特許第6030844号(P6030844)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6030844精製金属カルボン酸化合物の製造方法、及びこれを用いた金属酸化物粒子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6030844
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】精製金属カルボン酸化合物の製造方法、及びこれを用いた金属酸化物粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 51/41 20060101AFI20161114BHJP
   C07C 51/487 20060101ALI20161114BHJP
   C07C 53/126 20060101ALI20161114BHJP
   C01G 25/02 20060101ALI20161114BHJP
【FI】
   C07C51/41
   C07C51/487
   C07C53/126
   C01G25/02
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-85681(P2012-85681)
(22)【出願日】2012年4月4日
(65)【公開番号】特開2013-216581(P2013-216581A)
(43)【公開日】2013年10月24日
【審査請求日】2014年11月7日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】100075409
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久一
(74)【代理人】
【識別番号】100129757
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久彦
(74)【代理人】
【識別番号】100115082
【弁理士】
【氏名又は名称】菅河 忠志
(74)【代理人】
【識別番号】100125243
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 浩彰
(72)【発明者】
【氏名】岡田 篤
(72)【発明者】
【氏名】高橋 邦夫
(72)【発明者】
【氏名】廣田 幸逸
【審査官】 井上 千弥子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−044835(JP,A)
【文献】 特表平05−505831(JP,A)
【文献】 特開2011−032224(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07F
C01G
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Zrカルボン酸化合物とハロゲン化物とを含む溶液に、前記Zrと化合物を形成しない余剰の第2のカルボン酸と塩基とを含有させ、これら第2のカルボン酸と塩基とを前記ハロゲン化物と反応させることによって、ハロゲン化物を除去することを特徴とする精製Zrカルボン酸化合物の製造方法。
【請求項2】
前記溶液は、遅くともハロゲン化物の反応後においてZrカルボン酸化合物を溶解可能な有機溶媒と、この有機溶媒と相分離する第2溶媒とを含んでおり、前記ハロゲン化物の反応物を第2溶媒に溶解させてから有機溶媒と第2溶媒とを分離する請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ハロゲン化物と反応させるときの反応温度が40〜150℃である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記塩基の量が、第2のカルボン酸に対して1当量以下である請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記Zrカルボン酸化合物が、Zr炭酸塩、Zrハロゲン化物及びオキシZrハロゲン化物からなる群より選ばれる1種以上のZr源と、カルボン酸とから調製される請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記Zrカルボン酸化合物の調製において、前記Zr源と反応しない余剰のカルボン酸を残しておき、この余剰のカルボン酸を第2のカルボン酸として使用する請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法によって得られた精製Zrカルボン酸化合物を、水熱合成することを特徴とするZr酸化物粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属カルボン酸化合物から金属酸化物粒子を製造する方法に関し、より詳細には前記金属カルボン酸化合物の精製技術、並びに金属酸化物粒子の結晶制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
