特許第6030014号(P6030014)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6030014
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/66 20060101AFI20161114BHJP
   F16J 15/3204 20160101ALI20161114BHJP
   F16C 19/36 20060101ALI20161114BHJP
   F16C 33/78 20060101ALI20161114BHJP
   F16N 7/38 20060101ALI20161114BHJP
   F16N 23/00 20060101ALI20161114BHJP
   F16N 31/00 20060101ALI20161114BHJP
   F16C 23/08 20060101ALI20161114BHJP
【FI】
   F16C33/66 Z
   F16J15/3204
   F16C19/36
   F16C33/78 Z
   F16N7/38 D
   F16N23/00
   F16N31/00 B
   F16C23/08
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-69292(P2013-69292)
(22)【出願日】2013年3月28日
(65)【公開番号】特開2014-190515(P2014-190515A)
(43)【公開日】2014年10月6日
【審査請求日】2016年1月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000167196
【氏名又は名称】光洋シーリングテクノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】砂川 雅英
【審査官】 渡邊 義之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−307275(JP,A)
【文献】 特開2003−254440(JP,A)
【文献】 実開昭55−78821(JP,U)
【文献】 実開昭57−63197(JP,U)
【文献】 特開2007−298161(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/72 − 33/82
F16J 15/3204− 15/3236
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
転がり軸受を内嵌させる軸受ケースを備え、この軸受ケースに転がり軸受を介して水平軸回りに回転自在に支持される回転軸と前記軸受ケースとの間の環状空間を密封して密封空間とし、この密封空間に潤滑剤が連続的に供給される密封装置において、
前記軸受ケースの内周面に当接する第1円筒部と、当該第1円筒部から径方向内方に延びる環状部と、当該環状部の内周から延びて前記回転軸と当接するリップ部と、を有し、全体が弾性素材からなるシール部と、
前記シール部の第1円筒部を介して前記軸受ケースに内嵌する第2円筒部を有する外側芯金と、
前記軸受ケースに内嵌する第3円筒部と、当該第3円筒部の密封空間側の端部から径方向内方に延びて、前記シール部の環状部における密封空間側の側面と接している円環部と、を有する内側芯金と、を備え、
前記シール部の環状部の密封空間側の側面に、環状の溝部が形成されており、
前記内側芯金の円環部は、前記溝部を覆っており、
前記円環部の周方向の一部に、前記溝部と密封空間とを連通させる貫通孔が形成されており、
前記溝部のうちの前記貫通孔と径方向に対向する部分の底部に対応させて、密封空間内の潤滑剤を前記貫通孔及び溝部を通して密封空間の外部に排出するための排出口が形成されていることを特徴とする密封装置。
【請求項2】
前記排出口には、潤滑剤の排出を阻む閉塞部材を設け、当該閉塞部材に潤滑剤の圧力が所定圧以上加わると開口する切れ目が設けられている請求項1に記載の密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続鋳造機の搬送用セグメントロール等の回転軸を回転自在に支持する軸受装置に用いられる密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、連続鋳造機においては、鋳型から連続的に排出される鋼片を、対向させた複数対のセグメントロールによって挟み込んで下方へ引き出した後、直角に屈曲させて搬送方向を水平方向へ転換することが行われている。このセグメントロールの両端部は軸受装置に支持されており、当該軸受装置には密封装置が設けられている。
【0003】
上記密封装置として、例えば図6に示すようなものがある(特許文献1参照)。
上述のセグメントロール105は、図6に示すように、その両端部150が、円筒状の軸受ケース107によって転がり軸受106を介して水平軸回りに回転自在に支持されている。
