(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6030635
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】オロチン酸パクリタキセルを含む医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/505 20060101AFI20161114BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20161114BHJP
C07D 405/12 20060101ALI20161114BHJP
【FI】
A61K31/505
A61P35/00
C07D405/12CSP
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-508339(P2014-508339)
(86)(22)【出願日】2012年4月23日
(65)【公表番号】特表2014-513682(P2014-513682A)
(43)【公表日】2014年6月5日
(86)【国際出願番号】US2012000217
(87)【国際公開番号】WO2012148494
(87)【国際公開日】20121101
【審査請求日】2015年4月13日
(31)【優先権主張番号】13/066,793
(32)【優先日】2011年4月25日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512029054
【氏名又は名称】サヴィファーム インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(72)【発明者】
【氏名】カルマリ ラシダ エー
【審査官】
星 功介
(56)【参考文献】
【文献】
特表2010−535702(JP,A)
【文献】
特表2008−531501(JP,A)
【文献】
特表2010−516683(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−31/80
C07D 405/12
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オロチン酸パクリタキセルを含む組成物。
【請求項2】
【請求項3】
請求項1に記載の組成物又は請求項2に記載の化合物を含む、医薬組成物。
【請求項4】
癌の化学療法を受けている患者の体重減少の低減又は予防において使用するための、請求項1に記載の組成物又は請求項2に記載の化合物を含む、医薬組成物。
【請求項5】
前記患者が卵巣癌の治療を受けている、請求項4に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
他の出願の相互参照
本出願は、2005年2月22日に提出された米国特許出願第11/063,943号の一部継続であり、これは参考文献とともに全体として本明細書に組み込まれる。
発明の属する技術分野
本発明は、タキサン細胞毒性薬のオロチン酸化合物に関連し、特にタキサンをオロチン酸エステル化合物(orotate compound)に変換して、細胞毒性薬に対する身体反応の代理であり生活の質及び臨床転帰を予測するかもしれない体重減少を最小化することに関連する。
【背景技術】
【0002】
1.発明の背景
細胞毒性薬の重要な種類の1つに、パクリタキセル、その誘導体及び類似体を含むタキサンがある。本発明は、タキサンが癌の治療に用いられる際の体重減少を予防又は阻害する方法及びオロチン酸タキサンの組成物に関連する。パクリタキセルは、植物性アルカロイドと呼ばれる化学療法薬の種類に属する。タキサンは、タイヘイヨウイチイ(Pacific Yew)の木(イチイ属)の樹皮から作られる。パクリタキセルは、難治性の卵巣癌の治療における臨床用途について承認されている。それは胸部を含むいくつかのタイプの癌に対する化学療法に有効であり、乳癌の治療についても承認されている。それは皮膚癌、肺癌、頭頸部癌、膀胱癌、前立腺癌、食道癌、多発性嚢胞腎及びマラリアの治療の候補である。
【0003】
パクリタキセルは、水にわずかにしか溶けないので、クレモフォールEL
TM(ポリエトキシル化ヒマシ油)を薬物担体として用いた静脈内注入に適したパクリタキセルの注射及び点滴用製剤の開発に深刻な問題をもたらす。しかしながら、クレモフォールEL
