特許第6030522号(P6030522)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6030522記録ヘッド、インクジェット記録装置およびインクジェット記録方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6030522
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】記録ヘッド、インクジェット記録装置およびインクジェット記録方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20161114BHJP
   B41J 2/155 20060101ALI20161114BHJP
   C09D 11/40 20140101ALI20161114BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20161114BHJP
【FI】
   B41J2/01 209
   B41J2/155
   C09D11/40
   B41M5/00 E
   B41J2/01 501
【請求項の数】5
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2013-185463(P2013-185463)
(22)【出願日】2013年9月6日
(65)【公開番号】特開2015-52059(P2015-52059A)
(43)【公開日】2015年3月19日
【審査請求日】2014年10月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000208743
【氏名又は名称】キヤノンファインテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100098213
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 武
(74)【代理人】
【識別番号】100175787
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 龍也
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】樋村 衣里子
(72)【発明者】
【氏名】筒井 喬紘
(72)【発明者】
【氏名】澄川 裕輔
【審査官】 桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/049305(WO,A1)
【文献】 特開平08−302256(JP,A)
【文献】 特開2004−330695(JP,A)
【文献】 特開2008−081697(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0120928(US,A1)
【文献】 特開2004−035854(JP,A)
【文献】 特開2004−075767(JP,A)
【文献】 特開2011−121185(JP,A)
【文献】 特開2014−210369(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01
B41J 2/155
B41M 5/00
C09D 11/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のライン型ヘッドが組み合わされたインクジェット記録用の記録ヘッドであって、
前記ライン型ヘッドは、ノズル壁によって仕切られた複数のノズル流路からなるノズル列が形成され、前記ノズル流路に連通する複数のインク吐出口が形成され、各々のノズル流路の内部にインク吐出用のヒーターが配置されており、前記インク吐出口の開口面積が100μm2以上350μm2以下、前記ノズル列の総ノズル数が1200以上、前記ノズル列の長さが2インチ以上であるライン型ヘッドであり、
前記ライン型ヘッドの前記インク吐出口と連通する内部空間には、インクジェット記録用のインクが充填されており、1つのライン型ヘッドに1色のインクのみが充填され、複数のライン型ヘッドの各々に色相の異なるインクが充填されることによって、前記記録ヘッド中に複数色のインクが組み合わされたインクセットが構成されており、
前記複数色のインクが、インク(I)と、インク(II)と、を含み、
前記インク(I)が、染料D1、下記一般式(1)で表され、かつ、エチレンオキサイド平均付加数U+VがS1である化合物C1および水を含有し、
前記インク(II)が、染料D2、下記一般式(1)で表され、かつ、エチレンオキサイド平均付加数U+VがS2である化合物C2および水を含有し、
前記インク(I)の粘度η1および前記インク(II)の粘度η2が、いずれも1.5mPa・s以上5.0mPa・s以下であり、
前記インク(I)の粘度η1と前記インク(II)の粘度η2の差が、0.3mPa・s以内であり、
前記インク(I)の表面張力γ1と前記インク(II)の表面張力γ2が、いずれも25mN/m以上45mN/m以下であり、
前記インク(I)の表面張力γ1と前記インク(II)の表面張力γ2の差が、3.5mN/m以内であり、
前記染料D1の5質量%水溶液に、下記一般式(1)で表され、かつ、エチレンオキサイド平均付加数U+Vが10である化合物C3を前記水溶液の1質量%相当量添加した評価液L1の表面張力γL1(mN/m)と、前記染料D2の5質量%水溶液に、前記化合物C3を前記水溶液の1質量%相当量添加した評価液L2の表面張力γL2(mN/m)とが、γL1−γL2≧10(mN/m)の関係を満たし、
前記化合物C1のエチレンオキサイド平均付加数S1と、前記化合物C2のエチレンオキサイド平均付加数S2とが、2≦S2−S1≦7の関係を満たすことを特徴とするインクジェット記録用の記録ヘッド。
一般式(1)
【請求項2】
複数のライン型ヘッドが組み合わされたインクジェット記録用の記録ヘッドであって、
前記ライン型ヘッドは、ノズル壁によって仕切られた複数のノズル流路からなるノズル列が形成され、前記ノズル流路に連通する複数のインク吐出口が形成され、各々のノズル流路の内部にインク吐出用のヒーターが配置されており、前記インク吐出口の開口面積が100μm2以上350μm2以下、前記ノズル列の総ノズル数が1200以上、前記ノズル列の長さが2インチ以上であるライン型ヘッドであり、
前記ライン型ヘッドの前記インク吐出口と連通する内部空間には、インクジェット記録用のインクが充填されており、1つのライン型ヘッドに1色のインクのみが充填され、複数のライン型ヘッドの各々に色相の異なるインクが充填されることによって、前記記録ヘッド中に複数色のインクが組み合わされたインクセットが構成されており、
前記複数色のインクが、インク(I)と、インク(II)と、を含み、
前記インク(I)が、染料D1、下記一般式(1)で表され、かつ、エチレンオキサイド平均付加数U+VがS1である化合物C1および水を含有し、
前記インク(II)が、染料D2、下記一般式(1)で表され、かつ、エチレンオキサイド平均付加数U+VがS2である化合物C2および水を含有し、
前記インクセットを構成する複数種のインクの粘度ηが、いずれも1.5mPa・s以上5.0mPa・s以下であり、
前記複数色のインクから選択される2つのインクの粘度の差が、いずれも0.3mPa・s以内であり、
前記インクセットを構成する複数種のインクの表面張力γが、いずれも25mN/m以上45mN/m以下であり、
前記複数色のインクから選択される2つのインクの表面張力の差が、いずれも3.5mN/m以内であり、
前記染料D1の5質量%水溶液に、下記一般式(1)で表され、かつ、エチレンオキサイド平均付加数U+Vが10である化合物C3を前記水溶液の1質量%相当量添加した評価液L1の表面張力γL1(mN/m)と、前記染料D2の5質量%水溶液に、前記化合物C3を前記水溶液の1質量%相当量添加した評価液L2の表面張力γL2(mN/m)とが、γL1−γL2≧10(mN/m)の関係を満たし、
前記化合物C1のエチレンオキサイド平均付加数S1と、前記化合物C2のエチレンオキサイド平均付加数S2とが、2≦S2−S1≦7の関係を満たすことを特徴とするインクジェット記録用の記録ヘッド。
一般式(1)
【請求項3】
前記ライン型ヘッドが、前記ノズル列を形成する前記複数のノズル流路と連通する共通液室と、前記共通液室と連通する液体供給口と、前記液体供給口と連通するメイン液体供給室と、前記メイン液体供給室と連通する液体供給路と、前記液体供給路と連通する液体供給室と、前記液体供給室を液体供給の際の流れに沿って上流側より第一液体供給室と第二液体供給室とに分離するように配設された供給フィルターと、前記メイン液体供給室の一部に設けられた気液分離部と、前記気液分離部と連通する空気室と、を備え、
前記ノズル流路と、前記共通液室と、前記液体供給口と、前記メイン液体供給室と、前記液体供給路と、前記液体供給室と、前記供給フィルターと、前記気液分離部と、前記空気室とが、前記ノズル流路の配列方向と前記液体の吐出方向を含む平面に対して、平行平面上に配置され、
前記メイン液体供給室と、前記液体供給路と、前記供給フィルターと、前記気液分離部と、前記空気室とが、各々積層されることなく配置されている請求項またはに記載の記録ヘッド。
【請求項4】
インクジェット記録用の記録ヘッドと、前記記録ヘッドに供給するインクを収容するインク収容部とを備えたインクジェット記録装置であって、
前記記録ヘッドが、請求項乃至のいずれか一項に記載の記録ヘッドであり、複数のライン型ヘッドの各々に対応する複数のインク収容部を備えていることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項5】
請求項に記載のインクジェット記録装置を用い、
前記記録ヘッドから前記インクセットのインクを吐出させて記録を行うことを特徴とするインクジェット記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用のインクセット、記録ヘッド、インクジェット記録装置およびインクジェット記録方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、記録ヘッドから吐出させたインク小滴を普通紙や専用光沢メディア上に飛翔させ、画像を形成する記録方法である。前記記録方法は、記録装置の低価格化が進行し、記録速度も向上したことに伴って、近年、急速に普及が進んでいる。また、前記記録方法において画像の高画質化が進み、銀塩写真に匹敵する写真画像を出力することも可能となったこと、およびデジタルカメラの急速な普及に伴って、前記記録方法は写真画像の出力方法としても一般的になってきた。
【0003】
近年、前記記録方法においては、飛翔させるインク滴の極小液滴化や、多色インクの導入に伴う色域の拡大などの技術が導入され、更なる高画質化が進行している。したがって、色材、特に染料については、画像の発色性や堅牢性(耐光性、耐オゾン性など)を従来よりも更に高いレベルとすることが求められている。
【0004】
光やオゾンに対する堅牢性が高い染料としては、例えば特定の色素骨格を有するアゾ色素が提案されている(特許文献1)。特許文献1には、前記アゾ色素が光、熱、湿度および環境中の活性ガスに対して十分な堅牢性を有する旨が記載されている。
【0005】
また、特定の分子構造を有するマゼンタインク用の染料が提案されている(特許文献2)。特許文献2には、前記染料は記録媒体のインク受容層への定着性が高く、耐ブロンズ性など画像の堅牢性を向上させる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−143989号公報
【特許文献2】特開2012−25156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1または2に記載の染料は光やオゾンに対する堅牢性に優れるという利点がある。しかし、前記染料を含むインクと他の染料を含むインクとを組み合わせてインクセットを構成すると、前記染料を含むインクは他の染料を含むインクと同等の吐出特性が得られないという問題があった。その結果、インクセットの各インクが均一に吐出されず、画像の印刷品位が低下するという問題があった。
