(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6030250
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】ケイ化ニオブ基複合材とそれを用いた高温部品及び高温熱機関
(51)【国際特許分類】
C22C 27/02 20060101AFI20161114BHJP
F01D 5/28 20060101ALI20161114BHJP
F02C 7/00 20060101ALI20161114BHJP
F01D 25/00 20060101ALI20161114BHJP
C22F 1/18 20060101ALN20161114BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20161114BHJP
【FI】
C22C27/02 102Z
F01D5/28
F02C7/00 C
F01D25/00 L
!C22F1/18 F
!C22F1/00 611
!C22F1/00 624
!C22F1/00 650A
!C22F1/00 651B
!C22F1/00 681
!C22F1/00 691B
!C22F1/00 691C
!C22F1/00 691Z
【請求項の数】14
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-559753(P2015-559753)
(86)(22)【出願日】2015年5月25日
(86)【国際出願番号】JP2015064880
【審査請求日】2015年12月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】王 玉艇
【審査官】
松本 要
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−31837(JP,A)
【文献】
特開2012−132099(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/073029(WO,A1)
【文献】
P.Tsakiropoulos,On the macrosegregation of silicon in niobium silicide based alloys,Intermetallics,NL,ELSEVIER,2014年12月,vol.55,p.95-101
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 27/02
C22F 1/00
C22F 1/18
F01D 5/28
F01D 25/00
F02C 7/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si:13〜23at%,Cr:2.0〜10at%,Ti:5.0〜23at%,Al:0.0〜6.0at%,Zr:0.10〜8.0at%,Hf:1.0〜8.0at%,W:0.0〜2.0at%,Sn:0.10〜6.0at%,Mo:3.1〜8.0at%及びB:0.20〜5.0at%を含み、残部がNbと不可避不純物であることを特徴とするケイ化ニオブ基複合材。
【請求項2】
WとMoの合計含有量が、6.0〜8.0at%であることを特徴とする請求項1記載のケイ化ニオブ基複合材。
【請求項3】
C、Ge、V、N、Fe及びInから成る群から選択された少なくとも1つの元素を更に含むことを特徴とする請求項1記載のケイ化ニオブ基複合材。
【請求項4】
ニオブ結晶粒と、ニオブシリサイドを含む化合物相と、前記化合物相に分散されたニオブ結晶粒と、を含み、前記ニオブシリサイドと前記化合物相に分散されたニオブ結晶粒とで構成されたラメラー組織を含むことを特徴とする請求項1記載のケイ化ニオブ基複合材。
【請求項5】
前記ニオブ結晶粒の含有量が35〜65体積%であり、前記化合物相の含有量が35〜65体積%であることを特徴とする請求項4記載のケイ化ニオブ基複合材。
【請求項6】
さらに、析出相を含み、前記析出相の含有量が、5体積%以下であることを特徴とする請求項4記載のケイ化ニオブ基複合材。
【請求項7】
前記析出相が、ラーベス相又はHf2Si相であることを特徴とする請求項6記載のケイ化ニオブ基複合材。
【請求項8】
粗大な前記ニオブ結晶粒のネットワーク中に前記化合物相が分散していることを特徴とする請求項4記載のケイ化ニオブ基複合材。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のケイ化ニオブ基複合材を用いたことを特徴とする高温部品。