金属酸化物粒子は、光学材料、電子部品材料、磁気記録材料、触媒材料、紫外線吸収材料など様々な材料の高機能化や高性能化に寄与するため、非常に注目されており、中でも酸化ジルコニウム粒子は高い屈折率を示すことが知られている。
【0003】
このような金属酸化物粒子による高機能化や高性能化を実現するためには、金属酸化物粒子を溶媒や樹脂等の媒体に良好に分散できることが要求され、例えば、本発明者らの一部によって出願された特許文献1では、被覆剤により被覆され、被覆剤の少なくとも1種がR1−COOH(R1は炭素数6以上の炭化水素基)である酸化ジルコニウム粒子が、様々な溶媒で良好な分散性を示すことを開示している(この様な金属酸化物粒子を以下、被覆型酸化物粒子という)。また、特許文献1では、酸化ジルコニウムの屈折率を向上させるためには、酸化ジルコニウム中の正方晶の割合を増加させることが有効であることを示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−44835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで被覆型酸化物粒子を製造するために特許文献1では、被覆剤と酸化ジルコニウム前駆体(オキシ塩化ジルコニウムなど)から複合体を調製し、水熱反応を行っている。しかし、酸化ジルコニウム前駆体(金属源)の不純物プロフィールは明らかにされていなかった。
【0006】
本発明者らの検討によると、酸化ジルコニウム前駆体(金属源)には精製後であっても、微量(ppmオーダー)のハロゲン化物が不純物として残っていることが解った。しかもこの残留微量ハロゲン化物は、その液性(水溶性、油溶性などの区別)が複合体や被覆型酸化物粒子と同様であるため、洗浄しても除去できないことが解った。ところが、本発明者らは、極めてユニークな方法によってハロゲン化物の液性変化に成功し、その除去に成功した。しかもその結果、この不純物が微量であっても最終生成物(金属酸化物粒子)の組織特性に大きな影響を及ぼしていたことを突き止め、該微量不純物を除去することで金属酸化物の正方晶率を高めることができることを見出した。
【0007】
従って本発明の目的は、金属酸化物粒子原料(金属源)に含まれる不純物を効果的に低減する方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、金属酸化物粒子の正方晶率を高めるための、これまでに知られていなかった新たなアプローチを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、カルボン酸からなる被覆剤と酸化金属前駆体(金属源)とから複合体を調製し、この複合体を水熱反応することで被覆型金属酸化物粒子を製造する前記特許文献1と同様の技術において、金属源に含まれるハロゲン化不純物の除去方法を検討した。その結果、被覆剤となるカルボン酸(以下、第1のカルボン酸という)とは別の、金属源から遊離するカルボン酸(以下、第2のカルボン酸という)を塩基と共に用いて複合体(以下では金属カルボン酸化合物という)を処理すると、ハロゲン化物の液性が変化して、複合体や被覆型金属酸化物粒子とは異なる様になり、その分離除去が可能になることを見出した。さらに驚くべきことに、微量不純物であるハロゲン化物を除去することが最終的に得られる金属酸化物粒子の正方晶の割合を向上させるのに有効であることも明らかとなった。
【0009】
すなわち、本発明は、金属カルボン酸化合物とハロゲン化物とを含む溶液に、前記金属と化合物を形成しない第2のカルボン酸と塩基とを含有させ、これら第2のカルボン酸と塩基とを前記ハロゲン化物と反応させることによって、ハロゲン化物を除去することを特徴とする精製金属カルボン酸化合物の製造方法である。前記製造方法において、前記溶液は、遅くともハロゲン化物の反応後において金属カルボン酸化合物を溶解可能な有機溶媒と、この有機溶媒と相分離する第2溶媒とを含んでおり、前記ハロゲン化物の反応物を第2溶媒に溶解させてから有機溶媒と第2溶媒とを分離することが好ましい。
【0010】
前記ハロゲン化物の反応温度が40〜150℃であること;前記塩基の量が、第2のカルボン酸に対して1当量以下であること;前記金属カルボン酸化合物が、金属炭酸塩、金属ハロゲン化物及びオキシ金属ハロゲン化物からなる群より選ばれる1種以上の金属源と、カルボン酸とから調製されること;又は前記金属カルボン酸化合物の調製において、金属炭酸塩と反応しない余剰のカルボン酸を残しておき、この余剰のカルボン酸を第2のカルボン酸として使用することなどが好ましい。また、前記金属が、Ti、Al、Zr、Zn及びSnよりなる群から選択される少なくとも1種であることも好ましい。
【0011】
本発明は、上記の製造方法によって得られた精製金属カルボン酸化合物を、水熱合成することを特徴とする金属酸化物粒子の製造方法も包含する。この製造方法によって得られる金属酸化物粒子は、金属酸化物に対するハロゲンの割合が10質量ppm以下であり、結晶中の全結晶系の合計に対する正方晶の割合が70%以上であり、下記式(1)で表されるカルボキシレート化合物で被覆されていることを特徴とする。
