(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記島状領域の外側輪郭内に、前記カソードルミネッセンスピーク強度の最大値が前記カソードルミネッセンスピーク強度の平均値の140%未満である領域が包含されていることを特徴とする、請求項2または3記載の窒化ガリウム基板。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(用途) 本発明は、高品質であることが要求される技術分野、例えばポスト蛍光灯といわれている高演色性の青色LEDや高速高密度光メモリ用青紫レーザ、ハイブリッド自動車用のインバータに用いるパワーデバイスなどに用いることができる。
【0018】
(カソードルミネッセンスピーク強度) カソードルミネッセンスは、窒化ガリウム基板表面の微視的なバラツキを評価するものである。本発明では、窒化ガリウムのバンドギャップに対応する波長のカソードルミネッセンスピーク強度を窒化ガリウム基板の表面で測定する。具体的には、まず、以下のようにして蛍光顕微鏡像を得る。 装置: オリンパス製 BX61等 測定条件: 励起フィルター BP340-390nm 吸収フィルター BA420IF ダイクロイックミラー DM410 観察視野: 対物レンズ5倍および20倍 ソフト: 市販の画像取り込みソフト(Adobe Photoshop、ImageJ等)
【0019】
この蛍光顕微鏡像から画像解析によってピーク強度分布を求める。すわわち、まず蛍光顕微鏡像を無圧縮(TIFF形式)でパソコンに取り込む。また画像は1Mピクセル以上の高画素数で取り込む。測定ノイズを取り除くために、スムージング機能を用いて、スムージングを1回行う。スムージング処理とは、各画素(ピクセル)を、その周辺の 3列×3行のピクセルの平均値で置き換える処理のことである。次に、この画像を8ビットグレースケールに変換する。すなわち、画像の各画素が0〜255の階調に分類される。米国 Media Cybernetics社のImage pro plusソフトの強度分布機能(「表示レンジ」を選択)によって、ピーク強度の階調を読み取る。そして、平均階調(Xave)とピーク階調(Xpeak)の比を求める。平均階調(Xave)は、カソードルミネッセンスピーク強度の平均値であり、ピーク階調(Xpeak)は、カソードルミネッセンスピーク強度の最大値である。 カソードミネッセンスピーク強度の最大値と平均値とを測定する際の測定視野は、縦0.1mm×横0.1mmの正方形とする。
【0020】
本発明では、欠陥低減機構が有効に発現していることによって増大するカソードルミネッセンスピーク強度の最大値(0.1mm×0.1mmの測定視野における)を、カソードルミネッセンスピーク強度の平均値(前記測定視野における)の140%以上とする必要があるが、150%以上が好ましく、170%以上が更に好ましく、190%以上が一層好ましい。また、マクロ欠陥の発生を抑制するという観点からは、カソードルミネッセンスピーク強度の最大値を、カソードルミネッセンスピーク強度の平均値の350%以下とするが、300%以下とすることが更に好ましい。
【0021】
好適な実施形態においては、カソードルミネッセンスピーク強度の最大値がカソードルミネッセンスピーク強度の平均値の140%以上である領域が、窒化ガリウム基板の表面に分布する島状領域である。こうした島状領域は、それぞれ、よりピーク強度の低い連続相(マトリックス)によって包囲され、連続相中に分散していることが好ましい。
【0022】
こうした島状領域の形態は、例えば六角形や四辺形などの多角形が好ましく、略六角形や略平行四辺形が特に好ましい。
【0023】
また、島状領域の外側輪郭内に、カソードルミネッセンスピーク強度の最大値がカソードルミネッセンスピーク強度の平均値の140%未満である領域が包含されていることが好ましい。こうした相対的に暗い領域は、その下で発生した核を反映しているものと考えられる。この領域のカソードルミネッセンスピーク強度の最大値は、平均値の100%以下であることが更に好ましい。
