特許第6030815号(P6030815)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6030815表面処理銅箔及びその製造方法、プリント配線板用銅張積層板、並びにプリント配線板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6030815
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】表面処理銅箔及びその製造方法、プリント配線板用銅張積層板、並びにプリント配線板
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/06 20060101AFI20161114BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20161114BHJP
   B32B 15/04 20060101ALI20161114BHJP
   B32B 15/20 20060101ALI20161114BHJP
   H05K 1/09 20060101ALI20161114BHJP
【FI】
   C23C14/06 N
   C23C14/06 E
   B32B9/00 A
   B32B15/04 A
   B32B15/20
   H05K1/09 C
【請求項の数】15
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-544484(P2016-544484)
(86)(22)【出願日】2016年3月24日
(86)【国際出願番号】JP2016059464
【審査請求日】2016年7月7日
(31)【優先権主張番号】特願2015-91191(P2015-91191)
(32)【優先日】2015年4月28日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100131842
【弁理士】
【氏名又は名称】加島 広基
(74)【代理人】
【識別番号】100202511
【弁理士】
【氏名又は名称】武石 卓
(72)【発明者】
【氏名】松浦 宜範
【審査官】 村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−198953(JP,A)
【文献】 特開2008−311328(JP,A)
【文献】 特開2005−219258(JP,A)
【文献】 特開平05−279870(JP,A)
【文献】 特開2007−098732(JP,A)
【文献】 特開2010−201620(JP,A)
【文献】 特開2011−166018(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
B32B 9/00
B32B 15/04
B32B 15/20
H05K 1/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅箔と、
前記銅箔の少なくとも片面に設けられ、XPS(X線光電子分光)により測定した場合に、炭素(C)、酸素(O)及びシリコン(Si)の3元素の合計量100原子%に対し、炭素濃度が1.0〜35.0原子%であり且つ酸素濃度が12.0〜40.0原子%である、主としてシリコン(Si)からなるシリコン系表面処理層と、
を備え、前記シリコン系表面処理層における炭素原子及び酸素原子がシリコン原子と結合している、表面処理銅箔。
【請求項2】
高周波グロー放電発光表面分析装置(GDS)で測定される、シリコン系表面処理層におけるシリコンの濃度が40〜87原子%である、請求項1に記載の表面処理銅箔。
【請求項3】
前記表面処理銅箔がプリント配線板用銅張積層板の製造に用いられるものであり、該製造において、前記シリコン系表面処理層に樹脂層が積層されることになる、請求項1又は2に記載の表面処理銅箔。
【請求項4】
前記シリコン系表面処理層が0.1〜100nmの厚さを有する、請求項1〜のいずれか一項に記載の表面処理銅箔。
【請求項5】
前記銅箔の前記シリコン系表面処理層側の表面が、JIS B 0601−2001に準拠して測定される、200nm以下の算術平均粗さRaを有する、請求項1〜のいずれか一項に記載の表面処理銅箔。
【請求項6】
前記シリコン系表面処理層の炭素濃度が5.0〜34.0原子%である、請求項1〜のいずれか一項に記載の表面処理銅箔。
【請求項7】
前記シリコン系表面処理層の酸素濃度が20.0〜35.0原子%である、請求項1〜のいずれか一項に記載の表面処理銅箔。
【請求項8】
前記銅箔が50〜3000nmの厚さを有する、請求項1〜のいずれか一項に記載の表面処理銅箔。
【請求項9】
請求項1〜のいずれか一項に記載の表面処理銅箔と、該シリコン系表面処理層に密着して設けられる樹脂層とを備えた、プリント配線板用銅張積層板。
【請求項10】
樹脂層と、XPS(X線光電子分光)により測定した場合に、炭素(C)、酸素(O)及びシリコン(Si)の3元素の合計量100原子%に対し、炭素濃度が1.0〜35.0原子%であり且つ酸素濃度が12.0〜40.0原子%である、主としてシリコン(Si)からなるシリコン系表面処理層と、銅層とがこの順に積層された層構成を含み、前記シリコン系表面処理層における炭素原子及び酸素原子がシリコン原子と結合している、プリント配線板。
【請求項11】
請求項1〜のいずれか一項に記載の表面処理銅箔の製造方法であって、
銅箔を用意する工程と、
前記銅箔の少なくとも片面に、XPS(X線光電子分光)により測定した場合に、炭素(C)、酸素(O)及びシリコン(Si)の3元素の合計量100原子%に対し、炭素濃度が1.0〜35.0原子%であり且つ酸素濃度が12.0〜40.0原子%である、主としてシリコン(Si)からなるシリコン系表面処理層を、気相成膜により形成する工程と、
を含む、方法。
【請求項12】
