(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来より、熱可塑性樹脂製の屋根材には、火災時の延焼を防止する観点から、十分な耐飛び火性が要求されている。この要求に応えるには、屋根材が、難燃性を有することに加えて、十分な燃え抜け防止性能(屋根材の火種の落ちた部分が燃えて穴があき、その穴から火種が屋内に落下することを防止できる性能)を有することが必要である。
【0003】
本出願人は、山部と谷部が交互に連成された合成樹脂製の折板や波板などの屋根材の飛び火による延焼を防止するため、屋根フレームに取付けた屋根材を横切るように不燃性の延焼防止部材を設置して、該延焼防止部材のフィンを屋根材の山部相互間の凹空部に嵌め込み、屋根材の下側にガラスクロスなどの不燃性の面材を配置して屋根フレームに取付けた、合成樹脂製の屋根材の飛び火による延焼防止構造を既に提案した(特許文献1)。
【0004】
この延焼防止構造は、飛び火による合成樹脂製の屋根材の水上側への延焼を、不燃性の延焼防止部材によって有効に防止でき、かつ、ガラスクロスなどの不燃性の面材によって燃え抜けも十分に防止できるものであった。
【0005】
一方、耐衝撃性、難燃性等に優れた成形品を得るための難燃性樹脂組成物として、熱可塑性樹脂と有機繊維と難燃剤とを含んだ組成物であって、熱可塑性樹脂が芳香族ポリエステル系樹脂及び/又は芳香族ポリアミド系樹脂を含有するものであり、有機繊維がアラミド繊維を含むものであり、難燃剤が窒素含有化合物を含有するものである、組成物が知られている(特許文献2)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記特許文献1の延焼防止構造は、飛び火による合成樹脂製の屋根材の延焼と燃え抜けを有効に防止できるものであるが、屋根材自体が延焼防止性能や燃え抜け防止性能を有するものではないので、屋根材単独では延焼を防止することも燃え抜けを防止することもできない。
【0008】
また、前記特許文献2の難燃性樹脂組成物は、アラミド繊維と難燃剤を含有させることによって、得られる成形品の耐衝撃性と難燃性の向上を図ったものであり、アラミド繊維を含有させることによって、得られる成形品に十分な燃え抜け防止性能を発揮できる物性を付与しようとしたものではない。
【0009】
このように、十分な燃え抜け防止性能を有する熱可塑性樹脂製の屋根材などの成形品は、未だ開発されていないのが実情である。
【0010】
本発明は上記実情の下になされたもので、その解決しようとする課題は、十分な燃え抜け防止性能を有し、耐飛び火性が要求される屋根材等の用途に適した熱可塑性樹脂成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の燃え抜け防止性能を有する熱可塑性樹脂成形体は、繊維を含有した熱可塑性樹脂成形体であって、上記繊維が、上記熱可塑性樹脂の融点からチャー層(燃焼時に形成される炭化層)を形成するまでの温度範囲において不融の難燃繊維であり、
この難燃繊維の全て又は一部が4〜30mmの長さを有し、難燃繊維が上記成形体内でネットワークを形成しており、上記温度範囲において上記成形体の貯蔵弾性率G′に対する損失弾性率G″の比であるtanδ(G″/G′)の最大値が20以下であり、かつ、上記温度範囲において上記成形体の貯蔵弾性率G′の最小値が24Pa以上、300Pa以下であることを特徴とするものである。
【0012】
本発明の熱可塑性樹脂成形体の代表的なものは、前記熱可塑性樹脂がポリカーボネート樹脂であって、前記温度範囲が略250℃〜略500℃である成形体である。本発明の成形体に含有されている前記繊
維はポリアミド繊維及び/又はガラス繊維であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
熱可塑性樹脂成形体に落ちた火種の燃え抜けは、該成形体の熱可塑性樹脂が火種の熱で溶融し始めてからチャー層を形成するまでの間に生じ、チャー層が形成されてしまうと、その後は火種がチャー層で支えられるため、抜け落ちることは殆どない。従って、熱可塑性樹脂の融点からチャー層を形成するまでの温度範囲において、火種の燃え抜けをいかに防止するか、が重要になる。
【0014】
本発明の熱可塑性樹脂成形体のように、熱可塑性樹脂の融点からチャー層を形成するまでの温度範囲において不融の難燃繊維を含んで
おり、この難燃繊維の全て又は一部が4〜30mmの長さを有していると、この繊維自体が火種による熱可塑性樹脂成形体の燃焼を抑制する働きをすることに加えて、この繊維が上記温度範囲において溶融したり燃焼したりすることなく互いに絡み合って
