(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記活性エネルギー線重合性官能基を有する重合体は、当該重合体の単量体および/またはオリゴマーと活性エネルギー線重合性官能基を有する化合物とを共存させた状態で重合反応させることにより、前記活性エネルギー線重合性官能基を有する化合物が前記重合体の骨格に取り込まれたものである請求項13記載の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
印刷用シートの基材の材料は、生産安定性、コストおよび機械特性(特に柔軟性)の観点から二軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPP)を代表とするポリオレフィン系の樹脂からなる樹脂系シートが今後主流となる可能性がある。この場合には、現在基材を与える樹脂系シートとして一般的なポリエステル系の樹脂に比べて、基材の表面部の極性が低下するため、印刷用シートの基材上に形成される印刷用コート層の基材に対する密着力が低下する傾向がある。前述のように、今後主流となると考えられているフレキソ印刷方式において使用されるUVインキはUV硬化時の収縮量が多いため、このような極性が低い基材を用いた場合においても、硬化後のインキが剥離しにくい印刷用シートが求められる可能性がある。
本発明はかかる要請に応える印刷用シート、その印刷用シートが備える印刷用コート層を形成するための塗工液、およびその塗工液を用いる印刷用シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成すべく本発明者らが検討したところ、印刷用シートにおける印刷用コート層について、イソシアネート架橋剤を介して互いに結合してなる架橋構造を含む重合体を有するとともに、UVインキに含有される硬化成分と反応しうる活性エネルギー線重合性官能基を印刷用コート層が有するようにすることで、上記課題を解決できるとの知見を得た。
【0007】
かかる知見に基づき完成された本発明は、第1に、シート状の基材と前記基材の一方の面に積層された印刷用コート層とを備えた印刷用シートであって、前記印刷用コート層は、イソシアネート架橋剤を介して互いに結合してなる架橋構造を有する重合体を含有し、活性エネルギー線重合性官能基を含むことを特徴とする印刷用シートを提供する(発明1)。
【0008】
かかる印刷用シートは、印刷用コート層が活性エネルギー線重合性官能基を有するため、UVインキを硬化させるためのUV光によりUVインキと活性エネルギー線重合性官能基とが結合する反応が生じ、硬化したインキと印刷用コート層との密着力を高めることができる。しかも、印刷用コート層はその主剤をなす重合体同士がイソシアネート架橋剤を介して結合する架橋構造を有するため、UVインキの硬化に伴い生じる収縮応力が付与されても印刷用コート層は変形しにくく、それゆえ印刷用コート層と基材との間にずり応力が発生しにくい。したがって、上記発明(発明1)に係る印刷用シートを用いることで、UVインキの硬化時にインキ層が剥離してしまう問題が発生する可能性が低減される。なお、架橋構造を有する重合体の一部または全部が活性エネルギー線重合性官能基を有していてもよいし、架橋構造を有する重合体とは別に活性エネルギー線重合性官能基を有する成分が印刷用コート層内に含有されていてもよい。
【0009】
上記発明(発明1)において、前記印刷用コート層は溶剤系の塗工液から形成されたものであることが好ましい(発明2)。溶剤系の塗工液から形成されることによって、イソシアネート架橋剤が塗工液中で劣化する可能性が低減され、重合体同士の架橋構造が形成されやすい。
【0010】
上記発明(発明1、2)において、イソシアネート架橋剤は、イソシアネート化合物のイソシアヌレート体であることが好ましい(発明3)。イソシアネート架橋剤がイソシアヌレート体であることにより、得られた印刷用コート層内で凝集破壊が発生する可能性がより低減される。
【0011】
上記発明(発明1から3)において、前記重合体はポリエステル系樹脂を含むことが好ましい(発明4)。ポリエステル系樹脂は、末端や側鎖などに水酸基やカルボキシル基を有する場合があり、この中で、特に水酸基はイソシアネート架橋剤と架橋反応しやすい。
【0012】
上記発明(発明1から4)において、前記印刷用コート層は架橋促進剤を含有することが好ましい(発明5)。架橋促進剤を含有することにより、得られた印刷用コート層内で凝集破壊が発生する可能性がより低減される。なお、架橋促進剤はビスマス系の架橋促進剤であることがさらに好ましい。
【0013】
上記発明(発明1から5)において、前記基材はオレフィン系樹脂を含むことが好ましい(発明6)。かかる基材は、生産安定性、柔軟性などの観点から好ましい。なお、オレフィン系樹脂を含む基材の中でも、二軸延伸ポリプロピレン(OPP)フィルムが特に好ましい。
【0014】
上記発明(発明6)において、前記活性エネルギー線重合性官能基が(メタ)アクリロイル基を含むことが好ましい(発明7)。上記発明に係る印刷用シートの使用状態において印刷用コート層と接するように設けられるUVインキは、UV硬化性を有する官能基としてエチレン性不飽和結合を有する官能基が用いられる場合が多いことから、活性エネルギー線重合性官能基も同様にエチレン性不飽和結合を有する官能基が好ましく、反応性の高さの観点から(メタ)アクリロイル基であることがより好ましい。
【0015】