−OC(=O)−R・・・(1)
(但し、Rは飽和炭化水素基である。)
【0012】
本発明は、前記金属酸化物粒子を含む組成物も包含する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、第2のカルボン酸と塩基とを共に用いて金属カルボン酸化合物を処理しているため、塩素等のハロゲン濃度の低減された精製金属カルボン酸化合物を得ることができる。さらに、該精製金属カルボン酸化合物を用いると、ハロゲン濃度が低減されているだけでなく、正方晶の割合が高い、すなわち屈折率の高い金属酸化物粒子を得ることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明はカルボン酸を原料とする被覆剤と金属源とから調製される金属カルボン酸化合物(複合体)に含まれるハロゲン化物を除去する技術である。金属カルボン酸化合物(複合体)は、水熱合成によって被覆型金属酸化物粒子になる。本発明では、金属カルボン酸化合物(複合体)の調製中から被覆型金属酸化物粒子の製造が完了する直前迄の一連の工程のいずれかのタイミングにおいて、金属カルボン酸化合物を含む溶液に、金属源を被覆しないカルボン酸(すなわち金属と化合物を形成しないカルボン酸)(第2のカルボン酸)と塩基を含有させ、不純物(ハロゲン化物)と反応させることが重要である。このようにすることによって、第2のカルボン酸と塩基とハロゲン化物とが反応し、ハロゲン化物の液性を一方(例えば油溶性)から他方(例えば水溶性)へと変化させることができ、金属カルボン酸化合物(例えば油溶性)から除去することが可能となる。
【0015】
塩基の量は、特に限定されないが、好ましくは第2のカルボン酸に対して1当量以下である。塩基の選択によっては第2のカルボン酸の量に対して1当量を超えると、塩基と金属カルボン酸化合物が白色沈殿を形成してゲル状になり、ハロゲン化物を分離除去することができない恐れがある。塩基の量は、第2のカルボン酸に対して0.7当量以下が好ましく、より好ましくは0.5当量以下であり、下限は特に限定されないが、例えば0.1当量以上である。
【0016】
本発明では、不純物としてのハロゲン化物を含む金属カルボン酸化合物の溶液に、第2のカルボン酸と塩基を含有させることが最も重要であり、第2のカルボン酸と塩基を含有させるタイミングは限定されず、金属カルボン酸化合物(複合体)の調製時後から被覆型金属酸化物粒子を製造する迄の一連の製造工程(すなわち、第1のカルボン酸と金属源とから金属カルボン酸化合物を調製するその途中から水熱反応工程終了前)のどの段階で実施してもよいが、特に金属カルボン酸化合物調製工程終了時に存在する金属カルボン酸化合物溶液に、第2のカルボン酸と塩基を含有させることが好ましい。このタイミングでハロゲン化物とともに第2のカルボン酸と塩基を含有させることによって、ハロゲン化物を効率的に除去できる。カルボン酸と塩基を含有させる方法としては、以下の1〜3のいずれであっても良い。
1.予めカルボン酸と塩基とを反応させ、塩を形成した後に加える。
2.カルボン酸と塩基とを同時に加える。
3.カルボン酸を加えた後に、塩基を加える。
【0017】
第2のカルボン酸及び塩基によって生じるハロゲン化物の反応物(以下、液性変化ハロゲン化物ともいう)の除去方法は、金属カルボン酸化合物との液性の相違を利用する方法であれば特に限定されず、洗浄、晶析などの公知の手法が採用できるが、洗浄で除去するのが簡便で推奨される。洗浄によって液性変化ハロゲン化物を除去するには、金属カルボン酸化合物を一方の液性の溶媒(例えば油性溶媒)に溶解しておき、この溶液を他方の液性の溶媒(例えば水性溶媒)で洗浄すればよい。なおこれら一方及び他方の液性溶媒は、ハロゲン化物の反応後に加えてもよいが、反応前から金属カルボン酸化合物溶液の一部を構成しているのが望ましい。なお反応前から金属カルボン酸化合物溶液の一部を構成している場合、前記液性は、ハロゲン化物の反応後において決定される。すなわち金属カルボン酸化合物とハロゲン化物を含む溶液は、遅くともハロゲン化物の反応後において金属カルボン酸化合物を溶解可能な有機溶媒(一方液性溶媒、例えば油性溶媒)と、この有機溶媒と相分離する第2溶媒(他方液性溶媒、例えば水性溶媒)とを含んでおり、前記ハロゲン化物の反応物を第2溶媒に溶解させてから有機溶媒と第2溶媒とを分離することが好ましい。このようにすることで、同一溶媒に溶解していた金属カルボン酸化合物とハロゲン化物を、相分離する有機溶媒と第2溶媒とにそれぞれ分離できる。分液後、金属カルボン酸化合物を含む溶液を第2の溶媒でさらに洗浄しても良いし、また晶析しても良い。
【0018】
