特許第6030425号(P6030425)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6030425パラメータ測定装置、パラメータ測定方法、眼鏡レンズ設計方法および眼鏡レンズ製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6030425
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】パラメータ測定装置、パラメータ測定方法、眼鏡レンズ設計方法および眼鏡レンズ製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02C 13/00 20060101AFI20161114BHJP
   G02C 7/06 20060101ALI20161114BHJP
【FI】
   G02C13/00
   G02C7/06
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-266381(P2012-266381)
(22)【出願日】2012年12月5日
(65)【公開番号】特開2014-112153(P2014-112153A)
(43)【公開日】2014年6月19日
【審査請求日】2015年10月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】300035870
【氏名又は名称】株式会社ニコン・エシロール
(74)【代理人】
【識別番号】100084412
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 冬紀
(74)【代理人】
【識別番号】100078189
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆男
(72)【発明者】
【氏名】吉田 好徳
【審査官】 植野 孝郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−93636(JP,A)
【文献】 特開2001−145613(JP,A)
【文献】 特開平11−305173(JP,A)
【文献】 特開2010−237402(JP,A)
【文献】 特開2011−209530(JP,A)
【文献】 特開2000−20703(JP,A)
【文献】 特表2002−511956(JP,A)
【文献】 特開平8−47481(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 1/00−13/00
A61B 3/00− 3/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
近方視状態である眼鏡装用者を撮像する近方視撮像手段と、
前記近方視撮像手段により撮像された近方視画像に基づいて、近方視状態での眼の位置に関連する近方視パラメータを計測する近方視パラメータ計測手段と、
前記眼鏡装用者の眼鏡処方値を入力する入力手段と、
前記入力手段により入力された眼鏡処方値に応じて、前記近方視パラメータ計測手段により計測された近方視パラメータを補正する補正手段と、
を備え
前記近方視パラメータは、近方視状態での瞳孔間距離を含み、
前記補正手段は、前記眼鏡処方値から処方された眼鏡レンズの横方向の度数を算出し、前記横方向の度数に応じて、前記近方視パラメータ計測手段により計測された近方視状態での瞳孔間距離を補正するパラメータ測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載のパラメータ測定装置において、
遠方視状態である前記眼鏡装用者を撮像する遠方視撮像手段と、
前記遠方視撮像手段により撮像された遠方視画像に基づいて、遠方視状態での眼の位置に関連する遠方視パラメータを計測する遠方視パラメータ計測手段と、
をさらに備え、
前記補正手段は、前記入力手段により入力された眼鏡処方値と、前記遠方視パラメータ計測手段により計測された遠方視パラメータとに応じて、前記近方視パラメータ計測手段により計測された近方視パラメータを補正するパラメータ測定装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のパラメータ測定装置において、
前記近方視撮像手段により撮像された近方視画像に基づいて、近方視状態における前記眼鏡装用者から前記眼鏡装用者の注視点までの距離である近方作業距離を計測する距離計測手段をさらに備え、
