【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「太陽エネルギー技術研究開発 太陽光発電システム次世代高性能技術の開発 有機薄膜太陽電池モジュールの創製に関する研究開発(新構造モジュールの研究開発)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記導電層は、アルミニウム、金、白金、銀、銅、インジウム、ビスマス、鉛、錫、亜鉛、鉄、コバルト、ニッケル、チタン、ジルコニウム、モリブデン、タングステン、クロム、およびタンタルからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素を含む金属材料層、炭素材料層、前記金属元素の粉体を高分子材料に分散させた金属高分子複合材料層、および前記炭素材料の粉体を高分子材料に分散させた炭素高分子複合材料層から選ばれる少なくとも1つの層を有する、請求項1に記載の光電変換素子。
前記導電層は、前記金属材料層、前記炭素材料層、前記金属高分子複合材料層、および前記炭素高分子複合材料層から選ばれる複数の構成層を備え、前記複数の構成層のうち前記第2の透明電極と接する前記構成層は、他の構成層より高いビッカース硬さを有する、請求項2に記載の光電変換素子。
前記導電層は、鉄、コバルト、ニッケル、チタン、ジルコニウム、モリブデン、タングステン、クロム、およびタンタルからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素を含み、前記第2の透明電極上に設けられた第1導電層と、アルミニウム、金、白金、銀、銅、インジウム、ビスマス、鉛、錫、および亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも1つの元素を含み、前記第1導電層上に設けられた第2導電層とを備える、請求項1に記載の光電変換素子。
前記第1および第2の透明電極は、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化錫、酸化インジウム錫、フッ素ドープ酸化錫、ガリウムドープ酸化亜鉛、アルミニウムドープ酸化亜鉛、インジウム−亜鉛酸化物、インジウム−ガリウム−亜鉛酸化物、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(4−スチレンスルホン酸)、およびグラフェンから選ばれる少なくとも1つを含む、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の光電変換素子。
前記第1および第2の光電変換部は、それぞれ、前記透明電極と前記有機活性層との間に配置された第1中間層と、前記有機活性層と前記対向電極との間に配置された第2中間層とを備え、
前記メカニカルスクライブ溝は、前記有機活性層の表面から前記第1中間層を貫通して前記導電層の厚さ方向の一部に達するように形成されている、請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の光電変換素子。
前記導電層は、アルミニウム、金、白金、銀、銅、インジウム、ビスマス、鉛、錫、亜鉛、鉄、コバルト、ニッケル、チタン、ジルコニウム、モリブデン、タングステン、クロム、およびタンタルからなる群より選ばれる少なくとも1つの元素を含む金属材料層、炭素材料層、前記金属元素の粉体を高分子材料に分散させた金属高分子複合材料層、および前記炭素材料の粉体を高分子材料に分散させた炭素高分子複合材料層から選ばれる少なくとも1つの層を有する、請求項7に記載の光電変換素子の製造方法。
前記第1および第2の透明電極は、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化錫、酸化インジウム錫、フッ素ドープ酸化錫、ガリウムドープ酸化亜鉛、アルミニウムドープ酸化亜鉛、インジウム−亜鉛酸化物、インジウム−ガリウム−亜鉛酸化物、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(4−スチレンスルホン酸)、およびグラフェンから選ばれる少なくとも1つを含む、請求項7または請求項8に記載の光電変換素子の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態の光電変換素子およびその製造方法について、図面を参照して説明する。なお、各実施形態において、実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、その説明を一部省略する場合がある。図面は模式的なものであり、厚さと平面寸法との関係、各部の厚さの比率等は現実のものとは異なる場合がある。説明中の上下等の方向を示す用語は、特に明記が無い場合には後述する透明基板の光電変換部の形成面を上とした場合の相対的な方向を示し、重力加速度方向を基準とした現実の方向とは異なる場合がある。
