(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明の実施の形態を説明する。
図1は、ブラシレスモータの駆動装置の適用例としての自動車用自動変速機の油圧ポンプシステムを示すブロック図である。
図1に示す油圧ポンプシステムは、変速機構(TM)7やアクチュエータ8にオイルを供給するオイルポンプとして、図外のエンジン(内燃機関)の出力により駆動される機械式オイルポンプ6と、モータで駆動される電動オイルポンプ1とを備えている。
【0010】
そして、電動オイルポンプ1は、一例として、エンジンがアイドルストップによって停止したときに作動されて、変速機構7やアクチュエータ8に対するオイルの供給を行い、アイドルストップ中における油圧の低下を抑制する。
電動オイルポンプ1は、直結したブラシレスモータ(3相同期電動機)2により駆動され、ブラシレスモータ2は、モータ制御装置(MCU)3により、AT制御装置(ATCU)4からの指令に基づいて制御される。モータ制御装置3は、ブラシレスモータ2の各相への通電を制御する駆動装置である。
【0011】
ブラシレスモータ2で駆動される電動オイルポンプ1は、オイルパン10のオイルを、オイル配管5を介して変速機構7やアクチュエータ8に供給する。
エンジン運転中は、エンジンで駆動される機械式オイルポンプ6が作動し、機械式オイルポンプ6から変速機構7やアクチェータ8に対してオイルが供給され、このとき、ブラシレスモータ2はオフ状態(停止状態)であって、逆止弁11によって電動オイルポンプ1に向かうオイルの流れは遮断される。
【0012】
一方、エンジンがアイドルストップによって停止すると、機械式オイルポンプ6が停止し、オイル配管9内の油圧が低下するので、アイドルストップによるエンジンの停止指令に応じて、AT制御装置4がモータ起動の指令をモータ制御装置3に送信する。
モータ起動指令を受けたモータ制御装置3は、ブラシレスモータ2を起動させて電動オイルポンプ1を回転させ、電動オイルポンプ1によるオイルの圧送を開始させる。
【0013】
そして、機械式オイルポンプ6の吐出圧が低下する一方で、電動オイルポンプ1の吐出圧が設定圧を越えると、逆止弁11が開弁し、オイルは、オイル配管5、電動オイルポンプ1、逆止弁11、変速機構7、アクチェータ8、オイルパン10の経路を通って循環するようになる。
なお、本発明に係る駆動装置を適用するブラシレスモータは、例えば、ハイブリッド車両などにおいてエンジンの冷却水の循環に用いる電動ウォータポンプを駆動するブラシレスモータとすることができ、ブラシレスモータが駆動する機器をオイルポンプに限定するものではなく、また、ブラシレスモータを自動車に搭載されるモータに限定するものではない。
【0014】
図2は、ブラシレスモータ2及びモータ制御装置3の一例を示す回路図である。
モータ制御装置3は、モータ駆動回路212と、マイクロコンピュータを備えた制御器213とを備える。そして、制御器213は、図示を省略した通信ラインを介し、AT制御装置4との間で通信を行う。
ブラシレスモータ2は、3相DCブラシレスモータ(3相同期電動機)であり、U相、V相及びW相の3相巻線215u、215v、215wを、図示省略した円筒状の固定子に備え、該固定子の中央部に形成した空間に永久磁石回転子(ロータ)216を回転可能に備える。
【0015】
モータ駆動回路212は、逆並列のダイオード218a〜218fを含んでなるスイッチング素子217a〜217fを3相ブリッジ接続した回路と、電源回路219とを有しており、スイッチング素子217a〜217fは例えばFETで構成される。
スイッチング素子217a〜217fの制御端子(ゲート端子)は、制御器213に接続され、制御器213は、スイッチング素子217a〜217fのオン、オフをパルス幅変調PWMによって制御する。
【0016】
ブラシレスモータ2の駆動制御は、回転子の位置情報を検出するセンサを用いないセンサレスで行われ、更に、モータ回転速度に応じて、正弦波駆動と矩形波駆動とを切り替える。
正弦波駆動は、各相に正弦波電圧を加えてブラシレスモータ2を駆動する方式である。この正弦波駆動では、回転子が回転することによって発生する誘起電圧(速度起電圧)から回転子の位置情報を得る一方、速度起電圧による回転子位置の検出周期の間で、モータ回転速度に基づき回転子位置を推定し、推定した回転子位置とPWMデューティとから、3相出力設定値を算出し、相間電圧の差で電流の向きと強さとを制御して、3相交流電流を流す。
【0017】
また、矩形波駆動は、3相のうちでパルス電圧を印加する2相の選択パターン(通電モード)を所定の切り替えタイミングに従って順次切り替えることでブラシレスモータ2を駆動する方式である。この矩形波駆動では、通電相に対するパルス状の電圧印加によって非通電相の誘起される電圧であるパルス誘起電圧から回転子の位置情報を得て、3相のうちでパルス電圧を印加する2相の切り替えタイミング、つまり、通電モードの切り替えタイミングを検出する。