【0008】
前記問題は、前記染料が光やオゾンに対する堅牢性を向上させるために、染料分子同士が会合しやすい分子構造、すなわち疎水性が高い分子構造に設計されているために生じたものと考えられる。すなわち、疎水性が高い染料を含むインクと、通常の親水性染料を含むインクとではその性質が異なるため、同様のインク組成としてもインクの吐出特性に差が生じているものと推定される。
【0009】
特に近年のインクジェット記録装置は、画像の高画質化に伴ってインク吐出口の細密化が進行しており、また、ライン型ヘッドや気液分離型の記録ヘッドのように吐出条件が厳格で、吐出安定性が確保し難い記録ヘッドも登場している。したがって、前記問題が一層、深刻化するおそれがある。
【0010】
本発明は、前記従来技術の課題を解決するためになされたものである。即ち、本発明は、疎水性が高い染料を含むインクを他のインクと組み合わせてインクセットを構成した場合に、インクセットの各インクを均一に吐出させることができ、画像の印刷品位の低下を効果的に防止し得るインクジェット記録用のインクセットに用いられるインクが充填された記録ヘッド、インクジェット記録装置およびインクジェット記録方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは前記課題について鋭意検討を行った。その結果、インクの濡れ性の改善に有効なアセチレングリコール系界面活性剤を用いた場合、疎水性の高い染料は前記界面活性剤を吸着する効果が高く(即ち界面活性剤との疎水性相互作用が大きく)、前記界面活性剤の機能を抑制しているという事実を見出した。そして、疎水性の高い染料を含むインクと、他のインクで、アセチレングリコールのエチレンオキサイド平均付加数に差をつけることによって、インクセットを構成する各インクの粘度、表面張力、濡れ性などを揃えることができ、前記課題を解決し得ることに想到して、本発明を完成するに至った。即ち、本発明によれば、以下の記録ヘッド、インクジェット記録装置およびインクジェット記録方法が提供される。
【0016】
[2]記録ヘッド:
本発明によれば、複数のライン型ヘッドが組み合わされたインクジェット記録用の記録ヘッドであって、前記ライン型ヘッドは、ノズル壁によって仕切られた複数のノズル流路からなるノズル列が形成され、前記ノズル流路に連通する複数のインク吐出口が形成され、各々のノズル流路の内部にインク吐出用のヒーターが配置されており、前記インク吐出口の開口面積が100μm2以上350μm2以下、前記ノズル列の総ノズル数が1200以上、前記ノズル列の長さが2インチ以上であるライン型ヘッドであり、前記ライン型ヘッドの前記インク吐出口と連通する内部空間には、インクジェット記録用のインクが充填されており、1つのライン型ヘッドに1色のインクのみが充填され、複数のライン型ヘッドの各々に色相の異なるインクが充填されることによって、前記記録ヘッド中に複数色のインクが組み合わされたインクセットが構成されており、前記複数色のインクが、インク(I)と、インク(II)と、を含み、前記インク(I)が、染料D1、下記一般式(1)で表され、かつ、エチレンオキサイド平均付加数U+VがS1である化合物C1および水を含有し、前記インク(II)が、染料D2、下記一般式(1)で表され、かつ、エチレンオキサイド平均付加数U+VがS2である化合物C2および水を含有し、前記インク(I)の粘度η1および前記インク(II)の粘度η2が、いずれも1.5mPa・s以上5.0mPa・s以下であり、前記インク(I)の粘度η1と前記インク(II)の粘度η2の差が、0.3mPa・s以内であり、前記インク(I)の表面張力γ1と前記インク(II)の表面張力γ2が、いずれも25mN/m以上45mN/m以下であり、前記インク(I)の表面張力γ1と前記インク(II)の表面張力γ2の差が、3.5mN/m以内であり、前記染料D1の5質量%水溶液に、下記一般式(1)で表され、かつ、エチレンオキサイド平均付加数U+Vが10である化合物C3を前記水溶液の1質量%相当量添加した評価液L1の表面張力γL1(mN/m)と、前記染料D2の5質量%水溶液に、前記化合物C3を前記水溶液の1質量%相当量添加した評価液L2の表面張力γL2(mN/m)とが、γL1−γL2≧10(mN/m)の関係を満たし、前記化合物C1のエチレンオキサイド平均付加数S1と、前記化合物C2のエチレンオキサイド平均付加数S2とが、2≦S2−S1≦7の関係を満たすことを特徴とするインクジェット記録用の記録ヘッド;が提供される。
一般式(1)
また、本発明によれば、複数のライン型ヘッドが組み合わされたインクジェット記録用の記録ヘッドであって、前記ライン型ヘッドは、ノズル壁によって仕切られた複数のノズル流路からなるノズル列が形成され、前記ノズル流路に連通する複数のインク吐出口が形成され、各々のノズル流路の内部にインク吐出用のヒーターが配置されており、前記インク吐出口の開口面積が100μm2以上350μm2以下、前記ノズル列の総ノズル数が1200以上、前記ノズル列の長さが2インチ以上であるライン型ヘッドであり、前記ライン型ヘッドの前記インク吐出口と連通する内部空間には、インクジェット記録用のインクが充填されており、1つのライン型ヘッドに1色のインクのみが充填され、複数のライン型ヘッドの各々に色相の異なるインクが充填されることによって、前記記録ヘッド中に複数色のインクが組み合わされたインクセットが構成されており、前記複数色のインクが、インク(I)と、インク(II)と、を含み、前記インク(I)が、染料D1、下記一般式(1)で表され、かつ、エチレンオキサイド平均付加数U+VがS1である化合物C1および水を含有し、前記インク(II)が、染料D2、下記一般式(1)で表され、かつ、エチレンオキサイド平均付加数U+VがS2である化合物C2および水を含有し、前記インクセットを構成する複数種のインクの粘度ηが、いずれも1.5mPa・s以上5.0mPa・s以下であり、前記複数色のインクから選択される2つのインクの粘度の差が、いずれも0.3mPa・s以内であり、前記インクセットを構成する複数種のインクの表面張力γが、いずれも25mN/m以上45mN/m以下であり、前記複数色のインクから選択される2つのインクの表面張力の差が、いずれも3.5mN/m以内であり、前記染料D1の5質量%水溶液に、下記一般式(1)で表され、かつ、エチレンオキサイド平均付加数U+Vが10である化合物C3を前記水溶液の1質量%相当量添加した評価液L1の表面張力γL1(mN/m)と、前記染料D2の5質量%水溶液に、前記化合物C3を前記水溶液の1質量%相当量添加した評価液L2の表面張力γL2(mN/m)とが、γL1−γL2≧10(mN/m)の関係を満たし、前記化合物C1のエチレンオキサイド平均付加数S1と、前記化合物C2のエチレンオキサイド平均付加数S2とが、2≦S2−S1≦7の関係を満たすことを特徴とするインクジェット記録用の記録ヘッド;が提供される。
一般式(1)
【0017】
本発明の記録ヘッドは、前記ライン型ヘッドが、前記ノズル列を形成する前記複数のノズル流路と連通する共通液室と、前記共通液室と連通する液体供給口と、前記液体供給口と連通するメイン液体供給室と、前記メイン液体供給室と連通する液体供給路と、前記液体供給路と連通する液体供給室と、前記液体供給室を液体供給の際の流れに沿って上流側より第一液体供給室と第二液体供給室とに分離するように配設された供給フィルターと、前記メイン液体供給室の一部に設けられた気液分離部と、前記気液分離部と連通する空気室と、を備え、前記ノズル流路と、前記共通液室と、前記液体供給口と、前記メイン液体供給室と、前記液体供給路と、前記液体供給室と、前記供給フィルターと、前記気液分離部と、前記空気室とが、前記ノズル流路の配列方向と前記液体の吐出方向を含む平面に対して、平行平面上に配置され、前記メイン液体供給室と、前記液体供給路と、前記供給フィルターと、前記気液分離部と、前記空気室とが、各々積層されることなく配置されていること;が好ましい。
【0018】
[3]インクジェット記録装置:
本発明によれば、インクジェット記録用の記録ヘッドと、前記記録ヘッドに供給するインクを収容するインク収容部とを備えたインクジェット記録装置であって、前記記録ヘッドが、前記[2]に記載の記録ヘッドであり、複数のライン型ヘッドの各々に対応する複数のインク収容部を備えていることを特徴とするインクジェット記録装置;が提供される。
【0019】
[4]インクジェット記録方法:
本発明によれば、前記[3]に記載のインクジェット記録装置を用い、前記記録ヘッドから前記インクセットのインクを吐出させて記録を行うことを特徴とするインクジェット記録方法;が提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、疎水性が高い染料を含むインクを他のインクと組み合わせてインクセットを構成した場合に、インクセットの各インクを均一に吐出させることができ、画像の印刷品位の低下を効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1A】記録ヘッドのノズルの内部構造を模式的に示す上面図である。
図1B図1Aに示すノズルの内部構造を模式的に示す側面図である。
図1C図1Aに示すノズルのインク吐出口を模式的に示す正面図である。
図2A】本発明の記録ヘッドを模式的に示す正面図である。
図2B図2Aに示す記録ヘッドのA−A断面図である。
図2C図2Aに示す記録ヘッドのB−B断面図である。
図3】インクタンクの拡大断面図である。
図4】記録ヘッドの拡大断面図である。
図5A図4に示すインク保持部材の拡大斜視図である。
図5B図5Aに示すインク保持部材のVb−Vb断面図である。
図6】インクジェット記録装置の全体構成を模式的に示す概略構成図である。
図7図6に示す記録装置の制御系のブロック構成図である。
図8】記録ヘッドの回復シーケンスの工程を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について詳細に説明する。但し、本発明は下記の実施形態に限定されず、その発明特定事項を有する全ての対象を含むものである。なお、本明細書において、「記録」というときは、記録媒体上に文字、図形、記号等の有意の情報を形成するもののみならず、特段の意味を有しない画像、模様、パターン等を形成するものも含まれる。
【0023】
[1]インクセット:
「インクセット」とは、色相の異なる複数色のインクが組み合わされたインクジェット記録用のインクセットを指す。ここにいう「色相」には有彩色の他、無彩色である黒色等も含まれる。また、「複数色」であるから、2色以上のインクが組み合わされていればよい。例えばイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの4色の中から選択された少なくとも2色が組み合わされたインクセット等を挙げることができる。
【0024】
「インク」とは、色材を含む液体を指す。本発明のインクセットに用いられるインクは、少なくとも染料、アセチレングリコール系界面活性剤および水を含むインクである。すなわち、水系の染料インクである。
【0025】
本発明のインクセットは、少なくともインク(I)およびインク(II)が組み合わされたインクセットである。すなわち、インク(I)は前記複数色のインクから選択された1色のインクであり、インク(II)は前記複数色のインクから選択された、前記インク(I)以外の1色のインクである。
【0026】
インク(I)は、染料D1、下記一般式(1)で表され、かつ、エチレンオキサイド平均付加数U+VがS1である化合物C1および水を含有するインクである。一方、インク(II)は、染料D2、下記一般式(1)で表され、かつ、エチレンオキサイド平均付加数U+VがS2である化合物C2および水を含有するインクである。すなわち、インク(I)とインク(II)は、色材として染料を含む点、アセチレングリコール系界面活性剤として下記一般式(1)で表されるアセチレングリコールのエチレンオキサイド平均付加物を含む点、媒体として水を含む点において共通する。ただし、インク(I)とインク(II)は、染料の疎水性の程度が大きく異なり、この染料の疎水性の程度に応じてアセチレングリコール系界面活性剤のエチレンオキサイド平均付加数も異なるものとしている。