前記気相成膜がスパッタリングにより行われる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記スパッタリングが、シリコンターゲット及び/又はシリコンカーバイドターゲットを用い、炭素源及び酸素源とともに行われる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記炭素源が、メタン、エタン、プロパン、ブタン、アセチレン、及びテトラエトキシシランからなる群から選択される少なくとも1種のガスである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記酸素源が、二酸化炭素(CO)、酸素(O)、二酸化窒素(NO)及び一酸化窒素(NO)からなる群から選択される少なくとも1種のガスである、請求項13又は14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理銅箔及びその製造方法、プリント配線板用銅張積層板、並びにプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の携帯用電子機器等の電子機器の小型化及び高機能化に伴い、プリント配線板には配線パターンの更なる微細化(ファインピッチ化)が求められている。かかる要求に対応するためには、プリント配線板製造用銅箔には従前以上に薄く且つ低い表面粗度のものが望まれている。
【0003】
一方、プリント配線板製造用銅箔は絶縁樹脂基板と張り合わせて使用されるが、銅箔と樹脂絶縁基板との密着強度を如何にして確保するかが重要となる。というのも、密着強度が低いとプリント配線板製造時に配線の剥がれが生じやすくなるため、製品歩留まりが低下するからである。この点、通常のプリント配線板製造用銅箔では、銅箔の張り合わせ面に粗化処理を施して凹凸を形成し、この凹凸をプレス加工により絶縁樹脂基材の内部に食い込ませてアンカー効果を発揮させることで、密着性を向上している。しかしながら、この粗化処理を用いた手法は、上述したようなファインピッチ化に対応するための、従前以上に薄く且つ低い表面粗度の銅箔とは相容れないものである。
【0004】
粗化処理を施さずに銅箔と絶縁樹脂基材の密着性を向上するプリント配線板用銅箔も知られている。例えば、特許文献1(特開2007−266416号公報)には、少なくとも片面の表面粗さRzが2.5μm以下であり、当該片面に少なくともSiOのようなSi酸化物サイトが点在して露出している金属箔が開示されている。この文献において実際に用いられている金属箔は厚さ18μmで且つ両面の表面粗さRzが0.7μmの圧延銅箔である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−266416号公報
【発明の概要】
【0006】
特許文献1においては、金属箔と絶縁基材との剥離強度が高くなるため、金属箔張り積層板に対するエッチング処理によってファインパターンの導体回路を形成できるとされているものの、当該文献においてファインピッチとして想定されているライン/スペース(L/S)はせいぜい25μm/25μm程度である。これに対し、近年、ライン/スペース(L/S)が13μm以下/13μm以下(例えば12μm/12μm、10μm/10μm、5μm/5μm、2μm/2μm)といった程度にまで高度に微細化された配線パターンの形成が望まれており、そのためにはこれまで無い程に薄い極薄銅箔(例えば厚さ1μm以下)の使用が望まれる。しかし、このような極薄銅箔を電解製箔の手法により製造しようとすると、薄すぎる厚さに起因して、ピンホール形成等の問題が生じやすくなる。また、厚さ3μm以下の極薄銅箔を従来の電解製箔の手法ではなくスパッタリングにより製造する技術も提案されているが、こうして形成される極薄銅箔にあっては、極めて平坦な銅箔表面(例えば算術平均粗さRa:200nm以下)を有するため、銅箔表面の凹凸を活用したアンカー効果は期待できず、かかる極薄銅箔と樹脂層との高い密着強度を確保することは困難を極めていた。その上、プリント配線基板の上記の如く高度にファインピッチ化された配線パターンにおける配線間のリーク電流の発生を有効に防止ないし低減することも望まれる。
【0007】
本発明者らは、今般、銅箔の少なくとも片面に、所定の濃度で炭素及び酸素を添加したシリコン系表面処理層を形成することにより、スパッタリング等の蒸着法により形成されたような極めて平坦な銅箔表面であっても樹脂層との高い密着強度を実現可能であり、しかも、プリント配線基板のファインピッチ化に適した望ましい絶縁抵抗を有する表面処理層付き銅箔を提供できるとの知見を得た。
【0008】
したがって、本発明の目的は、スパッタリング等の蒸着法により形成されたような極めて平坦な銅箔表面であっても樹脂層との高い密着強度を実現可能であり、しかも、プリント配線基板のファインピッチ化に適した望ましい絶縁抵抗を有する表面処理層を備えた銅箔を提供することにある。
【0009】
本発明の一態様によれば、銅箔と、
前記銅箔の少なくとも片面に設けられ、XPS(X線光電子分光)により測定した場合に、炭素(C)、酸素(O)及びシリコン(Si)の3元素の合計量100原子%に対し、炭素濃度が1.0〜35.0原子%であり且つ酸素濃度が12.0〜40.0原子%である、主としてシリコン(Si)からなるシリコン系表面処理層と、
を備えた、表面処理銅箔が提供される。
【0010】
本発明の他の一態様によれば、上記態様の表面処理銅箔と、該シリコン系表面処理層に密着して設けられる樹脂層とを備えた、プリント配線板用銅張積層板が提供される。
【0011】
本発明の更に別の一態様によれば、樹脂層と、XPS(X線光電子分光)により測定した場合に、炭素(C)、酸素(O)及びシリコン(Si)の3元素の合計量100原子%に対し、炭素濃度が1.0〜35.0原子%であり且つ酸素濃度が12.0〜40.0原子%である、主としてシリコン(Si)からなるシリコン系表面処理層と、銅層とがこの順に積層された層構成を含む、プリント配線板が提供される。
【0012】
本発明の更に別の一態様によれば、上記態様の表面処理銅箔の製造方法であって、
銅箔を用意する工程と、
前記銅箔の少なくとも片面に、XPS(X線光電子分光)により測定した場合に、炭素(C)、酸素(O)及びシリコン(Si)の3元素の合計量100原子%に対し、炭素濃度が1.0〜35.0原子%であり且つ酸素濃度が12.0〜40.0原子%である、主としてシリコン(Si)からなるシリコン系表面処理層を、気相成膜により形成する工程と、
を含む、方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明による表面処理銅箔を含むキャリア付銅箔の一態様を示す模式断面図である。
