特許第6030119号(P6030119)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日清ファルマ株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6030119
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】含硫アミノ酸含有組成物
(51)【国際特許分類】
   C12P 13/12 20060101AFI20161114BHJP
   A23L 5/00 20160101ALN20161114BHJP
   C12N 9/10 20060101ALN20161114BHJP
   C12N 9/80 20060101ALN20161114BHJP
【FI】
   C12P13/12 Z
   !A23L5/00 J
   !C12N9/10
   !C12N9/80
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-504946(P2014-504946)
(86)(22)【出願日】2013年3月13日
(86)【国際出願番号】JP2013056901
(87)【国際公開番号】WO2013137284
(87)【国際公開日】20130919
【審査請求日】2015年9月29日
(31)【優先権主張番号】特願2012-57078(P2012-57078)
(32)【優先日】2012年3月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301049744
【氏名又は名称】日清ファルマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】原田 昌卓
(72)【発明者】
【氏名】稲川 裕人
【審査官】 長部 喜幸
(56)【参考文献】
【文献】 特許第3613178(JP,B1)
【文献】 国際公開第1999/061015(WO,A1)
【文献】 特開2009−254344(JP,A)
【文献】 特開2007−210918(JP,A)
【文献】 John R. WHITAKER,Development of flavor, odor, and pungency in onion and garlic,Advances in Food Research,1976年,Vol.22,Pages 73-133
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 13/12
A23L 5/00
C12N 9/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む含硫アミノ酸含有組成物の製造方法:
ネギ属植物を加熱する工程;
当該加熱されたネギ属植物を細分化する工程;
当該細分化されたネギ属植物をγ−グルタミル結合切断酵素で処理する工程;及び
当該酵素処理物をイオン交換クロマトグラフィーに供する工程
であって、該含硫アミノ酸が、S−1−プロペニル−L−システインスルフォキシド、S−プロピル−L−システインスルフォキシド、S−メチル−L−システインスルフォキシド、及びS−アリル−L−システインスルフォキシドからなる群より選択される少なくとも1種を含む、方法
【請求項2】
前記γ−グルタミル結合切断酵素がγ−グルタミナーゼ、γ−グルタミルトランスフェラーゼ、γ−グルタミルトランスペプチダーゼ又はγ−グルタミルペプチダーゼである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記イオン交換クロマトグラフィーにおいて強酸性陽イオン交換樹脂が使用される、請求項1又は2記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネギ属植物から含硫アミノ酸含有組成物を製造する方法、及び該方法によって得られた含硫アミノ酸含有組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ネギ、タマネギ、ニンニク等のネギ属植物は、古くから強壮作用を有する食品として摂取されている。近年では、ネギ属植物に含まれる含硫アミノ酸であるL−システインスルフォキシド誘導体に、男性ホルモンであるテストステロンの産生増加作用があることも知られている(特許文献1)。
【0003】
