(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
内部に冷媒流路を有するチューブと、該チューブの外面にろう付けされたフィンとを備え、前記チューブとフィンがアルミニウムあるいはアルミニウム合金からなり、ろう材を有するチューブと、ろう材を有さないフィンとをろう付けする熱交換器の製造方法であって、
前記フィンがアルミニウムあるいはアルミニウム合金からなる基材の表面に親水性を有するケイ酸塩を主成分とする塗膜からなる親水性皮膜を形成したプレコートフィン材からなり、前記塗膜として10質量%以下のアクリル樹脂、界面活性剤を含み残部ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸リチウムのいずれかの組成を有する塗膜を用い、
前記塗膜を形成したフィン材と前記チューブを組み付け、580〜615℃に加熱することでろう付けすることを特徴とするろう付け性と親水性に優れ、プレコートフィン材を使用した熱交換器の製造方法。
前記チューブの外面に塗布されたSiとZnを含むろう付け用塗膜をろう付け時の熱により溶融させて前記ろう材を形成することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の熱交換器の製造方法。
ろう付け前に前記チューブの外面に、Si粉末とZn含有フラックスを含むろう付け用塗膜を形成し、ろう付け時の熱によりSiとZnをチューブ内に拡散させて該チューブの表面に犠牲陽極層を形成することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の熱交換器の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
図1は、本発明に係るオールアルミニウム熱交換器の一実施形態を示すもので、この形態の熱交換器100は、左右に離間し平行に配置されたヘッダーパイプ1、2と、これらのヘッダーパイプ1、2の間に相互に間隔を保って平行に、かつ、ヘッダーパイプ1、2に対してほぼ直角に接合された複数の扁平状のチューブ3と、各チューブ3にろう付けされた波形のフィン4を主体として構成されている。ヘッダーパイプ1、2、チューブ3及びフィン4は、後述するアルミニウム合金から構成されている。
より詳細には、ヘッダーパイプ1、2の相対向する側面に
図2または
図3に示すようにスリット6が各パイプの長さ方向に定間隔で複数形成され、これらヘッダーパイプ1、2の相対向するスリット6にチューブ3の各端部を挿通してヘッダーパイプ1、2間にチューブ3が架設され、ろう付けされている。また、ヘッダーパイプ1、2間に所定間隔で架設された複数のチューブ3の表裏面側に各々波型のフィン4が配置され、これらのフィン4がチューブ3の表面側あるいは裏面側にろう付けされている。
本実施形態の熱交換器100は、ルームエアコンディショナーの室内・室外機用の熱交換器、あるいは、HVAC(Heating Ventilating Air Conditioning)用の室外機、エコキュート室外機用の熱交換器、自動車用の熱交換器などの用途に使用されるオールアルミニウム熱交換器である。
【0013】
図3に示す如く、ヘッダーパイプ1、2のスリット6に対してチューブ3の端部を挿通した部分においてろう材によりフィレット8が形成され、ヘッダーパイプ1、2に対してチューブ3がろう付けされている。また、波形のフィン4において波の頂点の部分を隣接するチューブ3の表面または裏面に対向させてそれらの間の部分にろう材によりフィレット9が形成され、チューブ3の表面側と裏面側に波形のフィン4がろう付けされている。
更に、フィン4は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる基材4aの表面に、以下に説明する親水性皮膜4bが被覆されている。