前記補正手段は、前記入力手段により入力された眼鏡処方値と、前記距離計測手段により計測された近方作業距離とに応じて、前記近方視パラメータ計測手段により計測された近方視パラメータを補正するパラメータ測定装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のパラメータ測定装置において、
前記近方視パラメータは、片眼瞳孔間距離、インセット量、および瞳孔の高さの少なくとも1つをさらに含むパラメータ測定装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のパラメータ測定装置において、
前記眼鏡処方値は、球面度数、乱視度数、および乱視軸度の少なくとも1つであるパラメータ測定装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のパラメータ測定装置において、
前記眼鏡装用者は、前記近方視撮像手段により撮像される際、度数が入っていない眼鏡を装用した状態であるパラメータ測定装置。
【請求項7】
近方視状態である眼鏡装用者を撮像手段により撮像する近方視画像撮像工程と、
前記近方視画像撮像工程により撮像された近方視画像に基づいて、近方視状態での眼の位置に関連する近方視パラメータを計測する近方視パラメータ計測工程と、
前記眼鏡装用者の眼鏡処方値に応じて、前記近方視パラメータ計測工程により計測された近方視パラメータを補正する補正工程と、
を有し、
前記近方視パラメータは、近方視状態での瞳孔間距離を含み、
前記補正工程は、前記眼鏡処方値から処方された眼鏡レンズの横方向の度数を算出し、前記横方向の度数に応じて、前記近方視パラメータ計測工程により計測された近方視状態での瞳孔間距離を補正するパラメータ測定方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のパラメータ測定装置により測定された近方視パラメータを用いて眼鏡レンズを設計する眼鏡レンズ設計方法。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のパラメータ測定装置により測定された近方視パラメータを用いて設計された眼鏡レンズを製造する眼鏡レンズ製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラメータ測定装置、パラメータ測定方法、眼鏡レンズ設計方法、眼鏡レンズ製造方法および眼鏡レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
レンズの上方に位置し遠景に対応する屈折力を有する領域である遠用部と、レンズの下方に位置し近景に対応する屈折力を有する領域である近用部とを備える累進屈折力レンズが知られている。
【0003】
眼鏡装用者に適した累進屈折力レンズを設計するために、例えば、遠方視状態での瞳孔間距離、近方視状態での瞳孔間距離、角膜頂点距離、前傾角、そり角などのパラメータが用いられている。これらのパラメータを測定する装置としては、例えば、眼鏡装用者を撮像した画像を用いて測定する測定装置が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−93636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
眼鏡店において、例えば、顧客が新しい眼鏡を購入する際には、顧客が選択した新しい眼鏡フレームを顧客が装用して、上記パラメータの測定を行う。この場合、上記選択した眼鏡フレームには、度数が入っていないダミーレンズが装着された状態である。しかしながら、顧客が実際に眼鏡を使用する際には、上記選択した眼鏡フレームに顧客の眼鏡処方値に応じた度数の入った眼鏡レンズが装着される。そのため、従来技術の測定装置において、近方視状態での瞳孔間距離など、近方視状態における眼の位置に関連するパラメータに関しては、眼鏡レンズのプリズム作用によって、測定値と実際の眼鏡使用時における値とが異なってしまうという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)請求項1に記載の発明によるパラメータ測定装置は、近方視状態である眼鏡装用者を撮像する近方視撮像手段と、近方視撮像手段により撮像された近方視画像に基づいて、近方視状態での眼の位置に関連する近方視パラメータを計測する近方視パラメータ計測手段と、眼鏡装用者の眼鏡処方値を入力する入力手段と、入力手段により入力された眼鏡処方値に応じて、近方視パラメータ計測手段により計測された近方視パラメータを補正する補正手段と、を備え、近方視パラメータは、近方視状態での瞳孔間距離を含み、補正手段は、眼鏡処方値から処方された眼鏡レンズの横方向の度数を算出し、横方向の度数に応じて、近方視パラメータ計測手段により計測された近方視状態での瞳孔間距離を補正する
