特許第6029994号(P6029994)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6029994
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】車両のペダル後退防止構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/08 20060101AFI20161114BHJP
【FI】
   B62D25/08 J
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-16843(P2013-16843)
(22)【出願日】2013年1月31日
(65)【公開番号】特開2014-148203(P2014-148203A)
(43)【公開日】2014年8月21日
【審査請求日】2015年12月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087619
【弁理士】
【氏名又は名称】下市 努
(72)【発明者】
【氏名】川畑 雅稔
(72)【発明者】
【氏名】井上 嘉亮
【審査官】 林 政道
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−073800(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0275204(US,A1)
【文献】 特開2011−096181(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 17/00−25/08
B62D 25/14−29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両衝突時に車体前部が後方に向かって変形移動するのに伴って、車体に回動軸を介して回動可能に吊り設されたペダルアームが後方に移動するのを防止又は抑制する後退防止部材を備えた車両のペダル後退防止構造であって、
前記後退防止部材は、前記ペダルアームの上方に配設された車体構成部材に固定され、該車体構成部材から下方に延びる取付けブラケットと、
該取付けブラケットに沿うように上下方向に延び、該取付けブラケットに固定された第1アーム部と、
該第1アーム部に続いて片持ち状態をなし、かつ車両前方に屈曲するように設けられた第2アーム部と、
前記後退防止部材の、前記第1アーム部と第2アーム部の境界部に位置し、かつ前記取付けブラケットの下端に位置する部分に形成された変形許容部とを有し、
車両衝突前期においては、前記第2アーム部が、前記ペダルアームのペダル面が相対的に車両前方に移動するように該ペダルアームを前記回動軸を中心に回動させ、
車両衝突後期においては、前記ペダルアームから前記第2アーム部に作用する荷重が所定値を越えると、前記変形許容部が、前記第1,第2アーム部が略直線状をなすまでの変形を許容する
ことを特徴とする車両のペダル後退防止構造。
【請求項2】
請求項1に記載の車両のペダル後退防止構造において、
前記第1アーム部は、前記車体構成部材から車両後方下方に向かって延設され、
前記第2アーム部は、前記第1アーム部の下端から車両前方下方に屈曲形成された縦アーム部と、該縦アーム部からさらに車幅方向に略水平に屈曲形成された横アーム部とを有し、該横アーム部は前記ペダルアームと車両前後方向に重なっており、
前記変形許容部は、車両衝突時に前記第1アーム部と前記第2アーム部の縦アーム部とが略直線状をなすまでの変形を許容する
ことを特徴とする車両のペダル後退防止構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両衝突時に、車体前部が後方に向かって変形移動した場合に、該変形移動に伴ってペダル類が後方に移動するのを防止又は抑制する車両のペダル後退防止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両のペダル後退防止構造として、例えば、特許文献1に開示されたものがある。この従来構造では、後退防止部材の、一端を車幅方向に延びる車体構成部材であるピラーツーピラーメンバ(以下、P-Pメンバと記す)に、他端をP-Pメンバとフロアパネルとを接続するフロアブレースにそれぞれ固定している。