【0010】
図1は実施形態の光電変換素子の概略構成を示している。
図1に示される光電変換素子1は、支持基板として機能する透明基板2と、透明基板2上に設けられた複数の光電変換部3(3A、3B、3C)とを具備している。光電変換部3は、それぞれ透明基板2上に順に形成された、透明電極4(4A、4B、4C)、光電変換層5(5A、5B、5C)、および対向電極6(6A、6B、6C)を備えている。
【0011】
透明基板2は、光透過性と絶縁性とを有する材料により構成される。透明基板2の構成材料には、無アルカリガラス、石英ガラス、サファイア等の無機材料や、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、液晶ポリマー等の有機材料が用いられる。透明基板2は、例えば無機材料や有機材料からなるリジッドな基板であってもよいし、また有機材料や極薄の無機材料からなるフレキシブルな基板であってもよい。
【0012】
実施形態の光電変換素子1においては、透明基板2および透明電極4を介して光電変換層5に光が照射される。あるいは、光電変換層5で発生した光が透明基板2および透明電極4を介して出射される。光電変換素子1が太陽電池である場合には、光電変換層5に照射された光により電荷分離が生じ、電子とそれと対になる正孔とが生成される。光電変換層5で生成された電子と正孔のうち、例えば電子は透明電極4で捕集され、正孔は対向電極6で捕集される。透明電極4と対向電極6の機能は、反対であってもよい。以下、これら各部について説明する。
【0013】
透明電極4は、光透過性と導電性とを有する材料により構成される。透明電極4の構成材料には、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化錫、酸化インジウム錫(ITO)、フッ素ドープ酸化錫(FTO)、ガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)、インジウム−亜鉛酸化物(IZO)、インジウム−ガリウム−亜鉛酸化物(IGZO)等の導電性金属酸化物、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(4−スチレンスルホン酸)(PEDOT/PSS)等の導電性高分子、グラフェン等の炭素材料が用いられる。銀ナノワイヤ、金ナノワイヤ、カーボンナノチューブ等のナノ導電材料を前述の材料に混入させて用いることもできる。さらに透明電極4は、光透過性を維持し得る範囲内で、上述の材料からなる層と金、白金、銀、銅、コバルト、ニッケル、インジウム、アルミニウム等の金属やそれら金属を含む合金からなる金属層との積層膜であってもよい。透明電極4は、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、CVD法、ゾルゲル法、メッキ法、塗布法等により形成される。
【0014】
透明電極4の厚さは、特に制限されないが、10nm以上1μm以下が好ましく、さらに好ましくは30nm以上300nm以下である。透明電極4の膜厚が薄すぎると、シート抵抗が高くなる。透明電極層4の膜厚が厚すぎると、光透過率が低下すると共に、可撓性が低くなることで応力によりひび割れ等が生じやすくなる。透明電極4は、高い光透過率と低いシート抵抗との双方が得られるように、膜厚を選択することが好ましい。透明電極層4のシート抵抗に特段の制限はないが、通常1000Ω/□以下であり、500Ω/□以下が好ましく、より好ましくは200Ω/□以下である。太陽電池や発光素子のような電流駆動タイプの素子の場合、50Ω/□以下がさらに好ましい。
【0015】
光電変換層5は、