【0004】
密封装置100は、転がり軸受106の軸方向両側に配設された第1,第2シール部材101,104を備えている。第1シール部材101は、セグメントロール105のロールネック151側に配置されており、第2シール部材104は、ロールエンド152側に配置されている。これら第1,第2シール部材101,104により、セグメントロール105と軸受ケース107との間の環状空間が、外部空間S2から仕切られて密封空間S1となっている。
【0005】
転がり軸受106には、軸受ケース107の外部から潤滑油が供給される。この潤滑油は、軸受ケース107の下部に設けられた給油孔170を通して転がり軸受106の内部に連続的に供給される。転がり軸受106の内部に供給された潤滑油は、密封空間S1内に溜まり、その水準が一定高さになった時点で、図6における破線で示すように、第1シール部材101のインナーシール110の側面上部に設けられた排出口115、及びアウターシール130のリップ部131とロールネック151との間を通して、密封空間S1の外部に排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−307275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図7は密封装置100を装着した複数の軸受ケース107を、鋳型から連続的に排出される鋼片109の搬送経路に沿って配置した状態を示している。前記第1シール部材101は、図7に示す第1シール部材101Cのように、通常、排出口115が上部に位置するように第1シール部材101Cの周方向位置を調整して軸受ケース107に組み付けている。これは、排出口115が任意の周方向位置になるように第1シール部材101を軸受ケース107に組み付けると、図7の第1シール部材101A,101B,101Dのように、密封空間S1内の潤滑油の水準Lが第1シール部材101Cに比べて低くなり、特に、シール部材101Dのように、排出口115が下部に位置するように軸受ケース107に組み付けると、潤滑油の水準Lが非常に低くなってしまい、転がり軸受106の上部が潤滑不良となる虞があるからである。このため、連続鋳造機のように、鋼片109の搬送方向が場所によって変化する場合には、排出口115が上部に位置するように第1シール部材101の周方向位置を調整して、個々の第1シール部材101を軸受ケース107に組み付ける必要があるので、その組み付け作業に非常に手間がかかる。
【0008】
本発明は、前記問題点に鑑みてなされたものであり、シール部材を任意の周方向位置で軸受ケースに組み付けたとしても、密封空間内の潤滑剤の水準を、転がり軸受の潤滑に必要な高さに維持することができる密封装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明に係る密封装置は、転がり軸受を内嵌させる軸受ケースを備え、この軸受ケースに転がり軸受を介して水平軸回りに回転自在に支持される回転軸と前記軸受ケースとの間の環状空間を密封して密封空間とし、この密封空間に潤滑剤が連続的に供給される密封装置において、
前記軸受ケースの内周面に当接する第1円筒部と、当該第1円筒部から径方向内方に延びる環状部と、当該環状部の内周から延びて前記回転軸と当接するリップ部と、を有し、全体が弾性素材からなるシール部と、
前記シール部の第1円筒部を介して前記軸受ケースに内嵌する第2円筒部を有する外側芯金と、
前記軸受ケースに内嵌する第3円筒部と、当該第3円筒部の密封空間側の端部から径方向内方に延びて、前記シール部の環状部における密封空間側の側面と接している円環部と、を有する内側芯金と、を備え、
前記シール部の環状部の密封空間側の側面に、環状の溝部が形成されており、
前記内側芯金の円環部は、前記溝部を覆っており、
前記円環部の周方向の一部に、前記溝部と密封空間とを連通させる貫通孔が形成されており、
前記溝部のうちの前記貫通孔と径方向に対向する部分の底部に対応させて、密封空間内の潤滑剤を前記貫通孔及び溝部を通して密封空間の外部に排出するための排出口が形成されていることを特徴とする。
【0010】
本発明の密封装置によれば、内側芯金の円環部により溝部を覆っているので、潤滑剤は、常に内側芯金に形成された貫通孔のみから溝部に流入し、溝部を通って、貫通孔と径方向に対向する位置に形成された排出口から排出される。これにより、潤滑剤は、その水準が貫通孔と排出口のうちいずれか高い方の位置程度まで(両者が同一の高さの場合はその位置程度まで)達して初めて外部に排出され得る。したがって、シール部材を任意の周方向位置で軸受ケースに組み付けたとしても、密封空間内の潤滑剤の水準を転がり軸受の潤滑に必要な高さに維持することができる。
【0011】
前記排出口には、潤滑剤の排出を阻む閉塞部材を設け、当該閉塞部材に潤滑剤の圧力が所定圧以上加わると開口する切れ目が設けられていることが好ましい。
