(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
車載電池用角形電池ケースであって、1枚の成形素材アルミニウム合金板からなる底部、側壁、開口部を各々有する横断面形状が矩形状のケースであり、前記側壁の厚みが0.2〜0.6mmの範囲に薄肉化された上で、前記底部の厚みが0.6〜1.0mmの範囲で、前記側壁よりも厚肉化されており、更に、前記側壁の上部の厚みが、前記ケースの内側に向かって張り出すように、この側壁の定常部の厚みの30%以上(但し30%を除く)、部分的に予め厚肉化されていることを特徴とする車載電池用角形電池ケース。
前記側壁の上部の厚みを、前記ケースの内側に向かって、部分的に予め厚肉化するに際して、前記側壁の上部以外の部位にしごき加工を加えて厚みを減少させる一方で、前記側壁の上部は、前記しごき加工を加えず、元の側壁の厚みを有するとともに前記ケースの外側に向かって張り出す厚肉部としてそのまま残し、その上で、更に、前記側壁の上部の厚肉部に加工を加えて、前記厚肉部の張り出す方向を、前記ケースの内側に向かうよう反転させる、請求項3に記載の車載電池用角形電池ケースの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0020】
角形電池ケースの基本構造:
図1〜3に本発明角形電池ケースの一態様を示す。本発明で言う角形電池ケースとは、
底部、側壁、開口部を各々有する横断面形状が矩形状のアルミニウム合金製電池ケースを言う。
【0021】
図1〜3において、角形電池ケース1は前提として車載電池用として使用される。すなわち、この電池ケース1同士が多数並列され、モジュールに組み込まれて使用される。このため、スペースの効率から、底部、側壁、開口部を各々有する横断面形状が矩形状の、扁平で薄型のアルミニウム合金製電池ケースとされている。
【0022】
角形電池ケース1は、基本的に、矩形(平面視で角形)底部6と、この矩形底部6の各周縁部から立ち上がる四つの各側壁2、3、4、5と、これら各側壁2、3、4、5の上端部2a、3a、4a、5a側の矩形状開口部7とを一体に有した角筒形状からなる。
【0023】
本発明で言う矩形状とは、以下の記載も含めて、矩形あるいは四角の形状や、これらの形状そのものでなくても、矩形あるいは四角に近似する形状を意味する。
【0024】
図1〜3の角形電池ケース1において、側壁4、5は大きくて広幅な壁面として長辺側にある対向する二つの側壁であり、側壁2、3は小さくて狭幅な壁面として短辺側にある、対向する二つの側壁である。これらの側壁は、壁面形状が角型で、広幅な壁面の幅と狭幅な壁面の幅の比の大きい(長辺側に比して短辺側が著しく小さい)、矩形で扁平な薄型の電池ケースを構成する。
【0025】
矩形底部6の厚み(板厚)t6は0.6〜1.0mmの範囲、各側壁2、3、4、5の定常部2b、3b、4b、5bの厚み(板厚)t2、t3、t4、t5は0.2〜0.6mmの範囲から選択されて、均一な板厚の板の前記した成形によって、互いに差厚化されている。すなわち、これら各部の厚みが異なる、差厚角筒形状からなっている。
【0026】
この矩形底部6の厚みは、薄肉化された上で立設される電池ケースの強度(剛性)の必要性から、前記各側壁よりも厚肉化されている。また、多数の電池ケース1が互いに密に並べられてモジュールに組み込まれ、隣接する電池ケースの側壁同士で接しているため、強度が比較的低くても良い、長辺側の二つの側壁4b、5bの各厚みt4、t5は、短辺側の二つの側壁2b、3bの各厚みt2、t3よりも薄くしても良い。すなわち、これら矩形底部6や側壁2〜5同士は、車載電池用として、各々の厚みを、前記した範囲内で互いに変えて、差厚化しても良い。