TMは、静脈内投与された際に、それ自身が有毒であり、血管拡張、呼吸困難、嗜眠、低血圧及び死亡を引き起こす。
【0004】
パクリタキセルの重篤な副作用を回避するために、パクリタキセルは、リポソーム及び微粒子リポイド性小胞に封入される。カチオン性リポソームに封入されたパクリタキセルは、血管にパクリタキセルを運搬し、それによって抗血管新生効果を与える。リポソームに封入されたパクリタキセルは、メラノーマの増殖及び浸潤を防ぎ、マウスの生存期間を延長した。その一方、クレモフォールEL
TM中に可溶化された等モル濃度のパクリタキセルは、インビボの腫瘍増殖にはわずかな影響しか与えなかった。R.Kunstfeld他、J.Inves Dermatol、2003、120:476−482。
【0005】
入手できるパクリタキセルの他の製剤は、Abraxane(R)又はnabパクリタキセルである。それはナノ粒子形態のアルブミンに結合したパクリタキセルである。それはクレモフォールEL
TMを含まず、クレモフォールEL
TMの使用に関連する有害反応を低減するように設計されている。Desai NP他に6/29/1999に発行された米国特許第5,916,596号、Broder S他に5/28/2002に発行された米国特許第6,395,770号、Broder S他に5/4/2004に発行された米国特許第6,730,698、及び、M.Stenger、Community Oncology 2:214−215(2005)。
他のタキサンは、乳癌の治療のための非経口形態にあるTaxotere(R)として市販になっているドセタキセル(N−デベンゾイル−N−tert−ブトキシカルボニル−10−デアシルパクリタキセル)を含む。The Chemotherapy Source Book、M.C.Perry編、Lippincott Williams & Wilkins、第3版、2001。
【0006】
大きな希望が、水性懸濁液の非経口投与に適したナノ粒子の使用に集中している。この送達形態は、そのような公知の組成物の副作用を起こす傾向があるという不利益のために、例えばエタノール及びポリエトキシル化ヒマシ油を含むエマルション中の実質的に水に不溶の薬剤(例えばパクリタキセル)を生理食塩水で希釈して投与することを必要としない。その代わりナノ粒子は、ヒト血清アルブミンを安定化剤として使用することによって、高いせん断力の条件下で、水中油型エマルションから溶媒蒸発法によって調製される。それにもかかわらず、感覚神経障害、好中球減少、吐き気、下痢及び食欲不振の点での治療に関連する毒性は、nabパクリタキセルを用いても存続する。
【0007】
肥満は、癌による発生率と死亡率における危険因子として関わっている。しかしながら、変化しやすいものを複雑にするため、体重の変化についての証拠は少ししかないか、矛盾するものがあり、具体的には細胞毒性薬の副作用による体重減少がある。しかしながら、化学療法中の体重の減少が、癌患者の生存率に潜在的に影響を与え得るという証拠がいくつかある。例えば、i)生理食塩水で希釈された例えばエタノール及びポリエトキシル化ヒマシ油を含むエマルションにおいて、ii)リポソーム及び微粒子リポイド性小胞に封入されて、又は、iii)ナノ粒子の形態のアルブミンと結合したパクリタキセルであるAbraxane(R)若しくはnabパクリタキセルという、投与される製剤の種類にかかわらず、パクリタキセル分子の化学的改変の要求は明らかに存在している。
【0008】
本発明は、タキサン細胞毒性薬のオロチン酸エステルに関連し、特に、体重減少を含む有毒な副作用を予防又は阻害するために、タキサンをオロチン酸エステル化合物に変換する方法に関連した。化学療法中の体重減少は、卵巣癌において、細胞毒性薬に対する身体反応の代理ことが分かっており、生活の質及び臨床転帰を予測するかもしれない(Hess、L.M.他、Gynecol Oncol.2007、107(2):260−265)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
化学療法中の体重変化−化学療法中の体重の変化は、卵巣癌患者の全生存率に対する大きな要因であることが分かった。具体的には、一次療法中の体重減少は、低い全体生存率の指標であることが分かった。換言すると、体重増加は改善した生存率の指標であった。792人の進行卵巣癌患者を含む後ろ向き研究で研究された化学療法剤は、プラチナ及びパクリタキセルであった。