車両衝突時に、車体前部の後方移動に伴って吊り下げ式ペダルアームが前記後退防止部材に当接したとき、該ペダルアームを回動軸回りに回動させ、もってペダル面を相対的に車両前方に移動させ、さらにペダルアームが後方移動した場合には、前記後退防止部材を後方に移動させるように構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4338136号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来の構造では、後退防止部材の一端,他端を、それぞれ車体構成部材であるP-Pメンバ,フロアブレースに固定しているので、該後退防止部材をペダルアームの当接により後退移動させるために、例えば、後退防止部材を、複数の屈曲部を有する複雑な形状の線材で構成する、あるいは互いにスライド可能の2部品で構成する、というように構造が複雑になり、また部品点数が増加し、コストが増大するという問題がある。
【0005】
本発明は、前記従来の状況に鑑みてなされたもので、軽量かつ簡単な構造により、車両衝突時にペダル類を回動させることで乗員に大きな荷重が作用するのを防止でき、かつ車両衝突時の車体前部の後退移動により後退防止部材と車体構成部材との接続部周辺が破壊されるのを防止できる車両のペダル後退防止構造を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、車両衝突時に車体前部が後方に向かって変形移動するのに伴って、車体に回動軸を介して回動可能に吊り設されたペダルアームが後方に移動するのを防止又は抑制する後退防止部材を備えた車両のペダル後退防止構造であって、
前記後退防止部材は、前記ペダルアームの上方に配設された車体構成部材に固定され、該車体構成部材から下方に延びる取付けブラケットと、該取付けブラケットに沿うように上下方向に延び、該取付けブラケットに固定された第1アーム部と、該第1アーム部に続いて片持ち状態をなし、かつ車両前方に屈曲するように設けられた第2アーム部と、前記後退防止部材の、前記第1アーム部と第2アーム部の境界部に位置し、かつ前記取付けブラケットの下端に位置する部分に形成された変形許容部とを有し、車両衝突前期においては、前記第2アーム部が、前記ペダルアームのペダル面が相対的に車両前方に移動するように該ペダルアームを前記回動軸を中心に回動させ、車両衝突後期においては、前記ペダルアームから前記第2アーム部に作用する荷重が所定値を越えると、前記変形許容部が、前記第1,第2アーム部が略直線状をなすまでの変形を許容することを特徴としている。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載の車両のペダル後退防止構造において、
前記第1アーム部は、前記車体構成部材から車両後方下方に向かって延設され、
前記第2アーム部は、前記第1アーム部の下端から車両前方下方に屈曲形成された縦アーム部と、該縦アーム部からさらに車幅方向に略水平に屈曲形成された横アーム部とを有し、該横アーム部は前記ペダルアームと車両前後方向に重なっており、
前記変形許容部は、車両衝突時に前記第1アーム部と前記第2アーム部の縦アーム部とが略直線状をなすまでの変形を許容することを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の発明によれば、後退防止部材を、車体構成部材に固定された第1アーム部と、該第1アーム部に続いて片持ち状態に設けられた第2アーム部と、該第1,第2アームの境界部に形成された変形許容部とを有するものとした。
【0009】
そのため、車両衝突前期においては、ペダルアームが後方移動するに伴って第2アーム部に当接してその回動軸を中心に回動し、ペダルアームのペダル面が相対的に車両前方に移動し、その結果、ペダル面上に乗員が脚部を載せていた場合でも、該脚部に作用する荷重を軽減緩和することができる。
【0010】
そして車両衝突後期においては、前記ペダルアームから第2アーム部に作用する荷重が所定値を越えると、前記変形許容部が、前記第1,第2アーム部が略直線状をなすまでの変形を許容し、これにより前記ペダルアームから後退防止部材を介して車体構成部材に作用する荷重を軽減緩和することができ、後退防止部材と車体構成部材との接続部周辺が直ちに破損する等によりペダルアームが過大に後退するのを防止できる。
【0011】
請求項2の発明によれば、第1アーム部を車体構成部材から車両後方下方に向かって延びるものとし、第2アーム部を、該第1アーム部から前方下方に屈曲する縦アーム部と、該縦アーム部からさらに車幅方向に略水平に屈曲し、かつ前記ペダルアームと車両前後方向に重なる横アーム部とを有するものとした。
【0012】
そのため車両衝突前期においては、ペダルアームが第2アーム部の横アーム部に当接することで回動してペダル面を相対的に車両前方に移動させ、その結果、ペダル面上に乗員が脚部を載せていた場合でも、該脚部に作用する荷重を軽減緩和することができる。
