特許第6030277号(P6030277)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6030277多孔質チタン酸塩化合物粒子及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6030277
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】多孔質チタン酸塩化合物粒子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/00 20060101AFI20161114BHJP
   C08K 3/18 20060101ALI20161114BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20161114BHJP
【FI】
   C01G23/00 B
   C08K3/18
   C08L101/00
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-555146(P2016-555146)
(86)(22)【出願日】2015年9月29日
(86)【国際出願番号】JP2015077514
(87)【国際公開番号】WO2016063688
(87)【国際公開日】20160428
【審査請求日】2016年9月14日
(31)【優先権主張番号】特願2014-217293(P2014-217293)
(32)【優先日】2014年10月24日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000206901
【氏名又は名称】大塚化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 祥吾
【審査官】 廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−012261(JP,A)
【文献】 特開2012−197187(JP,A)
【文献】 特開2013−241312(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/123046(WO,A1)
【文献】 特開2009−114050(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 23/00−23/08
C08K 3/00−3/40
C08L 101/00
C09K 3/14
F16K 69/00
F16K 69/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式ATi13[式中、Aはアルカリ金属から選ばれる1種又は2種以上]で表されるチタン酸塩化合物の結晶粒が結合してなる多孔質チタン酸塩化合物粒子であって、細孔直径0.01〜1.0μmの範囲の積算細孔容積が5%以上であることを特徴とする、多孔質チタン酸塩化合物粒子。
【請求項2】
前記多孔質チタン酸塩化合物粒子の平均粒子径が、5〜500μmであることを特徴とする、請求項1に記載の多孔質チタン酸塩化合物粒子。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の多孔質チタン酸塩化合物粒子と、熱硬化性樹脂とを含有していることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の樹脂組成物を含有していることを特徴とする摩擦材。
【請求項6】
チタン酸塩化合物の結晶粒が結合してなる多孔質チタン酸塩化合物粒子であって、細孔直径0.01〜1.0μmの範囲の積算細孔容積が5%以上である多孔質チタン酸塩化合物粒子を製造する方法であって、
チタン源とアルカリ金属塩とをメカニカルに粉砕し、粉砕混合物を準備する工程と、
前記粉砕混合物を乾式造粒し、造粒物を準備する工程と、
前記造粒物を焼成する工程を備えていることを特徴とする、多孔質チタン酸塩化合物粒子の製造方法。
【請求項7】
前記多孔質チタン酸塩化合物粒子の平均粒子径が、5〜500μmであることを特徴とする、請求項6に記載の多孔質チタン酸塩化合物粒子の製造方法。
【請求項8】
前記チタン酸塩化合物が、組成式ATi(2n+1)[式中、Aはアルカリ金属から選ばれる1種又は2種以上、n=2〜8]で表されることを特徴とする、請求項6又は7に記載の多孔質チタン酸塩化合物粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質チタン酸塩化合物粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種車両、産業機械等のブレーキシステムに用いられる摩擦材は、摩擦係数が高く安定し耐フェード性が優れていること、耐摩耗性が優れていること、ローター攻撃性が低いことが求められている。これらの特性を満足させるために、アスベスト、無機充填材、有機充填材等と、これらを結合するフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂(結合材)からなる樹脂組成物が摩擦材として使用されてきた。