図2に示すように、有機活性層51と、透明電極4と有機活性層51との間に配置された第1中間層(第1バッファ層)52と、有機活性層51と対向電極6との間に配置された第2中間層(第2バッファ層)53とを有している。中間層52、53は必要に応じて配置されるものであり、場合によっては中間層52、53の両方または一方を除いてもよい。光電変換層5を構成する各層51、52、53は、光電変換素子1を適用する装置(太陽電池、発光素子、光センサ等)に応じて適宜選択される。以下では光電変換素子1を太陽電池として用いる場合について主として述べるが、実施形態の光電変換素子1は発光素子や光センサ等に適用することも可能である。
【0016】
実施形態の光電変換素子1を有機薄膜太陽電池に適用する場合、有機活性層51は例えばp型半導体とn型半導体とを含んでいる。有機活性層51中のp型半導体には、電子供与性を有する材料が用いられ、n型半導体には電子受容性を有する材料が用いられる。有機活性層51を構成するp型半導体およびn型半導体は、それらが共に有機材料であってもよいし、一方が有機材料であってもよい。
【0017】
有機活性層51に含まれるp型半導体には、ポリチオフェンおよびその誘導体、ポリピロールおよびその誘導体、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体、オリゴチオフェンおよびその誘導体、ポリビニルカルバゾールおよびその誘導体、ポリシランおよびその誘導体、側鎖または主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ポリアニリンおよびその誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリンおよびその誘導体、ポリフェニレンビニレンおよびその誘導体、ポリチエニレンビニレンおよびその誘導体等を用いることができる。これらの材料は併用してもよく、また他の材料との混合物や複合物であってもよい。
【0018】
p型半導体には、π共役構造を有する導電性高分子であるポリチオフェンおよびその誘導体を用いること好ましい。ポリチオフェンおよびその誘導体は、優れた立体規則性を有し、溶媒への溶解性が比較的高い。ポリチオフェンおよびその誘導体は、チオフェン骨格を有する化合物であれば特に限定されない。ポリチオフェンおよびその誘導体の具体例としては、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリ(3−ブチルチオフェン)、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)、ポリ(3−オクチルチオフェン)、ポリ(3−デシルチオフェン)等のポリアルキルチオフェン、ポリ(3−フェニルチオフェン)、ポリ(3−(p−アルキルフェニルチオフェン))等のポリアリールチオフェン、ポリ(3−ブチルイソチオナフテン)、ポリ(3−ヘキシルイソチオナフテン)、ポリ(3−オクチルイソチオナフテン)、ポリ(3−デシルイソチオナフテン)等のポリアルキルイソチオナフテン、ポリエチレンジオキシチオフェン、ポリ[N−9’−ヘプタデカニル−2,7−カルバゾール−alt−5,5−(4,7−ジ−2−チエニル−2’,1’,3’−ベンゾチアジアゾール)](PCDTBT)、ポリ[4,8−ビス{(2−エチルヘキシル)オキシ}ベンゾ[1,2−b:4,5−b’]ジチオフェン−2,6−ジイル−lt−alt−3−フルオロ−2−{(2−エチルヘキシル)カルボニル)}チエノ[3,4−b]チオフェン−4,6−ジイル](PTB7)等が挙げられる。
【0019】
有機活性層51に含まれるn型半導体には、フラーレンおよびフラーレン誘導体等が用いられる。フラーレン誘導体は、フラーレン骨格を有するものであればよい。フラーレンおよびフラーレン誘導体としては、C
60、C
70、C
76、C
78、C
84等のフラーレン、これらフラーレンの炭素原子の少なくとも一部が酸化された酸化フラーレン、フラーレン骨格の一部の炭素原子を任意の官能基で修飾した化合物、これら官能基同士が互いに結合して環を形成した化合物等が挙げられる。
【0020】
フラーレン誘導体に用いられる官能基としては、水素原子、水酸基、フッ素原子や塩素原子のようなハロゲン原子、メチル基やエチル基のようなアルキル基、ビニル基のようなアルケニル基、シアノ基、メトキシ基やエトキシ基のようなアルコキシ基、フェニル基やナフチル基のような芳香族炭化水素基、チエニル基やピリジル基のような芳香族複素環基等が挙げられる。フラーレン誘導体の具体例としては、C