【0013】
そして車両衝突後期においては、前記ペダルアームから第2アーム部に作用する荷重が所定値を越えると、前記変形許容部が、前記第1アームと第2アーム部の縦アーム部とが略直線状をなすまでの変形を許容し、これにより車体構成部材に作用する荷重を軽減して後退防止部材と車体構成部材との接続部周辺の破損によるペダルアームの過大な後退を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施例1による車両のクラッチペダル後退防止構造の側面図である。
図2】前記クラッチペダル後退防止構造の車両衝突前の側面図である。
図3】前記クラッチペダル後退防止構造の車両衝突前の平面図である。
図4】前記クラッチペダル後退防止構造の車両衝突前の背面図である。
図5】前記クラッチペダル後退防止構造の車両衝突前期の側面図である。
図6】前記クラッチペダル後退防止構造の車両衝突後期の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0016】
図1ないし図6は本発明の実施例1に係る車両のクラッチペダル後退防止構造を説明するための図である。
【0017】
図において、1は自動車の車室前部を示しており、該車室前部1は、主として、左,右側壁を構成する左,右のサイドパネル2,2と、前壁を構成するダッシュパネル3と、該ダッシュパネル3の上端部に接続され、車幅方向に延びて前記左,右のサイドパネル2,2の前部間に架設されるフロントカウル4と、底壁を構成するフロアパネル5とで構成されている。
【0018】
前記サイドパネル2,2のフロントピラー2a,2a間には、該両ピラー2a,2aを接続し、車幅方向における剛性を確保するための鋼管製のP-Pメンバ(車体構成部材)6が架設固定されている。また前記フロントカウル4は前記P-Pメンバ6にブラケット6a,7bを介して接続補強されている。
【0019】
また、前記P-Pメンバ6の右側部には、コラムブラケット6bを介してステアリングコラム8が支持されている。このステアリングコラム8は、ステアリングシャフト9を軸支しており、該ステアリングシャフト9の上端部にステアリングホイール10が固定されている。また、前記ステアリングホイール10の後方には、運転者M用のシート11が配設され、該シート11は前記フロアパネル5に取り付けられている。
【0020】
そして前記ステアリングコラム8の左側方には、クラッチペダル機構12が配設されている。このクラッチペダル機構12は、クラッチブラケット13と、該ブラケット13に支持されたペダルアーム15とを有する。
【0021】
前記クラッチブラケット13は、機構支持部13aと、該機構支持部13aから前方に延びる脚部13b,13bを有し、該脚部13bは前記ダッシュパネル3にボルト締め固されている。
【0022】
前記ペダルアーム15の下端部にはペダル面15aが固定され、上部は前記クラッチブラケット13の機構支持部13aに回動軸14により前記ペダル面15aが前後に揺動可能となるように軸支されている。また前記ペダルアーム15の上端部に形成されたボス部15bには図示しないクラッチケーブルが連結されており、前記ペダル面15aを運転者Mが踏み込むことによりクラッチ機構が遮断される。なお、13dはペダルアーム15の最大踏込み位置を規制する踏込みストッパ、13cはペダルアーム15の戻り位置を規制する戻りストッパであり、ペダルアーム15はこの戻り位置に図示しない戻りばねで付勢されている。
【0023】
そして前記P-Pメンバ6の前記ステアリングコラム8の左側方に本実施例の特徴をなす後退防止部材16が片持ち状態に取り付けられている。この後退防止部材16は、鉄製丸棒を所定形状に屈曲させてなる棒体17と、該棒体17を前記P-Pメンバ6に所定強度でもって固定するための取付けブラケット18,18とで構成されている。
【0024】
前記棒体17は、前記P-Pメンバ6に前記取付けブラケット18,18を介して固定された第1アーム部17aと、該第1アーム部17aに続いて、かつ先端部が自由端となるように設けられた第2アーム部17bと、該第1,第2アーム部17a,17bの境界部に形成された変形許容部17cとを有する。
【0025】
より詳細には、前記第1アーム部17aは、前記P-Pメンバ6から下方に延びる基部17dと、該基部17d から車両後方斜め下方に向かって延びる斜辺部17eで構成され、側面視で略く字形状をなしている。また前記第2アーム部17bは、前記第1アーム部17aの斜辺部17eの下端から前方に屈曲されて前方斜め下方に延びる縦アーム部17fと、該縦アーム部17fからさらに車幅方向に前記ステアリングコラム8から離れる方向に屈曲されて略水平に延びる横アーム部17gとを有し、車両前方から見たとき略L字形状をなしている。また前記横アーム部17gは前記ペダルアーム15と車両前後方向に重なっている。
