(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6030801
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】併行処理が可能な鋼線材の多機能熱処理装置
(51)【国際特許分類】
C21D 9/56 20060101AFI20161114BHJP
C21D 9/573 20060101ALI20161114BHJP
【FI】
C21D9/56 102
C21D9/573 102
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-139049(P2016-139049)
(22)【出願日】2016年7月14日
【審査請求日】2016年7月14日
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、権利譲渡・実施許諾の用意がある。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】306030275
【氏名又は名称】山田 榮子
(74)【代理人】
【識別番号】393025334
【氏名又は名称】山田 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】山田勝彦
【審査官】
田口 裕健
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−231412(JP,A)
【文献】
特開2008−45171(JP,A)
【文献】
特表2002−507662(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/52− 9/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数本の鋼線材を平行走行させて連続処理する直列した加熱炉と冷却炉と再加熱炉とから成る熱処理装置であって、
1)該装置はレーン内では同一品種を処理する複数のレーンから成り、
2)加熱炉は単一の直火式であって炉内にレーン間で異なる加熱温度に誘導する着脱自在の断熱トンネルを適宜設け、
3)冷却炉は単一の常温流動床であって炉長を加熱炉長の1/7以上1/4以下とし、
4)該流動床内を通過する線材に包囲して流動床との接触を遮断する着脱自在の個々の長さが線速×(0.1〜0.3)秒である細分化遮蔽体を炉全長に渡って密接連続して設け、
5)各レーンの代表パスの要所要所に設けた着脱自在の温度センサーによって当該部を所定温度に誘導するよう前記遮蔽体を適宜着脱し、
6)再加熱炉は電熱式であって線速×(20〜60)秒の炉長を持ち、レーン間及びレーン内に隔壁を設けて個別に温度制御することを特徴とする多機能熱処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は鋼線材に対して1台の装置で異なる熱処理を併行して施すことができる多機能熱処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼線材から製品鋼線までの一連の線材2次加工において、多くの場合工程の先頭又は中間又は終盤に適宜適切な熱処理(例;中間焼鈍・仕上げ焼入等)が附加される。
熱処理装置の形態は3種に分けられる。1)処理時間の長い焼鈍に対してはコイル状でポット式又は連続個室式で処理される。2)通常は多数本の線材を加熱炉・冷却炉へ直進走行させる連続式であって能率・均一性に有利である。3)単品量産的製品では太径線材が使用される場合は高速1本通しの連続式、細径鋼線では低速多数本連続式として設備及び作業の効率面から専用の熱処理装置が設けられ余計な機能は削がれている。例えばスチールコード用素線の熱処理では、線径は1〜2mmで数種あっても範囲は小さく、熱処理内容は1種,鋼種は1種、通線数は100本、工程変更は少なく、負荷変動は小さく極めて効率的である。
【0003】