【0024】
好適な実施形態においては、窒化ガリウム基板のバンドギャップに対応する波長のフォトルミネッセンスピーク強度を、窒化ガリウム基板の表面の測定範囲内において1mm×1mmの正方形の測定領域ごとに測定したとき、測定領域におけるフォトルミネッセンスピーク強度の最大値が平均値の120%以上であり、測定領域が前記測定範囲内に隙間無く連続する。これは窒化ガリウム基板の表面が巨視的に見て比較的に均一な性状を有していることを示すものである。
【0025】
窒化ガリウム基板の表面の測定範囲内において1mm×1mmの正方形の測定領域におけるフォトルミネッセンスピーク強度の最大値が平均値の140%以上であることが更に好ましい。また、窒化ガリウム基板の表面の測定範囲内において1mm×1mmの正方形の測定領域におけるフォトルミネッセンスピーク強度の最大値が平均値の200%以下であることが更に好ましい。
【0026】
また、窒化ガリウム基板の性状の巨視的なバラツキを抑制するという観点からは、窒化ガリウム基板の表面の測定範囲内において1mm×1mmの正方形の測定領域におけるフォトルミネッセンスピーク強度の最小値が平均値の60%以下であることが好ましく、45%以下であることが更に好ましい。窒化ガリウム基板の表面の測定範囲内において1mm×1mmの正方形の測定領域におけるフォトルミネッセンスピーク強度の最小値が平均値の20%以上であることが好ましい。
【0027】
また、フォトルミネッセンスピーク強度の測定範囲は、窒化ガリウム基板の外周から2mmの領域を除いた領域であることが好ましい。これは、外周部分ではバラツキが生じやすく、また使用しないことが多いからである。
【0028】
好適な実施形態においては、
図1(a)に示すように、窒化ガリウムからなる種結晶1の表面
1aに窒化ガリウム層2を形成する。次いで、好ましくは、窒化ガリウム層2の表面2aを研磨加工することで、
図1(b)に示すように窒化ガリウム層3を薄くし、本発明の窒化ガリウム基板4を得る。3aは研磨後の表面である。
【0029】
こうして得られた窒化ガリウム基板4の表面3aに機能層5を気相法で形成し、機能素子15を得る(
図1(c))。ただし、5a、5b、5c、5d、5eは、表面3a上に成長した用途に応じて設計されるエピタキシャル層である。
【0030】
(種結晶) 本発明では、種結晶は窒化ガリウム結晶からなる。種結晶は、自立基板(支持基板)を形成していてよく、あるいは別の支持基板上に形成された種結晶膜であってよい。この種結晶膜は、一層であってよく、あるいは支持基板側にバッファ層を含んでいて良い。
【0031】
種結晶膜の形成方法は気相成長法が好ましいが、有機金属化学気相成長(MOCVD: Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法、ハイドライド気相成長(HVPE)法、パルス励起堆積(PXD)法、MBE法、昇華法を例示できる。有機金属化学気相成長法が特に好ましい。また、成長温度は、950〜1200℃が好ましい。
【0032】
支持基板上に種結晶膜を形成する場合には、支持基板を構成する単結晶の材質は限定されないが、サファイア、AlNテンプレート、GaNテンプレート、GaN自立基板、シリコン単結晶、SiC単結晶、MgO単結晶、スピネル(MgAl
2O
4)、LiAlO
2、LiGaO
2、LaAlO
3,LaGaO
3,NdGaO
3等のペロブスカイト型複合酸化物、SCAM(ScAlMgO
4)を例示できる。また組成式〔A
1−y(Sr
1−xBa
x)
y〕〔(Al
1−zGa
z)
1−u・D
u〕O
3(Aは、希土類元素である;Dは、ニオブおよびタンタルからなる群より選ばれた一種以上の元素である;y=0.3〜0.98;x=0〜1;z=0〜1;u=0.15〜0.49;x+z=0.1〜2)の立方晶系のペロブスカイト構造複合酸化物も使用できる。