有機溶媒(油性溶媒)は、金属カルボン酸化合物を溶解できる限り特に限定されないが、例えばベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素溶媒;ジイソプロピルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、ジブチルエーテル、ジグライムなどのエーテル系溶媒;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどの変性エーテル類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒;クロロホルム、ジクロロメタンなどのハロゲン系溶媒;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサンなどの環状炭化水素溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、イソドデカンなどの鎖状炭化水素溶媒などを用いることができる。
【0019】
また第2溶媒(水性溶媒)としては、水、水と水溶性有機溶媒との混合溶媒などが挙げられる。水溶性有機溶媒としては、メタノール、エタノールなどのアルコール類;エチレングリコール、ジメトキシエタン、テトラヒドロフランなどのエーテル類;アセトン、ジオキサンなどのケトン類;アセトニトリルなどのニトリル類などが例示できる。
【0020】
第1の溶媒の量は、金属源に対して0.25〜4.0質量倍が好ましく、より好ましくは0.5〜2.0質量倍である。また、第2の溶媒の量は、第1の溶媒に対して0.2〜10質量倍が好ましく、より好ましくは0.5〜5質量倍である。
【0021】
第2のカルボン酸と塩基とを前記ハロゲン化物と反応させるときの反応温度は、40〜150℃が好ましい。このような温度範囲にすることによって、効率的にハロゲン化物の反応物を生成させ、ハロゲンを除去できる。前記反応温度の下限は、より好ましくは50℃以上、さらに好ましくは70℃以上であり、前記反応温度の上限は、より好ましくは130℃以下であり、さらに好ましくは100℃以下である。反応時間は特に限定されず、例えば15分〜3時間(好ましくは30分〜1時間)程度である。
【0022】
第1のカルボン酸は、金属酸化物粒子を被覆し、溶媒や樹脂等の媒体での分散性を向上する作用を有する。第1のカルボン酸としてはRCOOH(Rは炭化水素基であり、後述する式(1)におけるRと同一である。)で表されるカルボン酸であって、R中の総炭素数が3以上であるカルボン酸を用いることが好ましい。R中の総炭素数を3以上とすることによって、最終的に得られる金属酸化物粒子の、溶媒や樹脂中等の媒体中での分散性を向上できる。分散性の観点からは、R中の総炭素数は多い方が好ましく、その下限値は、4がより好ましく、さらに好ましくは5である。一方、R中の総炭素数の上限は特に限定されないが、例えば、20以下である。
【0023】
上記カルボン酸は、例えば、酪酸、吉草酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、ステアリン酸などの直鎖状カルボン酸;ピバリン酸、2,2−ジメチル酪酸、3,3−ジメチル酪酸、2,2−ジメチル吉草酸、2,2−ジエチル酪酸、3,3−ジエチル酪酸、2−エチルヘキサン酸、2−メチルヘプタン酸、4−メチルオクタン酸、ネオデカン酸などの分枝鎖状カルボン酸;ナフテン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの環状カルボン酸などを使用することができる。これらのうち特に分枝鎖状カルボン酸が好適である。分枝鎖状カルボン酸とすることによって、金属酸化物粒子の凝集を抑制できる。第1のカルボン酸は、1種のみを用いても良いし、2種以上を組み合わせても良い。
【0024】
第1のカルボン酸は、金属源における金属1モルに対して、1〜5モルが好ましく、より好ましくは2〜4モルである。特に、金属カルボン酸化合物の調製において、金属源と反応しない余剰の第1のカルボン酸を残しておき、この余剰の第1のカルボン酸を第2のカルボン酸として使用する場合には、第1のカルボン酸量の下限は、金属源における金属1モルに対して1.3モル以上が好ましく、より好ましくは1.5モル以上である。また、第1のカルボン酸とは異なる第2のカルボン酸を用いる場合には、第1のカルボン酸量の上限は、最終的に得られる金属酸化物粒子の媒体での分散性が向上できる程度であれば良く、例えば3モル以下、より好ましくは1.5モル以下である。
【0025】
金属源としては、金属炭酸塩、金属ハロゲン化物及びオキシ金属ハロゲン化物からなる群より選ばれる1種以上を用いることができる。金属源を構成する金属としては、例えばTi、Al、Zr、In、Zn、Sn、La、Y、Ce、Mg、Ba、Caなどが挙げられる。最終的に得られる金属酸化物の屈折率を高めるという観点からはTi、Al、Zr、Zn及びSnよりなる群から選択される少なくとも1種(特にZr)が好ましい。
【0026】
第1のカルボン酸と金属源とを反応させて第1の金属カルボン酸化合物を生成する際の温度は50〜100℃(好ましくは70〜90℃)程度であり、時間は1〜5時間(好ましくは2〜4時間)程度である。