図2】例1〜8における銅張積層板の製造工程を示す流れ図である。
図3】例1〜8における剥離強度測定用サンプルの製造工程を示す流れ図である。
図4】例1〜8における微細配線パターンの形成工程を示す流れ図である。
図5】例3で観察された微細配線パターンのSEM写真である。
図6A】本発明のキャリア付銅箔を含む銅張積層板の断面における、キャリア12、耐熱金属層14、剥離層16、極薄銅箔層18、シリコン系表面処理層20及び樹脂基材26の界面をTEM−EDXにより観察した画像である。
図6B図6Aに示される極薄銅箔層18、シリコン系表面処理層20及び樹脂基材26の界面部分を拡大した画像にEDXによるSi元素マッピング画像を重ねた画像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
表面処理銅箔
本発明の表面処理銅箔は、銅箔と、この銅箔の少なくとも片面に設けられるシリコン系表面処理層とを備えてなる。所望により、シリコン系表面処理層は銅箔の両面に設けられてもよい。そして、シリコン系表面処理層は、主としてシリコン(Si)からなる層であり、XPS(X線光電子分光)により測定した場合に、炭素(C)、酸素(O)及びシリコン(Si)の3元素の合計量100原子%に対し、炭素濃度が1.0〜35.0原子%であり且つ酸素濃度が12.0〜40.0原子%の層である。このように所定の濃度で炭素及び酸素を添加したシリコン系表面処理層を形成することにより、スパッタリング等の蒸着法により形成されたような極めて平坦な銅箔表面であっても樹脂層との高い密着強度を実現可能であり、しかも、プリント配線基板のファインピッチ化に適した望ましい絶縁抵抗を有する表面処理層を備えた銅箔を提供することができる。
【0015】
前述のとおり、ライン/スペース(L/S)が13μm以下/13μm以下(例えば12μm/12μm、10μm/10μm、5μm/5μm、2μm/2μm)といった程度にまで高度に微細化された配線パターンの形成には、これまで無い程に薄い極薄銅箔(例えば厚さ1μm以下)の使用が望まれる。しかし、このような極薄銅箔を電解製箔の手法により製造しようとすると、薄すぎる厚さに起因して、ピンホール形成等の問題が生じやすくなる。また、厚さ3μm以下の極薄銅箔を従来の電解製箔の手法ではなくスパッタリングにより製造する技術も提案されているが、こうして形成される極薄銅箔にあっては、極めて平坦な銅箔表面(例えば算術平均粗さRa:200nm以下)を有するため、銅箔表面の凹凸を活用したアンカー効果は期待できず、かかる極薄銅箔と樹脂層との高い密着強度を確保することは困難を極めていた。この点、本発明の表面処理銅箔にあっては、従来の極薄銅箔のような上記アンカー効果のような物理的手法による密着性確保ではなく、表面処理層の組成を制御することによる化学的手法を採用することで樹脂層との密着性の向上を実現可能としたものである。すなわち、銅箔の少なくとも片面に、XPSにより測定した場合に、炭素(C)、酸素(O)及びシリコン(Si)の3元素の合計量100原子%に対し、炭素濃度が1.0〜35.0原子%であり且つ酸素濃度が12.0〜40.0原子%である、主としてシリコン(Si)からなるシリコン系表面処理層を形成することで、スパッタリング等の蒸着法により形成されたような極めて平坦な銅箔表面であっても樹脂層との高い密着強度を実現することができる。しかも、上記組成のシリコン系表面処理層にあっては、プリント配線基板のファインピッチ化に適した望ましい絶縁抵抗をも実現することができ、それによりファインピッチ化された配線パターンにおける配線間のリーク電流の発生を防止ないし低減することができる。
【0016】
したがって、本発明の表面処理銅箔は、プリント配線板用銅張積層板の製造に用いられるのが好ましく、この製造において、シリコン系表面処理層には樹脂層(典型的には絶縁樹脂層)が積層されることになる。
【0017】
本発明の表面処理銅箔を構成する銅箔は、いかなる方法で製造されたものでもよい。したがって、銅箔は、電解銅箔や圧延銅箔であってもよいし、銅箔がキャリア付銅箔の形態で準備される場合には、無電解銅めっき法及び電解銅めっき法等の湿式成膜法、スパッタリング及び真空蒸着等の物理気相成膜法、化学気相成膜、又はそれらの組合せにより形成した銅箔であってよい。特に好ましい銅箔は、極薄化(例えば厚さ3μm以下)によるファインピッチ化に対応しやすい観点から、スパッタリング法や及び真空蒸着等の物理気相成膜により製造された銅箔であり、最も好ましくはスパッタリング法により製造された銅箔である。また、銅箔は、無粗化の銅箔であるのが好ましいが、プリント配線板製造時の配線パターン形成に支障を来さないかぎり予備的粗化やソフトエッチング処理や洗浄処理、酸化還元処理により二次的な粗化が生じたものであってもよい。銅箔の厚さは特に限定されないが、上述したようなファインピッチ化に対応するためには、50〜3000nmが好ましく、より好ましくは75〜2000nm、さらに好ましくは90〜1500nm、特に好ましくは100〜1000nm、最も好ましくは100〜700nm又は150〜800nm又は200〜1000nmである。このような範囲内の厚さの銅箔はスパッタリング法により製造されるのが成膜厚さの面内均一性や、シート状やロール状での生産性の観点で好ましい。
【0018】
本発明の表面処理銅箔を構成する銅箔のシリコン系表面処理層側の表面は、JIS B 0601−2001に準拠して測定される、200nm以下の算術平均粗さRaを有するのが好ましく、より好ましくは1〜175nm、さらに好ましくは2〜180nm、特に好ましくは3〜130nm、最も好ましくは5〜100nmである。このように算術平均粗さが小さいほど、表面処理銅箔を用いて製造されるプリント配線板において、ライン/スペース(L/S)が13μm以下/13μm以下(例えば12μm/12μm〜2μm/2μm)といった程度にまで高度に微細化された配線パターンの形成を形成することができる。なお、このように極めて平坦な銅箔表面にあっては、銅箔表面の凹凸を活用したアンカー効果は期待できないが、本発明の表面処理銅箔にあっては、上記アンカー効果のような物理的手法による密着性確保ではなく、シリコン系表面処理層の組成を制御することによる化学的手法を採用することで樹脂層との密着性の向上を実現することができる。本発明における算術平均粗さRaは、非接触表面形状測定機で測定された値とする。非接触表面形状測定機としては、Zygo株式会社製のNewView5032などが挙げられる。