しかしながら、ネギ属植物そのものを食するだけでは、含硫アミノ酸を生理作用を期待できる量で継続的に摂取することは困難である。また、ネギ属植物中には、含硫アミノ酸以外にも種々の成分が存在しているため、ネギ属植物そのものを食することは、含硫アミノ酸を摂取する手段としては効率的でない。したがって、ネギ属植物に含まれる含硫アミノ酸を濃縮する方法や、ネギ属植物由来の含硫アミノ酸を高含有する組成物の開発が所望されている。
【0004】
上記特許文献1には、切断処理していないネギ属植物を、圧力1〜5気圧、温度40〜150℃の条件で、5〜120分加熱処理することによって、植物中に含まれる含硫アミノ酸を分解するC−Sリアーゼを失活させ、L−システインスルフォキシド誘導体を高含有するネギ属植物処理物を製造する方法、ならびに当該ネギ属植物処理物から、アルコール抽出及び減圧濃縮により、L−システインスルフォキシド誘導体を含む抽出物を得ることが記載されている。また、特許文献2には、ユリ科植物の食用部を、植物細胞壁分解酵素であるマンナナーゼ、セルラーゼ及びペクチナーゼで処理し、次いでイオン交換樹脂処理することにより、高濃度のS−アルケニルシステインスルフォキシドを製造する方法が記載されている。
【0005】
しかし、上記の方法で得られた生成物はいずれも、含硫アミノ酸の含有量において、未だ十分に満足できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4172488号公報
【特許文献2】特開2007−84500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ネギ属植物に含まれる含硫アミノ酸を効率よく回収する方法を提供すること、及びネギ属植物の含硫アミノ酸を安定且つ高濃度で含有する組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らによる研究により、特許文献1に記載されているL−システインスルフォキシド誘導体の抽出物は、夾雑する不純物によりL−システインスルフォキシド誘導体が不活性化してしまうため、保存安定性に劣るという問題を有することが判明した。そこで、本発明者らは、含硫アミノ酸を安定に含有することができる組成物を開発すべく鋭意研究を重ね、その結果、ネギ属植物を、加熱した後、γ−グルタミル結合切断酵素で処理し、次いでイオン交換クロマトグラフィー処理することにより、含硫アミノ酸を安定に高含有する組成物を得ることができることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の工程を含む含硫アミノ酸含有組成物の製造方法:
ネギ属植物を加熱する工程;
当該加熱されたネギ属植物をγ−グルタミル結合切断酵素で処理する工程;及び
当該酵素処理物をイオン交換クロマトグラフィーに供する工程、
を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の含硫アミノ酸含有組成物の製造方法によれば、ネギ属植物に含まれる含硫アミノ酸を効率よく回収することができる。また本発明の製造方法によって製造された組成物は、含硫アミノ酸を安定且つ高濃度で含有する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の含硫アミノ酸含有組成物の製造方法は、(1)ネギ属植物を加熱する工程、(2)当該加熱されたネギ属植物をγ−グルタミル結合切断酵素で処理する工程、及び(3)当該酵素処理物をイオン交換クロマトグラフィーに供する工程、を含む。本発明の方法の各工程は、酵素反応等のために必要とされない限り、酸性pH条件下で行われるのが含硫アミノ酸の変質を防ぐ上で好ましい。好ましいpHは、pH5.5以下、より好ましくはpH4.5以下である。
【0012】
本発明の方法で製造される組成物に含まれる含硫アミノ酸としては、S−1−プロペニル−L−システインスルフォキシド、S−プロピル−L−システインスルフォキシド、S−メチル−L−システインスルフォキシド、S−アリル−L−システインスルフォキシド等が挙げられ、これらからなる群より選択される少なくとも1種の含硫アミノ酸が、本発明の方法で製造される組成物に含有されていることが好ましい。
【0013】