60H
36やC
70H
36のような水素化フラーレン、C
60やC
70を酸化した酸化フラーレン、フラーレン金属錯体等が挙げられる。フラーレン誘導体としては、[6,6]フェニルC
61ブチル酸メチルエスター(PC60BM)、[6,6]フェニルC
71ブチル酸メチルエスター(PC70BM)、ビスインデンC
60(60ICBA)等を用いることが好ましい。
【0021】
有機活性層51は、例えばp型半導体材料とn型半導体材料との混合物を含むバルクヘテロ接合構造を有する。バルクヘテロ接合型の有機活性層51は、p型半導体材料とn型半導体材料とのミクロ相分離構造を有する。有機活性層51内において、p型半導体相とn型半導体相とは互いに相分離しており、ナノオーダーのpn接合を形成している。有機活性層51が光を吸収すると、これらの相界面で正電荷(正孔)と負電荷(電子)とが分離され、各半導体を通って電極4、6に輸送される。バルクヘテロ接合型の有機活性層51は、p型半導体材料とn型半導体材料とを溶媒に溶解させた溶液を、透明電極4等を有する透明基板2上に塗布することにより形成される。有機活性層51の厚さは特に限定されないが、10nm〜1000nmが好ましい。
【0022】
光電変換素子1を有機/無機ハイブリッド太陽電池に適用する場合、有機活性層51は例えば有機/無機混成ペロブスカイト化合物を備える。有機/無機混成ペロブスカイト化合物としては、例えばCH
3NH
4MX
3(Mは鉛および錫から選ばれる少なくとも1つの元素、Xはヨウ素、臭素、および塩素から選ばれる少なくとも1つの元素である)で表される組成を有する化合物が挙げられる。有機活性層51の形成方法としては、上記したペロブスカイト化合物またはその前駆体を真空蒸着する方法、ペロブスカイト化合物またはその前駆体を溶媒に溶かした溶液を塗布して加熱・乾燥させる方法が挙げられる。ペロブスカイト化合物の前駆体としては、例えばハロゲン化メチルアンモニウムとハロゲン化鉛またはハロゲン化錫との混合物が挙げられる。有機活性層51の厚さは特に限定されないが、10nm〜1000nmが好ましい。
【0023】
光電変換層5で生じた電子と正孔のうち、電子を透明電極4で捕集する場合、第1中間層(第1バッファ層)52は電子を選択的にかつ効率的に輸送することが可能な材料で構成される。電子輸送層として機能する第1中間層52の構成材料としては、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化ガリウム等の無機材料や、ポリエチレンイミンやその誘導体等の有機材料が用いられる。第1中間層52は、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、ゾルゲル法、メッキ法、塗布法等により形成される。第1中間層52の厚さは、0.05nm以上200nm以下であることが好ましく、より好ましくは0.1nm以上50nm以下である。
【0024】
光電変換層5で生じた電子と正孔のうち、正孔を対向電極6で捕集する場合、第2中間層(第2バッファ層)53は正孔を選択的にかつ効率的に輸送することが可能な材料で構成される。正孔輸送層として機能する第2中間層53の構成材料としては、酸化バナジウム、酸化タンタル、酸化モリブデン等の無機材料や、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアセチレン、トリフェニレンジアミンポリピロール、ポリアニリン、もしくはそれらの誘導体等の有機材料が用いられる。第2中間層53は、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、ゾルゲル法、メッキ法、塗布法等により形成される。第2中間層53の厚さは、0.05nm以上200nm以下であることが好ましく、より好ましくは0.1nm以上50nm以下である。
【0025】
対向電極6は、導電性を有し、場合によっては光透過性を有する材料により構成される。対向電極6の構成材料としては、例えば白金、金、銀、銅、ニッケル、コバルト、鉄、マンガン、タングステン、チタン、ジルコニウム、錫、亜鉛、アルミニウム、インジウム、クロム、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、カルシウム、マグネシウム、バリウム、サマリウム、テルビウム等の金属、それらを含む合金、インジウム−亜鉛酸化物(IZO)のような導電性金属酸化物、PEDOT/PSS等の導電性高分子、グラフェン等の炭素材料が用いられる。銀ナノワイヤ、金ナノワイヤ、カーボンナノチューブ等のナノ導電材料を前述の材料に混入させて用いることもできる。
