【実施例】
【0034】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0035】
例1〜8
(1)キャリア付銅箔の作製
図1に示されるように、キャリア12としての電解銅箔上に耐熱金属層14、剥離層16、極薄銅箔層18及びシリコン系表面処理層20をこの順に成膜してキャリア付銅箔10を作製した。このとき、シリコン系表面処理層20の成膜は表1に示される各種条件に従い行った。具体的な手順は以下のとおりである。
【0036】
(1a)キャリアの準備
厚さ18μm、算術平均粗さRa60〜70nmの光沢面を有する電解銅箔(三井金属鉱業株式会社製)をキャリア12として用意した。このキャリアを酸洗処理した。この酸洗処理は、キャリアを硫酸濃度150g/l、液温30℃の希硫酸溶液に30秒間浸漬して表面酸化被膜を除去し、水洗後、乾燥することにより行った。
【0037】
(1b)耐熱金属層の形成
酸洗処理後のキャリア12(電解銅箔)の光沢面側に、耐熱金属層14として厚さ10nmのチタン層を以下の装置及び条件でスパッタリングにより形成した。
‐ 装置:巻き取り型DCスパッタリング装置(日本真空技術株式会社製、SPW−155)
‐ ターゲット:300mm×1700mmサイズのチタンターゲット
‐ 到達真空度Pu:1×10
−4Pa未満
‐ スパッタリング圧PAr:0.1Pa
‐ スパッタリング電力:30kW(5.88W/cm
2)
【0038】
(1c)剥離層の形成
耐熱金属層14(チタン層)の上に、剥離層16として厚さ2nmの炭素層を以下の装置及び条件でスパッタリングにより形成した。
‐ 装置:巻き取り型DCスパッタリング装置(日本真空技術株式会社製、SPW−155)
‐ ターゲット:300mm×1700mmサイズの炭素ターゲット
‐ 到達真空度Pu:1×10
−4Pa未満
‐ スパッタリング圧PAr:0.4Pa
‐ スパッタリング電力:20kW(3.92W/cm
2)
【0039】
(1d)極薄銅箔層の形成
剥離層16(炭素層)の上に、膜厚250nmの極薄銅箔層18を以下の装置及び条件でスパッタリングにより形成した。得られた極薄銅箔層を非接触表面形状測定機(Zygo株式会社製NewView5032)で測定したところ、算術平均粗さ(Ra)46nmの表面を有していた。
‐ 装置:巻き取り型DCスパッタリング装置(日本真空技術株式会社製、SPW−155)
‐ ターゲット:直径8インチ(203.2mm)の銅ターゲット
‐ 到達真空度Pu:1×10
−4Pa未満
‐ ガス:アルゴンガス(流量:100sccm)
‐ スパッタリング圧:0.45Pa
‐ スパッタリング電力:1.0kW(3.1W/cm
2)
【0040】
(1e)シリコン系表面処理層の形成
極薄銅箔層18の上にシリコン系表面処理層20として厚さ6nmのシリコン層を以下の装置及び条件でスパッタリングにより形成して、キャリア付銅箔を作製した。
‐ 装置:巻き取り型DCスパッタリング装置(日本真空技術株式会社製、SPW−155)
‐ ターゲット:直径8インチ(203.2mm)のホウ素を200ppmドープしたシリコンターゲット
‐ 到達真空度Pu:1×10
−4Pa未満
‐ ガス:アルゴンガス(流量:100sccm)
メタンガス(流量:0〜3.0sccm)
二酸化炭素ガス(流量:0〜1sccm)
水蒸気ガス(流量:0〜5.0sccm)
‐ スパッタリング圧:0.45Pa
‐ スパッタリング電力:250W(0.8W/cm
2)
【0041】
このとき、ガス中のメタンガス流量及び二酸化炭素ガスを表1に示される値に制御して、シリコン層中の酸素濃度及び炭素濃度を変化させた。
【0042】