(2)請求項7に記載の発明によるパラメータ測定方法は、近方視状態である眼鏡装用者を撮像手段により撮像する近方視画像撮像工程と、近方視画像撮像工程により撮像された近方視画像に基づいて、近方視状態での眼の位置に関連する近方視パラメータを計測する近方視パラメータ計測工程と、眼鏡装用者の眼鏡処方値に応じて、近方視パラメータ計測工程により計測された近方視パラメータを補正する補正工程と、を有し、近方視パラメータは、近方視状態での瞳孔間距離を含み、補正工程は、眼鏡処方値から処方された眼鏡レンズの横方向の度数を算出し、横方向の度数に応じて、近方視パラメータ計測工程により計測された近方視状態での瞳孔間距離を補正する
(3)請求項8に記載の発明による眼鏡レンズ設計方法は、請求項1〜6のいずれか一項に記載のパラメータ測定装置により測定された近方視パラメータを用いて眼鏡レンズを設計する。
(4)請求項9に記載の発明による眼鏡レンズ製造方法は、請求項1〜6のいずれか一項
に記載のパラメータ測定装置により測定された近方視パラメータを用いて設計された眼鏡レンズを製造する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、実際に使用する眼鏡を眼鏡装用者が装用した状態における、近方視状態での眼の位置に関連するパラメータを求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態に係るパラメータ測定装置の構成を説明する図である。
図2】遠方視状態の眼鏡装用者を説明する図である。
図3】近方視状態の眼鏡装用者を説明する図である。
図4】フィッティングパラメータを説明する図である。
図5】フィッティングパラメータを説明する図である。
図6】眼鏡レンズの度数に応じたインセット量の変化を説明する図である。
図7】眼鏡装用者が近くの点を注視する場合の光線の関係を模式的に説明する図である。
図8】眼鏡を提供する一連の手順を説明するフローチャートである。
図9】フィッティング高さを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の一実施の形態について説明する。図1は、本発明の一実施の形態によるパラメータ測定装置1の構成を説明する図である。このパラメータ測定装置1は、眼鏡装用者が眼鏡を装用した状態において各種パラメータ(以下、フィッティングパラメータと呼ぶ)を測定する装置である。図1に示すように、パラメータ測定装置1は、本体装置10と、本体コンピュータ20と、タブレット型コンピュータ30と、タッチパネル式ディスプレイ40と、を有する。
【0010】
本体装置10は、縦長の筐体11を有しており、筐体11の表面には、ミラー12が設けられている。本体装置10の筐体11の内部には、眼鏡装用者が遠方視した状態を撮像するための遠方視用カメラ13や、眼鏡装用者を照明するための光源(不図示)などが設けられている。遠方視用カメラ13は、上側に配置された上側カメラ13Tおよび下側に配置された下側カメラ13Dから構成される。本体装置10は、本体コンピュータ20と接続されており、遠方視用カメラ13により撮像された画像を本体コンピュータ20に出力する。
【0011】
タブレット型コンピュータ30は、眼鏡装用者が手で持つことが可能な携帯型のコンピュータである。タブレット型コンピュータ30には、眼鏡装用者が近方視した状態を撮影するための近方視用カメラ31や、タッチパネル式ディスプレイ32などが設けられている。タブレット型コンピュータ30は、近方視用カメラ31により撮像された画像を、例えば無線通信によって、本体コンピュータ20に送信する。
【0012】
本体コンピュータ20には、演算処理を行うCPU等の演算部や、各種データを記憶する記憶部などが設けられている。記憶部には、フィッティングパラメータの測定処理を実行するためのプログラムが記憶されており、演算部は、記憶部に記憶されたプログラムを実行することにより、フィッティングパラメータの測定処理を行う。
【0013】