【0026】
対向電極6は、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、ゾルゲル法、メッキ法、塗布法等により形成される。対向電極6の厚さは、特に制限されないが、1nm以上1μm以下が好ましい。対向電極6の膜厚が薄すぎると、抵抗が大きくなりすぎて、発生した電荷を外部回路へ十分に伝達できないおそれがある。対向電極6が厚すぎると、その成膜に長時間要し、材料温度が上昇して有機活性層51がダメージを受けるおそれがある。対向電極6のシート抵抗は特に制限されないが、500Ω/□以下が好ましく、より好ましくは200Ω/□以下である。太陽電池や発光素子のような電流駆動タイプの素子の場合、50Ω/□以下がさらに好ましい。
【0027】
実施形態における光電変換素子1の製造工程の概略について、
図3を参照して説明する。
図3(a)に示すように、透明基板2上に複数の光電変換部3A、3B、3Cに応じた透明電極4A、4B、4Cを形成する。透明電極4Bは、透明電極4Aに隣接し、かつ透明電極4Aと電気的に絶縁された状態で形成される。透明電極4Cも同様であり、透明電極4Bに隣接し、かつ透明電極4Bと電気的に絶縁された状態で形成される。これら透明電極4A、4B、4Cを覆うように、透明基板2上に光電変換層5Xを形成する。光電変換層5Xは、透明電極4A、4B、4Cを全て覆うように全面に形成される。
【0028】
次に、
図3(b)に示すように、光電変換層5Xを各光電変換部3A、3B、3Cに対応させて複数に分割するように、光電変換層5Xを切削して溝部11A、11Bを形成する。光電変換層5Xを分割する溝部11A、11Bは、例えばメカニカルスクライブにより形成される。光電変換層5Xを溝部11A、11Bで複数に分割することによって、複数の光電変換部3A、3B、3Cに応じた光電変換層5A、5B、5Cが形成される。分割溝部11A、11Bは、光電変換部3A、3Bの対向電極6A、6Bと、隣接する光電変換部3B、3Cの透明電極4B、4Cとの電気的な接続部の形成領域となる。
【0029】
図3(c)に示すように、光電変換層5A、5B、5C上にそれぞれ複数の光電変換部3A、3B、3Cに応じた対向電極6A、6B、6Cを形成する。光電変換部3A、3Bの対向電極6A、6Bを形成するにあたって、隣接する光電変換部3B、3Cとの間に設けられた溝部11A、11B内に、対向電極6A、6Bの一部(対向電極材料)6a、6bを埋め込む。このようにして、光電変換部3A、3Bの対向電極6A、6Bと、隣接する光電変換部3B、3Cの透明電極4B、4Cとを、溝部11A、11B内に充填された対向電極材料6a、6bにより電気的に接続する。
【0030】
ところで、従来の製造工程においては、光電変換部3A、3Bの対向電極6A、6Bを隣接する光電変換部3B、3Cの透明電極4B、4Cと電気的に接続するために、溝部11A、11B内に透明電極4B、4Cの表面を露出させている。溝部11A、11Bは、刃物等を用いたメカニカルスクライブにより形成される。光電変換層5Xをメカニカルスクライブするにあたって、透明電極4B、4Cの表面を確実に露出させるような圧力を加えると、硬くて脆い透明導電性酸化物からなる透明電極4B、4Cでは、透明電極4B、4Cに亀裂等が生じやすい。特に、透明基板2に有機材料からなる基板を用いた場合、基板が圧縮されて透明電極4B、4Cの変形量が大きくなるため、亀裂等が生じやすい。また、光電変換層5Xと同等の柔らかさを有する導電性高分子を透明電極4B、4Cに用いる場合、透明電極4B、4Cの表面を確実に露出させるような圧力を加えると、透明電極4B、4Cも同時に切削されてしまう。さらに、透明電極4B、4Cの表面を露出させると、透明電極4B、4Cと銀やアルミニウム等からなる対向電極6とが直接接するため、ガルバニック腐食が起きやすくなる場合がある。
【0031】