成形体内でネットワークを形成して火種が抜け落ちないように支える働きをする。
【0015】
そして、本発明の熱可塑性樹脂成形体のように、上記温度範囲において熱可塑性樹脂成形体の貯蔵弾性率G′に対する損失弾性率G″の比であるtanδ(G″/G′)の最大値が20以下であると、熱可塑性樹脂成形体の上記温度範囲における粘性的挙動が小さいため、火種がその荷重で抜け落ちないように成形体が火種を支える働きをする。
【0016】
また、本発明の熱可塑性樹脂成形体のように、上記温度範囲において熱可塑性樹脂成形体の貯蔵弾性率G′の最小値が24Pa以上、300Pa以下であると、上記温度範囲において熱可塑性樹脂成形体が火種の荷重に抗してバネのように復元しようとする弾性的挙動を示し、それによって火種を押し戻すような働きをする。
【0017】
上記のように、本発明の熱可塑性樹脂成形体は、熱可塑性樹脂の融点からチャー層を形成するまでの温度範囲において、不融の難燃繊維が形成するネットワークによって火種を支えると共に、tanδ(G″/G′)の最大値が20以下で且つ貯蔵弾性率G′の最小値が24Pa以上、300Pa以下という熱可塑性樹脂成形体の粘弾性的な物性によって火種を押し戻すように支えるので、十分な燃え抜け防止性能を発揮することができる。
【0018】
特に、本発明の熱可塑性樹脂成形体
のように、含有されている不融
の難燃繊維の
全て又は一部が4〜30mm
の長さを有するものであると、繊維同士が十分に絡み合って強固なネットワークを形成するため、火種の荷重に十分耐えられるようになり、後述の実施例のデータから判るように、厚さ2mmの薄い平板状の熱可塑性樹脂成形体であっても、燃え抜けを防止できるようになる。
【0019】
特に、熱可塑性樹脂がポリカーボネート樹脂であって、該樹脂の融点からチャー層を形成するまでの温度範囲が略250℃〜略500℃であり、この温度範囲で不融の難燃繊維であるポリアミド繊維及び/又はガラス繊維が含有されている本発明の代表的な熱可塑性樹脂成形体は、後述の実施例のデータによって裏付けられるように、十分な燃え抜け防止性能を発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0022】
図1に示す実施形態の熱可塑性樹脂成形体Pは平板状に成形されたものであって、基材の熱可塑性樹脂1の全体にわたって繊維2が均等に含有されており、この繊維2は互いに絡み合って二次元ないし三次元のネットワークを形成している。熱可塑性樹脂成形体Pの形状は平板状に限定されるものではなく、山部と谷部が交互に連成された折板状、波板状、その他の所望形状となし得ることは言うまでもない。また、繊維2は必ずしも熱可塑性樹脂成形体Pの全体に均等に含有させる必要はなく、熱可塑性樹脂成形体Pの内部に層状に偏在させて含有させるようにしてもよい。
【0023】
基材の熱可塑性樹脂1は、成形体の用途に応じて公知の熱可塑性樹脂の中から適当なものを選択すればよく、例えば、この熱可塑性樹脂成形体Pを採光用屋根材として用いる場合は、基材の熱可塑性樹脂1として、良好な透光性と耐候性を有し、融点が略250℃、チャー層(炭化層)の形成温度が略500℃であるポリカーボネート樹脂が特に好ましく使用される。これ以外にも、用途に応じて、ポリエチレンテレフタレートその他のエステル系樹脂や、ポリエチレン、ポリプロピレンその他のオレフィン系樹脂や、ポリ塩化ビニルその他のビニル系樹脂や、ポリメチルメタクリレートその他のアクリル系樹脂など、公知の種々の熱可塑性樹脂が使用されることは言うまでもない。
【0024】
基材の熱可塑性樹脂1に含有させる繊維2は、熱可塑性樹脂1の融点からチャー層を形成するまでの温度範囲において不融の難燃繊維を使用する必要がある。上記温度範囲で溶融したり燃えたりする繊維は、火種により成形体Pの熱可塑性樹脂1が溶融、燃焼してチャー層を形成するまでの間、繊維のネットワークを維持して火種が抜け落ちないように支えることができないからである。
【0025】
