(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記工程(II)において、前記スラリー溶液と、残りの前記ゴムラテックス溶液と、前記老化防止剤との混合温度を、前記老化防止剤の融点以上とする請求項1に記載のゴムウエットマスターバッチの製造方法。
前記工程(III)後に得られるゴムウエットマスターバッチが、ゴム100質量部に対して前記カーボンブラックを40〜90質量部、前記老化防止剤を0.05〜5質量部含有する請求項1または2に記載のゴムウエットマスターバッチの製造方法。
【背景技術】
【0002】
従来から、ゴム業界においては、カーボンブラックを含有するゴム組成物を製造する際の加工性やカーボンブラックの分散性を向上させるために、ゴムウエットマスターバッチを用いることが知られている。これは、カーボンブラックと分散溶媒とを予め一定の割合で混合し、機械的な力でカーボンブラックを分散溶媒中に分散させたカーボンブラック含有スラリー溶液と、ゴムラテックス溶液と、を液相で混合し、その後、酸などの凝固剤を加えて凝固させたものを回収して乾燥するものである。ゴムウエットマスターバッチを用いる場合、カーボンブラックとゴムとを固相で混合して得られるゴムドライマスターバッチを用いる場合に比べて、カーボンブラックの分散性に優れ、加工性や補強性などのゴム物性に優れるゴム組成物が得られる。このようなゴム組成物を原料とすることで、例えば転がり抵抗が低減され、耐疲労性に優れた空気入りタイヤなどのゴム製品を製造することができる。
【0003】
一般に、ゴムウエットマスターバッチを製造する際、あるいは製造後に保管する際のゴムの劣化を防ぐため、ゴムウエットマスターバッチに老化防止剤を添加することが知られている。例えば、下記特許文献1では、カーボンブラックと分散溶媒とを予め一定の割合で混合し、機械的な力でカーボンブラックを分散溶媒中に分散させたカーボンブラック含有スラリー溶液を製造する際に老化防止剤を添加し、その後ゴムラテックス溶液を添加して液相で混合し、酸などの凝固剤を加えて凝固させたものを回収して乾燥することで、ゴムウエットマスターバッチを製造することが記載されている。しかしながら、カーボンブラック含有スラリー溶液を製造する際に老化防止剤を添加すると、カーボンブラックに老化防止剤が吸着され、ゴムラテックス凝固時にカーボンブラックおよび老化防止剤が取り込まれ難くなり、結果としてゴム凝固物中でのカーボンブラックおよび老化防止剤の分散性が悪化する。
【0004】
下記特許文献2では、カーボンブラック含有スラリー溶液と、ゴムラテックス溶液とを凝固槽で凝固する際、老化防止剤を添加することが記載されている。しかしながら、カーボンブラック含有スラリー溶液と、ゴムラテックス溶液とを凝固する際に老化防止剤を添加しても、凝固物への老化防止剤の取り込みが不十分であり、結果としてゴム凝固物中での老化防止剤の分散性が悪化する。また、凝固前の混合工程、あるいは凝固工程で老化防止剤が存在しないため、ゴム成分が既に熱劣化している場合がある。したがって、凝固工程で老化防止剤を添加しても、その添加効果が不十分となる場合がある。
【0005】
ところで、下記特許文献3では、少なくとも充填材、分散溶媒、およびゴムラテックス溶液を原料とするゴムウエットマスターバッチの製造方法により、カーボンブラックが均一に分散し、経時的なカーボンブラックの再凝集が抑制されたゴムウエットマスターバッチであって、発熱性、耐久性およびゴム強度に優れた加硫ゴムの原料となるゴムウエットマスターバッチが製造可能である点が記載されている。かかる文献では、ゴムウエットマスターバッチの製造方法のいずれの工程であっても老化防止剤が混合可能であり、さらにかかるゴムウエットマスターバッチを用いてゴム組成物を製造する工程でも老化防止剤が混合可能である。しかしながら、老化防止剤をいずれの工程で混合するかについて具体的な記載または示唆が無く、老化防止剤の添加のタイミングの点で創意工夫の余地がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、カーボンブラックが均一に分散し、経時的なカーボンブラックの再凝集が抑制されたゴムウエットマスターバッチであって、破断時の伸びおよび耐引裂性能に優れた加硫ゴムの原料となるゴムウエットマスターバッチおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、下記の如き本発明により達成できる。