【請求項10】
前記高温部品が、ガスタービン用タービン動翼であることを特徴とする請求項9記載の高温部品。
【請求項11】
前記高温部品が、ガスタービン用タービン静翼であることを特徴とする請求項9記載の高温部品。
【請求項12】
請求項9記載の高温部品を用いたことを特徴とする高温熱機関。
【請求項13】
前記高温熱機関がガスタービンであることを特徴とする請求項12記載の高温熱機関。
【請求項14】
前記高温熱機関がジェットエンジンであることを特徴とする請求項12記載の高温熱機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケイ化ニオブ基複合材(ケイ化ニオブ基金属/金属間化合物複合材)とそれを用いた高温部品及び高温熱機関に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービン等の熱機関の熱効率の改善には、高温化技術が大きく寄与しており、高温耐熱材料の開発が重要な役割を担っている。現在、ガスタービン部材には、主にニッケル(Ni)基超合金が用いられているが、耐用温度の向上は限界に近づいており、更なる向上は困難な状況にある。
【0003】
熱効率を向上するため、新たな高温耐熱材料は、従来材のNi基超合金(融点約1300℃)より高い耐用温度が求められている。従来材のNi基超合金の発展を振り返ると、生産技術の革新・発展(一方向凝固、単結晶等)によって材料特性が改善されてきた。
【0004】
しかし、次世代の高温耐熱材料として最も重要かつ本質的な特性は、融点が高いことである。したがって、耐用温度を本質的に向上するためには、高融点金属をベース材とした材料の開発が最も現実的な選択である。
【0005】
これを満たすものとして、融点が2000℃を越えるタングステン(W)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)及びタンタル(Ta)等の、いわゆる高融点金属が考えられる。その中でも、特にNbは、Niより融点が1000℃以上も高く、セラミックスに比べて室温での靭性に優れ、かつ、低密度(8.57g/cm
3)である。しかし、Nb単体を耐熱材料として実用化することは、高温強度及び常温靭性の面から課題が残っている。よって、この2つの特性を強化する合金を開発する必要がある。
【0006】
そこで、Nb‐Al系等の金属間化合物、固溶強化型のNb基合金、析出強化型若しくは分散強化型のNb基複合材等に関して、種々の検討が行われている。
【0007】
Nb‐Al系金属間化合物としては、A15型結晶構造を有するNb
3Alが注目されている。Nb
3Alは、室温付近で極めて脆いため、第三元素としてW、Taを添加することにより常温靭性や高温強度を改善する提案もあった(特許文献1)。しかし、硬くて脆いという金属間化合物の基本的性質を大幅に改善することは極めて困難であり、構造材料として実用化することは容易ではない。
【0008】
固溶強化型のNb基合金の例としては、Moを5〜30原子%とWを5〜15原子%含む合金が知られている(特許文献2)。しかし、固溶強化元素Mo及びWを添加したとしても、高温領域において十分な強度を有するとは言い難い。
【0009】
また、ケイ化ニオブ基複合材の例としては、NbにSiを5〜20原子%、Moを5〜30原子%及びWを5〜15原子%添加し、ニオブシリサイドを析出させて強化するNb‐Si系複合材料が知られている(特許文献3)。この材料は、分散相であるニオブシリサイドが主にNb
5Si
3であって、かつ、このニオブシリサイドが互いに連結したネットワーク構造を有するニオブ基複合材料である。ニオブシリサイドの量を多くしているため、高温強度が高い。しかし、ニオブシリサイドは、本質的に脆く、ネットワーク構造となると、亀裂の進展は止まらず、室温脆性は更に乏しくなる。
【0010】
また、チタン(Ti)は、金属相の固有靭性を改善する。そのため、特許文献4では、Tiのレベルは、全原子パーセントに基づいて、約24〜27原子%の範囲内で添加する。しかし、複合材の靭性を向上できるが、1000〜1400℃の温度範囲中で、Ti
5Si
3が生成し、組織安定性の低下と機械的特性(クリープ強度及び疲労等)の劣化に繋がる。このため、Tiの高レベル添加は、靱性(延性)に加えて、その複合材の高温強度の両立が困難である。更に、高濃度のチタンの存在で、鋳造時における望ましくないチタンの偏析、すなわち凝固時における溶融液内での偏析を発生し易いこともある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平6‐122935号公報
