(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6030610
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】回転電機の鉄心
(51)【国際特許分類】
H02K 1/16 20060101AFI20161114BHJP
H02K 21/12 20060101ALI20161114BHJP
【FI】
H02K1/16 C
H02K21/12 G
H02K21/12 M
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-172050(P2014-172050)
(22)【出願日】2014年8月8日
(65)【公開番号】特開2016-39767(P2016-39767A)
(43)【公開日】2016年3月22日
【審査請求日】2015年11月4日
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、権利譲渡・実施許諾の用意がある。
(73)【特許権者】
【識別番号】591040845
【氏名又は名称】後藤 一彦
(72)【発明者】
【氏名】後藤 一彦
【審査官】
小林 紀和
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−250667(JP,A)
【文献】
特開平10−042531(JP,A)
【文献】
特開2005−168269(JP,A)
【文献】
特開2004−153986(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/16
H02K 21/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3の倍数のステータ磁極数と2の倍数の磁極数であり、正弦波の配向を有するローターの磁極間に間隙の無い永久磁石ローターであり、ステータ磁極数とローター磁極数の比が3対2である回転電機の鉄心の、磁石面に対向するティースの面からバックヨークに至るまでの距離を中心線に対して左右対称のスリット2本でティースを3分割し、当該鉄心の円周360°を鉄心の磁極数で割った角度を磁極の単位角度θとし、そのθの4分の1の分割線をAとし、2分の1の分割線をBとして、ティースのスロット開口部の端と分割線Aの角度をθa1とし、スリット開口部の端と分割線Aの角度をθa2として、ティースの中央磁路のスリット開口部の端と分割線Bの角度をθbとして、θa1/θa2と2θa2/θbの値が等しくなる条件と、2θb/θa2とθa1/θa2の値の和と或いは、2θb/θa2と2θa2/θbの値の和が限りなく4に近くなる事を満たす事を特徴とする回転電機の鉄心に於いて、スリットにより分割された鉄心の磁気回路の磁気回路幅TAがバックヨーク厚さTをP22θa1/90で割った数値になる事を特徴とする回転電機の鉄心。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機及び発電機等の回転電機に於ける鉄心に関し、近年高効率化が要望される回転電機に於いて、回転電機のローターのコギングトルクを完全に消滅する事を実現し、理想的な回転特性を実現し性能を向上させる事により、高効率、小型で高出力を可能とする回転電機のステータ鉄心の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
周知の通り、回転電機に於いてローターのコギングトルクを低減して、安定した回転特性を実現する事が、回転電機の特性を向上させる為の重要な要素である。
【0003】
本件特許申請より先に、回転電機の鉄心に於いて、鉄心の磁極数が3極、磁石極数が2極等の最少極数の場合に於いて、コギングトルクの基本周波の第2高調波を発生させて、コギングトルクを低減し平滑化する技術が開示されている。(特許文献1)
【0004】