即ち、本発明に係るゴムウエットマスターバッチの製造方法は、少なくともカーボンブラック、分散溶媒、老化防止剤およびゴムラテックス溶液を原料とするゴムウエットマスターバッチの製造方法であって、前記カーボンブラックを前記分散溶媒中に分散させる際に、前記ゴムラテックス溶液の少なくとも一部を添加することにより、ゴムラテックス粒子が付着した前記カーボンブラックを含有するスラリー溶液を製造する工程(I)と、前記スラリー溶液と、残りの前記ゴムラテックス溶液と、老化防止剤とを混合して、ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックおよび老化防止剤含有ゴムラテックス溶液を製造する工程(II)と、ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックおよび老化防止剤含有ゴムラテックス溶液を凝固・乾燥する工程(III)とを含むことを特徴とする。
【0009】
上記製造方法によれば、カーボンブラックを分散溶媒中に分散させる際に、ゴムラテックス溶液の少なくとも一部を添加することにより、ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックを含有するスラリー溶液を製造する(工程(I))。これにより、カーボンブラックの表面の一部あるいは全部に、極薄いラテックス相が生成し、工程(II)において残りのゴムラテックス溶液および老化防止剤を混合する際、カーボンブラックの再凝集を防止することができ、かつゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックおよび老化防止剤含有ゴムラテックス溶液を凝固・乾燥する工程(III)においても、カーボンブラックの再凝集を抑制することができる。その結果、カーボンブラックが均一に分散し、経時的にもカーボンブラックの分散安定性に優れたゴムウエットマスターバッチを製造することができる。かかるゴムウエットマスターバッチはカーボンブラックが均一に分散し、かつ経時的なカーボンブラックの再凝集も抑制されているため、これを原料として得られる加硫ゴムでは、発熱性、耐久性およびゴム強度が著しく向上する。
【0010】
なお、上記製造方法では、単にカーボンブラックを分散溶媒中に分散させてスラリー溶液を製造する場合に比べて、スラリー溶液中のカーボンブラックの分散性に優れ、かつカーボンブラックの再凝集を防止することができるため、スラリー溶液の保存安定性にも優れるという効果も奏する。
【0011】
また、上記製造方法では、工程(I)後に得られたスラリー溶液中で、カーボンブラックの表面の一部あるいは全部に、極薄いラテックス相が生成するため、工程(II)において老化防止剤を混合しても、カーボンブラックへの老化防止剤の吸着を防止することができる。このため、ゴムラテックス凝固時にカーボンブラックおよび老化防止剤が取り込まれ易くなり、結果としてゴム凝固物中での老化防止剤の分散性が良好になる。
【0012】
さらに、上記製造方法では、スラリー溶液/残りのゴムラテックス溶液の混合段階(工程(II))で老化防止剤が添加されるため、その後の凝固工程/脱水・乾燥工程でのゴムウエットマスターバッチの熱劣化を防止することができる。その結果、かかるゴムウエットマスターバッチを原料として得られる加硫ゴムの破断時の伸びおよび耐引裂性能を向上することができる。
【0013】
上記ゴムウエットマスターバッチの製造方法では、前記工程(II)において、前記スラリー溶液と、残りの前記ゴムラテックス溶液と、前記老化防止剤との混合温度を、前記老化防止剤の融点以上とすることが好ましい。かかる構成によれば、スラリー溶液と、残りのゴムラテックス溶液と、老化防止剤と、の混合時に老化防止剤が溶解し、ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックおよび老化防止剤含有ゴムラテックス溶液、およびそのゴム凝固物中で、老化防止剤がさらに容易に分散し易くなる。その結果、かかるゴムウエットマスターバッチを原料として得られる加硫ゴムの破断時の伸びおよび耐引裂性能をさらに向上することができる。
【0014】
加硫ゴムの破断時の伸びおよび耐引裂性能を向上するためには、上記ゴムウエットマスターバッチの製造方法において、前記工程(III)後に得られるゴムウエットマスターバッチが、ゴム100質量部に対して前記カーボンブラックを40〜90質量部、前記老化防止剤を0.05〜5質量部含有することが好ましい。
【0015】
本発明に係るゴムウエットマスターバッチは、カーボンブラックを分散溶媒中に分散させる際に、ゴムラテックス溶液の少なくとも一部を添加することにより、ゴムラテックス粒子が付着した前記カーボンブラックを含有するスラリー溶液を製造後、前記スラリー溶液と、残りの前記ゴムラテックス溶液と、老化防止剤とを混合し、次いで凝固・乾燥して得られることを特徴とする。かかるゴムウエットマスターバッチを原料として得られる加硫ゴムは、破断時の伸びおよび耐引裂性能に優れる。加硫ゴムの破断時の伸びおよび耐引裂性能をさらに向上するためには、ゴム100質量部に対して前記カーボンブラックを40〜90質量部、前記老化防止剤を0.05〜5質量部含有することが好ましい。