【特許文献2】特開2001‐226732号公報
【特許文献3】特開2001‐226734号公報
【特許文献4】米国特許第5833773号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、超高温域(1200℃以上)における機械特性及び靭性を高いレベルで両立するケイ化ニオブ基複合材と、それを用いた高温部品及び高温熱機関を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記目的を達成するため、 Si:13〜23at%,Cr:2.0〜10at%,Ti:5.0〜23at%,Al:0.0〜6.0at%,Zr:0.10〜8.0at%,Hf:1.0〜8.0at%,W:0.0〜2.0at%,Sn:0.10〜6.0at%,Mo:3.1〜8.0at%及びB:0.20〜5.0at%を含み、残部がNbと不可避不純物であることを特徴とするケイ化ニオブ基複合材を提供する。
【0014】
また、本発明は、上記ケイ化ニオブ基複合材を用いた高温部品及び高温熱機関を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、超高温域(1200℃以上)における機械特性及び靭性を高いレベルで両立するケイ化ニオブ基複合材と、それを用いた高温部品及び高温熱機関を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係るケイ化ニオブ基複合材を用いたガスタービンの一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[本発明の基本思想]
本発明者らは、上記目的を達成すべく、合金の各添加元素のバランスをとり、高融点を維持し、かつ室温靭性を向上できるケイ化ニオブ基複合材について検討した。そして、組織制御に基づいて、適切な元素の添加でNb相の靭性を改善し、適切な熱処理工程を組み合わせることにより、強度と靭性が両立する可能性を見出した。より具体的には、延性に富むニオブベース結晶粒(粒子状のニオブ結晶)と、高温強度を有する微細な組織(例えば、ラメラー組織)とを組み合わせ、さらに適切な熱処理を組み合わせることにより、高温強度と常温靭性とを両立することを見出した。本発明は、該知見に基づくものである。
【0018】
Tiは、金属ニオブ相の固有靭性を改善する効果がある。本発明者らは、熱力学計算の結果により、高温(1000℃〜1400℃)で合金の相安定性を重視し、Ti
5Si
3、Ti
3Si相等が析出せず、強化相は主にNb
5Si
3一相とすべく、添加元素(Hf,Zr,Al,W及びMo等)の含有量が上記であるケイ化ニオブ基複合材を提案する。
【0019】
以下、本発明について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で適宜改良及び変更が可能である。
【0020】
[ケイ化ニオブ基複合材]
以下に上述した組織を有する本発明に係るケイ化ニオブ基複合材に含まれる各添加元素の働き及び好ましい組成範囲について説明する。なお、本発明において「ニオブ結晶」は、ニオブ単体(Nb)の結晶及びニオブ固溶体の結晶を含む。また、「ニオブシリサイド」は、ニオブ及びシリコンを含む化合物であればよく、その他の組成等については特に限定されるものではない。
【0021】
Si(シリコン):13〜23at(原子)%
Nb‐Si系の二元系合金は、その状態図により、Si:18.7at%付近に共晶点がある。共晶点の付近では、室温で靭性が大きいニオブ相が連続相になり易い。Siの含有量が13at%未満では、シリサイド相(強化相)が少ないため、高温強度が足りない。一方、Siの含有量が23at%より大きいと、シリサイド相が多いため、硬くて脆い材料になり、靭性の確保が難しい。また、他の元素の添加により、共晶点が前後にずれることがあるので、上記の範囲が望ましい。より望ましくは14〜20at%(14at%以上20at%以下)の範囲であり、更に望ましくは15〜19at%の範囲である。
【0022】
Cr(クロム):2.0〜10at%
従来の研究により、固溶強化により、高温強度を向上することができる。またCrは、高温耐酸化性に有効な元素である。更に、Crの添加で、Nb粒子を粗大化して低温靱性を向上することが可能である。そして、それらの効果がより顕著に現れるのは2.0at%以上の場合である。しかし、Cr量が多くなりすぎると、脆いLaves相が多く析出して靭性が低下する。そのため、他の合金元素とのバランスをとって、その上限を10at%とすることが望ましい。より望ましくは5.0〜10at%であり、更に望ましくは6.0〜9.0at%の範囲である。