上記発明(発明7)において、前記活性エネルギー線重合性官能基を有する成分は、少なくとも一つの水酸基が残留した(メタ)アクリレートを含むことが好ましい(発明8)。そのような水酸基を有することで、活性エネルギー線重合性官能基を有する成分は、印刷用コート層を構成する他の材料との相互作用が容易となる。
【0016】
上記発明(発明8)において、前記(メタ)アクリレートはペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートであることが好ましい(発明9)。かかる材料は、UVインクと反応しうる官能基を複数有し、かつ印刷用コート層を構成する他の材料との相互作用が容易な水酸基も有しているため、活性エネルギー線重合性官能基を有する成分として特に好ましい。
【0017】
上記発明(発明1から9)において、前記重合体の少なくとも一部が前記活性エネルギー線重合性官能基を有してもよい(発明10)。そのような成分を有している場合には、活性エネルギー線重合性官能基は印刷用コート層内により強い化学結合により固定されることもあり、このとき、UVインクが印刷用コート層から剥離する可能性がより低減される。
【0018】
本発明は、第2に、上記発明(発明1から10)のいずれかに係る印刷用シートが備える印刷用コート層を形成するための塗工液を提供する(発明11)。かかる塗工液を用いることで、印刷用コート層を生産性高く製造することが実現される。
【0019】
本発明は、第3に、シート状の基材と前記基材の一方の面に積層された印刷用コート層とを備えた印刷用シートの製造方法であって、上記発明(発明1から10)のいずれかに係る印刷用シートが備える印刷用コート層を形成するための塗工液を用意するステップと、前記塗工液を前記基材の一方の面上に塗布して塗工液の液層を前記基材上に形成するステップと、前記液層を乾燥して前記印刷用コート層として、前記印刷用コート層および前記基材を備えた前記印刷用シートを得るステップとを備えることを特徴とする印刷用シートの製造方法を提供する(発明12)。
【0020】
かかる製造方法を実施することにより、UVインクの剥離を生じさせにくい印刷用コート層を備える印刷用シートをより安定的に製造することが実現される。
【0021】
上記発明(発明12)において、前記塗工液が、重合体、イソシアネート架橋剤および活性エネルギー線重合性官能基を有する化合物ならびに溶剤を含有してもよい(発明13)。かかる製造方法によれば、重合体(他の重合体との架橋構造を有するものを含む。)および活性エネルギー線重合性官能基を有する化合物を含有する印刷用コート層を備える印刷用シートを得ることができる。
【0022】
上記発明(発明12)において、前記塗工液が、活性エネルギー線重合性官能基を有する重合体およびイソシアネート架橋剤ならびに溶剤を含有してもよい(発明14)。かかる製造方法によれば、活性エネルギー線重合性官能基を有する重合体(他の重合体との架橋構造を有するものを含む。)を有する化合物を含有する印刷用コート層を備える印刷用シートを得ることができる。
【0023】
上記発明(発明14)において、前記活性エネルギー線重合性官能基を有する重合体は、当該重合体の単量体および/またはオリゴマーと活性エネルギー線重合性官能基を有する化合物とを共存させた状態で重合反応させることにより、前記活性エネルギー線重合性官能基を有する化合物が前記重合体の骨格に取り込まれたものであってもよい(発明15)。かかる製造方法によれば、活性エネルギー線重合性官能基を有する重合体を制御性よく(重合体内の活性エネルギー線重合性官能基の量の制御性など)製造することが実現される。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る印刷用シートは、印刷用コート層が活性エネルギー線重合性官能基を有するため、UVインキを硬化させるためのUV光によりUVインキと活性エネルギー線重合性官能基とが結合する反応が生じ、硬化したインキと印刷用コート層との密着力を高めることができる。しかも、印刷用コート層はその主剤をなす重合体同士がイソシアネート架橋剤を介して結合する架橋構造を有するため、UVインキの硬化に伴い生じる収縮応力が付与されても印刷用コート層は変形しにくく、それゆえ印刷用コート層と基材との間にずり応力が発生しにくい。
したがって、本発明に係る印刷用シートは、その基材が極性の低いポリオレフィン系の樹脂からなり、フレキソ印刷方式において使用される比較的低粘度のUVインキが用いられた場合であっても、UVインキの硬化時にインキ層が剥離してしまうことが生じにくい。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について説明する。
1.印刷用シート
本発明の一実施形態に係る印刷用シートは、基材と基材の一方の面に積層された印刷用コート層とを備える。
【0026】
(1)基材
本実施形態に係る印刷用シートが備える基材の材料は特に限定されず、樹脂系の材料を主成分とする樹脂系シートから構成されていてもよいし、紙系の材料から構成されていてもよい。
【0027】
樹脂系シートに係る樹脂としては、例えばポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂等のポリエステル樹脂、アセテート樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合(ABS)樹脂、ポリスチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステルアミド樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリ−p−フェニレンスルフィド樹脂、ポリエーテルエステル樹脂などが挙げられる。基材はこれらの樹脂の一種から構成されていてもよいし、二種以上から構成されていてもよい。