【0033】
窒化ガリウム結晶層の育成方向は、ウルツ鉱構造のc面の法線方向であってよく、またa 面、m面それぞれの法線方向であってもよい。
【0034】
種結晶の表面における転位密度は、種結晶上に設ける窒化ガリウム層の転位密度を低減するという観点から、低いことが望ましい。この観点からは、種結晶層の転位密度は、7×10
8cm
−2cm以下が好ましく、5×10
8cm
−2cm以下が更に好ましい。また、種結晶の転位密度は品質の点からは低いほど良いので、下限は特にないが、一般的には、5×10
7cm
−2以上であることが多い。
【0035】
(窒化ガリウム結晶層) 窒化ガリウム結晶層の製法は特に限定されないが、有機金属化学気相成長(MOCVD: Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法、ハイドライド気相成長(HVPE)法、パルス励起堆積(PXD)法、MBE法、昇華法などの気相法、フラックス法などの液相法を例示できる。
【0036】
好適な実施形態においては、窒化ガリウム結晶層をフラックス法によって育成する。この際、フラックスの種類は、窒化ガリウム結晶を生成可能である限り、特に限定されない。好適な実施形態においては、アルカリ金属とアルカリ土類金属の少なくとも一方を含むフラックスを使用し、ナトリウム金属を含むフラックスが特に好ましい。
【0037】
フラックスには、ガリウム原料物質を混合し、使用する。ガリウム原料物質としては、ガリウム単体金属、ガリウム合金、ガリウム化合物を適用できるが、ガリウム単体金属が取扱いの上からも好適である。
【0038】
フラックス法における窒化ガリウム結晶の育成温度や育成時の保持時間は特に限定されず、フラックスの組成に応じて適宜変更する。一例では、ナトリウムまたはリチウム含有フラックスを用いて窒化ガリウム結晶を育成する場合には、育成温度を800〜950℃とすることが好ましく、800〜900℃とすることが更に好ましい。
【0039】
フラックス法では、窒素原子を含む気体を含む雰囲気下で単結晶を育成する。このガスは窒素ガスが好ましいが、アンモニアでもよい。雰囲気の全圧は特に限定されないが、フラックスの蒸発を防止する観点からは、3MPa以上が好ましく、4MPa以上が更に好ましい。ただし、圧力が高いと装置が大がかりとなるので、雰囲気の全圧は、7MPa以下が好ましく、5MPa以下が更に好ましい。雰囲気中の窒素原子を含む気体以外のガスは限定されないが、不活性ガスが好ましく、アルゴン、ヘリウム、ネオンが特に好ましい。
【0040】
(カソードルミネッセンスのピーク強度の制御例) ここで、窒化ガリウム基板表面におけるカソードルミネッセンスの制御について更に述べる。 例えば
図2(a)に示すように、窒化ガリウム基板1の表面1aに融液を接触させたときには、表面1a上で6に示すように核が発生する。次いで、
図2(b)に示すように、核6を起点として結晶成長が生ずる。この際には、例えば、矢印Aに示すように水平方向に向かって成長し、矢印Cのように種結晶表面に対して垂直方向に向かって成長し、また矢印Bに示すように斜め方向に向かって成長する。
【0041】
ここで、核発生の時点では、種結晶1の表面1aに核6が分散して分布するようにすることが好ましい。また、核6の密度は疎であることが好ましく、隣り合う核6間には所定の間隔が設けられていることが良い。この時点で核6が互いに接近し過ぎると、次の結晶成長の段階で、隣り合う核から成長した結晶7同士が互いに干渉し、後述するようなカソードルミネッセンス分布の生成を阻害するおそれがある。
【0042】
この観点からは、フラックス法による成長初期における育成温度を高くし、および/または、雰囲気圧力を低くすることによって、育成初期における核発生を穏やかにし、核6の個数を減らすことが好ましい。特に好適な実施形態においては、育成初期における成長温度は890〜870℃であることが好ましい。また、育成初期における雰囲気圧力は3.5〜4.0Paであることが好ましい。