一方、従来の製造工程で透明電極4B、4Cの破壊を防止するために、メカニカルスクライブ時の圧力を下げると、光電変換層5Xの一部が溝部11A、11B内に残留しやすい。導電性金属酸化物からなる硬い透明電極4B、4C上に存在する柔らかくて粘着性の光電変換層5Xを機械的に切削しようとすると、光電変換層5Xの一部が溝部11A、11B内に残留しやすい。溝部11A、11B内に光電変換層5Xの一部が残留すると、光電変換部3A、3Bの対向電極6A、6Bと隣接する光電変換部3B、3Cの透明電極4B、4Cとの間の電気抵抗が増大し、その結果として光電変換効率が低下してしまう。
【0032】
実施形態の光電変換素子1の製造方法においては、以下に示すような構造および工程を適用している。実施形態の光電変換素子1の製造方法における光電変換部3間の接続工程および接続部の構成について、
図4および
図5を参照して述べる。
図4は光電変換部3間の接続工程を示す断面図、
図5は光電変換部3間の接続工程を示す平面図である。なお、
図4および
図5は光電変換部3Aとそれと隣接する光電変換部3Bとの接続工程を示しているが、光電変換部3Bとそれと隣接する光電変換部3Cとの接続工程も同様にして実施される。また、光電変換素子1が4個またはそれ以上の光電変換部3を有する場合も同様であり、同様な工程で隣接する光電変換部3間が順に直列接続される。
【0033】
図4(a)および
図5(a)に示すように、光電変換部3Aの対向電極6Aが電気的に接続される光電変換部3Bの透明電極4B上に導電層12を形成する。導電層12は、光電変換層5Xをメカニカルスクライブする際に、溝部11Aの形成領域および透明電極4Bの保護層として機能する。従って、導電層12は光電変換層5Xのスクライブ領域に対応する透明電極4Bの領域上のみに形成される。導電層12は透明電極4Bの透明電極4Aと隣接する一部の領域上のみに形成される。導電層12は、アルミニウム、金、白金、銀、銅、インジウム、ビスマス、鉛、錫、亜鉛、鉄、コバルト、ニッケル、チタン、ジルコニウム、モリブデン、タングステン、クロム、タンタル等の金属やそれら金属を含む合金からなる金属材料層、グラフェン等の炭素材料層、あるいは上述の金属材料や炭素材料の粒子やファイバを高分子材料に分散させた複合材料層(金属高分子複合材料層または炭素高分子複合材料層)を有する。導電層12は、複数の金属層を積層した金属材料層、あるいは金属材料層と炭素材料層等との積層膜であってもよい。
【0034】
次に、
図4(b)および
図5(b)に示すように、透明電極4Aおよび導電層12を含む透明電極4B全体を覆うように、透明基板2上に第1中間層52Xと有機活性層51Xを順に形成する。続いて、
図4(c)および
図5(c)に示すように、第1中間層52Xと有機活性層51Xとの積層膜を導電層12の形成領域に沿って切削して溝部11Aを形成する。溝部11Aは前述したように、第1中間層52Xと有機活性層51Xとの積層膜をメカニカルスクライブすることにより形成される。積層膜をメカニカルスクライブするにあたって、積層膜と共に導電層12の厚さ方向の一部を切削する。
【0035】
上記したように、柔らかくて粘着性を有する第1中間層52Xや有機活性層51Xを、導電層12の一部と共に切削することによって、溝部11A内に第1中間層52Xや有機活性層51Xの一部が残留することを防ぐことができる。このようなメカニカルスクライブ工程により形成される溝部11Aは、第1中間層52Xと有機活性層51Xとの積層膜の表面から導電層12の厚さ方向の一部に達する形状を有している。導電層12の厚さ方向の一部に達する溝部11Aで、第1中間層52Xと有機活性層51Xとの積層膜を複数に分割することによって、光電変換部3A、3Bに応じた第1中間層52A、52Bと有機活性層51A、51Bとを形成する。
【0036】
次いで、
図4(d)に示すように、有機活性層51A、51B上にそれぞれ光電変換部3A、3Bに応じた第2中間層53A、53Bと対向電極6A、6Bとを順に形成する。光電変換部3Aの第2中間層53Aおよび対向電極6Aを形成するにあたって、隣接する光電変換部3Bとの間に設けられた溝部11A内に、第2中間層53Aの一部(第2中間層材料)53aと対向電極6Aの一部(対向電極材料)6aを埋め込む。このようにして、光電変換部3Aの対向電極6Aと隣接する光電変換部3Bの透明電極4Bとを、導電層12と溝部11A内に充填された第2中間層材料53aおよび対向電極材料6aとを有する接続部13Aで電気的に接続する。なお、溝部11A内の第2中間層材料53aは必須のものではなく、溝部11A以外の領域のみに形成してもよい。
【0037】