【0028】
基材は上記の樹脂系の材料を含有してなる一層のフィルムにより構成されていてもよいし、樹脂系の材料を含有してなるフィルムが複数層積層されて基材を構成していてもよい。また、基材がフィルムからなる場合には、そのフィルムは未延伸のものであってもよいし、縦または横などの一軸方向または二軸方向に延伸されたものであってもよい。
【0029】
基材が紙系の材料から構成される場合の具体例として、グラシン紙、コート紙、上質紙等の紙基材、および上記の紙基材にポリエチレン等の熱可塑性樹脂をラミネートしたラミネート紙が挙げられる。
【0030】
基材を構成する材料が着色材料(カーボンブラック、二酸化チタンなどの顔料、および染料が例示される。)を含有することにより、基材が着色されていてもよい。さらに、機械特性を高めたり耐ブロッキング性を付与したりする観点から、基材を構成する材料がシリカなどの微粒子を含有していてもよい。
【0031】
前述のように、近年、ポリオレフィン樹脂を主剤とするポリオレフィン系の樹脂が、生産安定性、コストおよび特性(特に柔軟性)の観点から基材を構成する材料の主成分として採用される傾向が高まっている。かかる樹脂の具体例を挙げれば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが例示される。なお、ポリプロピレンの中でも二軸延伸のもの(すなわちOPP)が生産安定性、コストおよび柔軟性などの特性の観点から注目されていることは前述のとおりである。ところが、かかるポリオレフィン系の樹脂材料は樹脂の極性が低いために、基材の一方の面に形成される印刷用コート層と基材との密着力が低下しやすい。そのような場合においても、本実施形態に係る印刷用シートは、印刷用コート層が後述するような特性を備えるため、印刷用コート層と基材との界面で剥離が発生しにくい。
【0032】
基材の厚さに特に制限はないが、通常20μm以上300μm以下程度、好ましくは25μm以上200μm以下である。
【0033】
樹脂系シートからなる基材を用いる場合には、その表面に設けられる層との密着性を向上させる目的で、所望により片面または両面に、酸化法や凹凸化法などにより表面処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、クロム酸処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理などが挙げられ、また、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法などが挙げられる。これらの表面処理法は基材を構成する材料に応じて適宜選ばれるが、一般にはコロナ放電処理法が効果および操作性などの面から、好ましく用いられる。また、プライマー処理を施すこともできる。
【0034】
(2)印刷用コート層
本実施形態に係る印刷用シートが備える印刷用コート層は、その主剤をなす重合体がイソシアネート架橋剤を介して互いに結合してなる架橋構造を含み、かつ活性エネルギー線重合性官能基を有する。
【0035】
(A)重合体
印刷用コート層の主剤となる重合体の種類は特に限定されない。なお、「主剤」とは、印刷用コート層を構成する材料(以下、「コート材料」ともいう。)全体に対して50質量%以上を占める成分であることを意味し、「重合体」とはオリゴマーの概念も含むものとする。
【0036】
本実施形態に係る重合体の種類を具体的に例示すれば、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリウレタン、ポリスチレンなどが挙げられる。これらの中でも、後述する架橋構造を形成することが容易である観点から、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタンなどが好ましい。これらの中でポリエステルについてやや詳しく説明する。
【0037】
ポリエステルは、単量体としてのポリオールと多価カルボン酸および/またはカルボン酸無水物(本実施形態において「カルボン酸成分」ともいう。)とが共重合してなるエステル結合を主鎖中に有する重合体である。
【0038】
上記のポリオールの具体例として、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール等のポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、グリセリン、グリセリンモノアリルエーテル、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどが挙げられる。
【0039】
一方、上記のカルボン酸成分の具体例として、マロン酸、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、テトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、メチルヘキサヒドロフタル酸、コハク酸、グルタル酸、ヘキサクロロエンドメチレンテトラヒドロフタル酸、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸、エンドメチレンヘキサヒドロフタル酸、アジピン酸、セバチン酸、アゼライン酸、ダイマー酸、デカジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、トリメシン酸、シクロペンタンジカルボン酸等の多価カルボン酸およびこれらの多価カルボン酸の無水物が挙げられる。