【0016】
本発明に係るゴム組成物は、前記いずれかに記載のゴムウエットマスターバッチを用いて得られたものである。かかるゴム組成物は、含有するカーボンブラックおよび老化防止剤が均一に分散している。したがって、例えば、かかるゴム組成物を用いて得られた空気入りタイヤは、破断時の伸びおよび耐引裂性能に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係るゴムウエットマスターバッチは、カーボンブラックを分散溶媒中に分散させる際に、ゴムラテックス溶液の少なくとも一部を添加することにより、ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックを含有するスラリー溶液を製造後(工程(I))、スラリー溶液と残りのゴムラテックス溶液と、老化防止剤とを混合し(工程(II))、次いで凝固・乾燥して得られる(工程(III))。
【0018】
本発明で使用可能なカーボンブラックとしては、例えばSAF、ISAF、HAF、FEF、GPFなど、通常のゴム工業で使用されるカーボンブラックの他、アセチレンブラックやケッチェンブラックなどの導電性カーボンブラックを使用することができる。カーボンブラックは、通常のゴム工業において、そのハンドリング性を考慮して造粒された、造粒カーボンブラックであってもよく、未造粒カーボンブラックであってもよい。
【0019】
分散溶媒としては、特に水を使用することが好ましいが、例えば有機溶媒を含有する水であってもよい。
【0020】
ゴムラテックス溶液としては、天然ゴムラテックス溶液および合成ゴムラテックス溶液を使用することができる。
【0021】
天然ゴムラテックス溶液は、植物の代謝作用による天然の生産物であり、特に分散溶媒が水である、天然ゴム/水系のものが好ましい。天然ゴムラテックスについては濃縮ラテックスやフィールドラテックスといわれる新鮮ラテックスなど区別なく使用できる。合成ゴムラテックス溶液としては、例えばスチレン−ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴムを乳化重合により製造したものがある。
【0022】
老化防止剤としては、ゴム用として通常用いられる、芳香族アミン系老化防止剤、アミン−ケトン系老化防止剤、モノフェノール系老化防止剤、ビスフェノール系老化防止剤、ポリフェノール系老化防止剤、ジチオカルバミン酸塩系老化防止剤、チオウレア系老化防止剤などの老化防止剤を単独、または適宜混合して使用しても良い。
【0023】
以下に、本発明に係るゴムウエットマスターバッチの製造方法について説明する。特に、本実施形態では、ゴムラテックス溶液として、天然ゴムラテックス溶液を使用した例について説明する。この場合、加硫ゴムとしたときの破断時の伸びおよび耐引裂性能をさらに向上したゴムウエットマスターバッチを製造することができる。
【0024】
かかる製造方法は、カーボンブラックを分散溶媒中に分散させる際に、ゴムラテックス溶液の少なくとも一部を添加することにより、ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックを含有するスラリー溶液を製造する工程(I)と、スラリー溶液と、残りのゴムラテックス溶液と、老化防止剤とを混合して、ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックおよび老化防止剤含有ゴムラテックス溶液を製造する工程(II)と、ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックおよび老化防止剤含有ゴムラテックス溶液を凝固・乾燥する工程(III)とを含む。
【0025】
(1)工程(I)