【0043】
また、育成初期段階では、前記した高温および/または低圧条件下で、1時間以上保持することが好ましく、2時間以上保持することが更に好ましい。これによって融液内に窒素を十分に溶かし込むことができる。
【0044】
次いで、育成温度を低下させ、および/または、雰囲気圧力を増大させることによって、結晶成長を促進する。この結晶成長段階における育成温度は、初期における育成温度よりも10℃以上低いことが好ましく、20℃以上低いことが更に好ましい。また、育成温度が低過ぎると育成速度がかえって低下するので、850℃以上が好ましく、860℃以上が更に好ましい。また、この結晶成長段階における雰囲気圧力は、初期における雰囲気圧力よりも0.2MPa以上高いことが好ましく、0.5MPa以上高いことが更に好ましい。
【0045】
初期段階では、前記のように高温および/または低圧条件とすることで、融液の飽和度が小さくなるために、ほとんど成長せず、結晶核がまばらで数が少ない。その後の育成段階で、その核を基点として、高い過飽和度により、特に
図2(b)に矢印Aで示すような横方向の成長速度が早くなり、転位が横に湾曲する。同時に、核6の上部では、欠陥密度が小さくなるとともに、理由は定かではないが、不純物の取り込み量が増大し、蛍光顕微鏡での不純物帯発光が増大したり、CLでの発光強度が高くなる。これは、矢印Bで示すような斜め成長部分で顕著であることがわかった。
【0046】
さらに窒化ガリウム結晶中のキャリア濃度(導電性)を制御するために、ドーパントを添加することが好ましい。ドーパント元素としてはゲルマニウム、酸素が例示できる。
【0047】
ここで、育成された窒化ガリウム層においては、育成厚さが特に100μmを超える場合には、
図3(a)に示すように、窒化ガリウム層2の表面2aで、連続相(マトリックス)12内で、連続相12よりもカソードルミネッセンス強度の低い(暗く見える)領域16が、分散した状態で生成し易いことがわかった。これは、例えば
図4に示すような状態である。こうした周囲の連続相よりもカソードルミネッセンス強度の低い領域16は、おそらく、
図2に示す核6の直上に形成された領域であると考えられる。こうした状態では、カソードルミネッセンス強度の最大値が平均値を大きく超えるようなことはない。
【0048】
次いで、こうした窒化ガリウム層の表面2aを
ポリッシュ加工すると、
図3(b)に示すように、
ポリッシュ後の窒化ガリウム層3の
ポリッシュ面3aに、カソードルミネッセンスのピーク強度が周囲の連続相12よりも高い
島状領域9が生じてくる。これは、
図2(b)で図示した矢印Bのような斜め方向に成長した結晶が、研磨が進むことによって表面に露出してくるものと考えられる。
島状領域9は、カソードルミネッセンスピーク強度の最大値がカソードルミネッセンスピーク強度の平均値の140%以上である領域である。こうしたカソードルミネッセンスのピーク強度の高い
島状領域9の中央付近には、通常、よりピーク強度の低い(暗く見える)領域8が存在することが多いが、これは核の直上に成長した結晶と思われる。
領域8は、カソードルミネッセンスピーク強度の最大値がカソードルミネッセンスピーク強度の平均値の140%未満である領域である。こうした斜め成長した結晶の
島状領域9には各種の元素が取り込まれ、不純物発光をもたらすことで、カソードルミネッセンスのピーク強度を高くしているものである。
【0049】
こうしたカソードルミネッセンスのピーク強度の高い領域は、結晶成長の方向性から通常は略六角形である。しかし、場合によっては、
図3(c)に示すように、略六角形の領域が変形して略平行四辺形の領域10となることがある。また、略六角形の領域の間隔が比較的に近い場合には、二つ以上の領域がつながり、結果として略平行四辺形の領域11を生じさせることがある。
【0050】