【0040】
これらのポリオールおよびカルボン酸成分の組み合わせは限定されず、ポリエステルは、一種類の組み合わせに係る重合体であってもよいし、複数種類の組み合わせに係る重合体であってもよい。
【0041】
さらに、ポリエステルは、ウレタン変性ポリエステルであってもよい。ウレタン変性ポリエステルの具体例として、上記のポリオールとカルボン酸成分とを縮重合させて得られた重合体の末端にヒドロキシル基を有するポリエステルポリオールに、各種のポリイソシアネート化合物(その具体例は、後述する架橋構造に係るイソシアネート架橋剤に含有されうるポリイソシアネート化合物と同様である。)を反応させて得られた重合体(ポリエステルウレタン)などを挙げることができる。本実施形態において、ポリエステル、ウレタン変性ポリエステルなど、エステル結合を主鎖中に有する樹脂材料をポリエステル系樹脂という。ポリエステル系樹脂は、イソシアネート架橋剤と反応して架橋構造を形成しやすいため、本実施形態に係る重合体はポリエステル系樹脂を含むことが好ましい。
【0042】
上記の重合体におけるイソシアネート架橋剤と反応する部位である反応性官能基の具体的な種類は限定されない。水酸基、カルボキシル基、アミノ基などが反応性官能基の具体例として挙げられ、この反応性官能基は重合体に係る重合反応に関与するもの(すなわち主鎖形成に関与するもの)もよいし、付加的に設けられたものであってよい。例えば、重合体がポリエステル系樹脂を含む場合には、ポリオールに基づく構成単位が水酸基を有していたり、カルボン酸成分に基づく構成単位がカルボン酸を有していたりする場合がある。重合体におけるこれらの残留水酸基や残留カルボン酸が上記の反応性官能基となりうる。
【0043】
なお、重合体の少なくとも一部が、後述する活性エネルギー線重合性官能基を有していてもよい。そのような構造を備える重合体(以下、「インキ反応性重合体」ともいう。)は、例えば、重合体を形成する重合反応を行う段階において、単量体および/またはオリゴマー(以下、「単量体等」ともいう。)に活性エネルギー線重合性官能基を有する化合物を共存させて、この化合物と単量体等との反応を単量体等の重合反応とともに発生させて重合体の骨格にこの化合物を取り込ませることによって製造することができる。
【0044】
(B)架橋構造
印刷用コート層は、イソシアネート架橋剤を介した重合体同士の架橋構造を有する。重合体同士の架橋構造を有することにより印刷用コート層の硬度が高くなるため、印刷用コート層に接するように設けられたUVインキが硬化することによって印刷用コート層に収縮応力が付与されても印刷用コート層は変形しにくくなる。それゆえ、印刷用コート層と基材との間にずり応力が発生しにくくなって、これらの界面での剥離が発生しにくくなる。また、印刷用コート層の耐水性が向上し、水に接した後であっても、膨れや剥離が生じにくくなる。
【0045】
上記の架橋構造を与えるイソシアネート架橋剤は、1分子当たりイソシアネート基を2個以上有するポリイソシアネート化合物を含有することが好ましい。ポリイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなどの芳香族ポリイソシアネート;ジシクロヘキシルメタン−4,4'−ジイソシアネート、ビシクロヘプタントリイソシアネート、シクロペンチレンジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネートなどの脂環式イソシアネート化合物;ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネートなどの脂肪族イソシアネートが挙げられる。
【0046】
また、これらの化合物の、ビウレット体、イソシアヌレート体や、これらの化合物と、エチレングリコール、トリメチロールプロパン、ヒマシ油等の非芳香族性低分子活性水素含有化合物との反応物であるアダクト体などの変性体も用いることができる。
【0047】
本実施形態に係るイソシアネート架橋剤を構成するポリイソシアネート化合物は一種類であってもよいし、複数種類であってもよい。UVインキの密着性の観点から、本実施形態に係るポリイソシアネート化合物はヘキサメチレンジイソシアネート系の化合物を含有することが好ましく、さらには、ヘキサメチレンジイソシアネート化合物のイソシアヌレート体であることが、印刷用コート層内での凝集破壊を防ぐ点で特に好ましい。
【0048】
このような重合体に対する、イソシアネート架橋剤の添加量は、重合体100質量部に対して固形比で1質量部以上であることが好ましい。この架橋剤量が過度に低い場合には、印刷用コート層の硬度が低く、印刷用コート層上に設けられたUVインキが硬化した際に、印刷用コート層内での凝集破壊の可能性が高まることが懸念される。また、耐水性が低下することも懸念される。上記の問題の発生を安定的に回避する観点から、架橋剤量は3質量部以上であることが好ましく、5質量部以上であることが特に好ましい。架橋剤量の上限は特に限定されないが、過度に高い場合には経済的観点から不利益が生じる可能性があり、さらに印刷用コート層が過度に硬くなって、硬化したUVインキがむしろ剥離しやすくなることが懸念される場合もある。したがって、架橋剤量は、重合体100質量部に対して固形比で40質量部以下とすることが好ましく、30質量部以下とすることがより好ましく、15質量部以下とすることがさらに好ましい。
