【実施例1】
【0017】
以下、実施例1に係る画像処理装置の構成について説明する。
【0018】
図1は、本発明の実施例1に係る画像処理装置1の構成を示すブロック図である。
【0019】
この図に示すように、画像処理装置1は、画像処理装置本体10と、入力装置4と、表示装置5とを有する。入力装置4は、キーボード、タッチパネル、ポインティングデバイスなどである。表示装置5は、液晶ディスプレイなどである。
【0020】
画像処理装置本体10は、例えばプロセッサ及びメモリを備える汎用的なコンピュータシステムにより構成され、以下に説明する画像処理装置本体10内の個々の構成要素または機能は、例えば、コンピュータプログラムを実行することにより実現される。そのコンピュータプログラムは、コンピュータ読みとり可能な記録媒体に格納可能である。
【0021】
画像処理装置本体10は、記憶部20と、正規化部30と、フラクタル次元算出部40と、判定部50と、表示制御部60とを有する。記憶部20は、撮影データ記憶部22と、正規化データ記憶部23と、フラクタル次元データ記憶部24と、判定データ記憶部25とを有する。
【0022】
撮影データ記憶部22は、心電図同期SPECTにより撮影された撮影データを格納する。正規化部30は、撮影データを正規化して正規化データを算出し、正規化データを正規化データ記憶部23へ格納する。フラクタル次元算出部40は、正規化データのフラクタル次元を示すフラクタル次元データを算出し、フラクタル次元データをフラクタル次元データ記憶部24へ格納する。判定部50は、フラクタル次元データに基づいて、心不全による突然死のリスクを判定し、判定結果を判定データとして判定データ記憶部25へ格納する。表示制御部60は、ユーザによる入力装置4への入力に基づいて、記憶部20に格納されたデータを、表示装置5に表示させる。
【0023】
以下、撮影データについて説明する。
【0024】
図2は、撮影データの構成を示す模式図である。
【0025】
心電図同期SPECTシステムは、心電図同期SPECTの撮影及び断層画像の再構成を行う。この心電図同期SPECTシステムは、心電
図310と同期させて、各フェーズ(位相)における心臓のSPECT画像を生成する。まず、心電図同期SPECTシステムは、心電図のR波同士の時間間隔(R−R間隔:心臓の運動の1周期)をN(Nは2以上の整数)等分し、R−R間隔の1/Nのサンプリング周期で各フェーズのSPECT画像を撮影する。この撮影は、少なくとも心拍の1周期以上の間継続して行われる。なお、この図ではN=16の例を示したが、Nは任意であって、例えば、8,20,32などでもよい。この図は更に、左室のボリュームの時間変化330を示す。このようにN個のフェーズは、収縮期と拡張期に分かれる。
【0026】
更に、心電図同期SPECTシステムは、各フェーズのSPECT画像から、所定軸に垂直なM個のスライスの断層画像320を生成する。本実施例では、断層画像として、左心室の短軸(Short Axis)断層画像を用いる。即ち、M個の断層画像は、心基部と心突部を結ぶ短軸に対して垂直なM個の断面を夫々示す。なお、短軸(Short Axis)断層画像以外にも、長軸垂直断層(Vertical Long Axis)画像、長軸水平断層(Horizontal Long Axis)画像などを用いることができる。
【0027】
M個のスライスは、予め定められたスライス間隔を有する。本実施例においてスライス数Mは可変であるが、固定値であっても良い。各断層画像のサイズは例えば、128ピクセル×128ピクセルである。各断層画像内の画素値は例えば、RIの放射能の強度(カウント値)に応じた256階調の濃度を表す。
【0028】
これにより、心電図同期SPECTシステムは、1回の検査により、N×M枚の断層画像を生成し、撮影データとして撮影データ記憶部22へ格納する。各断層画像には、フェーズ番号(1、2、…N)とスライス番号(1、2、…M)が付される。
【0029】
なお、撮影データは、或る被験者を安静時に撮影したものであっても良いし、その被験者を負荷(薬剤負荷又は運動負荷)時に撮影したものであっても良い。
【0030】
なお、画像処理装置1は、心電図同期SPECTシステムの一部であっても良い。
【0031】
以下、画像処理装置1の動作について説明する。
【0032】
図3は、画像処理装置1の動作を示すフローチャートである。
【0033】
正規化部30は、撮影データ記憶部22に格納された撮影データから、特定フェーズのM個の断層画像を対象画像群として取得し、対象画像群内の全ての画素値を正規化して正規化画像群に変換し、正規化画像群を含む正規化データを正規化データ記憶部23へ保存する(S110)。この正規化において、例えば、正規化部30は、対象画像群内の画素値を基準画素値で除し、その結果に100を乗じることにより正規化画像群内の画素値を算出する。基準画素値は例えば、撮影データ内の対象画像群の全ての画素値の最大値である。これにより、正規画像群内の画素値の最大値は100になる。なお、基準画素値は、対象画像群内の全ての画素値の最大値であっても良い。なお、撮影データは、対象画像群だけであっても良い。
【0034】
その後、フラクタル次元算出部40は、正規化データ記憶部23から正規化データを取得し、正規化画像群のフラクタル次元(FD:fractal dimension)を示すフラクタル次元データを算出し、フラクタル次元データ記憶部24へ格納する(S120)。