【0019】
上述のとおり、本発明の表面処理銅箔は、キャリア付銅箔の形態で提供されてもよい。極薄銅箔の場合には、キャリア付銅箔とすることでハンドリング性を向上することができる。特に、スパッタリング法等の真空蒸着により銅箔を製造する場合には、キャリア付銅箔の形態を採用することで望ましく製造可能となる。図1に示されるように、キャリア付銅箔10は、キャリア12上に、剥離層16、極薄銅箔層18及びシリコン系表面処理層20をこの順に備えてなるものであってよく、キャリア12と剥離層16の間には耐熱金属層14が更に設けられてもよい。また、キャリア12の両面に上下対称となるように上述の各種層を順に備えてなる構成としてもよい。キャリア付銅箔は、上述した極薄銅箔層18及びシリコン系表面処理層20を備えること以外は、公知の層構成を採用すればよく特に限定されない。キャリアの例としては、銅箔、ニッケル箔、ステンレス箔、アルミニウム箔等の金属箔に加えて、PETフィルム、PENフィルム、アラミドフィルム、ポリイミドフィルム、ナイロンフィルム、液晶ポリマー等の樹脂フィルム、樹脂フィルム上に金属層コート層を備える金属コート樹脂フィルム等が挙げられ、好ましくは銅箔である。キャリアとしての銅箔は圧延銅箔及び電解銅箔のいずれであってもよい。キャリアの厚さは典型的には210μm以下であり、キャリア付銅箔の搬送性とキャリア剥離時の破れ防止の観点から好ましくは10〜210μmである。耐熱金属層14を構成する金属の好ましい例としては、鉄、ニッケル、チタン、タンタル及びタングステンが挙げられ、中でもチタンが特に好ましい。これらの金属は高温プレス加工等された際の相互拡散バリアとしての安定性が高く、特に、チタンは、その不働態膜が非常に強硬な酸化物で構成されるため、優れた高温耐熱性を呈する。この場合、チタン層はスパッタリング等の物理気相成膜により形成するのが好ましい。チタン層等の耐熱金属層14は厚さ1〜50nmであることが好ましく、より好ましくは4〜50nmである。剥離層16は、有機剥離層、無機剥離層、及び炭素系剥離層のいずれであってもよい。有機剥離層の例としては、窒素含有有機化合物、硫黄含有有機化合物、カルボン酸等が挙げられる。窒素含有有機化合物の例としては、トリアゾール化合物、イミダゾール化合物等が挙げられ、中でもトリアゾール化合物は剥離性が安定し易い点で好ましい。トリアゾール化合物の例としては、1,2,3−ベンゾトリアゾール、カルボキシベンゾトリアゾール、N’,N’−ビス(ベンゾトリアゾリルメチル)ユリア、1H−1,2,4−トリアゾール及び3−アミノ−1H−1,2,4−トリアゾール等が挙げられる。硫黄含有有機化合物の例としては、メルカプトベンゾチアゾール、チオシアヌル酸、2−ベンズイミダゾールチオール等が挙げられる。カルボン酸の例としては、モノカルボン酸、ジカルボン酸等が挙げられる。一方、無機剥離層の例としては、Ni、Mo、Co、Cr、Fe、Ti、W、P、Znの群の少なくともいずれか1種類の金属、金属酸化物等が挙げられる。また、炭素系剥離層の例としては、炭素層が挙げられる。炭素はキャリアとの相互拡散性及び反応性が小さく、300℃を超える温度でのプレス加工等を受けても、銅箔層と接合界面との間での高温加熱による金属結合の形成を防止して、キャリアの引き剥がし除去が容易な状態を維持することができる。この炭素層もスパッタリング等の物理気相成膜を用いて形成するのが好ましい。剥離層の厚さは、剥離容易性と生産効率の点から0.5〜500nmが好ましく、より好ましくは1〜100nmである。剥離層が炭素層である場合、炭素層の換算厚さは1〜20nmが好ましい。この厚さは、層断面を透過型電子顕微鏡のエネルギー分散型X線分光分析器(TEM−EDX)で分析することにより測定される値とする。
【0020】
本発明の表面処理銅箔を構成するシリコン系表面処理層は、XPSにより測定した場合に、炭素(C)、酸素(O)及びシリコン(Si)の3元素の合計量100原子%に対し、炭素濃度が1.0〜35.0原子%であり且つ酸素濃度が12.0〜40.0原子%である、主としてシリコン(Si)からなる層である。シリコン系表面処理層を構成するシリコンは典型的には非晶質シリコンである。「主としてシリコン(Si)からなる」とは、シリコン原子が炭素濃度よりも相対的に高濃度であり、かつ、酸素濃度よりも高濃度であることを指す。シリコン系表面処理層におけるシリコン原子の濃度は、XPS(X線光電子分光)により測定した場合に、炭素(C)、酸素(O)及びシリコン(Si)の3元素の合計量100原子%に対して、40〜87原子%であるのが好ましく、より好ましくは45〜85原子%、さらに好ましくは47〜75原子%である。このような範囲内であると、非晶質シリコンの絶縁性及び耐熱性を有意に機能させることができる。また、シリコン系表面処理層におけるシリコン原子の含有量は、高周波グロー放電発光表面分析装置(GDS)で測定された場合に40〜87原子%であるのが好ましく、より好ましくは43〜86原子%、さらに好ましくは45〜75原子%、特に好ましくは47〜70原子%である。シリコン系表面処理層における炭素原子及び酸素原子は典型的にはシリコン原子と結合している。炭素及び酸素を上記量でシリコン系表面処理層に含有させることで樹脂層と密着性及び絶縁抵抗の両方を実現することができる。また、シリコン系表面処理層を構成するシリコン系材料は原料成分や成膜工程等に起因して不可避的に混入する不可避不純物を含んでいてもよい。例えば、スパッタリングターゲットにDCスパッタリングを可能とするためのホウ素等の導電性ドーパントを微量添加した場合、そのようなドーパントが不可避的にシリコン系表面処理層に微量に混入しうるが、そのような不可避不純物の混入は許容される。また、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内においてシリコン系表面処理層は他のドーパントや、成膜時の雰囲気に起因する微量の不可避ガス成分である水素、窒素等を含んでいてもよい。
【0021】