ここで、正弦波駆動において位置検出のために検出する速度起電圧は、モータ回転速度の低下に伴って出力レベルが低下するため、低回転域では位置検出の精度が低下する。一方、矩形波駆動において位置検出のために検出するパルス誘起電圧は、モータ停止状態を含む低回転域においても位置情報を検出できる。
【0018】
そこで、正弦波駆動で位置情報を十分な精度で検出できる高回転域(設定値よりもモータ回転速度が高い領域)では、正弦波駆動でブラシレスモータ2を駆動し、正弦波駆動では十分な精度で位置情報を検出できない低回転域、つまり、設定値よりもモータ回転速度が低い回転域(起動時を含む)では、矩形波駆動でブラシレスモータ2を駆動するようにしてある。
矩形波駆動においては、次の通電モードへの切り替えタイミングを判定するための電圧閾値(基準電圧値)が通電モード毎に設定されており、非通電相に誘起されるパルス誘起電圧が前記電圧閾値を超えた(以上又は以下となった)タイミングを、通電モードの切り替えタイミングとして検出し、切り替えタイミングを検出すると、次の通電モードに対応する2相への通電に切り替える。
つまり、非通電相に誘起される電圧(パルス誘起電圧)は、ブラシレスモータ2の角度に応じて変化するので、通電モードの切り替え角度でのパルス誘起電圧を、電圧閾値として設定し、パルス誘起電圧が電圧閾値に達したときに、ブラシレスモータ2の角度が電圧閾値に対応する位置(通電モードの切り替え角度)になっているものと推定する。
【0019】
通電モードとして、
図3に示すように、(1)から(6)の6つの通電モードが設定される。
通電モード(1)ではU相からV相に向けて電流を流し、通電モード(2)ではU相からW相に向けて電流を流し、通電モード(3)ではV相からW相に向けて電流を流し、通電モード(4)ではV相からU相に向けて電流を流し、通電モード(5)ではW相からU相に向けて電流を流し、通電モード(6)ではW相からV相に向けて電流を流し、電気角60deg毎に通電モードを切り替える。
従って、通電モード(1)ではW相が非通電相(開放相)となり、通電モード(2)ではV相が非通電相となり、通電モード(3)ではU相が非通電相となり、通電モード(4)ではW相が非通電相となり、通電モード(5)ではV相が非通電相となり、通電モード(6)ではU相が非通電相となる。
【0020】
また、通電モードの切り替えを行う角度の一例として、U相のコイルの角度位置を、回転子の基準位置(角度0deg)としたときに、通電モード(3)から通電モード(4)への切り替えを行う回転子の角度位置を30degとし、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替えを行う回転子の角度位置を90degとし、通電モード(5)から通電モード(6)への切り替えを行う回転子の角度位置を150degとし、通電モード(6)から通電モード(1)への切り替えを行う回転子の角度位置を210degとし、通電モード(1)から通電モード(2)への切り替えを行う回転子の角度位置を270degとし、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替えを行う回転子の角度位置を330degとすることができる。
【0021】
上記の通電モードの切り替えタイミングとしての角度位置になっていることを、非通電相のパルス誘起電圧と電圧閾値との比較に基づいて検出するものであり、通電モードの切り替えを行う角度位置におけるパルス誘起電圧に基づき、電圧閾値を設定してある。
電圧閾値は、
図4に示すように、中性点電圧よりも高い又は低い値に設定され、通電モード(1)、(3)、(5)では電圧閾値が中性点電圧よりも低い値に設定され、この中性点電圧よりも低い電圧閾値よりも非通電相の電圧(パルス誘起電圧)が低くなると、次の通電モードへの切り替えを行う。また、通電モード(2)、(4)、(6)では電圧閾値が中性点電圧よりも高い値に設定され、この中性点電圧よりも高い電圧閾値よりも非通電相の電圧(パルス誘起電圧)が高くなると、次の通電モードへの切り替えを行う。
【0022】
このように、矩形波駆動においては、非通電相のパルス誘起電圧と電圧閾値との比較に基づいて通電モードの切り替えを行う。このため、高温条件などにおいて磁束が減少する減磁故障が生じ、例えば
図5に示すように、非通電相のパルス誘起電圧が低下し(パルス誘起電圧の振幅が低下し)、パルス誘起電圧が電圧閾値に達しなくなると、通電モードの切り替えタイミングを検出できないため、通電モードを切り替えられず、ブラシレスモータ2を起動できなくなってしまう。