育成中に育成容器を回転させるにあたり、育成容器を反転させてもよく、一方向に回転させてもよい。容器を一方向に回転させる場合には、回転速度を例えば10〜30rpmに設定する。また、容器を反転させる場合には、回転速度を例えば10〜30rpmに設定する。
【0051】
また、育成容器の回転を停止させることが好ましい。この場合には、回転停止時間は100秒〜6000秒が好ましく、600秒〜3600秒が更に好ましい。また、回転停止時間の前後における回転時間は10秒〜600秒が好ましく、回転速度は10〜30rpmが好ましい。
【0052】
更に、融液における13族元素窒化物/フラックス(例えばナトリウム)の比率(mol比率)は、本発明の観点からは、高くすることが好ましく、18mol%以上が好ましく、25mol%以上が更に好ましい。ただし、この割合が大きくなり過ぎると結晶品質が落ちる傾向があるので、40mol%以下が好ましい。
【0053】
(窒化ガリウム基板の加工および形態) 好適な実施形態においては、窒化ガリウム基板が円板状であるが、角板などの他の形態でも良い。また、好適な実施形態においては、窒化ガリウム基板の寸法が、直径φ25mm以上である。これによって、機能素子の量産に適した、取り扱い易い窒化ガリウム基板を提供できる。
【0054】
窒化ガリウム基板の表面を研削、研磨加工する場合について述べる。 研削(グライディング)とは、砥粒をボンドで固定した固定砥粒を高速回転させながら対象物に接触させて、対象物の面を削り取ることをいう。かかる研削によって、粗い面が形成される。窒化ガリウム基板の底面を研削する場合、硬度の高いSiC、Al
2O
3、ダイヤモンドおよびCBN(キュービックボロンナイトライド、以下同じ)などで形成され、粒径が10μm以上100μm以下程度の砥粒を含む固定砥粒が好ましく用いられる。
【0055】
また、研磨(ラッピング)とは、遊離砥粒(固定されていない砥粒をいう、以下同じ)を介して定盤と対象物とを互いに回転させながら接触させて、
または固定砥粒と対象物とを互いに回転させながら接触させて、対象物の面を磨くことをいう。かかる研磨によって、研削の場合よりも面粗さが小さい面であって微研磨(ポリシング)の場合より粗い面が形成される。硬度の高いSiC、Al
2O
3、ダイヤモンドおよびCBNなどで形成され、粒径が0.5μm以上15μm以下程度の砥粒が好ましく用いられる。
【0056】
本発明では窒化ガリウム基板の表面をポリシングし、ポリッシュ面とする。微研磨(ポリシング)とは、遊離砥粒を介して研磨パッドと対象物とを互いに回転させながら接触させて、または固定砥粒と対象物とを互いに回転させながら接触させて、対象物の面を微細に磨いて平滑化することをいう。かかる微研磨によって、研磨の場合よりも面粗さが小さい結晶成長面が形成される。
【0057】
(機能層および機能素子) 前述した機能層は、単一層であってよく、複数層であってよい。また、機能としては、高輝度・高演色性の白色LEDや高速高密度光メモリ用青紫レーザディスク、ハイブリッド自動車用のインバータ用のパワーデバイスなどに用いることができる。
【0058】
窒化ガリウム基板上に気相法、好ましくは有機金属気相成長(MOCVD)法により半導体発光ダイオード(LED)を作製すると、LED内部の転位密度が窒化ガリウム基板と同等となる。
【0059】
機能層の成膜温度は、成膜速度の観点から、950℃以上が好ましく、1000℃以上が更に好ましい。また、欠陥を抑制するという観点からは、機能層の成膜温度は、1200℃以下が好ましく、1150℃以下が更に好ましい。
【0060】
機能層の材質は、13族元素窒化物が好ましい。13族元素とは、IUPACが策定した周期律表による第13族元素のことである。13族元素は、具体的にはガリウム、アルミニウム、インジウム、タリウム等である。また、添加剤としては、炭素や、低融点金属(錫、ビスマス、銀、金)、高融点金属(鉄、マンガン、チタン、クロムなどの遷移金属)が挙げられる。低融点金属は、ナトリウムの酸化防止を目的として添加する場合があり、高融点金属は、坩堝を入れる容器や育成炉のヒーターなどから混入する場合がある。
