換電源装置の回路ブロック図である。この実施例3の各部について、
図2の本発明の実施例2に係る静止形周波数変換電源装置の各部と同一部分は同一符号で示し、その説明は省略する。この実施例3が実施例2と異なる点は、ラッチ回路7Bの出力が1となったことを記憶するラッチ回路15を追加し、更に電流制限値として電流制限値1と電流制限値2を用意し、ラッチ回路15の出力に応じて減算器9Aに与える電流制限値を切替える切替回路16を設けた点である。
【0030】
このような構成とすることで、通常の給電時と過渡過電流が発生した場合とで電流制限動作を変えることができる。すなわち、切替回路16はラッチ回路15の出力が0の通常運転時に電流制限値1を出力し、ラッチ回路15の出力が1のときは電流制限値2に切り替えるように構成する。例えば、電流制限値1を第1の過電流検出回路6Aの閾値(例えば200%)以上に設定し、電流制限値2を第2の過電流検出回路の閾値(例えば175%)より小さい値(例えば150%)に設定すると、電流制限値1が使用されている通常時には負荷電流は常に電流制限値1より小さいのでリミッタ回路の出力は常時1となり、電力変換器3は常時電圧制御のみで動作する。このとき、負荷に過渡過電流が発生して過電流検出回路7Aの閾値を越えた場合には電流制限値2に切り替わり、実施例1で述べた通常の電流制限動作を行うことになる。このようにすれば、通常は動作が単純な電圧制御のみの電源として動作させ、負荷に過渡過電流が発生した可能性がある場合のみ電流制限制御を活かすという運用が可能となる。
【0031】
以上本発明の実施例を説明したが、この実施例は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施例は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施例やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0032】
例えば、
図1における直流−交流変換器32の制御手段は、電圧指令と周波数指令とから単純に出力を決めるような開ループのいわゆるV/f制御として説明したが、電流フィードバックによって有効電流と無効電流を個別に制御する2軸制御としても良い。そしてこの2軸制御の場合は、過電流検出回路6A、7A、減算器9Aに与える電流を有効電流とすることや無効電流とすること、更には両者のベクトル和の電流とすることもできる。
【0033】
また、
図1の開ループ制御を、電力変換器3の出力電圧をフィードバックして電圧の閉ループ制御を行うように変更しても良い。
【0034】
また、電力変換器3は通常の交流−直流変換器と直流−交流変換器の組合せとして説明したが、単位変換器を複数使用した多重構成のものであっても良く、またマトリクスコンバータであっても良く、また変換器方式によっては必ずしもPWM制御を行う必要はない。
【0035】
また、
図3におけるリアクトル14は実施例2の説明で述べたように負荷の特性によっては省略可能である。
【0036】
更に、ラッチ回路7Bの出力が1になった回数をカウンタによってカウントし、このカウント値が所定の値に到達したとき、例えばタイマ回路7Cの出力が生じないようにして電力変換器の出力遮断の解除を行わないようにし、装置の運転継続を諦めることも可能である。この場合、出力遮断の解除を1回乃至2回程度に制限するように、カウント値を設定するのが実用的である。
【符号の説明】
【0037】
1 交流電源
2 入力変圧器
3 電力変換器
4 負荷設備
5 電流検出器
6A、7A 過電流検出回路
6B、7B、15 ラッチ回路
7C タイマ回路
8 OR回路
9A 減算器
9B 比例積分器(プリセット機能付)
9C リミッタ回路
10 電圧基準値(V)生成回路
11 乗算器
12 PWM回路
13 ゲート遮断回路
14 リアクトル
16 切替回路
31 交流−直流変換器(順変換器)
32 直流−交流変換器(逆変換器)
33 平滑コンデンサ