(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
電磁鋼板表面の片面または両面に、下記成分(A)、(B)および(C)ならびに溶剤を含有する被覆剤を塗布して絶縁被膜を形成することを特徴とする絶縁被膜付き電磁鋼板の製造方法:
(A):固形分に換算して100質量部である水系カルボキシル基含有樹脂、
(B):固形分に換算して100質量部である前記(A)成分に対して、固形分に換算して100質量部以上300質量部未満であるアルミニウム含有酸化物、および
(C):固形分に換算して100質量部である前記(A)成分に対して、固形分に換算して60質量部以上100質量部未満であるメラミン、イソシアネートおよびオキサゾリンからなる群から選択される少なくとも一つの架橋剤。
【背景技術】
【0002】
電磁鋼板は、電気エネルギーと磁気エネルギーの変換効率が高いことから、発電機や変圧器、家電製品用モーター等の電気機器類の鉄心に広く用いられている。これらの鉄心は通常、プレス成形により所望の形状に打ち抜き加工された電磁鋼板を多層積層し、カシメ、ボルト締め等の方法を用いて積層した電磁鋼板を固定することにより形成される。
【0003】
エネルギー変換効率の向上を図るうえでは積層鉄心の鉄損を低減することが重要となるが、積層された鋼板間が短絡すると局部的な渦電流が発生して鉄損が増大する。そのため、積層鉄心素材となる電磁鋼板には通常、表面に絶縁被膜が形成されている。これにより、鋼板を積層した際の層間抵抗が向上し、積層された鋼板間の短絡が抑制され、局部的な渦電流、延いては鉄損が低減される。
【0004】
電磁鋼板を積層した鉄心は、現在までに多岐に亘る分野で利用されているが、近年、特に大型発電機への適用が積極的に進められている。しかし、電磁鋼板を積層した鉄心を大型発電機等に適用するうえでは幾つかの考慮すべき問題点がある。
【0005】
まず、大型発電機などでは高電圧に対応する必要がある。そのため、これらの鉄心の素材として用いられる電磁鋼板には、家電製品の小型モーター等の鉄心素材用電磁鋼板に要求される層間抵抗値よりも大きな層間抵抗値が要求される。具体的には、大型発電機の鉄心を構成する電磁鋼板に要求される層間抵抗値はJIS C 2550(2000)「9.層間抵抗試験」(A法)に準拠して測定された値で約300Ω・cm
2/枚超である。また、高電圧に耐え得る絶縁破壊特性も要求される。
【0006】
また、大型発電機などでは、稼働中、機械的損失による発熱や電磁鋼板に発生するジュール熱により、鉄心が高温環境に晒される。そのため、これらの鉄心素材用電磁鋼板には、高温環境に保持した後でも高い層間抵抗を有することが要求される。
【0007】
これらの要求に対応すべく現在までに様々な技術が提案されており、例えば絶縁被膜付き電磁鋼板にアルキッド樹脂からなるワニスを5μm超の膜厚で塗布乾燥させる技術や、特許文献1で提案されているように樹脂ワニスに二硫化モリブデン、二硫化タングステンの一種以上を配合した樹脂系処理液を電磁鋼板に塗布して焼付け処理した絶縁被膜を膜厚2〜15μmとして形成する電気絶縁被膜の形成方法が知られている。これらの技術は、家電製品用小型モーター等に適用される絶縁被膜付き電磁鋼板の絶縁被膜では十分な層間抵抗が確保できないことに鑑み、絶縁被膜付き電磁鋼板の絶縁被膜上層に絶縁性に優れるワニス被膜を形成したり、電磁鋼板にワニスを含有する絶縁被膜を形成することにより層間抵抗の向上を図ろうとするものである。
【0008】
一方、上記したワニス被膜やワニスを含有する絶縁被膜の他、無機被膜や半有機被膜も電磁鋼板用の絶縁被膜として適用されている。これらの絶縁被膜は、上記したワニス被膜やワニスを含有する絶縁被膜に比べて耐熱性や被膜硬度に優れている。これらの絶縁被膜のうち、特に無機被膜は優れた耐熱性と被膜硬度を有する。しかしながら、無機被膜では、ワニス被膜やワニスを含有する絶縁被膜に比べて絶縁性に劣り、大型発電機などの鉄心素材に要求される層間抵抗を確保することができない。また、無機被膜は、電磁鋼板を所望の形状に打ち抜く際の打ち抜き加工性に劣る。
【0009】
これに対し、半有機被膜は無機被膜よりも優れた絶縁性を有し、例えば特許文献2には、ワニスを含有しない半有機被膜、具体的には、シリカゾル、アルミナゾル、チタニアゾル、アンチモンゾル、タングステンゾル、モリブデンゾルの1種又は2種以上からなる酸化物ゾルと、ほう酸と、シランカップリング剤を含有し、固形分率で30質量%超90質量%未満である無機化合物と、アクリル樹脂、スチレン樹脂、シリコン樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリアミド樹脂、フェノール樹脂およびエポキシ樹脂の1種又は2種以上含有する有機樹脂とを含み、前記酸化物ゾル固形分100質量部に対し、ほう酸を2質量部超40質量部未満、シランカップリング剤を1質量部以上15質量部未満とする絶縁被膜を形成した電磁鋼板が提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記した従来技術では以下の問題を有する。
まず、大型発電機の鉄心では稼働中に170℃以上の高温状態となる場合があり、耐熱性に劣る上記したワニス被膜や特許文献1で提案されたワニスを含有する絶縁被膜では、このような高温に晒されると熱分解してしまう。そのため、これらの被膜では高温保持した後に十分な層間抵抗を確保することができず、また、電磁鋼板との密着性も低下して剥離の発生も多々観測された。
【0012】
更に、上記したワニス被膜や特許文献1で提案されたワニスを含有する絶縁被膜では、十分な被膜硬度が得られない。そのため、素材となる電磁鋼板を手作業で積層して鉄心を組み立てる際、上記したハンドリング時の傷を防止することができず、層間抵抗特性が不安定となり製品間の特性にバラツキが生じる原因ともなっていた。
【0013】
また、ワニスとして使用されるアルキッド樹脂は揮発性有機溶剤を多く含有する。そのため、電磁鋼板にワニス被膜やワニスを含有する絶縁被膜を形成するプロセスにおいて有機溶剤の蒸気が大量に発生し、作業環境上問題とされる。加えて、昨今、産業界においてVOC排出規制の自主的取組が奨励されている中、ワニス被膜やワニスを含有する絶縁被膜を採用することはVOC排出量削減という要請にそぐわないという問題がある。
【0014】
また、特許文献2で提案された酸化物ゾル、ホウ酸およびシランカップリング剤を含有する無機化合物と有機樹脂とを含む半有機被膜では、ワニス被膜やワニスを含有する絶縁被膜よりは優れた耐熱性を示すものの、大型発電機などの鉄心用素材に適用するうえでは依然として耐熱性が不十分であり、高温保持後の絶縁性が劣化する問題が見られた。
【0015】