【0027】
これらの角形電池ケース1は、汎用される公知の製造方法として、均一な厚み(t1:
0.5〜1.2mm)の1枚の素材アルミニウム合金板(冷延板)を、絞りとしごきなどを順次組み合わせた、公知の多段の成形加工よって一体に成形して得ることができる。ちなみに、これら多段の成形加工自体は、例えば、特許第4119612号公報、特許第4325515号公報、塑性加工学2、W.ジョンソン、P.B.メラー共著、昭和40年10月30日培風館発行、「11・10底付き容器の再絞り加工」26-27頁などに、具体的に記載されている。この角形電池ケース1の素材となるアルミニウム合金板は、後述する合金の中から選択される。
【0028】
蓋の装着:
図4、5に示す通り、角形電池ケース1の矩形開口部7には、角形電池ケース1とは別の素材アルミニウム合金板から成形された、平面視で矩形状の蓋8が装着される。因みに、蓋8は、必ずしも板の成形によらずとも、鋳造、鍛造、押出などの別の製法で制作されても良い。
【0029】
この
図4、5は、
図1の角形電池ケース1に蓋8を装着した態様を、
図1のA―A断面図を用いて、角形電池ケース1のA―A断面側のみを部分的に示している。以下の説明では、
図1のB―B断面側にも共通する記載もあり、そのような場合には、B―B断面側の符号を、A―A断面側の符号に続いて、括弧書きにて追記する。
【0030】
この蓋8は、電池ケース上部の平面視した矩形形状と同じあるいは相似する矩形(平面視)形状を有し、通常は、Liイオン電池ケースなどとして必要な、外部正極、電解液の注入口やカバー、安全弁などの他の必要部品を備える。このために、必要な強度(剛性)が高く、前記各側壁2、3、4、5、あるいは、更に矩形底部6よりも厚肉化されており、その厚み(板厚)t8は1.0〜2.0mmの範囲である。この蓋8の素材となるアルミニウム合金板も後述する合金の中から選択される。
【0031】
この蓋8の装着に際して汎用される装着方式としては、代表的には、
図4のような、おとし蓋方式で、蓋8を各側壁の上端部2a、3a(4a、5a)で囲む空間内に収容して、蓋8と各側壁の上端部2a、3a(4a、5a)とを、同じ平面の(面一の)同じレベルにして載置する方法がある。また、
図5のような載蓋方式で、蓋8を各側壁の上端部2a、3a(4a、5a)上に載置して、これら各側壁の上端部を覆う方法などもある。
【0032】
この蓋8の装着に際しては、
図4、5の矢印で示す溶接方向から、蓋8の周縁部8a、8bと、各側壁の上端部2a、3aあるいは各側壁の上部2c、3cとが互いに、その長手方向あるいは平面視での周縁に亘って、レーザ溶接によって封止溶接される。但し、
図3、4で図示しているのは、前記した通り、短辺側側壁2、3の上端部2a、3aあるいは上部2c、3cのみである。
【0033】
図4は、蓋8の周縁部8a、8bと、各側壁の上端部2a、3aとの境界(溶接部)に向かって、レーザが上方から下方に、矢印で示すレーザ入射線Xのように、入射される上打ち方式の封止溶接を示している。
図5は、蓋8の周縁部8a、8bと、各側壁の上端部2a、3aあるいは各側壁の上部2c、3cとの境界(溶接部)に向かって、レーザが横方向から水平に、矢印で示すレーザ入射線Xのように、入射される横打ち方式の封止溶接を示している。
これら
図4、5では図示してはいないが、
図1における側壁4、5の上端部4a、5aや、上部4c、5cも、同様にして、蓋8と封止溶接される。
【0034】
封止溶接におけるレーザ溶接は、公知のものが使用でき、レーザ溶接機として、半導体励起パルス発信型YAGレーザ、ディスクレーザ、ファイバレーザなどを使用して、レーザ溶接のスポットを照射して順次溶接する。例えば、レーザ出力:200〜500W、ファイバー径=0.1〜0.4mm、溶接速度=10〜20m/分、シールドガス=Ar(0.1〜0.5L/s)などの条件で、連続溶接で行う。
