(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、従来より、香りを放つ液体を生成するために、香りの発生源となる物質、すなわち、香り分子を放出する物質を液体に加えている。しかし、このような液体を食品や飲料に利用すると、香りの発生源となる物質が味に影響を与えてしまう。また、香り分子自体を水に与えようとしても、香り分子が水に不溶性であったり、難溶性の場合は、水自体に香りを与えることができない。なお、香り分子が水溶性の場合は、香りが水から放出されない。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、水または水を主成分とする液体に、香りを放出する物質を与えることなく、当該液体自体に香りを与えることを目的としている。また、不溶性、難溶性または微溶性の物質を含有する液体を生成することも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、香りが付与された香り付与液を生成する香り付与液生成装置であって、気体に香り成分を含ませる香り成分付与部と、前記香り成分付与部からの前記気体と、水または水を主成分とする液体とを混合して、前記気体の微細気泡であって直径が1μm以下のものを、1mL当たり1億個以上含む液体を香り付与液として生成する微細気泡液生成部とを備え、前記香り成分が含む香り分子が、水に不溶性、難溶性または微溶性であ
り、前記微細気泡液生成部が、前記気体を前記液体に加圧溶解させた加圧液を生成する加圧液生成部と、前記加圧液を噴出することにより、前記液体中に前記気体の微細気泡を生成する微細気泡生成ノズルとを備える。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の香り付与液生成装置であって、前記香り成分付与部が、前記
微細気泡液生成部に前記気体を送り込む気体流路に設けられ、前記香り成分を放出する香り物質を収容する香り物質収容部である。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の香り付与液生成装置であって、前記香り物質が柑橘系である。
【0012】
請求項
4に記載の発明は、請求項1ないし
3のいずれかに記載の香り付与液生成装置であって、他の香り成分を前記気体に含ませる他の香り成分付与部をさらに備える。
【0013】
請求項
5に記載の発明は、請求項1ないし
4のいずれかに記載の香り付与液生成装置であって、前記気体が、不活性ガスである。
【0014】
請求項6に記載の発明は、請求項1ないし5のいずれかに記載の香り付与液生成装置であって、前記
加圧液生成部が、前記香り成分付与部からの気体と液体とを混合して噴出する混合ノズルと、前記混合ノズルから噴出された後の混合流体が加圧環境下にて流れるとともに、前記混合流体に前記混合ノズルから噴出された直後の混合流体が衝突する第1流路と、前記第1流路の下方に位置し、前記第1流路から落下した前記混合流体が加圧環境下にて流れる第2流路と
を備え、前記微細気泡液生成部が、対象液を貯留する液貯留部と、前記対象液を、前記液体として前記混合ノズルへと戻すポンプと
をさらに備え、前記微細気泡生成ノズルが、前記第2流路からの前記混合流体から得られる前記加圧液を前記対象液中に噴出することにより、前記対象液中に前記気体の微細気泡を生成し、前記ポンプの稼動により、前記対象液が前記香り付与液となる。
【0015】
請求項
7に記載の発明は、請求項
6に記載の香り付与液生成装置であって、前記
微細気泡液生成部が、前記第2流路からの前記混合流体から、前記混合流体の一部と共に気体を分離する余剰気体分離部と、前記余剰気体分離部からの前記混合流体の前記一部を前記液貯留部へと導く補助流路とをさらに備える。
【0017】
請求項8に記載の発明は、香りが付与された香り付与液を生成する香り付与液生成方法であって、
a)香り成分を気体に含ませる工程と、
b)前記香り成分を含む前記気体と、水または水を主成分とする液体とを混合して前記気体の微細気泡であって直径が1μm以下のものを、1mL当たり1億個以上含む液体を香り付与液として生成する工程とを備え、前記香り成分が含む香り分子が、水に不溶性、難溶性または微溶性であ
り、前記b)工程において、加圧液生成部により、前記気体を前記液体に加圧溶解させた加圧液が生成され、前記加圧液が微細気泡生成ノズルから対象液中に噴出されることにより、前記液体中に前記気体の微細気泡が生成される。
【0018】
請求項
9に記載の発明は、請求項