一般的な鋼線工場では種々の製品が製造され、鋼種が多く、線材径・製品径が多く、熱処理内容が多く、生産ロットは小さく、そのため大小多くの設備・機械を保有し、且つそれらの設備・機械は共用され、工程切り替えが多く、従って設備・作業とも効率は低下し易い。工場全体からは高効率の専用ラインと、無理のない汎用(種々の処理)・共用(他種との併行作業)ラインの併設が望ましい。
しかるに熱処理装置は設備費用効率上またエネルギー効率上適用する製品の集約を図って設備生産能力は大き目に設計されるが、それに汎用・共用性を持たせると設備費用が過大になる、能力に対する負荷が半端になる、汎用・共用性の設計自体が困難であるという問題がある。
異なる熱処理や異なる熱処理条件(例;加熱温度・冷却速度・処理時間等)には操業日の変更によって対処される。生産性の一つの隘路になり易い。
【0004】
例えば、高強度鋼線の素材となる高炭素鋼線材は伸線前にパテンティングと称される熱処理(一種の恒温変態)が適用される。約1000℃に加熱し約550℃鉛浴に焼入される。該処理により金属組織は微細パーライトに改質され、材質は強化され且つ伸線加工性が向上する。該線材を伸線することにより著しく加工硬化し、強靱化され、ピアノ線・PC鋼線等に仕上げられる。
耐ヘタリ性の優れたばね鋼線に供される低合金鋼(例;SAE9254)線材にも上記同様のパテンティングが適用されるが加熱温度(例;900℃)・焼入温度(例;630℃)は前記高炭素鋼とは異なる。
弁ばね用オイルテンパー線の素材となる低合金鋼(例;0.6%C−1.5%Si−1.0%Cr−0.1%V)線材では表面欠陥の確実な除去のため皮剥処理がなされるが皮剥性を得るため線材は事前に適切な強度の焼準(徐冷された粗パーライト)がなされる。特別の加熱温度・冷却速度・変態温度・保持時間を設定しなければならない。
上記3品種は同一熱処理装置で処理可能だが条件が異なるため併行操業はできない。一つの加熱炉で二つの加熱温度、一つの鉛浴で二つの焼入温度は無理である。そのため他の冷却装置の付設や操業日を変えて処理条件の変更に対処する。工程切り換え、負荷不足、線速低下等効率低下要因が多くなる。
上記鉛浴焼入は重金属汚染の問題があって一部は流動床冷却に移行している。しかし異なる冷却条件に同時に対処するには複数の冷却装置が必要となることに変わりはない。
【0005】
異なる製品・異なる熱処理を併行してなし得る方法・装置に関連しそうな先行例を検討する。初めに異なる加熱温度を併行処理する方法について検討する。
特許文献1には、一つの熱処理ラインにおいて種々の加熱温度に併行処理する方法が開示されている。複数の線材をいくつかの群にまとめて加熱炉を通過させ、加熱炉内には並列的に隔壁を設けて群毎に処理温度を設定する方法が開示されている。又複数の加熱炉が直列的に配置され、パスを組み合わせて多種多様な加熱条件が同時に得られ、多品種の生産が効率的になされる。
当該方法は実施容易だが新設にしろ改造にしろ図体の大きな加熱炉の複数化は費用の問題だけでなく大きなスペースを要する。簡素な方法が期待される。
【0006】
単一熱処理だが複合化への可能性がある事例を検討する。
特許文献2(先行例2)には、鉛浴焼入は『疑似』恒温変態処理であって恒温変態に近づける(請求項1)ことにより本来の強靱性(
図8)が充分得られること、『特殊な流動床冷却』(請求項5、
図7)により恒温性が改良されることが開示されている。上記『特殊な流動床冷却』とは冷媒を鉛浴よりも冷却能が大きい新規の常温流動床(加熱不要)とし、該流動床内の線材を連結する短身の遮蔽管で包囲し、該管の着脱によって冷却能と冷却タイミングを調節するものである。さらに保温炉(請求項2,
図4−16)を後続させることにより偏析部の変態遅延にも対処している。
当該方法は1本通しのパテンティングであるが他の熱処理や複数処理に応用・展開の可能性を秘めている。
【0007】
問題は以下である。流動床内で適切な冷却能で変態の過半(特定条件)を終え、以後は空冷が必須条件とされるが、その切り換えタイミングを掴む方法が無いことである。炉出口の測温だけでは変態の進行状況は解らない。タイミングが早すぎると冷却不足となり強度不足、遅れると過冷になり不適切な低温側の組織を誘発する。変態の進行状況さえ解れば短身遮蔽管の装着(空冷状態になる)によって最適タイミングで空冷に入ることができる。手段は準備されているが該手段を発動するタイミングが解らないことが致命的弱点となっている。