【0061】
発光素子構造は、例えば、n型半導体層、このn型半導体層上に設けられた発光領域およびこの発光領域上に設けられたp型半導体層を備えている。
図1(c)の発光素子15では、窒化ガリウム基板4上に、n型コンタクト層5a、n型クラッド層5b、活性層5c、p型クラッド層5d、p型コンタクト層5eが形成されており、発光素子構造5を構成する。
【0062】
また、前記発光構造には、更に、図示しないn型半導体層用の電極、p型半導体層用の電極、導電性接着層、バッファ層、導電性支持体などを設けることができる。
【0063】
本発光構造では、半導体層から注入される正孔と電子の再結合によって発光領域で光が発生すると、その光をp型半導体層上の透光性電極又は13族元素窒化物単結晶膜側から取り出す。なお、透光性電極とは、p型半導体層のほぼ全面に形成された金属薄膜又は透明導電膜からなる光透過性の電極のことである。
【0064】
n型半導体層、p型半導体層を構成する半導体の材質は、III −V 族系化合物半導体からなり、以下を例示できる。 Al
yIn
xGa
1-x-yN(0≦x≦1、0≦y≦1) n型導電性を付与するためのドープ材としては、珪素、ゲルマニウム、酸素を例示できる。また、p型導電性を付与するためのドープ材としては、マグネシウム、亜鉛を例示できる。
【0065】
発光構造を構成する各半導体層の成長方法は、種々の気相成長方法を挙げることができる。例えば、有機金属化合物気相成長法(MOCVD(MOVPE)法)、分子線エピタキシー法(MBE法)、ハイドライト気相成長法(HVPE法)等を用いることができる。その中でもMOCVD法によると、各半導体層の結晶性や平坦度の良好なものを得ることができる。MOCVD法では、GaソースとしてTMG(トリメチルガリウム)、TEG(トリエチルガリウム)などのアルキル金属化合物が多く使用され、窒素源としては、アンモニア、ヒドラジンなどのガスが使用される。
【0066】
発光領域は、量子井戸活性層を含む。量子井戸活性層の材料は、n型半導体層およびp型半導体層の材料よりもバンドギャップが小さくなるように設計される。量子井戸活性層は単一量子井戸(SQW)構造であっても多重量子井戸(MQW)構造であってもよい。量子井戸活性層の材質は以下を例示できる。
【0067】
量子井戸活性層の好適例として、AlxGa1-xN/AlyGa1-yN系量子井戸活性層(x=0.15、y=0.20)であって、膜厚がそれぞれ3nm/8nmであるものを3〜10周期形成させたMQW構造が挙げられる。
【実施例】
【0068】
(実施例1) 以下の手順で、窒化ガリウム複合基板を製造した。 具体的には、CL(カソードルミネッセンス)による転位密度の面内分布が、外周1cmを除いて平均2×10
8/cm
2である、窒化ガリウム種結晶からなる自立型の種結晶基板1を用意した。種結晶基板1を用いてフラックス法によって窒化ガリウム層2を形成した。具体的には、Na、Gaを坩堝に入れて、870℃、4.0MPa(窒素雰囲気)にて5時間保持した。この温度圧力条件では、過飽和度が低く、成長速度は0.5μm/hrと非常に遅いことがわかった。5時間保持後は約2.5μm成長しているが、前述のように核がまばらで、部分的にはほとんど成長していない領域があることが確認された。次に、10分で850℃まで降下した。次いで、4.0MPaで20時間保持し、窒化ガリウム層2を育成した。アルミナ坩堝を用い、出発原料は、Na:Ga=40g:30gである。ドーパントとしては四塩化ゲルマニウムを1.85g添加した。(Gaに対するGeの濃度は2.0モル%である。)溶液撹拌のために、600秒ごとに時計回り、反時計回りに回転方向を反転させた。回転数は30RPMとした。
【0069】