メカニカルスクライブ時における溝部11Aの形成領域(切削領域)としての機能を考慮すると、導電層12はアルミニウム、金、白金、銀、銅、インジウム、ビスマス、鉛、錫、亜鉛、鉄、コバルト、ニッケル等の比較的硬度が低い金属材料、あるいは金属材料や炭素材料の粒子やファイバを樹脂等のバインダに分散させた材料(第1の導電性材料)で形成することが好ましい。なお、鉄、コバルト、ニッケル、チタン、ジルコニウム、モリブデン、タングステン、クロム、タンタル等の比較的硬度が高い金属材料(第2の導電性材料)からなる導電層12であっても、透明電極4の形成材料である導電性金属酸化物に比べて靭性等に優れるため、メカニカルスクライブ時に亀裂等を生じさせることなく切削することができる。従って、第2の導電性材料からなる導電層12であっても、メカニカルスクライブ時における切削領域として機能させることができる。
【0038】
一方、透明電極4Bの保護層としての機能を考慮すると、導電層12は鉄、コバルト、ニッケル、チタン、ジルコニウム、モリブデン、タングステン、クロム、タンタル等の比較的硬度が高い第2の導電性材料で形成することが好ましい。これらの点を考慮して、導電層12は
図6に示すように、上述した第2の導電性材料からなり、透明電極4B上に設けられた第1導電層121と、上述した第1の導電性材料からなり、第1導電層121上に設けられた第2導電層122とを有していてもよい。
【0039】
上記したように、導電層12は複数の構成層を備えていてもよい。導電層12の構成層は、上記した金属材料層に限らず、炭素材料層、金属材料や炭素材料の粒子やファイバを樹脂等のバインダに分散させた材料層であってもよい。これら複数の構成層のうち、第2の透明電極と接する構成層(例えば第1導電層121)は、他の構成層(例えば第2導電層122)より大きいビッカース硬さを有することが好ましい。このような複数の構成層を有する導電層12を適用することによって、メカニカルスクライブ時における切削領域としての機能と透明電極4Bの保護層としての機能をより良好に両立させることができる。さらに、導電層12は3層以上の構成層を有していてもよい。その場合の具体的な構成としては、例えば透明電極4B上に順に形成された、高硬度の構成層、低硬度の構成層、および高硬度の構成層を有する積層膜が挙げられる。
【0040】
さらに、導電層12は接続部13Aの一部を構成する。すなわち、光電変換部3Aの対向電極6Aと隣接する光電変換部3Bの透明電極4Bとは、導電層12を介して電気的に接続される。導電層12の電気的な接続部としての機能を考慮すると、導電層12はアルミニウム、金、銀、銅、モリブデン等の金属やそれら金属を含む合金で形成することが好ましい。ただし、導電性が比較的低い導電性材料(錫、クロム、チタン等や、金属材料や炭素材料の粒子やファイバを樹脂等のバインダに分散させた材料)であっても、導電層12の切削領域や保護層としての機能を損なわない範囲で、厚さを薄くすることで導電層12として用いることができる。
【0041】
実施形態の光電変換素子1およびその製造方法によれば、メカニカルスクライブ時に透明電極4を破壊することなく、有機活性層51等の一部が溝部11内に残留することを防ぐことができる。従って、隣接する光電変換部3間の電気的な接続性を向上させることができる。具体的には、光電変換部3Aの対向電極6Aと隣接する光電変換部3Bの透明電極4Bとの接続抵抗を低減することができる。光電変換部3間の接続抵抗の上昇は、光電変換素子1の光電変換率の低下原因となる。実施形態の光電変換素子1およびその製造方法によれば、光電変換効率を向上させることが可能になる。特に、直列接続する光電変換部3の数を増やした場合においても、隣接する光電変換部3間の接続抵抗が増大する確率を低減することによって、装置全体としての光電変換効率を高めることができる。
【実施例】
【0042】
次に、実施例およびその評価結果について述べる。
【0043】
(実施例1)
まず、厚さが200μmのポリエチレンテレフタレート製の樹脂フィルム上に、透明電極として厚さが150nmのITO膜を複数形成した。ITO膜は、光電変換部の設置数に対応させて複数形成した。次いで、複数のITO膜のエッジ部分にそれぞれ銀ペーストを塗布し、これらを乾燥させて導電層を形成した。導電層の幅は約0.5mm、厚さは約5μmとした。
【0044】