要は適性条件は解明されたが具体的実施手段の開示が無い。
【0008】
特許文献3(先行例3)には、鉛浴の代わりに加熱流動床炉を使用した高炭素鋼パテンティング専用装置において径の異なる多数の線材を併行処理する方法が開示されている。
それによると走行方向に上流から加熱炉・流動床炉・空冷帯・保温炉から成り、線径群毎に炉幅方向を複数の線径群パス(レーン)に分割し、流動床炉ではレーン間に隔壁を設けて個別に炉温を設定し、線径・線速・変態時間に応じて実効流動床炉長と実効空冷長と実効保温炉長を設定し、先行例2に開示された恒温変態の条件を誘導しつつ全レーン共通の保温炉を後続させて偏析部の無害化処理がなされる。
【0009】
効果として鉛浴が廃止されること、恒温変態に接近できること、多線径の併行処理が可能になること、先行例2のような変態の開始・終了時期の把握の必要が無くなり、経験的に炉温の調整によってほぼ制御可能である。
問題は、高炭素鋼に適したパテンティング条件と方法は低合金鋼では加熱温度・変態温度・変態時間が大きく異なる。併行処理は全く整合しない。炭素鋼を前提に各部の長さが設定されているので変態時間が約10倍の低合金鋼では炉長不足になる。低速で対処すると能率低下が著しい。
同様に炭素鋼でもベイナイトに誘導するオーステンパー処理はパテンティングに似ているが処理温度・保持時間が大きく異なりやはり併行処理はできない。
焼準・疑似焼鈍・連続冷却・空冷等も流動床冷却炉によってある程度対処することができるが併行処理は極めて困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平4−276028
【特許文献2】特許第3914953号
【特許文献3】特許第3968406号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
以上述べたように鋼種が異なり、線材径が異なる多種多様な多数の線材に対して異なる熱処理を1基の装置で併行処理することは多品種少量生産の有力な手段となるが、そのためには異なる加熱温度の併存、異なる冷却条件の併存が必要である。
異なる加熱温度に対して、先行例1のように加熱炉を複数化することは有効だが費用とスペースの問題がある。
【0012】
異なる冷却条件に関して、先行例2の常温流動床において多数の遮蔽管の着脱によって冷却タイミングと冷却能を調整する方法ではパスラインの複数化により冷却条件の多様化が容易になる。パテンティングに適用する場合、流動床内で変態の過半を終え以後は空冷が条件とされるが、その最適切り換えタイミングは理論では解明されているが作業上では掴みにくいことが問題である。タイミングのズレは品質に悪影響する。該時期を把握する具体的解決手段の開示は無い。パテンティングで困難であることは多の熱処理に対しても同様の危惧がある。
【0013】
先行例3の複数レーンを持つ流動床では個別の炉温設定により先行例2に開示された恒温変態を誘導する。変態の時期を把握する必要が無く、経験的に炉温の設定と調節によって異なる線径のパテンティングがなされる。問題は、高炭素鋼のパテンティングには適切であるが低合金鋼には加熱温度・変態温度・変態時間が大きく異なるので併行操業ができない。
同様にベイナイトに誘導するオーステンパー処理はパテンティングに似ているが処理温度・保持時間が大きく異なりやはり併行処理はできない。
焼準・疑似焼鈍・連続冷却・徐冷等も流動床冷却炉によってある程度対処することができるが併行処理は無駄が大きくなる。
【0014】
本発明は異なる鋼種、異なる径の線材に対して異なる熱処理を併行処理することが容易な装置を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、多数本の鋼線材を平行走行させて連続処理する直列した加熱炉と冷却炉と再加熱炉とから成る熱処理装置であって、