反応後、室温まで冷却し、フラックスをエタノールにて化学反応除去させ、成長厚さ250μmの無色透明の窒化ガリウム層2を得た。平均成長速度は、約12.5μm/hrであった。成長初期の約20μmの領域には、インクルージョン含有層が観察された。一方、成長結晶表面にはインクルージョンは見られなかった。このことから、温度を降下した直後は、成長速度が急に速くなったと推定された。予備実験の結果からは、この成長初期は20μm/hrの成長速度があったと考えられる。
【0070】
次いで、窒化ガリウム層2の表面2aを、厚さが50μmになるまで、CMP研磨を施し、その後、CLにて転位密度の面内分布を測定したところ、3〜4×10
6/cm
2であった。CL像の例を
図4に示す。観察視野内に、明るく発光する複数の領域が観察された。この領域の外側輪郭は略六角形であった。また、この領域内に、より暗い領域が存在していた。CL像を8ビット(256階調)に画像解析し、平均階調(Xaveとピーク階調(Xpeak)の比を求めたところ、Xpeak/Xaveは1.9であった。すなわち、カソードルミネッセンスピーク強度の最大値が平均値の190%であった。
【0071】
次に、窒化ガリウム基板のバンドギャップに対応する波長のフォトルミネッセンスピーク強度を、前記窒化ガリウム基板の表面の測定範囲内において1mm×1mmの測定領域ごとに測定した。全測定領域におけるフォトルミネッセンスピーク強度の最小値は、平均値の45%であり、最大値は平均値の140%であり、フォトルミネッセンスピーク強度分布は、CL像の強度分布よりも均一であった。
【0072】
ただし、フォトルミネッセンスピーク強度は、特許文献2の実施例の記載に準じて測定するものとする。 すなわち、フォトルミネッセンス測定装置(ACCENT社製RPM2000)により、窒化ガリウム基板のGa極性面の複数の測定領域ごとの窒化ガリウム基板のバンドギャップに対応する波長のフォトルミネッセンスピーク強度を測定した。ここで、測定範囲を窒化ガリウム基板の外周から1mmの領域を除いた領域とした。測定領域は、1mm×1mmの正方形の領域であり、測定範囲内に連続して配置した。
【0073】
フォトルミネッセンス測定の条件は、レーザー光源:波長266nmのYAGレーザー、受光スリット幅:0.1mm、測定波長範囲:332.6〜397.3nmとした。
【0074】
得られた窒化ガリウム基板上に、青色LED構造を成膜し、その発光特性を測定した。1mm角のLEDチップの発光強度の面内分布は、均一性が高く、外周部と中央で違いはみられなかった。また、350mAでの電流駆動時の発光特性における光出力が200mW以上のチップの割合は75%と高かった。
【0075】
(実施例2) 溶液撹拌の為の回転方向の反転頻度を400秒とした以外は、実施例1と同様に実験を行った。この結果、成長厚さ200μmの無色透明結晶4を得た。平均成長速度は、約10μm/hrであった。成長初期の約15μmの領域には、インクルージョン含有層が観察された。一方、成長結晶表面にはインクルージョンは見られなかった。参考のために、液相法による窒化ガリウム層の厚さが200μmの時の、蛍光顕微鏡像を
図5に示す。
【0076】
得られた液相法窒化ガリウム層の表面を、厚さが50μmになるまで、CMP研磨を施し、その後、CLにて転位密度の面内分布を測定したところ、4〜5×10
6/cm
2であった。CL像の例を
図6に示す。観察視野内に、明るく発光する複数の領域が観察された。この領域の形状は、略六角形であった。得られたCL像を、8ビット(256階調)に画像解析し、平均階調(Xaveとピーク階調(Xpeak)の比を求めたところ、Xpeak/Xaveは1.6であった。すなわち、カソードルミネッセンスピーク強度の最大値が平均値の160%であった。
【0077】
次に、窒化ガリウム基板のバンドギャップに対応する波長のフォトルミネッセンスピーク強度を、実施例1と同様に測定した。この結果、全測定領域におけるフォトルミネッセンスピーク強度の最小値は、平均値の50%であり、最大値は平均値の140%であった。すなわち、フォトルミネッセンスピーク強度分布は、CL像の強度分布よりも均一であった。
