(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記電波環境識別部は、2以上の送信源を、1つの独立する送信源として扱う場合、前記2以上の送信源について推定された方位を、前記複数の粒子フィルタ部のうちいずれか1つで前記フィルタリング処理を実施させる請求項2又は3に記載の方位測定装置。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0010】
図1は、本実施形態に係る方位測定装置30を有するレーダ装置の機能構成を示すブロック図である。
図1に示すレーダ装置は、アレーアンテナ10−1〜10−N、受信処理部20及び方位測定装置30を備える。
【0011】
アレーアンテナ10−1〜10−Nは、到来波である電波を受信し、受信信号を受信処理部20へ出力する。到来波には、独立した信号、及び、マルチパスにより生じる相互に干渉し合う信号が含まれる。マルチパスにより生じる信号は、時間選択性フェージングの影響、及び/又は、周波数選択性フェージングの影響を受ける。
【0012】
受信処理部20は、アレーアンテナ10−1〜10−Nで受信されるRF(Radio Frequency)帯の受信信号を、IF(Intermediate Frequency)帯又はベースバンド帯の信号へ周波数変換する。また、受信処理部20は、周波数変換後の信号をアナログ−デジタル変換する。受信処理部20は、デジタル変換した受信信号を方位測定装置30へ出力する。
【0013】
方位測定装置30は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、並びに、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等のCPUが処理を実行するためのプログラムやデータの格納領域等を含む。方位測定装置30は、CPUにアプリケーション・プログラムを実行させることで、電波環境識別部31、方位推定部32、遅延部33、粒子フィルタ部34−1〜34−M及び切替部35を備える。
【0014】
電波環境識別部31は、受信処理部20から出力される受信信号を参照し、電波環境を分析する。電波環境識別部31の具体的な処理の例を以下に説明する。
【0015】
電波環境識別部31は、
図2及び
図3に示すように、受信信号を予め設定した周波数幅を有するサブバンドに分ける。
図2は到来波に周波数選択性フェージングの影響を受けている信号が含まれている場合の周波数スペクトラムの模式図を示し、
図3は到来波にそのような信号が含まれていない場合の周波数スペクトラムを示す。電波環境識別部31は、各サブバンドに対する相関行列の固有ベクトルを計算し、サブバンド毎の固有ベクトル間の相関係数を計算する。
【0016】
電波環境識別部31は、サブバンド毎の固有ベクトル間の相関係数から、到来波に周波数選択性フェージングの影響を受けている信号があるか否かを判断する。
図4は到来波に周波数選択性フェージングの影響を受けている信号が含まれている場合の固有ベクトルの類似度を示し、
図5は到来波にそのような信号が含まれていない場合の固有ベクトルの類似度を示す。
図4に示すように固有ベクトルの類似度に、周波数に依存した変動がある場合、電波環境識別部31は、周波数選択性フェージングの影響を受けている信号があると判断する。
【0017】
周波数選択性フェージングの影響を受けている信号がある場合、到来波には、所定の時間差で複数の信号が含まれる。電波環境識別部31は、固有ベクトルの類似度がピークを示す周波数間の周波数差に基づいて、周波数選択性フェージングを及ぼし合う信号間の遅延差を算出する。電波環境識別部31は、算出した遅延差が予め設定した遅延差以上の信号は別々の送信源から送信された信号とし、算出した遅延差が予め設定した遅延差未満の信号は同一の送信源から送信された信号であるとする。このように、電波環境識別部31は、受信信号に含まれる信号を送信した、独立した送信源の数を判定する。電波環境識別部31は、粒子フィルタ部34−1〜34−Mのうち、判定した送信源の数に応じた数の粒子フィルタ部に対し、遅延部33から出力される方位情報についてのフィルタリング処理を実施するように指示を出す。このとき、電波環境識別部31は、粒子フィルタ部34−1〜34−Mへフィルタリング処理を実施する指示を出すと共に、各粒子フィルタ部34−1〜34−Mでフィルタリング処理の対象とする送信源についても指定する。また、電波環境識別部31は、粒子フィルタ部34−1〜34−Mでフィルタリング処理された方位情報を、推定方位情報として後段へ出力するように、切替部35に対して指示を出す。