1)該装置は複数パスから成るレーン内では同一品種を処理する複数のレーンから成り、2)加熱炉は単一の直火式であって炉内にはレーン間で異なる加熱温度に誘導する着脱自在の断熱トンネルを適宜設け、
3)冷却炉は単一の常温流動床から成り、炉長を加熱炉長の1/7以上1/4以下とし、4)該流動床内を通過する線材には包囲して流動床との接触を遮断するよう着脱自在であって個々の長さが線速×(0.1〜0.3)秒である細分化遮蔽体を該冷却炉全長に渡って密接連続して設け、
5)各レーンの代表パスの要所要所には当該部が当該部上流側にある前記遮蔽体を適宜着脱して所定温度に誘導されるよう着脱自在の温度センサーを設け、
6)再加熱炉は電熱式であって線速×(20〜60)秒の炉長を持ち、レーン間及びレーン内に隔壁を設けて個別に温度制御可能なことを特徴とする多機能熱処理装置である。
【発明の効果】
【0016】
1) 本発明によるとレーン毎に異なる品種を配分し、異なる熱処理条件を適用することができるので多品種の併行操業が容易になる。
2) 本発明はパテンティングに対して効果的に活用される。先行例2に開示された高炭素鋼線材の恒温変態誘導方法を複数の温度センサーと細分化遮蔽体との組み合わせにより『容易に』実施することができる。なぜなら先行例にように本来作業中には把握困難な変態開始時期や変態終了時期を正確に把握した上で所定の条件とする必要が無くなり、温度を見ながら遮蔽体を手操作するだけでよい。パテンティングの品質向上が得られる。
3) レーン毎に線径の異なる線材を配分し、異なる線速に対応して前記作業方法により容易に複数線径のパテンティングを併行処理することができる。線径比5(例;3mm径〜15mm径)への対処も容易である。
4) 低合金鋼の最適パテンティング条件(加熱温度・変態温度・特に変態時間)は炭素鋼とは異なる。加熱炉の特定レーンに断熱トンネルを装着して実効加熱時間を短縮し、当該レーンの加熱温度を低位に誘導して結晶粒度を最適化し、複数の温度センサーと細分化遮蔽体との組み合わせにより所望変態温度に誘導し、再加熱炉(通過時間が長い)の当該レーンを同温度の近傍に設定することにより必要な変態温度と変態時間が容易に確保され異鋼種の異なる熱処理も併行処理される。
【0017】
5) 前項同様に冷却炉と再加熱炉の適切な組み合わせにより恒温変態処理だけでなく連続冷却処理が可能で焼準が容易になる。弁ばね用低合金鋼の切削性は焼準により向上する。
6) 適切な成分(例;V含有等)の低炭素低合金鋼の太径線材に、前項の適切な連続冷却を施すとフェライト+VC分散フェライト+パーライト+ベイナイト+マルテンサイト+残留オースフォーム等の混合組織に誘導することができる。当該処理は近年の熱延厚板TMCP処理に類似し多様な性質を付与することができる。高抗張力補助鉄筋の製造に応用することができる。
7) 充分な冷却炉長があるので遮蔽体を全開すると油焼入以上の冷却となり焼入が可能になる。再加熱炉により焼戻しすれば調質鋼線の製造も併行してなされる。
8) 産業廃棄物が発生しない。鉛浴が不要になり重金属汚染の問題を解決する。溶融塩や焼入油等を使用する熱処理とは異なり流動床は冷媒の消耗や劣化はない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の熱処理装置の概略構造を示し、Aは側面図、Bは平面図である。
【
図2】本発明の要部である流動床冷却炉の概略構造を示し、Aは線材走行方向にみた縦断面図、Bは側面から見た縦断面図である。
【
図3】本発明の要部である細分化遮蔽体の構造を示す。
【
図4】本発明の要部である断熱トンネルを構成する断熱ブロックの構造を示す。
【
図5】加熱炉内における線温の上昇を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下本発明の熱処理装置を図面に従って説明する。該装置は主に加熱炉と冷却炉と再加熱炉とから成る。
図1において、線材コイル1から引き出された線材2は走行パスに沿って加熱炉3、冷却炉5、再加熱炉7を通過し、巻き取られて熱処理線材コイル8となる。線材2の牽引は巻取機(図示せず)による。