【0035】
ビード形成:
この封止溶接の際に、
図4、5のように、各側壁の上部2c、3c(4c、5c)と、蓋8の例えば周縁部8a、8bとに亘るとともに、その先端部9aが各側壁の上部2c、3c(4c、5c)を電池ケース内部に向けて貫通しないような、安定した健全なビード9が形成されて、接合されることが必要である。このビード9は、蓋8の周縁部8a、8bと前記各側壁の上部2c、3c(4c、5c)の封止溶接される部分に亘って、蓋と側壁上端部や側壁上部の長手方向あるいは平面視での周縁に亘って、形成される。
【0036】
しかし、側壁を0.2〜0.6mmの範囲に均一な厚みに薄肉化した従来例では、この側壁が薄すぎて、レーザによる封止溶接が安定しない。前記した通り、アルミニウム合金の比熱および溶融潜熱は、鋼や他の大多数の金属よりも大きく、熱伝導の良いこととあいまって、鋼の5倍も熱が逃げやすい。このため、溶接部である側壁21が薄くなるほど、局部加熱が難しく、溶融させるために鋼よりも多量の熱を供給する必要があり、レーザによる封止溶接が安定しなくなる。
【0037】
レーザ溶接条件にも勿論よるが、この種のアルミニウム合金板製の車載用電池ケースに汎用されるレーザによる封止溶接の条件範囲では、後述する
図4、5に示すビードの溶け込み深さHは、これら側壁の厚みの80%以上となる。したがって、側壁21の厚みが前記0.2〜0.6mmの範囲に薄肉化されるほど、ビードの溶け込み深さHに対する側壁21の厚みの余裕が無く、アルミニウム合金の前記特性上、レーザ出力やファイバー径、ピーク出力、溶接速度を大きくするなどの溶接条件によっては、側壁の上部21aを、その先端22aが貫通するような不安定なビード22の形状となりやすい。
【0038】
図7、8に、側壁の上部21aも定常部と均一な厚みを有する、従来の薄肉化した側壁21の溶接部を示す。この
図7、8に示す通り、レーザ溶接による封止溶接が安定しないと、側壁の上部21aを、その先端22aが貫通するような不安定なビード22の形状となりやすい。これは
図7のような上打ち方式でも、
図8のような横打ち方式の封止溶接でも同様である。
このように、その先端22aが貫通するような不安定なビード形状となった場合には、接合強度が低下するとともに、スパッタが電池ケース内部に飛んで、電池ケースの内容物に大きな損傷やダメージを与える。
このため、健全なビード形状や溶接部とするため、封止溶接時に余分で多大の労力やコストを必要とする。より具体的に言うと、従来は、健全なビード形状や溶接部とするために、溶接効率を犠牲にして、溶接電流や溶接速度を低くして、多段階に細分化したような溶接工程とするか、高い制御精度のより高価な溶接機が必要であった。
【0039】
側壁の厚肉化:
これに対して、前記した安定した健全なビード9の形成のため、本発明では、蓋8と封止溶接される、各側壁2、3、4、5の上部を、
図1〜3に示す2c、3c、4c、5cの通り、前記封止溶接によって形成されるビードの溶け込み深さHよりも厚くなるよう、各側壁の定常部2b、3b、4b、5bの厚みよりも、部分的に、前記封止溶接に先立って予め厚肉化する。
これら各側壁の各上部2c、3c、4c、5cは、
図1〜3の通り、角形電池ケース1aの内側に向かってのみ張り出すように、あるいは膨らむように、部分的に予め厚肉化されている。したがって、各側壁の各上部2c、3c、4c、5cの外側の壁は、好ましくは
図1〜3の通り、各側壁の定常部2b、3b、4b、5bの外壁と同じく、厚肉化による膨らみや凹凸が無い、平坦な壁面であって、前記各定常部の外壁と同じ平面でつながり、角形電池ケース1aの平坦な外壁面を各々構成している。