【0049】
印刷用コート層中における重合体同士の架橋構造の程度(換言すれば、架橋点の存在密度)は特に限定されない。過度に低い場合には印刷用コート層の形状を保つことが困難となって印刷品質が低下することが懸念され、過度に高い場合には印刷コート層に接する他の構成要素、特に基材との硬度差が大きくなって界面剥離が生じる可能性が高まることを考慮して、適宜設定すればよい。
【0050】
重合体同士の架橋構造の程度を定量的に評価する一つの方法として、ゲル分率が例示される。なお、本実施形態において、ゲル分率は、養生期間経過後のものをいい、具体的には、コート材料に基づく塗工液からなる液層を加熱処理した後、23℃、相対湿度50%の環境下にて7日間保管した後のゲル分率をいう。かかるゲル分率が50%以上である場合には、UVインキおよび基材の種類によらず、基材からのUVインキ剥離の発生が安定的に抑制され、ゲル分率が85%以上である場合にはUVインキ剥離が特に安定的に抑制される。ゲル分率が90%上である場合にはUVインキ剥離がさらに安定的に抑制される。
【0051】
(C)活性エネルギー線重合性官能基
本実施形態に係る印刷用コート層に含有される活性エネルギー線重合性官能基(以下、「インキ反応基」ともいう。)は、活性エネルギー線、すなわち電磁波または荷電粒子線の中でエネルギー量子を有するもの、例えば、紫外線、電子線などを照射することにより、他の化合物に対する結合性を有する官能基であって、ビニル基、(メタ)アクリロイル基、エポキシ基、オキセタン基、イソシアネート基などを含む官能基が挙げられる。なお、本明細書において、(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基およびメタクリロイル基の両方を意味する。他の類似用語も同様である。
【0052】
本実施形態に係る印刷用シートの使用状態において印刷用コート層と接するように設けられるUVインキは、UV硬化性を有する官能基としてエチレン性不飽和結合を有する官能基が用いられる場合が多いことから、インキ反応基も同様にエチレン性不飽和結合を有する官能基、具体例を挙げればビニル基や(メタ)アクリロイル基であることが好ましく、反応性の高さの観点から(メタ)アクリロイル基であることがより好ましい。
【0053】
インキ反応基がUV照射によってUVインキと反応すると、印刷用コート層に含有されるインキ反応基を部分構造として有する化合物(以下、「インキ反応成分」ともいう。)は、硬化したUVインキと化学的に結合する。その結果、インキ反応成分と印刷用コート層を構成する他の材料との間で有する相互作用、具体的にはアンカー効果、分子の絡み合い、水素結合などによって、硬化したUVインキは印刷用コートに対する密着力が向上し、硬化に伴いUVインキが収縮しても、UVインキと印刷用コート層との界面での剥離が生じにくくなる。
【0054】
インキ反応成分のうち、重合体とは独立して配合した成分の具体例として、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジシクロペンテニルジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性リン酸ジ(メタ)アクリレート、アリル化シクロヘキシルジ(メタ)アクリレート、イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどの多官能(メタ)アクリレートが挙げられる。上記の印刷用コート層を構成する他の材料との相互作用が容易となる観点から、少なくとも一つの水酸基が残留した(メタ)アクリレートが好ましい一例として挙げられる。そのような(メタ)アクリレートとして、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリトリトールペンタ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)、2−ヒドロキシプロピルアクリレート(HPA)、4−ヒドロキシブチルアクリレート(4−HBA)などが例示される。インキ反応成分の配合量は、重合体100質量部に対し、固形比で0.5〜30質量部が好ましく、1〜25質量部がさらに好ましく、3〜20質量部が特に好ましい。
【0055】
インキ反応成分は一種類の化合物から構成されていてもよいし、複数種類の化合物から構成されていてもよい。また、前述のように、本実施形態に係る印刷用コート層に含有される重合体の少なくとも一部がインキ反応性重合体であってもよい。
【0056】
インキ反応成分は、インキ反応基を有する比較的低分子量の化合物であってもよいし、インキ反応性重合体であってもよい。インキ反応性重合体の調製方法は任意である。一例を挙げれば、前述のように、インキ反応性重合体を形成するための単量体等の重合反応を行うにあたりインキ反応基を有する化合物を共存させて、この化合物と単量体等との反応も進行させることによって、重合体の骨格にこの化合物が取り込まれ、インキ反応性重合体を得ることができる。あるいは、インキ反応基を有する化合物を共存させずに発生させた重合体に、インキ反応基を有する低分子量成分、オリゴマー等を別途配合することによっても得ることができる。
【0057】
(D)他の含有成分