8に記載の香り付与液生成方法であって、前記香り成分を気体に含ませる工程において、前記気体に香り物質を通過させる。
【0019】
請求項
10に記載の発明は、請求項
9に記載の香り付与液生成方法であって、前記香り物質が柑橘系である。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る香り付与液生成装置および香り付与液生成方法よれば、水または水を主成分とする液体に香りを付与した香り付与液を生成することができる
。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1は、本発明の一の実施の形態に係る香り付与液生成装置1を示す断面図である。香り付与液生成装置1は、
微細気泡液生成部10と、香り成分付与部11とを備える。
微細気泡液生成部10は、気体と液体とを混合して、当該気体の微細気泡であるナノバブルを含む液体を生成する。香り成分付与部11は、
微細気泡液生成部10に送り込まれる気体に香り成分を含ませる。香り成分付与部11では、香りを放つ物質から様々な種類の香り成分が気体に与えられる。香り成分は、香り分子またはこれと同等のものであり、香りを放出する物質、すなわち、保持する香り分子を放出する物質を排除する意味で用いられる。ただし、香り成分は、分子程度の大きさまで小さい集合であれば、個々の分子が全て分離した状態で存在することは前提としない。
【0028】
香り付与液生成装置1では、香り成分付与部11において、香り成分を気体に含ませる工程が実行される。
微細気泡液生成部10において、香り成分を含む気体と液体とが混合されてナノバブルを含む液体を香り付与液として生成する工程が実行される。
【0029】
微細気泡液生成部10は、微細気泡生成ノズル2と、加圧液生成部3と、送出配管41と、補助配管42と、戻し配管43と、ポンプ44と、液貯留部45とを備える。液貯留部45には対象液91が貯留され、香り付与液生成装置1を稼動することにより、対象液91に香りが付与され、対象液91が香り付与液となる。本実施の形態では、処理前の対象液91として水が使用される。水と混合される気体として、窒素ガスが使用される。
【0030】
送出配管41は、加圧液生成部3と微細気泡生成ノズル2とを接続する。加圧液生成部3は、気体を加圧溶解させた加圧液71を生成し、送出配管41を介して微細気泡生成ノズル2に供給する。微細気泡生成ノズル2の噴出口は、液貯留部45内に位置し、送出配管41は、実質的に加圧液生成部3と液貯留部45とを接続する。
【0031】
微細気泡生成ノズル2から加圧液71を対象液91中に噴出することにより、対象液91中に微細気泡が生成する。本実施の形態に係る香り付与液生成装置1では、水に窒素を加圧溶解させた加圧液71を対象液91中に噴出することにより、直径が1μm未満の窒素の微細気泡(いわゆる、ナノバブル)を対象液91中に生成する。
図1では、理解を容易にするために、対象液91等の流体に破線にて平行斜線を付す。
【0032】
補助配管42は、送出配管41と同様に、加圧液生成部3と液貯留部45とを接続する。補助配管42は、加圧液生成部3にて余剰の気体を分離する際に余剰の気体と共に排出される液体を液貯留部45へと導く。戻し配管43にはポンプ44が設けられ、ポンプ44により、戻し配管43を経由して、対象液91が液貯留部45から加圧液生成部3へと戻される。
【0033】
加圧液生成部3は、混合ノズル31と、加圧液生成容器32とを備える。混合ノズル31の気体流入口は香り成分付与部11に接続され、香り成分付与部11は、レギュレータや流量計等を介して外部の窒素ガス供給部8に接続される。混合ノズル31では、ポンプ44により圧送された液体と、香り成分付与部11からの窒素ガスとが、混合ノズル31により混合され、加圧液生成容器32内に向けて噴出される。
【0034】
香り成分付与部11は、香り物質111を収容する香り物質収容部である。この香り物質収容部は、
微細気泡液生成部10の混合ノズル31に気体を送り込む気体流路に設けられる。香り物質は香り成分を気体中に放出する物質であり、例えば、山椒、柚、トリュフ等を挙げることができる。もちろん、香り物質はこれらには限定されない。香り成分付与部11では、香り物質を通過させることにより気体に香りが付与され、混合ノズル31には、香り成分を含む気体が供給される。
【0035】
加圧液生成容器32内は加圧されて大気圧よりも圧力が高い状態(以下、「加圧環境」という。)となっている。混合ノズル31から噴出された液体と気体とが混合された流体(以下、「混合流体72」という。)は、加圧液生成容器32内を加圧環境下にて流れる間に、気体が液体に加圧溶解した加圧液71となる。