シリコン系表面処理層20(シリコン層)表面に対してX線光電子分光(XPS)により元素分析を行い、検出されたSi、C及びOの元素の合計を100原子%とした場合における、対象となるシリコン濃度、炭素濃度及び酸素濃度(原子%)を測定した。この測定は、X線光電子分光(XPS)装置(アルバック・ファイ株式会社製、Quantum2000)を使用して、出力:40W、X線源:Al(モノクロメーター使用)、X線ビーム径:200μm、エネルギー範囲:0〜1400eV、パスエネルギー:58.7eV、ステップ:1.0eV、測定設定時間:5分、サーベイ測定の条件で行った。得られたサーベイスペクトルを用いた対象元素の定量化を、相対感度係数法を用いたソフトウエアで行った。XPSでの定量測定の対象元素Si、C及びOの測定スペクトルに対応する軌道は、Siは2p(3/2+1/2)、Cは1s、Oは1sである。こうしてXPS測定を行うことにより、Si、C及びOの3種類の元素の合計量を100原子%とした場合のSi元素、C元素及びO元素の存在割合(原子%)をそれぞれ算出してシリコン濃度、炭素濃度及び酸素濃度とした。また、XPS測定によって得られるチャートから、2p軌道におけるSi−O結合エネルギー(104eV及び532eV)及びSi−C結合エネルギー(100eV及び283eV)に対応するピークの存在によりSi−O結合及びSi−C結合の確認を行った。結果は表1に示されるとおりであった。
【0043】
さらに、シリコン系表面処理層20(シリコン層)表面に対して高周波グロー放電発光表面分析(GDS)による元素分析を行い、シリコン系表面処理層20中のSi濃度を測定した。この測定は、高周波グロー放電発光表面分析(GDS)装置(株式会社堀場製作所製、製品名JY−5000RF)を使用して測定を行った。結果は表1に示されるとおりであった。
【0044】
(2)銅張積層板の作製
図2に示されるように、上記キャリア付銅箔10と樹脂基材26とを用いて、銅張積層板28を以下のようにして作製した。
【0045】
(2a)樹脂基材の作製
ガラスクロス入りビスマレイミド・トリアジン樹脂からなるプリプレグ(三菱ガス化学株式会社製、GHPL−830NS、厚さ45μm)を4枚積層し樹脂基材26を作製した。
【0046】
(2b)積層
上述の樹脂基材26の両面(
図2では簡略化のため片面の積層のみを示した)をキャリア付銅箔10で挟み、プレス温度:220℃、プレス時間:90分、圧力:40MPaの条件で樹脂基材26とキャリア付銅箔10とを積層した。こうしてキャリア付銅張積層板25を得た。
【0047】
(2c)キャリアの剥離
キャリア付銅張積層板25の剥離層16から、キャリア12を手動で剥離して、極薄銅箔層18の表面を露出させた。なお、耐熱金属層14および剥離層16はキャリア12(電解銅箔)側に付着された状態で剥離された。こうして銅張積層板28を得た。
【0048】
(3)評価
こうして得られた銅張積層板について、(3a)剥離強度の評価、(3c)微細配線パターン形成の評価、及び(3d)TEM−EDXによる界面観察及び元素マッピング測定を行った。また、上記銅張積層板が有するシリコン系表面処理層と同等のシリコン系表面処理層を別途作製して(3b)シリコン系表面処理層の絶縁抵抗の評価も行った。具体的には以下のとおりである。
【0049】
(3a)剥離強度の評価
図3に示されるように、銅張積層板28から剥離強度測定用サンプル32を作製し、極薄銅箔層18のシリコン系表面処理層20と樹脂基材26の剥離強度を評価した。剥離強度測定用サンプル32は、銅張積層板28に硫酸銅めっき液を用いて厚さ18μmの電気銅めっき30を形成し、その後パターン形成して作製した。また、パターン形成は、形成した電気銅めっきを10mm幅でマスキングし、塩化第二銅水溶液でエッチングすることにより行った。
【0050】
剥離強度の測定は、サンプルの引き剥がし強度を角度90°、速度50mm/分の条件で3点測定し、その平均値を採用することにより行った。こうして得られた剥離強度(平均値)は表1に示されるとおりであった。