本発明の方法に供されるネギ属植物としては、ネギ属(Allium)に属し、目的の含硫アミノ酸を含有している植物であれば特に限定されないが、例えば、タマネギ、ネギ、ワケギ、アサツキ、ニラ、ニンニク、ギョウジャニンニク、ラッキョウ、リーキ等が挙げられる。このうち、タマネギ、ネギ、ニンニク、ラッキョウは、安価であり且つ含硫アミノ酸を多く含有しているため好ましい。本発明の方法において、これらのネギ属植物は、可食部、例えば、タマネギ、ニンニク、ラッキョウであれば鱗茎、ワケギ、アサツキ、ニラであれば葉、ネギであれば葉及び偽茎が好ましく使用される。また、上記ネギ属植物の外皮は、含硫アミノ酸を含んでいないため、本発明の方法に供する前に除去しておくことが好ましい。
【0014】
本発明の方法の工程(1)では、ネギ属植物を加熱する。該加熱により、該ネギ属植物中に含まれる含硫アミノ酸を分解する酵素C−Sリアーゼを失活させる。本工程でC−Sリアーゼを失活させることにより、その後の工程における含硫アミノ酸の酵素分解が抑制され、目的産物の収率の低下を防ぐことができる。上記加熱の条件は、目的の含硫アミノ酸を変質させることなくC−Sリアーゼを失活させることができる条件であれば、特に限定されないが、例えば、圧力1〜5気圧、温度40〜150℃で5〜120分間が好ましく、圧力1〜2気圧、温度が80〜120℃で15〜40分間がより好ましい。
【0015】
上記加熱は、好ましくは、細分されていないネギ属植物に対して行われる。ネギ属植物は、切断、破砕、穿孔などによりその内部が空気中に露出すると、含まれる含硫アミノ酸が分解されて、その含有量が減少する。したがって、本工程で加熱に供される「細分されていない」ネギ属植物とは、切断、分断、破砕、穿孔、傷をつける等の加工がされていてもよいが、それらの加工による内部の含硫アミノ酸の分解が僅かに引き起されている程度である、ネギ属植物であり得る。例えば、本発明において「細分されていない」とは、用いるネギ属植物の部位や大きさによっても異なるが、ネギ属植物全体を2等分、4等分、8等分又は16等分することを許容する概念であり得る。また例えば、本発明において、「細分されていない」ネギ属植物から本発明の方法で得られる含硫アミノ酸の収率は、無傷のネギ属植物と比較して80%以上、好ましくは90%以上であり得る。
【0016】
上記ネギ属植物中の目的の含硫アミノ酸は、少なくとも一部が、グルタミン酸と結合した前駆体として存在している。当該前駆体においては、グルタミン酸のγカルボン酸基に含硫アミノ酸がアミド結合している。このγカルボン酸基と含硫アミノ酸との結合を切断すれば、当該前駆体を含硫アミノ酸に変換することができるので、目的産物の収率をさらに増加させることができる。本発明の方法の工程(2)は、酵素反応によりネギ属植物中の上記前駆体からγ−グルタミル基を切断して、目的の含硫アミノ酸を遊離させる工程であり得る。
【0017】
したがって、本発明の方法の工程(2)では、上記工程(1)で加熱されたネギ属植物をγ−グルタミル結合切断酵素で処理する。本工程で使用されるγ−グルタミル結合切断酵素としては、ペプチド又はアミノ酸からγ−グルタミル基を切断する活性を有するものであればよく、例えば、γ−グルタミナーゼ、γ−グルタミルトランスフェラーゼ、γ−グルタミルトランスペプチダーゼ、γ−グルタミルペプチダーゼ等が挙げられる。これらの酵素は、動物、植物、微生物等から抽出されたものであっても、又は市販品であってもよい。市販品としては、天野エンザイム社のグルタミナーゼSD−C100S等が挙げられる。
【0018】
上記酵素反応を十分に進行させるためには、酵素処理の前に、上記工程(1)で加熱されたネギ属植物を細分しておくことが好ましい。細分する手段は特に限定されず、細断、破砕、粉砕、磨砕等の処理を含む。これらの処理は、例えば、ブレンダー、ミキサー、カッター、ミル等の公知の手段で行うことができる。さらに、細分されたネギ属植物は、通常、そのまま酵素処理に付すには粘性が高いため、水性液体で2〜20倍程度に希釈することが好ましい。水性液体としては、水、酸性水、アルカリ水等が挙げられる。これらの水性液体は、後で用いるγ−グルタミル結合切断酵素の至適pHやその付近のpHに調整された溶液であることが好ましい。
【0019】
γ−グルタミル結合切断酵素による処理の条件は、酵素の至適条件、または用いるネギ属植物の種類、用いる部位、細分の状態等によって適宜設定すればよい。一般的には、酵素の添加量は、ネギ属植物の全量に対して0.001〜1質量%、好ましくは0.01〜0.1質量%である。反応条件は、酵素の至適pHで、温度15〜65℃で1〜24時間程度、好ましくは35〜60℃で2〜6時間程度であり得る。上記酵素処理の終了後は、加熱又はpH調整等により、γ−グルタミル結合切断酵素を失活させておくことが好ましい。必要に応じて、上記酵素処理で得られた反応物を濾過、遠心、圧搾等にかけ、含硫アミノ酸を含む溶液を分離してもよい。さらに得られた溶液を濃縮してもよい。
