【実施例1】
【0016】
図1ないし
図6は本発明の実施例1に係る車両のクラッチペダル後退防止構造を説明するための図である。
【0017】
図において、1は自動車の車室前部を示しており、該車室前部1は、主として、左,右側壁を構成する左,右のサイドパネル2,2と、前壁を構成するダッシュパネル3と、該ダッシュパネル3の上端部に接続され、車幅方向に延びて前記左,右のサイドパネル2,2の前部間に架設されるフロントカウル4と、底壁を構成するフロアパネル5とで構成されている。
【0018】
前記サイドパネル2,2のフロントピラー2a,2a間には、該両ピラー2a,2aを接続し、車幅方向における剛性を確保するための鋼管製のP-Pメンバ(車体構成部材)6が架設固定されている。また前記フロントカウル4は前記P-Pメンバ6にブラケット6a,7bを介して接続補強されている。
【0019】
また、前記P-Pメンバ6の右側部には、コラムブラケット6bを介してステアリングコラム8が支持されている。このステアリングコラム8は、ステアリングシャフト9を軸支しており、該ステアリングシャフト9の上端部にステアリングホイール10が固定されている。また、前記ステアリングホイール10の後方には、運転者M用のシート11が配設され、該シート11は前記フロアパネル5に取り付けられている。
【0020】
そして前記ステアリングコラム8の左側方には、クラッチペダル機構12が配設されている。このクラッチペダル機構12は、クラッチブラケット13と、該ブラケット13に支持されたペダルアーム15とを有する。
【0021】
前記クラッチブラケット13は、機構支持部13aと、該機構支持部13aから前方に延びる脚部13b,13bを有し、該脚部13bは前記ダッシュパネル3にボルト締め固されている。
【0022】
前記ペダルアーム15の下端部にはペダル面15aが固定され、上部は前記クラッチブラケット13の機構支持部13aに回動軸14により前記ペダル面15aが前後に揺動可能となるように軸支されている。また前記ペダルアーム15の上端部に形成されたボス部15bには図示しないクラッチケーブルが連結されており、前記ペダル面15aを運転者Mが踏み込むことによりクラッチ機構が遮断される。なお、13dはペダルアーム15の最大踏込み位置を規制する踏込みストッパ、13cはペダルアーム15の戻り位置を規制する戻りストッパであり、ペダルアーム15はこの戻り位置に図示しない戻りばねで付勢されている。
【0023】
そして前記P-Pメンバ6の前記ステアリングコラム8の左側方に本実施例の特徴をなす後退防止部材16が片持ち状態に取り付けられている。この後退防止部材16は、鉄製丸棒を所定形状に屈曲させてなる棒体17と、該棒体17を前記P-Pメンバ6に所定強度でもって固定するための取付けブラケット18,18とで構成されている。
【0024】
前記棒体17は、前記P-Pメンバ6に前記取付けブラケット18,18を介して固定された第1アーム部17aと、該第1アーム部17aに続いて、かつ先端部が自由端となるように設けられた第2アーム部17bと、該第1,第2アーム部17a,17bの境界部に形成された変形許容部17cとを有する。
【0025】
より詳細には、前記第1アーム部17aは、前記P-Pメンバ6から下方に延びる基部17dと、該基部17d から車両後方斜め下方に向かって延びる斜辺部17eで構成され、側面視で略く字形状をなしている。また前記第2アーム部17bは、前記第1アーム部17aの斜辺部17eの下端から前方に屈曲されて前方斜め下方に延びる縦アーム部17fと、該縦アーム部17fからさらに車幅方向に前記ステアリングコラム8から離れる方向に屈曲されて略水平に延びる横アーム部17gとを有し、車両前方から見たとき略L字形状をなしている。また前記横アーム部17gは前記ペダルアーム15と車両前後方向に重なっている。
【0026】