【0051】
(3b)シリコン系表面処理層の絶縁抵抗の評価
例1〜6の各々に対応したシリコン系表面処理層の絶縁抵抗測定用サンプルを作製して、絶縁抵抗の評価を行った。絶縁抵抗測定用サンプルの作製は、ガラス基板(コーニング株式会社製、#1737)上に、上述した「(1e)シリコン系表面処理層の形成」に記載される条件と同様の条件で厚さ100nmのシリコン系表面処理層(シリコン層)を形成することにより行った。こうして得られた測定用サンプルを、半導体デバイス・アナライザ(アジレントテクノロジー株式会社製、B1500A)を用いて四端子法による測定に付し、得られた比抵抗値ρ(Ω・cm)を6nmの膜厚に換算した、(ρ×100/6)なるシート抵抗値(Ω/□)を絶縁抵抗の評価指標として採用した。結果は表1に示されるとおりであった。
【0052】
【表1】
【0053】
(3c)微細配線パターン形成の評価
図4に示されるように例1(比較例)及び例3(実施例)で得られた銅張積層板28に微細配線パターン38を形成して、パターン加工性の評価を行った。まず、微細配線パターン評価用サンプルを以下のようにして作製した。
【0054】
(i)フォトレジスト塗布
銅張積層板28の極薄銅箔層18上にポジ型フォトレジスト(東京応化工業株式会社製、TMMRP−W1000T)を塗布した。
【0055】
(ii)露光処理
フォトレジストを塗布した銅張積層板28を以下の条件で露光処理した。
‐ パターン:Line/Space=2/2μm、パターン長2mm
‐ ガラスマスク:クロム蒸着マスク
‐ 露光量:180mJ/cm
2(波長:365nm換算値、水銀スペクトル線)
【0056】
(iii)現像
露光処理した銅張積層板28を以下の条件で現像処理して、フォトレジスト34を
図4(a)に示されるようにパターニングした。
‐ 現像液:TMAH水溶液(東京応化工業株式会社製、NMD−3)
‐ 温度:23℃
‐ 処理方法:ディップ1分×2回
【0057】
(iv)電気銅めっき
現像処理によりパターニングが施された銅張積層板28の極薄銅箔層18上に
図4(b)に示されるように電気銅めっき36を硫酸銅めっき液により2μmの厚さで形成した。
【0058】
(v)フォトレジストの剥離
電気銅めっき36が施された銅張積層板28から以下の条件でフォトレジスト34を剥離して
図4(c)に示される状態とした。
‐ 剥離液:ST106水溶液(東京応化工業株式会社製)
‐ 温度:60℃
‐ 時間:5分
【0059】
(vi)銅エッチング(フラッシュエッチング)
フォトレジスト34を剥離した銅張積層板28を以下の条件で銅エッチングを行い、
図4(d)に示されるように微細配線パターン38を形成した。
‐ エッチング液:硫酸過水系エッチング液(メック株式会社製、QE7300)
‐ 処理方法:ディップ
‐ 温度:30℃
‐ 時間:30秒
【0060】
(vii)顕微鏡観察
得られた微細配線パターンの外観を光学顕微鏡(1750倍)にて観察して、配線の剥がれの有無を確認した。その結果、例1(比較例)では配線の剥がれが観察される一方、例3(実施例)では配線の剥がれが観察されなかった。例3(実施例)で観察された微細配線パターンのSEM写真を
図5に示す。
【0061】
(3d)TEM−EDXによる界面観察及び元素マッピング測定
例3(実施例)で作製された、キャリア付銅張積層板25の断面において、キャリア12、耐熱金属層14、剥離層16、極薄銅箔層18、シリコン系表面処理層20及び樹脂基材26の界面をTEM−EDXにより観察した。得られた画像の極薄銅箔層18、シリコン系表面処理層20及び樹脂基材26の界面部分を拡大してEDXによるSi元素マッピング画像を照合することにより、極薄銅箔層18の表面にはシリコン系表面処理層20が形成されていることが確認された。