該装置は走行方向に沿って複数のレーン9に分割されており、各レーンには複数の走行パスが設定されている。一つのレーン9内では同一品種が処理される。他のレーンで異なる品種を異なる条件で処理することにより異品種の併行操業が可能になる。
【0020】
加熱炉3は直火式であり、レーン9があっても仕切は無く単純な一体構造・一体温度制御であり、一つの炉温設定(例;1000℃)に対して線径が異なっても線速を『適切に』設定することにより同一加熱温度(例;950℃)になって加熱炉3を出る。
『適切に』とは、線速Vを線径Dに反比例して設定することである。即ち、
線速V=定数K/線径D
V・D=K −−−−−(1)
当業者にはよく知られているように加熱速度は線径に反比例する。従って必要加熱時間は線径に比例する。加熱時間とは滞炉時間であり、滞炉時間とは炉長Lを線速Vで除したものであるから以下の式が成り立つ。
加熱時間T=定数a・線径D −−−−−(2)
加熱時間T=滞炉時間T=炉長L/線速V −−−(3)
D・V=L/a=K(一定) −−−−−(4)
以上から種々の線径の線材に対して線速Vを炉の加熱特性に依存する定数Kを基準に線径Dに反比例して設定することにより全線材は同一温度に加熱されることが解る。
また線速Vは炉長Lに比例するので生産能力(t/h)は炉長に比例する。目標能力を基準に炉長を設定する。
【0021】
特定のレーンを異なる加熱温度に誘導したい場合、加熱温度が最高の品種を基準にして炉温を設定(例;1000℃)する。低位温度の品種のレーンに対しては断熱トンネル4を装着して実効炉長を削減する。加熱温度は低位(例;850℃)に誘導される。該トンネル4は
図4に示されるように、軽量断熱ブロック41の連結構造であって鉄皮42の外周を断熱材43で覆い、着脱容易な連結フック44を介して適宜長さを設定する。
図5には理論と実態の裏付けある計算式(5)、(6)に基づく昇温線を示す。
(θ-θw)/(θo-θw)=exp(−kt) −−−(5)
k=4α/cρD −−−−−(6)
θ;線温、θw;周囲温度、θo;初期温度、k;時定数、t;時間、
α;熱伝達率、c;比熱、ρ;密度、D;線径
【0022】
直火式と特定した理由は、1)設備費・操業費で経済的であること、2)加熱方式を特定しないと加熱炉と後続の冷却炉の合理的な長さ比が定められないからである。
該特定により当該加熱における平均熱伝達率αが定まる。後述するように後続の冷却炉の必要長さ比は該値αに依存する。従って特定に重要な意味が生ずるからである。熱源を特定しないと長さ比の意味が判然としなくなる。
【0023】
冷却炉5は常温流動床6と線材2の測温系10と該流動床6と該線材2間の接触を遮断する細分化遮蔽体11とから成る。
図2に従って冷却炉3の構造と作用を説明する。
図2Aは線材走行方向に見た縦断面図、
図2Bは側面の縦断面図である。箱状の貯槽21の底部に送風室22が設けられ、該送風室22の上面にセラミック製の通気板23を設け、該通気板23の上に砂が約300mm厚さに堆積している。通風により砂が約400〜450mmに浮き上がり流動し、流動床24が形成される。加熱された線材2は該流動床24内を通過して冷却され、他方流動床24は昇温する。槽内には該流動床24を冷却する水冷壁25又は水冷管(図示せず)が設けられ、送風による冷却と合わせて流動床の温度を約50℃以下に維持し、実質常温流動床として作用する。
【0024】
冷却炉の長さは種々の熱処理に対処し得るよう必要にして最小に設定される。先行例2のようにパテンティング専用であり変態途中(約600℃)で冷却処理を終えるような短いものでは他用途には使えない。本発明では低合金鋼のパテンティングやオーステンパーや焼入も対象とするので常温近辺まで冷却する能力を持たせなければならない。そのため冷却炉長は少なくとも加熱炉長の1/7以上であり1/4以下と特定した。
根拠は、直火式加熱炉の平均熱伝達率は約150(kcal/m2h℃)、流動床のそれは線径に依存して約700〜1200であり、加熱炉と比較して少なくとも約6倍の伝熱性がある。加熱炉同様に設定温度の95%接近を冷却温度目標とすると、炉長は約1/6が必要となり、上記範囲の長さが妥当となるからである。