例えば、熱可塑性樹脂1がポリカーボネート樹脂である場合は、その融点からチャー層が形成されるまでの略250℃〜略500℃の温度範囲において不融の難燃性及び耐熱性に優れたポリアミド繊維やガラス繊維が好ましく使用され、これらの繊維は単独で又は適宜混合して含有される。ポリアミド繊維としては、脂肪族ポリアミド繊維よりも高耐熱性の全芳香族ポリアミド繊維(アラミド繊維)が好ましく、例えば、p−フェニレンジアミンとテレフタレート酸クロリドから共縮合して得られるパラ型アラミド繊維や、m−フェニレンジアミンとイソフタル酸クロリドから共縮合して得られるメタ型アラミド繊維など、公知のパラ型もしくはメタ型のアラミド繊維が全て使用される。その他にも、熱可塑性樹脂1の融点からチャー層を形成するまでの温度範囲で不融・難燃の超高分子量ポリエチレン繊維、PBO(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維、PPS(ポリフェニレンサルファイド)繊維、ポリイミド繊維、ポリアリレート繊維、PVA(ポリビニルアルコール)系繊維、ビニロン繊維、炭素繊維等の有機繊維や、ガラス繊維、ロックウール等の無機繊維、アルミナ繊維等の金属繊維などが使用可能である。
【0026】
成形体Pの熱可塑性樹脂1に含まれている繊維2の
全て又は一部は4〜30mm
の長さを有することが好ましく、この程度の長さを有する繊維2が含まれていると、繊維2同士が二次元ないし三次元的に十分に絡み合って成形体P内で強固なネットワークを形成するため、火種による成形体Pの燃焼時に火種の荷重に十分耐えられるようになり、後述の実施例のデータから判るように、厚さ2mmの薄い平板状の熱可塑性樹脂(ポリカーボネート樹脂)成形体であっても、燃え抜けを防止できるようになる。
繊維2の長さは4mm未満でも勿論よく、その場合
は4mm以上の長い繊維と混合することによって、火種の荷重に耐えられる三次元のネットワークを形成することが好ましい。
【0027】
繊維2の太さは1〜30μm程度が適当であるが、これに限定されるものではない。
また、繊維2の含有量は、繊維2の長さを考慮し、熱可塑性樹脂100質量部に対して5〜60質量部の範囲内で適当な含有量を決定すればよいが、これに限定されるものではない。熱可塑性樹脂成形体Pは、上記のように繊維2の含有量が多く、透過光が繊維2で屈折、散乱するため、透視が不可能な成形体になる。従って、このような熱可塑性樹脂成形体Pは、仕切材や目隠し材などの用途にも好適に使用できる。
【0028】
なお、成形体Pの熱可塑性樹脂1には、紫外線吸収剤、難燃剤、その他の各種添加剤を適宜含有させてもよい。
【0029】
この熱可塑性樹脂成形体Pは、熱可塑性樹脂1の融点からチャー層を形成するまでの温度範囲(基材の熱可塑性樹脂1がポリカーボネート樹脂である場合は、略250℃〜略500℃の温度範囲)において、その貯蔵弾性率G′に対する損失弾性率G″の比であるtanδ(G″/G′)の最大値が20以下であり、かつ、上記温度範囲において貯蔵弾性率G′の最小値が24Pa以上、300Pa以下である、という粘弾性的な物性を有するところに大きい特徴を有する。
【0030】
このような成形体Pの粘弾性的な物性は、後述の実施例及び比較例から判るように、成形体Pの熱可塑性樹脂1に含有させる繊維2の材質、長さ、含有量などを変えることによって調節可能であり、熱可塑性樹脂1の種類を変えれば粘弾性的な物性が大幅に変化する。
【0031】
なお、tanδ(G″/G′)の最大値や貯蔵弾性率G′の最小値は、後述の実施例のところで説明するように、レオメーター(動的粘弾性測定装置)を用いて求めたものである。
【0032】
この熱可塑性樹脂成形体Pのように、熱可塑性樹脂1の融点からチャー層を形成するまでの温度範囲において、その貯蔵弾性率G′に対する損失弾性率G″の比であるtanδ(G″/G′)の最大値が20以下であると、粘性成分を示す損失弾性率G″が小さくて、成形体Pの上記温度範囲における粘性的挙動が減少するため、火種がその荷重で抜け落ちないように成形体Pが火種を支える働きをするようになる。そして、上記温度範囲において、貯蔵弾性率G′の最小値が24Pa以上、300Pa以下であると、成形体Pが火種の荷重に抗してバネのように復元しようとする弾性的挙動が増大し、それによって火種を押し戻すような働きをするようになる。
【0033】
従って、この熱可塑性樹脂成形体Pは、熱可塑性樹脂1の融点からチャー層を形成するまでの間、不融の難燃繊維のネットワークによって火種を支えると共に、上記の弾性的挙動によって火種を押し戻すように支えるので、十分な燃え抜け防止性能を発揮することができる。
【0034】
以上のような熱可塑性樹脂成形体Pは、例えば次の方法によって容易に製造することができる。
即ち、成形体Pが繊維2を熱可塑性樹脂1の全体にわたって均等に含有させたものである場合は、熱可塑性樹脂と繊維を混ぜ合わせたものをそのまま押出成形するか、或いは、繊維を配合した熱可塑性樹脂組成物でペレットを造り、これを押出成形することによって容易に製造することができる。ガラス繊維のように押出し時に繊維が切断されて繊維長が短くなる繊維を使用する場合は、前者のように熱可塑性樹脂と繊維を混ぜ合わせて押出成形する方が、繊維長を保ちやすくなるので好ましい。