【0023】
Ti(チタン):5.0〜23at%
Tiは、5.0at%以上である場合、Nb相に固溶することでケイ化ニオブ基複合材の靭性を向上する。しかし、Tiの添加量が23at%より多くなると、TiはSiとシリサイド(TiSi
3又はTi
5Si
3)を形成し、それらのシリサイドは脆いため、複合材の室温靭性が低下する。更に、Tiは低融点であり、ケイ化ニオブ複合材の融点を低下することでケイ化ニオブ複合材の高温強度を低下する。より望ましくは7.0〜20at%であり、更に望ましくは9.0〜19at%である。
【0024】
Hf(ハフニウム):1.0〜8.0at%
HfはNb
5Si
3への固溶により、Tiのニオブ相への固溶量を増加させる効果がある。その効果が顕著に現れるのは1.0at%以上からである。しかし、Hf量が多くなりすぎると、HfSi
2が現れることで靭性および高温強度が低下する。そのために、Hfの上限を8.0at%とすることが望ましい。より望ましくは2.0〜6.0at%であり、更に望ましくは2.5〜5.0at%の範囲である。
【0025】
Al(アルミニウム):0.0〜6.0at%
Alの添加はHfと同様、ニオブ相へのTiの固溶量を増加させる効果がある。その効果が顕著に現れるのは0.5at%以上である。しかし、低融点元素であるAl量が多くなりすぎると、複合材の融点が低下し、高温強度が劣化する可能性がある。そのために、Alの上限を6.0at%とすることが望ましい。より望ましくは2.0〜4.0at%の範囲である。
【0026】
Zr(ジルコニウム):0.10〜8.0at%
Zrを添加することで、熱処理工程中においてNb
3Siの共析分解速度を加速させて、ニオブ相粒子の粗大化に効果がある。その効果が顕著に現れるのは0.1at%以上である。しかし、Zr量が多くなりすぎると、シリサイド(ZrSi
2)が現れることで靭性および高温強度が低下する。そのため、0.1〜8.0at%の範囲とすることが望ましい。より望ましくは1.5at%〜5.0at%であり、更に望ましくは2.0〜4.0at%である。
【0027】
Sn(スズ):0.10〜6.0at%
Snを添加することで、Nb‐Si金属間化合物のペスト酸化を抑制することが可能である。その効果が顕著に現れるのは0.10at%以上である。しかし、Snが多くなりすぎると、ケイ化ニオブ基複合材の融点が低下し、高温強度が低下する。そのために、Snの上限を6.0at%とすることが望ましい。より望ましい範囲は0.50〜5.0at%であり、更に望ましくは1.0〜4.0at%である。
【0028】
W(タングステン):0.50〜2.0at%,Mo:3.1〜8.0at%
Nbに固溶する強化元素として、MoとWを複合添加する理由は、いずれか一方のみの場合より、高温強度と靭性のバランスを得易いためである。W+Moの添加量が6.0〜8.0at%とすることがより望ましい。W+Mo合計6at%未満では、固溶効果が不十分である。高融点金属Wの添加は、ニオブ相を固溶強化することができる。WとMoの上限を8.0at%とする理由は、これより高いと、靭性が著しく低下するためである。Wのより望ましい範囲は0.60〜2.0at%であり、更に望ましい範囲は0.80〜1.6at%の範囲である。Moのより望ましい範囲は3.5〜7.0at%であり、更に望ましい範囲は3.8〜6.6at%である。
【0029】
B(ホウ素):0.20〜5.0at%
Bを添加することで、室温靱性が向上する。理由はまだ明らかではないが、Bの添加でNb結晶/Nbシリサイド組織の相界面強度が改善された可能性が考えられる。更に、Bの添加で、耐酸化性の改善も可能である。その効果が顕著に現れるのは0.20at%以上からである。しかし、B量が多くなりすぎると、偏析などにより、NbB
2が現れることで靭性および高温強度が低下するおそれがある。そのために、Bの上限を5.0at%とすることが望ましい。より望ましくは0.50〜4.5at%の範囲であり、更に望ましくは0.50〜4.0原子%の範囲である。
【0030】
上記のケイ化ニオブ複合材には、上記元素以外に、炭素(C)、ゲルマニウム(Ge)、バナジウム(V)、窒素(N)、鉄(Fe)及びインジウム(In)を添加してもよい。上記元素を添加することで、ケイ化ニオブ基複合材の強度を向上することができる。例えば、炭素を添加した場合は炭化物(TiC等)が形成され、この炭化物によってニオブ基複合体を強化することができる。
【0031】