即ち、3の倍数のステータ磁極数と2の倍数の磁極数であり、正弦波の配向を有するローターの磁極間に間隙の無い永久磁石ローターであり、ステータ磁極数とローター磁極数の比が3対2である回転電機の鉄心に於いて、磁石面に対向するティースの面からバックヨークに至るまでの距離を中心線に対して左右対称のスリット2本でティースを3分割し、当該鉄心の円周360°を鉄心の磁極数で割った角度を磁極の単位角度θとし、そのθの4分の1の分割線をAとし、2分の1の分割線をBとして、ティースのスロット開口部の端と分割線Aの角度をθa1とし、スリット開口部の端と分割線Aの角度をθa2として、ティースの中央磁路のスリット開口部の端と分割線Bの角度をθbとして、θa1/θa2と2θa2/θbの値が等しくなる条件と、2θb/θa2とθa1/θa2の値の和と或いは、2θb/θa2と2θa2/θbの値の和が限りなく4に近くなる事を満たす事を特徴とする回転電機の鉄心が開示されている。
【0005】
即ち、上記の技術ではスリットにより磁気回路を分割して、鉄心の磁極数が3極、磁石極数が2極等の最少極数の場合に於いて、コギングトルクの基本周波の第2高調波を発生させてコギングトルクを低減し平滑化する技術が開示されている。
【0006】
しかし、上記の技術では、コギングトルクの基本周波の第2高調波を発生させてコギングトルクを低減し、平滑化するのが限界である。
【特許文献1】特願2010−135549
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の技術による回転電機の鉄心は次の点に於いて性能の向上が考えられる。
【0008】
特許文献1の技術による鉄心に於いては、磁極数が3極、磁石極数が2極等の最少極数に於いて、コギングトルクを完全に消滅させる事は不可能であり、実現されていない。
【0009】
本発明は、上記の問題点を解決する為の技術であり、ステータ磁極数とローター極数が最小値である3極と2極の場合に於いても、コギングトルク完全に消滅させて高効率、小型で高出力の回転電機を可能とする技術を提供する事にあります。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を解決するために、本発明は次の技術的手段を有する。
【0011】
即ち、実施例に対応する添付図面中の符号を用いて説明すると、本発明は、3の倍数のステータ磁極数と2の倍数の磁極数であり、正弦波の配向を有するローターの磁極間に間隙の無い永久磁石ローターであり、ステータ磁極数とローター磁極数の比が3対2である回転電機の鉄心の、磁石面に対向するティースの面からバックヨークに至るまでの距離を中心線に対して左右対称のスリット2本でティースを3分割し、当該鉄心の円周360°を鉄心の磁極数で割った角度を磁極の単位角度θとし、そのθの4分の1の分割線をAとし、2分の1の分割線をBとして、ティースのスロット開口部の端と分割線Aの角度をθa1とし、スリット開口部の端と分割線Aの角度をθa2として、ティースの中央磁路のスリット開口部の端と分割線Bの角度をθbとして、θa1/θa2と2θa2/θbの値が等しくなる条件と、2θb/θa2とθa1/θa2の値の和と或いは、2θb/θa2と2θa2/θbの値の和が限りなく4に近くなる事を満たす事を特徴とする回転電機の鉄心に於いて、スリットにより分割された鉄心の磁気回路の磁気回路幅T
Aがバックヨーク厚さTをP
22θa1/90で割った数値になる事を特徴とする回転電機の鉄心が考慮される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の上記構成に基づけば、3の倍数のステータ磁極数と2の倍数の磁極数の永久磁石ローターであり、ローター磁極数の1.5倍の極数がステータ磁極数になる場合に於いて、コギングトルクを完全に消滅せしめ、滑らかな回転特性を可能とする技術を提供する。
【0013】
即ち、コギングトルクを完全に消滅せしめた結果、回転特性の優れた高効率の回転電機を可能とする。
【0014】
又、ステータ鉄心の磁極数が3極、ローター極数が2極等の最少極数の場合に於いてもコギングトルクを完全に消滅せしめて、滑らかな回転特性を可能とし、高効率で超高速回転の回転電機を可能とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
上記構成に基づき添付図面に従い実施例を詳述する。
【0016】