工程(I)では、カーボンブラックを分散溶媒中に分散させる際に、天然ゴムラテックス溶液の少なくとも一部を添加することにより、天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックを含有するスラリー溶液を製造する。天然ゴムラテックス溶液は、あらかじめ分散溶媒と混合した後、カーボンブラックを添加し、分散させても良い。また、分散溶媒中にカーボンブラックを添加し、次いで所定の添加速度で、天然ゴムラテックス溶液を添加しつつ、分散溶媒中でカーボンブラックを分散させても良く、あるいは分散溶媒中にカーボンブラックを添加し、次いで何回かに分けて一定量の天然ゴムラテックス溶液を添加しつつ、分散溶媒中でカーボンブラックを分散させても良い。天然ゴムラテックス溶液が存在する状態で、分散溶媒中にカーボンブラックを分散させることにより、天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックを含有するスラリー溶液を製造することができる。工程(I)における天然ゴムラテックス溶液の添加量としては、使用する天然ゴムラテックス溶液の全量(工程(I)および工程(II)で添加する全量)に対して、0.5〜50質量%が例示される。
【0026】
工程(I)では、添加する天然ゴムラテックス溶液の固形分(ゴム)量が、カーボンブラックとの質量比で0.5〜10%であることが好ましく、1〜6%であることが好ましい。また、添加する天然ゴムラテックス溶液中の固形分(ゴム)濃度が、0.5〜5質量%であることが好ましく、0.5〜1.5質量%であることがより好ましい。これらの場合、天然ゴムラテックス粒子をカーボンブラックに確実に付着させつつ、カーボンブラックの分散度合いを高めたゴムウエットマスターバッチを製造することができる。
【0027】
工程(I)において、天然ゴムラテックス溶液存在下でカーボンブラックおよび分散溶媒を混合する方法としては、高せん断ミキサー、ハイシアーミキサー、ホモミキサー、ボールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミルなどの一般的な分散機を使用してカーボンブラックを分散させる方法が挙げられる。
【0028】
上記「高せん断ミキサー」とは、ローターとステーターとを備えるミキサーであって、高速回転が可能なローターと、固定されたステーターと、の間に精密なクリアランスを設けた状態でローターが回転することにより、高せん断作用が働くミキサーを意味する。このような高せん断作用を生み出すためには、ローターとステーターとのクリアランスを0.8mm以下とし、ローターの周速を5m/s以上とすることが好ましい。このような高せん断ミキサーは、市販品を使用することができ、例えばSILVERSON社製「ハイシアーミキサー」が挙げられる。
【0029】
本発明においては、天然ゴムラテックス溶液存在下でカーボンブラックおよび分散溶媒を混合し、天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックを含有するスラリー溶液を製造する際、カーボンブラックの分散性向上のために界面活性剤を添加しても良い。界面活性剤としては、ゴム業界において公知の界面活性剤を使用することができ、例えば非イオン性界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両イオン系界面活性剤などが挙げられる。また、界面活性剤に代えて、あるいは界面活性剤に加えて、エタノールなどのアルコールを使用しても良い。ただし、界面活性剤を使用した場合、最終的な加硫ゴムのゴム物性が低下することが懸念されるため、界面活性剤の配合量は、天然ゴムラテックス溶液の固形分(ゴム)量100質量部に対して、2質量部以下であることが好ましく、1質量部以下であることがより好ましく、実質的に界面活性剤を使用しないことが好ましい。
【0030】
工程(I)において製造されるスラリー溶液中、天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックは、90%体積粒径(μm)(「D90」)が、31μm以上であることが好ましく、35μm以上であることがより好ましい。この場合、スラリー溶液中のカーボンブラックの分散性に優れ、かつカーボンブラックの再凝集を防止することができるため、スラリー溶液の保存安定性に優れると共に、最終的な加硫ゴムの発熱性、耐久性およびゴム強度にも優れる。なお、本発明において天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックのD90は、カーボンブラックに加えて、付着した天然ゴムラテックス粒子も含めて測定した値を意味するものとする。
【0031】
(2)工程(II)
工程(II)では、スラリー溶液と、残りの天然ゴムラテックス溶液と、老化防止剤とを混合して、天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックおよび老化防止剤含有ゴムラテックス溶液を製造する。スラリー溶液と、残りの天然ゴムラテックス溶液と、老化防止剤とを液相で混合する方法は特に限定されるものではなく、例えば高せん断ミキサー、ハイシアーミキサー、ホモミキサー、ボールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミルなどの一般的な分散機を使用して混合する方法が挙げられる。