【0020】
本発明の方法の工程(3)では、上記工程(2)の酵素処理で得られた反応物を、イオン交換クロマトグラフィーに供する。当該イオン交換クロマトグラフィーのためのイオン交換樹脂は、陽イオン交換樹脂であればよいが、強酸性陽イオン交換樹脂が好ましく、スルホン酸型強酸性陽イオン交換樹脂がより好ましい。当該イオン交換樹脂は、市販品を使用することができ、例えば、ダイヤイオン(登録商標)UBK−550、ダイヤイオン(登録商標)SK1B(三菱化学社製)、アンバーライト(登録商標)IR120B、アンバーライト(登録商標)200C、ダウエックス(登録商標)MSC−1(The Dow Chemical Company)、デュオライトC26(Rohm and Haas)、LEWATIT(登録商標)SP−112(LANXESS Distribution GmbH)等が好適に使用され得る。
【0021】
イオン交換クロマトグラフィーは、通常の手順に従って行えばよい。上記工程(2)で得られた酵素処理物を、必要に応じて蒸留水や緩衝液等で希釈し、試料溶液とする。好ましくは、試料溶液は、イオン交換樹脂へ通液される前にpH1〜5に調整される。当該試料溶液をイオン交換樹脂に通液し、該試料溶液中の含硫アミノ酸をカラムに吸着させる。その後、蒸留水等の洗浄液を用いて該イオン交換樹脂を洗浄し、次いでアルカリ性の溶離液を用いてカラムに吸着した含硫アミノ酸を溶出させる。当該溶離液は、強アルカリ溶液、弱アルカリ溶液のいずれも用いることができるが、好ましくはpH8〜14の溶液である。上記含硫アミノ酸を含む溶出液は、そのまま利用してもよいが、公知の方法で濃縮、又はさらに脱塩処理を行うと、含硫アミノ酸の純度が高まるため好ましい。さらに必要に応じて、乾固、凍結乾燥、固形化、液状化、顆粒若しくは粉末化等の処理を施してもよい。
【0022】
以上の手順で、含硫アミノ酸含有組成物を製造することができる。本発明の方法によって得られた含硫アミノ酸含有組成物は、含硫アミノ酸を安定且つ高濃度で含有しているため、長期保存や工業利用に適している。
【実施例】
【0023】
次に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0024】
(実施例1)
収穫後のタマネギ(北もみじ2000)5000gを洗浄、脱皮した後に、切断せず丸ごと95℃の湯浴中にて20分間加熱処理した。
加熱処理後のタマネギを、ミキサー(Oster社製)を用いて破砕し、ここにタマネギ1g当たり1mLの水を添加し分散させた。得られた分散液に、グルタミナーゼ(グルタミナーゼSD−C100S;天野エンザイム製)を液中のタマネギの全量に対して0.025質量%の量で添加し、60℃にて2時間反応させ、反応終了後90℃で15分間加熱して酵素を失活させた。得られた反応液を6,000rpm、30分間遠心分離し、吸引ろ過し、その後凍結乾燥して、含硫アミノ酸約3質量%を含むタマネギ粗抽出物約500gを得た。
上記タマネギ粗抽出物に蒸留水を添加して30%(w/v)水溶液を得た。この水溶液1000mLを試料溶液として、塩酸により再生した強陽イオン交換樹脂(ダイヤイオンSK1B、三菱化学製)500mLに通液した。次いで、蒸留水3000mLによりカラム内に残留した試料溶液を洗い出した。その後、5%水酸化ナトリウム溶液(pH=14)1000mLをカラムに通液し、イオン交換樹脂に吸着した含硫アミノ酸を溶出させた。さらに蒸留水2000mLを添加し、カラム内に残留した液を溶出させた。水酸化ナトリウム溶液により溶出した溶出液と蒸留水により溶出した溶出液とを合一し、エバポレーター(東京理科機械製)により濃縮後、脱塩処理を行って、含硫アミノ酸含有溶液を得た。これを凍結乾燥し、含硫アミノ酸約28質量%を含む組成物を約40g得た。本実施例の方法で得られた含硫アミノ酸の収率は、タマネギ粗抽出物に対して約75%であった。
【0025】
(実施例2)
収穫後のタマネギ(北もみじ2000)約1500kgを洗浄、脱皮した後に、切断せず丸ごと95℃の湯浴中にて20分間加熱処理した。
加熱処理後のタマネギをチョッパーを用いて破砕し、水を1000kg投入し、グルタミナーゼ(グルタミナーゼSD−C100S;天野エンザイム製)を液中のタマネギ全量に対して0.025質量%の量で添加し、40〜60℃にて2時間反応させた。反応終了後の溶液をスクリュープレスにより固液分離を行い、その後、プレート式フラッシュ濃縮機にて濃縮し、さらに90℃、30分間の加熱処理により酵素失活および殺菌処理をし、Brix50のタマネギ粗抽出液200kgを得た。溶液中の含硫アミノ酸量は約1.5質量%であった。