【0027】
第2のカルボン酸は、特に限定されないが、例えば第1のカルボン酸として上記に例示したのと同様のものを用いることができる。第2のカルボン酸は、第1のカルボン酸と異なっていても良いし、同一であっても良い。特に同一である場合は、前記金属カルボン酸化合物の調製において、前記金属源と反応しない余剰のカルボン酸を残しておき、この余剰のカルボン酸を第2のカルボン酸として使用することも好ましい。第2のカルボン酸は、1種のみを用いても良いし、2種以上を組み合わせても良い。
【0028】
第2のカルボン酸の量は、金属源中の金属1モルに対して、例えば0.3モル以上であり、より好ましくは0.5モル以上である。第2のカルボン酸量の上限は特に限定されないが、金属源中の金属1モルに対して、例えば4モル以下であり、好ましくは3モル以下である。
【0029】
塩基は特に限定されず、強塩基、弱塩基を問わない。例えば水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、水酸化マグネシウムなどのアルカリ土類金属水酸化物、アンモニア、トリエチルアミン、ピリジンなどのN含有塩基などが含まれる。好ましくはアンモニアである。
【0030】
以上の通り、ハロゲン化物とともに、カルボン酸と塩基を含有させれば、ハロゲン化物を除去でき、ハロゲン濃度が金属源の金属に対して、例えば10質量ppm以下(好ましくは5質量ppm以下)である精製金属カルボン酸化合物を得ることができる。さらに驚くべきことに、金属源中に不純物として存在するハロゲン化物を除去することは、最終的に得られる被覆型金属酸化物粒子の正方晶の割合を向上することにも有効であることが明らかとなった。
【0031】
すなわち、上記の製造方法によって得られるハロゲン濃度が低減された金属カルボン酸化合物(精製金属カルボン酸化合物)を、水熱合成して得られる金属酸化物粒子(被覆型金属酸化物粒子)は、ハロゲン濃度が低減されているとともに、結晶中の正方晶の割合が高い。より具体的には、被覆型金属酸化物粒子に対するハロゲンの割合が10質量ppm以下であり、且つ結晶中の全結晶系の合計に対する正方晶の割合が70%以上である。前記ハロゲンの割合は、好ましくは7質量ppm以下(より好ましくは5質量ppm以下)であり、前記正方晶の割合は、好ましくは75%以上である。
【0032】
また、上記した被覆型金属酸化物粒子は、下記式(1)で表されるカルボキシレート化合物で被覆されている。
−OC(=O)−R・・・(1)
Rは飽和炭化水素基であり、上記した第1のカルボン酸におけるRと同じである。なお、本発明において「被覆」とは、カルボキシレート化合物が金属酸化物に化学的に結合した状態、カルボキシレート化合物が金属酸化物に物理的に付着した状態の両方を包含する。
【0033】
精製金属カルボン酸化合物の水熱合成は、例えば圧力を0.5〜3.0MPa程度(好ましくは1.0〜2.0MPa)、温度を170〜220℃程度(好ましくは180〜200℃)、時間を5〜25時間程度(好ましくは10〜20時間)とすれば良い。
【0034】
金属酸化物は、単一金属の酸化物であっても良いし、2種以上の酸化物の固溶体であってもよいし、或いは複合酸化物であってもよい。単一金属酸化物には、例えば、酸化アルミニウム(Al23)、酸化チタン(TiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化インジウム(In23)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO2)、酸化ランタン(La23)、酸化イットリウム(Y23)、酸化セリウム(CeO2)、酸化マグネシウム(MgO)が含まれる。2種以上の酸化物の固溶体としては、ITO、ATOなどが挙げられる。複合酸化物は、例えばチタン酸バリウム(BaTiO3)、灰チタン石(CaTiO3)、スピネル(MgAl24)などである。
【0035】
金属酸化物粒子と、これを被覆するカルボキシレート化合物の割合は、金属酸化物粒子100質量部に対して、カルボキシレート化合物が0.1質量部以上であることが好ましい。このようにすることによって、金属酸化物粒子の溶媒等への分散性を向上できる。カルボキシレート化合物の量は、より好ましくは0.5質量部以上であり、さらに好ましくは2質量部以上である。被覆量が多いと、単位体積当たりに含有される金属酸化物粒子の量が少なくなるため、好ましくない。そこでカルボキシレート化合物の量は、通常30質量部以下であり、好ましくは25質量部以下であり、より好ましくは20質量部以下である。
【0036】
X線回折解析により算出される金属酸化物粒子の結晶子径は、20nm以下であることが好ましい。このようにすることによって、該金属酸化物粒子を含有する組成物の透明率を向上できる。該結晶子径は、より好ましくは15nm以下であり、さらに好ましくは10nm以下である。該結晶子径の下限は、通常1nm程度である。
【0037】