親水性皮膜4bは、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸リチウムなどのケイ酸塩を主体とする皮膜からなり、後述するろう付け処理の前に、塗布された塗膜が乾燥されて親水性皮膜として構成されたものである。親水性皮膜4bの具体例として、水ガラス(Na
xSiO
2)の塗膜、水ガラスにアクリル樹脂を混合した塗膜であって、後述するろう付け処理を経た後に残留する親水性皮膜を例示できる。
【0014】
この実施形態の熱交換器100は、後述する製造方法において詳述するように、ヘッダーパイプ1、2とそれらの間に架設された複数のチューブ3と複数のフィン材4Aとを組み付けて
図2に示す如く構成された熱交換器組立体101をろう付けすることにより製造されたものである。
ろう付け前のチューブ3には、フィン材4Aが接合される表面と裏面に、Si粉末:1.0〜5.0g/m
2と、Zn含有フッ化物系フラックス(KZnF
3):3.0〜10.0g/m
2と、バインダ(例えば、アクリル系樹脂):0.5〜3.5g/m
2からなる配合組成のろう付け用塗膜(ろう材塗膜)7が
図4に示す如くチューブ3の表面の大部分と裏面の大部分を覆うように形成されている。
【0015】
本実施形態の熱交換器100に適用されるチューブ3は、一例として
図4に示す如くその内部に複数の通路3Cが形成され、平坦な表面(上面)3A及び裏面(下面)3Bと、これら表面3A及び裏面3Bに隣接する側面3Dとを具備し、
図4の横断面に示す如き偏平多穴管として構成されている。そして、一例としてろう付け前のチューブ3の表面3Aと裏面3Bに前記ろう付け用塗膜7が形成されている。
【0016】
図4に示す横断面形状のチューブ3を適用した熱交換器100においては、ろう付け用塗膜7が設けられていないチューブの側面3D側が防食されるカソード部となり、フィン4及びフィレット9が優先(犠牲)腐食されるアノード部となる。また、ろう付け後のチューブ3の表面部分、及び、裏面部分には、ろう付け用塗膜7に含まれていたSiとZnがろう付け温度でチューブ3側に拡散した結果、チューブ3の表面表層部とチューブ3の裏面表層部にSiとZnを含む犠牲陽極層3aが形成されている。
【0017】
以下、前記ろう付け用塗膜7を構成する組成物について説明する。
<Si粉末>
Si粉末は、チューブ3を構成するAlと反応し、フィン4とチューブ3を接合するろうを形成するが、ろう付け時にZn含有フラックスとSi粉末が溶融してろう液となる。このろう液にフラックス中のZnが均一に拡散し、チューブ3の表面に均一に広がる。液相であるろう液内でのZnの拡散速度は固相内の拡散速度より著しく大きいので、これにより均一なZn拡散がなされ、チューブ3表面の面方向のZn濃度がほぼ均一となる。また、チューブ3の表面から深さ方向への拡散について見ると、SiはAlと共晶となって融点を下げるので、チューブ3の表面では共晶組成となった状態にZnが拡散しチューブ3の表面に所定厚さの犠牲陽極層3aが生成する。この犠牲陽極層3aの生成によりチューブ3の耐食性を向上できる。
【0018】
<Si粉末塗布量:1.0〜5.0g/m
2>
Si粉末の塗布量が1.0g/m
2未満であると、ろう形成が不十分となるおそれがあり、均一な犠牲陽極層が形成されなくなるおそれがある一方、塗布量が5.0g/m
2を超えると、犠牲陽極層表面に貴なカソード層が形成され、犠牲陽極層の効果が短時間となるおそれがある。このため、塗膜におけるSi粉末の含有量は1.0〜5.0g/m
2とすることが好ましい。
<Si粉末粒度:最大粒径:D(99):20μm以下>
<Si粉末粒度:平均粒径:D(50):1〜10μm>