【0003】
しかし、アスベストは発癌性が確認されており、かつ粉塵化し易いため、作業時の吸入による環境衛生上の問題からその使用が自粛されたことから、代替品として繊維状のチタン酸カリウム等のチタン酸アルカリを摩擦調整材として用いた摩擦材が提案されている。特にチタン酸カリウム繊維は、アスベストのような発癌性を持たず、金属繊維のようにローターを傷付けず、摩擦特性も優れているが、従来のチタン酸カリウム繊維は平均繊維径が0.1〜0.5μm、平均繊維長が10〜20μmのものが多く、世界保健機関(WHO)で推奨されている範囲(吸入性繊維とするWHOファイバー:平均短径が3μm以下、平均繊維長が5μm以上及びアスペクト比が3以上の繊維状化合物以外)には含まれていない。そこで特許文献1では、アメーバ形状を有するチタン酸カリウムを提案している。
【0004】
一方で、摩擦材のフェード現象は、摩擦材の高温化に伴って摩擦材中の有機成分がガス化し、ディスクとの摩擦界面に気層が形成されることに起因する現象であり、摩擦界面の気層の形成を抑制することにより、耐フェード性を改善することができる。それには、摩擦材の気孔率を高めて摩擦界面からガスを逃し易くすることが有効である。摩擦材の気孔率を高める方法として、原料混合物を結着成形する工程での成形圧力を低めに調節設定することが考えられるが、成形圧力を低くすると、摩擦材の強度や耐摩耗性が低下し、摩擦特性が得られなくなる。そこで、特許文献2では、棒状、柱状、円柱状、短冊状、粒状及び/又は板状の形状を有するチタン酸アルカリ粒子が結合した中空体からなるチタン酸アルカリの中空体粉末を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO2008−123046号公報
【特許文献2】特開2009−114050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1で用いられるチタン酸カリウムでは、WHOファイバーが微量に含まれる可能性がある。特許文献2で用いられるチタン酸アルカリでは十分な耐フェード性が得られない。
【0007】
本発明の目的は、摩擦材に用いた場合に優れた耐フェード性を付与することができる多孔質チタン酸塩化合物粒子、該多孔質チタン酸塩化合物粒子を含有する樹脂組成物及び摩擦材、並びに多孔質チタン酸塩化合物粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の多孔質チタン酸塩化合物粒子、該多孔質チタン酸塩化合物粒子を含有する樹脂組成物及び摩擦材、並びに多孔質チタン酸塩化合物粒子の製造方法を提供する。
【0009】
項1 チタン酸塩化合物の結晶粒が結合してなる多孔質チタン酸塩化合物粒子であって、細孔直径0.01〜1.0μmの範囲の積算細孔容積が5%以上であることを特徴とする、多孔質チタン酸塩化合物粒子。
【0010】
項2 前記多孔質チタン酸塩化合物粒子の平均粒子径が、5〜500μmであることを特徴とする、項1に記載の多孔質チタン酸塩化合物粒子。
【0011】
項3 前記チタン酸塩化合物が、組成式ATi(2n+1)[式中、Aはアルカリ金属から選ばれる1種又は2種以上、n=2〜8]で表されることを特徴とする、項1又は2に記載の多孔質チタン酸塩化合物粒子。
【0012】
項4 項1〜3のいずれか一項に記載の多孔質チタン酸塩化合物粒子と、熱硬化性樹脂とを含有していることを特徴とする樹脂組成物。
【0013】
項5 項4に記載の樹脂組成物を含有していることを特徴とする摩擦材。
【0014】
項6 項1〜3のいずれか一項に記載の多孔質チタン酸塩化合物粒子を製造する方法であって、チタン源とアルカリ金属塩とをメカニカルに粉砕し、粉砕混合物を準備する工程と、前記粉砕混合物を乾式造粒し、造粒物を準備する工程と、前記造粒物を焼成する工程を備えていることを特徴とする、多孔質チタン酸塩化合物粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の多孔質チタン酸塩化合物粒子は、摩擦材に用いた場合に優れた耐フェード性を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、実施例1の多孔質チタン酸塩化合物粒子の全体像を示す走査電子顕微鏡写真である。
図2図2は、実施例1の多孔質チタン酸塩化合物粒子の内部構造を示す走査電子顕微鏡写真である。