タッチパネル式ディスプレイ40は、本体コンピュータ20と接続されており、本体コンピュータ20から出力される各種情報(例えば、遠方視用カメラ13および近方視用カメラ31による撮像画像や、フィッティングパラメータの測定結果など)を表示する。また、測定者は、タッチパネル式ディスプレイ40に対するタッチ操作によって、本体コンピュータ20を操作したり、各種情報を入力したりすることができる。
【0014】
図2は、眼鏡装用者2が遠方視した状態を撮影する様子を説明する図である。図2に示すように、眼鏡装用者2が遠方視した状態を撮影する際には、眼鏡装用者2の正面に撮像装置10を配置する。このとき、上側カメラ13Tが眼鏡装用者2の眼鏡近傍を正面から撮像し、下側カメラ13Dが眼鏡装用者2の眼鏡近傍を斜め下側から撮像するように、撮像装置10を配置する。眼鏡装用者2は、例えば、撮像装置10のミラー12に写る自身の眼鏡のブリッジの中心をまっすぐ見るようにすることで、遠方視状態となる。この状態で、上側カメラ13Tおよび下側カメラ13Dにより、眼鏡装用者2を撮像する。なお、実際には、この状態であっても、多少眼が内側に寄った状態となるので、後述するフィッティングパラメータの計測処理において、遠方視用カメラ13による撮像画像に基づいて得られた瞳孔間距離(PD)を、眼鏡装用者とミラー12との距離を用いて補正する。
【0015】
図3は、眼鏡装用者2が近方視した状態を撮影する様子を説明する図である。図3に示すように、眼鏡装用者2の近方視した状態を撮影する際には、近方視用カメラ31により眼鏡装用者2の眼鏡近傍が撮像できるよう、眼鏡装用者2はタブレット型コンピュータ30を手に持つ。このとき、眼鏡装用者2は、例えば本を読むときや携帯端末を操作するときなどのように、自然な状態でタブレット型コンピュータ30を手に持って見るようにすることで、近方視状態となる。この状態で、近方視用カメラ31により眼鏡装用者2を撮像する。
【0016】
本体コンピュータ20は、遠方視用カメラ13および近方視用カメラ31により撮像された画像に基づいて、眼鏡装用者のフィッティングパラメータを計測する。まず、図4を用いて、遠方視用カメラ13による撮像画像に基づいて計測するフィッティングパラメータについて説明する。なお、図4(a)は、眼鏡装用者を正面から見た図であり、図4(b)は眼鏡装用者を側方から見た図であり、図4(c)は、眼鏡装用者を上から見た図である。本体コンピュータ20は、上側カメラ13Tによる撮像画像に基づいて、遠方視状態での片眼瞳孔間距離(右眼遠方PDおよび左眼遠方PD)を計測する。図4(a)に示すように、右眼遠方PD(RFPD)および左眼遠方PD(LFPD)は、遠方視状態における右眼または左眼の瞳孔中心から眼鏡3のブリッジの中心までの距離である。また、本体コンピュータ20は、上側カメラ13Tおよび下側カメラ13Dによる撮像画像に基づいて、角膜頂点距離VD、前傾角TI、およびそり角WRを計測する。角膜頂点距離VDは、図4(b)に示すように、眼鏡装用者の角膜の頂点から眼鏡レンズ内面までの距離である。前傾角TIは、図4(b)に示すように、鉛直方向に対する眼鏡レンズ面の角度である。そり角WRは、図4(c)に示すように、眼鏡3のブリッジに沿って水平な方向に対する眼鏡レンズ面の角度である。なお、本実施形態のパラメータ測定装置1では、上側カメラ13Tおよび下側カメラ13Dによって異なる2方向から眼鏡装用者を撮像することにより、角膜頂点距離VD、前傾角TI、およびそり角WRの計測を可能としている。
【0017】
次に、図5を用いて、近方視用カメラ31による撮像画像に基づいて計測するフィッティングパラメータについて説明する。なお、図5(a)は、眼鏡装用者を正面から見た図であり、図5(b)は眼鏡装用者を側方から見た図である。本体コンピュータ20は、近方視用カメラ31による撮像画像に基づいて、近方視状態での片眼瞳孔間距離(右眼近方PDおよび左眼近方PD)および近方作業距離を計測する。図5(a)に示すように、右眼近方PD(RNPD)および左眼近方PD(LNPD)は、近方視状態における右眼または左眼の瞳孔中心から眼鏡3のブリッジの中心までの距離である。図5(b)に示すように、近方作業距離NDは、眼鏡装用者の眼から注視点(ここではタブレット型コンピュータ30)までの距離である。
【0018】