シリコン系表面処理層の炭素濃度は、XPSにより測定した場合に、炭素(C)、酸素(O)及びシリコン(Si)の3元素の合計量100原子%に対して、1.0〜35.0原子%であるのが好ましく、より好ましくは5.0〜34.0原子%、特に好ましくは10.0〜30.0原子%、最も好ましくは12.0〜30.0原子%である。シリコン系表面処理層の酸素濃度は、XPSにより測定した場合に、炭素(C)、酸素及びシリコン(Si)の3元素の合計量100原子%に対して、12.0〜40.0原子%であるのが好ましく、より好ましくは15.0〜35.0原子%、さらに好ましくは20.0〜30.0原子%、最も好ましくは22.0〜28.0原子%である。炭素濃度及び酸素濃度が上記範囲内であると、樹脂層との密着性及び絶縁抵抗を有意に向上することができる。そのメカニズムは定かではないが、酸素原子がシリコン系表面処理層中にある程度存在することで絶縁抵抗に寄与する一方、酸素原子が多すぎると樹脂層との密着性が低下しうる。また、炭素原子もシリコン系表面処理層中にある程度存在することで密着性及び絶縁抵抗の向上に寄与する。
【0022】
本明細書において、シリコン系表面処理層のシリコン濃度、炭素濃度及び酸素濃度は、XPS(X線光電子分光)により測定されうるものであり、より具体的にはXPSにおいて検出されるSi、C及びOの各量に基づいて、これら3元素の合計量を100at%とした場合のO元素及びC元素の存在割合(原子%)でありうる。この場合、シリコン濃度(原子%)は100×Si/(Si+C+O)の式に従って算出される値であり、炭素濃度(原子%)は100×C/(Si+C+O)の式に従って算出される値であり、酸素濃度(原子%)は100×O/(Si+C+O)の式に従って算出される値であるといえる(これらの式において元素名は当該元素の量を意味する)。こうしてXPSにより検出されるシリコン系表面処理層中の炭素原子及び酸素原子は典型的にはシリコン原子と結合していることが好ましい。結合状態は、XPS測定によって得られるチャートから、Si−O結合エネルギー(104eV及び532eV)及びSi−C結合エネルギー(100eV及び283eV)に対応する両ピークの存在により確認できるものである。XPSによる測定は、銅箔上に成膜した直後のシリコン系表面処理層から行うことが可能である。また、後述する本発明の表面処理銅箔を用いて製造されたプリント配線板や電子部品の形態においても、配線パターンの直下となる絶縁層表層のシリコン系表面処理層を露出させることで、上述した濃度測定及び結合状態の確認を行うことが可能である。
【0023】
シリコン系表面処理層は0.1〜100nmの厚さを有するのが好ましく、より好ましくは2〜100nm、さらに好ましくは2〜20nm、特に好ましくは4〜10nmである。このような範囲内であると、樹脂層との密着性及び絶縁抵抗を有意に向上することができる。この厚さは、層断面を透過型電子顕微鏡のエネルギー分散型X線分光分析器(TEM−EDX)で分析することにより測定される値とする。参考のため、本発明の表面処理銅箔を含むキャリア付銅張積層板25の断面において、キャリア12、耐熱金属層14、剥離層16、極薄銅箔層18、シリコン系表面処理層20及び樹脂基材26の界面をTEM−EDXにより観察した画像を図6Aに示す一方、この画像の極薄銅箔層18、シリコン系表面処理層20及び樹脂基材26の界面部分を拡大してEDXによるSi元素マッピング画像を重ねた画像を図6Bに示す。このような画像から、極薄銅箔層18の表面にシリコン系表面処理層20の存在及びその厚さを確認することができる。
【0024】
製造方法
本発明による表面処理銅箔は、上述した銅箔を用意し、該銅箔の少なくとも片面に、XPSにより測定した場合に、炭素(C)、酸素(O)及びシリコン(Si)の3元素の合計量100原子%に対し、炭素濃度が1.0〜35.0原子%であり且つ酸素濃度が12.0〜40.0原子%である、主としてシリコン(Si)からなるシリコン系表面処理層を、気相成膜により形成することにより製造することができる。所望によりシリコン系表面処理層を銅箔の両面に形成してもよいのは前述したとおりである。
【0025】
本発明の製造方法に用いる銅箔はいかなる方法で製造されたものでもよく、その詳細については上述したとおりである。したがって、特に好ましい銅箔は、極薄化(例えば厚さ1μm以下)によるファインピッチ化に対応しやすい観点から、スパッタリング法等の物理気相成膜により製造された銅箔であり、最も好ましくはスパッタリング法により製造された銅箔であり、そのような銅箔はキャリア付銅箔の形態で用意されるのが好ましい。
【0026】
本発明の製造方法において、シリコン系表面処理層の形成は気相成膜により形成される。気相成膜は物理気相成膜及び化学気相成膜のいずれであってもよい。気相成膜を用いることで、酸素及び/又は炭素の含有量を制御しやすくなるとともに、シリコン系表面処理層に望まれる極めて薄い厚さ(0.1〜100nm)に成膜を行うことができる。したがって、炭素濃度1.0〜35.0原子%であり且つ酸素濃度が12.0〜40.0原子%のシリコン系表面処理層を好ましく製造することができる。
【0027】
シリコン系表面処理層は物理気相成膜により形成されるのが好ましい。物理気相成膜の例としては、スパッタリング法、真空蒸着法、及びイオンプレーティング法が挙げられるが、最も好ましくはスパッタリング法である。スパッタリング法によれば銅箔表面の平坦性(好ましくは算術平均粗さRa:200nm以下)を損なうことなく極めて薄いシリコン系表面処理層を極めて良好に形成することができる。また、図1に示されるようなキャリア付銅箔10の構成を採る場合、キャリア12上に設けられる、耐熱金属層14、剥離層16、極薄銅箔層18及びシリコン系表面処理層20の全ての層をスパッタリング法により形成できる点で製造効率が格段に高くなるといった利点もある。
【0028】
物理気相成膜は、シリコンターゲット及び/又はシリコンカーバイドターゲットを用い、炭素源及び酸素源とともに行われるのが好ましい。このとき、炭素源は、メタン、エタン、プロパン、ブタン、アセチレン、及びテトラエトキシシランからなる群から選択される少なくとも1種のガスであるのが好ましく、より好ましくはメタン又は二酸化炭素(CO)である。また、酸素源は、二酸化炭素(CO)、酸素(O)、二酸化窒素(NO)、水蒸気(HO)及び一酸化窒素(NO)からなる群から選択される少なくとも1種のガスであるのが好ましく、最も好ましくは二酸化炭素(CO)又は水蒸気(HO)である。但し、炭素源に二酸化炭素(CO)を用いた場合は、酸素源は水蒸気(HO)であるのが好ましい。