複数のITO膜とその上の一部の領域のみに設けられた導電層とを有する樹脂フィルム上に、透明電極側の第1中間層としてエトキシ化ポリエチレンイミン(80%エトキシレイテッド(PEIE))を約1nmの厚さで製膜した。次いで、モノクロロベンゼン1mLに8mgのPTB7と12mgのPC70BMとを分散させた塗布液(有機活性層の塗布液)を、第1中間層上にメニスカス塗布法により塗布した。塗布条件は以下の通りとした。樹脂フィルム上に0.88mmのギャップで幅303mmの塗布ヘッド(SUS303製)を配置した。樹脂フィルムと塗布ヘッドとの間に、シリンジポンプを用いて1.38mLの塗布液を供給した。樹脂フィルムを10mm/sの速度で移動させて塗布液を塗布した。塗布膜を60℃で30分間乾燥させることによって、約100nmの厚さを有する有機活性層を形成した。
【0045】
次いで、導電層の形成領域に沿って、有機活性層を導電層の一部と共にメカニカルスクライブすることによって、導電層を露出させた。スクライブツールとしては、汎用のカッターを用いた。カッターを約1.96Nの力のバネを用いたサスペンション機構で押し当て、導電層の長手方向と平行に走査することにより有機活性層を削り取った。このとき、導電層の一部も削り取ったが、ITO膜が露出することはなかった。導電層の露出幅は、約20μmであった。
【0046】
この後、有機活性層上に対向電極側の第2中間層として三酸化モリブデンを約5nmの厚さで製膜し、さらに対向電極として銀を約150nmの厚さで製膜した。このようにして得た有機薄膜太陽電池モジュールの光電変換効率を、エアマス(AM)1.5G、放射照度1000W/m
2のソーラーシミュレータを用いて測定したところ、光電変換効率は7.1%と良好な値を示した。
【0047】
(実施例2)
下記の点以外は、実施例1と同様にして有機薄膜太陽電池モジュールを作製した。透明基板としてガラス基板を用いた。導電層としてMo合金(厚さ:50nm)/Al合金(厚さ:200nm)/Mo合金(厚さ:50nm)の積層膜を用いた。積層膜は、フォトリソグラフィ法によりパターニングした。メカニカルスクライブ工程において、約4.9Nの力のバネを用いたサスペンション機構を用いた。メカニカルスクライブ工程で積層膜の一部も削り取ったが、ITO膜が露出することはなかった。積層膜の露出幅は、約20μmであった。このようにして得た有機薄膜太陽電池モジュールの光電変換効率を実施例1と同様にして測定したところ、光電変換効率は7.5%と良好な値を示した。
【0048】
(比較例1)
透明電極上に導電層を形成しないこと以外は、実施例1と同様にして有機薄膜太陽電池モジュールを作製した。メカニカルスクライブ工程におけるカッターの押し当て力を、実施例1と同様に約1.96Nに設定したところ、ITO膜が割れて破片が発生した。約1.18Nまでのカッターの押し当て力では、ITO膜の割れが確認された。カッターの押し当て力を約0.98Nまで下げたところ、ITO膜の破片は発生しなかった。しかし、この有機薄膜太陽電池モジュールの光電変換効率を実施例1と同様にして測定したところ、光電変換効率は3.5%であり、実施例1に比べて劣っていた。測定値のうち、直列抵抗Rsが実施例1に比べて大きいことから、スクライブ溝内に有機活性層が一部残り、これが抵抗となってセル間の直列接続が十分にできていないことによると推察される。
【0049】
(比較例2)
透明電極上に導電層を形成しないこと以外は、実施例2と同様にして有機薄膜太陽電池モジュールを作製した。メカニカルスクライブ工程におけるカッターの押し当て力を、実施例2と同様に約4.9Nに設定したところ、ITO膜の破片は発生しなかった。しかし、この有機薄膜太陽電池モジュールの光電変換効率を実施例2と同様にして測定したところ、光電変換効率は6.5%であり、実施例2に比べて劣っていた。測定値のうち、直列抵抗Rsが実施例2に比べて大きいことから、スクライブ溝内に有機活性層が一部残り、これが抵抗となってセル間の直列接続が十分にできていないことによると推察される。また、積層膜の露出幅は、スクライブ開始部位では約10μmであり、実施例2より狭いことが確認された。スクライブ終了部位の積層膜の露出幅は約25μmに広がっており、カッターの刃先の摩耗が確認された。従って、カッターの押し当て力を調整しても、実施例2と比較して光電変換効率とカッターの寿命との両立性は劣るものであった。
【0050】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。