【0078】
この基板上に、青色LED構造を成膜し、その発光特性を測定した。1mm角のLEDチップの発光強度の面内分布は、均一性が高く、外周部と中央で違いはみられなかった。また、350mAでの電流駆動時の発光特性における光出力が200mW以上のチップの割合は70%と高かった。
【0079】
(実施例3) 溶液撹拌の為の回転方向の反転頻度を300秒とした以外は、実施例1と同様に実験を行い、成長厚さ160μmの無色透明結晶2を得た。平均成長速度は、約8μm/hrであった。成長初期の約15μmの領域には、インクルージョン含有層が観察された。一方、成長結晶表面にはインクルージョンは見られなかった。
【0080】
得られた液相法窒化ガリウム層2の表面を、厚さが50μmになるまで、CMP研磨を施し、その後、CLにて転位密度の面内分布を測定したところ、4〜5×10
6/cm
2であった。CL像の例を
図7に示す。観察視野内に、明るく発光する複数の領域が観察された。この領域の形状は、図からわかるように、略六角形および略平行四辺形であった。CL像を、8ビット(256階調)に画像解析し、平均階調(Xaveとピーク階調(Xpeak)の比を求めたところ、Xpeak/Xaveは1.4であった。すなわち、カソードルミネッセンスピーク強度の最大値が平均値の140%であった。
【0081】
次に、窒化ガリウム基板のバンドギャップに対応する波長のフォトルミネッセンスピーク強度を、実施例1と同様にして測定した。全測定領域におけるフォトルミネッセンスピーク強度の最小値は平均値の60%であり、最大値は平均値の120%であり、フォトルミネッセンスピーク強度分布は、CL像の強度分布よりも均一であった。
【0082】
得られた窒化ガリウム基板上に、青色LED構造を成
膜し、その発光特性を測定した。1mm角のLEDチップの発光強度の面内分布は、均一性が高く、外周部と中央で違いはみられなかった。また、350mAでの電流駆動時の発光特性における光出力が200mW以上のチップの割合は70%と高かった。
【0083】
(比較例) 溶液撹拌の為の回転方向の反転頻度を3600秒とした以外は、実施例1と同様に実験を行い、成長厚さ120μmの無色透明の窒化ガリウム層2を得た。平均成長速度は約6μm/hrであった。成長初期の領域には、インクルージョン含有層は観察されなかった。成長結晶表面にもインクルージョンは見られなかった。
【0084】
得られた液相法窒化ガリウム結晶の表面を、厚さが50μmになるまで、CMP研磨を施し、その後、CLにて転位密度の面内分布を測定したところ、5〜7×10
6/cm
2であった。CL像の例を
図9に示す。観察視野内は明るく発光する領域は見られず、ダークスポットのみが観察された。CL像を、8ビット(256階調)に画像解析し、平均階調(Xaveとピーク階調(Xpeak)の比を求めたところ、peak/Xaveは1.1であった。すなわち、カソードルミネッセンスピーク強度の最大値が平均値の110%であった。 なお、
図8は、窒化ガリウム基板表面の蛍光顕微鏡像を示す写真である。
【0085】
次に、実施例1と同様にして全測定領域におけるフォトルミネッセンスピーク強度を測定したところ、最小値が平均値の90%であり、最大値が平均値の110%であり、フォトルミネッセンスピーク強度分布は、CL像の強度分布とほぼ同等であった。
【0086】
この基板上に、青色LED構造を成膜し、その発光特性を測定した。1mm角のLEDチップの発光強度の面内分布は、均一性が低く、発光強度が低い領域がまばらに観察された。また、350mAでの電流駆動時の発光特性における光出力が200mW以上のチップの割合は50%と実施例に比べて有意に低かった。光出力が低いチップのリーク電流特性を調べたところ、低電圧の領域からリーク電流が発生していることが確認され、光出力が低い原因がリーク電流にあることがわかった。