金属酸化物粒子の粒子径は、各種電子顕微鏡観察によって得られた画像を処理することによって得られる平均粒子径によって評価でき、該平均粒子径(平均一次粒子径)は、50nm以下が好ましい。このようにすることによって、該金属酸化物粒子を含有する組成物の透明率を向上できる。平均一次粒子径は、より好ましくは30nm以下であり、さらに好ましくは20nm以下である。平均一次粒子径の下限は、通常1nm程度である。
【0038】
前記平均粒子径は、金属酸化物粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)、電界放射型透過電子顕微鏡(FE−TEM)、電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)などで拡大観察し、無作為に100個の粒子を選択してその長軸方向の長さを測定し、その算術平均を求めることで決定できる。
【0039】
金属酸化物粒子の形状としては球状、粒状、楕円球状、立方体状、直方体状、ピラミッド状、針状、柱状、棒状、筒状、りん片状、板状、薄片状などが挙げられる。溶媒への分散性などを考慮すると、前記形状としては、球状、粒状、柱状などが好ましい。
【0040】
金属酸化物粒子の結晶子径、粒子径、及び形状は、反応温度、反応圧力、溶媒の種類、溶媒の濃度などを調整することによって制御できる。
【0041】
上記金属酸化物粒子は、単独で用いてもよいが、他の物質と共に組成物として用いてもよい。この組成物には、前記金属酸化物粒子が適当な媒体に分散した分散体、前記金属酸化物粒子を含む樹脂組成物などが含まれる。
【0042】
前記分散体では、金属酸化物粒子を溶媒に分散させても良い。この溶媒は金属酸化物粒子を良好に分散できるものであれば良く、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコールなどのアルコール類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのエステル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルなどのエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、トリメチルベンゼン、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ミネラルスピリットなどの炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素類;ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド類;水;鉱物油、植物油、ワックス油、シリコーン油などの油類を挙げることができる。これらのうち1種を選択して使用することもできるし、2種以上を選択し混合して用いることもできる。取扱性の面から、常圧での沸点が40℃以上、250℃以下程度の溶媒が好適である。
【0043】
前記分散体では、金属酸化物粒子を良好に分散可能な媒体であれば、単官能単量体、架橋性単量体などの重合性化合物を媒体としても良い。
【0044】
単官能単量体は、重合可能な炭素−炭素二重結合を1つだけ有する化合物であればよく、(メタ)アクリル酸エステル;スチレン、p−tert−ブチルスチレン、α−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−クロロスチレン、p−クロロメチルスチレン等のスチレン系単量体;(メタ)アクリル酸等のカルボキシル基含有単量体;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有単量体等が挙げられる。上記の(メタ)アクリル酸エステルとしては、具体的には、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル等が挙げられるが、メチル(メタ)アクリレートが特に好ましい。これら例示の単官能単量体は、単独で用いてもよく、また、2種類以上を適宜混合して用いてもよい。
【0045】
架橋性単量体は、単官能単量体が有する炭素−炭素二重結合と共重合可能な炭素−炭素二重結合を複数含有する化合物であればよい。該架橋性単量体としては、具体的には、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート;ジビニルベンゼン等の多官能スチレン系単量体;ジアリルフタレート、ジアリルイソフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等の多官能アリルエステル系単量体等が挙げられる。
【0046】
分散体に占める金属酸化物粒子の濃度は用途に応じて適宜設定することができるが、通常、当該分散体に対して90質量%以下である。90質量%を超えると均一に分散し難くなり分散体が白濁するおそれがあり得る。一方、下限値は特に制限されないが、媒体コストを考慮すると、例えば、1質量%以上である。より好ましくは5質量%以上、80質量%以下、さらに好ましくは10質量%以上、70質量%以下である。