【0035】
このFDの算出において、例えば、フラクタル次元算出部40は、0から100までの範囲内で予め定められた複数の画素閾値の一つを対象画素閾値として選択する。複数の画素閾値は例えば、70、80、90等である。その後、フラクタル次元算出部40は、正規化画像群内の全ての画素のうち、対象画素閾値より高い画素値を有する画素の数を、適合画素数としてカウントする。その後、フラクタル次元算出部40は、複数の画素閾値の全てについて、適合画素数をカウントする。その後、フラクタル次元算出部40は、ln(適合画素数)をln(画素閾値)の一次関数として近似し、その一次関数により表される回帰直線の傾きの絶対値をFDとして算出する。ここでln(z)は、自然対数を表す。フラクタル次元算出部40は例えば、最小二乗法により回帰直線を求める。
【0036】
図4は、フラクタル次元の算出方法の一例を示す図である。この図において、横軸xはln(画素閾値)を示し、縦軸yはln(適合画素数)を示す。即ち、この図は、画素閾値と適合画素数の関係を示す両対数グラフである。図中の直線は、図中の各点110から得られる回帰直線120である。回帰直線120は、y=−ax+bで表される。フラクタル次元算出部40は、この回帰直線120の傾きの絶対値aをFDとして算出する。
【0037】
判定部50は、フラクタル次元データ記憶部24からフラクタル次元データを取得し、FDが予め定められたFD閾値(フラクタル次元閾値)より高いか否かを判定し、その結果を示す判定データを判定データ記憶部25へ格納する(S130)。本実施例において、心電図同期SPECTによる正規化画像群のFDは、心臓におけるRIの集積の不均一性を表す。例えば、心筋梗塞により血流の分布の異常がある場合、断層画像の一部が欠損するため、正規化画像群の不均一性が増加する。また、虚血の場合、断層画像は淡い濃度になる。また、FDは、心筋が受けたダメージの大きさを示すということもできる。これにより、判定部50は、FDがFD閾値より高い場合、心不全による突然死のリスクが高いと判定する。
【0038】
表示制御部60は、判定データ記憶部25から判定データを取得し、判定データに基づく画面を表示装置5に表示させる(S140)。例えば、表示制御部60は、判定データに基づいて、心不全により突然死のリスクが高いか否かを示す情報を表示装置5に表示させる。なお、表示制御部60は、記憶部20内の撮影データ、正規化データ、フラクタル次元データの何れかを取得し、取得されたデータに基づく画面を表示装置5に表示させても良い。
【0039】
以上が画像処理装置1の動作である。この動作によれば、心電図同期SPECTから得られた撮影データに基づいて、心不全のリスクを判定することができる。
【0040】
以下、前述の特定フェーズの決定方法について説明する。
【0041】
心電図同期SPECTシステムは、複数の症例(被検者)について、安静時の心電図同期SPECTの撮影と負荷時の心電図同期SPECTの撮影とを行う。画像処理装置1が、安静時及び負荷時の複数のフェーズの夫々を特定フェーズとした場合の判定データについて、ROC(Receiver Operating Characteristic)解析を行う。ここで、ROC解析における正しい判定結果は、同一の被験者について別の基準の判定方法により心不全か否かを判定した判定結果である。本実施例において、基準の判定方法は、EFがEF閾値以下である被験者を心不全であると判定する。EF閾値は例えば61である。このようなROC解析により複数の判定データを比較し、最適なフェーズを決定する。
【0042】
ROC解析において、複数の症例のうち、EFにより心不全と判定された症例を異常症例とし、EFにより心不全でないと判定された症例を正常症例とする。FDの値の範囲に複数の基準点を設定し、画像処理装置1は、各基準点をFD閾値に設定して判定を行う。即ち、画像処理装置1は、FDが基準点以上である場合に高リスクと判定する。或る基準点において、異常症例のうち画像処理装置1により高リスクと判定された症例を真陽性とし、正常症例のうち画像処理装置1により高リスクと判定された症例を偽陽性とし、異常症例のうち画像処理装置1により低リスクと判定された症例を偽陰性とし、正常症例のうち画像処理装置1により低リスクと判定された症例を真陰性とする。
【0043】
これらの症例の数を用いて、真陰性率(TNF:true negative fraction、特異度とも呼ばれる)は、真陰性数/正常症例数で表され、偽陰性率(FNF:false negative fraction)は、偽陰性数/正常症例数で表され、偽陽性率(FPF:false positive fraction)は、偽陽性数/異常症例数で表され、真陽性率(TPF:true positive fraction、感度とも呼ばれる)は、真陽性数/異常症例数で表される。
【0044】
図5は、ROC曲線を示す図である。
【0045】
ここで安静時(R:Rest)に撮影された16個のフェーズと、負荷時(St:Stress)に撮影された16個のフェーズとの中から、6個の対象フェーズについてROC解析を行った。この図は、安静時の収縮末期(R−systole:フェーズ番号=8)のROC曲線211と、安静時の拡張中期(R−mid−diastole:フェーズ番号=14)のROC曲線212と、安静時の拡張末期(R−diastole:フェーズ番号=16)のROC曲線213と、負荷時の収縮末期(St−systole:フェーズ番号=8)のROC曲線221と、負荷時の拡張中期(St−mid−diastole:フェーズ番号=14)のROC曲線222と、負荷時の拡張末期(St−diastole:フェーズ番号=16)のROC曲線223とを示す。