このようにして、パラメータ測定装置1では、眼鏡装用者の遠方視状態および近方視状態におけるフィッティングパラメータをそれぞれ実測する。なお、遠方視用カメラ13および近方視用カメラ31による撮像画像に基づいて上述したフィッティングパラメータを求める方法については、種々の方法を用いればよい。例えば、長さが既知である測定用治具を眼鏡フレームに装着した状態で遠方視状態および近方視状態の撮影を行う方法を用いるようにしてもよい。この方法では、まず、各フィッティングパラメータについて、撮像画像上での値を求める。そして、各フィッティングパラメータの撮像画像上での値を、撮像画像上における測定用治具の長さを基準として、実際の値に変換する。また、近方作業距離については、眼鏡フレームに装着した長さが既知である測定用治具が近方視用カメラ31による撮像画像上に写った大きさに基づいて算出する。
【0019】
ところで、眼鏡店において、例えば、顧客が新しく眼鏡を購入する際には、顧客が新しい眼鏡用の眼鏡フレームを選択すると、この眼鏡フレームを顧客が装用した状態で、上述したフィッティングパラメータを測定する。この際、上記選択した眼鏡フレームには、度数の入っていないダミーレンズが装着された状態で、フィッティングパラメータの測定が行われる。しかしながら、顧客が実際に眼鏡を使用する際には、上記選択した眼鏡フレームに顧客の眼鏡処方値に応じた度数の入った眼鏡レンズが装着される。そのため、右眼近方PDおよび左眼近方PDについては、眼鏡レンズのプリズム作用によって、測定時と実際の使用時における値が変わってしまう。
【0020】
このことについて、図6を用いて説明する。なお、眼鏡レンズの度数が変わっても、右眼遠方PDおよび左眼遠方PDは変化しない。そのため、眼鏡レンズの度数が変わった場合において、右眼近方PDの変化量と、右眼のインセット量(右眼遠方PDから右眼近方PDを引いた量)とは同じであり、左眼近方PDの変化量と、左眼のインセット量(左眼遠方PDから左眼近方PDを引いた量)とは同じである。したがって、以下の説明では、図6を用いて、眼鏡レンズの度数に応じて、インセット量が変化する様子について説明する。なお、図6(a)は、眼鏡レンズGLがプラス度数である(凸レンズである)場合を示し、図6(b)は、眼鏡レンズGLの度数がゼロである(プラノレンズである)場合を示し、図6(c)は、眼鏡レンズGLがマイナス度数(凹レンズである)場合を示す。図6(a)〜(c)において、眼鏡レンズGLの度数以外の条件(例えば、右眼遠方PDおよび左眼遠方PD、近方作業距離など)は同じであるとする。
【0021】
図6(a)および図6(b)を比較してわかるように、眼鏡レンズGLがプラス度数である場合、物体からの光線L1は、眼鏡レンズGLのプリズム作用により屈折されることで、眼鏡レンズGL上において、眼鏡レンズGLの度数がゼロである場合の物体からの光線L2が透過する点よりも、内側(鼻側)の点を透過する。このため、眼鏡レンズGLがプラス度数である場合、度数がゼロである場合に比べて、インセット量が大きくなる。
【0022】
また、図6(b)および図6(c)を比較してわかるように、眼鏡レンズGLがマイナス度数である場合、物体からの光線L3は、眼鏡レンズGLのプリズム作用により屈折されることで、眼鏡レンズGL上において、眼鏡レンズGLの度数がゼロである場合の物体からの光線L2が透過する点よりも、外側(耳側)の点を透過する。このため、眼鏡レンズGLがマイナス度数である場合、度数がゼロである場合に比べて、インセット量が小さくなる。
【0023】
以上のように、眼鏡装用者が、度数の入っていないダミーレンズが装着された眼鏡を装用した場合と、度数の入った眼鏡レンズが装着された眼鏡を装用した場合とでは、近方PDおよびインセット量が異なってしまう。そこで、本実施形態のパラメータ測定装置1では、近方視用カメラ31により撮像された画像に基づいて計測した右眼近方PDおよび左眼近方PDに対して、実際に使用する眼鏡レンズの度数を考慮した補正を行うようになっている。
【0024】
図7は、眼鏡装用者が近くの点Aを注視する場合の光線の関係を模式的に説明する図である。なお、ここででは右眼について説明するが、左眼についても同様であるため説明を省略する。図7の光線L11は、度数が入っていないダミーレンズを眼鏡レンズGLとして使用した場合に、点Aから発して右眼Eyの回旋中心Oに至る光線を示す。図7の光線L12は、度数R(単位:ディオプトリ)の眼鏡レンズを眼鏡レンズGLとして使用した場合に、点Aから発して右眼Eyの回旋中心Oに至る光線を示す。光線L12は、眼鏡レンズGLのプリズム作用によって屈折されて、右眼Eyに入射している。なお、図7では、度数Rがマイナス度数である場合の光線L12を示しており、光線L12が眼鏡レンズGL上を透過する点は、光線L11が眼鏡レンズ上を透過する点よりも外側(耳側)に寄っている。