【0023】
図5に示す「U相開放」の期間は、通電モード(3)に従って通電されている状態であり、係る通電モード(3)に従った通電制御状態で、非通電相であるU相に誘起されるパルス誘起電圧が、中性点電圧よりも低い電圧として設定される電圧閾値を下回ったことが検出されると、通電モード(4)への切り替えを行う。しかし、減磁故障の発生によってパルス誘起電圧の振幅が小さくなり、電圧閾値を横切らなくなると、通電モード(4)への切り替えタイミングが検出されずに、通電モード(3)を維持することになってしまい、ブラシレスモータ2を起動できなくなる。
【0024】
そこで、モータ制御装置3は、
図6のフローチャートに示すように、減磁故障に対応する制御を実施する。
図6のフローチャートにおいて、ステップS101では、ブラシレスモータ2の矩形波駆動による通電制御中であるか否かを判定する。ブラシレスモータ2の通電制御中とは、ブラシレスモータ2の駆動要求があり、モータトルクを発生させるべく矩形波駆動により各相への通電制御を行っている状態である。
【0025】
ステップS101でブラシレスモータ2の通電制御中であると判定すると、ステップS102へ進み、非通電相のパルス誘起電圧が、通電モード毎に設定される電圧閾値に達しない状態が、設定時間以上継続しているか否かを判定する。
換言すれば、通電モードを順次切り替えてブラシレスモータ2を駆動させる要求があるのに、通電モードの切り替えタイミングが検出されないために、ある通電モードに保持されている時間が、正常動作時にはあり得ない時間だけ継続している起動不良状態であるか否かを判定する。
【0026】
通電モードの切り替えが正常範囲内の時間周期で順次行われている状態、つまり、矩形波駆動による通電制御が正常状態であれば、ステップS103へ進む。
なお、正弦波駆動に切り替わっている場合には、ステップS102で正常に起動されていると判定して、ステップS103へ進むものとする。
【0027】
ステップS103では、矩形波駆動若しくは正弦波駆動でのブラシレスモータ2の通電制御を行う。
一方、非通電相のパルス誘起電圧が、通電モード毎に設定される閾値に達しない状態が設定時間以上継続していると判定した場合、つまり、通電モードの切り替えが行えないため、ブラシレスモータ2を正常に起動させることができていない、通電制御の異常状態であれば、ステップS104へ進む。
【0028】
ステップS104では、通電モードの切り替えを行う角度位置にブラシレスモータ2を駆動し、通電モードの切り替えを行う角度位置における非通電相のパルス誘起電圧を検出し、検出したパルス誘起電圧に基づき通電モードの切り替えタイミングの検出に用いる電圧閾値を更新する電圧閾値の学習処理を、各通電モードについて行う。
前述のように、通電モードとして(1)から(6)の6つの通電モードが設定されるから、ステップS104では、係る6つの通電モードそれぞれに対応する計6個の電圧閾値を学習する。
なお、ステップS104における電圧閾値の学習処理については、後でフローチャートに従って詳細に説明する。
【0029】
次のステップS105では、起動不良(通電制御異常)の原因が、減磁故障と、減磁故障以外の故障(例えば、回転子や出力軸のロックなどによる不動故障)とのいずれであるかを判定する処理を実施する。なお、後述するように、減磁故障と減磁故障以外の故障とのいずれであるかによって、ブラシレスモータ2の通電制御を継続するか停止するかが切り替えられるようになっている。
減磁故障が生じている場合には、パルス誘起電圧の低下に見合った電圧閾値に変更すれば、電圧閾値とパルス誘起電圧との比較に基づいて通電モードの切り替えを行え、ブラシレスモータ2を起動させることができるが、減磁故障以外の故障が生じている場合には、電圧閾値を変更しても正常に通電モードの切り替えを行えないので、通電制御を停止させる。
【0030】
ステップS105における減磁故障であるか否かの判別は、
図7のフローチャートに示すようにして行われる。
図7のフローチャートにおいて、ステップS201では、ステップS104で学習した電圧閾値が、条件(1)を満たすか否かを判定する。
【0031】
本例のブラシレスモータ2では、
図4及び
図8に示すように、通電モード(1)、(3)、(5)では電圧閾値が中性点電圧よりも低い値に設定され、通電モード(2)、(4)、(6)では電圧閾値が中性点電圧よりも高い値に設定される。
また、減磁故障が発生しても、通電モードの切り替えタイミング(切り替え角度)におけるパルス誘起電圧は、通電モード(1)、(3)、(5)では中性点電圧よりも低い状態を保持し、通電モード(2)、(4)、(6)では中性点電圧よりも高い状態を保持する。
【0032】