また、特許文献2で提案された技術で所望の層間抵抗を確保しようとする場合、絶縁被膜の付着量を大幅に増大させなければならないため、その他の特性(絶縁被膜の密着性)を劣化させることなく層間抵抗の向上を図ることは困難であった。
【0016】
更に、上記従来技術のいずれにおいても、高温圧縮応力下での絶縁被膜の圧縮率について検討されていない。
先述のとおり、鉄心は通常、プレス成形により所望の形状に打ち抜き加工された電磁鋼板を多層積層し、カシメ、ボルト締め等の方法を用いて積層した電磁鋼板を固定することにより形成される。したがって、鉄心を構成する電磁鋼板の絶縁被膜は、電磁鋼板の積層方向(絶縁被膜の厚さ方向)に圧縮応力が負荷された状態にある。また、大型発電機の稼働中、機械的損失による発熱やジュール熱の発生に伴い、鉄心を構成する電磁鋼板の絶縁被膜は高温に加熱される。
【0017】
以上のように、大型発電機の稼働中、鉄心を構成する電磁鋼板の絶縁被膜は、高温下で圧縮応力が負荷された状態となる。そのため、大型発電機の稼働中、絶縁被膜が圧縮し易くなり、絶縁被膜の厚さが減少する。このように絶縁被膜の厚さが減少すると、絶縁被膜特性、特に絶縁被膜の絶縁性が劣化する。したがって、絶縁性等の観点からは、高温圧縮応力下での絶縁被膜の圧縮率が小さいことが好ましい。また、高温圧縮応力下での絶縁被膜の圧縮率が大きいと、実使用時(すなわち発電機稼働中)の絶縁被膜特性を予測することが困難となる。そのため、鉄心設計上の観点からも、高温圧縮応力下での絶縁被膜の圧縮率が小さいことが好ましい。
【0018】
しかしながら、従来技術では、高温圧縮応力下での絶縁被膜の圧縮率について検討されていないため、実使用時(すなわち発電機稼働中)に絶縁被膜特性が大幅に低下する、或いは絶縁被膜特性が不安定になる等の問題があった。
【0019】
本発明は、上記した従来技術が抱える問題を有利に解決し、電気機器類の鉄心、特に大型発電機などの鉄心の素材として好適な、特に優れた耐熱性、すなわち高温保持した後においても十分な層間抵抗を有し、高温圧縮応力下での圧縮率が小さく、揮発性有機溶剤の含有量が少ない絶縁被膜付き電磁鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、上記絶縁被膜付き電磁鋼板の製造に好適で、VOC排出量の少ない絶縁被膜形成用被覆剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決すべく、先ず本発明者らは無機被膜よりも優れた絶縁性を有する半有機被膜に着目し、半有機被膜に含まれる有機成分を水系樹脂とすることに想到した。これにより被覆剤中の揮発性有機溶剤含有量を極力低減することができる。そして、水系樹脂を含有する半有機被膜を絶縁被膜として形成した場合に電磁鋼板の特性、特に高温保持後の層間抵抗等、諸特性に及ぼす各種要因について鋭意検討した。
【0021】
その結果、半有機被膜の無機成分および有機成分を、Al含有酸化物を含む無機成分と水系カルボキシル基含有樹脂を含む有機成分とすることにより、高温保持後であっても優れた層間抵抗(絶縁性)を有する絶縁被膜が得られることを知見した。
【0022】
上記半有機被膜では、Al含有酸化物の表面に配位する水酸基と水系カルボキシル基含有樹脂のカルボキシル基の一部とがエステル結合することにより強固な架橋構造を有する反応体が形成される。この強固な架橋構造を有する反応体は極めて高度な耐熱性を有するため、高温環境下における被膜の熱分解を効果的に抑制する。このようなAl含有酸化物と水系カルボキシル基含有樹脂を含む被膜を電磁鋼板表面に形成することにより、高温保持後であっても極めて優れた層間抵抗を発現する電磁鋼板が得られることを、本発明者らは知見した。
【0023】
また、上記のような耐熱性等に優れた絶縁被膜を形成するためには、Al含有酸化物と水系カルボキシル基含有樹脂とともにメラミン、イソシアネートおよびオキサゾリンから選ばれる1種または2種以上の架橋剤を含む被覆剤を使用することが極めて有効であることを知見した。
【0024】
次に、本発明者らは、上記の如く水系カルボキシル基含有樹脂とAl含有酸化物とを含む半有機被膜に関し、高温圧縮応力下での圧縮率を低減する手段について検討した。その結果、硬質な無機成分であるAl含有酸化物の含有量を調整し、絶縁被膜の硬度を向上させることが有効であるという知見を得た。また、半有機被膜の無機成分として、Al含有酸化物に加えてTi含有酸化物を含むものとすることにより、絶縁被膜の硬度がより一層向上し、高温圧縮応力下での圧縮率を更に低減できるという知見を得た。
【0025】
本発明は上記の知見に基づき完成されたものであり、その要旨は次のとおりである。
[1] 下記成分(A)、(B)および(C)、ならびに溶剤を含有することを特徴とする絶縁被膜形成用被覆剤:
(A):固形分に換算して100質量部である水系カルボキシル基含有樹脂:
(B):固形分に換算して100質量部である前記(A)成分に対して、固形分に換算して100質量部以上300質量部未満であるアルミニウム含有酸化物、および、
(C):固形分に換算して100質量部である前記(A)成分に対して、固形分に換算して
60質量部以上100質量部未満であるメラミン、イソシアネートおよびオキサゾリンからなる群から選択される少なくとも一つの架橋剤。
【0026】
[2]前記絶縁被膜形成用被覆剤に、さらに下記成分(D)を含有する[1]に記載の絶縁被膜形成用被覆剤:
(D):固形分に換算して100質量部である前記(A)成分に対して、固形分に換算して10質量部超300質量部未満。
【0027】
[3]前記成分(A)の水系カルボキシル基含有樹脂の酸価が15〜45mgKOH/gである[1]または[2]に記載の絶縁被膜形成用被覆剤。
【0028】
[4]電磁鋼板表面の片面または両面に、下記成分(A)、(B)および(C)ならびに溶剤を含有する被覆剤を塗布して絶縁被膜を形成することを特徴とする絶縁被膜付き電磁鋼板の製造方法:
(A):固形分に換算して100質量部である水系カルボキシル基含有樹脂、
(B):固形分に換算して100質量部である前記(A)成分に対して、固形分に換算して100質量部以上300質量部未満であるアルミニウム含有酸化物、および
(C):固形分に換算して100質量部である前記(A)成分に対して、固形分に換算して
60質量部以上100質量部未満であるメラミン、イソシアネートおよびオキサゾリンからなる群から選択される少なくとも一つの架橋剤。
【0029】
[5]前記被覆剤に、さらに下記成分(D)を含有する[4]に記載の絶縁被膜付き電磁鋼板の製造方法:
(D):固形分に換算して100質量部である前記(A)成分に対して、固形分に換算して10質量部超300質量部未満であるTi含有酸化物。
【0030】
[6]前記成分(A)の水系カルボキシル基含有樹脂の酸価が15〜45mgKOH/gである[4]または[5]に記載の絶縁被膜付き電磁鋼板の製造方法。