また前記取付けブラケット18,18は、前記第1アーム部17aと同様の略く字形状をなしており、該第1アーム部17aを車幅方向両側から挟むように配置されている。そして取付けブラケット18の下端18cは第1アーム部17aと第2アーム部17bの境界部に位置しており、またその上端部18aは前記P-Pメンバ6に溶接固定され、さらにまたその前縁18bは前記第1アーム部17aに溶接固定されている。
【0027】
このように第1アーム部17aを取付けブラケット18,18で補強したことから、該取付けブラケット18の下端18cが位置する部分が上述の変形許容部17cとなっており、前記第2アーム部17bに所定値以上の後向きの荷重が加わると、該第2アーム部17bが前記変形許容部17cを中心に後方に変形することとなる。
【0028】
本実施例構造によれば、通常走行時には、
図1,
図2に示すように、ペダルアーム15はクラッチ接続位置に付勢されて戻りストッパ13cに当接しており、棒体17の横辺部17gとの間には所定の隙間が形成されている。
【0029】
車両の正面衝突により前記ダッシュパネル3が押し潰されて後方に移動すると、該後方移動に伴ってクラッチペダル機構12も後方移動する。この場合、車両衝突前期においては、ペダルアーム15は、前記第2アーム部17bの横辺部17gに当接し、該横辺部17gに相対的に押されて前記回動軸14を中心に
図5の矢印A方向に時計回りに回動し、これによりペダル面15aが相対的に車両前方に移動する。前記クラッチペダル機構12の後方移動に伴って、
図5に実線で示すように、前記ペダルアーム15は、ストッパ13dに当接して前記回動は停止する。
【0030】
そして車両衝突後期において、前記クラッチペダル機構12がさらに後方移動するに伴って、前記変形許容部17cにより、前記第1アーム部17aの傾斜辺部17eと第2アーム部17bの縦辺部17fが略直線状をなすまでの変形が許容される(
図6の矢印B参照)。
【0031】
このように本実施例では、車両衝突前期においては、ペダルアーム15が第2アーム部17bの横アーム部17gに当接することで回動してペダル面15aを相対的に車両前方に移動させるので、ペダル面15a上に運転者Mが脚部を載せていた場合でも、該脚部に作用する荷重を軽減緩和することができる。
【0032】
そして車両衝突後期においては、前記ペダルアーム15から第2アーム部17bに作用する荷重が所定値を越えると、前記変形許容部17cが、前記第1アーム部17aの斜辺部17eと第2アーム部17bの縦アーム部17fとが略直線状をなすまでの変形を許容するので、これによりP-Pメンバ6に作用する荷重が軽減され、後退防止部材16とP-Pメンバ6との接続部周辺が破損するのを防止でき、該破損が生じた場合のようなペダルアーム15の過大な後退を防止できる。
【0033】
本実施例の後退防止部材16は、棒体17を、取付けブラケット18を介して片持ち状態に設けるだけの極めて簡単な構造で上述の作用効果を実現しており、また片持ち構造であるから、後退防止部材16の先端部を固定するための車体構成部材が不要であり、軽量化と低コスト化を図ることができる。
【0034】
また前記取付けブラケット18により第1アーム部17aを補強するとともに、該取付けブラケット18の下端18cを第1アーム部17aと第2アーム部17bとの境界部に位置させることで変形許容部17cを実現しており、この点からも構造が簡単である。
【0035】
なお、本発明では、
図2に二点鎖線で示すように、前記取付けブラケット18の下端18cに延長部18dを設けることもできる。このように構成した場合は、該延長部18dにより前記衝突後期において第2アーム部17bが第1アーム部17aと直線状をなす位置を越えて変形するのを防止でき、これによりクラッチペダル機構12が過大に後退するのを防止できる。
【0036】
また前記実施例では、クラッチペダルの後退防止構造を説明したが、本発明は、ブレーキペダル,足踏み式パーキングブレーキ,さらには吊り下げ式アクセルペダルにも適用可能である。