図3図3は、実施例2の多孔質チタン酸塩化合物粒子の全体像を示す走査電子顕微鏡写真である。
図4図4は、実施例2の多孔質チタン酸塩化合物粒子の内部構造を示す走査電子顕微鏡写真である。
図5図5は、比較例1のチタン酸塩化合物粒子の全体像を示す走査電子顕微鏡写真である。
図6図6は、比較例1のチタン酸塩化合物粒子の内部構造を示す走査電子顕微鏡写真である。
図7図7は、比較例2のチタン酸塩化合物粒子を示す走査電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0018】
本発明の多孔質チタン酸塩化合物粒子は、チタン酸塩化合物の結晶粒が焼結及び/又は融着等により結合してなる多孔質チタン酸塩化合物粒子であって、細孔直径0.01〜1.0μmの範囲の積算細孔容積が5%以上である。
【0019】
本発明において、上記積算細孔容積は、好ましくは10%以上であり、さらに好ましくは15%以上である。上記積算細孔容積の好ましい上限値は40%であり、さらに好ましくは30%である。上記積算細孔容積が小さすぎると、摩擦材に用いた場合に、優れた耐フェード性が得られない場合がある。上記積算細孔容積が大きすぎると、チタン酸塩化合物の結晶粒間の結合部分が弱くなり、多孔質構造が保てなくなる場合がある。上記積算細孔容積は、水銀圧入法により測定することができる。
【0020】
又、本発明の多孔質チタン酸塩化合物粒子のBET比表面積は、1〜13m/gの範囲内であることが好ましく、3〜9m/gの範囲内であることがさらに好ましい。上記BET比表面積が小さすぎると、摩擦材に用いた場合に、優れた耐フェード性が得られない場合がある。上記BET比表面積が大きすぎると、焼成工程における化学反応が完結していない場合がある。
【0021】
本発明の多孔質チタン酸塩化合物粒子の粒子形状は、球状、不定形状等の粉末状であることが好ましく、非繊維状であることが好ましい。特に、球状であることが好ましい。
【0022】
本発明の多孔質チタン酸塩化合物粒子の粒子サイズは特に制限されないが、平均粒子径が5〜500μmであることが好ましく、10〜300μmであることがより好ましい。本発明において平均粒子径は、超音波による分散を行わないレーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%の粒子径を意味する。これらの各種粒子形状及び粒子サイズは、製造条件、特に原料組成、焼成条件、粉砕処理条件等により任意に制御することができる。
【0023】
チタン酸塩化合物としては、組成式ATi(2n+1)[式中、Aはアルカリ金属から選ばれる1種又は2種以上、n=2〜8]、MTi(2−y)[式中、Mはリチウムを除くアルカリ金属、Aはリチウム、マグネシウム、亜鉛、ニッケル、銅、鉄、アルミニウム、ガリウム、マンガンより選ばれる1種又は2種以上、x=0.5〜1.0、y=0.25〜1.0]、K0.5〜0.8Li0.27Ti1.733.85〜4、K0.2〜0.8Mg0.4Ti1.63.7〜4等で表されるチタン酸塩化合物を挙げることができる。
【0024】
上述のチタン酸塩化合物の中でも、組成式ATi(2n+1)[式中、Aはアルカリ金属から選ばれる1種又は2種以上、n=2〜8]で表されるチタン酸塩化合物であることが好ましく、組成式ATi13[式中、Aはアルカリ金属から選ばれる1種又は2種以上]で表されるチタン酸塩化合物であることがより好ましい。アルカリ金属としてはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、フランシウムがあり、この中でも経済的に有利な点からリチウム、ナトリウム、カリウムが好ましい。より具体的には、LiTi13、KTi13、NaTi13等を例示することができる。
【0025】
本発明の多孔質チタン酸塩化合物粒子の製造方法は、上述の特性を得ることができれば特に制限されないが、例えば、チタン源とアルカリ金属塩をメカニカルに粉砕をすることで得られる粉砕混合物を、乾式造粒し、焼成して製造する方法等を例示することができる。
【0026】
メカニカルな粉砕としては、物理的な衝撃を与えながら粉砕する方法が挙げられる。具体的には、振動ミルによる粉砕が挙げられる。振動ミルによる粉砕処理を行うことにより、混合粉体の摩砕によるせん断応力により、原子配列の乱れと原子間距離の減少が同時に起こり、異種粒子の接点部分の原子移動が起こる結果、準安定相が得られると考えられる。これにより、反応活性の高い粉砕混合物が得られ、後述の焼成温度を低くでき、粉砕混合物を造粒しても未反応物を低減することができる。メカニカルな粉砕は、原料に効率良くせん断応力を与えるため、水や溶剤を用いない乾式処理が好ましい。
【0027】
メカニカルな粉砕による処理時間は、特に制限されるものではないが、一般に0.1〜2時間の範囲内であることが好ましい。