【0027】
[1−1]染料:
前記のように、本発明においては、インク(I)の構成成分である染料D1と、インク(II)の構成成分である染料D2との間で、疎水性の程度に大きな差があることを前提としている。
【0028】
染料の疎水性の程度に大きな差があるか否かについては、前記染料D1の5質量%水溶液に、下記一般式(1)で表され、かつ、エチレンオキサイド平均付加数U+Vが10である化合物C3を前記水溶液の1質量%相当量添加した評価液L1の表面張力γL1(mN/m)と、前記染料D2の5質量%水溶液に、前記化合物C3を前記水溶液の1質量%相当量添加した評価液L2の表面張力γL2(mN/m)とが、γL1−γL2≧10(mN/m)の関係を満たすか否かにより判断する。
【0029】
すなわち、染料D1(または染料D2)の5質量%水溶液に、化合物C3を前記水溶液の1質量%相当量添加した評価液L1、L2を調製し、評価液L1、L2の表面張力γL1、γL2を測定し、表面張力γL1、γL2の差が10以上である場合に、染料D1と染料D2は疎水性の程度に大きな差があると判断する。γL1とγL2の差が10以上である場合には、インクセットを構成する複数のインク間で吐出特性が異なり、画像の印刷品位が低下するおそれがある。
【0030】
評価液L1、L2において、染料の含有率を5質量%としたのは、インクジェット記録用のインクの場合、インク全質量に占める染料の含有率が5質量%以下であることが好ましいためである。また、化合物C3として、エチレンオキサイド平均付加数が10のアルキレングリコールを用いたのは、水に対する溶解性の懸念がない中でHLB値が比較的低く、染料への吸着性が良いという理由からである。HLB値とは界面活性剤の水と油に対する親和性の程度を表す値である。化合物C3としては、例えば、川研ファインケミカル製「アセチレノールE100」を用いることができる。化合物C3の添加量を1質量%相当量としたのは、化合物C3の水に対する臨界ミセル濃度(CMC)以上の濃度とするためである。評価液の表面張力は、後述するインクの表面張力と同じ測定方法により測定することができる。
【0031】
染料D1と染料D2が前記関係を満たしている限り、染料の分子構造等は特に限定されない。但し、水溶性染料を用いることが好ましい。また、光やオゾンに対して堅牢性を示す染料などのように疎水性が高い染料を用いることもできる。例えば、以下に掲げるイエロー染料、マゼンタ染料、シアン染料、ブラック染料等を好適に用いることができる。なお、染料は、後述する従来公知の染料のみならず、新たに合成ないし製造された染料を用いることもできる。これらの染料の中から、染料D1、染料D2およびインクセットを構成する他のインクの構成成分となる染料などを適宜選択して用いればよい。
【0032】
イエロー染料としては、例えば、
(1)C.I.アシッドイエロー11、17、23、25、29、42、49、61、71等の酸性染料;
(2)C.I.ダイレクトイエロー12、24、26、44、86、87、98、100、130、142等の直接染料;等を挙げることができる。
【0033】
マゼンタ染料としては、例えば、
(1)C.I.アシッドレッド1、6、8、32、35、37、51、52、80、85、87、92、94、115、180、254、256、289、315、317等の酸性染料;
(2)C.I.ダイレクトレッド1、4、13、17、23、28、31、62、79、81、83、89、227、240、242、243等の直接染料;等を挙げることができる。
【0034】
また、疎水性が高いマゼンタ染料としては、特開2011−140636号公報に開示されている下記一般式(2)で表される化合物(2)を挙げることができる。
【0035】
前記一般式(2)中、Rはそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、シクロヘキシル基、モノアルキルアミノアルキル基、又はジアルキルアミノアルキル基を表す。Mはそれぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウムを表す。Xは連結基(2価の官能基)を表す。前記化合物としては、例えばRがメチル基で、XがCH3−NH−NH−CH3で連結され、Mが水素原子である化合物、Rがエチル基で、XがNH−C26−NH基、Mがナトリウム原子である化合物等が好ましい。
【0036】
さらに、疎水性が高いマゼンタ染料としては、特開2006−143989号公報に開示されている下記一般式(3)で表される化合物(3)を挙げることもできる。

【0037】
前記一般式(3)中、Xは、水素原子、脂肪族基、芳香族基、又は複素環基を表す。
【0038】
1及びR2はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、脂肪族基、芳香族基、複素環基、シアノ基、カルボキシル基、カルバモイル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、複素環オキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、複素環アミノ基、アシルアミノ基、ウレイド基、スルファモイルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、アルキルスルホニルアミノ基、アリールスルホニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、ニトロ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、スルファモイル基、スルホン酸基、又は複素環チオ基を表す。これらの各基はさらに置換されていてもよい。
【0039】
3及びR4はそれぞれ独立に、水素原子、脂肪族基、芳香族基、複素環基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、カルバモイル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、又はスルファモイル基を表す。これらの各基はさらに置換されていてもよい。
【0040】
また、R1とR3又はR3とR4が結合して5員環又は6員環を形成していてもよい。
【0041】
a及びeはそれぞれ独立に、アルキル基、アルコキシ基又はハロゲン原子を表す。ただし、a及びeが共にアルキル基である場合は、前記アルキル基を構成する炭素数の合計が3以上であり、それらはさらに置換されていてもよい。b、c及びdはそれぞれ独立に、R1及びR2の例として挙げた基の群から選ばれる基を表し、aとb又はeとdが結合して環を形成していてもよい。
【0042】
Qは、水素原子、脂肪族基、芳香族基又は複素環基を表す。これらの各基はさらに置換されていてもよい。ただし、前記一般式(3)中に少なくとも一つのイオン性基が存在する。
【0043】
前記一般式(3)で表される化合物の好ましい具体例としては、例えば下記式(4)で表される化合物M1を挙げることができる。化合物M1は、スルホン酸基が遊離酸の形をとっている。但し、前記スルホン酸基の一部又は全部がアルカリ金属塩の形をとっていてもよい。
【0044】
本発明の構成は、前記化合物(2)、(3)、M1のような疎水性が高い染料を含むインクと、従来の水溶性染料を含むインクが組み合わされたインクセットに対して好適に用いることができる。
【0045】
シアン染料としては、例えば、
(1)C.I.アシッドブルー9、22、40、59、93、102、104、113、117、120、167、229、234、254等の酸性染料;
(2)C.I.ダイレクトブルー6、22、25、71、78、86、90、106、199等の直接染料;等を挙げることができる。
【0046】
ブラック染料としては、例えば、
(1)C.I.アシッドブラック2、48、51、52、110、115、156等の酸性染料;
(2)C.I.ダイレクトブラック17、19、22、31、32、51、62、71、74、112、113、154、168等の直接染料;
(3)C.I.リアクティブブラック1、8、12、13等の反応染料;
(4)C.I.フードブラック1、2等の食用色素;等を挙げることができる。
【0047】
これらの染料以外に、特開平6−25573号公報、EP0468647A1、EP0468648A1またはEP0468649A1等の公報に開示されている染料を使用することもできる。
【0048】
前記染料の含有率は特に限定されない。染料の種類、水性媒体の組成、インクの要求特性等により適宜決定すればよい。但し、インク全質量に対し、1質量%以上10質量%以下の比率で含有されていることが好ましい。1質量%以上とすることにより、十分な光学濃度の画像を得ることができる。一方、10質量%以下とすることにより、ノズル等への固着を抑制することができ、低粘度化によってインクの吐出安定性を向上させることができる。前記効果をより確実に得るためには、インク全体に対し、1質量%以上5質量%以下の比率で含有されていることがさらに好ましい。なお、インクには1種の染料のみが含まれていてもよいし、複数の染料が含まれていてもよい。
【0049】
[1−2]界面活性剤:
本発明のインクセットは、前記のようにインク(I)の構成成分である染料D1と、インク(II)の構成成分である染料D2との間で、疎水性の程度に大きな差がある場合に、インク(I)、インク(II)の各々に添加するアセチレングリコール系界面活性剤のエチレンオキサイド平均付加数に差を付けたものである。これにより、インクセットを構成する各インクの粘度、表面張力、濡れ性などを同程度に調整することができ、各インクの吐出特性の差を小さくすることができる。このような方法は、界面活性剤の添加量を増減することなく各インクの粘度、表面張力、濡れ性などを揃えることができる点において有効である。
【0050】
アセチレングリコール系界面活性剤のエチレンオキサイド平均付加数については、前記インク(I)に含有される前記化合物C1のエチレンオキサイド平均付加数S1と、前記インク(II)に含有される前記化合物C2のエチレンオキサイド平均付加数S2とが、2≦S2−S1≦7の関係を満たすようにする。
【0051】
すなわち、インク(I)の構成成分である化合物C1と、インク(II)の構成成分である化合物C2との間で、アセチレングリコールのエチレンオキサイド平均付加数に2以上7以下の差をつける。エチレンオキサイド平均付加数の差を2以上とすることで、インク(I)とインク(II)の粘度、表面張力、濡れ性などを同程度に調整することができ、インク(I)とインク(II)の吐出特性の差を小さくすることができる。エチレンオキサイド平均付加数の差を7以下とすることで、水に対する溶解度を揃えやすくし、処方による調整が容易となる。
【0052】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、下記一般式(1)に示す化合物(1)(2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール又はそのエチレンオキサイド平均付加物)を用いる。前記化合物を用いることで、インクの濡れ性を改善することができ、インクの吐出安定性を向上させることができる。
[式中、UおよびVは、エチレンオキサイドの平均付加モル数を示す。]
【0053】
「エチレンオキサイドの平均付加モル数」とは、アセチレングリコール1分子あたりに付加しているエチレンオキサイドの平均モル数である。前記化合物(1)の例で説明すれば、U+Vの平均値を意味する。化合物C1と化合物C2のU+Vは特に限定されない。但し、U+Vが0以上10以下であることが好ましく、U+Vが4以上10以下であることが更に好ましい。前記化合物(1)のエチレンオキサイド平均付加モル数が0以上の場合、その化合物はある程度の親水性を有するため、インクの表面張力を上昇させることができ、インクの吐出安定性を向上させることができる。前記化合物(1)のエチレンオキサイド平均付加モル数が10以下の場合、その化合物はある程度の疎水性が保たれるため、例えばエポキシ系感光性樹脂等により構成されたノズル壁に対するインクの濡れ性を向上させることができる。従って、ノズルにインクを供給する性能が向上し、インクの吐出安定性が向上する。