一方、ブレスレスモータ2に不動(ロック)故障が生じると、通電モードの切り替えタイミング(切り替え角度)におけるパルス誘起電圧が、通電モード(1)、(3)、(5)では中性点電圧よりも低く、通電モード(2)、(4)、(6)では中性点電圧よりも高いという状態が保持されなくなる。
例えば、
図4において、30degの位置でブラスレスモータ2がロックしたと仮定すると、通電モード(3)であるときに、非通電相U相のパルス誘起電圧は、通電モード(4)への角度位置である30degの位置に見合った値を示すが、通電モード(1)のときは、非通電相であるW相のパルス誘起電圧は、中性点の電圧より高い電圧を保持することになり、通電モード(1)において切り替えタイミング(切り替え角度)におけるパルス誘起電圧は中性点電圧よりも低いという条件を満たさなくなる。
【0033】
そして、ブラシレスモータ2がどの角度位置でロックした場合であっても、切り替え角度におけるパルス誘起電圧の中性点電圧に対する高低が逆転する通電モードが発生する。
そこで、新たに学習した電圧閾値(切り替え角度におけるパルス誘起電圧)の中性点電圧に対する高低が、上記の正常状態での相関を保っている場合、つまり、通電モード(1)、(3)、(5)での電圧閾値がそれぞれ中性点電圧よりも低く、かつ、通電モード(2)、(4)、(6)での電圧閾値がそれぞれ中性点電圧よりも高い場合には、減磁故障によってパルス誘起電圧が低下し、その結果として、通電モードの切り替えタイミングを検出できなくなったものと推定する。
【0034】
つまり、条件(1)とは、
図3に示すように、新たに学習した6個の電圧閾値の全てが、初期状態から変わることなく、中性点電圧に対して高い若しくは低い状態を保持していることである。
ここで、新たに学習した電圧閾値のうちの1つでも、中性点電圧に対する高低の相関が正常状態(初期状態)とは異なっている場合は、減磁故障によってパルス誘起電圧が低下した場合の特性とは異なるため、減磁故障以外の故障(不動故障)によって起動不良(通電制御異常)が生じたものと判定し、ステップS203へ進んで、減磁故障以外の故障(不動故障)の発生を判定する。
【0035】
なお、電圧閾値が、中性点電圧に対して高い若しくは低い状態とは、中性点電圧よりも高い電圧範囲に含まれる状態、若しくは、中性点電圧よりも低い電圧範囲に含まれる状態として表すことができる。
また、電圧閾値に代えて、切り替え角度で検出したパルス誘起電圧に基づき、条件(1)を満たすか否かを判定することができる。
また、非通電相の電圧を、中性点電圧を基準に検出する場合には、条件(1)を満たすか否かを、検出したパルス誘起電圧又は当該パルス誘起電圧に基づき設定した電圧閾値がプラスの値であるかマイナスの値であるかに基づいて判定することができる。
【0036】
ステップS201で、6個の電圧閾値の全てが、初期状態から変わることなく、中性点電圧に対して高い若しくは低い状態を保持していると判定した場合に、減磁故障であるとの判定を下すことができるが、
図7のフローチャートでは、更に、ステップS202へ進んで、ステップS104で学習した電圧閾値が、条件(2)を満たすか否かを判定する。
上記の条件(2)とは、条件(1)を満たしつつ、パルス誘起電圧が実際に低下しているか否かを判定するための条件であり、
図8に示すように、電圧閾値の初期値と中性点電圧とで挟まれる電圧範囲に、ステップS104で学習した電圧閾値の全てが含まれることを、条件(2)とする。
【0037】
減磁故障が生じた場合はパルス誘起電圧が低下するから、6個の電圧閾値が条件(1)を満たしているとしても、新たに学習した電圧閾値が、通電モード(2)、(4)、(6)では初期値よりも高くなっている場合、通電モード(1)、(3)、(5)では初期値よりも低くなっている場合には、減磁故障以外の故障が発生している可能性がある。
一方、電圧閾値の初期値と中性点電圧とで挟まれる電圧範囲に、ステップS104で学習した電圧閾値の全てが含まれ、条件(2)を満たす場合には、減磁故障であることが確認されたことになる。
【0038】
そして、条件(2)を満たさない場合には、条件(1)を満たしていても、減磁故障以外の故障が発生している可能性があるので、ステップS203へ進んで減磁故障以外の故障(不動故障)の発生を判定する。
一方、条件(1)及び条件(2)を満たしている場合には、ステップS204へ進み、減磁故障が発生している(減磁以外の故障が発生していない)と判定する。
【0039】
なお、ステップS202のステップを省略し、ステップS201における条件(1)を満たすか否かの判定から、減磁故障であるか、減磁故障以外の故障の発生状態であるかを判別させることができ、逆に、ステップS201のステップを省略し、ステップS202における条件(2)を満たすか否かの判定から、減磁故障であるか、減磁故障以外の故障の発生状態であるかを判別させることができる。