【0031】
[7]前記絶縁被膜の片面当たりの付着量が0.9g/m
2以上20g/m
2以下である上記[4]ないし[6]のいずれか一項に記載の絶縁被膜付き電磁鋼板の製造方法。
【0032】
[8]上記[4]ないし[7]のいずれか一項に記載の製造方法によって形成された絶縁被膜を具える絶縁被膜付き電磁鋼板。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、電気機器類の鉄心、特に大型発電機などに用いる鉄心用素材として好適な、耐熱性を有し、高温圧縮応力下での圧縮率が小さく、揮発性有機溶剤の発生量が少ない絶縁被膜付き電磁鋼板およびその製造方法を提供することが可能となり、産業上格段の効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明について具体的に説明する。
まず、本発明で絶縁被膜形成用として使用する被覆剤について説明する。
本発明で絶縁被膜形成用として使用する被覆剤は、(A)基本樹脂と、(B)無機成分と、(C)架橋剤とを含む。本発明で絶縁被膜形成用として使用する被覆剤は、溶剤に(A)水系カルボキシル基含有樹脂と、該樹脂固形分100質量部に対し、(B)Al含有酸化物:固形分換算で100質量部以上300質量部未満、(C)メラミン、イソシアネートおよびオキサゾリンから選ばれる1種または2種以上の架橋剤:固形分換算で20質量部超100質量部未満とを含有することを特徴とする。また、無機成分として、上記(B)に加えて更に(D)Ti含有酸化物を上記樹脂固形分100質量部に対し、固形分換算で10質量部超300質量部未満を含有してもよい。更に、(A)水系カルボキシル基含有樹脂の酸価を15〜45mgKOH/gとすることが好ましい。
【0035】
(A)水系カルボキシル基含有樹脂
本発明で使用する被覆剤では、含まれる有機成分を水系樹脂とする。これにより、絶縁被膜形成中の揮発性有機溶剤発生量を極力低減できる。また、有機成分がカルボキシル基を含有する水系カルボキシル基含有樹脂とすることにより、後述するAl含有酸化物とともに強固な架橋構造を有する反応体を形成する。
【0036】
上記水系カルボキシル基含有樹脂の種類は特に限定されない。すなわち、カルボキシル基を含有する水系樹脂であればいずれも適用可能であり、例えばエポキシ樹脂(a1)とアミン類(a2)を反応させてなる変性エポキシ樹脂と、カルボキシル基含有ビニル単量体(a3)を含有するビニル単量体成分を重合して得られる反応生成物が、本発明の水系カルボキシル基含有樹脂として好適に適用される。
【0037】
エポキシ樹脂(a1)をアミン類(a2)で変性した変性エポキシ樹脂は、エポキシ樹脂(a1)のエポキシ基の一部がアミン類(a2)のアミノ基と開環付加反応することにより水系の樹脂となる。なお、エポキシ樹脂(a1)をアミン類(a2)で変性して水系変性エポキシ樹脂とするに際し、エポキシ樹脂(a1)とアミン類(a2)の配合比は、エポキシ樹脂(a1)100質量部に対して、アミン類(a2)を3〜30質量部となるように配合することが好ましい。アミン類(a2)が3質量部以上であれば、極性基が少なすぎることがなく、塗膜の密着性や耐湿潤性が低下することがない。また、30質量部以下であれば、塗膜の耐水性や耐溶剤性が低下することがない。
【0038】
エポキシ樹脂(a1)としては、分子中に芳香環を有するエポキシ樹脂であれば特に限定されず、各種公知のものを使用することができ、具体的にはビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0039】
上記ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、例えばビスフェノール類とエピクロロヒドリンまたはβ−メチルエピクロロヒドリン等のハロエポキシド類の反応生成物等が挙げられる。また、上記ビスフェノール類としては、フェノールまたは2,6−ジハロフェノールと、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、アセトフェノン、シクロヘキサン、ベンゾフェノン等のアルデヒド類もしくはケトン類との反応物、ジヒドロキシフェニルスルフィドの過酸化物、ハイドロキノン同士のエーテル化反応物等が挙げられる。
【0040】
また、上記ノボラック型エポキシ樹脂としては、フェノール、クレゾールなどから合成されたノボラック型フェノール樹脂とエピクロロヒドリンとの反応により得られるもの等が挙げられる。
【0041】
また、エポキシ樹脂(a1)としては上記のほか、例えば多価アルコールのグリシジルエーテル類等を適用することができる。多価アルコールとしては、例えば1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノール(A型,F型)やアルキレングリコール構造を有するポリアルキレングリコール類などが挙げられる。なお、ポリアルキレングリコール類としては、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等、公知のものを用いることができる。
【0042】
また、エポキシ樹脂(a1)としては上記した多価アルコールのグリシジルエーテル類の他、ポリブタジエンジグリシジルエーテルなどの公知のエポキシ樹脂も適用することができる。更に、被膜に柔軟性を付与するために、各種公知のエポキシ化油および/またはダイマー酸グリシジルエステルを使用することもできる。
【0043】
エポキシ樹脂(a1)としては、上記の何れか1種を単独で使用できるほか、2種以上を適宜併用することもできる。上記のうち、ビスフェノール型エポキシ樹脂を適用することが、電磁鋼板への密着性の観点から好ましい。また、エポキシ樹脂(a1)のエポキシ当量は、最終的に得られる反応生成物(水系カルボキシル基含有樹脂)の分子量にもよるが、反応生成物(水系カルボキシル基含有樹脂)製造時の作業性およびゲル化防止等を考慮すると、100〜3000とすることが好ましい。エポキシ樹脂(a1)のエポキシ当量が100以上であると、架橋剤との架橋反応が著しく速くなることがないため、作業性が損なわれない。一方、エポキシ樹脂(a1)のエポキシ当量が3000以下であれば、反応生成物(水系カルボキシル基含有樹脂)合成時(製造時)の作業性が損なわれることがなく、また、ゲル化し易くならない。
【0044】
アミン類(a2)としては、各種公知のアミン類を適用することができる。例えばアルカノールアミン類、脂肪族アミン類、芳香族アミン類、脂環族アミン類、芳香核置換脂肪族アミン類等が挙げられ、これらを1種または2種以上を適宜選択して使用することができる。
【0045】