【0040】
ここで、ビードの溶け込み深さHは、
図4、5において図示するごとく、レーザの入射方向に関わらず、矢印で示すレーザの入射線Xの延長線上にある、ビード9の外表面部9bから、その先端部9aまでの、ビードの最大深さ(最大の溶け込み深さ)である。
【0041】
各側壁の定常部2b、3b、4b、5bの厚み(板厚):t2、t3、t4、t5は前記した通り0.2〜0.6mmの範囲から選択される。これに対して、各側壁の上部2c、3c、4c、5cの厚み(板厚):t2c、t3c、t4c、t5cは、これら定常部の厚みt2、t3、t4、t5よりも厚くする。この目安として、ビード9の形成量に見合った分だけ、これら側壁の上部2c、3c、4c、5cにおける各々のビードの溶け込み深さHよりも厚くなるように、部分的に厚肉化することが好ましい。
しかも、この厚肉化は、角形電池ケース1の内側(内側空間)に向かってのみ張り出すように、部分的に厚肉化している。
図1の本発明角形電池ケースは、
図2のA―A断面図における厚肉化部分2c、3cと、
図3のB―B断面図における厚肉化部分4c、5cとを有する。
【0042】
このような厚肉化によって、安定したレーザ溶接が可能となり、前記
図4、5の右側に示したように、側壁の上部2c、3c(4c、5c)と、蓋の周縁部8a、8bとに亘るとともに、その先端部9aが側壁の上部2c、3c(4c、5c)を貫通しないような、安定した健全なビード9が形成される。
また、側壁の上部2c、3c(4c、5c)の厚肉化によって、側壁の上部を貫通しない範囲で許容されるビード9の溶け込み深さH(あるいは許容されるビード9の大きさ)が、薄肉化された元の側壁厚みから、厚肉化された厚みへと、大きく増大する効果も大きい。
また、側壁2、3、4、5の各上部2c、3c、4c、5cを、ビード9の溶け込み深さH以上に、部分的に厚肉化することによって、溶接条件の選択範囲や許容範囲も広がり、安定した溶接が可能となり、安定した健全なビード9が形成される効果もある。
すなわち、側壁の上部をビード9が貫通しない、封止溶接条件の許容範囲を緩和させ、溶接条件を安定化させる効果も大きい。本発明では、前記角形電池ケースの基本構造(蓋
8、矩形底部6、側壁の各厚み範囲も含めて)を前提とした上で、安定したレーザ溶接を可能とする。
【0043】
更に、各側壁の各上部2c、3c、4c、5cは、角形電池ケース1aの内側に向かってのみ張り出すように、あるいは膨らむように部分的に予め厚肉化されている。このため、これら各側壁上部2c、3c、4c、5cの外側の壁面は、各側壁の定常部2b、3b、4b、5bの外壁面と同じく、厚肉化による膨らみや凹凸が無い、平坦な壁面となっている。すなわち、これらの側壁の外側の壁面は、厚肉化されている側壁の各上部2c、3c、4c、5cを含めて、同じ平面(面一)に平坦化されている。
この結果、前記各側壁の定常部の外壁面と同じ平面でつながり、角形電池ケース1aの平坦な外壁面を各々構成できる。したがって、自動車用のLiイオン電池として、限られた車載スペースにおいても、多数の電池ケース(の外壁)同士を互いに並列して載置しやすく、スペース効果が高いという特徴もある。
このような各側壁上部2c、3c、4c、5cの外側の壁面の、各側壁の定常部2b、3b、4b、5bの外壁面との、同じ平面での平坦化は、必須ではないが、上記した優れたスペース効果を有する。
【0044】
ここで、電池ケースとして、健全な使用に耐えうるためには、封止溶接部に十分な継手強度が必要である。この継手強度はビード9の溶け込み深さHに依存する。レーザ溶接条件にも勿論よるが、汎用されるレーザによる封止溶接条件の範囲では、十分な継手強度を確保するためには、ビードの溶け込み深さHは、側壁2、3、4、5の定常部の厚みt2、t3、t4、t5に対し、これら側壁の厚みの60%以上、好ましくは80%以上となることが好ましい。