【0029】
物理気相成膜は公知の物理気相成膜装置を用いて公知の条件に従って行えばよく特に限定されない。例えば、スパッタリング法を採用する場合、スパッタリング方式は、マグネトロンスパッタリング、2極スパッタリング法等、公知の種々の方法であってよいが、マグネトロンスパッタリングが、成膜速度が速く生産性が高い点で好ましい。また、スパッタリングはDC(直流)及びRF(高周波)のいずれの電源で行ってもよいが、DCスパッタリングを行う場合にはシリコンターゲットには導電性を付与するためホウ素等の導電性ドーパントを微量(例えば0.01〜500ppm)添加するのが成膜効率を向上させる観点で望ましい。また、スパッタリングを開始する前のチャンバ内の到達真空度は1×10−4Pa未満とするのが好ましい。スパッタリングに用いるガスとしては、アルゴンガス等の不活性ガスとともに、上述したような炭素源及び酸素源となるべきガスを併用するのが好ましい。最も好ましいガスはアルゴンガス、メタンガス及び二酸化炭素の組合せである。アルゴンガス等の流量はスパッタリングチャンバーサイズ及び成膜条件に応じて適宜決定すればよく特に限定されない。また、異常放電やプラズマ照射不良などの稼働不良なく、連続安定成膜性を保つ観点から成膜時の圧力は0.1〜2.0Paの範囲で行うことが好ましい。この圧力範囲は、装置構造、容量、真空ポンプの排気容量、成膜電源の定格容量等に応じ、成膜電力、アルゴンガス等の流量を調整することで設定すればよい。また、スパッタリング電力は成膜の膜厚均一性、生産性等を考慮してターゲットの単位面積あたり0.05〜10.0W/cmの範囲内で適宜設定すればよい。
【0030】
プリント配線板用銅張積層板
本発明の好ましい態様によれば、本発明の表面処理銅箔と、該シリコン系表面処理層に密着して設けられる樹脂層とを備えた、プリント配線板用銅張積層板が提供される。表面処理銅箔は樹脂層の片面に設けられてもよいし、両面に設けられてもよい。
【0031】
樹脂層は、樹脂、好ましくは絶縁性樹脂を含んでなる。樹脂層はプリプレグ及び/又は樹脂シートであるのが好ましい。プリプレグとは、合成樹脂板、ガラス板、ガラス織布、ガラス不織布、紙等の基材に合成樹脂を含浸させた複合材料の総称である。絶縁性樹脂の好ましい例としては、エポキシ樹脂、シアネート樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂(BT樹脂)、ポリフェニレンエーテル樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。また、樹脂シートを構成する絶縁性樹脂の例としては、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂等の絶縁樹脂が挙げられる。また、樹脂層には絶縁性を向上する等の観点からシリカ、アルミナ等の各種無機粒子からなるフィラー粒子等が含有されていてもよい。樹脂層の厚さは特に限定されないが、1〜1000μmが好ましく、より好ましくは2〜400μmであり、さらに好ましくは3〜200μmである。樹脂層は複数の層で構成されていてよく、例えば内層プリプレグの両面に外層プリプレグを片面につき1枚ずつ(両面で計2枚)設けて樹脂層を構成してもよく、この場合、内層プリプレグも2層又はそれ以上の層で構成されていてもよい。プリプレグ及び/又は樹脂シート等の樹脂層は予め銅箔表面に塗布されるプライマー樹脂層を介して表面処理銅箔に設けられるのが銅箔の接着強度の安定性、銅箔表面の傷防止等の観点から好ましい。
【0032】
プリント配線板
本発明の表面処理銅箔はプリント配線板の作製に用いられるのが好ましい。すなわち、本発明によれば、表面処理銅箔に由来する層構成を備えたプリント配線板も提供される。この場合、プリント配線板は、樹脂層と、XPSにより測定した場合に、炭素(C)、酸素(O)及びシリコン(Si)の3元素の合計量100原子%に対し、炭素濃度が1.0〜35.0原子%であり且つ酸素濃度が12.0〜40.0原子%である、主としてシリコン(Si)からなる層と、銅層とがこの順に積層された層構成を含んでなる。主としてシリコンからなる層は本発明の表面処理銅箔のシリコン系表面処理層に由来する層であり、銅層は本発明の表面処理銅箔の銅箔に由来する層である。また、樹脂層については銅張積層板に関して上述したとおりである。いずれにしても、プリント配線板は、本発明の表面処理銅箔を用いること以外は、公知の層構成が採用可能である。特に、本発明の表面処理銅箔の採用により、プリント配線板の絶縁層及び配線層の界面は、JIS B 0601−2001に準拠して測定される算術平均粗さRaとして、200nm以下、より好ましくは1〜175nm、さらに好ましくは2〜180nm、特に好ましくは3〜130nm、最も好ましくは5〜100nmである平滑な界面を有することとが可能となり、微細配線加工性に優れたプリント配線板を得ることができる。
【0033】
プリント配線板に関する具体例としては、プリプレグの片面又は両面に本発明の表面処理銅箔を接着させ硬化した積層体(CCL)とした上で回路形成した片面又は両面プリント配線板や、これらを多層化した多層プリント配線板等が挙げられる。また、他の具体例としては、樹脂フィルム上に本発明の表面処理銅箔を形成して回路を形成するフレキシブル・プリント配線板、COF、TABテープ等も挙げられる。さらに他の具体例としては、本発明の表面処理銅箔に上述の樹脂層を塗布した樹脂付銅箔(RCC)を形成し、樹脂層を絶縁接着材層として上述のプリント基板に積層した後、表面処理銅箔を配線層の全部又は一部として、モディファイド・セミアディティブ(MSAP)法、サブトラクティブ法等の手法で回路を形成したビルドアップ配線板や、半導体集積回路上へ樹脂付銅箔の積層と回路形成を交互に繰りかえすダイレクト・ビルドアップ・オン・ウェハー等が挙げられる。この他、本発明の表面処理銅箔を樹脂層を絶縁接着材層として上述のプリント基板に積層し、表面処理銅箔をエッチ・オフし絶縁接着剤を露出した後、回路形成するセミアディティブ法(SAP)も、配線板の形成方法として有用である。本発明のより発展的な具体例として、上記樹脂付銅箔を基材に積層し回路形成したアンテナ素子、接着剤層を介してガラスや樹脂フィルムに積層しパターンを形成したパネル・ディスプレイ用電子材料や窓ガラス用電子材料、本発明の表面処理銅箔に導電性接着剤を塗布した電磁波シールド・フィルム等も挙げられる。