【0010】
しかしながら、パクリタキセルはまた、乳癌、非小細胞及び小細胞肺癌、頭頸部癌、食道癌、前立腺癌、膀胱癌、並びに、AIDS関連カポジ肉腫の治療においても使用される。したがって、より良い反応率、より広い反応スペクトルを与え、及び/又は、化学療法中の体重減少を低減する、より安全なパクリタキセル製剤に対する要求が大きい。特に、パクリタキセル及び他のタキサンのオロチン酸エステル化合物は、改善されたパクリタキセル製剤を使用することの選択肢を提供するかもしれない。
【0011】
どの先行技術も、化学療法中の体重減少を予防及び/又は低減するが抗腫瘍活性を維持するという問題を、毒性及び有害薬物反応を低減する戦略として取り組んだものではないので、本発明は上述の従来技術の参考文献と区別がつくものである。より有効で毒性の低いオロチン酸タキサンは、広く求められており、本発明の基本的な目的である。上記参考文献の関連する主題は、参照することにより本明細書に具体的に取り込まれる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
3.本発明の要約
本発明は、タキサンと比較した場合に、低減した薬物毒性を示し、特に化学療法の経過中に体重減少を予防又は阻害するオロチン酸タキサンの組成物を提供することによって、従来技術に付随する欠点を克服しようとするものである。
本発明は、オロチン酸エステルを生成することによる、副作用としての毒性を引き起こすことが知られている医薬の化学的再構築の分野におけるものである。とりわけ、それはタキサン−パクリタキセル及びドセタキセル並びに類似体のオロチン酸エステルに関連する。
【0013】
前述の最新技術水準を考慮して、本発明者は、腫瘍阻害活性を保つが化学療法の期間中の体重減少を阻害する、
図1に示されるオロチン酸パクリタキセルを設計した。
本発明の原則的な目的は、化学療法中の体重減少を引き起こすことに関連するパクリタキセルの毒性を低減するために、オロチン酸パクリタキセルの組成物を取得することである。
本発明はまた、DMF、オロチン酸及びイミダゾール中のパクリタキセルからオロチン酸パクリタキセルを調製する方法も具体的に提供する。本方法は、タキソールをオロチン酸及びイミダゾールと室温で反応させ、パクリタキセルのモノエステルを収集し、HPLCでそれを精製することを含む。
4.図面の簡単な説明
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、オロチン酸パクリタキセルエステルの構造を示している。
【
図2】
図2は、HPLCによるオロチン酸パクリタキセルの精製を示している。
【
図3】
図3は、オロチン酸パクリタキセルを示す質量分析である。
【
図4】
図4は、オロチン酸パクリタキセルを示すNMRである。
【
図5】
図5は、オロチン酸パクリタキセル及びパクリタキセルによる処置に対するヒトOvcar−5卵巣腫瘍の反応を示している。
【
図6】
図6は、低用量のオロチン酸パクリタキセル及びパクリタキセルによる治療による体重の反応を示している。
【
図7】
図7は、高用量のパクリタキセル又はオロチン酸パクリタキセルによる治療による体重の反応を示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
5.発明の詳細な説明
タキサンに基づく癌治療レジメンは、卵巣癌、乳癌、非小細胞及び小細胞肺癌、頭頸部癌、食道癌、前立腺癌、膀胱癌、並びに、AIDS関連カポジ肉腫の治療において幅広く用いられている。パクリタキセル、ドセタキセル及びそれらの類似体を含むタキサンは、細胞内の微小管構造を阻害して最終的に細胞死をもたらす抗微小管剤である。具体的には、パクリタキセルなどのタキサンは、微小管に結合して安定化し、細胞を有糸分裂において停止させ、細胞増殖抑制性又は細胞毒性反応をもたらす。E.Chu他編、Cancer Chemotherapy Drug Manual(2010)Jones and Bartlette Publishers。
【0016】
パクリタキセル(取引名:タキソール、Anzatax、Paxene)(化学名:β(ベンゾイルアミノ−α−ヒドロキシ−ベンゼンプロパン酸,6,12b−ビス(アセチルオキシ)−12(ベンゾイルオキシ)−2a,3,4,4a,5,6,9,10,11,12,12a,12b−ドデカヒドロ−4,11−ジヒドロキシ−4a,8,13,13−テトラメチル−5−オキソ−7,11−メタノ−1H−シクロデカ[3,4]ベンズ[1,2−b]オキセト−9−イルエステル,[2aR−[2aα,4β,4aβ,6β,9α,(αR*,βS),11α,12α,12aα,12bα]])の分子量は、853.9である。