しかしながら,側壁2、3、4、5の定常部の厚みt2、t3、t4、t5が0.2〜0.6mmの範囲と薄い場合には、溶接の際に前記のような熱ひずみが生じるため、溶け込みが不安定となり、一部には側壁をビードが貫通してしまう。
こうした問題を解決するには、レーザによる封止溶接部の肉厚を部分的に増加させ,熱ひずみを抑制することが必要となる。そして、このような溶接の問題は、前記特許文献1のような鋼板の場合よりも多量の入熱を必要とする、アルミニウム合金板に特有の問題である。
【0045】
このため、これらの側壁の上部厚肉部2c、3c、4c、5cを、ビードの溶け込み深さHよりも厚肉化する目安として、各側壁の上部2c、3c、4c、5cの厚み(板厚):t2c、t3c、t4c、t5cは、側壁2、3、4、5の定常部の厚みt2、t3、t4、t5の30%以上、より好ましくは40%以上、部分的に厚肉化されていることが好ましい。
側壁2、3、4、5の定常部2b、3b、4b、5bの厚みが、各々異なる場合には、厚肉化する側壁自体(厚肉化する当該側壁)の定常部の厚みを各々基準とする。
この厚肉化の上限は、内容積の設計限界や厚肉化の加工限界から、70%程度である。すなわち、この厚肉化の好ましい範囲は、前記側壁定常部厚みの130〜170%、より好ましくは140〜170%である。
【0046】
この側壁上部2c、3c、4c、5cの厚肉化が、側壁2、3、4、5の定常部の厚みt2、t3、t4、t5の30%未満では、側壁2、3、4、5の厚みが0.2〜0.6mmの範囲のアルミニウム合金板の場合、前記レーザ溶接条件では、熱ひずみが生じてしまい、溶け込みや、ビード深さが不安定となる。このため、レーザ出力やファイバー径、ピーク出力、溶接速度を大きくするなどの溶接条件を修正したとしても、側壁の上部21aを、その先端22aが貫通するような、
図7、8に示す不安定なビード22の形状となりやすい。
【0047】
因みに、前記特許文献1では、鉄製の角形電池ケースとして、蓋により封口される上部開口部周辺部の壁の側厚(封口部周辺側厚)を、前記した通り、強度(剛性)を高めるために、中間部の側厚よりも、約25%以下程度厚くなるようにしている。
この特許文献1のように、本発明の封止溶接の課題を認識せずに、角形電池ケースの強度、剛性のみを高める場合には、剛性は、板厚の三乗に比例して増加するので、板厚を10%厚くすれば、剛性を30%以上高めることができる。
したがって、前記特許文献1にとって、本発明のような30%以上の厚肉化は全く不要であり、その記載範囲でもある、25%以下程度の、できるだけ少ない厚肉化で済ませることが、その目的でもある軽量化を阻害しないことにもつながる。
【0048】
しかし、本発明のように、その先端部9aが各側壁の上部を貫通しないような、健全なビード9の形成のためには、溶接時の熱ひずみを防止する必要があり、そのため、側壁2、3、4、5の元々の薄肉化をも考慮して、より大きな厚肉化をさせる必要がある。
【0049】
この厚肉化する各側壁の上部2c、3c、4c、5cの延在長さ(領域)は、前記電池ケースや溶接の前提条件のもとでは、少なくともビードが及ぶ(形成される)範囲、好ましくは溶接の熱影響部の範囲をカバーできるものとすることが好ましい。
【0050】
更に、これら各側壁の上部2c、3c、4c、5cの厚肉化が、角形電池ケース1の外側に向かうことは、壁面の凹凸となって、壁面の平滑化と平面化の妨げとなるので、避けるようにする。すなわち、あくまで角形電池ケース1の内側(内側空間)に向かって部分的に厚肉化し、角形電池ケース1の外側に向かっては厚肉化せずに、角形電池ケース1の各外壁面(側壁の外表面)は平滑化と平面化を保持する。