この場合、潤滑剤は、前述した貫通孔と排出口のうちいずれか高い方の位置程度(両者が同一の高さの場合はその位置程度)よりも更に高い水準まで達することによって閉塞部に潤滑剤の圧力が所定圧以上加わると、切れ目が開口して初めて外部に排出される。したがって、シール部材を任意の周方向位置で組み付けたとしても、密封空間内の潤滑剤の水準を更に高くすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の密封装置によれば、シール部材を任意の周方向位置で軸受ケースに組み付けたとしても、密封空間内の潤滑剤の水準を転がり軸受の潤滑に必要な高さに維持することができるので、シール部材の軸受ケースへの組み付け作業を容易且つ迅速に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係る密封装置の使用状態を示す断面図である。
図2】本発明の実施形態に係る密封装置の拡大断面図である。
図3】貫通孔と排出口の位置関係を示す説明図である。
図4】貫通孔及び排出口の高さと潤滑油の水準との関係を示す概略図である。
図5】貫通孔及び排出口の周方向位置と潤滑油の排出経路との関係を示す模式図である。
図6】従来の密封装置の使用状態を示す断面図である。
図7】従来の密封装置の貫通孔の高さと潤滑油の水準との関係を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しながら詳述する。
図1は、本発明の実施形態に係る密封装置Aの使用状態を示す断面図である。
この実施形態においては、密封装置Aを連続鋳造機のセグメントロール5を回転自在に支持する軸受装置Bに適用した場合を示している。
【0015】
各セグメントロール5は、鋼片9(図4参照)と接触するロール本体55と、このロール本体55の両側に設けられ、ロール本体55に比べて小径の縮径部50とを有している。縮径部50は中心線が水平方向に向くように配置された円筒状の軸受ケース7に挿通されており、当該軸受ケース7に、転がり軸受6を介して回転自在に支持されている。なお、各セグメントロール5は冷却水を噴射することによって冷却される。
【0016】
転がり軸受6は、調心輪付き円筒ころ軸受であり、外輪60、複数の円筒ころ61、調心輪62、及び内輪65を備えている。軸受ケース7の下部には転がり軸受6の内部に対して潤滑油を供給するための給油孔70が設けられている。また、調心輪62の外周面には、供給孔70と連通する環状溝67が形成されており、調心輪62及び外輪60には、環状溝67から転がり軸受6の内部に貫通する供給孔68が設けられている。連続鋳造機の稼働状態において、潤滑油は給油孔70から転がり軸受6の内部に連続的に供給される。図1において、破線は潤滑油の供給経路及び排出経路を示している。
【0017】
転がり軸受6の軸方向両側には、軸受ケース7の内部に潤滑油を溜めるとともに軸受ケース7内に冷却水が浸入することを防ぐ目的で、第1,第2シール部材1,4が設けられている。この第1,第2シール部材1,4は、軸受ケース7とともに本実施形態に係る密封装置Aを構成している。
第1,第2シール部材1,4は、セグメントロール5の縮径部50と軸受ケース7の間の環状空間を密封空間S1として外部空間S2から隔離している。転がり軸受6の内部に供給された潤滑油は、この密封空間S1内に溜められる。
【0018】
図2は、第1シール部材1の拡大断面図であり、図2(A)はその上部側を図2(B)はその下部側をそれぞれ示している。縮径部50のロールネック51側に配設された第1シール部材1は、冷却水が多量に降りかかっても密封性を保てるように、二種類のシール(インナーシール10及びアウターシール30)を組み合わせた構成となっている。
インナーシール10は、合成ゴムなどの弾性素材からなり、軸受ケース7の内周面に当接している第1円筒部11と、当該第1円筒部11の密封空間S1側(転がり軸受6側)の端部から径方向内方に延びている環状部12と、当該環状部12の内周から延びてロールネック51の外周面に当接しているリップ部13,14とを備えている。インナーシール10は、断面L字状の外側芯金20に接着している。
【0019】
外側芯金20は、インナーシール10の第1円筒部11を介して軸受ケース7に内嵌する第2円筒部21と、その密封空間S1側の端部から径方向内方に延びており、インナーシール10の環状部12の外部空間S2側の側面が接着している円環部22とで構成されている。
【0020】
第1リップ部13は、外側芯金20の円環部22の内周縁に対して外部空間S2側且つ径方向内方に延びてセグメントロール5の外周面に当接している。第1リップ部13の先端部の外周にはガータスプリング19が巻回されており、このガータスプリング19は、第1リップ部13をロールネック51に圧接している。第1リップ部13は、主に冷却水の密封空間S1内への侵入を防ぐ働きをする。
第2リップ部14は、外側芯金20の円環部22の内周縁に対して密封空間S1側且つ径方向内方に延びてロールネック51の外周面に当接している。第2リップ部14は、潤滑油の外部への漏洩を阻み、密封空間S1内に留まらせる働きをする。