【0054】
前記化合物(1)であって、かつ、U+Vの平均値が0以上10以下の化合物としては以下の市販品がある。例えば、エアープロダクツ製「サーフィノール420」(U+Vの平均値が2)、「サーフィノール440」(U+Vの平均値が3)、川研ファインケミカル製「アセチレノールE00」(U+Vの平均値が0)、「アセチレノールE40」(U+Vの平均値が4)、「アセチレノールE60」(U+Vの平均値が6)、「アセチレノールE81」(U+Vの平均値が8)、「アセチレノールE100」(U+Vの平均値が10)等である。これらの市販品の中から、エチレンオキサイド平均付加数に2以上7以下の差がつくような組み合わせを適宜選択すればよい。
【0055】
なお、本発明にいう「化合物C1」、「化合物C2」には、前記化合物(1)の混合物も含まれるものとする。即ち、U+Vの平均値が異なる2種以上の前記化合物(1)を混合することにより、U+Vの平均値を調整したものも本発明にいう「化合物C1」、「化合物C2」に含まれる。例えば前記化合物(1)であって、かつ、U+Vの平均値が6の化合物と、前記化合物(1)であって、かつ、U+Vの平均値が8の化合物とを、質量比1:1で混合することにより、混合物全体のU+Vの平均値を7としたものも「化合物C1」、「化合物C2」に含まれる。
【0056】
アセチレングリコール系界面活性剤は、インク全質量に対し1質量%以下の比率で含有されていることが好ましい。1質量%以下とすることにより、過剰添加による粘度上昇が抑制され、インクが適正な表面張力を有するようになり、インクの吐出安定性が向上する。前記効果をより確実に得るためには、0.5質量%以下とすることが更に好ましく、0.3質量%とすることが特に好ましい。アセチレングリコール系界面活性剤の含有率の下限は特に限定されない。但し、アセチレングリコール系界面活性剤の添加効果を得るために、インク全質量に対し0.1質量%以上の比率で含有されていることが好ましい。
【0057】
[1−3]水:
水としては、脱イオン水(イオン交換水)を用いることが好ましい。水の含有率は特に限定されない。ただし、インクの全質量に対し、30質量%以上90質量%以下であることが好ましく、40質量%以上85質量%以下であることがさらに好ましく、60質量%以上80質量%以下であることが特に好ましい。30質量%以上とすることにより、染料および水溶性化合物を水和させることができ、染料や水溶性化合物の凝集を防止することができる。一方、90質量%以下とすることにより、相対的に水溶性有機化合物の量が増え、水性媒体中の揮発成分(水等)が揮発してしまった場合でも、染料の溶解状態を維持することができ、染料の析出や固化を防止することができる。
【0058】
[1−4]水溶性化合物:
本発明のインクセットは、前記インク(I)および前記インク(II)が、さらに水溶性化合物を含有し、前記水溶性化合物が、水溶性有機溶媒および25℃で固体の水溶性化合物の群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0059】
ここにいう「水溶性化合物」とは、水と自由に混和するか、或いは水に対する溶解度(25℃)が20g/100g以上の化合物を意味する。水溶性有機溶媒および25℃で固体の水溶性化合物の群から選択される少なくとも1種である。前記水溶性化合物を含有させることで、水の蒸発を防止し、乾燥によるインクの固着を防止することができる。
【0060】
水溶性化合物の種類は特に限定されない。ただし、水溶性化合物は、染料を溶解させる性質を有するものが好ましい。例えば以下に掲げるようなアルコール類、多価アルコール類、グリコールエーテル類、カルボン酸アミド類、複素環類、ケトン類、アルカノールアミン類:等、各種水溶性有機溶媒を用いることができる。また、尿素、エチレン尿素、トリメチロールプロパン等のような25℃で固体の水溶性化合物を用いることもできる。
【0061】
(1)アルコール類:
メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、n−ペンチルアルコール等の炭素数1〜5の鎖式アルコール類;
(2)多価アルコール類:
エチレングリコール(エタンジオール)、プロパンジオール(1,2−、1,3−)、ブタンジオール(1,2−、1,3−、1,4−)、1,5−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール等のアルカンジオール類;
ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のアルカンジオールの縮合体;
グリセリン、トリメチロールプロパン、1,2,6−ヘキサントリオール、チオジグリコール等のアルカンジオール類以外の多価アルコール類;
(3)グリコールエーテル類:
エチレングリコールのモノメチルエーテル;
ジエチレングリコールのモノメチルエーテル、モノエチルエーテル;
トリエチレングリコールのモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノブチルエーテル、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル;
テトラエチレングリコールのジメチルエーテル、ジエチルエーテル;
(4)カルボン酸アミド類:
N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド;
(5)複素環類:
テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル類;
2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルモルホリン等の含窒素複素環類;
スルホラン等の含硫黄複素環類;
(6)尿素類:
尿素、エチレン尿素、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(N,N≡−ジメチルエチレン尿素)等の尿素類;
(7)ケトン類:
アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;
4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン(ジアセトンアルコール)等のケトアルコール;
(8)アルカノールアミン類:
モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン;
(9)その他:
ジメチルスルホキシド、ビスヒドロキシエチルスルホン等の含硫黄化合物;
【0062】
前記水溶性有機溶媒の中では、多価アルコール類が好ましく、グリセリンが更に好ましい。グリセリンは揮発し難く、インクの固着を防止する効果に優れる点において好ましい。また、前記水溶性有機溶媒は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。例えばグリセリンと、グリセリン以外の多価アルコールおよび含窒素複素環類を併用することも好ましい。この際、グリセリン以外の多価アルコールとしてはトリエチレングリコール等を、含窒素複素環類としては2−ピロリドン等を用いることができる。このような混合溶媒はインクの増粘を防止する効果が高い点において好ましい。
【0063】
前記水溶性化合物の含有率は特に限定されない。但し、水性媒体の蒸発を防止し、乾燥によるインクの固着を防止する効果を得るために、インク全質量に対して10質量%以上とすることが好ましく、15質量%以上とすることが更に好ましい。一方、高い駆動周波数にも対応可能とし、また、カビの発生を防止する観点から、インク全質量に対して40質量%以下とすることが好ましく、30質量%以下とすることが更に好ましい。
【0064】
25℃で固体の水溶性化合物としては、尿素、エチレン尿素等を用いることが好ましく、エチレン尿素を用いることが好ましい。25℃で固体の水溶性化合物の含有率は特に限定されない。但し、水性媒体の蒸発を防止し、乾燥によるインクの固着を防止する効果を得るために、インク全質量に対して5質量%以上とすることが好ましく、9質量%以上とすることが更に好ましい。一方、過剰の添加による不具合を防止するため、インク全質量に対して30質量%以下とすることが好ましく、15質量%以下とすることが更に好ましい。
【0065】
[1−6]他の添加剤:
前記インクは、目的に応じて、界面活性剤以外の添加剤を含有していてもよい。そのような添加剤としては、例えばpH調整剤、防錆剤、防腐剤、防黴剤、酸化防止剤、還元防止剤、塩等を挙げることができる。
【0066】
[1−7]粘度:
本発明のインクセットは、前記インク(I)の粘度η1および前記インク(II)の粘度η2が、いずれも1.5mPa・s以上5.0mPa・s以下であることが好ましい。粘度を1.5mPa・s以上とすることにより、良好なインク滴を形成することができる。一方、5.0mPa・s以下とすることにより、インクの流動性が向上し、ノズルへのインク供給性、ひいてはインクの吐出安定性が向上する。前記効果をより確実に発揮させるためには、粘度を1.6mPa・s以上3.5mPa・s以下とすることが好ましい。さらに1.7mPa・s以上2.5mPa・s以下とすることがより好ましい。
【0067】
また、前記インク(I)の粘度η1と前記インク(II)の粘度η2の差が、0.3mPa・s以内であることが好ましい。粘度の差を0.3mPa・s以内とすることにより、インク(I)とインク(II)の吐出特性を揃えることができ、画像の印刷品位を向上させることができる。
【0068】
インクセットを構成する全てのインクの吐出特性を揃えるためには、前記インクセットを構成する複数種のインクの粘度ηが、いずれも1.5mPa・s以上5.0mPa・s以下であることが好ましく、1.6mPa・s以上3.5mPa・s以下とすることが更に好ましく、1.7mPa・s以上2.5mPa・s以下とすることが特に好ましい。また、前記複数種のインクから選択される2つのインクの粘度の差が、いずれも0.3mPa・s以内であることが好ましい。
【0069】
インクの粘度は、JIS Z 8803に準拠して、温度25℃の条件下、E型粘度計(例えば、東機産業製「RE−80L粘度計」等)を用い、測定した値を意味するものとする。インクの粘度は、界面活性剤の種類や量の他、水溶性有機溶媒の種類や量等により調整することができる。
【0070】
[1−8]表面張力:
本発明のインクセットは、前記インク(I)の表面張力γ1と前記インク(II)の表面張力γ2が、いずれも25mN/m以上45mN/m以下であることが好ましく、25mN/m以上35mN/m以下であることが更に好ましい。表面張力を25mN/m以上とすることにより、インク吐出口のメニスカスを維持することができ、インクがインク吐出口から流出してしまう不具合を防止することができる。表面張力を45mN/m以下とすることにより、吐出特性低下や記録媒体へのインク浸透速度低下による定着不良という不具合を防止することができる。
【0071】
また、前記インク(I)の表面張力γ1と前記インク(II)の表面張力γ2の差が、3.5mN/m以内であることが好ましく、3.0mN/m以内であることが更に好ましい。表面張力の差を3.5mN/m以内とすることにより、インク(I)とインク(II)の吐出特性を揃えることができ、画像の印刷品位を向上させることができる。
【0072】
インクセットを構成する全てのインクの吐出特性を揃えるためには、前記インクセットを構成する複数種のインクの表面張力γが、いずれも25mN/m以上45mN/m以下であることが好ましい。また、前記複数種のインクから選択される2つのインクの表面張力の差が、いずれも3.5mN/m以内であることが好ましく、いずれも3.0mN/m以内であることが更に好ましい。