タキサンの高分子量のかさ高い構造及び主要な肝代謝は、腔内投与の候補という発想を与える。しかしながら、腹痛のために、125mg/m
2を超える用量のパクリタキセルを腹腔内に投与することができない。全身毒性は、100mg/m
2の用量では軽度である。パクリタキセルの経口バイオアベイラビリティーは悪いが、タキサンがシクロスポリンの処置後に投与される場合には、適切な濃度が達成される。Broder S.他に5/4/2004に発行された米国特許第6,730,698号。
【0017】
パクリタキセルの最も優れた臨床結果は、卵巣及び乳癌を患う患者において見られている。準最適に減量されたステージIII又はIVの卵巣癌における一次導入療法としてのプラチナ化合物と組み合わせて、一次局所療法後の補助化学療法の構成要素としてそれを使用することは、フェーズIII試験における明白な延命効果と関連している。パクリタキセルはまた、後天性免疫不全症候群と関連したカポジ肉腫の第二選択治療のため、非小細胞肺癌の一次治療としてのシスプラチンと組み合わせにおいて、及び、高リスクのリンパ節陽性乳癌における補助化学療法の構成要素として規制認可を受けている。
【0018】
ドセタキセル(取引名:Taxotere)(化学名:4−アセトキシ−2α−ベンゾイルオキシ−5β,20−エポキシ−1,7β,10β−トリヒドロキシ−9−オキソタクス−11−エン−13α−イル−(2R,3S)−3−tert−ブトキシカルボニルアミノ−2−ヒドロキシ−3−フェニルプロピオナート)の分子量は、807.9である。それは肝臓で代謝され、その毒性は、好中球減少、過敏性、体液貯留、皮膚発疹、感覚神経性のもの及び心臓血管性のものを含む。
【0019】
癌を患う患者の治療のために使用される薬物療法は、多数の臓器及び臓器系を傷害し得る。これらの中で、最も高い頻度で障害を受けるのは、造血系、消化管及び尿生殖路のような細胞回転の速い組織である。細胞回転の速い組織で作られているので迅速に回復できない心臓は、たまに化学療法の影響を受ける。そのような治療の心臓への効果は、日常生活に支障をきたす又は生命を脅かすかもしれないので、それは心臓毒性を防ぐために治療の大規模な改変を必要とするかもしれない。場合によっては、化学療法薬の心臓に対する影響は、自己限定的で、原因薬物を中止すると容易に元に戻すことができる。しかしながら、その他の場合には、障害は壊滅的で、進行性で、不可逆的で、最終的に死に至るかもしれない。ある心臓毒性の形態は予測できず、何の前触れもなく、時々初回暴露の間に患者を襲うかもしれない。他の状況では、毒性はよく定義されており、容易に予測することができる。それにもかかわらず、同様のレベルの組織障害を達成するのに必要とされる暴露は、かなり変化に富んでいる。
【0020】
ある薬物はそれ自身有毒であるが、それらの毒性は他の薬剤と組み合わせて使用されたときに増強されるかもしれず、その組み合わせは個々の成分の毒性の和よりも有毒であるかもしれない。末端器官毒性を許容可能なレベルに維持しつつ薬物の最大の抗腫瘍潜在力を達成することが必要なので、有毒な薬物で治療された患者の評価は、個々に行われなければならない。
【0021】
パクリタキセルは、好中球減少、末梢神経障害、一過性筋肉痛、嘔吐のような消化管作用、及び、心律動障害を引き起こす。卵巣癌患者における体重変化の発生率については、ほとんど知られていない。卵巣癌の診断をされ治療を受けている女性は、生活の質に影響を及ぼし得る以上にさまざまな化学療法関連副作用を経験することが知られている。卵巣癌患者は、病気の進行の結果として悪液質を経験して、体重減少に苦しむかもしれない。体重減少はまた手術後にも起こるが、手術後何年にもわたって徐々に取り戻され、筋肉量ではなく体脂肪になる傾向がある。しかしながら、化学療法中の体重の増加又は減少がどのように生存率に影響を及ぼし得るかは不明である。したがって、Less、L.M.他、Gynecol.Oncol.2007、107:260−265では、パクリタキセル/シスプラチン対パクリタキセル/カルボプラチンのフェーズIII無作為化試験に参加した792人の進行卵巣癌患者の、後ろ向きデータ検証が取り組まれた。得られた結果は、一次化学療法中の体重変化は全体生存率の予後因子であること、すなわち、一次療法中の体重減少は低い全体生存率の指標であることを示した。換言すると、体重増加は改善された生存率の指標であり、その研究は、一次化学療法中の体重減少を最小化する戦略が、患者予後を改善するために開発されるべきであると結論付けた。