上記アルカノールアミン類としては、例えばエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ジ−2−ヒドロキシブチルアミンN−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N−ベンジルエタノールアミン等が挙げられる。また、上記脂肪族アミン類としては、例えばエチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、パルミチルアミン、オレイルアミン、エルシルアミン等の二級アミン類が挙げられる。
【0046】
また、上記芳香族アミン類としては、例えばトルイジン類、キシリジン類、クミジン(イソプロピルアニリン)類、ヘキシルアニリン類、ノニルアニリン類、ドデシルアニリン類等が挙げられる。また、上記脂環族アミン類としては、シクロペンチルアミン類、シクロヘキシルアミン類、ノルボルニルアミン類等が挙げられる。また、上記芳香核置換脂肪族アミン類としては、例えばベンジルアミン類、フェネチルアミン類等が挙げられる。
【0047】
水系の変性エポキシ樹脂にカルボキシル基含有ビニル単量体(a3)を含有するビニル単量体成分を重合させることにより、水系カルボキシル基含有樹脂が得られる。すなわち、水系の変性エポキシ樹脂のうちアミノ基と反応していない残りのエポキシ基とビニル単量体成分のカルボキシル基の一部とが反応して水系カルボキシル基含有樹脂となる。なお、重合に際しては、公知のアゾ化合物等を重合開始剤として用いることができる。
【0048】
上記カルボキシル基含有ビニル単量体(a3)としては、官能基としてカルボキシル基を有し、且つ重合性を有するビニル基を有する単量体であれば特に限定されず、公知のものを適用することができる。具体的には、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のカルボキシル基含ビニル単量体が挙げられる。また、合成時安定性および貯蔵安定性の向上を図るために、上記(メタ)アクリル酸等に加えてスチレン系単量体を用いてもよい。
【0049】
上記の水系変性エポキシ樹脂にカルボキシル基含有ビニル単量体(a3)を含有するビニル単量体成分を重合して水系カルボキシル基含有樹脂とするに際し、水系変性エポキシ樹脂とビニル単量体の配合比は、水系変性エポキシ樹脂100質量部に対して前記ビニル単量体(a3)を5〜100質量部となるように配合することが好ましい。前記ビニル単量体(a3)が、5質量部以上であれば塗膜の耐湿潤性が低下することがなく、100質量部以下であれば塗膜の耐水性や耐溶剤性が低下することがないためである。80質量部以下とすることがより好ましい。
[カルボキシル基]/[エポキシ基]の当量比は、特に限定されないが、0.1以上、3.0未満が好ましい。この理由は、該当量比が0.1以上であれば、後述するエステル結合によるネットワーク構造が形成されることにより耐熱性に優れ、該当量比が3.0未満であれば水分を呼び込みにくくなり、耐水性が優れるためである。より好ましくは、[カルボキシル基]/[エポキシ基]の当量比は、0.3以上、2.6未満である。
【0050】
また、本発明の被覆剤では、(A)水系カルボキシル基含有樹脂の固形分酸価を15〜45mgKOH/gとすることが好ましい。
後述のとおり、本発明は(A)水系カルボキシル基含有樹脂のカルボキシル基と(B)Al含有酸化物のアルミナやアルミナコートシリカ表面に配位する水酸基のエステル結合により、有機成分である水系カルボキシル基含有樹脂と無機成分であるAl含有酸化物との間で強固なネットワーク構造(架橋構造)を有する反応体を形成することを最大の特徴とする。そのため、本発明の被覆剤に含まれる水系カルボキシル基含有樹脂は、Al含有酸化物との反応に寄与する所望のカルボキシル基を有することが好ましい。
【0051】
水系カルボキシル基含有樹脂の固形分酸価が15mgKOH/g以上であれば、水系カルボキシル基含有樹脂に含まれるカルボキシル基が少なすぎることがなく、Al含有酸化物との反応(エステル結合)が十分となり、前記した強固なネットワーク構造(架橋構造)由来の効果が十分に発現する。一方、水系カルボキシル基含有樹脂の固形分酸価が45mgKOH/g以下であれば、水系カルボキシル基含有樹脂に含まれるカルボキシル基が過剰とならず、水系カルボキシル基含有樹脂の安定性を損なうことがない。したがって、水系カルボキシル基含有樹脂の固形分酸価を15〜45mgKOH/gとすることが好ましい。より好ましくは、20〜40mgKOH/gである。
【0052】
なお、(A)水系カルボキシル基含有樹脂の調製時に使用する溶剤としては、最終的に得られるビニル変性エポキシ樹脂(水系カルボキシル基含有樹脂)の水性化の観点から、水を用いる。水以外では親水性溶剤を少量使用するのが望ましい。該親水性溶剤としては、具体的にはプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノn−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノt−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、n−ブチルセロソルブ、t−ブチルセロソルブなどのグリコールエーテル類、イソプロピルアルコール、ブチルアルコールなどのアルコール類が挙げられる。これらの親水性溶剤は1種または2種以上を適宜選択して使用することができる。親水性溶剤は被覆剤全体の5〜20質量%とすることが好ましい。この範囲であれば、貯蔵安定性に問題がない。
【0053】
また、(A)水系カルボキシル基含有樹脂の調製時に使用する中和剤としては、各種公知のアミン類を適用することができ、例えばアルカノールアミン類、脂肪族アミン類、芳香族アミン類、脂環族アミン類、芳香核置換脂肪族アミン類等が挙げられ、これらを1種または2種以上を適宜選択して使用することができる。その中でも、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミンなどのアルカノールアミンが、水性化後の安定性が良好で好ましく使用できる。中和剤添加後の溶液のpHは6〜9に調整することが好ましい。
【0054】
(B)Al含有酸化物
本発明の被覆剤は、無機成分としてAl含有酸化物を含むものとする。Al含有酸化物は、前記した(A)水系カルボキシル基含有樹脂とともに強固な架橋構造を有する反応体を形成し、形成される絶縁被膜の耐熱性の向上を図るうえで極めて重要な成分である。また、Al含有酸化物は一般的に安価で優れた絶縁性を有し、形成される絶縁被膜の絶縁性を高める作用を有する。更に、Al含有酸化物は、形成される絶縁被膜を硬質化し、高温圧縮応力下での絶縁被膜の圧縮率を小さくする作用を有する。Al含有酸化物の種類は特に限定されず各種公知のものを使用することができ、例えばアルミナ(アルミナゾル)、アルミナコートシリカ、カオリナイト等が好適に使用される。また、これらのAl含有酸化物1種を単独で使用できることは勿論のこと、2種以上を適宜複合して使用することもできる。