本発明に係るケイ化ニオブ基複合材は、ニオブ結晶粒と、ニオブシリサイドを含む化合物相とを有し、高い靭性を有する粗大化金属ニオブ結晶粒子組織と、優れた高温強度を有する微細なNb結晶/ニオブシリサイド組織(化合物相)とが共存する複合組織形態を有することが望ましい。
【0032】
ケイ化ニオブ基複合材に含まれるニオブ結晶粒(粗大化ニオブ結晶粒、ニオブベース結晶粒子)の含有量は、35〜65体積%であることが好ましい。また、ケイ化ニオブ基複合材に含まれる化合物相は、35〜65体積%であることが好ましい。ここで、「シリサイド」は、Siと上記添加元素との化合物であり、MSi
3で表される(Mは、上記Si以外の添加元素)。
【0033】
[ケイ化ニオブ基複合材の製造方法]
本発明に係るケイ化ニオブ基複合材の製造方法は、次の工程を含む。すなわち、Nbを含む材料と、Siを含む材料と、上記Nb及びSi以外の適切な添加元素とを混合し、溶融する溶融工程と、溶融工程によって得られた溶融物を凝固する凝固工程と、凝固工程によって得られた凝固物を固体状態で熱処理する熱処理工程と、である。少なくとも、上記溶融工程によって得られた溶融物を凝固させる凝固工程と、上記凝固工程によって得られた凝固物を固体状態で熱処理する熱処理工程とを含んでいればよい。Nb又はSiを含む材料、添加物の種類、熱処理温度、及び製造設備・器具等の諸条件については、特に限定されるものではない。
【0034】
熱処理工程は、凝固工程を経たケイ化ニオブ基複合材を固体状態のまま熱処理する工程である。また、熱処理工程は、真空中又は不活性雰囲気中、1200〜1700℃で行うことが好ましい。
【0035】
熱処理工程後に得られるケイ化ニオブ基複合材は、粗大化ニオブ結晶粒と、微細なニオブ結晶/ニオブシリサイドラメラー組織(ニオブシリサイドを含む化合物相と、該化合物相中に分散された微小なニオブ結晶粒とで構成される組織であり、両者を合わせて「化合物相」とも称する。)を有する。ニオブシリサイドのほとんどはNb
5Si
3である。また、このニオブ基複合材の組織構造では、微細なニオブ結晶/ニオブシリサイドラメラー組織を形成する化合物相は、粗大化ニオブ結晶粒のネットワーク中に形成された状態になっている。そのため、ニオブシリサイドで生じた亀裂は進展しにくい。また、ニオブシリサイドの周囲のNb結晶は、比較的延性があり、その靭性もシリサイドと比較して高い。その結果、最も懸念されるシリサイド中の亀裂進展は抑制される。
【0036】
また、ニオブ結晶粒(粗大化したニオブ結晶粒)の体積率は、好ましくは35〜65体積%の範囲であり、更に好ましくは45〜60体積%の範囲である。ここで、ニオブ結晶粒の体積率は、ケイ化ニオブ基複合材の全断面積のうち粗大化したニオブ結晶粒が占める面積の百分率であり、当該全断面積と、ニオブ結晶粒以外であるニオブシリサイド相及びラメラー組織等が占める面積との差を当該全断面積で割った値の百分率として定義する。各相の面積率は、SEM(Scanning Electron Microscope)の断面観察写真を用いて評価することが可能である。
【0037】
一方、微細なニオブ結晶/ニオブシリサイドラメラー組織は、高温強度を向上することが考えられる。ラメラー組織の大きさは、特に限定されないが、細かい構造を有するものほど好ましい。ラメラー組織(化合物相)の体積率は、好ましくは35〜65体積%の範囲であり、更に好ましくは45〜55体積%の範囲である。ここで、ラメラー組織の体積率は、ケイ化ニオブ基複合材の全断面積のうちラメラー組織が占める面積の百分率である。評価方法は、上述したニオブ結晶粒の場合と同様である。なお、ここでいう「ラメラー組織」は、ニオブ結晶粒以外の部分の総称であり、ラメラー組織だけでなく、他の微細な組織も含むものとする。
【0038】
熱処理後の主要相(ニオブ結晶粒及びラメラー組織)以外には、析出量の少ない非主要相(ラーベス(Laves)相及びHf
2Si相等)が含まれていてもよいが、非主要相の含有量は、5体積%以下であることが好ましい。非主要相が5体積%より多いと、主要相の含有量が少なくなり、十分な高温強度及び靭性が得られない。
【0039】
[高温部品及び高温熱機関]
図1は本発明に係るケイ化ニオブ基複合材を用いたガスタービンの一例を模式的に示す断面図である。
図1の各部品に付した符号において、10はタービンスタブシャフト、3はタービンブレード、13はタービンスタッキングボルト、18はタービンスペーサ、19はデイスタントピース、20は初段ノズル、6はコンプレッサディスク、7はコンプレッサブレード、16はコンプレッサノズル、8はコンプレッサスタッキングボルド、9はコンプレッサスタブシャフト、4はタービンディスク、11は穴、15は燃焼器を示す。本発明に係るケイ化ニオブ基複合材は、上述したいずれの部品に適用されてもよいが、特に高温に曝されるタービンブレード3(タービン動翼及び静翼)に適用されることが好ましい。