また、新たに学習した電圧閾値と比較させる電圧閾値を初期値に限定するものではなく、例えば、前回の学習値や、学習値の移動平均値などと、新たに学習した電圧閾値とを比較することができる。
また、学習した電圧閾値に基づく減磁故障、減磁故障以外の故障の判別は、条件(1)や条件(2)に基づく判定に限定されず、正常な通電制御が行えなくなった状態で学習した電圧閾値と、正常範囲或いは異常範囲として設定される所定範囲(所定レベル)との比較に基づき行うことができる。
【0040】
図6のフローチャートのステップS105において、減磁故障が発生しているか、減磁故障以外の故障(例えば、回転子や出力軸のロックなどによる不動故障)が発生しているかの判別を行うと、ステップS106では、ステップS105の処理において減磁故障の発生が判別されたか否かを判定する。
そして、減磁故障以外の故障が発生している場合には、新たに学習した電圧閾値を用いたとしても、正常に通電制御(通電モードの切り替え制御)を行えないので、ステップS107へ進み、ブラシレスモータ2への通電を停止させて、ブラシレスモータ2の回転を停止状態に保持させると共に、ブラシレスモータ2に減磁故障以外の不動故障などが発生していて、ブラシレスモータ2の駆動を停止していることを、AT制御装置(ATCU)4などに通知する。
【0041】
ブラシレスモータ2に減磁故障以外の不動故障などが発生していることを示す信号を受信したAT制御装置(ATCU)4は、アイドルストップの禁止を要求する信号を出力したり、ブラシレスモータ2の故障発生を警告する警告装置(ランプなど)を動作させる制御信号を出力したり、不動故障の判定履歴を保存する処理などを行う。
一方、ステップS106で減磁故障が発生していると判定すると、ステップS108へ進み、通電制御(通電モードの切り替え制御)に用いる電圧閾値を、新たに学習した電圧閾値に変更する処理、つまり、減磁故障によって低下したパルス誘起電圧が、通電モードの切り替え角度において超えるような値に電圧閾値を変更する処理(電圧閾値を中性点電圧に近づける処理)を行う。
【0042】
係る電圧閾値の変更によって、減磁故障によってパルス誘起電圧が低下した後も、パルス誘起電圧と電圧閾値との比較によって、通電モードの切り替えを行うべき角度位置の検出が可能となる。
ステップS108で電圧閾値を変更する処理を行うと、次のステップS109では、減磁故障の判定結果をセットする(減磁故障フラグを立ち上げる)。
【0043】
そして、次のステップS110では、ステップS108で変更した電圧閾値を用いてブラスレスモータ2の通電制御を継続させ、更に、減磁故障の発生を、AT制御装置(ATCU)4などに通知する。
ブラシレスモータ2に減磁故障が発生していることを示す信号を受信したAT制御装置(ATCU)4は、アイドルストップの実施条件の変更を要求する信号を出力したり、ブラシレスモータ2の故障発生を警告する警告装置(ランプなど)を動作させる制御信号を出力したり、減磁故障の判定履歴を保存する処理などを行う。
【0044】
上記
図6のフローチャートに示したブラシレスモータ2の通電制御によると、パルス誘起電圧に基づき通電モードの切り替えを行えなくなった異常時(起動不良が発生した場合)に、起動不良の原因を減磁故障とそれ以外(不動故障)に区別し、減磁故障の場合は電圧閾値を変更した上で通電制御を継続させ、不動故障の場合はブラシレスモータ2の通電制御を停止させる。
従って、減磁故障が発生しているものの、ブラシレスモータ2を駆動できる状態において、無用に駆動を禁止してしまうことを抑制でき、これによって、ブラシレスモータ2を含むシステム(自動車用自動変速機)の正常動作を継続させることができる。
また、不動故障時には、ブラシレスモータ2に対して通電制御を行ってしまうことが抑制され、モータ駆動回路の保護などを図ることができ、また、ブラシレスモータ2の駆動を前提とする動作が誤って実施されることを抑制できる。
【0045】
ここで、
図6のフローチャートのステップS104における電圧閾値の学習を詳細に説明する。
図9のフローチャートは、電圧閾値の学習処理の一例を示し、ステップS301では、学習1回目の制御であるか否かを判別する。学習1回目の制御とは、ブラシレスモータ2の通電モードの切り替えを行えないと判定し、電圧閾値の再学習を開始したときを示す。
【0046】
ステップS301で学習における1回目の制御であると判定すると、ステップS302へ進み、初回の通電モードを設定し、係る通電モードに従ってブラシレスモータ2の各相への通電を行わせる。
初回の通電モードは、通電制御の異常を判定したときに選定されていた通電モードとすることができ、また、通電制御の異常を判定したときに選定されていた通電モードから1回若しくは複数だけ進んだ通電モードとすることができ、更に、予め設定された通電モードとすることができる。