図1は、実施例の一例を示したものである、即ち、3の倍数のステータ磁極数と2の倍数の磁極数であり、正弦波の配向を有する永久磁石ローターであり、ステータ磁極数とローター磁極数の比が3対2である回転電機の鉄心の、磁石面に対向するティースの面からバックヨークに至るまでの距離を中心線に対して左右対称のスリット2本でティースを3分割し、当該鉄心の円周360°を鉄心の磁極数で割った角度を磁極の単位角度θとし、そのθの4分の1の分割線をAとし、2分の1の分割線をBとして、ティースのスロット開口部の端と分割線Aの角度をθa1とし、スリット開口部の端と分割線Aの角度をθa2として、ティースの中央磁路のスリット開口部の端と分割線Bの角度をθbとして、θa1/θa2と2θa2/θbの値が等しくなる条件と、2θb/θa2とθa1/θa2の値の和と或いは、2θb/θa2と2θa2/θbの値の和が限りなく4に近くなる事を満たす事を特徴とする回転電機の鉄心に於いて、スリットにより分割された鉄心の磁気回路の磁気回路幅T
Aがバックヨーク厚さTをP
22θa1/90で割った数値になる事を特徴とする回転電機の鉄心である。(Pはローター極数)
【0017】
即ち、
図1によれば3の倍数のステータ磁極数と2の倍数の磁極数の永久磁石ローターであり、ステータ磁極数とローター磁極数の比が3対2である回転電機の鉄心に於いて3極のステータ磁極と2極の永久磁石ローターの実施例であり、磁石面に対向するティース2、の面からバックヨーク3、に至るまでの距離を中心線に対して左右対称のスリット4、2本でティースを3分割し磁気回路を形成した図である。
【0018】
更に、当該鉄心の円周360°を鉄心の磁極数で割った角度を磁極の単位角度θとし、そのθの4分の1の分割線をAとし、2分の1の分割線をBとして、ティースのスロット開口部の端と分割線Aの角度をθa
1とし、スリット開口部の端と分割線Aの角度をθa
2として、ティースの中央磁路のスリット開口部の端と分割線Bの角度をθbとして、θa
1/θa
2と2θa
2/θbの値が等しくなる条件と、2θb/θa
2とθa
1/θa
2の値の和と或いは、2θb/θa
2と2θa
2/θbの値の和が限りなく4に近くなる事を満たす事を特徴とする回転電機の鉄心に於いて、スリットにより分割された鉄心の磁気回路の磁気回路幅T
Aがバックヨーク厚さTをP
22θa1/90で割った数値になる事を特徴とする回転電機の鉄心である。(Pはローター極数)
【0019】
従来、コギングトルクの基本調波は、ステータ磁極と永久磁石ローター極数の最小公倍数になり、ステータ磁極数が3と永久磁石ローターが2極の場合6調波になります。
【0020】
次に、上記の特許文献1の発明によれば、鉄心に於ける30°毎のローター回転位置の磁気回路と磁力線を検証すると
図3と
図4の2種類の磁気回路である事が分かります。
【0021】
即ち、この2種類の磁気回路に於ける磁石による引力が等しくなり均衡した状態になる時に、第2高調波が発生しコギングトルクが最小になる事が考慮されます。
【0022】
即ち、
図3と
図4の場合に於いて、正弦波の配向を有する2極の磁石ローターのベクトル場をそれぞれ解析すると、当該鉄心の円周360°を鉄心の磁極数で割った角度を磁極の単位角度θとし、そのθの4分の1の分割線をAとし、2分の1の分割線をBとして、ティースのスロット開口部の端と分割線Aの角度をθa
1とし、スリット開口部の端と分割線Aの角度をθa
2として、ティースの中央磁路のスリット開口部の端と分割線Bの角度をθbとして、θa
1/θa
2と2θa
2/θbの値が等しいか、ほぼ等しくなる条件と、2θb/θa
2とθa
1/θa
2の値の和と或いは、2θb/θa
2と2θa
2/θbの値の和が限りなく4に近くなる事を満たした時に、
図3と
図4の2種類の磁気回路に於ける磁石による引力が等しくなり均衡した状態となりコギングトルクは最小値となります。
【0023】
即ち、
図3に示した磁力線L(一点鎖線)と磁力線M(破線)と磁力線S(実線)の磁力による引力の和と、
図4に示した磁力線L(一点鎖線)と磁力線M(破線)と磁力線S(実線)の引力の総和が等しくなり、この時、第2高調波が発生してローターのコギングトルクは最小値となります。
【0024】
次に、本件特許に於いて、この第2高調波の原因であるコギングトルクの差を無くしてコギングトルクを完全に消滅させる技術を詳述します。