【0036】
図2は、混合ノズル31を拡大して示す断面図である。混合ノズル31は、上述のポンプ44により圧送された液体が流入する液体流入口311と、気体が流入する気体流入口319と、混合流体72を噴出する混合流体噴出口312とを備える。混合流体72は、液体流入口311から流入した液体および気体流入口319から流入した気体が混合されることにより生成される。液体流入口311、気体流入口319および混合流体噴出口312はそれぞれ略円形である。液体流入口311から混合流体噴出口312に向かうノズル流路310の流路断面、および、気体流入口319からノズル流路310に向かう気体流路3191の流路断面も略円形である。流路断面とは、ノズル流路310や気体流路3191等の流路の中心軸に垂直な断面、すなわち、流路を流れる流体の流れに垂直な断面を意味する。また、以下の説明では、流路断面の面積を「流路面積」という。ノズル流路310は、流路面積が流路の中間部で小さくなるベンチュリ管状である。
【0037】
混合ノズル31は、液体流入口311から混合流体噴出口312に向かって順に連続して配置される導入部313と、第1テーパ部314と、喉部315と、気体混合部316と、第2テーパ部317と、導出部318とを備える。混合ノズル31は、また、内部に気体流路3191が設けられた気体供給部3192を備える。
【0038】
導入部313では、流路面積は、ノズル流路310の中心軸J1方向の各位置においてほぼ一定である。第1テーパ部314では、液体の流れる方向に向かって(すなわち、下流側に向かって)流路面積が漸次減少する。喉部315では、流路面積はほぼ一定である。喉部315の流路面積は、ノズル流路310において最も小さい。なお、ノズル流路310では、喉部315において流路面積が僅かに変化する場合であっても、流路面積がおよそ最も小さい部分全体が喉部315と捉えられる。気体混合部316では、流路面積はほぼ一定であり、喉部315の流路面積よりも少し大きい。第2テーパ部317では、下流側に向かって流路面積が漸次増大する。導出部318では、流路面積はほぼ一定である。気体流路3191の流路面積もほぼ一定であり、気体流路3191は、ノズル流路310の気体混合部316に接続される。
【0039】
混合ノズル31では、液体流入口311からノズル流路310に流入した液体が、喉部315で加速されて静圧が低下し、喉部315および気体混合部316において、ノズル流路310内の圧力が大気圧よりも低くなる。これにより、気体流入口319から気体が吸引され、気体流路3191を通過して気体混合部316に流入し、液体と混合されて混合流体72が生成される。混合流体72は、第2テーパ部317および導出部318において減速されて静圧が増大し、混合流体噴出口312を介して加圧液生成容器32内に噴出される。
【0040】
図1に示すように、加圧液生成容器32は、上下方向に積層される第1流路321と、第2流路322と、第3流路323と、第4流路324と、第5流路325とを備える。以下の説明では、第1流路321、第2流路322、第3流路323、第4流路324および第5流路325をまとめて指す場合、「流路321〜325」と呼ぶ。流路321〜325は、水平方向に延びる管路であり、流路321〜325の長手方向に垂直な断面は略矩形である。本実施の形態では、流路321〜325の幅は、約40mmである。
【0041】
第1流路321の上流側の端部(すなわち、
図1中の左側の端部)には、混合ノズル31が取り付けられており、混合ノズル31から噴出された後の混合流体72は、加圧環境下にて
図1中の右側に向かって流れる。本実施の形態では、第1流路321内の混合流体72の液面より上方にて混合ノズル31から混合流体72が噴出され、噴出された直後の混合流体72は、第1流路321の下流側の壁面(すなわち、
図1中の右側の壁面)に衝突する前に上記液面に直接衝突する。混合ノズル31から噴出された混合流体72を液面に直接衝突させるためには、第1流路321の長さを、混合ノズル31の混合流体噴出口312(
図2参照)の中心と第1流路321の下面との間の上下方向の距離の7.5倍よりも大きくすることが好ましい。
【0042】
加圧液生成部3では、混合ノズル31の混合流体噴出口312の一部または全体が、第1流路321内の混合流体72の液面よりも下側に位置してもよい。これにより、上述と同様に、第1流路321内において、混合ノズル31から噴出された直後の混合流体72が、第1流路321内を流れる混合流体72に直接衝突する。
【0043】