【0022】
パクリタキセル化学療法中の体重減少を、オロチン酸パクリタキセルを使用することによって最小化することが、本発明の目的である。
本発明は、ヒト卵巣癌において化学療法中の体重減少をオロチン酸パクリタキセルで最小化する方法を提供する。
【0023】
オロチン酸誘導体に変換することによる薬剤の副作用を低減する方法
2005年2月22日に提出された同時係属出願第11/063,943号において、発明者は、消化管から吸収されにくい医薬の経口バイオアベイラビリティーを、それらをオロチン酸塩に変換することで上昇させる方法を記載した。発明者は、オロチン酸塩として提供された薬剤の臓器レベルが、その薬剤の医薬形態と比較して減少するので、薬物投与時又は一次癌又は疾患が治った後の長期間において毒性の潜在性が低減することを記載した。したがって、特に有用な医薬のオロチン酸塩製剤は、オロチン酸塩を用いた速やかな発現及び一貫した作用を提供でき、薬物相互作用及び副作用を低減することができる。すべての引用された参考文献は、本明細書に完全に取り込まれる。
【0024】
遊離ピリミジンであるオロチン酸は、主要なピリミジンヌクレオチドであるウリジル酸エステル(UPP)の合成に重要である。ピリミジンは、細胞の制御及び代謝において中心的な役割を演じている。それらは、DNA/RNA生合成の基質、あるアミノ酸の生合成の調節因子、並びに、リン脂質、糖脂質、糖及び多糖の生合成の補助因子である。古典的なピリミジンのデノボ生合成経路は、UMPの合成で終わる。Biochemistry、Lubert Stryer編、W.H.Freeman & Co NY、第4版、739−762(1995)。5−フルオロウラシルは、ラットの肝臓の通常組織中の酸性可溶性画分であるRNA及びDNA中の取り込みによって評価されるように、肝臓に対して有毒であることも報告されている。オロチン酸投与によって、肝臓及び腸のRNAへの取り込みが減少したので、それは肝臓における5−FU誘導性の毒性を低減することが示唆された。El Hag IA他、In vivo 1:309−312(1987)。本発明は、分解を受けて、荷電分子としての薬物、及び、同様に薬物誘導性の肝臓、心臓又は他の組織の毒性を低減する遊離のオロチン酸を放出する、薬物オロチン酸誘導体を提供する。
【0025】
本発明は、医薬の有効性を、該医薬をオロチン酸エステル組成物(orotate composition)に変換しそのオロチン酸エステルを必要がある対象に投与することによって向上させるための方法及び組成物であって、該医薬がパクリタキセル及びドセタキセルから成る群から選択されるものを提供する。
本発明は、一次化学療法中の体重減少を最小化することによって患者予後を改善するための方法及び組成物を提供する。
【実施例】
【0026】
6.実施例
実施例1
オロチン酸パクリタキセルの化学合成
DMFに調製された1当量のパクリタキセルを、1.1当量のオロチン酸塩化物/イミダゾールで室温で処理した。混合物を一晩撹拌した。混合物をフィルターにかけ、固体残渣をカラムで精製した。これに続いて分取HPLCにかけ、オロチン酸パクリタキセルモノエステルの無色の個体を取得した。
図2。精製工程の間は、メタノールや水などのプロトン性溶媒は避けるべきである。
試料は、質量分析による解析のために、アセトニトリル中に調製して分解を避けた。
図3。核磁気共鳴による分析である
図4は、構造がオロチン酸パクリタキセルモノエステルであることを示す。
【0027】
実施例2
OVCAR−5ヒト卵巣腫瘍のパクリタキセル及びオロチン酸パクリタキセルによる治療に対する反応
実験の目的は、メスの6週齢胸腺欠損NCr−nu/nuマウスにおける、皮下に(SC)移植したヒトOVCAR−5卵巣腫瘍異種移植片に対する、パクリタキセル及びオロチン酸パクリタキセルモノエステルの抗腫瘍効能を評価することだった。
【0028】