【0055】
本発明の被覆剤は、(A)水系カルボキシル基含有樹脂の固形分100質量部に対して(B)Al含有酸化物を固形分換算で100質量部以上300質量部未満の範囲で含むものとする。水系カルボキシル基含有樹脂固形分100質量部に対してAl含有酸化物が固形分換算で100質量部未満である場合、形成される絶縁被膜の高温圧縮応力下における圧縮率を十分に低減することができず、絶縁性等の絶縁被膜特性が劣化する。したがって、本発明の被覆剤においては、水系カルボキシル基含有樹脂固形分100質量部に対してAl含有酸化物を固形分換算で100質量部以上の範囲で含むものとする。好ましくは120質量部以上であり、より好ましくは150質量部以上である。一方、水系カルボキシル基含有樹脂固形分100質量部に対してAl含有酸化物が固形分換算で300質量部以上である場合、塗料中のAl含有酸化物が凝集し易くなり、被覆剤の形態が塗装に適さなくなる。したがって、本発明の被覆剤においては、水系カルボキシル基含有樹脂固形分100質量部に対してAl含有酸化物を固形分換算で300質量部未満の範囲で含むものとする。好ましくは250質量部以下である。
【0056】
(B)Al含有酸化物としては、アルミナ(アルミナゾル)、アルミナコートシリカやカオリナイトを例示することができる。
上記アルミナ(アルミナゾル)は、粒状の場合には平均粒径5nm以上100nm以下、また、粒状ではなく繊維状の場合には長さ50nm以上200nm以下であることが、被覆剤の混合性および外観の観点から好ましい。上記範囲を外れると、アルミナ(アルミナゾル)を被覆剤中に均一に混合し難くなり、該被覆剤により形成される絶縁被膜の外観に悪影響を及ぼすことが懸念される。なお、アルミナ(アルミナゾル)の場合は、pHが8を超えるとゾルの分散安定性が低下するため、pHに留意して使用する必要がある。
【0057】
アルミナコートシリカは、アルミナとシリカの混合物であり、アルミナがシリカ表面に偏在する形態であるのが、耐熱性や安定性の観点から好ましい。アルミナコートシリカの粒子径は、安定性や外観性能の観点から1μm以上30μm以下にすることが好ましい。また、耐熱性の観点より、アルミナの含有量は、10質量%以上であることが好ましい。
カオリナイト(カオリン)はアルミニウムの含水珪酸塩の粘土鉱物でアルミナとシリカを含有している組成であり、本発明のAl含有酸化物として使用可能である。カオリナイトの粒子径は安定性や外観性能の観点から1μm以上30μm以下にすることが好ましい。
【0058】
なお、本発明の被覆剤は無機成分として(B)Al含有酸化物を含むことを最大の特徴とするが、本発明の効果を損なわない限りその他の無機成分を含有してもよい。また、本発明では、無機成分中に不純物としてHfやHfO
2、Fe
2O
3などが混入することがあるが、これらの不純物は(A)水系カルボキシル基含有樹脂固形分100質量部に対して10質量部以下であれば許容される。
【0059】
以上のように(A)水系カルボキシル基含有樹脂と(B)Al含有酸化物を含む被覆剤によって絶縁被膜を形成すると、(A)水系カルボキシル基含有樹脂のカルボキシル基と(B)Al含有酸化物の表面に配位する水酸基とが120℃以上の加熱によりエステル結合し、有機成分である(A)水系カルボキシル基含有樹脂と無機成分である(B)Al含有酸化物との間で強固なネットワーク構造(架橋構造)を有する反応体が形成される。
【0060】
つまり、前記したエポキシ樹脂(a1)をアミン類(a2)で変性した水系変性エポキシ樹脂にカルボキシル基含有ビニル単量体(a3)を含有するビニル単量体成分を重合させることにより水系カルボキシル基含有樹脂とした場合には、ビニル単量体成分のカルボキシル基のうちエポキシ基と反応しなかったカルボキシル基が、Al含有酸化物の表面に配位する水酸基とエステル結合(ハーフエステル)してネットワーク構造(架橋構造)を有する反応体を形成する。
【0061】
そして、上記の如く強固なネットワーク構造(架橋構造)を有する反応体が形成されることにより、絶縁被膜の耐熱性が飛躍的に向上し、高温保持後においても優れた層間抵抗およびその他の諸特性を有する絶縁被膜が得られる。
また、上記の如く強固なネットワーク構造(架橋構造)を有する反応体が形成されることにより、絶縁被膜の水分透過抑制特性(バリヤ性)も向上し、湿潤環境保持後においても優れた層間抵抗およびその他の諸特性を有する絶縁被膜が得られる。
【0062】
更に、本発明の被覆剤は無機成分として所定量の(B)Al含有酸化物を含むことから、硬質であり、高温圧縮応力下において圧縮され難い絶縁被膜が得られる。そして、このように硬質な絶縁被膜を備えた電磁鋼板を大型発電機などの鉄心素材に適用すれば、発電機の稼働中において絶縁被膜の圧縮量を抑制することができ、所望の絶縁被膜特性(絶縁性等)を維持することができる。
【0063】
なお、シリカは絶縁被膜形成用被覆剤の無機成分として従来広く用いられているが、無機成分としてAl含有酸化物を含まずシリカを単独で用いた場合には、所望の水分透過抑制特性(バリヤ性)が得られず、湿潤環境保持後における層間抵抗およびその他の諸特性を十分に確保することができない。
【0064】
(C)メラミン、イソシアネートおよびオキサゾリンから選ばれる1種または2種以上の架橋剤
架橋剤は、(A)水系カルボキシル基含有樹脂を架橋させて絶縁被膜と電磁鋼板の密着性を高める目的で被覆剤に含有されるが、本発明の被覆剤では、メラミン、イソシアネートおよびオキサゾリンから選ばれる1種または2種以上の架橋剤を適用する。メラミン、イソシアネートおよびオキサゾリンは熱硬化性を有するため、これらの架橋剤を適用することにより絶縁被膜に所望の耐熱性を付与することができる。
【0065】
本発明の被覆剤は、(A)水系カルボキシル基含有樹脂固形分100質量部に対して、(C)メラミン、イソシアネートおよびオキサゾリンから選ばれる1種または2種以上の架橋剤を固形分換算で20質量部超100質量部未満の範囲で含むものとする。水系カルボキシル基含有樹脂固形分100質量部に対して、上記架橋剤が固形分換算で20質量以下である場合、形成される絶縁被膜の(電磁鋼板に対する)密着性が不十分となる。また、形成される絶縁被膜の加工性や耐傷つき性が低下する。