【実施例】
【0034】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0035】
例1〜8
(1)キャリア付銅箔の作製
図1に示されるように、キャリア12としての電解銅箔上に耐熱金属層14、剥離層16、極薄銅箔層18及びシリコン系表面処理層20をこの順に成膜してキャリア付銅箔10を作製した。このとき、シリコン系表面処理層20の成膜は表1に示される各種条件に従い行った。具体的な手順は以下のとおりである。
【0036】
(1a)キャリアの準備
厚さ18μm、算術平均粗さRa60〜70nmの光沢面を有する電解銅箔(三井金属鉱業株式会社製)をキャリア12として用意した。このキャリアを酸洗処理した。この酸洗処理は、キャリアを硫酸濃度150g/l、液温30℃の希硫酸溶液に30秒間浸漬して表面酸化被膜を除去し、水洗後、乾燥することにより行った。
【0037】
(1b)耐熱金属層の形成
酸洗処理後のキャリア12(電解銅箔)の光沢面側に、耐熱金属層14として厚さ10nmのチタン層を以下の装置及び条件でスパッタリングにより形成した。
‐ 装置:巻き取り型DCスパッタリング装置(日本真空技術株式会社製、SPW−155)
‐ ターゲット:300mm×1700mmサイズのチタンターゲット
‐ 到達真空度Pu:1×10−4Pa未満
‐ スパッタリング圧PAr:0.1Pa
‐ スパッタリング電力:30kW(5.88W/cm
【0038】
(1c)剥離層の形成
耐熱金属層14(チタン層)の上に、剥離層16として厚さ2nmの炭素層を以下の装置及び条件でスパッタリングにより形成した。
‐ 装置:巻き取り型DCスパッタリング装置(日本真空技術株式会社製、SPW−155)
‐ ターゲット:300mm×1700mmサイズの炭素ターゲット
‐ 到達真空度Pu:1×10−4Pa未満
‐ スパッタリング圧PAr:0.4Pa
‐ スパッタリング電力:20kW(3.92W/cm
【0039】
(1d)極薄銅箔層の形成
剥離層16(炭素層)の上に、膜厚250nmの極薄銅箔層18を以下の装置及び条件でスパッタリングにより形成した。得られた極薄銅箔層を非接触表面形状測定機(Zygo株式会社製NewView5032)で測定したところ、算術平均粗さ(Ra)46nmの表面を有していた。
‐ 装置:巻き取り型DCスパッタリング装置(日本真空技術株式会社製、SPW−155)
‐ ターゲット:直径8インチ(203.2mm)の銅ターゲット
‐ 到達真空度Pu:1×10−4Pa未満
‐ ガス:アルゴンガス(流量:100sccm)
‐ スパッタリング圧:0.45Pa
‐ スパッタリング電力:1.0kW(3.1W/cm
【0040】
(1e)シリコン系表面処理層の形成
極薄銅箔層18の上にシリコン系表面処理層20として厚さ6nmのシリコン層を以下の装置及び条件でスパッタリングにより形成して、キャリア付銅箔を作製した。
‐ 装置:巻き取り型DCスパッタリング装置(日本真空技術株式会社製、SPW−155)
‐ ターゲット:直径8インチ(203.2mm)のホウ素を200ppmドープしたシリコンターゲット
‐ 到達真空度Pu:1×10−4Pa未満
‐ ガス:アルゴンガス(流量:100sccm)
メタンガス(流量:0〜3.0sccm)
二酸化炭素ガス(流量:0〜1sccm)
水蒸気ガス(流量:0〜5.0sccm)
‐ スパッタリング圧:0.45Pa
‐ スパッタリング電力:250W(0.8W/cm
【0041】
このとき、ガス中のメタンガス流量及び二酸化炭素ガスを表1に示される値に制御して、シリコン層中の酸素濃度及び炭素濃度を変化させた。
【0042】
シリコン系表面処理層20(シリコン層)表面に対してX線光電子分光(XPS)により元素分析を行い、検出されたSi、C及びOの元素の合計を100原子%とした場合における、対象となるシリコン濃度、炭素濃度及び酸素濃度(原子%)を測定した。この測定は、X線光電子分光(XPS)装置(アルバック・ファイ株式会社製、Quantum2000)を使用して、出力:40W、X線源:Al(モノクロメーター使用)、X線ビーム径:200μm、エネルギー範囲:0〜1400eV、パスエネルギー:58.7eV、ステップ:1.0eV、測定設定時間:5分、サーベイ測定の条件で行った。得られたサーベイスペクトルを用いた対象元素の定量化を、相対感度係数法を用いたソフトウエアで行った。XPSでの定量測定の対象元素Si、C及びOの測定スペクトルに対応する軌道は、Siは2p(3/2+1/2)、Cは1s、Oは1sである。こうしてXPS測定を行うことにより、Si、C及びOの3種類の元素の合計量を100原子%とした場合のSi元素、C元素及びO元素の存在割合(原子%)をそれぞれ算出してシリコン濃度、炭素濃度及び酸素濃度とした。また、XPS測定によって得られるチャートから、2p軌道におけるSi−O結合エネルギー(104eV及び532eV)及びSi−C結合エネルギー(100eV及び283eV)に対応するピークの存在によりSi−O結合及びSi−C結合の確認を行った。結果は表1に示されるとおりであった。
【0043】
さらに、シリコン系表面処理層20(シリコン層)表面に対して高周波グロー放電発光表面分析(GDS)による元素分析を行い、シリコン系表面処理層20中のSi濃度を測定した。この測定は、高周波グロー放電発光表面分析(GDS)装置(株式会社堀場製作所製、製品名JY−5000RF)を使用して測定を行った。結果は表1に示されるとおりであった。
【0044】
(2)銅張積層板の作製
図2に示されるように、上記キャリア付銅箔10と樹脂基材26とを用いて、銅張積層板28を以下のようにして作製した。
【0045】
(2a)樹脂基材の作製
ガラスクロス入りビスマレイミド・トリアジン樹脂からなるプリプレグ(三菱ガス化学株式会社製、GHPL−830NS、厚さ45μm)を4枚積層し樹脂基材26を作製した。
【0046】
(2b)積層