【0073】
インクの表面張力は、温度25℃、湿度50%の条件下、自動表面張力計(例えば、協和界面科学製「CBVP−Z型」等)を用い、白金プレートを用いたプレート法により測定した値を意味するものとする。インクの表面張力は、界面活性剤の添加量、水溶性有機溶剤の種類及び含有量等により調整することができる。
【0074】
[1−9]pH:
本発明のインクセットを構成する各インクのpHは、6.5以上10.0以下であることが好ましく、7.0以上8.5以下であることが更に好ましい。pHを6.5未満とすると染料の溶解性が悪くなるという不具合を生ずる場合がある。pHを6.5以上とすることにより、そのような不具合を防止することができる。一方、pHは10.0を超えると、インクのpHが高すぎることによって、使用する装置の部材によっては、インクと接することによってケミカルアタックを引き起こし、これにより有機物や無機物がインク中に溶出することによって、結果として吐出不良を引き起こすという不具合を生じる場合がある。pHを10.0以下とすることにより、そのような不具合を防止することができる。
【0075】
[2]記録ヘッド:
本発明の記録ヘッドは、複数のライン型ヘッドが組み合わされたインクジェット記録用の記録ヘッドである。以下、本発明の記録ヘッドの一の実施形態について、図面を用いて説明する。但し、本発明の記録ヘッドは、以下に説明する構成に限定されるものではない。
【0076】
[2−1]ノズル部分の構造:
まず、ノズル部分の構造について図1A図1Cを用いて説明する。図1Aは記録ヘッドのノズルの内部構造を模式的に示す上面図である。図1B図1Aに示すノズルの内部構造を模式的に示す側面図である。図1C図1Aに示すノズルのインク吐出口を模式的に示す正面図である。
【0077】
サーマル方式の記録ヘッドは、図示のようにノズル壁153によって仕切られた複数のノズル流路159からなるノズル列が形成され、ノズル流路159に連通する複数のインク吐出口151が形成され、各々のノズル流路159の内部にインク吐出用のヒーター152が配置されている。このような構造のヘッドは、ノズル流路159内部に充填されたインクをヒーター152で加熱し、インクを発泡させることで、インク吐出口151からインクの液滴を飛翔させることができる。
【0078】
図示の形態では、ノズル流路159と共通液室112との間に、ヘッド内のインク流路中に浮遊する異物をトラップするためのノズルフィルター155が設置されている。また、ノズル天板162が貼り付けられる天板部材113は異方性エッチング等で形成されたインク供給開口(不図示)を備え、外部からのインクを共通液室112からノズル流路159に導入可能に構成されている。
【0079】
ノズル流路159はノズル壁153によって左右の両側面側が仕切られることに加えて、ノズル天板162によって上面側が、ノズル底板164によって底面側が仕切られている。即ち、ノズル流路159は、ノズル壁153、ノズル天板162およびノズル底板164を隔壁として周囲の空間から区画された略四角柱状の内部空間である。ノズル天板162は、Si等で構成される天板部材113に貼り付けられており、ノズル底板164はヒーター基板111に貼り付けられている。
【0080】
インク吐出口151はノズル流路159の一端に形成されるインクを吐出させる開口部であり、ノズル流路159を経由して共通液室112に連通されている。インク吐出口151はフェイス面に形成される。図示の例では、フェイス面はノズル壁153と一体的に形成されているが、別途フェイスプレートを設置してフェイス面を形成してもよい。インク吐出口151の開口面積は100μm2以上350μm2以下に構成される。開口面積を100μm2以上とすることで不吐ノズルの発生を防止することができる。一方、350μm2以下とすることで1つのインク液滴の量が10pL以下の微小液滴を形成させることができ、解像度を600dpi以上とすることができる。なお、前記開口面積は吐出口幅171と吐出口高さ172の積で表される。
【0081】
前記記録ヘッドは複数のノズル流路によってノズル列が形成されたライン型ヘッドである。ノズル列を形成するノズル流路の数は特に限定されない。但し、本発明の効果を発現させるためには、ノズル列の総ノズル数が1200以上であることが必要であり、1200以上9600以下であることが好ましく、1200以上4800以下であることが更に好ましい。また、ノズル列の長さが2インチ以上であることが必要であり、2インチ以上4インチ以下であることが好ましい。
【0082】
ヒーター152は、ノズル流路159に充填されたインクを加熱発泡させるための加熱手段である。ヒーター152はヒーター基板111に設置されている。ヒーター152としては抵抗体(例えばチッ化タンタル等からなる抵抗体)を用いることができる。ヒーター152には通電のためのアルミニウム等からなる電極(図示せず)が接続されており、その一方にはヒーター152への通電を制御するためのスイッチングトランジスタ(図示せず)が接続されている。スイッチトランジスタは制御用のゲート素子等の回路からなるICによって駆動を制御され、ヘッド外部からの信号によって、所定のパターンで駆動する。
【0083】
前記記録ヘッドは、駆動周波数1kHz以上10kHz以下で駆動させることが可能なものである。駆動周波数1kHz以上で駆動させることにより、1滴あたりのインク量が極めて小さい場合でも、単位時間あたりのインク付与量を増加させ、画像データ量、記録ドット数を増やすことができる。すなわち高画質の画像を高速で印刷することが可能となる。駆動周波数10kHz以下で駆動させることにより、前記のような高速印刷時にインク吐出量に対してノズルへのインク供給量が不足して吐出安定性が低下する不具合が抑制される。前記効果をより確実に得るためには、駆動周波数3kHz以上8kHz以下で駆動させることが可能なものであることが好ましい。また、本発明の記録ヘッドは、高い駆動周波数の下でも吐出安定性が低下し難く、ノズル不吐が発生し難いため、駆動周波数6kHz以上10kHz以下で駆動させることが可能なものであることも好ましい。
【0084】
ノズルの全長は200μm以上300μm以下とすることが好ましい。この場合の「ノズルの全長」とは、ノズル流路159の長さを意味し、具体的にはノズル流路159を構成するノズル壁153のインク吐出口151側の端部から共通液室112側の端部までの長さを意味する。
【0085】
ノズル流路159は、ヒーター中心157からインク吐出口151側の端部までの部分であるノズル前方部181と、ヒーター中心157から共通液室112側の端部までの部分であるノズル後方部182に区分される。吐出速度の観点から、ノズル前方部181の流抵抗(前方抵抗)と、ノズル後方部182の流抵抗(後方抵抗)は、前方抵抗/後方抵抗の値が0.3以上0.8以下であることが好ましい。なお、流抵抗は、流路断面積、流路長、吐出するインクの粘度等の値から、ハーゲン・ポアズイユの法則により計算で求めることができる。即ち、使用するインク(ひいてはその粘度)が定まれば、前方抵抗/後方抵抗の値は、ノズルの流路断面積、流路長等により調整することができる。
【0086】
[2−2]ノズル材:
ノズル流路159を仕切るノズル壁153、ノズル天板162、ノズル底板164は、例えば感光性樹脂により形成することができる。感光性樹脂としては、ネガ型フォトレジスト等を用いることができる。具体的な市販品としては、例えば「SU−8シリーズ」、「KMPR−1000」(以上、化薬マイクロケム社製)、「TMMR」、「TMMR S2000」、「TMMF S2000」(以上、東京応化工業社製)等を挙げることができる。中でも、耐溶剤性、ノズル壁としての強度に優れたエポキシ系感光性樹脂を用いることが好ましい。具体的な市販品としては、東京応化工業社製の「TMMR S2000」が特に好ましい。
【0087】
[2−3]親水性領域、撥水性領域:
本発明の記録ヘッドはインク吐出口の周縁に親水性領域または撥水性領域が形成されたものが好ましい。親水性領域と撥水性領域のいずれを形成するかは、使用するインクの色材の種類や表面張力を考慮して決定すればよい。
【0088】
例えば色材が顔料であるか、あるいは表面張力が34mN/m以下のインクを使用する場合には、インク吐出口の周縁に親水性領域が形成された記録ヘッド(親水性ヘッド)が好ましい。そして、インク吐出口の周縁に、使用するインクとの接触角が60°以下の親水性領域が形成されていることが好ましく、前記接触角が0°の(即ち、接触角を形成しない)親水性領域が形成されていることが更に好ましい。なお、親水性領域または撥水性領域の接触角はJIS R 3257に準拠して、接触角計(例えば、商品名「SImage−mini」、エキシマ社製等)を用い、ATAN1/2θ法により測定することができる。後述する実施例においても前記方法により接触角を測定している。
【0089】
前記親水性領域は、インク吐出口が形成されている部材(フェイス材)を親水性材料により構成する方法、前記フェイス材の表面(フェイス面)を親水処理する方法、前記フェイス面に親水性膜を付与する方法等により形成することができる。
【0090】
前記フェイス材としては、例えばエポキシ樹脂等の樹脂、特にエポキシ系感光性樹脂を用いることができる。
【0091】
フェイス面を親水処理する方法としては、フェイス面を粗面化する方法を挙げることができる。粗面化の方法としては、例えば、レーザー照射処理、UV/O3処理、プラズマ処理、加熱処理、酸化処理およびエンボス加工処理等を挙げることができる。レーザー照射処理には、エキシマレーザー、YAGレーザー、CO2レーザー等のレーザーを用いることができる。また、インク吐出口周縁部を親水性が高い液体に長時間浸漬する方法により処理してもよい。「親水性が高い液体」としては顔料インク等を挙げることができる。例えば、フェイス材を使用する顔料インク中に10分間以上、浸漬すればよい。
【0092】
フェイス面に親水性膜を付与する方法としては、フェイス面に金属膜や親水性の樹脂膜を形成する方法を挙げることができる。親水性膜は、親水性を有するのは勿論のこと、フェイス材に対する付着性が良好な材料により形成することが好ましい。そのような材料としては、水溶性樹脂および水不溶性低分子化合物を含む組成物等を挙げることができる。例えば、水溶性樹脂(ヒドロキシプロピルセルロース等)と水不溶性低分子化合物(ビスフェノールA等)を、適当な溶媒(ジメチルホルムアミド等)に溶解させ、その溶液をフェイス面に塗布し、乾燥させ、必要に応じてアルコール等で処理することにより、親水性膜を形成することができる。
【0093】
親水性領域の形成は、前記方法の中からフェイス材を構成する材質に応じて適宜選択すればよい。また、親水性領域の形成は、前記方法を2種以上組み合わせて行ってもよい。前記方法の中では、ノズル周辺部をエポキシ系感光性樹脂により構成するとともに、前記ノズル周辺部をUV/O3処理し、更に顔料インク中に浸漬することにより親水化処理する方法が好ましい。
【0094】
また、例えば色材が染料であり、かつ、表面張力が34mN/m超のインクを使用する場合には、インク吐出口の周縁に撥水性領域が形成された記録ヘッド(撥水性ヘッド)が好ましい。そして、インク吐出口の周縁に、使用するインクとの接触角が90°以上の撥水性領域が形成されていることが更に好ましく、使用するインクとの接触角が100°以上の撥水性領域が形成されていることが特に好ましい。
【0095】
撥水性領域は、インク吐出口が形成されている部材(フェイス材)の表面(フェイス面)に撥水性膜を付与する方法等により形成することができる。
【0096】