【0032】
工程(II)では、必要に応じて、混合の際に分散機などの混合系全体を加温しても良く、特に老化防止剤の分散度合を高めるために、スラリー溶液と、残りの天然ゴムラテックス溶液と、老化防止剤との混合温度を、老化防止剤の融点以上とすることが好ましい。
【0033】
残りの天然ゴムラテックス溶液は、次工程(III)での乾燥時間・労力を考慮した場合、工程(I)で添加した天然ゴムラテックス溶液よりも固形分(ゴム)濃度が高いことが好ましく、具体的には固形分(ゴム)濃度が10〜60質量%であることが好ましく、20〜30質量%であることがより好ましい。
【0034】
(3)工程(III)
工程(III)では、天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックおよび老化防止剤含有ゴムラテックス溶液を凝固・乾燥する。凝固・乾燥方法としては、天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックおよび老化防止剤含有ゴムラテックス溶液中に凝固剤を含有させて、凝固後に乾燥させる凝固乾燥方法であってもよく、凝固させることなく乾燥させる乾固方法であってもよい。
【0035】
凝固乾燥方法で使用する凝固剤としては、ゴムラテックス溶液の凝固用として通常使用されるギ酸、硫酸などの酸や、塩化ナトリウムなどの塩を使用することができる。
【0036】
天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックおよび老化防止剤含有ゴムラテックス溶液の乾燥方法としては、オーブン、真空乾燥機、エアードライヤーなどの各種乾燥装置を使用することができる。
【0037】
本発明においては、天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックおよび老化防止剤含有ゴムラテックス溶液中に、凝集剤を含有させた後、得られた凝集体を回収し、乾燥させてもよい。凝集剤としては、ゴムラテックス溶液の凝集剤として公知のものを限定なく使用でき、具体的には例えば、カチオン性凝集剤が挙げられる。
【0038】
工程(III)後に得られるゴムウエットマスターバッチは、ゴム100質量部に対してカーボンブラックを40〜90質量部、老化防止剤を0.05〜5質量部含有することが好ましい。この場合、カーボンブラックおよび老化防止剤の分散度合いと、加硫ゴムとしたときの破断時の伸びおよび耐引裂性能とを、バランス良く向上したゴムウエットマスターバッチを製造することができる。カーボンブラックおよび老化防止剤の分散度合いと、加硫ゴムとしたときの破断時の伸びおよび耐引裂性能とを、よりバランス良く向上するためには、工程(III)後に得られるゴムウエットマスターバッチは、ゴム100質量部に対してカーボンブラックを40〜70質量部、老化防止剤を0.1〜3質量部含有することが好ましい。
【0039】
工程(III)後に得られるゴムウエットマスターバッチにおいて、必要に応じて硫黄系加硫剤、加硫促進剤、老化防止剤、シリカ、シランカップリング剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、加硫促進助剤、加硫遅延剤、有機過酸化物、ワックスやオイルなどの軟化剤、加工助剤などの通常ゴム工業で使用される配合剤を配合することにより、本発明に係るゴム組成物を製造することができる。
【0040】
硫黄系加硫剤としての硫黄は通常のゴム用硫黄であればよく、例えば粉末硫黄、沈降硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などを用いることができる。本発明に係るタイヤゴム用ゴム組成物における硫黄の含有量は、ゴム成分100質量部に対して0.3〜6質量部であることが好ましい。硫黄の含有量が0.3質量部未満であると、加硫ゴムの架橋密度が不足してゴム強度などが低下し、6.5質量部を超えると、特に耐熱性および耐久性の両方が悪化する。加硫ゴムのゴム強度を良好に確保し、耐熱性と耐久性をより向上するためには、硫黄の含有量がゴム成分100質量部に対して1.5〜5.5質量部であることがより好ましく、2〜4.5質量部であることがさらに好ましい。
【0041】