【0028】
粉砕混合物の造粒は、水及び溶剤を用いない乾式造粒で行われる。乾式造粒は、公知の方法で行うことができ、例えば転動造粒、流動層造粒、攪拌造粒等を例示することができる。湿式造粒は、造粒物の乾燥工程において、造粒物内部での液状物の気化に伴い、結果として内部に大きな空洞を有する多孔質粒子が得られ、粉体強度が低下するため好ましくない。また、水及び溶媒を気化させるために加熱が必要となり、量産性も悪い。
【0029】
造粒物を焼成する温度としては、目的とするチタン酸塩化合物の組成により適宜選択することができるが、650〜1000℃の範囲であることが好ましく、800〜950℃の範囲であることがさらに好ましい。焼成時間は、0.5〜8時間であることが好ましく、2〜6時間であることがさらに好ましい。
【0030】
チタン源としては、チタン元素を含有して焼成による酸化物の生成を阻害しない原材料であれば特に限定されないが、例えば空気中で焼成することにより酸化チタンに導かれる化合物等がある。かかる化合物としては、例えば酸化チタン、ルチル鉱石、水酸化チタンウェットケーキ、含水チタニア等が挙げられ、酸化チタンが好ましい。
【0031】
アルカリ金属塩としては、アルカリ金属の炭酸塩、炭酸水素塩、水酸化物、酢酸塩等の有機酸塩、硫酸塩、硝酸塩等があるが、炭酸塩が好ましい。
【0032】
チタン源とアルカリ金属塩の混合比は、目的とするチタン酸塩化合物の組成により適宜選択することができる。
【0033】
本発明の多孔質チタン酸塩化合物粒子は、上述のように細孔直径が小さいことから、多孔質粒子内への熱硬化性樹脂が含浸するのを抑制できる。そのため、本発明の多孔質チタン酸塩化合物粒子を含有する樹脂組成物を摩擦材として使用したとき、この多孔質粒子がフェードガスの抜け穴となる。このため、原料混合物を結着成形する工程での成形圧力を低めに調節設定しなくても、優れた耐フェード性が得られるものと考えられる。更に、本発明の多孔質チタン酸塩化合物粒子は、耐フェード性を向上させるだけでなく、非繊維形状の多孔質体であることから、WHOファイバーが含まれない摩擦調整材としても期待される。
【0034】
本発明の樹脂組成物は、上記多孔質チタン酸塩化合物粒子と熱硬化性樹脂とを含有していることを特徴とする。熱硬化性樹脂としては、公知の熱硬化性樹脂の中から任意のものを適宜選択して用いることができる。例えばフェノール樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、ユリア樹脂等を挙げることができ、これらの1種を単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。この中でもフェノール樹脂が好ましい。
【0035】
本発明の多孔質チタン酸塩化合物粒子は、分散性、熱硬化性樹脂との密着性向上等を目的として、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤等により表面処理を常法に従って施されて使用されてもよい。樹脂組成物における本発明の多孔質チタン酸塩化合物粒子の含有量は、特に制限されるものではないが、樹脂組成物全体の3〜30質量%であることが好ましく、5〜25質量%であることがより好ましい。
【0036】
本発明の樹脂組成物は、耐摩耗性を必要とする製品に使用することができ、特に各種車両や産業機械のブレーキパッド、ブレーキライニング、クラッチフェーシング等の摩擦材に好適に用いることができる。又、本発明の樹脂組成物は、自然環境への配慮の観点から、銅粉末、銅繊維等の銅を含有しなくても優れた耐摩耗性及び耐フェード性を得ることができる。
【0037】
本発明の樹脂組成物を摩擦材として用いる場合は、必要とする特性に応じて、公知の繊維基材、摩擦調整材等を適宜配合し、常温にて所定圧力で成形し、次いで所定温度にて熱成形し、熱処理及び仕上げ処理することにより摩擦材の成形体に仕上げることができる。
【0038】
繊維基材としては、アラミド繊維、アクリル繊維等の有機繊維、スチール繊維、銅繊維等の金属繊維;ガラス繊維、ロックウール、セラミック繊維、生分解性繊維、生体溶解性繊維、ワラストナイト繊維等の無機繊維;炭素繊維;等があり、これらの1種を単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0039】