【0025】
度数Rの眼鏡レンズ使用時の右眼のインセット量をI’(単位:mm)、ダミーレンズ使用時の右眼のインセット量をI(単位:mm)、右眼のインセット量の補正量をX(単位:mm)とすると、これらの関係は、次式(1)によって表される。なお、ダミーレンズ使用時の右眼のインセット量Iについては、遠方視用カメラ13による撮像画像に基づいて計測された右眼遠方PDと、近方視用カメラ31による撮像画像に基づいて計測された右眼近方PDとの差分を算出することによって求める。また、遠方視用カメラ13による撮像画像に基づいて計測した両眼の遠方PDと、近方視用カメラ31による撮像画像に基づいて計測した両眼の近方PDとの差分を算出し、この差分に1/2を乗算することにより、インセット量Iを求めるようにしてもよい。また、補正量Xの符号は、度数Rがプラス度数の場合には負となり、度数Rがマイナス度数の場合には正となる。
I’=I−X…(1)
【0026】
ここで、近方作業距離をND(単位:mm)、角膜頂点距離をVD(単位:mm)、右眼の眼球Eyの回旋中心Oから角膜頂点までの距離をr(単位:mm)とし、近方作業距離NDにおける光線L11と光線L12との水平方向のずれ量をY(単位:mm)とすると、補正量Xは、次式(2)によって算出される。なお、近方作業距離NDおよび角膜頂点距離VDについては、遠方視用カメラ13および近方視用カメラ31による撮像画像に基づいて計測した値を用いる。角膜頂点距離VDについては、予め設定された値(例えば12mm)を用いるようにしてもよい。また、右眼の眼球Eyの回旋中心Oから角膜頂点までの距離rについては、予め設定された値(例えば13mm)を用いる。
X=Y(VD+r)/(ND+r)…(2)
【0027】
また、度数Rの眼鏡レンズGLにおいて光線L12が透過する透過点Bでのプリズム屈折力をP(単位:プリズムディオトリ)とすると、ずれ量Yは、近似的に次式(3)により算出される。
Y=P(ND−VD)/100…(3)
【0028】
また、度数Rの眼鏡レンズGLにおいて光線L12の透過点Bでのプリズム屈折力Pは、プレンティスの公式に基づいて、近似的に次式(4)により算出される。なお、次式(4)では、度数Rの眼鏡レンズGL使用時のインセット量I’が、眼鏡レンズGLの光学中心点から光線L12の透過点Bまでの距離と略同一であると仮定して用いている。
P=RI’/10…(4)
【0029】
以上の式(1)〜(4)を解くことにより、補正量Xを算出することができる。そして、近方視用カメラ31による撮像画像に基づいて計測した右眼近方PD(RNPD)に補正量Xを加算することにより、度数Rの眼鏡レンズ使用時における右眼近方PDを求めることができる。また、左眼近方PDについても、右眼近方PDと同様の計算を行うことにより、度数Rの眼鏡レンズ使用時における左眼近方PDを求めることができる。
【0030】
このようにして、パラメータ測定装置1では、度数の入っていないダミーレンズを用いて計測した右眼近方PDおよび左眼近方PDに対して、実際に使用される眼鏡レンズの度数に応じた補正を行うことで、実際に使用される眼鏡レンズにおける右眼近方PDおよび左眼近方PDを求めることができる。
【0031】
次に、本実施形態において、顧客に眼鏡を提供する一連の手順について、図8に示すフローチャートを用いて説明する。なお、図8の左側には眼鏡店において行う手順を示し、図8の右側にはレンズメーカにおいて行う手順を示す。ステップS10において、顧客は、眼鏡店において、購入する眼鏡フレームを決定する。
【0032】
ステップS11において、ステップS10で決定した眼鏡フレームに装着する眼鏡レンズの処方値(例えば、球面度数(S度数)、乱視度数(C度数)、乱視軸度、加入度など)を決定する。眼鏡レンズの処方値は、顧客に対して、眼科医により発行された処方箋や、眼鏡店で行われた視力チェックなどに基づいて決定される。眼鏡店の店員は、この眼鏡レンズの処方値を、タッチパネル式ディスプレイ40を介して、パラメータ測定装置1に入力する。
【0033】
ステップS12において、ステップS10で決定した眼鏡フレームに度数の入っていないダミーレンズが装着された眼鏡を顧客が装用した状態で、パラメータ測定装置1により、フィッティングパラメータの測定を行う。
【0034】