Si粉末の粒度がD(99)において20μm以下であれば、均一な犠牲陽極層を形成することが可能である反面、20μmを超えると、局部的に深いエロージョンが生成し、均一な犠牲陽極層を形成できなくなるおそれがある。このため、Si粉末の粒度は、最大粒径D(99)において20μm以下が好ましい。Si粉末の粒度が平均粒径(D50)において1〜10μmの範囲内であれば、均一な犠牲陽極層を形成することができる。しかし、1μm未満であると、ろう形成が不十分となるおそれがあり、均一な犠牲陽極層が形成されなくなるおそれがある。一方、10μmを超えると、ろう形成が点在し、均一な犠牲陽極層が形成されないおそれがある。このため、Si粉末の粒度は、(D50)において1〜10μmとするのが好ましい。なお、D(99)とは、体積割合で小さい粒から累積し、全体の99%となる粒の粒径のことである。また、(D50)とは、体積割合で小さい粒から累積し、全体の50%となる粒の粒径のことである。これらの値は、いずれもレーザ光散乱法で測定することができる。
【0019】
<Zn含有フッ化物系フラックス>
Zn含有フッ化物系フラックスは、ろう付けに際し、チューブ3の表面に犠牲陽極層の電位を適正に卑とするZnを拡散させた犠牲陽極層3aを形成する効果がある。また、ろう付け時にチューブ3の表面の酸化物を除去し、ろうの広がり、ぬれを促進してろう付け性を向上させる作用を有する。
<フラックス塗布量:3.0〜10.0g/m
2>
Zn含有フッ化物系フラックスの塗布量が3.0g/m
2未満であると、電位差が低くなり、犠牲効果が発揮されないおそれがある。また、被ろう付け材(チューブ3)の表面酸化皮膜の破壊除去が不十分なためにろう付け不良を招くおそれがある。一方、塗布量が10.0g/m
2を超えると、電位差が過大となり、腐食速度が増加し、犠牲陽極層3aの存在による防食効果が短時間になるおそれがある。このため、Zn含有フッ化物系フラックスの塗布量を3.0〜10.0g/m
2とすることが好ましい。Zn含有フッ化物系フラックスは、一例としてKZnF
3を用いることができる。
【0020】
<バインダ>
ろう付け用塗膜7には、Si粉末、Zn含有フッ化物系フラックスに加えてバインダを含む。バインダの例としては、好適にはアクリル系樹脂を挙げることができる。
バインダは犠牲陽極層3aの形成に必要なSi粉末とZn含有フラックスをチューブ3の表面または裏面に固着する作用があるが、バインダの塗布量が0.5g/cm
2未満であると、ろう付け時にSi粉末やZnフラックスがチューブ3から脱落し、均一な犠牲陽極層3aが形成されないおそれがある。一方、バインダの塗布量が3.5g/cm
2を超えると、バインダ残渣によりろう付け性が低下し、均一な犠牲陽極層3aが形成されないおそれがある。このため、バインダの塗布量は、0.5〜3.5g/m
2とすることが好ましい。なお、バインダは、通常、ろう付けの際の加熱により蒸散する。
【0021】
Si粉末、フラックス及びバインダからなるろう付け組成物の塗布方法は、本発明において特に限定されるものではなく、スプレー法、シャワー法、フローコータ法、ロールコータ法、刷毛塗り法、浸漬法、静電塗布法などの適宜の方法によって行うことができる。また、ろう付け組成物の塗布領域は、チューブ3の全表面または全裏面としてもよく、また、チューブ3の表面と裏面の一部であっても良く、要は、少なくともフィン4をろう付けするのに必要なチューブ3の表面領域あるいは裏面領域に塗布されていれば良い。また、本願のチューブ3は側面にろう付け組成物が形成されていないものであるが、塗布方法によっては上面等にろう付け組成物を塗布した場合、結果的に側面にも一部形成されてしまうことがあるが、このようなものを本発明では排除しない。
【0022】
チューブ3は、JIS1050系などの純アルミニウム系あるいはJIS3003系のアルミニウム合金を主体とした合金からなる。一例として、Si:0.10〜0.60%、Fe:0.1〜0.6質量%、Mn:0.1〜0.6質量%、Ti:0.005〜0.2質量%、Cu:0.1質量%未満、残部がアルミニウム及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金を押出することにより作製されたものである。