【0018】
なお、電波環境識別部31は、受信信号に含まれる信号の送信源の方位を推定するようにしても良い。このとき、電波環境識別部31は、送信源の方位の差が予め設定した角度未満である場合、それらの送信源は同一であるとし、送信源の方位の差が予め設定した角度以上である場合は、別々の送信源であるとする。
【0019】
到来波に周波数選択性フェージングの影響を受けている信号がない場合であっても、時間選択性フェージングの影響を受けている信号が含まれる場合がある。電波環境識別部31は、受信信号の瞬時SNR(Signal to Noise Ratio)の変動を時系列で確認し、瞬時SNRが予め設定した閾値以上となるか否かを判断する。瞬時SNRが閾値未満である場合、電波環境識別部31は、時間選択性フェージングの影響を受ける信号が含まれるとして、粒子フィルタ部34−1〜34−Mのいずれかに対して、遅延部33から出力される方位情報についてフィルタリング処理を実施するように指示を出す。また、電波環境識別部31は、粒子フィルタ部34−1〜34−Mでフィルタリング処理された方位情報を、推定方位情報として後段へ出力するように、切替部35に対して指示を出す。
【0020】
瞬時SNRが閾値以上となる場合、電波環境識別部31は、固有ベクトルの要素の絶対値の分散が予め設定する閾値以上であるか否かを判断する。
図6は、固有ベクトルの要素の絶対値の分散と関連するエラー(方位誤差)[deg.]が、どの程度の頻度で発生するかを示す図である。
図6によれば、分散が大きい場合、大きな方位誤差が発生する頻度が高くなることがわかる。そこで、電波環境識別部31は、分散が所定の値以上となる場合には、粒子フィルタ部によるフィルタリング処理を実施するようにしている。分散が閾値以上である場合、電波環境識別部31は、粒子フィルタ部34−1〜34−Mのいずれかに対して、フィルタリング処理を実施するように指示を出す。また、電波環境識別部31は、粒子フィルタ部34−1〜34−Mでフィルタリング処理された方位情報を、推定方位情報として後段へ出力するように、切替部35に対して指示を出す。
【0021】
分散が閾値未満である場合、電波環境識別部31は、電波環境が良好であるとして、方位推定部32から出力される方位情報を、推定方位情報として後段へ出力するように、切替部35に対して指示を出す。
【0022】
方位推定部32は、任意の方位推定方式、例えば、MUSIC又はESPRIT等により、受信処理部20から供給される受信信号に含まれる信号の送信源の方位を推定する。方位推定部32は、推定した方位情報を、遅延部33及び切替部35へ出力する。ところで、粒子フィルタ部34−1〜34−Mの目的は、電波環境による方位推定誤差の増大を抑制することである。つまり、電波環境が良好な状況では、演算コストを費やしてまで粒子フィルタ部34−1〜34−Mを動作させる必要はない。そこで、電波環境識別部31により、電波環境が良好であると判断された場合には、方位推定部32で推定された方位が推定方位情報として後段へ出力されることになる。
【0023】
遅延部33は、アレーアンテナ10−1〜10−Nで受信され受信処理部20で受信処理された受信信号と、方位推定部32から出力される方位情報とを受け取る。遅延部33は、受け取った受信信号及び受け取った方位情報を、電波環境識別部31での処理にかかる時間分だけ遅延させて、粒子フィルタ部34−1〜34−Mへ出力する。
【0024】
粒子フィルタ部34−1〜34−Mは、遅延部33から、受信信号と、方位情報とを受け取る。粒子フィルタ部34−1〜34−Mは、適用するシステムの条件に応じ、Linear-Gaussian SSM(State Space Model)、Non-Linear Non-Gaussian Model及びGeneralized SSM等のモデルが適用される。粒子フィルタ部34−1〜34−Mは、受信信号を、粒子を選択する際の基準設定に用いる。なお、上記のうちいずれを選択しても構わないが、Linear-Gaussian SSM、Non-Linear Non-Gaussian Model、Generalized SSMの順に推定方位誤差が小さくなる。一方、演算量は、Linear-Gaussian SSM、Non-Linear Non-Gaussian Model、Generalized SSMの順に増加する。すなわち、粒子フィルタを適用した場合、演算量と方位推定誤差との間にはトレードオフの関係がある。