第1流路321の下流側の端部の下面には、略円形の開口321aが設けられており、第1流路321を流れる混合流体72は、第1流路321の下方に位置する第2流路322へと開口321aを介して落下する。第2流路322では、第1流路321から落下した混合流体72が加圧環境下にて
図1中の右側から左側へと流れ、第2流路322の下流側の端部の下面に設けられた略円形の開口322aを介して、第2流路322の下方に位置する第3流路323へと落下する。第3流路323では、第2流路322から落下した混合流体72が加圧環境下にて
図1中の左側から右側へと流れ、第3流路323の下流側の端部の下面に設けられた略円形の開口323aを介して、第3流路323の下方に位置する第4流路324へと落下する。
図1に示すように、第1流路321〜第4流路324では、混合流体72は、気泡を含む液体の層と、その上方に位置する気体の層に分かれている。
【0044】
第4流路324では、第3流路323から落下した混合流体72が加圧環境下にて
図1中の右側から左側へと流れ、第4流路324の下流側の端部の下面に設けられた略円形の開口324aを介して、第4流路324の下方に位置する第5流路325へと流入(すなわち、落下)する。第5流路325では、第1流路321〜第4流路324とは異なり、気体の層は存在しておらず、第5流路325内に充満する液体内において、第5流路325の上面近傍に気泡が僅かに存在する状態となっている。第5流路325では、第4流路324から流入した混合流体72が加圧環境下にて
図1中の左側から右側へと流れる。
【0045】
加圧液生成部3では、加圧液生成容器32の流路321〜325を、段階的に緩急を繰り返しつつ上から下に流れ落ちる(すなわち、水平方向への流れと下方向への流れとを交互に繰り返しつつ流れる)混合流体72において、気体が液体に徐々に加圧溶解する。第5流路325においては、液体中に溶解している気体の濃度は、加圧環境下における当該気体の(飽和)溶解度の60%〜90%にほぼ等しい。そして、液体に溶解しなかった余剰の気体が、第5流路325内において、視認可能な大きさの気泡として存在している。
【0046】
加圧液生成容器32は、第5流路325の下流側の上面から上方へと延びる余剰気体分離部326をさらに備え、余剰気体分離部326には混合流体72が充満している。余剰気体分離部326の上下方向に垂直な断面は略矩形であり、余剰気体分離部326の上端部は、圧力調整用の絞り部327を介して補助配管42に接続される。第5流路325を流れる混合流体72の気泡は、余剰気体分離部326内を上昇して混合流体72の一部と共に補助配管42に流れ込む。
【0047】
このようにして、混合流体72の余剰な気体が混合流体72の一部と共に分離されることにより、少なくとも容易に視認できる大きさの気泡を実質的に含まない加圧液71が生成され、第5流路325の下流側の端部(ずなわち、
図5中の右側の端部)に接続された送出配管41へと送出される。本実施の形態では、加圧液71には、大気圧下における気体の(飽和)溶解度の約2倍以上の気体が溶解している。加圧液生成容器32において流路321〜325を流れる混合流体72の液体は、生成途上の加圧液71と捉えることもできる。補助配管42に流入した混合流体72は、液貯留部45内の対象液91へと導かれる。補助配管42は、長時間ポンプ44を稼働した場合における対象液91の減少を防止するための補助流路として機能する。
【0048】
第1流路321の上方には、排気弁61も設けられる。排気弁61は、ポンプ44の停止時に開放され、混合流体72が混合ノズル31へと逆流することを防止する。
【0049】
図3は、微細気泡生成ノズル2を拡大して示す断面図である。微細気泡生成ノズル2は、送出配管41から加圧液71が流入する加圧液流入口21と、対象液91に向かって開口する加圧液噴出口22とを備える。加圧液流入口21および加圧液噴出口22はそれぞれ略円形であり、加圧液流入口21から加圧液噴出口22に向かうノズル流路20の流路断面も略円形である。
【0050】
微細気泡生成ノズル2は、加圧液流入口21から加圧液噴出口22に向かって順に連続して配置される導入部23と、テーパ部24と、喉部25とを備える。導入部23では、流路面積は、ノズル流路20の中心軸J2方向の各位置においてほぼ一定である。テーパ部24では、加圧液71の流れる方向に向かって(すなわち、下流側に向かって)流路面積が漸次減少する。テーパ部24の内面は、ノズル流路20の中心軸J2を中心とする略円錐面の一部である。当該中心軸J2を含む断面において、テーパ部24の内面の成す角度αは、10°以上90°以下であることが好ましい。
【0051】