本実施形態に係る印刷用コート層は、上記のイソシアネート架橋剤の架橋反応を促進する観点から架橋促進剤を含有することが好ましい。具体的には、金属有機化合物からなる架橋促進剤が挙げられる。ここで、「金属有機化合物」とは、金属−炭素間結合を少なくとも1つ有する有機金属化合物、および、金属−ヘテロ原子間結合を少なくとも1つ有する金属有機化合物を含む。具体的には、例えば、ジメチルスズジクロライドのような有機金属化合物、ジメチルスズジラウレートのような有機金属化合物の脂肪酸塩、ジメチルスズビス(オクチルチオグリコール酸エステル)塩のような有機金属化合物のチオグリコール酸エステル塩、オクチル酸ビスマスのような金属石鹸が金属有機化合物の概念に含む。なお、金属石鹸とは、脂肪酸のアルカリ金属塩(狭義の石鹸)以外の金属塩をいう。
【0058】
金属有機化合物に含有される金属は特に限定されないが、好ましくは、スズ、亜鉛、鉛、ビスマスから選ばれる少なくとも1種である。スズを含む金属有機化合物としては、例えば、ジメチルスズジクロライド等の有機スズ化合物;ジメチルスズジラウレート、ジメチルスズジ(2−エチルヘキサノエート)、ジメチルスズジアセテート、ジヘキシルスズジアセテート、ジオクチルスズジラウレート等の有機スズ化合物の脂肪酸塩;ジメチルスズビス(イソオクチルチオグリコール酸エステル)塩、ジオクチルスズビス(イソオクチルチオグリコール酸エステル)塩等の有機スズ化合物のチオグリコール酸エステル塩;オクチル酸スズ、デカン酸スズ等の金属石鹸などが挙げられる。亜鉛を含む金属有機化合物としては、例えば、2−エチルヘキシル酸亜鉛、ナフテン酸亜鉛等が挙げられる。鉛を含む金属有機化合物としては、例えば、ステアリン酸鉛、2−エチルヘキシル酸鉛、ナフテン酸鉛等が挙げられる。ビスマスを含む金属有機化合物としては、例えば、2−エチルヘキシル酸ビスマス、ナフテン酸ビスマス等が挙げられる。これらの有機金属化合物の中でも、硬化促進能に優れることからビスマスを含むものが好ましい。
【0059】
架橋促進剤の含有量は特に限定されないが、印刷用コート層全体に対して、金属量換算で0.001質量%以上5質量%以下が好ましく、0.01質量%以上1質量%以下がより好ましく、0.05質量%以上0.5質量%以下が特に好ましい。
【0060】
本実施形態に係る印刷用コート層は上記の成分に加えて、染料、顔料等の着色材料、アニリド系、フェノール系等の酸化防止剤、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系等の紫外線吸収剤、タルク、二酸化チタン、シリカ、でんぷんなどのフィラー成分、可塑剤、酸化防止剤、光安定剤、分散剤、レベリング剤などを含有してもよい。これらの成分の含有量は任意であるが、これらの成分全体として、印刷用シート層全体に対して10質量%を超えないこと好ましい。
【0061】
(E)印刷用コート層の厚さ
本実施形態に係る印刷用コート層の厚さは特に限定されないが、通常、80nm以上450nm以下である。この厚さが過度に薄い場合には密着性が低下することが懸念され、過度に厚い場合には生産性が低下したり耐ブロッキング性が低下したりするなどの副次的な問題が発生することが懸念される。印刷用コート層の好ましい厚さは100nm以上350nm以下である。
【0062】
(F)印刷用コート層の製造方法
印刷用コート層の製造方法は特に限定されない。一例を挙げれば次のとおりである。印刷用コート層を形成するための塗工液を用意し、例えばグラビアロール方式、エアナイフ方式、ワイヤーバーコーティング方式などにより、基材の一方の面に塗工液を塗布する。この塗工液からなる液層を乾燥させることにより、印刷用コート層が形成される。印刷用コート層内で生じるイソシアネート架橋剤による架橋反応を十分に進行させるために、例えば23℃、相対湿度50%の環境で養生させることが好ましい。養生期間は特に限定されないが、通常1週間程度とされる場合が多い。
【0063】
上記の塗工液の組成は特に限定されないが、一例として、印刷用コート層の主剤となる重合体、イソシアネート架橋剤およびインキ反応成分、さらに必要に応じて用いられる架橋促進剤などのその他の成分を、溶剤とともに含有する塗工液が例示される。この塗工液の調製にあたり、重合体とインキ反応成分との相互作用が容易となるように、これらの成分をあらかじめ混合してなる混合物を調製し、この混合物とイソシアネート架橋剤などの他の成分や溶媒とを混合してもよい。
【0064】
塗工液の別の一例として、インキ反応基(活性エネルギー線重合性官能基)を有する重合体およびイソシアネート架橋剤、さらに必要に応じて用いられる架橋促進剤などのその他の成分を、溶剤とともに含有する塗工液が例示される。この塗工液の調製にあたりインキ反応基を有する重合体を製造する方法は特に限定されない。その製造方法の一例として、インキ反応基を有する重合体の単量体および/またはオリゴマーとインキ反応基を有する化合物とを共存させた状態で重合反応を行うことにより、このインキ反応基を有する化合物を重合体の骨格に取り込ませる方法が挙げられる。この方法によれば、得られた重合体が単位質量あたりに有するインキ反応基数(個/g)を容易に見積もることができ、印刷用コート層における、UVインキが剥離する可能性を低減させる機能の程度を制御することが容易となる。
【0065】
上記の塗工液に用いられる溶媒としては特に制限はないが、塗工液に含有されるイソシアネート架橋剤の安定性を考慮すれば、非水系、すなわち溶剤系であることが好ましい。そのような溶剤系の溶媒の具体例として、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒などを挙げることができる。
【0066】