上述の樹脂基材26の両面(図2では簡略化のため片面の積層のみを示した)をキャリア付銅箔10で挟み、プレス温度:220℃、プレス時間:90分、圧力:40MPaの条件で樹脂基材26とキャリア付銅箔10とを積層した。こうしてキャリア付銅張積層板25を得た。
【0047】
(2c)キャリアの剥離
キャリア付銅張積層板25の剥離層16から、キャリア12を手動で剥離して、極薄銅箔層18の表面を露出させた。なお、耐熱金属層14および剥離層16はキャリア12(電解銅箔)側に付着された状態で剥離された。こうして銅張積層板28を得た。
【0048】
(3)評価
こうして得られた銅張積層板について、(3a)剥離強度の評価、(3c)微細配線パターン形成の評価、及び(3d)TEM−EDXによる界面観察及び元素マッピング測定を行った。また、上記銅張積層板が有するシリコン系表面処理層と同等のシリコン系表面処理層を別途作製して(3b)シリコン系表面処理層の絶縁抵抗の評価も行った。具体的には以下のとおりである。
【0049】
(3a)剥離強度の評価
図3に示されるように、銅張積層板28から剥離強度測定用サンプル32を作製し、極薄銅箔層18のシリコン系表面処理層20と樹脂基材26の剥離強度を評価した。剥離強度測定用サンプル32は、銅張積層板28に硫酸銅めっき液を用いて厚さ18μmの電気銅めっき30を形成し、その後パターン形成して作製した。また、パターン形成は、形成した電気銅めっきを10mm幅でマスキングし、塩化第二銅水溶液でエッチングすることにより行った。
【0050】
剥離強度の測定は、サンプルの引き剥がし強度を角度90°、速度50mm/分の条件で3点測定し、その平均値を採用することにより行った。こうして得られた剥離強度(平均値)は表1に示されるとおりであった。
【0051】
(3b)シリコン系表面処理層の絶縁抵抗の評価
例1〜6の各々に対応したシリコン系表面処理層の絶縁抵抗測定用サンプルを作製して、絶縁抵抗の評価を行った。絶縁抵抗測定用サンプルの作製は、ガラス基板(コーニング株式会社製、#1737)上に、上述した「(1e)シリコン系表面処理層の形成」に記載される条件と同様の条件で厚さ100nmのシリコン系表面処理層(シリコン層)を形成することにより行った。こうして得られた測定用サンプルを、半導体デバイス・アナライザ(アジレントテクノロジー株式会社製、B1500A)を用いて四端子法による測定に付し、得られた比抵抗値ρ(Ω・cm)を6nmの膜厚に換算した、(ρ×100/6)なるシート抵抗値(Ω/□)を絶縁抵抗の評価指標として採用した。結果は表1に示されるとおりであった。
【0052】
【表1】
【0053】
(3c)微細配線パターン形成の評価
図4に示されるように例1(比較例)及び例3(実施例)で得られた銅張積層板28に微細配線パターン38を形成して、パターン加工性の評価を行った。まず、微細配線パターン評価用サンプルを以下のようにして作製した。
【0054】
(i)フォトレジスト塗布
銅張積層板28の極薄銅箔層18上にポジ型フォトレジスト(東京応化工業株式会社製、TMMRP−W1000T)を塗布した。
【0055】
(ii)露光処理
フォトレジストを塗布した銅張積層板28を以下の条件で露光処理した。
‐ パターン:Line/Space=2/2μm、パターン長2mm
‐ ガラスマスク:クロム蒸着マスク
‐ 露光量:180mJ/cm(波長:365nm換算値、水銀スペクトル線)
【0056】
(iii)現像
露光処理した銅張積層板28を以下の条件で現像処理して、フォトレジスト34を図4(a)に示されるようにパターニングした。
‐ 現像液:TMAH水溶液(東京応化工業株式会社製、NMD−3)
‐ 温度:23℃
‐ 処理方法:ディップ1分×2回
【0057】
(iv)電気銅めっき
現像処理によりパターニングが施された銅張積層板28の極薄銅箔層18上に図4(b)に示されるように電気銅めっき36を硫酸銅めっき液により2μmの厚さで形成した。
【0058】
(v)フォトレジストの剥離
電気銅めっき36が施された銅張積層板28から以下の条件でフォトレジスト34を剥離して図4(c)に示される状態とした。
‐ 剥離液:ST106水溶液(東京応化工業株式会社製)
‐ 温度:60℃
‐ 時間:5分
【0059】
(vi)銅エッチング(フラッシュエッチング)
フォトレジスト34を剥離した銅張積層板28を以下の条件で銅エッチングを行い、図4(d)に示されるように微細配線パターン38を形成した。
‐ エッチング液:硫酸過水系エッチング液(メック株式会社製、QE7300)
‐ 処理方法:ディップ
‐ 温度:30℃
‐ 時間:30秒
【0060】
(vii)顕微鏡観察
得られた微細配線パターンの外観を光学顕微鏡(1750倍)にて観察して、配線の剥がれの有無を確認した。その結果、例1(比較例)では配線の剥がれが観察される一方、例3(実施例)では配線の剥がれが観察されなかった。例3(実施例)で観察された微細配線パターンのSEM写真を図5に示す。
【0061】
(3d)TEM−EDXによる界面観察及び元素マッピング測定
例3(実施例)で作製された、キャリア付銅張積層板25の断面において、キャリア12、耐熱金属層14、剥離層16、極薄銅箔層18、シリコン系表面処理層20及び樹脂基材26の界面をTEM−EDXにより観察した。得られた画像の極薄銅箔層18、シリコン系表面処理層20及び樹脂基材26の界面部分を拡大してEDXによるSi元素マッピング画像を照合することにより、極薄銅箔層18の表面にはシリコン系表面処理層20が形成されていることが確認された。
【要約】
スパッタリング等の蒸着法により形成されたような極めて平坦な銅箔表面であっても樹脂層との高い密着強度を実現可能であり、しかも、プリント配線基板のファインピッチ化に適した望ましい絶縁抵抗を有する表面処理層を備えた表面処理銅箔が提供される。本発明の表面処理銅箔は、銅箔と、銅箔の少なくとも片面に設けられ、主としてシリコン(Si)からなるシリコン系表面処理層とを備える。シリコン系表面処理層は、XPS(X線光電子分光)により測定した場合に、炭素(C)、酸素(O)及びシリコン(Si)の3元素の合計量100原子%に対し、炭素濃度が1.0〜35.0原子%であり且つ酸素濃度が12.0〜40.0原子%である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B