フェイス面に撥水性膜を付与する方法としては、フェイス面に超撥水性の樹脂膜を形成する方法を挙げることができる。超撥水性の樹脂膜は、従来公知の方法により形成することができる。例えば、フェイス面にフッ素樹脂、シリコーン樹脂等を塗工して樹脂膜を形成する方法、フェイス面においてフッ素系モノマーをプラズマ重合させてフッ素樹脂膜を形成する方法等を挙げることができる。また、フェイス面に撥水撥油性の樹脂膜を形成する方法を採用してもよい。例えばフルオロ炭素化合物を重合させたフッ素樹脂からなる膜を形成する方法等を挙げることができる。中でも、フッ素系溶媒(旭硝子製「CXT−809A」、住友スリーエム製「<ノベック>HFE−7100」、「<ノベック>HFE−7200」、「<ノベック>HFE−71IPA」等)に、含フッ素シリコーンカップリング剤(例えば、信越化学製「KP−801M」等)を溶解させた溶液を調製し、この溶液をフェイス面に加熱蒸着させることにより、撥水性膜を形成する方法が好ましい。
【0097】
[2−4]記録ヘッドの全体構造:
次に、記録ヘッドの全体構造について図2A図2Cを用いて説明する。図2A図2Cに示すような構造の記録ヘッドは、特開2013−014111号公報に開示されている。従って、本願明細書においては前記公報の内容を引用することとし、その概略を説明するに留める。なお、図2Aは、本発明の記録ヘッドを模式的に示す正面図であり、図2Bは、図2AのA−A断面図であり、図2Cは、図2AのB−B断面図である。説明の便宜上、正面図において液体供給ケースカバーは省略している。
【0098】
本発明の記録ヘッドは、図示のように、ライン型ヘッドが、ノズル列を形成する複数のノズル流路と連通する共通液室112と、共通液室112と連通する液体供給口127と、液体供給口127と連通するメイン液体供給室126と、メイン液体供給室126と連通する液体供給路137と、液体供給路137と連通する液体供給室(第一液体供給室134、第二液体供給室135)と、液体供給室を液体供給の際の流れに沿って上流側より第一液体供給室134と第二液体供給室135とに分離するように配設された供給フィルター118と、メイン液体供給室126の一部に設けられた気液分離部120と、気液分離部120と連通する空気室141と、を備えていることが好ましい。
【0099】
そして、ノズル流路と、共通液室112と、液体供給口127と、メイン液体供給室126と、液体供給路137と、液体供給室(第一液体供給室134、第二液体供給室135)と、供給フィルター118と、気液分離部120と、空気室141とが、ノズル流路の配列方向と液体の吐出方向を含む平面に対して、平行平面上に配置され、メイン液体供給室126と、液体供給路137と、供給フィルター118と、気液分離部120と、空気室141とが、各々積層されることなく配置されていることが好ましい。
【0100】
図2A図2Cに示すような構造の記録ヘッドは、気液分離型の記録ヘッドと称される。気液分離型の記録ヘッドはインクの自重を利用してノズル内にインクを充填するため、従来構造の記録ヘッドと比較して吐出安定性を確保することが極めて困難である。従って、気液分離型の記録ヘッドは本発明の効果を最も享受することができる形態の一つであると言える。
【0101】
セラミック製のベースプレート110はシリコンにより形成されるヒーター基板111を支持している。ヒーター基板111には、液体の吐出エネルギー発生素子としての複数の電気熱変換体(ヒーターまたはエネルギー発生部)とこれらの電気熱変換体に対応するノズルを構成するための複数の流路壁とが形成されている。また、ヒーター基板111には各ノズルに連通する共通液室112を囲む液室枠も形成されている。このように形成されたノズルの側壁および液室枠の上には、共通液室112を形成する天板部材113が接合されている。したがって、ヒーター基板111と天板部材113は互いに一体化した状態でベースプレート110に積層接着されている。このような積層接着は、銀ペーストなどの熱伝導率のよい接着剤によって行われる。ベースプレート110におけるヒーター基板111の後方には、実装済みの電気配線基板(PCB114)が両面テープ(図示せず)により支持されている。ヒーター基板111上の各吐出エネルギー発生素子とPCB114とは、各々の配線に対応するワイヤボンディングにより電気的に接続されている。
【0102】
天板部材113上面には、液体供給部材115が接合されている。液体供給部材115は液体供給ケース116と液体供給ケースカバー117より構成されており、液体供給ケースカバー117が液体供給ケース116の上面を塞ぐことにより、後述する液室や液体供給路が形成される。液体供給ケース116と液体供給ケースカバー117の接合は、例えば熱硬化型の接着剤などにより行われる。また、液体供給ケース116には供給フィルター118および排出フィルター119が配設されている。供給フィルター118は液体供給部材115に供給された液体中の異物の除去を目的とし、排出フィルター119は記録ヘッド外部からの異物の侵入を防止することを目的とする。各々のフィルターは熱溶着によって液体供給ケース116に固定されている。さらに液体供給ケース116の一部には気液分離部120が形成され、気液分離部120に突出する形で外部より液面検知センサ121が実装されており、上述したような液室内の液体量の制御を行う。
【0103】
ここで、液体供給ケースと116液体供給ケースカバー117の2つの部品の嵌合により形成される液室および液体供給路等の構成について説明する。液体供給ケース116の天板部材113との接合面には、ノズルの配列方向と略平行かつノズル列の幅に渡って矩形状の開口部である液体供給口127が形成されており、液体供給口127の延長上には貯留室状のメイン液体供給室126が形成されている。すなわち、メイン液体供給室126はノズル列と略平行かつノズル列の幅に渡って形成されている。また、液体供給口127と対向側の天面は、ほぼ全域にわたって気液分離部120を最上部とした傾斜(メイン液体供給室傾斜129)を構成している。メイン液体供給室傾斜129には2つの開口部が形成されており、1つは液体連通部131、他方は気液分離部120である。
【0104】
気液分離部120はメイン液体供給室126の一部として形成され、メイン液体供給室126の他の部分よりも深さが大きくなっている。これは、後述するように液室内の液体に混在する気泡を破泡する効果を高めるためである。図示の形態においては、気液分離部120の内部にステンレスの電極を3本実装しており、図中左側より上限検知電極123、グランド電極124、下限検知電極125である。グランド電極124と上限検知電極123間の通電、グランド電極124と下限検知電極125間の通電により、メイン液体供給室126内の液面を上限と下限の間に維持する構成となっている。図示の形態のインクジェットヘッドにおいては、気液分離がなされた液体の液面を検知することで、検知の信頼性を向上させることが可能である。
【0105】
気液分離部120の延長上にはエア連通部130があり、その先はエア流路として機能する空気室141となる。さらに先には前述した排出フィルター119が配設されており、排出ジョイント133に連通する。排出フィルター119は撥水性を有する材質によって構成されており、万が一エア流路(空気室141)に液体が流入し、排出フィルター119にインクが付着することで、フィルター内部にインクのメニスカスが形成されても、その撥水性によってフィルター部の毛管力を低減することができ、インクを容易に除去することができる。
【0106】
一方、メイン液体供給室傾斜129に設けられた液体連通部131を介して液体供給路137が設けられている。液体供給路137は、液体連通部131から供給フィルター118近傍まで管状を成しており、メイン液体供給室126とほぼ同一平行平面上に形成される。供給フィルター118もまた、メイン液体供給室126と略同一平行平面上に配置されている。供給フィルター118は液体供給室を二室に分離するように配設され、供給ジョイント132に連通する側の室、すなわち記録ヘッド内の液体供給の流れに沿って上流側の室が第一液体供給室134、下流側の室が第二液体供給室135となっている。供給フィルター118はメイン液体供給室126と略同一平行平面上に配置されているため、供給フィルター118の両面に隣接する第一液体供給室134および第二液体供給室135もまた、メイン液体供給室126やインク吐出口配列面139とほぼ平行平面上に配置されることになる。
【0107】
第二液体供給室135は供給フィルター118上方に開口(以下、第二液体供給室開口136という)があり、これを介して液体供給路137に連通している。また、第二液体供給室135の天面はこの開口を最上部とする傾斜(以下、第二液体供給室傾斜138という)が形成されている。
【0108】
以上のように、メイン液体供給室126、気液分離部120、液体供給路137、供給フィルター118、第一液体供給室134、第二液体供給室135は、各々インク吐出口配列面139と略平行平面上に設定される。一方でA−A断面に示すように、メイン液体供給室126、液体供給路137、供給フィルター118、気液分離部120は互いに平面の鉛直方向に重ならないように配置することが重要である。
【0109】
供給フィルター118は、フィルター孔径が1μm以上10μm以下、フィルター面積が10mm2以上500mm2以下のステンレス製メッシュであることが好ましい。フィルター孔径を1μm以上、フィルター面積を10mm2以上とすることで、流路抵抗(圧力損失)を低減させ、記録ヘッドの内の気泡を移動し易くすることができる。前記効果をより確実に得るためには、フィルター面積を200mm2以上とすることが更に好ましい。一方、フィルター孔径を10μm以下とすることでノズルへのゴミの流入を確実に防止することができ、フィルター面積を500mm2以下とすることで記録ヘッドを小型化することができる。前記効果をより確実に得るためには、フィルター孔径を3μm以上8μm以下とすることが更に好ましい。
【0110】
[2−5]インクの充填:
本発明の記録ヘッドにおいては、前記ライン型ヘッドの前記インク吐出口と連通する内部空間に、インクジェット記録用のインクが充填されている。インクは、前記内部空間のうち、少なくともインク吐出口から共通液室までの部分(即ち、ノズル流路および共通液室)に充填されていることが好ましい。
【0111】
既述のように、本発明の記録ヘッドは複数のライン型ヘッドが組み合わされたものである。そして、1つのライン型ヘッドに1色のインクのみが充填され、複数のライン型ヘッドの各々に色相の異なるインクが充填されることによって、前記記録ヘッド中に複数色のインクが組み合わされたインクセットが構成されている。本発明の記録ヘッドは、前記インクセットとして、本発明のインクセットを用いるものである。
【0112】
[3]インクジェット記録装置:
本発明のインクジェット記録装置は、インクジェット記録用の記録ヘッドと、前記記録ヘッドに供給するインクを収容するインク収容部とを備えたインクジェット記録装置である。そして、前記記録ヘッドが、本発明の記録ヘッドであり、複数のライン型ヘッドの各々に対応する複数のインク収容部を備えていることを特徴とするものである。前記インク収容部の形態は特に限定されない。例えば図3に示すようなインクタンク等を挙げることができる。
【0113】
[3−1]インクタンク:
図3はインクタンクの拡大断面図である。インクタンク230は液体収容容器であり、その内部にはインクを収容する液室(インク室231)が形成されている。インク室231は、ジョイント部232のみにおいて外部と連通可能な閉空間となっている。インクタンク230は、記録ヘッドに対して着脱可能に構成されている。また、インクタンク230は、記録ヘッドの上部に備えられている。インク室231は柔軟性のある部材により形成されており、その内部には負圧発生用のバネ233−1と、バネ233−1に接続された圧力板233−2が内蔵されている。バネ233−1は、圧力板233−2を介してインク室231を内部から外部に向かって付勢し、インク室231の内部空間を拡大させる。即ち、バネ233−1はインク室231の内部に所定の負圧を発生させており、バネ233−1、圧力板233−2及びインク室231は一体となって負圧発生部233を構成している。ジョイント部232には不織布製のフィルター234が備えられている。
【0114】