【0021】
インナーシール10の環状部12の密封空間S1側には、ロール本体55側に向かって凹入形成された溝部12aを備えている。溝部12aは環状部12の全周に亘って連続する環状のものである。
内側芯金25は、軸受ケース7の内周面に内嵌する第3円筒部26と、当該第3円筒部26の密封空間S1側の端部から径方向内方に延びている円環部27とで構成されている。内側芯金25の第3円筒部26の内周面に、インナーシール10の第1円筒部11の外周面のうちの密封空間S1側の部分が密着している。また、インナーシール10の環状部12のうちの溝部12aを除く側面が内側芯金25の円環部27に密着しており、溝部12aは内側芯金25の円環部27によって覆われている。
【0022】
図3は、図1における転がり軸受6側から第1シール部材1を見たときの内側芯金25を示し、以下で述べる貫通孔27aと排出口15との位置関係を示す説明図である。
円環部27の周方向の一部には、密封空間S1側から溝部12aへ貫通し、溝部12aに潤滑油を流入させる貫通孔27aが形成されている。貫通孔27aは、周方向に一定間隔を隔てて隣接するように複数(図示例では3つ)配設されている。
【0023】
インナーシール10の環状部12及び外側芯金20の円環部22において、貫通孔27aと径方向に対向する部分には、潤滑油の排出口15が形成されている。排出口15は、周方向に一定間隔を隔てて隣接するように複数(図示例では5つ)配設されている。各排出口15は、図2(B)に示すように、溝部12aの底部に対応させて形成されている。各排出口15は、軸方向に沿って外側芯金20の円環部22を貫通して溝部12aの底の近傍まで至る凹部15aと、溝部12aと当該凹部15aとの間のインナーシール10の薄肉部分である閉塞部15bと、当該閉塞部15bに設けられた切れ目15cとで構成されている。
【0024】
外側芯金20の円環部22には凹部15aを形成するための孔22aが設けられており、この孔22aの内壁は、インナーシール10の環状部12から延びる弾性素材のからなる筒状の膜12bで全て覆われている。閉塞部15bは、排出口15の密封空間S1側を閉塞している。切れ目15cは、閉塞部15bの径方向の中央に環状部12の周方向に沿って入れられている。閉塞部15bに溝部12a側から潤滑油の圧力が所定圧以上加わることで、弾性素材の弾性力に抗して切れ目15cが開き、潤滑油が排出口15から外部に排出される。
【0025】
アウターシール30は、合成ゴムなどの弾性素材からなり、ロールネック51と接しているリップ部31及び軸受ケース7の側壁71と接しているリップ部32,33を備えている。リップ部31〜33は芯金35に接着している。芯金35は、軸受ケース7に内嵌する第4円筒部36と、その外部空間S2側の端部から径方向内方に延びる円環部37とで構成されている。
【0026】
リップ部31は、芯金35の円環部37の内周縁に対して外部空間S2側且つ径方向内方に延びてロールネック51の外周面に当接している。リップ部31は、潤滑油の外部空間S2への排出を許容し、且つ、外部空間S2からの冷却水の流入を阻む働きをする。リップ部32及びリップ部33は、それぞれ芯金35の円環部37の内周縁及び外周縁付近から外部空間S2側に向かって突出して軸受ケース7の側壁71に内接している。
【0027】
ロールエンド52側の第2シール部材4は、図1に示すように、インナーシール10及び外側芯金20とほぼ同様の構成であり、合成ゴムなどの弾性素材からなるシール41が断面L字状の芯金45に接着されている。シール41は軸受ケース7の内周面及び側壁72に内接している円筒状部42と、ロールエンド52の外周面に当接しているリップ部43,44とを備えている。
【0028】
芯金45は、シール41の円筒状部42を介して軸受ケース7に内嵌する円筒部46と、当該円筒部46の外部空間S2側(セグメントロール5の軸方向外方の外部空間S2側)の端部から径方向内方に延びる円環部47とで構成されている。芯金45の円筒部46の外周面にシール41の円筒状部42の内周面が接着している。
【0029】
リップ部43は、芯金45の円環部47の内周縁付近から密封空間S1側へ延びてロールエンド52の外周面に当接している。このリップ部43の先端部の外周にはガータスプリング49が巻回されており、ガータスプリング49はリップ部43をロールエンド52に圧接している。リップ部43は、潤滑油の外部への漏洩を阻み、潤滑油を密封空間S1内に留まらせる働きをする。リップ部44は、芯金45の円環部47の内周縁付近から外部空間S2側(セグメントロール5の軸方向外方の外部空間S2側)に延びてロールエンド52の外周面に当接している。
【0030】
図4は、第1シール部材1A〜1Eそれぞれについて、貫通孔27a及び排出口15の高さと密封空間S1内に供給された潤滑油の水準Lとの関係を示す概略図である。図4に示すように、第1シール部材1Aと第1シール部材1Bとは、鋼片9を挟んで水平方向に互いに対向しており、第1シール部材1Cと第1シール部材1Dとは、鋳造品9を挟んで水平方向から45°傾斜した方向に互いに対向している。また、二つの第1シール部材1Eは、鋼片9を挟んで鉛直方向に互いに対向している。