薬物調剤−オロチン酸パクリタキセル(「パクリタキセルorot」という)の2.32mg/mL溶液を、まず100%エタノールを粉末に加えてバイアルをボルテックスし、10〜20秒間溶液になるまで超音波処理することによって、各治療日に調剤した。そして、等量のクレモフォールELを加え、最後に生理食塩水を加えて、12.5%クレモフォールEL/12.5%エタノール/75%生理食塩水中の濃度を2.32mg/mLとした。2.32mg/mL溶液の一部は、完全な担体で1.16mg/mLまでさらに希釈した。投与用溶液は、調剤から投与までの間室温で保管し、調剤から4時間以内に注射した。
【0029】
50%クレモフォールEL/50%エタノール中のパクリタキセル(Cedarburg Hauser,Boulder,CO;ロット番号Tech 600600−A)の8.0mg/mLストック溶液は、治療の初日に調剤し4℃で保管した。各治療日に、8.0mg/mLのストック溶液の一部を生理食塩水で希釈して、12.5%クレモフォールEL/12.5%エタノール/75%生理食塩水中の濃度を2.0mg/mLとした。パクリタキセルの投与用溶液は、8.0mg/mLのストック溶液の希釈後20分以内に投与し、注射するまでは温水上で保持した。2.0mg/mL溶液の一部は、完全な担体で1.0mg/mLまでさらに希釈した。1.0mg/mLの溶液は、調剤から投与までの間室温で保管した。クレモフォール(R)ELは、Sigma−Aldrich,Inc.(St.Louis、MO;バッチ番号037K0213)から購入して室温で保管した。エタノール(エチルアルコールUSP、200Proof)は、Aaper Alcohol and Chemical Co.(Shelbyville、KY、ロット番号07A0523)から購入して室温で保管した。生理食塩水(生理食塩水溶液0.9%、動物用使用のみ)は、Phoenix Pharmaceutical,Inc.(St.Joseph、MO、ロット番号710367F)から購入して室温で保管した。調剤期間中は、生理食塩水を4℃で保管した。オロチン酸パクリタキセル、パクリタキセル、及び担体を、各治療日における個々の動物の正確な体重により、0.1mL/10g体重の注入量でマウスに投与した。
【0030】
1群あたり10匹のマウスから成る5群を、第21日に使用した。群1の動物は、第21日に始まるQ2D×3/2週スケジュール(第21、23、25、28、30及び32日)で、パクリタキセル及びオロチン酸パクリタキセルの担体(12.5%クレモフォールEL/12.5%エタノール/75%生理食塩水)によりN治療をした。群2及び3の動物は、Q2D×3/2週スケジュールで、それぞれ23.2及び11.6mg/kg/注射の用量でのオロチン酸パクリタキセルによりIV治療をした。群4及び5の動物は、Q2D×3/2週スケジュールで、それぞれ20及び10mg/kg/注射の用量でのパクリタキセルによりIV治療をした。
腫瘍を測定して、体積を式L×W
2/2=mm
3を用いて決定し、質量を1mm
3=1mgと仮定して計算した。研究は腫瘍移植後63日に終了させた。
【0031】
結果:
腫瘍の質量−23.2及び11.6mg/kg/注射の用量でのオロチン酸パクリタキセルの投与IV(それぞれ群2及び3)は、死亡がなく耐用性であり、第35日に観察される最大平均体重減少をそれぞれ14%(3.6g)及び5%(1.2g)にした。両群の第35日の体重は、対照群における体重と統計的に有意に異なるものではなかった(群1対群2:P=0.187;群1対群3:P=0.826)。メジアン腫瘍(median tumor)は、>42.0日(10匹の動物のうち7匹の腫瘍は、研究の終了日までに2腫瘍塊倍加(two tumor mass doubling)まで到達しなかった)及び23.0日で2腫瘍塊倍加に到達し、それぞれ>22.7及び3.7日のメジアン腫瘍の成長の遅れを生み出した。両方のオロチン酸パクリタキセル治療群における腫瘍の成長は、個々の動物の2腫瘍塊倍加に到達する時間を比較した場合に、対照群における腫瘍の成長と統計的に差があることが分かった(群1対群2:p<0.001;群1対群3:P=0.029)。第63日のTIC値は、それぞれ21%及び60%だった。23.2mg/kg/注射の用量でのオロチン酸パクリタキセルにより治療した群における第63日の腫瘍質量は、担体治療の対照群における腫瘍質量と統計的に差があったが(群1対群2:P=0.003)、11.6mg/kg/注射の用量でのオロチン酸パクリタキセルにより治療した群における第63日の腫瘍質量は、統計的には差がなかった(群1対群3:P=0.078)。SC移植ヒトOVCAR−5卵巣腫瘍異種移植片のオロチン酸パクリタキセルに対する反応を、