図4は記録ヘッドの拡大断面図である。記録ヘッド220は、電気熱変換素子(インク吐出用のヒーター)などのエネルギー発生素子(不図示)を備えている。このエネルギー発生素子によって、インク室221内のインクI(液室内の液体)は吐出口220Aから吐出される。インク室221には、インクIと共に空気(気体)が存在する。したがって、インク室221内には、インクIが収容されたインク収容部(液体収容部)と、空気(気体)が収容された空気収容部(気体収容部)と、が形成されることになる。
【0115】
インク室221の上部には、インク室221とインクタンクのインク室を連通させるためのインク供給部222が設けられている。インク供給部222の平均的な幅は10mm程度である。また、インク供給部222の開口部にはフィルター部材223が備えられている。図示のフィルター部材223は、SUS製のメッシュにより形成されている。そのメッシュは金属繊維を織り込んだ構造となっている。フィルター部材223が細かい目を持つことにより、外部から記録ヘッド内にゴミが侵入し難くなる。
【0116】
フィルター部材223の下面は、インクを保持可能なインク保持部材224に圧接されている。図5A図4に示すインク保持部材の拡大斜視図であり、図5B図5Aに示すインク保持部材のVb−Vb断面図である。図5Aおよび図5Bに示すように、インク保持部材224には断面円形の流路224Aが複数形成されている。それぞれの流路224Aの口径は1.0mm程度である。
【0117】
また、図4に示すように、インク室221の上部には、開口部225が設けられている。開口部225にはフィルター226が備えられている。開口部225は外部の流路である移送部(不図示)に接続することが可能に構成されている。この移送部は液体及び/又は気体を移送することが可能な流路である。開口部225は、インク室221内のインクI及び/又は気体を外部に流出させ、或いは記録ヘッド220の外部の液体(インクなど)及び/又は気体をインク室221内に流入させることが可能に構成されている。即ち、開口部225は、液体を単独で流出・流入させるのみならず、液体とともに気体を流出・流入させることが可能に形成されている。
【0118】
図3に示すインクタンク230のジョイント部232と、図4に示す記録ヘッド220のインク供給部222とを連結させることにより、図3に示すインクタンク230と、図4に示す記録ヘッド220が直接的に接続される。この際、図3に示すインクタンク230のフィルター234と、図4に示す記録ヘッド220のフィルター部材223とは、上下から相互に圧接された状態となっている。このように形成されたインクタンクと記録ヘッドとの連結部は、その周囲をゴム製の弾性キャップ部材で囲むことにより、密閉性が維持される。前記のように記録ヘッドとインクタンクが直接的に接続された構造は、それらの間のインク供給路(液体供給路)を極めて短くすることができる点において好ましい。
【0119】
[3−2]記録装置の全体構成:
インクジェット記録装置のその他の構造等については特に限定されない。例えば図6に示すような記録装置300を好適に用いることができる。
【0120】
図6は、インクジェット記録装置の全体構成を模式的に示す概略構成図である。記録装置300には、外部のホスト装置(コンピュータ装置308)が接続されている。記録装置300は、コンピュータ装置308から入力された記録データに基づいて記録ヘッド305からインクを吐出し、画像を記録することができるように構成されている。
【0121】
記録装置300においては、記録媒体301として複数のラベルが仮付けされたラベル用紙を用いている。記録媒体301はロール状に巻回された状態でセットされている。但し、本発明のインクジェット記録装置においては、記録媒体として、紙のみならず、布、プラスチックフィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等のインクを受容可能な媒体であれば、材質を問わず使用することができる。
【0122】
記録装置300は、記録媒体301を搬送する搬送手段として、搬送モータ303、搬送ローラ302、ロータリーエンコーダ310およびロールモータ311を備える。搬送モータ303により搬送ローラ302を駆動させることで、矢印A方向に向かって一定の速度で記録媒体301を搬送することができる。ロータリーエンコーダ310によって記録媒体301の搬送速度や搬送量を検出することができる。ロールモータ311によって矢印A方向とは逆方向に記録媒体301を巻き戻すことができる。用紙検知センサ304は記録媒体301の特定部分を検出するセンサである。図示の例ではラベル用紙に仮付けされた個々のラベルの先端を検出している。前記検出に基づいて画像の記録タイミングを決定することができる。
【0123】
記録装置300は、その上部に4つの記録ヘッド305と、これらに対応するインクタンク306を備えている。前記4つの記録ヘッドは、それぞれブラック、シアン、マゼンタ、イエローのインクを吐出するための記録ヘッドである。
【0124】
記録ヘッド305は、記録媒体301の最大幅記録幅よりも幅広に構成された、いわゆるライン型ヘッドであり、インクを吐出可能な複数のノズルを備えている。ノズルのインク吐出口は記録ヘッド305の下面側に開口している。記録ヘッド305は、その長手方向が記録媒体301の搬送方向と交差する方向(図中の矢印Aに直交する方向)に沿うように配置されており、前記長手方向に沿って複数のノズルが配列されてノズル列が形成されている。
【0125】
記録装置300においては、搬送モータ303によって搬送ローラ302が駆動され、搬送ローラ302によって記録媒体301が矢印A方向に定速度で搬送される。用紙検知センサ304によって記録媒体301の特定部分が検出されると、その検知位置を基準として4つの記録ヘッド305のインク吐出口から順次、インクが吐出される。この際、インクはインクタンク306から記録ヘッド305に供給される。このように、記録媒体301が記録ヘッド305の下部を通過するときに、それらの記録ヘッド305の複数のノズルからインクが吐出され、記録媒体301に画像が記録される。なお、記録ヘッド305はライン型ヘッドであるため定位置に固定された状態でインクを吐出する。即ち、シリアルヘッドのように左右に往復しながら、インクを吐出することはない。
【0126】
記録装置300は、記録ヘッド305の回復動作を行うための回復機構として、キャッピング機構307、ブレード309などを備えている。
【0127】
回復動作とは、記録ヘッド305が初期状態と同様の適正な吐出性能を発揮するように回復させるための動作である。例えば吸引回復、加圧回復、予備吐出、ワイプ回復等の動作を挙げることができる。吸引回復とは、記録ヘッド305のノズル内の増粘インクをキャッピング機構307に吸引除去する動作であり、加圧回復とは、記録ヘッド305のノズル内の増粘インクをキャッピング機構307に加圧排出する動作であり、予備吐出とはノズル内の増粘インクを吐出によりキャッピング機構307に排出しインクのメニスカスを安定させる動作であり、ワイプ回復とは、記録ヘッドのフェイス面をブレード309により払拭し、フェイス面に付着したゴミやインクを除去する動作である。これらの回復動作は組み合わせて実施することもできる。
【0128】
キャッピング機構307は、各々の記録ヘッド305のインク吐出口をキャッピングする機構であり、記録ヘッド305の下部に配置されている。記録ヘッド305とキャッピング機構307は、図6の左右方向に相対移動させることが可能に構成されている。一方、ブレード309は、各々の記録ヘッド305のフェイス面を払拭する部材であり、記録ヘッド305の下部に配置されている。
【0129】
吸引回復を行う場合には、記録ヘッド305をキャッピング機構307によりキャッピングした状態で、チューブポンプ(不図示)により、キャッピング機構307のバッファータンク(不図示)の内部を減圧する。これにより、記録ヘッド305のノズル内の増粘したインクをキャッピング機構307に吸引除去し、ノズル内をリフレッシュする。
【0130】
加圧回復を行う場合には、記録ヘッド305をキャッピング機構307によりキャッピングした状態で、記録ヘッド305のノズル内を加圧する。これにより、ノズル内の増粘したインクをキャッピング機構307のキャップ内に加圧排出し、ノズル内をリフレッシュする。
【0131】
ワイプ回復を行う場合には、ブレードモータ(不図示)によりブレード309を駆動させ、記録ヘッド305のノズルのフェイス面を払拭し、さらに加圧回復(予備吐出)を行う。これにより、ノズルのフェイス面がクリーニングされ、インク吐出口におけるメニスカスが整えられる。
【0132】
なお、これらの回復動作によりキャッピング機構307に蓄積されたインクは、所定の量まで蓄積された段階で、チューブポンプ(不図示)により吸引され、廃インクタンク(不図示)に廃棄される。
【0133】
[3−3]制御系:
次に、インクジェット記録装置の制御について説明する。図7は、図6に示す記録装置の制御系のブロック構成図である。前記記録装置は、記録ヘッドを含む記録機構に加えて、CPU(中央処理装置)、USBインターフェース部、ROMなどの制御系部品を備えている。CPU401は、プログラムROM402に記憶されているプログラムを実行して、前記記録装置の各部を制御する。プログラムROM402には、前記記録装置を制御するプログラムやデータが格納される。前記記録装置の処理は、CPU401がプログラムROM402内のプログラムを読み出して実行することにより実現される。
【0134】
コンピュータ装置308から出力された記録データは、前記記録装置のインターフェース・コントローラ403に入力される。記録媒体(ラベル)の枚数、種類およびサイズ等を指示するコマンドも、インターフェース・コントローラ403に入力され、解析される。CPU401は、これらのコマンドの解析の他、記録データの入力、記録動作、記録媒体のハンドリング等、記録装置全般の制御を司るための演算処理を実行する。前記演算処理は、プログラムROM402に記憶された処理プログラムに基づいて実行される。前記プログラムは、後述する図8に示すフローチャートの手順に対応するプログラムを含む。また、CPU401の作業用のメモリとして、ワークRAM404が使用される。EEPROM405は書き換え可能な不揮発性メモリである。このEEPROM405には、前回の回復動作を実施した時刻、複数の記録ヘッドの相互の距離および搬送方向における記録位置を微調整(縦方向のレジストレーション)するための補正値等、前記記録装置に固有のパラメータが記憶される。
【0135】
より具体的には、CPU401は、入力されたコマンドを解析した後、記録データの各色成分のイメージデータをイメージメモリ406にビットマップ展開する。このデータに基づいて描画が行われる。また、CPU401は、入出力回路407およびモータ駆動部408を介して、搬送モータ303、ロールモータ311、キャッピングモータ409、ヘッドモータ410およびポンプモータ418を制御する。キャッピングモータ409はキャッピング機構307を駆動するためのモータであり、ヘッドモータ410は記録ヘッド305K、305Y、305M、305Cを移動させるためのモータであり、ポンプモータ418はチューブポンプを駆動するためのモータである。記録ヘッド305K、305Y、305M、305Cは、キャッピング位置、記録位置および回復位置の間で移動される。キャッピング位置はキャッピング機構307によってキャッピングされる位置、記録位置は画像を記録するための位置、回復位置は回復動作を行うための位置である。
【0136】
記録装置により画像を記録する際には、図6に示すように搬送モータ303により搬送ローラ302を駆動して、記録媒体301(図示の例ではラベル用紙)を一定の速度で搬送する。そして、ロータリーエンコーダ310によって記録媒体301の搬送速度や搬送量を検出する。図7に示す制御系においては、この一定速度で搬送される記録媒体に対する画像の記録タイミングを決定するために、用紙検知センサ304によってラベルの先端を検出する。用紙検知センサ304の検出信号は、入出力回路411を介してCPU401に入力される。搬送モータにより記録媒体が搬送されると、ロータリーエンコーダ(不図示)の信号に同期して、CPU401がイメージメモリ406から色毎のイメージデータを順次読み出す。前記イメージデータは、記録ヘッド制御回路412を介して、対応する記録ヘッド305K、305Y、305M、305Cのいずれかに転送される。これにより、記録ヘッド305K、305Y、305M、305Cが、前記イメージデータに基づいてインクを吐出する。