【0031】
図5は、図4の各シール部材1A〜1Eについて、貫通孔27a及び排出口15の周方向位置と潤滑油の排出経路との関係を示す模式図である。図5における破線は潤滑油の排出経路を示している。
本発明の実施形態に係る密封装置Aによれば、第1シール部材1の溝部12aが、内側芯金25の円環部27によって覆われているので、給油孔70及び供給孔68を通して密封空間S1内に供給された潤滑油は、図5に示すように、常に内側芯金25の円環部27の貫通孔27aのみから溝部12aに流入し、溝部12aを約半周通過して、貫通孔27aと径方向に対向する位置に形成された排出口15から排出される。
【0032】
より詳しくは、転がり軸受6を介して密封空間S1内に潤滑油を連続的に供給すると、潤滑油は、リップ部14,43により堰き止められて密封空間S1内の下部から徐々に溜まっていき、貫通孔27aが位置する水準Lまで溜まった時点で、貫通孔27aから溝部12aに流入する。
仮に、図4及び図5に示すシール部材1A,1Bのように、貫通孔27aよりも排出口15の方が低い位置となるように第1シール部材1が組み付けられている場合、潤滑油は溝部12aを通って下方の排出口15へ向かう。そして、更に連続的に潤滑油を注入することにより、潤滑油の水準Lが貫通孔27aの高さ以上となり、潤滑油の圧力が閉塞部15bに溝部12a側から所定圧以上加わると、切れ目15cが弾性素材の弾性力に抗して開き、潤滑油が排出口15から外部に排出される。
【0033】
一方、図4及び図5に示すシール部材1C,1Dのように、貫通孔27aよりも排出口15の方が高い位置となるように第1シール部材1が組み付けられている場合、密封空間S1内に連続的に潤滑油を注入すると、排出口15の高さ程度に達するまで密封空間S1内に潤滑油が溜っていき、潤滑油の圧力が閉塞部15bに溝部12a側から所定圧以上加わると、切れ目15cが弾性素材の弾性力に抗して開き、潤滑油が排出口15から外部に排出される。
【0034】
なお、図4及び図5に示すシール部材1Eのように、貫通孔27aと排出口15とが同一高さとなるようにシール部材1が組み付けられている場合、密封空間S1内の潤滑油の水準Lが貫通孔27a及び排出口15の高さ以上となり、潤滑油の圧力が閉塞部15bに溝部12a側から所定圧以上加わると、切れ目15cが弾性素材の弾性力に抗して開き、潤滑油が排出口15から外部に排出される。
【0035】
このように、第1シール部材1によると、貫通孔27aと排出口15のうちいずれか高い方の位置程度(両者が同一の高さの場合はその位置程度)に潤滑油の水準Lが達したときに初めて外部に潤滑油が排出される。言い換えると、潤滑油の水準Lを貫通孔27aと排出口15のうちいずれか高い方の位置程度(両者が同一の高さの場合はその位置程度)以上として使用することができる。これにより、第1シール部材1を任意の周方向位置で軸受ケース7に組み付けたとしても、少なくとも図4に示すシール部材1Eの潤滑油の水準Lを維持できる。この高さは転がり軸受6の軸線付近であるので、転がり軸受6の潤滑に必要な潤滑油の量を確保できている。したがって、シール部材1は、任意の周方向位置で軸受ケース7に組み付けたとしても、密封空間S1内の潤滑油の水準Lを転がり軸受6の潤滑に必要な高さに維持することができる。その結果として、第1シール部材1の軸受ケース7への組み付け作業を容易且つ迅速に行うことができる。
【0036】
本発明の密封装置Aは、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、排出口15は閉塞部15b及び切れ目15cを備えていなくてもよい。この場合、閉塞部15b及び切れ目15cを有する排出口15を備えた上記第1シール部材1に比べて潤滑油の水準Lは低くなるが、少なくとも転がり軸受6の潤滑に必要な潤滑油の量を確保することができる。
また、軸受ケース7はロール本体55と反対側が閉塞された有底筒状のものであってもよく、この場合には、第2シール部材4は構成する必要がない。
なお、本発明の密封装置は、転がり軸受6の潤滑剤としてグリースを用いる場合にも適用可能である。
【符号の説明】
【0037】
A:密封装置、1:第1シール部材
5:セグメントロール(回転軸)、6:転がり軸受、7:軸受ケース
10:インナーシール(シール部)
11:第1円筒部、12:環状部、12a:溝部
13:第1リップ部(リップ部)、14:第2リップ部(リップ部)
15:排出口、15b:閉塞部(閉塞部材)、15c:切れ目
20:外側芯金、21:第2円筒部
25:内側芯金、26:第3円筒部、27:円環部、27a:貫通孔
S1:密封空間(環状空間)、S2:外部空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7