【0051】
なお、この厚肉化は、封止溶接されてビード9が形成される、各側壁の上部2c、3c、4c、5cについて各々全部、そして全長乃至全幅に亘って行っても良いが、封止溶接されビード9が形成される側壁上部のみ、選択的に行っても良い。ただ、後述する厚肉化加工のやりやすさなどとの関係で、封止溶接されない各側壁の上部や上端部を厚肉化しても良い。
【0052】
側壁上部の厚肉化加工:
このような側壁の厚肉化は、例えば、
図6に示すような、側壁の圧縮加工によって可能である。この
図6に示す圧縮加工自体は公知であって、側壁3の上部3cを電池ケースの内側に向かって厚肉化する態様を示している。
図6において、元の均一な厚みである側壁3の上部3cを中心に、側壁3の外側より型12によって、側壁3の内側より中子11によって、側壁3を挟持した上で、カム構造10により、側壁3の上部3cを上方から圧縮加工して、角形電池ケース1の内側(内側空間)に向かって部分的に厚肉化する。この圧縮加工は、厚肉化の程度により複数段に分けて行う。
このような加工によって、
図1〜3に示すように、各側壁の各上部2c、3c、4c、
5cを、角形電池ケース1aの内側に向かってのみ膨らむように部分的に予め厚肉化させ、これら各側壁上部2c、3c、4c、5cの外側の壁面は、各側壁の定常部2b、3b、4b、5bの外壁面と同じ平面(面一)で、厚肉化による膨らみや凹凸が無い、平坦な壁面とすることが可能である。
【0053】
側壁上部の厚肉化の好ましい加工方法:
各側壁上部2c、3c、4c、5cの厚肉化の加工方法として、前記
図6の圧縮加工よりも好ましい加工方法を、
図9(a)〜(e)に、加工工程順に各断面図で示す。
【0054】
この加工方法の概要は、各側壁上部2c、3c、4c、5cの厚肉化の厚みを、角形電池ケース1aの内側に向かって、部分的に予め厚肉化するに際して、各側壁上部2c、3c、4c、5cの上部以外の、当該側壁の部位にしごき加工を加えて厚みを減少させる一方で、前記各側壁の上部には、前記しごき加工を加えず、元の側壁の厚みを有するとともに、角形電池ケース1aの外側に向かって張り出す厚肉部としてそのまま残すものである。
そして、その上で、更に、前記側壁2、3、4、5の上部の厚肉部に加工を加えて、この厚肉部の張り出す方向を、角形電池ケース1a内側に向かうよう反転させ、かつ、前記側壁2、3、4、5の上部の厚肉部の外側の壁面は、前記しごき加工された他の側壁部位の外側の壁面と同じ平面の平坦面に成形する。
【0055】
以下に、
図9を用いて説明するが、
図9は、
図9(a)のように、厚肉化加工前の電池ケース、すなわち、横断面形状が略矩形になるように成形した中間成形品としての、
図1のB―B断面における、長辺側側壁4、5と矩形底部6、および矩形開口部7のみを示している。
したがって、以下の加工方法の説明は、長辺側壁4、5についてのみ行うが、前記した短辺側壁2、3についても、同様の加工が行われ、角形電池ケース1aの全側壁が、前記各側壁上部厚肉部2c、3c、4c、5cを含めて、同様の形状、構造に成形されるものである。
【0056】
図9(b)は、側壁4、5の外方からのしごきダイス13、13と、開口部7から電池ケース1a(以下、単にケースと言う)の内部空間に挿入したパンチ14との協働で、側壁4、5の上部4e、5e以外の側壁部分4b、5bに、しごき加工を順次施していく、第一の工程の態様を示している。
この第一の工程では、前記側壁上部4e、5e以外の部分の、側壁4b、5bは、前記しごき加工により薄肉化される。したがって、前記側壁上部4e、5eの部分だけが、しごき加工を受けずに、元の側壁4、5の各板厚(肉厚)として残され、しごき加工された他の側壁4b、5bの部分に比して、ケースの外側に向って張り出す凸部を有する形状に、部分的に厚肉化される。