加硫促進剤としては、ゴム加硫用として通常用いられる、スルフェンアミド系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、チオウレア系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤などの加硫促進剤を単独、または適宜混合して使用しても良い。加硫促進剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して1〜5質量部であることがより好ましく、1.5〜4質量部であることがさらに好ましい。
【0042】
本発明に係るゴム組成物は、ゴムウエットマスターバッチに加えて、必要に応じて、硫黄系加硫剤、加硫促進剤、老化防止剤、シリカ、シランカップリング剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、加硫促進助剤、加硫遅延剤、有機過酸化物、ワックスやオイルなどの軟化剤、加工助剤などを、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールなどの通常のゴム工業において使用される混練機を用いて混練りすることにより得られる。
【0043】
また、上記各成分の配合方法は特に限定されず、硫黄系加硫剤、および加硫促進剤などの加硫系成分以外の配合成分を予め混練してマスターバッチとし、残りの成分を添加してさらに混練する方法、各成分を任意の順序で添加し混練する方法、全成分を同時に添加して混練する方法などのいずれでもよい。
【0044】
上述したとおり、本発明に係るゴムウエットマスターバッチは、含有するカーボンブラックおよび老化防止剤が均一に分散し、経時的なカーボンブラックおよび老化防止剤の分散安定性に優れることから、これを用いて製造されたゴム組成物も、やはり含有するカーボンブラックおよび老化防止剤が均一に分散し、経時的なカーボンブラックおよび老化防止剤の分散安定性に優れる。特に、このゴム組成物を用いて製造された空気入りタイヤ、具体的にはトレッドゴム、サイドゴム、プライもしくはベルトコーティングゴム、またはビードフィラーゴムに本発明に係るゴム組成物を使用した空気入りタイヤは、カーボンブラックおよび老化防止剤が良好に分散したゴム部を有することとなるため、破断時の伸びおよび耐引裂性能に優れる。
【実施例】
【0045】
以下に、この発明の実施例を記載してより具体的に説明する。使用原料および使用装置は以下のとおりである。
【0046】
(使用原料)
a)カーボンブラック
カーボンブラック「N330」;「シースト3」(東海カーボン社製)
カーボンブラック「N110」;「シースト9」(東海カーボン社製)
カーボンブラック「N774」;「シーストSO」(東海カーボン社製)
b)分散溶媒 水
c)ゴムラテックス溶液
天然ゴム濃縮ラテックス溶液;レヂテックス社製((DRC(Dry Rubber Content))=60%、質量平均分子量23.6万)に常温で水を加えてゴム成分25質量%に調整したもの
天然ゴム新鮮ラテックス溶液;Golden Hope社製((DRC(Dry Rubber Content))=31.2%、質量平均分子量23.2万)に常温で水を加えてゴム成分25質量%に調整したもの
d)凝固剤 ギ酸(一級85%、10%溶液を希釈して、pH1.2に調整したもの)、「ナカライテスク社製」
e)亜鉛華
(A)1号亜鉛華 (三井金属社製)
(B)3号亜鉛華 (三井金属社製)
f)ステアリン酸 (日油社製)
g)ワックス (日本精蝋社製)
h)老化防止剤
(A)芳香族アミン系:N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン「6PPD」、(モンサント社製)、融点44℃
(B)アミンケントン系:2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン重合体「RD」、(大内新興化学社製)、融点80〜100℃
(C)モノフェノール系:2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール「BHT」、(大内新興化学社製)、融点69<℃
i)硫黄
(A)硫黄 (鶴見化学工業社製)
(B)不溶性硫黄 「OT−20」(アクゾ社製)
j)加硫促進剤
(A)「CBS」(三新化学社製)
(B)N,N−ジシクロヘキシルベンゾチアゾール−2−スルフェンアミド 「ノクセラーDZ」(大内新興化学社製)
k)ホウ素含有有機酸コバルト 「マノボンドC680C」、(OMG社製)
l)レゾルシン−アルキルフェノール−ホルマリン樹脂 「スミカノール620」、(住友化学社製)
m)ヘキサメトキシメチルメラミン 「サイレッツ963L」、(三井サイテック)
n)追加ゴム 高シスポリブタジエンゴム 「BR150L」、(宇部興産社製)
【0047】
(評価)
評価は、各ゴム組成物を所定の金型を使用して、150℃で30分間加熱、加硫して得られたゴムについて行った。