塗工液における固形分濃度としては、塗工可能な濃度であればよく、特に制限はないが、通常1質量%以上10質量%以下程度、好ましくは2質量%以上5質量%以下である。
【0067】
(3)その他の構成要素
本実施形態に係る印刷用シートは、上記の基材および印刷用コート層以外の構成要素を備えていてもよい。そのような構成要素として、基材における印刷用コート層が形成されている側と反対側の面に形成される粘着剤層が例示される。かかる粘着剤層を形成することにより、本実施形態に係る印刷用シートを印刷用粘着シートとすることができる。
【0068】
粘着剤層に用いられる粘着剤としては特に限定されないが、アクリル系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤等の公知の粘着剤を使用することができる。
【0069】
粘着剤層は、基材の印刷用コート層を有する面とは反対側の面に、粘着剤層を形成するための塗工液を塗布することにより設けてもよいし、剥離材の剥離面に上記の塗工液を塗布して粘着剤層を形成して、この粘着剤層を基材の印刷用コート層側と反対側の面に貼り合わせることにより、剥離材付き粘着剤層を形成してもよい。
【0070】
粘着剤層を形成する方法は、特に限定されることがなく通常の方法を使用することができ、例えば、グラビアロール方式、ロールナイフ方式等により形成することができる。
【0071】
本発明において粘着剤層の厚さは特に制限されるものではないが、通常5μm以上100μm以下の範囲内であり、10μm以上50μm以下の範囲内であることが好ましい。
【0072】
粘着剤層における基材側と反対側の面は露出させていてもよいが、通常は、使用に供するまでの間において粘着剤層を保護するために剥離材を仮貼着しておく。
【0073】
剥離材はシート状の支持基材を備え少なくとも片面が剥離性を有する剥離面からなる。この剥離面は、剥離性を有さない支持基材の表面上に設けられた剥離剤層の支持基材側と反対側の面であってもよいし、剥離性を有する支持基材の表面であってもよい。
【0074】
剥離材の支持基材としては、例えば紙、合成紙、樹脂系フィルムなどが挙げられる。紙としては、例えばグラシン紙、ポリエチレンラミネート紙などが挙げられ、樹脂系フィルムとしては、例えばポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂などのポリオレフィン樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂などのポリエステル樹脂、アセテート樹脂、ポリスチレン樹脂、塩化ビニル樹脂などのフィルムなどが挙げられる。剥離剤層を構成する剥離処理剤として、シリコーン樹脂、アルキッド樹脂、フッ素樹脂、長鎖アルキル含有樹脂などが例示される。その表面が剥離性を有する支持基材としては、ポリプロピレン樹脂フィルム、ポリエチレン樹脂フィルムなどのポリオレフィン樹脂フィルム、これらのポリオレフィン樹脂フィルムを紙や他のフィルムにラミネートしたフィルムが例示される。
【0075】
剥離材の支持基材の厚みは特に制限されないが、通常は15μm以上300μm以下程度であればよい。
【0076】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【実施例】
【0077】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0078】
〔実施例1〕
重合体として、ウレタン変性ポリエステル樹脂(東洋紡績製、バイロンUR1400、固形分:30%)100質量部、インキ反応成分としてペンタエリスリトールトリアクリレート(新中村化学製、A−TMM−3L、固形分100%)3質量部、架橋剤としてヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(日本ポリウレタン工業製、コロネートHX、固形分100%)3.5質量部、架橋促進剤としてビスマス系金属有機化合物(日本化学産業製、プキャット25、金属量として25質量%)0.3質量部を混合し、トルエンにて希釈し固形分1.5%の塗工液を調製した。基材として厚さ50μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルムの一方の面に、バーコーティングにより上記の塗工液を乾燥後の膜厚が100nmとなるように塗布し、70℃にて1分間乾燥させた。乾燥後の印刷用シートをさらに23℃、相対湿度50%の条件下で7日間養生して、評価対象としての印刷用シートを得た。乾燥後の膜厚は分光エリプソメーター(J.A.Woollan製、M−2000)にて測定した。
【0079】
〔実施例2〕
塗工液の調製において、インキ反応成分の配合量を1質量部とした以外は実施例1と同様にして塗工液を得て、この塗工液から実施例1と同様にして、膜厚が100nmの印刷用コート層を備える印刷用シートを得た。
【0080】
〔実施例3〕
塗工液の調製において、インキ反応成分の配合量を5質量部とした以外は実施例1と同様にして塗工液を得て、この塗工液から実施例1と同様にして、膜厚が100nmの印刷用コート層を備える印刷用シートを得た。
【0081】
〔実施例4〕
塗工液の調製において、イソシアネート架橋剤の配合量を2質量部とした以外は実施例1と同様にして塗工液を得て、この塗工液から実施例1と同様にして、膜厚が100nmの印刷用コート層を備える印刷用シートを得た。
【0082】
〔実施例5〕