喉部25は、テーパ部24と加圧液噴出口22とを連絡する。喉部25の内面は略円筒面であり、喉部25では、流路面積はほぼ一定である。喉部25における流路断面の直径は、ノズル流路20において最も小さく、喉部25の流路面積は、ノズル流路20において最も小さい。喉部25の長さは、好ましくは、喉部25の直径の1.1倍以上10倍以下であり、より好ましくは、1.5倍以上2倍以下である。なお、ノズル流路20では、喉部25において流路面積が僅かに変化する場合であっても、流路面積がおよそ最も小さい部分全体が喉部25と捉えられる。
【0052】
微細気泡生成ノズル2は、また、喉部25に連続して設けられ、加圧液噴出口22の周囲を加圧液噴出口22から離間して囲む拡大部27と、拡大部27の端部に設けられた拡大部開口28とを備える。加圧液噴出口22と拡大部開口28との間の流路29は、加圧液噴出口22の外部に設けられた流路であり、以下、「外部流路29」という。外部流路29の流路断面および拡大部開口28は略円形であり、外部流路29の流路面積はほぼ一定である。外部流路29の直径は、喉部25の直径(すなわち、加圧液噴出口22の直径)よりも大きい。
【0053】
以下の説明では、拡大部27の内周面の加圧液噴出口22側のエッジと加圧液噴出口22のエッジとの間の円環状の面を、「噴出口端面221」という。本実施の形態では、ノズル流路20および外部流路29の中心軸J2と噴出口端面221との成す角度は約90°である。また、外部流路29の直径は10mm〜20mmであり、外部流路29の長さは、外部流路29の直径におよそ等しい。微細気泡生成ノズル2では、加圧液流入口21とは反対側の端部に、凹部である外部流路29が形成され、当該凹部の底部に、当該底部よりも小さい開口である加圧液噴出口22が形成されている、と捉えられる。拡大部27では、加圧液噴出口22と液貯留部45内の対象液91との間における加圧液71の流路面積が拡大される。
【0054】
微細気泡生成ノズル2では、加圧液流入口21からノズル流路20に流入した加圧液71が、テーパ部24において徐々に加速されつつ喉部25へと流れ、喉部25を通過して加圧液噴出口22から噴流として噴出される。喉部25における加圧液71の流速は、好ましくは秒速10m〜30mであり、本実施の形態では、秒速約20mである。喉部25では、加圧液71の静圧が低下するため、加圧液71中の気体が過飽和となって微細気泡として液中に析出する。微細気泡は、加圧液71と共に拡大部27の外部流路29を通過して、液貯留部45中の対象液91中へと拡散する。微細気泡生成ノズル2では、加圧液71が外部流路29を通過する間にも、微細気泡の析出が生じる。微細気泡生成ノズル2にて生成される微細気泡は、直径が1μm未満のいわゆるナノバブルである。なお、微細気泡生成ノズル2からの液体および微細気泡の噴出が停止されている場合、外部流路29は対象液91により満たされる。
【0055】
以上に説明したように、微細気泡生成ノズル2では、加圧液71の流れる方向に向かって流路面積が漸次減少するテーパ部24、および、ノズル流路20において流路面積が最も小さい喉部25が設けられることにより、微細気泡、特に、直径が1μm未満の微細気泡(ナノバブル)を安定して大量に生成することができる。ナノサイト社(NanoSight Limited)のLM10およびLM20による計測では、微細気泡生成ノズル2により、直径が約100nmを中心として1μm未満の範囲に分布するナノバブルが、対象液91中に1mL(ミリリットル)当たり1億個以上生成される。この値は、対象液を循環させることなく生成した場合の個数である。以下の説明では、微細気泡生成ノズル2により生成されたナノバブルの1mL当たりの個数を、「ナノバブルの生成密度」という。
【0056】
微細気泡生成ノズル2では、加圧液噴出口22の周囲を囲む拡大部27が設けられることにより、液貯留部45内における対象液91の流れが、加圧液噴出口22から噴出された直後の加圧液71に対して影響を与えることを抑制することができる。これにより、加圧液噴出口22からの噴出直後の加圧液71においても、ナノバブルの析出が安定して行われるため、ナノバブルをより安定して大量に生成することができる。
【0057】
上述のように、微細気泡生成ノズル2では、テーパ部24の内面が、ノズル流路20の中心軸J2を中心とする円錐面の一部であり、中心軸J2を含む断面において、テーパ部24の内面の成す角度αが90°以下である。これにより、ナノバブルをより安定して大量に生成することができる。また、微細気泡生成ノズル2の導入部23および喉部25の直径を維持しつつ微細気泡生成ノズル2の長さを短くするという観点からは、テーパ部24の内面の成す角度αは10°以上であることが好ましい。