【0046】
この図において、横軸は偽陽性率(FPF)であり、縦軸は真陽性率(TPF)である。6個の対象フェーズのROC曲線211、212、213、221、222、223の夫々の下側の面積AUC(Area under the curve)を比較すると、安静時の拡張中期のROC曲線212のAUCが最も大きい。ROC解析において、AUCが大きいほど、判定の精度が高いことが知られている。これにより、画像処理装置1は、特定フェーズとして、安静時の拡張中期を用いることが望ましい。このような決定方法によれば、画像処理装置1に最適なフェーズを決定することができる。
【0047】
以下、FD閾値の決定方法について説明する。
【0048】
前述のROC解析により得られる真陽性率、偽陰性率、偽陽性率、及び真陰性率を用いて、オッズは、真陽性率/偽陰性率と、偽陽性率/真陰性率とで表され、オッズ比は、(真陽性率/偽陰性率)/(偽陽性率/真陰性率)で表される。各基準点のオッズ比を算出し、オッズ比が最大になる基準点の値を、FD閾値とする。前述のROC解析に用いられたデータによれば、FD閾値は、4.43である。このような決定方法によれば、画像処理装置1に最適なFD閾値を決定することができる。
【0049】
なお、FD閾値は、性別や疾患毎に得られる複数の被験者のFDに基づいて決定されても良い。これにより、判定の精度を向上させることができる。
【実施例2】
【0050】
本実施例では、実施例1と同一部分については説明を省略し、実施例1と異なる部分を中心に説明する。
【0051】
図6は、実施例2に係る画像処理装置1の構成を示すブロック図である。実施例1と比較すると、画像処理装置1は、判定部50の代わりに判定部50bを有する。記憶部20は、新たに評価データ記憶部26を有し、判定データ記憶部25の代わりに判定データ記憶部25bを有する。
【0052】
評価データ記憶部26は、撮影データの被験者の心機能の評価結果であり、FDと異なる心不全の指標である評価データを格納する。本実施例において、評価データは、EFである。判定部50bは、フラクタル次元データと評価データとに基づいて、当該被験者の心不全に関する判定を行い、判定結果を判定データとして判定データ記憶部25bへ格納する。
【0053】
以下、判定部50bの動作について説明する。
【0054】
図7は、実施例2の判定方法を示す模式図である。この図において、横軸はEFを示し、縦軸はFDを示す。この図は更に、EF閾値及びFD閾値を示す。判定部50bは、評価データに示されているEFと、フラクタル次元データに示されているFDとの組み合わせを、4つの領域A、B、C、Dの何れであるかを判定し、判定データとして判定データ格納部15へ格納する。領域Aは、EFがEF閾値より高く、且つFDがFD閾値以下で領域であり、心機能が正常に近いことを示す。領域Bは、EFがEF閾値以下で、且つFDがFD閾値以下である領域であり、心筋ダメージが小さいので積極的にポンプ機能改善を目指した治療が必要であることを示す。領域Cは、EFがEF閾値以下で、且つFDがFD閾値より高い領域であり、心不全による突然死のリスクが領域A及びBに比べて高いことを示す。領域Dは、EFがEF閾値より高く、且つFDがFD閾値より高い領域であり、心不全による突然死のリスクが領域A〜Dの中で最も高いことを示す。
【0055】
表示制御部60は、判定データ記憶部25bに格納されている判定データを読み出し、判定データに基づく表示情報を表示装置5に表示させる。表示情報は例えば、判定された領域が示す状態であっても良いし、前述のEF及びFDの座標系に被験者のEF及びFDの座標を示しても良い。
【0056】
本実施例によれば、FDと別の評価データとを組み合わせることにより、心疾患の状態の判定の精度を向上させることができる。例えば、EFとFDを組み合わせて判定を行うことにより、ポンプ機能の障害と突然死のリスクとの両方を評価することができる。
【0057】
なお、ROC解析における基準の判定方法や、評価データとして、EFの代わりに、ANP(atrial natriuretic peptide)、BNP(brain natriuretic peptide)、NYHA(New York Heart Association)分類等が用いられても良い。
【0058】
用語について説明する。算出ステップは、S110及びS120等に対応する。判定ステップは、S130等に対応する。記憶手段は、記憶部20等に対応する。算出手段は、正規化部30及びフラクタル次元算出部40等に対応する。判定手段は、判定部50等に対応する。3次元画像データは、対象画像群等に対応する。評価データ閾値は、EF閾値等に対応する。
【0059】
上述した本発明の実施形態は、本発明の説明のための例示であり、本発明の範囲をそれらの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。当業者は、本発明の要旨を逸脱することなしに、他の様々な態様で本発明を実施することができる。