上記タマネギ粗抽出液200kgを蒸留水で2倍に希釈した。この希釈液の全量を試料溶液として、塩酸により再生した強陽イオン交換樹脂(ダイヤイオンSK1B、三菱化学製)150Lに通液した。次いで、水1000Lを通液してカラム内に残留した試料溶液を洗い出した。その後、5%水酸化ナトリウム溶液(pH=14)500Lをカラムに通液し、イオン交換樹脂に吸着した含硫アミノ酸を溶出させた。さらに蒸留水1000Lを添加し、カラム内に残留した液を溶出させた。水酸化ナトリウム溶液により溶出した溶出液と蒸留水により溶出した溶出液とを合一し、塩酸で中和した後、遠心薄膜濃縮機により濃縮し、次いで脱塩処理を行って含硫アミノ酸溶液を得た。これを噴霧乾燥し、含硫アミノ酸約28質量%を含む組成物を約7.5kg得た。本実施例の方法で得られた含硫アミノ酸の収率は、タマネギ粗抽出物に対して約70%であった。
【0026】
(比較例1)
収穫後のタマネギ(北もみじ2000)約5000gを実施例1と同様の手順で加熱処理し、次いでミキサー(Oster社製)を用いて破砕し、ここにタマネギ1g当たり1mLの水を添加し分散させた。得られた分散液を、6,000rpm、30分間遠心分離し、吸引ろ過し、その後凍結乾燥して、含硫アミノ酸約2.5質量%を含むタマネギ粗抽出物約500gを得た。このタマネギ粗抽出物に蒸留水を添加して30%(w/v)水溶液を得た。この水溶液1000mLを試料溶液として、実施例1と同様の手順で強陽イオン交換樹脂処理にかけ、得られた溶出液をエバポレーター(東京理科機械製)により濃縮後、脱塩処理を行って、含硫アミノ酸溶液を得た。これを凍結乾燥し、含硫アミノ酸約28質量%を含む組成物を約22g得た。本比較例の方法で得られた含硫アミノ酸の収率は、タマネギ粗抽出物に対して約50%であった。
【0027】
(比較例2)
収穫後のタマネギ(北もみじ2000)約5000gを実施例1と同様の手順で加熱処理し、次いでミキサー(Oster社製)を用いて破砕し、ここにタマネギ1g当たり1mLの水を添加し分散させた。得られた分散液に、マンナナーゼ(マンナナーゼ BGM「アマノ」10、天野エンザイム社製)、ペクチナーゼ(ペクチナーゼHL、ヤクルト薬品工業社製)、セルラーゼ(セルラーゼ A「アマノ」3、天野エンザイム社製)を、それぞれ液中のタマネギの全量に対して0.025質量%の量で添加し、50℃にて16時間静置し、次いで50℃で2時間攪拌した。反応終了後90℃で15分間加熱して酵素を失活させた。得られた反応液を、6,000rpm、30分間遠心分離し、吸引ろ過し、その後凍結乾燥して、含硫アミノ酸約1質量%を含むタマネギ粗抽出物約500gを得た。このタマネギ粗抽出物に蒸留水を添加して30%(w/v)水溶液を得た。この水溶液1000mLを試料溶液として、実施例1と同様の手順で強陽イオン交換樹脂処理にかけ、得られた溶出液をエバポレーター(東京理科機械製)により濃縮後、脱塩処理を行って、含硫アミノ酸溶液を得た。これを凍結乾燥し、含硫アミノ酸約25質量%を含む組成物を約8g得た。本比較例の方法においては、酵素処理の際の長時間加熱により、目的の含硫アミノ酸が分解されて収率が低下することが推定された。本方法で得られた含硫アミノ酸の収率は、タマネギ粗抽出物に対して約40%であった。
【0028】
(比較例3)
タマネギ100gに対して、実施例1と同様の手順で加熱とグルタミナーゼ処理を行い、含硫アミノ酸約3質量%を含むタマネギ粗抽出物6gを得た。このうち2gを蒸留水10mLに溶解し、さらに9倍量のエタノールを加え、十分に撹拌した。これを6000rpm、15分遠心分離し、沈殿を0.1g回収した。沈殿中の含硫アミノ酸量は約5質量%であり、エタノール処理による含硫アミノ酸の収率はタマネギ粗抽出物に対して約8%であった。
【0029】
(試験例1)
実施例1、及び比較例1〜3で得られた含硫アミノ酸含有組成物を、賦形剤(TK16、松谷化学工業社製)と共に凍結乾燥した粉末を調製した。さらに対照として、実施例1と同様の手順で加熱処理のみ行ったタマネギに上記賦形剤を添加し凍結乾燥した粉末を調製した。各粉末を包装し、40℃で3か月間保存し、経時的に組成物中の含硫アミノ酸の含有量(質量%)を測定し、保存開始時に対する割合(残存率)を求めた。測定は、タマネギに含まれる主たる含硫アミノ酸であるS−プロピル−L−システインスルフォキシド(PCSO)を対象に行った。結果を表1に示す。
【0030】
【表1】