【0025】
粒子フィルタ部34−1〜34−Mは、電波環境識別部31から指示を受けると、遅延部33から出力される方位情報に対してフィルタリング処理を実施する。例えば、粒子フィルタ部34−1〜34−Mのうち、電波環境識別部31から単一の方位情報についてフィルタリング処理をするように指示を受けた粒子フィルタは、単一の方位情報についてフィルタリング処理を実施する。また、粒子フィルタ部34−1〜34−Mのうち、電波環境識別部31から、複数の方位情報についてまとめてフィルタリング処理をするように指示を受けた粒子フィルタは、同一の送信源であると判断された送信源についての複数の方位情報のフィルタリング処理をまとめて実施する。
【0026】
また、粒子フィルタ部34−1〜34−Mは、方位推定部32から出力される方位情報に、この方位情報から算出される中心値から所定値以上離れたデータが含まれる場合、このデータを方位情報から除去するようにしても構わない。これにより、粒子フィルタ部34−1〜34−Mにおける計算量が抑制されることになる。
【0027】
切替部35は、電波環境識別部31からの指示従い、粒子フィルタ部34−1〜34−Mから出力される方位情報、又は、方位推定部32から出力される方位情報を、推定方位情報として後段へ出力する。
【0028】
次に、以上のように構成された方位測定装置30による方位測定処理を詳細に説明する。
図7は、本実施形態に係る方位測定装置30が方位測定処理を実施する際のシーケンス図である。
【0029】
まず、電波環境識別部31、方位推定部32及び遅延部33は、受信処理部20から出力される受信信号を受け取る。
【0030】
電波環境識別部31は、受け取った受信信号を参照し、電波環境を識別する(シーケンスS71)。
図8は、電波環境識別部31が電波環境を識別する際のフローチャートを示す図である。
【0031】
図8において、まず、電波環境識別部31は、受信信号の各サブバンドの固有ベクトル間の相関係数を計算する(ステップS81)。電波環境識別部31は、サブバンド毎の固有ベクトル間の相関係数から、到来波に周波数選択性フェージングの影響を受けている信号があるか否かを判断する(ステップS82)。
【0032】
周波数選択性フェージングの影響を受けている信号がある場合(ステップS82のYes)、電波環境識別部31は、ピークを示す周波数間の周波数差に基づいて、周波数選択性フェージングを及ぼし合う信号間の遅延差を算出する(ステップS83)。到来波に周波数選択性フェージングの影響を受けている信号がない場合(ステップS82のNo)、電波環境識別部31は、受信信号の瞬時SNRが予め設定した閾値未満となるか否かを判断する(ステップS84)。
【0033】
電波環境識別部31は、ステップS83において算出した遅延差に基づき、独立した送信源の数を判定する(ステップS85)。電波環境識別部31は、粒子フィルタ部34−1〜34−Mのうち、判定した送信源の数に応じた数の粒子フィルタ部に対し、遅延部33から出力される方位情報についてのフィルタリング処理を実施するように指示を出す。また、電波環境識別部31は、粒子フィルタ部34−1〜34−Mでフィルタリング処理された方位情報を、推定方位情報として後段へ出力するように、切替部35に対して指示を出す(ステップS86)。
【0034】
ステップS84において、瞬時SNRが閾値未満である場合(ステップS84のYes)、電波環境識別部31は、時間選択性フェージングの影響を受ける信号が含まれるとして、粒子フィルタ部34−1〜34−Mのいずれかに対して、遅延部33から出力される方位情報についてフィルタリング処理を実施するように指示を出す。また、電波環境識別部31は、粒子フィルタ部34−1〜34−Mでフィルタリング処理された方位情報を、推定方位情報として後段へ出力するように、切替部35に対して指示を出す(ステップS87)。瞬時SNRが閾値以上となる場合(ステップS84のNo)、電波環境識別部31は、固有ベクトルの要素の絶対値の分散が予め設定する閾値以上であるか否かを判断する(ステップS88)。
【0035】