【0023】
次に、フィン4について説明する。
フィン4は、JIS1050系などの純アルミニウム系あるいはJIS3003系のアルミニウム合金を主体とした合金からなる。また、JIS3003系のアルミニウム合金に質量%で2%程度のZnを添加したアルミニウム合金からフィン4を形成しても良い。
フィン4は、上記組成を有するアルミニウム合金を常法により溶製し、熱間圧延工程、冷間圧延工程などを経て、波形形状に加工される。なお、フィン4の製造方法は、本発明としては特に限定されるものではなく、既知の製法を適宜採用することができる。
【0024】
フィン4の外面(周面)には、ろう付け前にケイ酸塩を主体とする塗膜4bが形成されている。ケイ酸塩として具体的にはケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウムあるいはケイ酸リチウムのいずれかを例示できる。また、ケイ酸塩を主体とする塗膜4bとは、塗膜4bの中にケイ酸塩の他に10質量%以下程度のアクリル樹脂、界面活性剤等を含んでいるものを含み、残部がケイ酸塩となる概念と規定する。
塗膜4bを形成する方法は、ロールコートなどで塗膜を形成し、オーブンで乾燥させるなど、種々の塗膜形成方法を適宜採用することができる。
ろう付け前の塗膜4bの付着量は、50〜3000mg/m
2の範囲であることが好ましい。塗膜4bの付着量が少なすぎると、親水性が不足となり、付着量が多すぎると、フィン4とチューブ3との間に存在する皮膜量が多すぎてろう付け性が低下する。
【0025】
次に、ヘッダーパイプ1について説明する。
ヘッダーパイプ1は、
図2、
図3に示すように、芯材層11と、芯材の外周側に設けられた犠牲材層12と、芯材の内周側に設けられたろう材層13とからなる3層構造をなしている。
芯材層11の外周側に犠牲材層12を設けることにより、フィン4による防食効果に加えてヘッダーパイプ1による防食効果も得られるため、ヘッダーパイプ1近傍のチューブ3の犠牲防食効果をより高めることができる。
【0026】
ヘッダーパイプ1の芯材層11は、Al−Mn系をベースとした合金が好ましい。
例えば、Mn:0.05〜1.50%を含有することが好ましく、他の元素として、Cu:0.05〜0.8%、Zr:0.05〜0.15%を含有することができる。
芯材層11の外周側に設けられる犠牲材層12は、一例としてZn:0.60〜1.20%、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金から構成される。犠牲材層12は、クラッド圧延により芯材層11と一体化されている。
【0027】
次に、以上説明したヘッダーパイプ1、2チューブ3及びフィン4を主たる構成要素とする熱交換器100の製造方法について説明する。
図2は、フィン材4
Aとの接合面にろう付け用塗膜7を塗布したチューブ3を使用し、ヘッダーパイプ1、2、チューブ3及びフィン材4
Aを組み立てた状態を示す熱交換器組立体101の部分拡大図である。
図2は加熱ろう付けする前の状態を示している。
図2に示す熱交換器組立体101において、チューブ3はその両端をヘッダーパイプ1、1に設けたスリット6に挿入されている。
図2に示すように組み立てられたヘッダーパイプ1、2、チューブ3及びフィン材4
Aからなる熱交換器組立体101をろう材の融点以上の温度に加熱すると、
図3に示すように、ろう付け用塗膜7とろう材層13が溶けてヘッダーパイプ1とチューブ3、チューブ3とフィン材4Aが各々接合され、
図1と
図3に示す構造の熱交換器100が得られる。この時、ヘッダーパイプ1の内周面のろう材層13は溶融してスリット6近傍に流れ、フィレット8を形成してヘッダーパイプ1とチューブ3とが接合される。また、チューブ3の表面と裏面のろう付け用塗膜7は溶融して毛管力によりフィン材4
Aの近傍に流れ、フィレット9を形成してチューブ3とフィン材4