一方、水系カルボキシル基含有樹脂固形分100質量部に対して、上記架橋剤が固形分換算で100質量部以上である場合、形成される絶縁被膜中に架橋剤が残留するおそれがある。絶縁被膜中に架橋剤が残留すると沸水性(耐沸騰水蒸気暴露性)が劣化し、錆が発生し易くなるため好ましくない。更に、架橋密度増大により加工性や密着性も低下するため好ましくない。したがって、水系カルボキシル基含有樹脂固形分100質量部に対して、上記架橋剤を固形分換算で20質量部超100質量部未満の範囲で含むものとする。好ましくは30質量部以上80質量部以下、より好ましくは40質量部以上70質量部以下である。
なお、イソシアネートについては、水系被覆剤中での反応性の問題があるため、イソシアネートを架橋剤として用いる場合には、被覆剤を使用する直前に混合することが好ましい。
【0066】
以上のように、(A)水系カルボキシル基含有樹脂:固形分換算で100質量部、(B)Al含有酸化物:上記(A)の固形分換算100質量部に対し、固形分換算で100質量部以上300質量部未満、(C)メラミン、イソシアネートおよびオキサゾリンから選ばれる1種または2種以上の架橋剤:上記(A)の固形分換算100質量部に対し、固形分換算で20質量部超100質量部未満、を含有する本発明の被覆剤によると、VOC排出量の少ないうえ、耐熱性に優れ、高温保持後においても所望の層間抵抗を発現し、電磁鋼板との密着性や耐食性に優れた絶縁被膜を形成することができる。また、本発明の被覆剤によると、耐熱性が極めて良好な絶縁被膜を形成することができるとともに、所定の付着量の絶縁被膜をコータ装置等、従前公知の塗布装置で容易に形成することが可能となる。更に、本発明の被覆剤によると、高温圧縮応力下においても圧縮され難く、絶縁性等の諸特性に優れた絶縁被膜が得られる。
【0067】
また、本発明の被覆剤は、高温圧縮応力下での絶縁被膜の圧縮率をより一層小さくする目的で更に、前記(A)の樹脂固形分100質量部に対し、(D)Ti含有酸化物:固形分換算で10質量部超300質量部未満を含有してもよい。
【0068】
(D)Ti含有酸化物
(B)Al含有酸化物と同様に、(D)Ti含有酸化物も、絶縁被膜の硬度を高める作用を有する。そのため、高温圧縮応力下での絶縁被膜の圧縮率をより一層小さくするうえでは、(D)Ti含有酸化物を含む被覆剤とすることが有効である。また、絶縁被膜の耐傷つき性を確保する観点からも、(D)Ti含有酸化物を含む被覆剤とすることが有効である。被覆剤にTi含有酸化物を含有させると、硬質な絶縁被膜を形成することが可能となる。そのため、Al含有酸化物に加えて更にTi含有酸化物を含む被覆剤とすることにより、従来、電磁鋼板を手作業で積層して鉄心を組み立てる際に見られた問題、すなわち絶縁被膜にハンドリング時に傷が生じて電磁鋼板の層間抵抗が低下する問題が解消される。
【0069】
Ti含有酸化物の種類は特に限定されず各種公知のものを使用することができ、例えばチタニア(ルチル型)等が好適に使用される。また、(D)Ti含有酸化物を含む被覆剤とする場合には、前記架橋剤としてメラミンを選択することが、絶縁被膜の硬質化を図るうえで好ましい。
【0070】
本発明の被覆剤は、(D)Ti含有酸化物を含む場合、(A)水系カルボキシル基含有樹脂固形分100質量部に対して、(D)Ti含有酸化物を固形分換算で10質量部超300質量部未満の範囲で含むものとする。水系カルボキシル基含有樹脂固形分100質量部に対して、Ti含有酸化物が固形分換算で10質量部超である場合、塗装鋼板の外観が黄色がかることがなく、白系色の均一外観が得られる。一方、水系カルボキシル基含有樹脂固形分100質量部に対して、Ti含有酸化物が固形分換算で300質量部未満である場合、Ti含有酸化物が凝集することなく、塗装に適する薬液形態を保持することが可能である。したがって、本発明の被覆剤においては、水系カルボキシル基含有樹脂固形分100質量部に対して、Ti含有酸化物を固形分換算で10質量部超300質量部未満の範囲で含むことが好ましい。また、50質量部以上250質量部以下の範囲で含むことがより好ましい。なお、本発明の被覆剤において、Ti含有酸化物の含有量が比較的少ない場合、或いはTi含有酸化物を含まない場合には、高温圧縮応力下での絶縁被膜の圧縮率を小さくする観点から、Al含有酸化物の含有量を高めにすることが好ましい。例えば、水系カルボキシル基含有樹脂固形分100質量部に対するTi含有酸化物の含有量が固形分換算で150質量部以下または0質量部である場合には、水系カルボキシル基含有樹脂固形分100質量部に対するAl含有酸化物の含有量を固形分換算で150質量部以上にすることが好ましい。
【0071】
上記チタニアは、平均粒径5μm以上50μm以下に分散することが好ましい。平均粒径が5μm以上であれば比表面積が大きくなりすぎず安定性が低下しない。50μm以下であれば塗膜欠陥を生じることがない。
【0072】
本発明の被覆剤は、上記(A)〜(C)或いは更に(D)が所望の配合比で含有されていればよく、本発明の効果を損なわない限りその他の成分を含んでもよい。その他の成分としては、例えば、被膜の性能や均一性を一層向上させるために添加される、界面活性剤や防錆剤、潤滑剤、酸化防止剤等が挙げられる。その他、公知の着色顔料や体質顔料も塗膜性能を低下させない範疇で使用可能である。なお、これらその他成分の合計の配合量は、十分な被膜性能を維持する観点から、乾燥被膜中の配合割合で10質量%以下であることが好ましい。
【0073】
本発明の被覆剤の調製方法については、以下の手順で調製することが好ましい。水系カルボキシル基含有樹脂の一部を仕込み、Al含有酸化物やTi含有酸化物と水、親水性溶剤および消泡剤を添加し分散機に入れ均一に分散させ、分散媒体を使用しAl含有酸化物またはさらにTi含有酸化物を所定の粒子径(ツブゲージにて粒子径を30μm以下、好ましくは20μm以下)にする。分散工程に時間が掛かるようであれば、分散剤を予め投入しておくことも可能である。ついで水系カルボキシル基含有樹脂の残部と架橋剤を追加して分散させ、分散体を得る。さらに成膜性を向上させるため、得られた分散体にレベリング剤、中和剤、水を添加して被覆剤とする。被覆剤の固形分量は40〜55質量%とすることが好ましい。この範囲であれば、貯蔵安定性、塗装作業性が良好である。
【0074】
次に、本発明の絶縁被膜付き電磁鋼板の製造方法について説明する。
本発明の絶縁被膜付き電磁鋼板の製造方法は、電磁鋼板表面の片面または両面に上記した被覆剤を塗布して絶縁被膜を形成することを特徴とする。
【0075】
本発明の基板となる電磁鋼板としては、磁束密度の高いいわゆる軟鉄板(電気鉄板)、JIS G 3141(2009)に規定されるSPCC等の一般冷延鋼板、比抵抗を向上させるためにSiやAlを含有させた無方向性電磁鋼板などを用いることできる。また、電磁鋼板の前処理については特に限定されず、前処理を行わなくてもよいが、アルカリなどの脱脂処理、塩酸、硫酸、リン酸などの酸洗処理を施すことが好ましい。
【0076】