【0057】
図9(c)、(d)、(e)は、前記側壁上部4e、5eの厚肉化(厚肉部)の張り出し方向をケースの内側に向かうものとすべく、前記したケースの外側に向かう張り出し方向から反転させる、第二の工程の態様を示している。
図9(c)では、先ず、開口部7からケース内にパンチ15を挿入する。
【0058】
次に、
図9(d)のように、ケース内に挿入したパンチ15を下降させ、パンチ15の下方の周囲に配した環状スリーブ16の内部空間(内壁面)の最下方側に設けた細孔16c内に、その棒状の先端部15bを挿入する。
そして、環状スリーブ16の内壁面の、前記細孔16cの上方に形成した漏斗状の(下方に縮径する)テーパ部16bに、パンチ15の先端部15bの上方に位置する漏斗状の(下方に縮径する)テーパ部15aを押圧して、環状スリーブ16(テーパ部16b)を左右方向に押し広げて拡径する。
【0059】
同時に、
図9(d)のように、厚肉化された側壁上部4e、5e(側壁上部の厚肉部4e、5e)の壁面に、外方からしごきダイス18、18を押圧する。そして、その一方で、側壁上部の厚肉部4e、5eの内側壁面の上部に、パンチ15の上方に設けた環状外周部17の垂直方向に延在する平坦面を当接させる。また、側壁上部の厚肉部4e、5eの内側の下部には、環状スリーブ16の上部の外周に設けられた、下方に拡径するテーパ部16aを当接させる。
【0060】
そして、側壁上部の厚肉部4e、5eの壁面への、しごきダイス18、18の押圧と、これに伴う、環状外周部17の前記平坦面、環状スリーブ16上部のテーパ部16aへの、側壁上部の厚肉部4e、5eの押し当てを行う。
これらの作用により、側壁上部の厚肉部4e、5eの厚肉化の方向を、前記ケースの外側方向から、前記ケースの内側方向に向かって張り出すべく、反転させ(窪ませ)、ケースの外側方向に向かって張り出す凸部を有する形状である、側壁上部の厚肉部4c、5cに成形する。
同時に、側壁上部の厚肉部4e、5e(4c、5c)の外側の壁面も、前記
図9(b)でしごき加工された他の側壁4b、5b部分の外側の壁面と同じ平面(面一)である、垂直方向に延在する平坦な壁面に成形される。
また、これらと同時に、前記環状外周部17の平坦面により、側壁上部の厚肉部4e、5e(4c、5c)の上部側を垂直方向に延在する平坦な壁面に成形しつつ、前記下方に拡径するテーパ部16aにより、側壁上部の厚肉部4e、5e(4c、5c)の下部側を、下方に拡径する内壁面テーパ部4dに成形される。
ここで、前記しごきダイス18、18として、前記
図9(b)でしごき加工に用いたしごきダイス13、13を用いても良く、別のしごきダイスを用いても良い。
【0061】
これらの第2のしごき加工後には、パンチ15の側面が平坦(長手方向の外径が均一)になるように、カム機構で制御することで、前記のケース内側に厚肉化した部分を変形させずに、パンチを離脱させることができる。
図9(e)は、以上説明した側壁上部の厚肉部4e、5eの成形終了後に、開口部7からパンチ15を、このカム機構により取り出す態様を示している。
すなわち、前記
図9(d)とは逆に、ケース内に挿入したパンチ15を上昇させ、パンチ15の下方に配した環状スリーブ16の孔16c内から、その先端部15bを抜き出す。そして、パンチ15の漏斗状のテーパ部15aの押圧から、環状スリーブ16のテーパ部16bを開放して、環状スリーブ16を縮径させて、パンチ15をケース内から抜けやすくしている。
以上説明した、
図9の一連の加工方法は、他の各側壁上部2c、3cの厚肉部の加工にも、そのまま適用できる。
【0062】