図5に図で示す。
【0032】
20又は10mg/kg/注射の用量でのパクリタキセルIVに加えて513mg/kg/注射の用量でのCTOの投与(それぞれ群12及び13)は、死亡がなく耐用性であり、第32及び35日に観察される最大平均体重減少をそれぞれ16%(4.0〜4.1g)及び12%(3.2g)にした。メジアン腫瘍は、>42.0日(10匹の動物のすべての腫瘍が、研究の終了日までに2腫瘍塊倍加に到達しなかった)及び26.7日に2腫瘍塊倍加に到達し、それぞれ>22.7及び7.4日のメジアン腫瘍の成長の遅れを生み出した。パクリタキセルを20mg/kg/注射の用量で投与した併用群においては、第63日に腫瘍のない動物が4匹いた。第63日のTIC値は、それぞれ2%及び58%だった。両併用群における腫瘍の成長は、個々の動物の2腫瘍塊倍加に到達する時間を比較した場合に、対照群における腫瘍の成長と統計的に差があることが分かった(群1対群12:P<O.OO1;群1対群13:P=0.012)。パクリタキセルを20mg/kg/注射の用量で投与した併用群における第63日の個々の動物の腫瘍質量だけが、対照群におけるそれと統計的に差があった(群1対群12:P<O.OO1;群1対群13:P=O.109)。両併用群における腫瘍成長は、20mg/kg/注射のパクリタキセルの投与単独(群12対群10:個々の動物の2腫瘍塊倍加に到達する時間−すべての腫瘍が2腫瘍塊倍加に到達しなかったので評価不可;第63日の個々の動物の腫瘍質量−P=0.516)又は10mg/kg/注射の投与単独(群13対群11:個々の動物の2腫瘍塊倍加に到達する時間−P=0.887;第63日の個々の動物の腫瘍質量−P=0.869)で治療された群における腫瘍の成長と差がなかった。
図5。
【0033】
23.2又は11.6mg/kg/注射の用量でのオロチン酸パクリタキセル単独による治療(それぞれ群4及び5)では、個々の動物の2腫瘍塊倍加に到達する時間を比較した場合に、20又は10mg/kg/注射の用量でのパクリタキセル単独による治療(それぞれ群10及び11)よりも強力な抗腫瘍活性にはならなかった(群4対群10:P=0.067;群5対群11:P=0.385)。
【0034】
オロチン酸パクリタキセル及びパクリタキセルでの化学療法の体重に対する影響
オロチン酸パクリタキセルにより治療した群における第35日の体重は、対照と統計的に差がなかった。しかしながら、等用量でのパクリタキセルにより治療した群においては、体重は20mg/kg/注射で治療された群と対照で統計的に有意な差があった(群4対群1:P=0.01)。オロチン酸パクリタキセル治療及びパクリタキセル治療群における実験の間の平均体重の変化を、
図6及び7に図で示す。体重減少の最小化におけるオロチン酸パクリタキセルの効果というこれらの予想外の結果によって、例えば、i)生理食塩水で希釈されたエタノール及びポリエトキシル化ヒマシ油を含むエマルションにおいて、ii)リポソーム及び微粒子リポイド性小胞に封入されて、又は、iii)ナノ粒子の形態のアルブミンと結合したパクリタキセルであるAbraxane(R)若しくはnabパクリタキセルとして投与されるかどうかにかかわらず、パクリタキセル及びドセタキセルのようなタキサンのさまざまな剤型が患者予後を改善するために化学療法で使用されている前向き臨床研究において、体重減少を最小化するための重要な戦略が提供される。
【0035】
本発明は、本発明のある側面を説明することを目的とした実施例に開示された態様によって範囲を限定されるべきではなく、機能的に均等ないかなる方法も本発明の範囲内のものである。実際に、本明細書に示され記載されているものに加えて、本発明のさまざまな改変が、前述の記載から当業者に明らかになるだろう。そのような改変は、添付のクレームの範囲内に含まれるように意図される。
当業者であれば、単なる日常の実験を用いて、本明細書に記載されている本発明の具体的な態様のいかなる均等物も理解し又は確認することができるだろう。そのような均等物は、本クレームに包含されるように意図される。
本発明のまた別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1〕オロチン酸パクリタキセルエステルを含む組成物。
〔2〕次式の化合物。
【化1】