【0026】
また前記取付けブラケット18,18は、前記第1アーム部17aと同様の略く字形状をなしており、該第1アーム部17aを車幅方向両側から挟むように配置されている。そして取付けブラケット18の下端18cは第1アーム部17aと第2アーム部17bの境界部に位置しており、またその上端部18aは前記P-Pメンバ6に溶接固定され、さらにまたその前縁18bは前記第1アーム部17aに溶接固定されている。
【0027】
このように第1アーム部17aを取付けブラケット18,18で補強したことから、該取付けブラケット18の下端18cが位置する部分が上述の変形許容部17cとなっており、前記第2アーム部17bに所定値以上の後向きの荷重が加わると、該第2アーム部17bが前記変形許容部17cを中心に後方に変形することとなる。
【0028】
本実施例構造によれば、通常走行時には、図1図2に示すように、ペダルアーム15はクラッチ接続位置に付勢されて戻りストッパ13cに当接しており、棒体17の横辺部17gとの間には所定の隙間が形成されている。
【0029】
車両の正面衝突により前記ダッシュパネル3が押し潰されて後方に移動すると、該後方移動に伴ってクラッチペダル機構12も後方移動する。この場合、車両衝突前期においては、ペダルアーム15は、前記第2アーム部17bの横辺部17gに当接し、該横辺部17gに相対的に押されて前記回動軸14を中心に図5の矢印A方向に時計回りに回動し、これによりペダル面15aが相対的に車両前方に移動する。前記クラッチペダル機構12の後方移動に伴って、図5に実線で示すように、前記ペダルアーム15は、ストッパ13dに当接して前記回動は停止する。
【0030】
そして車両衝突後期において、前記クラッチペダル機構12がさらに後方移動するに伴って、前記変形許容部17cにより、前記第1アーム部17aの傾斜辺部17eと第2アーム部17bの縦辺部17fが略直線状をなすまでの変形が許容される(図6の矢印B参照)。
【0031】
このように本実施例では、車両衝突前期においては、ペダルアーム15が第2アーム部17bの横アーム部17gに当接することで回動してペダル面15aを相対的に車両前方に移動させるので、ペダル面15a上に運転者Mが脚部を載せていた場合でも、該脚部に作用する荷重を軽減緩和することができる。
【0032】
そして車両衝突後期においては、前記ペダルアーム15から第2アーム部17bに作用する荷重が所定値を越えると、前記変形許容部17cが、前記第1アーム部17aの斜辺部17eと第2アーム部17bの縦アーム部17fとが略直線状をなすまでの変形を許容するので、これによりP-Pメンバ6に作用する荷重が軽減され、後退防止部材16とP-Pメンバ6との接続部周辺が破損するのを防止でき、該破損が生じた場合のようなペダルアーム15の過大な後退を防止できる。
【0033】
本実施例の後退防止部材16は、棒体17を、取付けブラケット18を介して片持ち状態に設けるだけの極めて簡単な構造で上述の作用効果を実現しており、また片持ち構造であるから、後退防止部材16の先端部を固定するための車体構成部材が不要であり、軽量化と低コスト化を図ることができる。
【0034】
また前記取付けブラケット18により第1アーム部17aを補強するとともに、該取付けブラケット18の下端18cを第1アーム部17aと第2アーム部17bとの境界部に位置させることで変形許容部17cを実現しており、この点からも構造が簡単である。
【0035】
なお、本発明では、図2に二点鎖線で示すように、前記取付けブラケット18の下端18cに延長部18dを設けることもできる。このように構成した場合は、該延長部18dにより前記衝突後期において第2アーム部17bが第1アーム部17aと直線状をなす位置を越えて変形するのを防止でき、これによりクラッチペダル機構12が過大に後退するのを防止できる。
【0036】
また前記実施例では、クラッチペダルの後退防止構造を説明したが、本発明は、ブレーキペダル,足踏み式パーキングブレーキ,さらには吊り下げ式アクセルペダルにも適用可能である。
【符号の説明】
【0037】
3 ダッシュパネル(車体前部)
6 P-Pメンバ(車体構成部材)
14 回動軸
15 ペダルアーム
15a ペダル面
16 後退防止部材
17a 第1アーム部
17b 第2アーム部
17c 変形許容部
17f 縦アーム部
17g 横アーム部
図1
図2
図3
図4
図5
図6