ちなみに冷却時の温度変化も加熱式(5)と全く同様に計算される。
【0025】
測温系10と細分化遮蔽体11は一体となって機能を果たす。測温系10は各レーンの代表パスの要所数点に非接触温度センサーが設けられ連続測温するものである。各要所が所定温度となるよう上流側の細分化遮蔽体11を個別に適宜着脱する。
細分化遮蔽体の原理は先行例2に開示されている。それによると連結する短身の遮蔽管の部分着脱により線材と流動床との接触を適宜遮断して、冷却抑制のタイミングと冷却の強さを調節する。接触時の熱伝達率は約1000(kcal/m2h℃)、遮断時は空冷であって熱伝達率は約50〜70に低下する。
図2Bに示されるように遮蔽体11は多様な冷却条件に対応するよう充分の長さを持つ流動床の全長に渡って密接連結して設けられる。
図3に具体的な構造を示す。流動床31内を通過する線材32の直上に平行して懸架軸33を設け、該軸33に回転可能に遮蔽体34を設け、包囲部35を旋回して流動床との接触を開閉する。該包囲部には光ファイバーの温度センサー36が着脱される。該センサー36の装着部位は適宜選定する。
【0026】
次に、先行例2では変態途中の1)ある時間だけ遮蔽管を開閉し、2)適切な冷却能で処理するが、そもそも変態開始時期、終了時期は作業上では不明である。本発明では変態時期・時間や冷却能の値については問わない。単純に温度センサー36の信号のみに着目し、当該要所が所望温度となるよう細分化遮蔽体を細かく手作業で調節すると言う即物的管理で対処する。
恒温変態の場合の具体的作業として、遮蔽体を全開(冷媒と接触)し、携帯式温度センサーで所望変態温度点を把握して要所1として温度センサーを取付け、2秒後の部位を要所2としてセンサーを取付け、所望温度となるよう上流側の遮蔽体を開閉し、同様に4秒後、と調節する。所望温度の恒温変態を容易に且つ確実に行うことができる。所望の連続冷却も容易に誘導することができる。
細分化遮蔽体の長さは先行例よりも細分し線速×(0.1〜0.3)秒と特定した。
【0027】
細分化遮蔽体を『全長に渡って』と特定した理由は以下である。
鋼種・線径(又は線速)・冷却条件によっては冷却帯長さが過剰になる場合が生ずる。過剰分には空冷が長く作用し不都合になることがある。その際には、冷却炉の入り口側で遮蔽体を閉じて空冷し、本来の冷却の開始のタイミングを遅らせれば良い。そのためには遮蔽体は全長に渡って設けておき、都合良い区間を使用する。
【0028】
再加熱炉は以下の冶金的機能を持つ。1)未変態オーステナイトを正常な組織に誘導する、2)偏析部が不適切組織に変態するのを防止する、3)焼入性の大きい低合金鋼のパテンティングに対して冷却炉と一体となって微細パーライトへ誘導する、4)焼戻しを施す等が挙げられそれぞれ処理時間が長くなることが特徴である。必要最小長さの見積もりと異なる処理条件の併存が問題となる。
【0029】
再加熱炉のプロセス上の機能は線材の徐冷又は保温又は昇温である。レーン間に断熱隔壁11を設け異なる温度による処理を可能とする。さらに各レーンの走行方向にも貫通可能な複数の隔壁12を設け、それぞれ個別に温度設定を可能とする。熱源には電熱が適用される。第一の理由はきめ細かい制御が容易であること、第2に個別切電により省エネし易いこと、第3は必要炉長を削減することである。
【0030】
炉長に関して、加熱目標温度が通常の設定温度の95%接近とする場合、必要炉長は既述の加熱炉長や冷却炉長と同様に計算式(5)と生産能率に関わる式(4)に基づいて算出される。炉長は加熱温度にかかわらず平均熱伝達率αに反比例する。電熱は直火よりα値が多少小さく必要炉長は加熱炉よりも大きくなる。
再加熱炉を上中下3段にに分割し、目標500℃加熱に対して上段だけ高温(例;900℃)に設定すると急速に目標温度に達する。即ち炉長は削減され半減も可能になる。
【0031】
再加熱炉の必要最小炉長は本来必要保持時間又は必要加熱時間の大きい方で決まる。後者は線径と温度が決まれば算出されるが前者は鋼種や冶金的条件の許容幅に依存するので一意的には定まらない。