塗工液の調製において、イソシアネート架橋剤の種類をコロネートHXに代えて、ヘキサメチレンジイソシアネートの1,1,1−トリメチロールプロパンアダクト体を含有する硬化剤(日本ポリウレタン工業製、コロネートHL、固形分75%)として、配合量を6質量部とした以外は実施例1と同様にして塗工液を得て、この塗工液から実施例1と同様にして、膜厚が100nmの印刷用コート層を備える印刷用シートを得た。
【0083】
〔実施例6〕
塗工液の調製において、架橋促進剤の配合量を、0.5質量部とした以外は実施例1と同様にして塗工液を得て、この塗工液から実施例1と同様にして、膜厚が100nmの印刷用コート層を備える印刷用シートを得た。
【0084】
〔実施例7〕
塗工液の調製において、架橋促進剤を配合しなかった以外は実施例1と同様にして塗工液を得て、この塗工液から実施例1と同様にして、膜厚が100nmの印刷用コート層を備える印刷用シートを得た。
【0085】
〔比較例1〕
塗工液の調製においてインキ反応成分および架橋促進剤を配合しなかった点以外は実施例1と同様にして塗工液を得て、膜厚が100nmの印刷用コート層を備える印刷用シートを得た。
【0086】
〔比較例2〕
塗工液の調製においてイソシアネート架橋剤および架橋促進剤を配合しなかった点以外は実施例1と同様にして塗工液を得て、膜厚が100nmの印刷用コート層を備える印刷用シートを得た。
【0087】
〔試験例1〕<UVインキの耐剥離性評価>
(印刷条件)
1回印刷
印刷用シートの印刷用コート層面にUVインキ(T&K TOKA社製、フレキソ白500)を用いてフレキソ印刷機(マーカンディー社製、MA−2200、印刷速度50m/min)でフレキソ印刷を施し、UV照射(メタルハライドランプ4kW)を行い、印刷画像を得た。フレキソ印刷機のアニロックスローラーのセルは亀甲型#200で、セル容量は16cm
3/m
2であった。
【0088】
2回印刷
印刷用シートの印刷用コート層側の面にUVインキ(T&K TOKA社製、フレキソ白500)を用いてフレキソ印刷機(マーカンディー社製、MA−2200、印刷速度50m/min)でフレキソ印刷を施し、UV照射(メタルハライドランプ4kW)を行った。フレキソ印刷が施された面に更にUVインキ(T&K TOKA社製、フレキソグリーン500)を用いてフレキソ印刷機(マーカンディー製、MA−2200、印刷速度50m/min)でフレキソ印刷を施し、重ね色の印刷画像を得た。フレキソ印刷機のアニロックスローラーのセルは亀甲型#200で、セル容量は16cm
3/m
2であった。
【0089】
(密着性評価)
上記の各印刷を行うことにより印刷画像が形成された印刷用シートを、23℃、相対湿度50%の環境下に24時間静置した。その後、印刷画像が形成された印刷用シートの印刷画像が形成された側の面に、JIS K 5600 5.6:1999(ISO 2409:1992)のクロスカット法に基づき、カット間隔1mm、カットライン10本×10本としてマス目数100のクロスカット部を作製し、インキと印刷用シートとの密着性を評価した。
テープ引きはがし後に残存するマス目の数をxとして、残存率をx/100で表した。x/100の値が90/100以上を合格とした。評価結果を表1に示す。
【0090】
〔試験例2〕<UVインキの耐水密着性評価>
上記1回印刷、2回印刷により印刷画像が形成された印刷用シートについて、23℃の純水が入ったビーカー内に印刷用シートを24時間浸漬した。浸漬後の印刷用シートにおける印刷画像が形成された側の面に、JIS K 5600 5.6:1999(ISO 2409:1992)のクロスカット法に基づき、カット間隔1mm、カットライン10本×10本としてマス目数100のクロスカット部を作製し、インキと印刷用シートとの耐水密着性を評価した。
テープ引きはがし後に残存するマス目の数をxとして、残存率をx/100で表した。x/100の値が90/100以上を合格とした。評価結果を表1に示す。
【0091】
〔試験例3〕<耐ブロッキング性評価>
厚さ50μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルムのフィルム面と印刷用シートの印刷用コート層側の面とが対向するように、これらを交互に各5枚重ね合わせた。この重ね合わせにより得られた積層体に196mN/cm
2の荷重を加えた状態で60℃、相対湿度95%の環境下に7日間放置した。その後、その積層体を23℃、相対湿度50%の環境下に4時間放置した後、その積層体における印刷用シートの印刷用コート層側の面とフィルム面との積層状態、その積層体からフィルムを剥がすときの剥がしやすさ、およびフィルムを剥がして表出させた印刷用コート層側の面(以下、「表出面」ともいう。)の外観を評価項目として、下記の判定基準で評価した。
A:フィルム面と印刷用コート層側の面とには特段の圧着部分は認められず、両者は容易に剥離した。
B:フィルム面と印刷用コート層側の面とには局所的な圧着部分が認められるが、両者を手で容易に剥がすことができ、表出面には目視で観察する限り積層加圧する前と変化ない。
F:フィルム面と印刷用シート側の面とが広い面積で圧着しており、両者を手で剥がすことが不可能であるか、あるいは両者を手で剥がすことが可能であるが、剥がした後の表出面に変化(印刷画像の部分欠如など)が認められる。
【0092】
【表1】
【0093】
表1に示されるように、本発明の条件を満たす実施例の印刷用シートによれば、印刷用シートの基材がポリオレフィン系の樹脂系シートであってフレキソ印刷用のインキであっても、硬化したインキが剥離しにくく、特に、印刷回数が多くなってUVインキ量が増加した場合であっても、硬化したインキが剥離しにくい。