上記した被覆剤を用いて電磁鋼板に絶縁被膜を形成する方法としては、例えば電磁鋼板表面に被覆剤を塗布し、焼付け処理を施す一般的な方法を適用することができる。電磁鋼板表面に被覆剤を塗布する方法としては、一般工業的な塗布方法であるロールコーター、フローコーター、スプレーコーター、ナイフコーター、バーコーター等、種々の設備を用いて電磁鋼板に被覆剤を塗布する方法が適用可能である。電磁鋼板に被覆剤を塗布した後の焼付け処理方法についても特に限定されず、通常実施されるような熱風式、赤外線加熱式、誘導加熱式等による焼付け方法が適用可能である。また、焼付き温度も通常実施される温度範囲とすることができ、例えば最高到達鋼板温度で150〜350℃程度とすることができる。なお、被覆剤に含まれる有機成分(水系カルボキシル基含有樹脂)の熱分解による被膜の変色を避けるためには最高到達鋼板温度を350℃以下とすることが好ましく、150℃以上350℃以下とすることがより好ましい。また、この最高到達鋼板温度を300℃以上とすることで、被膜の耐スクラッチ性が向上することを知見した。より好ましくは300℃以上350℃以下である。また、焼付き処理時間(上記した最高到達鋼板温度に達するまでの時間)は10〜60秒程度とすることが好ましい。
【0077】
上記した被覆剤による絶縁被膜は、電磁鋼板表面の片面のみに形成してもよく、電磁鋼板表面の両面に形成してもよい。絶縁被膜を電磁鋼板表面の片面に形成するか両面に形成するかについては、電磁鋼板に要求される諸特性や用途に応じて適宜選択すればよい。なお、上記した被覆剤による絶縁被膜を電磁鋼板表面の片面に形成し、他の被覆剤による絶縁被膜を他方の面に形成してもよい。
【0078】
絶縁被膜の付着量は、片面当たりの付着量を全固形分質量で0.9g/m
2以上20g/m
2以下とすることが電磁鋼板に所望の特性を付与するうえで好ましい。片面当たりの付着量が0.9g/m
2以上であると所望の絶縁性(層間抵抗)を確保することができる。また、片面当たりの付着量0.9g/m
2以上の絶縁被膜を形成しようとする場合であれば、電磁鋼板表面に被覆剤を均一に塗布することが難しくならず、絶縁被膜形成後の電磁鋼板に安定した打ち抜き加工性や耐食性を付与することが可能である。一方、片面当たりの付着量が20g/m
2以下であると、電磁鋼板に対する絶縁被膜の密着性が低下することや、電磁鋼板表面に被覆剤を塗布した後の焼付け処理時にふくれが発生することがなく、塗装性が低下しない。したがって、絶縁被膜の付着量は片面当たりの付着量を0.9g/m
2以上20g/m
2以下とすることが好ましい。また、1.5g/m
2以上15g/m
2以下とすることがより好ましい。
【0079】
なお、絶縁被膜の全固形分質量は、絶縁被膜付き電磁鋼板から熱アルカリ等で絶縁被膜のみを溶解し、絶縁被膜の溶解前後における重量変化から測定することができる(重量法)。また、絶縁被膜の付着量が少ない場合には、絶縁被膜を構成する特定元素の蛍光X線分析によるカウントと上記重量法(アルカリ剥離法)との検量線から測定することができる。
【0080】
そして、本発明の絶縁被膜付き電磁鋼板の製造方法にしたがい形成された所定の絶縁被膜を具えた絶縁被膜付き電磁鋼板は、所望含有量の水系カルボキシル基含有樹脂とAl含有酸化物とを含む絶縁被膜とするため、高温に保持した後においても極めて優れた層間抵抗を示す。すなわち、水系カルボキシル基含有樹脂のカルボキシル基とAl含有酸化物の表面に配位する水酸基がエステル結合することにより、有機成分である水系カルボキシル基含有樹脂と無機成分であるAl含有酸化物との間で強固なネットワーク構造(架橋構造)を形成するため、極めて高度な耐熱性を有する絶縁被膜が得られるのである。また、上記の如く強固なネットワーク構造(架橋構造)を形成するため、極めて高いバリア性を有する絶縁被膜が得られる。更に、硬質な無機成分であるAl含有酸化物を所定量含有するため、高温圧縮応力下で圧縮され難い絶縁被膜が得られる。
【0081】
したがって、本発明によると、耐食性や打ち抜き加工性、絶縁性(層間抵抗)、耐熱性、電磁鋼板に対する絶縁被膜の密着性に優れるとともに、高温保持後においても極めて良好な層間抵抗を有する絶縁被膜付き電磁鋼板を得ることができる。また、この絶縁被膜付き電磁鋼板は、湿潤環境保持後において良好な層間抵抗を有する。更に、高温圧縮応力下においても、絶縁性等が劣化することなく、所望の特性を維持することができる。
【0082】
また、本発明の絶縁被膜付き電磁鋼板は、更にTi含有酸化物を含む絶縁被膜とすることができる。Ti含有酸化物は、前述のとおり絶縁被膜の硬質化に有効に寄与するものであり、高温圧縮応力下での絶縁被膜の圧縮率をより一層小さくする効果を有する。また、例えば電磁鋼板を手作業で積層する際のハンドリング時に絶縁被膜に傷が生じて電磁鋼板の層間抵抗が低下するという問題を解消するにも極めて有効である。
【0083】
なお、本発明の絶縁被膜付き電磁鋼板の絶縁被膜は、(A)水系カルボキシル基含有樹脂、(B)Al含有酸化物、(C)メラミン、イソシアネートおよびオキサゾリンから選ばれる1種または2種以上の架橋剤を含む被覆剤、或いは更に、(D)Ti含有酸化物を含む被覆剤を用いて形成される。すなわち、本発明における絶縁被膜は(A)水系カルボキシル基含有樹脂を架橋するための(C)架橋剤を含む被覆剤によって形成されるが、最終的に得られる絶縁被膜に架橋剤が残留すると、沸水性(耐沸騰水蒸気暴露性)が劣化し、錆が発生し易くなる。したがって、前記被覆剤を用いて電磁鋼板表面に絶縁被膜を形成するプロセスにおいて、(C)メラミン、イソシアネートおよびオキサゾリンから選ばれる1種または2種以上の架橋剤の含有量を、前記した焼付け処理時の最高到達鋼板温度に応じて調整することにより、未反応の架橋剤が残存しないようにすることが好ましい。
【実施例】
【0084】
以下、本発明の効果を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0085】
以下に述べる方法により試験板を作製し、絶縁被膜の分析、および絶縁被膜付き電磁鋼板としての絶縁性、耐熱性および耐熱圧縮性について評価した。
【0086】
1.試験板の作製
(1.1) 供試材
JIS C 2552(2000)に規定された板厚:0.5mmの無方向性電磁鋼板50A230から、幅:150mm、長さ:300mmの大きさに切り出し、供試材とした。
【0087】
(1.2) 前処理
素材である電磁鋼板を、常温のオルトケイ酸ナトリウム水溶液(濃度0.8質量%)に30秒間浸漬後、水洗および乾燥した。
【0088】
(1.3) (A)水系カルボキシル基含有樹脂の調製