図9の加工方法は、側壁4、5の、上部4e、5e以外の、側壁部位4b、5bにしごき加工を加えて板厚を減少させ、この側壁上部4e、5e(厚肉部4c、5c)には、前記しごき加工を加えずに、元の側壁4、5の各板厚(肉厚)として、そのまま残している。
このような側壁上部のみを部分的にケース外側に厚肉化する加工は容易にでき、前記
図6の圧縮加工のように、側壁に大きな圧縮力を加える必要がないため、側壁が座屈する可能性が低く、効率的に部分厚肉化ができる利点がある。
また、しごき加工により薄肉化された側壁部分も、加工硬化によって高強度化されるため、板厚の減少に伴う、側壁部分の強度低下が少ない。
あるいは、アルミニウム合金組成やしごき加工量の選択によって、加工硬化の程度を制御して、側壁部分が薄肉化しても、より高強度化することも可能となる。
これらの利点は、他の各側壁上部2c、3cの厚肉部の加工でも同じである。
【0063】
次に、一旦形成した側壁上部の厚肉部4e、5eの厚肉化の方向を、ケースの内側方向に向かうべく、前記ケースの外側方向から反転させ(窪ませ)、厚肉部4c、5cとする加工も容易である。
そして、同時に、側壁上部厚肉部4e、5eの外側の壁面を、前記
図9(b)でしごき加工された他の側壁4b、5b部分の外側の壁面と、同一平面に平坦化する成形も容易である。
これらの利点は、他の各側壁上部2c、3cの厚肉部の加工でも同じである。
【0064】
更に、上記
図9の一連の加工工程は、使用する各パンチと各ダイスとの上下運動のみからなる、1段あるいは多段の連続的な加工で行うことができる。このため、通常の電池ケース成形に用いられるトランスファープレスに容易に組み込むことが可能であり、高効率で安価に加工ができる利点がある。
【0065】
上記
図9の加工工程で得られた電池ケース1aも、アルミニウム合金板の成形体からなる角形電池ケースの側壁の上部2c、3c、4c、5cの厚みを、この側壁の定常部の厚みよりも、ビードの形成量に見合った分だけ、角形電池ケースの内側に向かって部分的に厚肉化できる。
【0066】
これによって、アルミニウム合金製の蓋8(
図9では図示せず)をレーザによって封止溶接するに際して、この封止溶接が安定して実施でき、前記
図4、5で示したビード9が形成でき、健全な溶接部にすることができる。
すなわち、前記
図4、5で示したように、側壁の上部2c、3c、4c、5cと蓋8とに亘るとともに、側壁の上部2c、3c、4c、5cを貫通しないような、ビード9が形成できる。
そして、これらの効果を、側壁の上部2c、3c、4c、5cの厚肉部以外は薄肉化して、使用する材料を節約し、材料コストを低減した上で実現できる。
【0067】
素材アルミニウム合金板:
前記素材アルミニウム合金板は、必要強度と成形性、耐食性、耐クリープ性(耐クリープ変形性)、そして封止溶接性などの、角形電池ケース用素材としての要求特性から選択される。
この点、室温での機械的な特性で、0.2%耐力が30〜200MPaおよび全伸びが3〜20%であるような、JIS乃至AAに規格される1000系または3000系のアルミニウム合金板であることが好ましい。中でもA3003アルミニウム合金が好ましく、JIS乃至AAに規格される1000系アルミニウム合金、中でもレーザ溶接を用いて封口される場合には、純アルミニウム合金であるA1050合金が好ましい。
【0068】
これらのアルミニウム合金板は、均一な厚みの冷延板を、必要により溶体化および焼入れ処理や時効硬化処理あるいは焼鈍などの調質処理を施して、前記特性とする。ただ、使用条件や成形条件によっては、これら合金の耐クリープ性(耐クリープ変形性)などをより改良した合金や、2000系あるいは、より高強度な5000系や6000系アルミニウム合金を用いても良い。