【0058】
微細気泡生成ノズル2では、喉部25の長さが、喉部25の直径の1.1倍以上10倍以下である。喉部25の長さが直径の1.1倍以上であることにより、ナノバブルをより安定して大量に生成することができる。例えば、喉部25の長さが直径の0.53倍である場合のナノバブルの生成密度(非循環時)は約5600万個であるのに対し、喉部25の長さが直径の1.57倍である場合のナノバブルの生成密度は約11000万個である。また、喉部25の長さが直径の10倍以下であることにより、喉部25において加圧液71に生じる抵抗が過剰に大きくなることを防止することができるとともに、喉部25の高精度な形成を容易とすることもできる。ナノバブルをより一層安定して大量に生成するという観点からは、喉部25の長さが直径の1.5倍以上2倍以下であることが、さらに好ましい。
【0059】
香り付与液生成装置1では、ポンプ44が一定時間駆動されることにより、対象液91全体がナノバブルを多数含む液体(水)となる。具体的には、1mL当たり、直径1μm以下の気泡を1億個以上含む。また、対象液91をポンプ44にて10回循環させることにより、1mL当たり1億5000万個〜1億7000万個のナノバブル生成密度となる。さらに循環を続けることにより、少なくとも3億個までナノバブル生成密度は増加すると考えられる。
【0060】
従来のマイクロバブル程度の大きさの気泡の生成では、ナノバブルはそれほど多く発生せず、一般的に、意図的にナノバブルを発生させた液体は、上術の測定装置を用いて、1mL当たり2000万個のナノバブルを含む液体として定義することができる。したがって、ナノバブルを利用した香り付与液は、1mL当たり2000万個以上のナノバブルを含む液体であると定義する。ただし、香りを与えた状態を容易に識別でできる液体として、香り付与液は、1mL当たり1億個以上のナノバブルを含む液体であることが好ましい。
【0061】
また、ナノバブルは、香り成分を含む窒素ガスにより形成されるため、対象液91は、香り物質111の香りを感じ取ることができる液体となる。すなわち、ポンプ44の稼動により、対象液91が香りが付与された香り付与液となる。
【0062】
なお、「香りを付与した」状態とは、必ずしも香りを放出する状態を指すのではなく、口に含んだ際に鼻腔に香り成分が広がって香りを感じ取ることができる状態も含む。また、ナノバブルの界面に香り成分が保持される予想されるが、加圧水の状態で香り成分がどのように存在しているかは不明である。ナノバブルの析出と、香り成分がナノバブルに保持される点との関係も詳細は不明である。
【0063】
図4は、香り付与液生成装置1に、複数の香り成分付与部11が設けられた例を示す図であり、香り成分付与部11近傍のみを示している。複数の香り成分付与部11は、
図1と同様の複数の香り物質収容部であり、複数の香り物質収容部には、互いに異なる香り成分を放出する香り物質111が収容される。すなわち、複数の香り成分付与部11は、互いに異なる香り成分(正確には、複数種類の香り分子の異なる組み合わせ)を気体に含ませる。複数の香り成分付与部11は、弁112を介して混合ノズル31の気体流入口に並列に接続される。また、各香り成分付与部11には、窒素ガス供給部8から窒素ガスが供給される。弁112を個別に開閉することにより、窒素ガスには様々な種類の組み合わせの香り成分が付与される。その結果、香り物質111を交換することなく、様々な香り付与液を生成することができる。
【0064】
図5は、複数の香り成分付与部11が設けられた他の例を示す図である。
図5では、複数の香り成分付与部11が直列に接続される。複数の香りを切り替えることなく混合する場合は、複数の香り成分付与部11は直列に接続されてよい。
【0065】
以上、香り付与液生成装置1の構造および動作について説明したが、香り付与液生成装置1により、香りを発生する物質を水に含ませることなく、水に香りを付与することが実現される。加えて、ナノバブルは水中において長時間安定して存在するため、香り付与液は香りを長時間維持することができる。上述の非特許文献1に記載されているように、蒸留水中に生成したナノバブルは4ヶ月間もの間、水中に安定して存在することが確認されている。また、香りを放出する物質が水に加えられないことから、香り付与液を食品や飲料に加えても味が損なわれることはない。
【0066】