固有ベクトルの要素の絶対値の分散が閾値以上である場合(ステップS88のYes)、電波環境識別部31は、粒子フィルタ部34−1〜34−Mのいずれかに対して、フィルタリング処理を実施するように指示を出す。また、電波環境識別部31は、粒子フィルタ部34−1〜34−Mでフィルタリング処理された方位情報を、推定方位情報として後段へ出力するように、切替部35に対して指示を出す。(ステップS89)。固有ベクトルの要素の絶対値の分散が予め設定する閾値未満である場合(ステップS88のNo)、電波環境識別部31は、電波環境が良好であるとして、方位推定部32から出力される方位情報を、推定方位情報として後段へ出力するように、切替部35に対して指示を出す(ステップS810)。
【0036】
電波環境識別部31は、
図8に示す処理に従い、粒子フィルタ部34−1〜34−M及び切替部35へ指示を出す(シーケンスS72,S73)。
【0037】
方位推定部32は、MUSIC又はESPRIT等により、受信処理部20から供給される受信信号に含まれる信号の送信源の方位を推定する(シーケンスS74)。方位推定部32は、方位情報を遅延部33及び切替部35へ出力する(シーケンスS75)。
【0038】
遅延部33は、方位推定部32から出力される方位情報を、電波環境識別部31での処理時間分だけ遅らせて(シーケンスS76)、粒子フィルタ部34−1〜34−Mへ出力する(シーケンスS77)。
【0039】
切替部35は、電波環境識別部31から与えられる切替指示に従い、後段へ出力する情報を、方位推定部32から出力される方位情報、又は、粒子フィルタ部34−1〜34−Mから出力される方位情報に切り替える(シーケンスS78)。
【0040】
電波環境識別部31からの指示を受けた粒子フィルタ部34−1〜34−Mは、電波環境識別部31から指定される方位情報に対してフィルタリング処理を実施し、フィルタリング処理後の方位情報を切替部35へ出力する(シーケンスS79)。このとき、複数の方位情報がフィルタリング対象として指定された粒子フィルタ部は、これらの方位情報をまとめてフィルタリングし、フィルタリング後の方位情報を切替部35へ出力する。
【0041】
以上のように、上記実施形態では、電波環境識別部31は、電波環境に基づき、方位測定誤差が増大し得る状態か否かを判断する。電波環境識別部31は、方位測定誤差が増大する場合に絞り、粒子フィルタ部34によるフィルタリング処理を実施するようにしている。これにより、電波環境の劣化による方位測定誤差を最小化することが可能となる。また、電波環境識別部31は、ブラインド信号処理及び非ブラインド信号処理に係らず、電波環境の劣化による方位測定誤差を最小化することが可能となる。
【0042】
一方、特許文献1では、センサネットワークにおけるタグからの信号到達時間差に関して粒子フィルタが2段階の構造を特徴とする位置情報を補償する発明について記載されている。特許文献1に係る発明では、粒子フィルタのディスアドバンテージを考慮すると、常にタグが単一であるという仮定が必要である。そのために、TDMAとして送信タイミングを制御するか、又は、スペクトラム拡散としてCDMAを適用する等の制約条件が必要となる。
【0043】
また、上記実施形態では、方位測定装置30は、複数の粒子フィルタ部34−1〜34−Mを備える。電波環境識別部31は、信号間の遅延差及び/又は方位差に基づいて、到来波に含まれる信号が同一の送信源から送信される信号であるか否かを判断する。そして、電波環境識別部31は、異なる送信源から送信される信号については、それぞれ単独の粒子フィルタ部34でフィルタリング処理を実施し、同一の送信源から送信されるマルチパス信号については、同一の信号であるとして、1つの粒子フィルタ部34でフィルタリング処理を実施する。これにより、独立な複数の送信源の方位を、各粒子フィルタにおいて粒子数を増やさずに、高精度に推定することが可能となる。また、複数の信号がマルチパスによるものである場合には、それらの信号の送信源が同一であるとして、1つの粒子フィルタ部34でフィルタリング処理するため、動作する粒子フィルタ部34の数を抑えることが可能となる。つまり、演算量を削減することが可能となる。
【0044】
したがって、本実施形態に係る方位測定装置30によれば、粒子フィルタを用いつつ、計算量を抑え、かつ、独立した送信源の方位を測定することができる。すなわち、粒子フィルタを適用した場合の、演算量と方位推定誤差との間にあるトレードオフの関係を解消することができる。
【0045】
本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。