具体的には、上述したように、パラメータ測定装置1は、遠方視用カメラ13によって遠方視状態の顧客(眼鏡装用者)を撮像する。また、パラメータ測定装置1は、近方視用カメラ31によって近方視状態の顧客(眼鏡装用者)を撮像する。そして、パラメータ測定装置1の本体コンピュータ20は、遠方視用カメラ13および近方視用カメラ31による撮像画像に基づいて、フィッティングパラメータを計測する。
【0035】
また、本体コンピュータ20は、ステップS11において入力された眼鏡レンズの処方値(球面度数S、乱視度数Cおよび乱視軸度θ)から、式(5)により、眼鏡レンズの横方向の度数Rを算出する。すなわち、球面度数Sに乱視度数Cの横方向の成分を加算することで、眼鏡レンズの横方向の度数Rを求める。なお、球面度数Sおよび乱視度数Cの単位はディオプトリとする。
R=S+C(sinθ) …(5)
【0036】
そして、本体コンピュータ20は、上記式(5)により算出した度数Rと、上記撮像画像に基づいて計測した右眼遠方PD、左眼遠方PD、近方作業距離ND、および角膜頂点距離VDとを用いて、上記式(1)〜(4)により、右眼近方PDおよび左眼近方PDの補正量Xをそれぞれ算出する。本体コンピュータ20は、上記撮像画像に基づいて計測した右眼近方PDおよび左眼近方PDをこの補正量Xを用いて補正し、補正後の値を測定値として出力する。なお、以上の計算に使用する眼鏡レンズの処方値としては、遠景用の処方を使用することを基本とするが、加入度数の一部として、ある程度遠景用の球面度数(S度数)をプラスにずらした値を使用するようにしてもよい。例えば、加入度数の半分を遠景用のS度数に加算した値を使用するようにしてもよい。
【0037】
ステップS13において、眼鏡店の店員は、ステップS10で決定した眼鏡フレームの情報、ステップS11で決定した眼鏡レンズの処方値、およびステップS12でパラメータ測定装置1により測定したフィッティングパラメータなどを含む眼鏡レンズの発注情報を、眼鏡店に設置された発注用コンピュータ(不図示)に入力する。発注用コンピュータは、入力された発注情報を、インターネットなどのネットワークを介して、レンズメーカに設置された受注用コンピュータ(不図示)に送信する。
【0038】
ステップS20において、レンズメーカでは、受注用コンピュータが、眼鏡店の発注用コンピュータからの眼鏡レンズの発注情報を受信する。ステップS21において、受注用コンピュータは、受信した眼鏡レンズの発注情報に基づいて眼鏡レンズの設計を行う。すなわち、眼鏡フレームの情報や眼鏡レンズの処方値、パラメータ測定装置1により測定されたフィッティングパラメータなどの情報に基づいて、眼鏡レンズの設計を行う。
【0039】
例えば、累進屈折力レンズを設計する際、レンズメーカの設計者は、パラメータ測定装置1により測定された右眼遠方PDおよび左眼遠方PDに基づいて、累進屈折力レンズにおける遠用のアイポイントを設定する。また、レンズメーカの設計者は、パラメータ測定装置1により測定された右眼近方PDおよび左眼近方PDに基づいて、累進屈折力レンズにおける近用のアイポイントを設定する。
【0040】
上述したように、パラメータ測定装置1から出力される右眼近方PDおよび左眼近方PDは、度数の入っていないダミーレンズを装着した眼鏡を顧客が装用した状態で測定した場合でも、眼鏡レンズの処方値に応じて補正されているため、実際に使用する眼鏡レンズを顧客が装用した状態での右眼近方PDおよび左眼近方PDである。したがって、パラメータ測定装置1から出力された右眼近方PDおよび左眼近方PDを用いて、顧客(眼鏡装用者)に適した眼鏡レンズを設計することができる。
【0041】
ステップS22において、受注用コンピュータは、ステップS21で設計した眼鏡レンズの設計データを、加工機制御装置(不図示)に出力する。加工機制御装置は、この設計データに基づいて、眼鏡レンズ加工機(不図示)に加工指示を送る。この結果、眼鏡レンズ加工機によって、当該設計データに基づく眼鏡レンズが加工され、製造される。そして、眼鏡レンズ加工機によって製造された眼鏡レンズが眼鏡店に出荷される。ステップS14において、眼鏡店では、ステップS22で製造された眼鏡レンズを、ステップS10で決定された眼鏡フレームに枠入れして眼鏡を完成し、顧客に提供する。
【0042】
以上説明した実施の形態によれば、次の作用効果が得られる。