摩擦調整材としては、加硫又は未加硫の天然もしくは合成ゴム、カシューダスト、レジンダスト等の有機粉末;合成又は天然黒鉛、カーボンブラック、硫化錫、二硫化モリブデン、三硫化アンチモン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、クレー、マイカ、タルク等の無機粉末;銅、アルミニウム、亜鉛、鉄等の金属粉末;アルミナ、シリカ、マグネシア、ジルコニア(酸化ジルコニウム)、酸化クロム、二酸化モリブデン、ケイ酸ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄等の酸化物粉末;本発明の多孔質チタン酸塩化合物粒子以外の球状、層状、板状、柱状、ブロッ状、不定形状等の粒子形状のチタン酸塩化合物粉末;等があり、これらの1種を単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明について、具体的な実施例に基づいて、さらに詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0041】
<チタン酸塩化合物粒子の製造>
(実施例1)
Ti:K=3:1(モル比)となるように秤量した酸化チタン及び炭酸カリウムを振動ミルにて粉砕しながら10分間混合した。得られた粉砕混合物をハイスピードミキサーにて乾式造粒した後、電気炉にて850℃で4時間焼成することで粉末を得た。
【0042】
得られた粉末は、X線回折測定装置(リガク社製、Ultima IV)により、KTi13の単相であることを確認した。平均粒子径はレーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所製、SALD−2100)により169μmであった。
【0043】
得られた粉末の形状は、電界放出型走査電子顕微鏡(SEM)(日立ハイテクノロジーズ社製、S−4800)を用いて観察した。図1に粒子の全体像のSEM写真、図2に粒子の内部構造のSEM写真を示した。図1及び図2より、得られた粉末が、微粒子間に1μmに満たない微細な空隙を有する球状粒子であることが分かる。
【0044】
得られた粉末の細孔は、水銀ポロシメーター(Quanta Chrome社製、ポアマスター60−GT)を用いて測定し、0.01〜1.0μmの細孔直径範囲にある積算細孔容積は21.1%、細孔分布の極大値は0.11μmであった。
【0045】
又、得られた粉末についてBET比表面積を測定した結果、5.9m/gであった。
【0046】
(実施例2)
Ti:Na=3:1(モル比)となるように秤量した酸化チタン及び炭酸ナトリウムを振動ミルにて粉砕しながら10分間混合した。得られた粉砕混合物をハイスピードミキサーにて乾式造粒した後、電気炉にて850℃で4時間焼成することで粉末を得た。
【0047】
得られた粉末の評価は、実施例1と同様に行った。その結果、NaTi13の単相であり、平均粒子径は56μm、0.01〜1.0μmの細孔直径範囲にある積算細孔容積は24.0%、細孔分布の極大値は0.34μmの球状粒子であることを確認した。
【0048】
図3に粒子の全体像のSEM写真、図4に粒子の内部構造のSEM写真を示した。
【0049】
又、得られた粉末についてBET比表面積を測定した結果、4.4m/gであった。
【0050】
(実施例3)
実施例1で得たチタン酸塩化合物粒子に対して、3−アミノプロピルトリエトキシシランのメタノール溶液を用いて表面処理を行うことで粉末を得た。表面処理は、チタン酸塩化合物粒子100質量%に対して3−アミノプロピルトリエトキシシランが0.5質量%となるように行った。
【0051】
(比較例1)
以下のようにして、上記特許文献2に開示された中空状のチタン酸塩化合物粒子を製造した。
【0052】
Ti:K=3:1(モル比)となるように秤量した酸化チタン及び炭酸カリウムを振動ミルにて粉砕しながら10分間混合した。得られた粉砕混合物を、電気炉にて1050℃で4時間焼成し、焼成物を粉砕機にて粉砕し、平均短径1.9μm、平均長径3.1μm、平均アスペクト比1.7の柱状粉末を得た。
【0053】
得られた柱状粉末、エチルセルロース系バインダー、ポリカルボン酸アンモニウム塩を用いてスラリーを製造し、得られたスラリーを噴霧乾燥した。次に噴霧乾燥して得られた粉末を900℃で2時間熱処理を行った。
【0054】
得られた粉末の評価は、実施例1と同様に行った。その結果、KTi13の単相であり、平均粒子径は141μm、0.01〜1.0μmの細孔直径範囲にある積算細孔容積は2.8%、細孔分布の極大値は1.9μmの球状粒子であることを確認した。図5に粒子の全体像のSEM写真、図6に粒子の内部構造のSEM写真を示した。図5及び図6より、1〜5μmの空隙を多く持つ中空状球状粒子であることが分かる。
【0055】
又、得られた粉末についてBET比表面積を測定した結果、0.6m/gであった。
【0056】
(比較例2)
比較例1で得られた粉末を乳鉢で粉砕し、柱状粉末を得た。図7に粒子の全体像のSEM写真を示した。
【0057】
(比較例3)