香り成分が含む香り分子が、水に不溶性、難溶性または微溶性の場合、水自体に香り分子を付与することはできない。これに対し、香り付与液生成装置1では、香り分子が、水に不溶性、難溶性または微溶性の場合であっても、ナノバブルに香り成分を閉じ込めることにより、長期間に亘って水に香りを付与した状態を持続することが実現される。なお、水に易溶性の香り分子の場合、このような分子は水から放出されないため、水から香りを放出させることはできない。
【0067】
次に、香り付与液生成装置1を用いて生成された香り付与液の官能評価試験について説明する。
【0068】
<試験1>
試験1では、香り物質として山椒を用いた。粉砕した山椒(非加熱)2.66gを香り成分付与部11に充填し、3,000mLの水に対し20分間ポンプ44を連続稼働した。この際、窒素を0.2L/分で香り成分付与部11に供給した。
【0069】
官能評価試験には、3点識別試験法を採用した。3点識別試験法とは、A,Bの2種類の試料を比較する際に、A,A,Bのように試料を1組にして提示し、その中から異なる1試料を選ばせる方法で、結果は3点識別試験法のための検定表を用いて有意性を判定する。
【0070】
試験1では、水のみの試料を2つ、香り付与液の試料を1つ準備し、香り付与液を選択する指示を出した。試験に際しては、まず、匂いのみでの評価した後、口に含んで評価する2段階方式を採用した。
【0071】
試料を嗅ぐだけで、異なる1個の試料を正しく選んだ者(以下、「正解者」という。)は、15名中15名であり、3点識別試験法の検定表から、この正解率は危険率0.1%で有意差がある、すなわち、水に山椒の香りが付与されていることが判った。次に、口に試料を含んで味わった後では、正解者は15名中13名であり、危険率0.1%で有意差が認められた。香りのみの試験時よりも正解率が下がったが、これは3点の試料を試飲する順番やその試験の前に匂いを嗅いだことによって、山椒の匂いが鼻腔に残ってしまったためと考えられる。山椒を用いた香り付与液の風味は極めて強く、試験終了10分以上たった後もまだ山椒の香りが口腔内に残存している感覚を持つ者も数名いた。
【0072】
<試験2>
試験2では、香り物質として柚子を用いた。包丁で細かく刻んだ柚子皮7.14gを香り成分付与部11に充填し、試験1と同様の条件でポンプ44を連続稼働した。試験2においても、3点識別試験法を採用し、水のみの試料を2つ、香り付与液の試料を1つ準備し、香り付与液を選択する指示を出した。試験に際しては、まず、匂いのみでの評価した後、口に含んで評価する2段階方式を採用した。
【0073】
試験2においても、まず、匂いのみで異なる1個の試料を正しく選んだ者は15名中15名であり、3点識別試験法の検定表から、この正解率は危険率0.1%で有意差がある、すなわち、柚子の香りが水に与えられたことが確認された。さらに、味わった後の評価においても正解者は15名中14名と、有意な差が確認された。
【0074】
<試験3>
試験3では、試験1と同様の手法にて生成して1日が経過した香り付与液に対して、試験1と同様に匂いのみで試験を行った。その結果、15名中6名のみの正解率であった。一日経過することで、香り付与液からの香り成分の放出が落ち着き、製造直後に比べて香りが少なくなったと考えられる。一方、味わいによる比較では、十分な山椒の香りを確認することができた。なお、4週間経過した後の香り付与液においても、味わいによる比較では、十分な山椒の香りを確認することができた。
【0075】
<試験4>
試験4では、香り物質として黒トリュフを用いた。包丁で細かく刻んだ黒トリュフ(量は不明)を香り成分付与部11に充填し、試験1と同様の条件でポンプ44を連続稼働した。10名により匂い、口に含んだ際の風味があるかどうか、水と比較して評価した。その結果、10名共、匂いおよび口に含んだ際の風味にトリュフの香りを確認した。
【0076】
以上の試験結果から、香り付与液生成装置1により、水に香りが付与されていることが確認できる。従来、山椒、柚子、トリュフ等の食品の香りそのものは水に与えることができなかった。これは、食品から放出される香り成分は、原則として水に不溶性または難溶性(あるいは微溶性)であるからである。これに対し、香り付与液生成装置1によるナノバブルを利用することにより、香りを放出する物質自体を水に与えることなく、水に香り成分のみを与えることが実現される。また、ナノバブルは水の中に長時間安定して存在するため、香りが付与された状態は長時間維持される。
【0077】