【0047】
一方、学習における1回目の制御でない場合には、ステップS302を迂回してステップS303へ進む。
ステップS303では、現在の通電モードでの非通電相のパルス誘起電圧を取得済みであるか否かを判定し、パルス誘起電圧が未取得であればステップS304へ進み、取得済みであればステップS305へ進む。
【0048】
ステップS304では、通電モードの切り替え後から所定時間(1)が経過しているか否かを判断する。
所定時間(1)は、通電モードの切り替えから、通電モードの切り替え角度でのパルス誘起電圧を検出するまでの遅延時間であり、通電モードの切り替え直後における非通電相の電圧の変動期間を避けるように、所定時間(1)を設定してある。
なお、初回の通電モードである場合には、所定時間(1)が経過していても、ステップS305へ進むようにする。
【0049】
ステップS305では、現在の通電モードに設定してからの経過時間が所定時間(2)に達しているか否かを判定する。
そして、現在の通電モードに設定してからの経過時間が所定時間(2)に達していない場合には、そのまま本ルーチンを終了させることで、現在の通電モードでの通電を継続させる。
【0050】
所定時間(2)は、現在の通電モードに対応する角度位置に達して安定するまでの応答時間であり、通電モードを切り替えた後に所定時間(2)が経過していれば、ブラシレスモータ2が、そのときの通電モードに対応する角度位置まで回転して停止しているものと推定できるように、所定時間(2)(所定時間(1)<所定時間(2))を設定してある。
所定時間(2)だけ現在の通電モードを継続していない場合には、現在の通電モードでの通電を更に継続させるべく本ルーチンを終了させ、所定時間(2)だけ現在の通電モードを継続していれば、ステップS306へ進んで、次の通電モードへの切り替えを行う。
【0051】
通電モードの切り替えを行うと、所定時間(1)の経過を待って、ステップS304からステップS307へ進む。
ステップS307では、そのときの通電モードでの非通電相の電圧を、切り替え角度位置におけるパルス誘起電圧としてサンプリングする。
【0052】
例えば、通電モード(3)での通電を継続することで、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替えを行う角度位置(90deg)にブラシレスモータ2を位置決めすることができ、係る状態で通電モード(3)から通電モード(4)に切り替えれば、切り替え直後のW相(通電モード(4)での非通電相)の端子電圧Vwは、角度位置90degにおける非通電相の端子電圧となり、係る端子電圧Vに基づき、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替えタイミング(角度=90deg)の検出に用いる電圧閾値を設定することができる。
【0053】
そこで、所定時間(2)だけ1つの通電モードでの通電を継続させて、次の通電モードに切り替え、切り替え後の所定時間(1)が経過した時点での非通電相の電圧を、通電モードの切り替えタイミングでの非通電相の電圧として検出することを繰り返すことで、各通電モードに対応する電圧閾値を学習する。
なお、ステップS307でサンプリングしたパルス誘起電圧を、そのまま電圧閾値とすることができる他、ステップS307でサンプリングしたパルス誘起電圧を変数として、電圧閾値を算出することができる。
【0054】
ステップS308では、全ての通電モードでの電圧閾値を学習した否かを判定し、全ての通電モードでの電圧閾値を学習していなければ、ステップS301へ進み、所定時間(2)の経過を待って通電モードの切り替えを行い、切り替え後の非通電相の電圧を、通電モードの切り替えタイミングでの電圧として学習することを繰り返す。
そして、全ての通電モードでの電圧閾値を学習すると、ステップS309へ進んで、学習完了を判定する。
なお、通電モードの切り替えタイミングにおけるパルス誘起電圧の検出方法(電圧閾値の学習方法)を上記のものに限定するものではなく、公知の種々の検出方法(学習方法)を適宜採用できる。
【0055】
図10のフローチャートは、
図6のフローチャートのステップS104における電圧閾値の学習の一例として、位置決めを行う場合と通電モードの切り替えタイミングでの電圧をサンプリングする場合とで、通電制御のデューティ比を切り替えるようにした学習処理の例を示す。
なお、
図10のフローチャートにおいて、
図9のフローチャートと同様な処理を行うステップについては、同じステップ番号を付して詳細な説明は省略する。
【0056】
図10のフローチャートでは、初回通電モードの設定を行うステップS302の次にステップS302Aへ進み、ブラシレスモータ2のPWM制御におけるデューティ比を、ブラシレスモータ2を位置決めするとき(ブラシレスモータ2を回転させるとき)に用いるデューティ比(変換時デューティ比)D1に設定する。