Ti:K:Li=1.73:0.8:0.27(モル比)となるように秤量した酸化チタン、炭酸カリウム及び炭酸リチウムを常法により混合し、原料混合物を振動ミルにて粉砕しながら30分間混合した。得られた粉砕混合物を電気炉にて1000℃で4時間焼成後、焼成物を粉砕することで、粉末を得た。得られた粉末を水中に分散させ10質量%スラリーを調製した。このスラリーの固形分を濾取し、乾燥することでチタン酸リチウムカリウム(K0.8Li027Ti1.73)を得た。
【0058】
得られたチタン酸リチウムカリウムを3.5質量%に調整した硫酸溶液に分散し、5質量%スラリーを調製した。このスラリーの固形分を濾取し、水洗、乾燥することでチタン酸(HTi)を得た。
【0059】
得られたチタン酸を5.3質量%に調整した水酸化カリウム溶液に分散し、10質量%スラリーを調製した。このスラリーの固形分を濾取し、水洗、乾燥した。このものを電気炉にて500℃で3時間焼成することで粉末を得た。
【0060】
得られた粉末は、X線回折測定装置により8チタン酸カリウム(KTi17)であることを確認した。平均粒子径はレーザー回折式粒度分布測定装置により9μmであった。粉末の形状は、SEMを用いて板状粒子であることを確認した。
【0061】
(比較例4)
Ti:K:Li=1.73:0.8:0.27(モル比)となるように秤量した酸化チタン、炭酸カリウム及び炭酸リチウムを常法により混合し、原料混合物を振動ミルにて粉砕しながら30分間混合した。得られた粉砕混合物を電気炉にて1000℃で4時間焼成後、焼成物を粉砕することで、粉末を得た。得られた粉末を水中に分散させ10質量%スラリーとし、さらに酸を添加した。このスラリーの固形分を濾取し、乾燥した。乾燥後、電気炉にて600℃で1時間焼成することで粉末を得た。
【0062】
得られた粉末は、X線回折測定装置によりレピドクロサイト型層状結晶のチタン酸リチウムカリウム(K0.7Li0.27Ti1.733.95)であることを確認した。平均粒子径はレーザー回折式粒度分布測定装置により15μmであった。粉末の形状は、SEMを用いて板状粒子であることを確認した。
【0063】
(比較例5)
Ti:K:Mg=4:2:1(モル比)となるように秤量した酸化チタン、炭酸カリウム及び水酸化マグネシウムを常法により混合し、原料混合物を振動ミルにて粉砕しながら30分間混合した。得られた粉砕混合物を電気炉にて1000℃で4時間焼成後、焼成物を粉砕し、粉末を得た。得られた粉末を水中に分散させ10質量%スラリーとし、さらに酸を添加した。このスラリーの固形分を濾取し、乾燥した。乾燥後、電気炉にて600℃で1時間焼成することで粉末を得た。
【0064】
得られた粉末は、X線回折測定装置によりレピドクロサイト型層状結晶のチタン酸マグネシウムカリウム(K0.7Mg0.4Ti1.63.95)であることを確認した。平均粒子径はレーザー回折式粒度分布測定装置により4μmであった。粉末の形状は、SEMを用いて板状粒子であることを確認した。
【0065】
(比較例6)
Ti:K=1:1(モル比)となるように秤量した酸化チタン及び炭酸カリウムを常法により混合し、原料混合物を振動ミルにて粉砕しながら30分間混合した。得られた粉砕混合物を電気炉にて780℃で4時間焼成後、焼成物を粉砕することで、2チタン酸カリウム(KTi)を得た。
【0066】
得られた2チタン酸カリウムを水中に分散させ15質量%スラリーを調製し、さらに酸を添加した。このスラリーの固形分を濾取し、乾燥した。乾燥後、電気炉にて600℃で1時間焼成し、焼成物をハンマーミルにて解砕することで粉末を得た。
【0067】
得られた粉末は、X線回折測定装置により7.9チタン酸カリウム(KTi7.916.8)であることを確認した。平均粒子径はレーザー回折式粒度分布測定装置により11μmであった。粉末の形状は、SEMを用いて不定形の形状を有し、不規則な方向に複数の突起が延びる形状(アメーバ形状)を有している粒子であることを確認した。
【0068】
<摩擦材の製造>
(実施例3)
表1に従う配合比率に従って材料を配合し、レーディゲミキサーにて混合後、得られた混合物を仮成形(25MPa)、熱成形(150℃、20MPa)を行い、更に熱処理220℃を行い、ディスクブレーキ用パッドを製造した。
【0069】
<摩擦材の評価>
摩擦試験は、汎用のフルサイズダイナモ試験機を用いてJASO C−406に準拠して行った。摩擦材の気孔率は、JIS D4418に準拠して、油中含浸により測定を行った。結果を表1に示した。
【0070】
【表1】
【0071】
表1に示すように、本発明に従う実施例1〜3の多孔質チタン酸化合物粒子を用いた実施例3〜11は、比較例1〜6のチタン酸塩化合物粒子を用いた比較例7〜14に比べ、フェード試験項目における制動10回中の最低摩擦係数(μ)が高くなっており、銅粉末の含有の有無にかかわらず、優れた耐フェード性を示すことが分かる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7