【0047】
前記樹脂組成物を構成する場合、媒体(マトリックス)であるポリマーは例えば、6−ナイロン、66−ナイロン、12−ナイロンなどのポリアミド類;ポリイミド類;ポリウレタン類;ポリエチレン、ポロプロピレンなどのポリオレフィン類;PET、PBT、PENなどのポリエステル類;ポリ塩化ビニル類;ポリ塩化ビニリデン類;ポリ酢酸ビニル類;ポリスチレン類;(メタ)アクリル樹脂系ポリマー;ABS樹脂;フッ素樹脂;フェノール・ホルマリン樹脂、クレゾール・ホルマリン樹脂などのフェノール樹脂;エポキシ樹脂;尿素樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂などのアミノ樹脂などを挙げることができる。また、ポリビニルブチラール系樹脂、ポリウレタン系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体系樹脂、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体系樹脂などの軟質樹脂や硬質樹脂、なども挙げられる。上記した中で、ポリイミド類、ポリウレタン類、ポリエステル類、(メタ)アクリル樹脂系ポリマー、フェノール樹脂、アミノ樹脂、エポキシ樹脂がより好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0048】
なお、前記樹脂組成物には、上記した高分子化合物と、本発明の金属酸化物粒子との組成物だけでなく、上記ポリマーを構成するモノマー、例えば、ジカルボン酸とジアミンの混合物、アクリル酸やメタアクリル酸等の不飽和カルボン酸やそのエステル化合物等と、本発明の金属酸化物粒子との組成物も含まれる。また、本発明の樹脂組成物は、ポリマーとモノマーを両方含むものであっても良い。
【0049】
上記のポリマーの中で、例えば耐熱性の観点から、特にポリイミド類、(メタ)アクリル樹脂系ポリマー、フェノール樹脂、エポキシ樹脂などを用いても良い。
【0050】
上述の樹脂組成物には、添加成分を配合してもよい。かかる添加成分としては、例えば、硬化剤、硬化促進剤、着色剤、離型剤、反応性希釈剤、可塑剤、安定化剤、難燃助剤、架橋剤などを挙げることができる。
【0051】
樹脂組成物は成形体に加工しても良い。成形体の形状は特に制限されず、例えば、板、シート、フィルム、繊維などの種々の形状に成形できる。
【0052】
本発明の樹脂組成物は、金属酸化物粒子が均一に分散しているので、透明性が高い。具体的には、100μmの厚さにおいて波長400nmの光の透過率を70%以上とすることができ、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上である。
【0053】
本発明によって得られる精製金属カルボン酸化合物は、水熱合成によって金属酸化物粒子とでき、該金属酸化物粒子は、光学レンズ、光学フィルム用粘着剤、光学フィルム用接着剤、ナノインプリント用樹脂、マイクロレンズアレイ、透明電極に使用する反射防止層、反射防止フィルムや反射防止剤、光学レンズの表面コート、有機EL光取り出し層等の光学材料に好適に用いられる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前記、後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0055】
実施例中の酸化ジルコニウム粒子の物性は、以下の方法により測定した。
【0056】
(1)結晶構造の解析
酸化ジルコニウム粒子の結晶構造は、X線回折装置(リガク社製、RINT−TTRIII)を用いて解析した。測定条件は以下の通りである。
X線源:CuKα(0.154nm)
X線出力設定:50kV、300mA
サンプリング幅:0.0200°
スキャンスピード:10.0000°/min
測定範囲:10〜75°
測定温度:25℃
【0057】
(2)正方晶、単斜晶の割合の定量
X線回折装置(リガク社製、RINT−TTRIII)を用いて算出される値を元に、計算ソフト(リガク社製、PDXL)を用いて参照強度比法(RIP法)により定量した。
【0058】
(3)X線回折解析による結晶子径算出
結晶子径は、X線回折装置(リガク社製、RINT−TTRIII)を用いて算出される30°のピークの半値幅を元に、計算ソフト(リガク社製、PDXL)を用いて算出した。
【0059】
(4)電子顕微鏡による平均粒子径の測定
酸化ジルコニウム粒子の平均一次粒子径は、超高分解能電解放出型走査電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製、S−4800)で観察することによって測定した。倍率15万倍で酸化ジルコニウム粒子を観察し、任意の100個の粒子について、各粒子の長軸方向の長さを測定し、その平均値を平均一次粒子径とした。
【0060】
(5)質量減少率の測定