パラメータ測定装置1は、度数の入っていない眼鏡を装用した状態で近方視状態である眼鏡装用者を撮像する近方視用カメラ31と、近方視用カメラにより撮像された画像に基づいて、右眼近方PDおよび左眼近方PDを計測する本体コンピュータ20と、眼鏡装用者の眼鏡処方値を入力するタッチパネル式ディスプレイ40と、タッチパネル式ディスプレイ40により入力された眼鏡処方値(球面度数、乱視度数および乱視軸度)に応じて上記計測した右眼近方PDおよび左眼近方PDを補正する本体コンピュータ20と、を備える。これにより、パラメータ測定装置1は、実際に使用する眼鏡を眼鏡装用者が装用した状態における、右眼近方PDおよび左眼近方PDを求めることができる。
【0043】
(変形例1)
パラメータ測定装置1は、フィッティングパラメータとして、さらに、遠方視状態および近方視状態における、眼鏡レンズに対する瞳孔中心の高さ(以下、フィッティング高さと呼ぶ)を測定するようにしてもよい。フィッティング高さ(FH、NH)は、図9に示すように、例えば、瞳孔中心から眼鏡レンズGLの下辺までの距離である。
【0044】
また、図9(b)に示すように近方視状態の場合には、図9(a)に示す遠方視状態よりも瞳孔が下側に寄るため、近方視状態のフィッティング高さNHは、遠方視状態のフィッティング高さFHよりも低くなる。また、近方視状態のフィッティング高さNHは、眼鏡レンズのプリズム作用により、眼鏡レンズの度数によって異なる。そのため、上述した実施の形態における近方視状態の片眼瞳孔間距離の補正と同様に、近方視状態のフィッティング高さについても、眼鏡レンズの処方値に応じて補正するようにしてもよい。
【0045】
この場合、上述した式(1)〜(4)において、インセット量を眼下げ量(遠方視状態と近方視状態とのフィッティング高さの差分)に置き換え、度数Rについては、眼鏡レンズの縦方向の度数Rを代入すればよい。眼鏡レンズの縦方向の度数Rは、眼鏡レンズの処方値(球面度数S、乱視度数Cおよび乱視軸度θ)を用いて、式(6)により算出される。すなわち、球面度数Sに乱視度数Cの縦方向の成分を加算することで、眼鏡レンズの縦方向の度数Rを求める。
R=S+C(cosθ) …(6)
【0046】
また、パラメータ測定装置1は、フィッティングパラメータとして、インセット量や、遠方視状態および近方視状態における両眼の瞳孔間距離(右眼の瞳孔と左目の瞳孔との間の距離)を測定するようにしてもよい。この場合、パラメータ測定装置1は、インセット量や近方視状態における両眼の瞳孔間距離について、上述した実施の形態と同様に、眼鏡レンズの処方値に応じて補正する。
【0047】
このように、本発明は、眼鏡装用者の遠方視状態および近方視状態における眼の位置に関連するパラメータ(例えば、両眼の瞳孔間距離、片眼瞳孔間距離、インセット量およびフィッティング高さなど)を測定する際に適用することができる。
【0048】
(変形例2)
上述した実施の形態では、パラメータ測定装置1において、近方視用カメラ31による撮像画像に基づいて計測した右眼近方PDおよび左眼近方PDを、眼鏡レンズの処方値に応じて補正する例について説明した。しかしながら、パラメータ測定装置1は、近方視用カメラ31による撮像画像に基づいて計測した右眼近方PDおよび左眼近方PDを測定値として出力するようにしてもよい。この場合、眼鏡店の発注コンピュータからレンズメーカの受注コンピュータに送信される眼鏡レンズの発注情報には、度数のないダミーレンズで測定した右眼近方PDおよび左眼近方PDが含まれる。そこで、レンズメーカ側で眼鏡レンズを設計する際に、上述した式(1)〜(4)などを用いて、眼鏡店から送信された右眼近方PDおよび左眼近方PDを、設計する眼鏡レンズの処方値に応じて補正するようにすればよい。
【0049】
(変形例3)
なお、眼鏡装用者が眼鏡レンズの装着されていない眼鏡フレームを装用した状態でパラメータ測定装置1による測定を行うようにしてもよい。この場合も、上述した実施の形態と同様にして、パラメータ測定装置1は、右眼近方PDおよび左眼近方PDを補正することができる。また、眼鏡装用者が任意の度数が入った眼鏡レンズが装着された眼鏡を装用した状態でパラメータ測定装置1による測定を行うようにしてもよい。この場合、パラメータ測定装置1は、測定時に装用した眼鏡の度数と眼鏡装用者の処方値とに基づいて、右眼近方PDおよび左眼近方PDを補正する。
【0050】
以上の説明はあくまで一例であり、上記の実施形態の構成に何ら限定されるものではない。また、上記実施形態に各変形例の構成を適宜組み合わせてもかまわない。
【符号の説明】
【0051】
1…パラメータ測定装置、13…遠方視用カメラ、20…本体コンピュータ、31…近方視用カメラ、40…タッチパネル式ディスプレイ
図1
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