低合金鋼の焼入性(ノーズ温度直上の変態時間は30〜60秒)から滞留時間が20〜60秒あれば昇温も含め多くの場合対応可能になる。先行例2の偏析部の遅延対策には最大変態時間(4秒)の5倍(20秒)以下が特定され、これを包含することができる。
結局一般的な線速では炉長は冷却炉の約3倍、加熱炉の約1/2あればたいていの処理に対応することができる。
焼入性の大きい(変態時間の長い)低合金鋼のパテンティングにおいて再加熱炉は冷却炉と一体となって必要充分な変態時間と変態温度を支える。
【実施例】
【0032】
種々の線径(3〜12mm)の高炭素鋼線材を鉛浴パテンティングよりも精密な恒温変態に誘導し且つ併行処理する条件を表1に整理する。
第5レーンにはSi−Cr鋼(SAE9254)線材のパテンティング条件を示す。断熱トンネルを装着して850℃に加熱する。冷却炉では630℃に誘導し、且つ保持し、再加熱炉は全長(上中下3段)とも630℃に保持する。炭素鋼と併行して所望の恒温変態処理がなされ、強度と加工性に優れた微細パーライトが得られる。当該線材は伸線加工により耐ヘタリ性の優れたばね用鋼線となる。
【0033】
【表1】
【0034】
当該鋼種の線材に対して、遮蔽体を全長外すと充分な冷却能と充分な時間が得られ焼入がなされる。流動床の冷却能は焼入油よりも多少大きい。油焼入では適切な冷却のため油種が選定される。本発明では遮蔽体の着脱によってなされ油焼入よりも安定する。なぜなら油焼入では膜沸騰から核沸騰への遷移がしばしばバラツキの原因となる。流動床の伝熱性は安定している。
再加熱炉の温度を900−540−500℃に設定することにより500℃焼戻しが可能になる。パテンティングと併行して焼入焼戻しも可能になる。
【0035】
弁ばね用Si−Cr−V鋼(0.6%C-1.5%si-0.9%Cr-0.1%V)線材に対しては、同様に断熱トンネルを装着し、線速を基準よりも多少大きく設定し、加熱を830℃に誘導する。冷却炉では670℃に誘導・保持し、再加熱炉では全長650℃に設定する。焼準に近い組織が得られ強度は1050MPa未満となって切削性が向上する。
【0036】
高抗張力補助鉄筋には中炭素低合金鋼の13〜15mm径線材が適用されている。降伏力780MPa以下は熱間圧延によって製造されているがそれを超える場合には熱処理を要する。本発明の装置により連続冷却を適用すると抗張力は1100MPa以上で伸び性能が大きい混合組織(フェライト、パーライト、ベイナイト、マルテンサイト、残留オーステナイト)に誘導することが容易になる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の熱処理装置は既存の線材2次加工工場に容易に設置することができ、生産性の向上に役立つ。
【符号の説明】
【0038】
1:線材コイル 2:線材 3:加熱炉 4:断熱トンネル 5:冷却炉 6:流動床 7:再加熱炉 8:熱処理線材 9:レーン 10:測温系 11:細分化遮蔽体 12:断熱隔壁 13:隔壁 21貯槽 22:送風室 23:通気板 24:流動床 25:水冷壁 31:流動床 32:線材 33:懸架軸 34:遮蔽体 35:包囲部 36:温度センサー 41:断熱ブロック 42:鉄皮 43:断熱材 44:連結フック
【要約】
【課題】 異なる線径、異なる鋼種に異なる熱処理を併行して操業することができる鋼線材の熱処理装置を提供する。
【解決手段】 単一の加熱炉と冷却炉と再加熱炉とから成り、複数のレーンの分割して異なる処理条件が設定される。1)加熱炉には着脱自在の断熱トンネルを装着して加熱温度を多様化し、2)冷却炉は常温流動床であって常温まで冷却可能な炉長と線材と流動床との接触を開閉する細分化遮蔽体と要所数点の測温系とから成り、3)該測温と該開閉によって所定変態温度に誘導し、4)再加熱炉は電熱式であってレーン間及びレーン内多段に断熱隔壁を設け個別に温度制御する。炭素鋼及び低合金鋼のパテンティング・焼準・疑似焼鈍・連続冷却等の種々の併行熱処理が可能となる。
【選択図】
図1