TG−DTA(熱重量−示唆熱分析)装置により、空気雰囲気下、室温から800℃まで10℃/分で酸化ジルコニウム粒子を昇温し、該粒子の質量減少率を測定した。この質量減少率により、被覆型酸化ジルコニウム粒子に結合しているカルボキシレート化合物の割合を知ることができる。
【0061】
(6)酸化ジルコニウム粒子中の塩素含有量の測定
塩素含有量は、イオンクロマトグラフィー(DIONEX社製 ICS−2000)を用いて、以下の測定条件で解析した。酸化ジルコニウム粒子及びジルコニウムジメチル酪酸化合物のいずれについても燃焼法で測定を行った。
カラム:IonPac AS11HC
溶離液:水酸化カリウム 23mmol/L
【0062】
実施例1
塩基性炭酸ジルコニウム432g(日本軽金属社製、組成式:Zr2(CO3)(OH)2)O2、含水率46%の湿体品。ジルコニウムに対して3400質量ppmの塩素を含有する。ジルコニウム1.52mol)と、2,2−ジメチル酪酸354g(3.04mol)と、キシレン216gの混合液を、ガラス製のセパラブルフラスコ中にて80℃で2時間反応させた。このとき、ジルコニウムと化合物を形成しない余剰の2,2−ジメチル酪酸の理論値は、1.52molである。得られた溶液に0.033mol%に調整したアンモニア水1150g(アンモニア:0.38mol)を添加し、80℃で30分間攪拌した。室温になるまで放冷した後に水層を除去し、ジルコニウムジメチル酪酸化合物のキシレン溶液を得た。
【0063】
得られたジルコニウムジメチル酪酸化合物のキシレン溶液の一部を取り出し、減圧条件下でキシレンを留去し、イオンクロマトグラフィーにより塩素含有量を測定したところ、塩素は検出されなかった。
【0064】
一方、除去した水層の塩素含有量をイオンクロマトグラフィーにより測定したところ、仕込んだジルコニウムに対して3400質量ppmの塩素が検出された。
【0065】
実施例2
実施例1で得られた油層に脱イオン水448g(ジルコニウム1モルに対して16モル)を加えてオートクレーブにいれ、オートクレーブ中の雰囲気を窒素ガスに置換した。その後、混合液を190℃(反応圧力:1.4MPa)まで加熱し、16時間保持した。反応後の溶液を取り出し、底部に溜まった沈殿物を濾別してトルエン800gで洗浄した。洗浄物を乾燥させることで、白色の被覆型酸化ジルコニウム粒子156gを得た。
【0066】
得られた被覆型酸化ジルコニウム粒子の結晶構造を確認したところ、正方晶と単斜晶に帰属される回折線が検出され、回折線のピーク強度から、正方晶と単斜晶の割合は78/22であった。また結晶子径は4nmであることが分かった。
【0067】
また、電子顕微鏡で測定して得られた被覆型酸化ジルコニウム粒子の平均粒子径(平均一次粒子径)は9nmであり、その形状は粒状であった。
【0068】
さらに、上記した「(5)質量減少率の測定」に従って測定した被覆型酸化ジルコニウム粒子の質量減少率は13%であった。
【0069】
得られた被覆型酸化ジルコニウム粒子について、イオンクロマトグラフィーによる塩素含有量の測定を行ったところ、塩素は検出されなかった。
【0070】
比較例1
実施例1の2,2−ジメチル酪酸を177g(1.52mol)に変更した以外は実施例1と同様にしてジルコニウムジメチル酪酸化合物の合成を行った。その結果、アンモニア水投入時に白濁を生じてゲル状になり、有機層(油層)と水槽の分離が行えなかった。
【0071】
比較例2
実施例1のアンモニア水に代えて、脱イオン水を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてジルコニウムジメチル酪酸化合物の合成を行った。
【0072】
得られたジルコニウムジメチル酪酸化合物のキシレン溶液の一部を取り出し、減圧条件下でキシレンを留去し、イオンクロマトグラフィーにより塩素含有量を測定したところ、仕込んだジルコニウムに対して3380質量ppmの塩素が検出された。
【0073】
除去した水層の塩素含有量をイオンクロマトグラフィーにて測定したところ、仕込んだジルコニウムに対して20質量ppmの塩素が検出された。
【0074】
比較例3
比較例2で得られたキシレン溶液を用いて、実施例2と同様の操作により、被覆型酸化ジルコニウム粒子の合成を行った。その結果、白色の被覆型酸化ジルコニウム粒子175gを得た。
【0075】
得られた被覆型酸化ジルコニウム粒子の結晶構造を確認したところ、正方晶と単斜晶に帰属される回折線が検出され、回折線のピーク強度から、正方晶と単斜晶の割合は45/55であった。また結晶子径は7nmであることが分かった。
【0076】
また、電子顕微鏡で測定して得られた被覆型酸化ジルコニウム粒子の平均粒子径(平均一次粒子径)は10nmであった。
【0077】
さらに、上記した「(5)質量減少率の測定」に従って測定した被覆型酸化ジルコニウム粒子の質量減少率は12%であった。
【0078】
得られた被覆型酸化ジルコニウム粒子について、イオンクロマトグラフィーによる塩素含有量の測定を行ったところ、粒子中のジルコニウムに対して730質量ppmの塩素が検出された。