特に、香り物質が山椒や柚等の柑橘系の場合に顕著な香りが水に与えられることから、少なくとも、香り物質が柑橘系である場合に、高い効果が得られると予想される。なお、山椒の香りを付与した水では、一日おくと匂いの放出がほとんどなくなり、口に含んだ後でのみ匂いを感じるというこれまでにない感覚が得られる。このような特性により、新たな風味を料理に与えることができる。また、香辛料のように殺菌が不可避なものでは、日本国で認可されていない放射線殺菌以外によい殺菌法がない。そのため、蒸気などの殺菌のために香気が変質したり劣化することが多いが、ナノバブルを利用する香り付与では殺菌を考慮する必要がなく、新鮮な香りを安定して付与することができる。
【0078】
また、香り付与液は味自体を有さないことから、香り付与液を食品や飲料に与えても、鼻腔に香り成分が広がる影響を除いて、味覚には影響を与えない。このような特徴は、味に影響を与えることなく様々な風味を与えることが望まれるアルコール飲料への展開に特に適している。具体的実験として、山椒の香りを与えた水を用いてバーボンを割ったところ、バーボンの味にほとんど影響を与えることなく、明らかに風味が豊になった。このことから、香り付与液の応用例として、例えば、従来、ウイスキーを製造する際に、シェリー樽等の特定の香りのする樽を利用することで実現していた風味付け手法を、原酒に加える水に香り付与液を利用することで安価かつ短時間にて様々に実現することが考えられる。
【0079】
また、単純に香り付与液とアルコール飲料とを混合するのではなく、二酸化炭素と香り付与液とを混合した上でアルコール飲料と混合することにより、従来の炭酸割りと同様の手法で、味にほとんど影響を与えることなく単純な炭酸割りとは異なる風味をアルコール飲料に与えることができる。以上のように、エチルアルコールを含有する様々なアルコール飲料に、香り付与液は多彩な風味を与えることができる。
【0080】
さらに、香り付与液は味に影響を与えないことら、食品への香り付けの材料として、従来の香料とは異なる特長を有する。香料の含有物は、その詳細を明らかにするには限界があるが、香り付与液生成装置1では、香り物質111が特定可能な物質である限り、このような問題は生じない。
【0081】
以上、本発明の実施の形態について説明したが
、上記実施の形態は様々な変形が可能である。
【0082】
例えば、混合ノズル31にて気体と混合される液体は、完全な水には限定されず、水を主成分をする液体であればよい。例えば、添加物や不揮発性の液体が添加された水であってもよい。
【0083】
ナノバブルを形成する気体は、窒素には限定されず、空気でもよい。ただし、香り成分の質を長期間維持するには、不活性ガス、すなわち、酸素を含まないガスまたは酸素含有率の少ないガス(もちろん、酸素よりも香り分子と反応性を有するガスは含まない。)であることが好ましい。
【0084】
香り成分は、予めガスに混入され、このガスを貯留するボンベ等の貯留部が香り成分付与部11として設けられてもよい。
【0085】
微細気泡液生成部10の構造は様々に変更されてよく、さらには、異なる構造のものが使用されてもよい。例えば、微細気泡生成ノズル2は、複数の加圧液噴出口22を備えてもよい。微細気泡生成ノズル2と加圧液生成部3との間に圧力調整弁が設けられ、微細気泡生成ノズル2に与えられる圧力が高精度にて一定に維持されてもよい。気体と液体との混合には、機械的攪拌等の他の手段が利用されてもよい。
【0086】
香り付与液生成装置1は、香り成分以外の物質を様々な液体に付与する物質付与液生成装置として利用することも可能である。これにより、所定の液体に対して不溶性、難溶性または微溶性の物質(以下、「対象物質」という。)であっても、対象物質を当該液体に含ませることができる。例えば、対象物質は、単に液体に溶かす場合と比較して、本装置を利用することによって液体に含ませることができる量が多くなる物質であればよい。この場合、
図1の香り分子付与部11は、対象物質を気体に含ませる物質付与気体生成部として機能する。そして、
微細気泡液生成部10は、物質付与気体生成部からの気体と、液体とを混合して当該気体のナノバブルを含む液体を物質付与液として生成する。
【0087】
対象物質としては、例えば、香料の他、シリコーンオイル、油脂類、医薬品(動物薬を含む)、農薬活性成分、肥料、化粧料、食品材料、飼料、殺菌剤、防ばい剤、防虫剤、殺虫剤、防錆剤、吸収剤など広い分野から選択することができる。
【0088】
また、物質が付与される液体は、水または水を主成分とするものには限定されず、例えば、エチルアルコール、グリセリン、植物油なども利用可能と考えられる。対象物質が付与される気体も、対象物質に応じて様々に変更可能である。
【0089】
上記実施形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。