【0040】
上述した本発明に係るケイ化ニオブ基複合材は、優れた耐熱性、強度、靭性及び延性を示すため、上述した高温熱機関を構成する耐熱材料(高温部品)として好適に用いることができ、特に幅広い温度環境において使用可能な耐熱材料として非常に有用である。
【0041】
高温熱機関としては、上述した発電用ガスタービンに限られず、タービンエンジン及びジェットエンジン等も挙げることができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例を用いて本発明の実施の形態について更に詳しく説明する。なお、以下の実施例におけるケイ化ニオブ基複合材の製造方法は、製造方法の一例である。よって、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0043】
本発明に係るケイ化ニオブ基複合材からなる試験片(TP1及びTP2)を作製し、試験に供した。この試験片の組成は、原子数基準すなわち原子%で、TP1:Nb‐16Si‐7.5Cr‐5Mo‐5Hf‐10Ti‐1W‐1B‐2.5Zr‐2.0Sn、TP2:Nb‐16Si‐7.5Cr‐5Mo‐5Hf‐15Ti‐1W‐1B‐2.5Zr‐2.0Snである。
【0044】
具体的な製造方法は、次のとおりである。試験材は、コールドクルーシブル溶解法で作製した(溶融工程及び凝固工程)。その後の熱処理は、アルゴン(Ar)雰囲気において1200℃〜1700℃で10〜50時間保持を行った。
【0045】
ここで、コールドクルーシブル溶解法としては、コールドクルーシブル誘導溶解法(Cold Crucible Induction Melting:CCIM)を採用した。コールドクルーシブル溶解法には、このほか、電子ビーム溶解法(Electron Beam Melting:EBM)、プラズマアーク溶解法(Plasma Arc Melting:PAM)等があるが、いずれの溶解法を採用してもよい。
【0046】
1200℃‐137MPaの高温圧縮クリープ試験および室温での四点曲げ試験を実施した。結果を表1に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
表1に示すように、本発明に係るケイ化ニオブ基複合材は、優れた強度と靭性を両立する。このような特性を有するケイ化ニオブ基複合材は、耐熱材料として非常に有用である。この合金製品は、室温での靱性に優れるため、様々な方法によって所望の物品に加工及び成形することができる。例えば、溶融させた合金製品は、適当な装置内で鋳造することができる。鋳造のためのモールド組立体は、当技術分野においてよく知られている。その一例が、米国特許第6,676,381号(Subramanian他)に記載されている。しかしながら、他の多くの鋳造法も使用することができる。溶融金属は、方向性凝固(DS)法によって凝固される。DS法は、当技術分野においてよく知られており、また例えば米国特許第6,059,015号及び第4,213,497号(Sawyer)に記載されている。
【0049】
以上説明したように、本発明によれば、超高温域(1200℃以上)における機械特性及び靭性を高いレベルで両立するケイ化ニオブ基複合材と、それを用いた高温部品及び高温熱機関を提供することができることが示された。
【符号の説明】
【0050】
3…タービンブレード、4…タービンディスク、6…コンプレッサディスク、7…コンプレッサブレード、8…コンプレッサスタッキングボルド、9…コンプレッサスタブシャフト、10…タービンスタブシャフト、11…穴、13…タービンスタッキングボルト、15…燃焼器、16…コンプレッサノズル、18…タービンスペーサ、19…デイスタントピース、20…初段ノズル。
【要約】
超高温領域(1200℃以上)における機械特性及び靭性を高いレベルで両立するケイ化ニオブ基複合材と、それを用いた高温部品及び高温熱機関を提供する。本発明に係るケイ化ニオブ基複合材は、 Si:13〜23at%,Cr:2.0〜10at%,Ti:5.0〜23at%,Al:0.0〜6.0at%,Zr:0.10〜8.0at%,Hf:1.0〜8.0at%,W:0.0〜2.0at%,Sn:0.10〜6.0at%,Mo:3.1〜8.0at%及びB:0.20〜5.0at%を含み、残部がNbと不可避不純物であることを特徴とする。