【0048】
(加硫ゴムの破断時の伸び)
JIS−K 6251に準拠し、JIS3号ダンベル使用して、評価サンプルを作成し、その破断時の伸びを測定した。評価は実施例1〜4については比較例1を100として指数評価を行い、実施例5については比較例2を100として指数評価を行い、実施例6については比較例3を100として指数評価を行い、数値が高いほど、ゴム組成物製造時のゴム劣化が防止され、ゴム物性に優れることを意味する。
【0049】
(耐引裂性能)
JIS K6252に準拠して、評価サンプルを作成し、その耐引裂性能を評価した。評価は実施例1〜4については比較例1を100として指数評価を行い、実施例5については比較例2を100として指数評価を行い、実施例6については比較例3を100として指数評価を行い、数値が高いほど、耐引裂性能に優れることを意味する。
【0050】
実施例1
0.5質量%に調整した希薄ラテックス水溶液にカーボンブラック60質量部を添加し(ラテックス溶液の固形分量(ゴム量)が、カーボンブラックとの質量比で1質量部)、これにPRIMIX社製ロボミックスを使用してカーボンブラックを分散させることにより(該ロボミックスの条件:9000rpm、30分)、天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック含有スラリー溶液を製造した(工程(I))。
【0051】
次に、工程(I)で製造された天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラック含有スラリー溶液に、残りの天然ゴムラテックス溶液(固形分(ゴム)濃度25質量%となるように水を添加して調整されたもの)を、工程(I)で使用した天然ゴムラテックス溶液と合わせて、固形分(ゴム)量で100質量部となるように添加し、次いで老化防止剤として「6PPD」を1質量部添加した後、SANYO社製家庭用ミキサーSM−L56型を使用して混合し(ミキサー条件11300rpm、30分)、天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックおよび老化防止剤含有天然ゴムラテックス溶液を製造した(工程(II))。工程(II)での混合温度を表1に示す。
【0052】
工程(II)で製造された天然ゴムラテックス粒子が付着したカーボンブラックおよび老化防止剤含有天然ゴムラテックス溶液を90℃に調整した後、凝固剤としてギ酸10質量%水溶液をpH4に成るまで添加し、凝固物をスクイザー式1軸押出機(スエヒロEPM社製スクリュープレスV−02型)で脱水後(脱水温度180℃)、次いで同じスクイザー式1軸押出機を使用して水分率1.5%以下まで乾燥・可塑化することにより(乾燥・可塑化温度200℃)、天然ゴムウエットマスターバッチを製造した(工程(III))。
【0053】
得られた天然ゴムウエットマスターバッチに対し、B型バンバリーミキサー(神戸製鋼社製)を使用し、表1に記載の各種添加剤を配合してゴム組成物とし、その加硫ゴムの物性を測定した。結果を表1に示す。
【0054】
実施例2〜4
工程(II)において、添加する老化防止剤の種類または混合温度を変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により天然ゴムウエットマスターバッチ、ゴム組成物および加硫ゴムを製造した。加硫ゴムの物性を表1に示す。
【0055】
実施例5,6
使用するカーボンブラックを変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により天然ゴムウエットマスターバッチ、ゴム組成物および加硫ゴムを製造した。加硫ゴムの物性を表1に示す。
【0056】
比較例1
工程(II)において、老化防止剤を添加しないこと以外は、実施例1と同様の方法により天然ゴムウエットマスターバッチ、ゴム組成物および加硫ゴムを製造した。加硫ゴムの物性を表1に示す。
【0057】
比較例2,3
工程(II)において、老化防止剤を添加せず、かつカーボンブラックを変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により天然ゴムウエットマスターバッチ、ゴム組成物および加硫ゴムを製造した。加硫ゴムの物性を表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
表1の結果から、いずれのカーボンブラックを使用した場合でも、工程(II)においてスラリー溶液と、残りのゴムラテックス溶液と、老化防止剤とを混合することにより、加硫ゴムの破断時伸びおよび耐引裂性能が向上することがわかる。