Aが接合される。
また、ろう付け時にフィン材4
A表面の塗膜4bが親水性皮膜として残留され、フィン4が形成される。
【0028】
ろう付けに際しては、不活性雰囲気などの適切な雰囲気で適温に加熱して、ろう付け用塗膜7、ろう材層13を溶融させる。この場合、フラックスの活性度が上がって、フラックス中のZnが被ろう付け材(チューブ3)表面に析出し、その肉厚方面に拡散するのに加え、ろう材及び被ろう付け材の双方の表面の酸化皮膜を破壊してろう材と被ろう付け材との間のぬれを促進する。
ろう付けのための加熱温度は、上述したように、ろう材の融点以上であるが、上述した組成からなるろう材の場合、580〜615℃に加熱され、1〜10分程度保持される。
【0029】
ろう付けに際しては、チューブ3を構成するアルミニウム合金のマトリックスの一部がチューブ3に塗布されたろう付け用塗膜7の組成物と反応してろうとなって、チューブ3とフィン材4
Aがろう付けされる。チューブ3の表面表層部と裏面表層部ではろう付けによってフラックス中のZnが拡散してチューブ3内側よりも卑になる。
より詳細には、
図5に示す如くチューブ3の表面にSi粉末20とZn含有フラックス粉末21とバインダ(図示略)が塗布されている場合、全体を加熱するとバインダが初めに溶融し、次いで570℃を超えた温度域においてZn含有フラックスが溶融し
図6に示す如く融液22となってチューブ3の表裏面に広がり、Znがチューブ3の表面に矢印に示す如く拡散を開始する。そして、この温度域を超えるとSi粉末20を構成するSiが融液22を介してチューブ3側に
図7に示す如く拡散する。
この後、580〜615℃のろう付け温度を所定時間保持することで
図7に示す如くSiがAlと共晶組成となってAl−Si共晶領域が生成された後、この領域がチューブ3の全域に広がる。
【0030】
本実施の形態の構造によれば、ろう付けに際して、Si粉末の残渣もなく、良好なろう付けがなされ、チューブ3とフィン4との間に十分なサイズのフィレット9が形成され、更に上述の犠牲陽極層3aが形成される。
前述の如く得られた熱交換器100によれば、チューブ3の表面に厚さ30〜150μmの電位がほぼ一定な犠牲陽極層3aが形成されているので、チューブ3の表面表層部あるいは裏面表層部からチューブ3の内部にかけて最外面の高濃度Znの領域と、犠牲陽極層3aとの電位差が小さい領域が、チューブ3の深さ方向と面方向にいずれも存在するので、この領域aの腐食速度が遅くなる結果、チューブ3の犠牲陽極層3aを早期に消耗してしまうことがなくなり、チューブ3の耐食寿命を長くすることができる効果がある。
融液22がチューブ3の表裏面に拡がり、フィン材4Aとの当接部分にフィレット9が生成される位置において、フィン材4
Aの表裏面に存在しているケイ酸塩を主
成分とする塗膜は除去され、一部はフィレット9中に残る。
【0031】
以上説明したように製造された熱交換器100にあっては、チューブ3とフィン4との接合部分に十分な大きさのフィレット9が形成されるので、フィン4の接合強度が良好となる。また、ろう付け用塗膜7から拡散されたSiとZnによる犠牲陽極層3aがチューブ3の表面表層部と裏面表層部に均一に形成されるので、チューブ3の耐食性に優れる特徴を有する。また、フィン4の表裏面に親水性皮膜である塗膜4bが形成されているので、フィン4の親水性を高くすることができ、フィン4のフィン間隔が微細化された熱交換器構造であっても、雨水や結露水などの水分をフィン4の隙間に保水するおそれが低い。このため、フィン4の隙間を水分で塞ぐことがなく、熱交換効率が低下しないフィン構造を備えた熱交換器100を提供できる。
【0032】
プレコートした塗膜4bを備えたフィン材4