また、切り替え角度位置での非通電相の電圧をサンプリングし、かつ、全通電モードでの学習が完了していない場合に、ステップS308Aに進んで、ブラシレスモータ2のPWM制御におけるデューティ比を、ブラシレスモータ2を位置決めするとき(ブラシレスモータ2を回転させるとき)に用いるデューティ比(変換時デューティ比)D1に設定する。
【0057】
なお、ステップS302Aで設定するデューティ比D1と、ステップS308Aで設定するデューティ比D1とを同じ値にできる他、異なる値に設定することができる。
そして、変換時デューティ比D1での通電制御状態で、所定時間(2)の経過をステップS305で判定すると、電圧閾値の学習に備え、ステップS306Aで、ブラシレスモータ2のPWM制御におけるデューティ比を、位置決めを行うデューティ比D1よりも小さい学習時用のデューティD2に設定する。
【0058】
学習時用のデューティD2で通電制御を行っている状態で、所定時間(1)の経過を待ち、所定時間(1)が経過すると、そのときの非通電相の電圧を、切り替え角度位置におけるパルス誘起電圧として学習し、電圧をサンプリングした後にデューティ比を変換時デューティ比D1に戻す。
例えば、極低温状態であって電動オイルポンプ1が吸引するオイルの粘性が高い場合に、ブラシレスモータ2を位置決めするときのデューティ比が小さいと、ブラシレスモータ2を、通電モードに対応する位置(学習初期位置)まで回転させることができず、電圧閾値を誤学習してしまう可能性がある。
【0059】
一方、通電モードの切り替え角度位置での非通電相の電圧をサンプリングする場合に、デューティ比が大きいほど非通電相に誘起される電圧が大きくなるため、デューティ比が大きい状態でサンプリングしたパルス誘起電圧に基づき電圧閾値を学習すると、パルス誘起電圧が低くなるデューティ比が低い状態では、パルス誘起電圧が電圧閾値に達せずに通電モードの切り替え判定が行えなくなる可能性がある。更に、デューティ比が高い状態でサンプリングした電圧に基づき、デューティ比が低い状態でも適用可能な電圧閾値を設定すると、電圧閾値の学習誤差が大きくなって、適切なタイミングで通電モードを切り替えることができなくなる可能性がある。
【0060】
そこで、ブラシレスモータ2を位置決めするとき、つまり、切り替え角度位置にまで回転させるときには、極低温時でもブラシレスモータ2を回転させることができるデューティ比D1を設定し、切り替え角度位置での非通電相の電圧をサンプリングする場合には、より低いデューティ比D2(D2<D1)を設定することで、電圧閾値を十分な精度で学習できるようにする。
なお、デューティ比D1は、極低温状態(モータを回転させるのに必要なトルクが高い状態)でのモータトルクを確保することを目的とするため、高温状態でデューティ比D1を採用する必要性は低下する。そこで、オイル温度(駆動負荷)が低いほど、デューティ比D1をより大きな値に設定したり、オイル温度が設定温度を超える場合にはデューティ比の切り替えをキャンセルしたりすることができる。
【0061】
図11のフローチャートは、減磁故障に対応する制御の別の例を示す。
この
図11のフローチャートに示す制御は、減磁故障が発生した場合に、更なる減磁を抑制するための処理を実施するステップを、
図6のフローチャートに示したステップに対して追加してある。
従って、
図6のフローチャートと同様な処理を行うステップについては、同じステップ番号を付して詳細な説明は省略する。
【0062】
図11のフローチャートにおいて、ステップS102において、非通電相のパルス誘起電圧が通電モード毎に設定される閾値に達しない状態が、設定時間以上継続していると判定すると、ステップS102Aに進んで、減磁故障を検出した履歴があるか否かを判定する。
減磁故障を検出した履歴がある場合、つまり、減磁故障の発生を検出したために、電圧閾値を変更して通電制御を行っている場合には、減磁故障の検出に基づき電圧閾値を変更したにも関わらず、更に減磁が進むなどして、変更後の電圧閾値に達しない状態になっているものと推定できるので、電圧閾値の学習を行うことなく、ステップS107へ進んで、ブラシレスモータ2への通電を停止させ、ブラシレスモータ2の回転を停止させる。
なお、減磁故障を検出した履歴がある場合に再度電圧閾値を学習させ、学習した電圧閾値が許容範囲を逸脱して小さい(中性点電圧に近い)場合に、減磁故障が許容範囲を超えて進行していると判定して、ブラシレスモータ2の通電制御を停止させることができる。
【0063】
図11のフローチャートでは、更に、ステップS102において、非通電相のパルス誘起電圧と電圧閾値との比較に基づいて通電モードの切り替えを行えていると判定した場合に、ステップS103Aに進み、減磁故障を検出した履歴があるか否かを判定する。