【0137】
ポンプを駆動するためのポンプモータ413は、入出力回路407およびモータ駆動部408を介してその駆動を制御される。操作パネル414は入出力回路415を介してCPU401に接続される。また、前記記録装置の環境温度と環境湿度は温湿度センサ416によって検出され、A/Dコンバーター417を介してCPU401に入力される。
【0138】
[3−4]回復シーケンス:
環境温度が40℃以上となり、水が蒸発した場合には、記録ヘッドにインクの固着が発生しやすくなる。従って、記録ヘッドからヘッドキャップが外れたヘッドオープンの状態で、かつ、水分が蒸発した場合には記録ヘッドのフェイス面を回復する回復シーケンスを入れることが好ましい。
【0139】
図8は、記録ヘッドの回復シーケンスの工程を示すフローチャートである。図8に示す回復シーケンスは、記録ヘッドがキャップから開放されたキャップオープンの条件(条件501)となると発動する。回復シーケンスが発動すると、温湿度センサにより記録装置の環境温度および環境湿度が取得(検出)される(工程502)。前記検出の結果、環境温度が40℃以上、環境湿度が70%以下であり(条件503)、かつ、前回の吸引回復からの累計時間が1時間以上となった場合(条件504)、ノズル内のインクをリフレッシュするための加圧回復(予備吐出)と、フェイス面を払拭しクリーニングするためのワイプ回復が行われる(工程505)。なお、条件504は、吸引回復が行われた場合にはリセットされる。
【0140】
[4]インクジェット記録方法:
本発明のインクジェット記録方法は、本発明のインクジェット記録装置を用い、前記記録ヘッドから前記インクセットのインクを吐出させて記録を行うことを特徴とするものである。この記録方法によれば、インクセットの各インクを均一に吐出させることができ、画像の印刷品位の低下を効果的に防止することができる。
【実施例】
【0141】
以下、実施例および比較例により、本発明を更に具体的に説明する。但し、本発明は、下記の実施例の構成のみに限定されるものではない。なお、以下の記載における「部」、「%」は特に断らない限り質量基準である。
【0142】
(染料の疎水性の評価)
以下の実施例および比較例においては、染料として、C.I.ダイレクトブルー199(DBL199)、前記式(4)で表される化合物M1、C.I.ダイレクトイエロー86(DY86)を用いた。前記染料については、染料の5質量%水溶液に、前記化合物C3を前記水溶液の1質量%相当量添加した評価液を調製した。化合物C3としては、川研ファインケミカル製「アセチレノールE100」(U+Vの平均値が10)を用いた。
【0143】
各評価液については、表面張力γLを測定し、各染料の評価液の表面張力γLと各評価液の表面張力差γL1−γL2を算出し、以下の評価基準により評価した。その結果を表1に示す。
○:γL1−γL2<10(mN/m)。染料の疎水性の程度(界面活性剤との疎水性相互作用)に大きな差がない。
×:γL1−γL2≧10(mN/m)。染料の疎水性の程度(界面活性剤との疎水性相互作用)が大きく異なる。
【0144】
【0145】
表1に示すように、DBL199とDY86は染料の疎水性の程度に大きな差がないと言える。一方、化合物M1は疎水性が高く、DBL199と化合物M1、DY86と化合物M1は染料の疎水性の程度が大きく異なると言える。以下、疎水性の程度に大きな差があるDBL199と化合物M1を用いてインク1〜10を調製した。
【0146】
(インク1)
インク1は、以下の方法により調製した。DBL199(3.5部)、アセチレングリコール(EO付加数10)0.2部、グリセリン7.0部、エチレン尿素9.0部、2−ピロリドン5.0部、トリエチレングリコール3.0部、水72.3部を混合し、水酸化ナトリウム水溶液により、pHを8.0に調整した。その後、十分に攪拌して溶解し、ポアサイズ0.2μmのミクロフィルタ(富士フイルム製)を用いて加圧ろ過を行い、インク1を調製した。アセチレングリコール(EO付加数10)としては、川研ファインケミカル製「アセチレノールE100」(U+Vの平均値が10)を用いた。インク1については、粘度ηおよび表面張力γを測定した。その結果を表2に示す。
【0147】
【0148】
(インク2〜9)
インクの構成成分を表2に記載の成分に変更したこと以外はインク1の調製と同様にしてインク2〜9を調製した。アセチレングリコール(EO付加数6)としては、川研ファインケミカル製「アセチレノールE60」(U+Vの平均値が6)を用いた。アセチレングリコール(EO付加数4)としては、川研ファインケミカル製「アセチレノールE40」(U+Vの平均値が4)を用いた。インク2〜9についても、粘度ηおよび表面張力γを測定した。その結果を表2に示す
【0149】
(記録ヘッド)
インクジェット記録装置としては、図6に示す記録装置300、具体的にはサーマル方式のインクジェット記録装置(キヤノンファインテック社製「LXD−5500」)を用いた。記録ヘッドとしては、前記インクジェット記録装置用の記録ヘッドを用いた。図1A図1Cに示すノズル構造を有し、図2A図2Cに示す全体構造を有する記録ヘッドを作製した。インク吐出口の開口面積は225μm2とし、4800個のノズルがノズル列を形成する構造とした。ノズル列の長さは4インチとした。ヘッドの解像度は1200dpiとした。この記録ヘッドはインク吐出口の周縁に撥水性領域が形成されている。
【0150】
(実施例1)
前記インク1と前記インク5を組み合わせて2色のインクが組み合わされたインクセットとした。前記インク1と前記インク5は、各々インクタンクに注入し、前記インクタンクを、図6に示す記録装置300に接続し、吸引動作により記録ヘッドのノズル流路内に前記インク1および前記インク5を充填した。
【0151】
(実施例2〜5、比較例1〜8)
2色のインクの組み合わせを表3に記載の組み合わせに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、インクの充填を行った。
【0152】
実施例および比較例のインクセットについては、以下の方法により、インク間の濡れ性の差により画像品位の低下が起こるか否かの評価を行った。その結果を表3に示す。
【0153】
(画像品位の評価)
表3に記載のインクセットをインクカートリッジに装填し、前記記録装置(キヤノンファインテック製「LX−D5500」)にて各インクの50%dutyのベタ画像を形成した。印刷は搬送速度150mm/sおよび50mm/sで連続印刷を行った。その際の記録ドット配置は1200×1200dpiのマトリックス単位において、同一のインクが隣接しないような千鳥配置とし、インク間で同一点に着弾することがないように配置し、インクセットが合計100%のベタ画像を形成した。記録媒体は、前記記録装置(キヤノンファインテック製「LX−D5500」)に付属するマットラベル(4×5インチ)および合成紙ラベル(4×5インチ)を使用した。連続印刷は4×5インチラベル100枚毎に白モヤと色ムラを評価し、1000枚まで連続して印刷し評価した。
○:1000枚印刷しても白モヤや色ムラは殆ど発生しない。
△:1000枚印刷中に若干紙の繊維に沿って白モヤや色ムラが発生しているが、実質上問題のないレベルである。
×:1000枚印刷中に紙の繊維に沿って著しく白モヤや色ムラが発生。
××:1枚(印字初期)から色ムラが発生
【0154】
【0155】
表3に示すように、実施例1〜5のインクセットは、インク(I)とインク(II)でアセチレングリコール系界面活性剤のEO付加数に2以上7以下の差をつけている。このため、インク(I)とインク(II)の濡れ性が揃っており、色ムラや白モヤの発生による画像の印刷品位の低下は実質上問題のないレベルであり、いずれも評価は良好であった。すなわち、疎水性が高い染料(化合物M1)を含むインク(II)と、他の染料を含むインク(I)を均一に吐出させることができているものと考えられる。
【0156】
比較例1、3、6は、インク(I)とインク(II)でアセチレングリコール系界面活性剤のEO付加数に差をつけていない。このため、インク(I)とインク(II)との間で、表面張力の差、濡れ性の差が大きくなり、画像品位が低下した。比較例2、4、5は、インク(I)とインク(II)でアセチレングリコール系界面活性剤のEO付加数に差がついているが、γL1−γL2≧10の関係にあるとき、S2−S1<0である。このため、インク(I)とインク(II)の表面張力差、濡れ性の差がより大きくなり、画像品位が低下した。
【0157】
比較例7はインク(I)とインク(II)でアセチレングリコール系界面活性剤のEO付加数の差が1であり、差が2以上となっていない。このため、インク(I)とインク(II)との間で表面張力差、濡れ性の差は小さくなるものの、画像品位は十分に満足できるものではなかった。比較例8は、インク(I)とインク(II)でアセチレングリコール系界面活性剤のEO付加数に差をつけていないものの、前記界面活性剤の量に差をつけている。しかし、インク(I)とインク(II)との間で、表面張力の差は小さくなったものの、粘度の差や濡れ性の差が大きくなり、画像品位が低下した。
【産業上の利用可能性】
【0158】
本発明は、疎水性の高い染料を含むインクセットに好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0159】
110:ベースプレート、111:ヒーター基板、112:共通液室、113:天板部材、115:液体供給部材、116:液体供給ケース、117:液体供給ケースカバー、118:供給フィルター、119:排出フィルター、120:気液分離部、121:液面検知センサ、123:上限検知電極、124:グランド電極、125:下限検知電極、126:メイン液体供給室、127:液体供給口、129:メイン液体供給室傾斜、130:エア連通部、131:液体連通部、132:供給ジョイント、133:排出ジョイント、134:第一液体供給室、135:第二液体供給室、136:第二液体供給室開口、137:液体供給路、138:第二液体供給室傾斜、139:インク吐出口配列面、141:空気室、151:インク吐出口、152:ヒーター、153:ノズル壁、155:ノズルフィルター、157:ヒーター中心、159:ノズル流路、162:ノズル天板、164:ノズル底板、171:吐出口幅、172:吐出口高さ、181:ノズル前方部、182:ノズル後方部、220:記録ヘッド、220A:吐出口、221:インク室、222:インク供給部、223:フィルター部材、224:インク保持部材、224A:流路、225:開口部、226:フィルター、230:インクタンク、231:インク室、232:ジョイント部、233:負圧発生部、233−1:バネ、233−2:圧力板、234:フィルター、300:記録装置、301:記録媒体、302:搬送ローラ、303:搬送モータ、304:用紙検知センサ、305、305K、305Y、305M、305C:記録ヘッド、306:インクタンク、307:キャッピング機構、308:コンピュータ装置、309:ブレード、310:ロータリーエンコーダ、311:ロールモータ、401:CPU、402:プログラムROM、403:インターフェース・コントローラ、404:ワークRAM、405:EEPROM、406:イメージメモリ、407:入出力回路、408:モータ駆動部、409:キャッピングモータ、410:ヘッドモータ、411:入出力回路、412:記録ヘッド制御回路、413:ポンプモータ、414:操作パネル、415:入出力回路、416:温湿度センサ、417:A/Dコンバーター、418:ポンプモータ、501:条件、502:工程、503:条件、504:条件、505:工程、I:インク。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8