【0025】
本件特許では、スリットにより分割された鉄心の磁気回路の磁気回路幅T
Aをバックヨーク厚さTをP
22θa1/90で割った数値にする事を特徴とする回転電機の鉄心です。(Pはローター極数)
【0026】
即ち、上記の公式を適用した磁気回路幅T
Aとする事で、0°と30°の位置で第2高調波を生じていたコギングトルクの数値を互いに減少させて、全てのローター回転位置に於いてコギングトルクの数値を一致させてコギングトルクを消滅させる事を実現します。
【0027】
即ち、
図5の様に本件特許の公式を適用した磁気回路幅T
Aとする事で、磁気回路T
Aを通る磁束に漏れ磁束を故意に作る事で、コギングトルクの数値が制御され全てのローター回転位置に於いて、コギングトルクの数値が一致してコギングトルクが完全に消滅します、図中の数値は、スリットにより分割された各磁気回路に該当するする磁束を、磁石の正弦波の配向の面積値を磁束の強さとしてで表しています。
【0028】
図5下の表1は、各磁気回路に該当する面積値と磁気回路の長さ比からコギングトルクを計算した数値であり、漏れ磁束はコギングトルクを生じ無い為に、コギングトルクの総数値から差し引かれます。
【0029】
即ち、
図5の様にステータ極数が3とローター極数が2の場合に仮にθa1を28.1°として、公式よりステータ鉄心を設計した場合に、T
AはTの約1/2.5になります。
【0030】
バックヨークTを通過する磁気回路L磁束の最大値は
図5の0°の状態に於いて、数値539.8(面積値)である事が分かります。
【0031】
従ってT
Aを通過する磁束の最大値は1/2.5の数値216になります。
【0032】
即ち、0°の位置に於いてはT
Aに該当する磁束の数値は、294.8(面積値)でありますから片側で78.8の漏れ磁束になります。
【0033】
従って、
図5の下表1のコギングトルクの総数値1918.5より漏れ磁束分を引いた数値1760.9が有効コギングトルク値になります。
【0034】
以下同様にして15°、30°を計算すると
図6の表2、
図7の表3の結果になります。(
図6、
図7はローターを固定しステータ鉄心を回転した図です。)
【0035】
ただし、
図6の漏れ磁束は、上部漏れ磁束78.4が下部のT
Aの狭い磁路で有効磁束に両側を挟まれ拘束される為に下部漏れ磁束は49.1になります、即ち29.3はコギングトルクとして働きます。
【0036】
以上詳述のとおり、有効コギングトルク数値は全ての回転位置に於いて、計算誤差を考慮して1761で一致し、コギングトルクは完全に消滅し、滑らかな回転が実現されます。
【0037】
上記の記述は実施例の一例であり、3の倍数のステータ磁極数と2の倍数の磁極数の永久磁石ローターであり、ステータ磁極数とローター磁極数の比が3対2である回転電機の鉄心であればどの様な極数でもよい、又、鉄心材質も電磁鋼板を積層した物や圧粉鉄心等どの様な素材でもよい。
【0038】
以上、詳述した如く高効率化が要望される回転電機に於いて、ステータ鉄心の磁極数が3極、ローター極数が2極の最少極数の回転電機に於いてもコギングトルクを完全に消滅せさせる事の出来る唯一の技術であり、安定した回転トルクを実現し特性を向上させる事を可能とする、理想的特性を得る事の出来る回転電機の鉄心ある。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】本発明の3極ステータ鉄心の実施例の平面図である。
【
図2】本発明の6極ステータ鉄心のアウターローターの実施例の平面図である。
【
図3】特許文献1の回転角が0°とした時の磁力線による引力の説明図である。
【
図4】特許文献1の回転角が30°とした時の磁力線による引力の説明図である。
【
図5】本発明の3極ステータ鉄心の回転角が0°を示した図である。
【
図6】本発明の3極ステータ鉄心の回転角が15°を示した図である。
【
図7】本発明の3極ステータ鉄心の回転角が30°を示した図である。
【符号の説明】
【0040】
1 鉄心
2 ティース
3 バックヨーク
4 スリット
5 スロット
6 磁石ローター
L 磁力線(一点鎖線)
M 磁力線(破線)
S 磁力線(実線)