ステップS103Aで、減磁故障を検出した履歴があると判定した場合、即ち、減磁故障に伴うパルス誘起電圧の低下に応じて電圧閾値を変更した上でブラシレスモータ2の通電制御を継続させている場合には、ステップS103Bに進む。
【0064】
ステップS103Bでは、ブラシレスモータ2のモータ電流を、減磁故障が発生していない場合に比べてより低く制限して、ブラシレスモータ2の通電制御を継続させる。
つまり、減磁故障が発生した場合には、減磁故障が発生していない場合に許容する最大モータ電流よりも低い許容最大モータ電流を設定し、この許容最大モータ電流を超えないようにモータ電流(デューティ比)を制御する。
【0065】
一方、減磁故障を検出した履歴がない場合、つまり、減磁故障が発生していない場合には、ステップS103へ進み、モータ電流を標準よりも低く抑制する処理(許容最大電流を標準値よりも低く変更する処理)を行うことなく、ブラシレスモータ2の通電制御を行う。
減磁故障が発生しているときに、モータ電流の増大を抑制することで、ブラシレスモータ2の各相の発熱を抑え、減磁の進行を抑制することができる。
なお、パルス誘起電圧の低下が進行するほど減磁が進行しているものと推定し、減磁が進行するほど、許容最大モータ電流をより低く変更することができる。
【0066】
ここで、上記実施形態から把握し得る請求項以外の技術的思想について、以下に効果と共に記載する。
(イ)
3相のうちパルス幅変調信号に応じたパルス電圧を印加する2相を非通電相に誘起されるパルス誘起電圧と閾値との比較に基づいて切り替える通電制御を行うブラシレスモータの駆動装置であって、
前記パルス誘起電圧が前記閾値に達しない異常が生じた場合に、前記切り替えを行う角度における前記パルス誘起電圧が所定条件を満たせば、前記閾値を変更して前記通電制御を継続し、前記切り替えを行う角度における前記パルス誘起電圧が前記所定条件を満たさないと前記通電制御を停止する、ブラシレスモータの駆動装置。
上記発明によると、パルス誘起電圧が前記閾値に達しない異常が生じたときに、閾値を変更した上で通電制御を継続させることができるか否か、換言すれば、減磁故障であるか否かを、通電切り替えを行う角度におけるパルス誘起電圧に基づき適切に判定することができる。
【0067】
(ロ)
3相のうちパルス幅変調信号に応じたパルス電圧を印加する2相を非通電相に誘起されるパルス誘起電圧に応じて切り替える通電制御を実行するブラシレスモータの駆動装置であって、
前記通電制御に異常が生じた場合に、前記切り替えを行う角度における前記パルス誘起電圧が所定条件を満たさないと前記通電制御を中止し、前記切り替えを行う角度における前記パルス誘起電圧が前記所定条件を満たせば、前記通電制御における前記パルス誘起電圧の閾値の変更、及び、前記通電制御に異常が生じる前に比べて電流をより低く制限する処理を行って前記通電制御を継続させる、ブラシレスモータの駆動装置。
上記発明によると、減磁故障の発生を推定して通電制御を継続させる場合に、電流をより低く制限することで発熱を抑え、減磁の進行を抑制することができる。
【0068】
(ハ)
3相のうちパルス幅変調信号に応じたパルス電圧を印加する2相を非通電相に誘起されるパルス誘起電圧と閾値との比較に基づいて切り替える通電制御を実行するブラシレスモータの駆動装置において、
前記切り替えを行う角度における前記パルス誘起電圧を検出し、検出したパルス誘起電圧に基づいて前記閾値を変更する場合に、前記切り替えを行う角度に向けて駆動するときのモータ駆動デューティ比に比べて、前記切り替えを行う角度での前記パルス誘起電圧を検出するときのモータ駆動デューティ比を低く設定する、ブラシレスモータの駆動装置。
上記発明によると、切り替えを行う角度に向けて回転させるモータトルクを確保しつつ、切り替えを行う角度で発生するパルス誘起電圧を抑えて、切り替えタイミングに対応するパルス誘起電圧を適切に求めることができる。
【0069】
(ニ)
3相のうちパルス幅変調信号に応じたパルス電圧を印加する2相を非通電相に誘起されるパルス誘起電圧に応じてと閾値との比較に基づいて切り替える通電制御を行うブラシレスモータの駆動装置であって、
前記パルス誘起電圧が前記閾値に達しない異常が生じた場合に、前記切り替えを行う角度それぞれにおける前記パルス誘起電圧が中性点電圧よりも高いか低いかに基づいて、前記通電制御の継続と中止とを切り替える、ブラシレスモータの駆動装置。
上記発明によると、パルス誘起電圧が閾値に達しない異常が生じた場合に、通電切り替えを行う角度それぞれにおけるパルス誘起電圧が中性点電圧よりも高いか低いかに基づいて減磁故障であるか否かを判定し、通電制御の継続を適切に行わせることができる。