Aをろう付けして熱交換器100を製造することができ、ろう付け後にポストコートで親水性皮膜を形成する工程は不要となる。即ち、熱交換器をバッチ処理で1基ずつポストコートする工程が不要となるので、工程の簡略化になり、大量のポストコート用親水性樹脂液が不要になるので、廃液処理が不要となる。このため、親水性皮膜としての塗膜4bを備えた熱交換器100の製造工程を簡略化できる効果がある。
【実施例】
【0033】
JIS1050組成の複数の板材に対し以下の各塗膜を(バーコーター)法で塗布、乾燥、塗膜を形成し、次いでコルゲート加工することにより、試験用のベアフィンを作製した。
また、JIS1050組成の複数の板材に対し、リン酸クロメート処理(付着量20 mg/m
2)を施した(実施例10を除く。)。
【0034】
JIS3003組成のチューブ用アルミニウム合金を溶製し、この合金を横断面形状(肉厚0.26mm×幅17.0mm×全体厚1.5mm)であって、扁平状の熱交換器用アルミニウム合金チューブとした。
次に、偏平状の熱交換器用アルミニウム合金チューブの表面と裏面にろう材組成物をロール塗布し、乾燥させた。ろう材組成物は、Si粉末(D(99)粒度10μm)3gと、フラックス(KZnF
3:D(50)粒度2.0μm)6g、及び、アクリル系樹脂バインダ1g、溶剤としてのイソプロピルアルコール16gの混合物からなる溶液を試験に供した。
【0035】
次に、前記チューブと各種フィンを1段組み立て、仮のミニコア試験体を構成し、これらの試験体を窒素雰囲気の炉内に600℃×10分保持する条件でろう付けを行った。このろう付けにより、ろう付け塗膜が形成されていたチューブの表面及び裏面に、犠牲陽極層が形成されるとともに、親水性塗膜を備えたフィンがろう付けされたので、これらを熱交換器試験体とした。
また、これらの熱交換器試験体を用いて以下に説明するろう付け性評価試験、耐熱試験後、水洗後接触角測定試験と耐熱試験後耐食性評価試験を行った。
【0036】
<ろう付け性評価試験:フィン接合率評価試験>
ろう付接合された各フィンを、チューブからフィンをはぎ取り、チューブ表面に残存するフィン接合部跡を観察した。そして、未接合箇所(ろう付を行ったが接合部跡が残らなかった箇所)の数をカウントし、下記式に基づいて接合率を求めた。フィン接合部は100個測定した結果である。
接合率=(全接合箇所の数−未接合箇所の数/全接合箇所の数)×100(%)
全接合箇所の数:ろう付を行った全箇所数
未接合箇所の数:ろう付を行ったが接合部跡が残らなかった箇所の数
<耐熱試験後、水洗後接触角測定>
600℃×10分のろう付け後、流水に24時間浸漬し、フィン表面の接触角を測定した。接触角が30°以下であれば合格とする。
<耐熱試験後耐食性>
600℃×10分のろう付け後、得られた各熱交換器試験体について、JIS Z 2301に基づいて240時間の塩水噴霧試験(SST)を行ない、腐食状況をRN(レイティングナンバー)で評価した。
以上の結果を以下の表1に記載する。
【0037】
【表1】
【0038】
表1に示すように実施例の各試験体のRN(レイティングナンバー)はいずれも9.3以上であり、耐食性について問題は生じなかった。
表1に示す結果から、いずれの実施例の試験体のフィンであってもろう付け性については問題がなく、良好なろう付け性能を得ることができた。
表1に示す結果から、いずれの実施例の試験体のフィンであっても接触角は30゜以下になり、優れた親水性が得られた。従って、プレコートによりケイ酸塩の親水性塗膜を形成したフィンに対し、ろう付け後においても満足な親水性を得ることができた。
【0039】
なお、比較例1〜4の試験体は種々の樹脂を用いて塗膜とした例であるが、いずれの試験体の皮膜も接触角が悪く、良好な親水性が得られなかった。
実施例8の試験体は塗膜付着量が少ない試験体であるが、接触角がやや高く、実施例9の試験体は塗膜付着量が多すぎる試験体であるが、ろう付け性がやや低下した。ケイ酸塩の塗膜が厚すぎる場合は、フィンとチューブの間の間隔が大きくなるので、溶融したろうがフィンとチューブの間を完全に埋めきれなかったことが原因と思われる。