表1に示す成分を有する(A)水系カルボキシル基含有樹脂を、以下の手順で調製した。エポキシ樹脂(a1)を、100℃で溶解したのち、アミン類(a2)を加えて5時間反応させ、重合性アミン変性エポキシ樹脂とした。次いで、得られた重合性アミン変性エポキシ樹脂に、カルボキシル基含有ビニル単量体(a3)、溶剤(イソプロピルセロソルブ)および重合開始剤の混合物を1時間かけて添加したのち、4時間、130℃に保温した。その後80℃に冷却し、中和剤(ジエタノールアミン)、親水性溶剤(ブチルセロソルブ)、および水を順次添加混合することにより固形分が30質量%の(A)水系カルボキシル基含有樹脂とした。得られた(A)水系カルボキシル基含有樹脂の酸価(mgKOH/g)およびpHは表1のとおりである。なお、表1中、アミン類(a2)の質量部、カルボキシル基含有ビニル単量体(a3)の質量部は、それぞれエポキシ樹脂(a1)100質量部に対する質量部である。
【0089】
【表1】
【0090】
(1.4) 絶縁被膜用被覆剤の調製
上記(1.3)で得られた各種(A)水系カルボキシル基含有樹脂と(B)Al含有酸化物、(C)架橋剤、或いは更に(D)Ti含有酸化物を以下の手順にしたがい混合し、表3に示す組成(固形分換算)の被覆剤を調製した。
(A)水系カルボキシル基含有樹脂の一部を仕込み、(B)Al含有酸化物や(D)Ti含有酸化物と水、被覆剤全体の10質量%となる親水性溶剤(ブチルセロソルブ)および被覆剤全体の0.3質量%となる消泡剤(サンノプコ社製SNデフォーマー777)を添加し分散機に入れ均一に分散させ、ツブゲージにて(B)Al含有酸化物或いは更に(D)Ti含有酸化物の粒子径を20μm以下にした。次いで、(A)水系カルボキシル基含有樹脂の残部と(C)架橋剤を追加して分散させ、分散体を得た。さらに成膜性を向上させるため、得られた分散体に被覆剤全体の0.3質量%となるレベリング剤(ビックケミージャパン社製byk348)を添加し、中和剤としてジエタノールアミンを用い、水を添加して固形分量を調整した。得られた被覆剤の固形分は45質量%、pHは8.5に調整した。
なお、(B)Al含有酸化物としては、表2に示すカオリナイトとアルミナコートシリカを用いた。これらの一次粒径は1〜5μm程度である。
(C)架橋剤のメラミンとしては三和ケミカル社製メチル化メラミンMX−035(固形分70質量%)、混合エーテル化メラミン樹脂MX−45(固形分100%)、イソシアネートとしては旭化成社製デュラネートWB40−80D(固形分80質量%)、オキサゾリンとしては日本触媒社製オキサゾリン含有樹脂WS−500(固形分40質量%)を用いた。
(D)Ti含有酸化物としては、石原産業社製酸化チタン(R930、一次粒径:250nm)を用いた。
(A)〜(D)の種類および配合比は表3のとおりである。なお、表3中、(B)Al含有酸化物、(C)架橋剤、(D)Ti含有酸化物の各々の質量部は、(A)水系カルボキシ基含有樹脂100質量部に対する質量部(固形分換算)である。
【0091】
【表2】
【0092】
【表3】
【0093】
(1.5) 絶縁被膜の形成(試験板の作製)
上記(1.1)および(1.2)により得られた前処理を施した供試材表面(両面)に、表3に示す各種被覆剤をロールコーターで塗布し、熱風焼付け炉により焼付けしたのち、常温に放冷して絶縁被膜を形成し、試験板を作製した。用いた被覆剤の種類、焼付け温度(到達供試材温度)、焼付け温度までの加熱時間は表4に示すとおりである。
【0094】
2.絶縁被膜の分析
(2.1) 水系カルボキシル基含有樹脂、Al含有酸化物、Ti含有酸化物の質量比
上記(1.5)で得られた各種試験板を用いて、乾燥後の絶縁被膜に含まれる水系カルボキシル基含有樹脂、Al含有酸化物、Ti含有酸化物の質量比を、絶縁被膜を構成する特定元素の蛍光X線分析によるカウントと重量法(アルカリ剥離法)との検量線から測定し確認した。その結果を表4に示す。
【0095】
(2.2) 絶縁被膜の付着量
上記(1.5)で得られた各種試験板の絶縁被膜の付着量(片面あたり)は重量法(アルカリ剥離法)により求めた。
測定結果を表4に示す。
【0096】
【表4】
【0097】
3.評価試験
(3.1) 絶縁性(層間抵抗試験)
表4の各種試験板について、JIS C 2550(2000)に規定された層間抵抗試験(A法)に準拠して層間抵抗値を測定した。評価基準は以下のとおりである。
<評価基準>
G1:層間抵抗値300[Ω・cm
2/枚]以上
G2:層間抵抗値100[Ω・cm
2/枚]以上、300[Ω・cm
2/枚]未満
G3:層間抵抗値50[Ω・cm
2/枚]以上、100[Ω・cm
2/枚]未満
G4:層間抵抗値50[Ω・cm
2/枚]未満
【0098】
(3.2) 耐熱性(高温保持後の層間抵抗試験)
表4の各種試験板を、150℃の大気中で3日間保持した後、上記(3.1)と同様にして層間抵抗値を測定した。評価基準は以下のとおりである。
<評価基準>
H1:層間抵抗値200[Ω・cm
2/枚]以上
H2:層間抵抗値50[Ω・cm
2/枚]以上、200[Ω・cm
2/枚]未満
H3:層間抵抗値30[Ω・cm
2/枚]以上、50[Ω・cm
2/枚]未満
H4:層間抵抗値30[Ω・cm
2/枚]未満
【0099】
(3.3)耐熱圧縮性(高温下での圧縮試験)
表4の各種試験板について、IEC60404−12の規定に準拠して耐熱圧縮性の評価を実施した。
表4の各種試験板を、同種の試験板毎に複数枚(約200枚)用意し、試験板から100mm×100mmサイズにせん断した圧縮試験用試験片を作製した。次いで、同種の試験板から作製した圧縮試験用試験片を積層し、高さ(積層方向の寸法):100mm±0.5mmの積層材とした。このようにして得られた積層材に、室温状態(23±2℃)で1MPaの圧縮圧力を積層方向に負荷し、圧縮応力を負荷した状態で積層材の高さd
0を測定した。
【0100】
圧縮応力を負荷した状態での積層材の高さd
0を測定した後、上記圧縮応力を負荷した状態の積層材を、加熱炉(炉内雰囲気:大気)に装入して加熱し、積層材に200℃で168時間保持する熱処理を施した。熱処理後、積層材を加熱炉から取り出し、室温(23±2℃)まで冷却した後、上記圧縮応力を負荷したままの状態で積層材の高さd
1を測定した。
【0101】
以上のように測定された、熱処理前の積層材の高さd
0および熱処理後の積層材の高さd
1から、熱処理による積層材の圧縮率(熱処理前後の積層材の高さ変化率)を求めた。積層材の圧縮率は、以下の式により算出した。
圧縮率(%)=(d
0−d
1)/d
0×100
評価基準は以下のとおりである。
【0102】
<評価基準>
Q1:圧縮率0.5%未満
Q2:圧縮率0.5%以上1.0%未満
Q3:圧縮率1.0%以上1.5%未満
Q4:圧縮率1.5%以上
【0103】
以上の評価結果を表5に示す。表5から明らかであるように、本発明例の試験板では、全ての評価項目において良好な結果が得られる。
【0104】
【表5】