また、成形体Pが繊維2を層状に偏在させて含有させたものである場合は、繊維を熱可塑性樹脂シートの間に挟んで熱プレスすることによって容易に製造することができる。
【0035】
次に、本発明の更に具体的な実施例と比較例を説明する。
【0036】
[実施例1〜9]
ポリカーボネート樹脂100質量部に、長さ3mmのパラ型アラミド繊維(帝人テクノプロダクツ社製)と、長さ6mmの同じパラ型アラミド繊維と、長さ3mmのガラス繊維(セントラルガラス社製ECS03−631K)を、下記表1に示す配合量で混ぜ合わせ、これを板状に押出成形することによって、実施例1〜6、実施例8,9のポリカーボネート樹脂板(板厚2mmのものと板厚4mmのもの)を作製した。
また、ポリカーボネート樹脂シートの間に、長さ13mmのガラス繊維を挟んで熱プレスすることにより、実施例7のポリカーボネート樹脂板(ポリカーボネート樹脂100質量部に対しガラス繊維を42.8質量部の割合で含有する樹脂板であって、板厚2mmのものと板厚4mmのもの)を作製した。
【0037】
実施例1〜9で作製したポリカーボネート樹脂板(板厚2mmのものと板厚4mmのもの)について、以下の方法で燃焼試験を行った。
即ち、
図2に示すように、支持台10の上にポリカーボネート樹脂板Pを15°傾斜させて固定し、ポリカーボネート樹脂板Pの中央部に火種11(19mm×19mm×80mmの大きさに成形した火種ブロックを一段に3本ずつ等間隔に並べたものを、互い違いに90°向きを変えて3段に積み重ね、適量の鉄丸釘等で固定して、全体の大きさが80mm×80mm×60mmとなるように製作したもの)を載せ、送風機から風速3m/sで風を送りながら、ポリカーボネート樹脂板Pを燃焼させて、燃え抜けが生じるかどうかを調べた。その結果を下記表1に示す。なお、下記表1において、〇は燃え抜けが生じなかったことを、×は燃え抜けが生じたことを表す。
【0038】
次に、レオメーターを用いて、実施例1〜9で作製したポリカーボネート樹脂板の、250℃〜500℃における貯蔵弾性率G′に対する損失弾性率G″の比であるtanδ(G″/G′)の最大値と、貯蔵弾性率G′の最小値を、次の要領で求めた。
即ち、実施例1〜9で作製したポリカーボネート樹脂板(板厚2mmのもの)から、直径25mm、厚さ2mmの円板状のサンプルを造り、各サンプルをレオメーターの直径25mmの二つの対向する円盤状アルミプレートの間に挟んで、温度を250℃から500℃まで50℃/minの昇温速度で昇温させながら、片側の円盤状アルミプレートを1rad/sの角速度で回転させ、そのローターのトルクを計測して、250℃〜500℃におけるtanδ(G″/G′)の最大値と、貯蔵弾性率G′の最小値を算出した。その結果を下記表1に示す。
なお、温度範囲は、ポリカーボネート樹脂の融点からチャー層を形成(炭化)するまでの温度に合わせて250℃〜500℃としたものであり、また、角速度は理論値ではなく、前記燃焼試験で樹脂が溶融して火種が落ち始める速度を目測して1rad/sとしたものである。
【0039】
また、実施例4,7,9のポリカーボネート樹脂板については、ポリカーボネート樹脂を一部溶融、除去して繊維を露出させ、実際に樹脂板に含まれていた繊維の繊維長を調べた。その結果を下記表1に示す。
【0040】
[比較例1〜4]
比較のために、前記実施例と同様にして、下記表1に示す配合組成の比較例1〜4のポリカーボネート樹脂板(板厚2mmのものと板厚4mmのもの)を作製し、前記実施例と同様にして燃焼試験を行うと共に、250℃〜500℃におけるtanδ(G″/G′)の最大値と、貯蔵弾性率G′の最小値を求め、さらに比較例2のポリカーボネート樹脂板については樹脂板に含まれている繊維の繊維長を調べた。これらの結果を下記表1に併記する。
【0042】
この表1から、樹脂板中に、長さ4mm以上のパラ型アラミド繊維やガラス繊維を含み、ポリカーボネート樹脂の融点からチャー層を形成するまでの250℃〜500℃の温度範囲において、tanδ(G″/G′)の最大値が20以下であり、かつ、貯蔵弾性率G′の最小値が24Pa以上、300Pa以下である実施例1〜7のポリカーボネート樹脂板は、板厚が4mmと厚いものは勿論、板厚が2mmと薄いものでも、火種の燃え抜けを防止できることが判る。
これに対し、樹脂板中に、長さ4mm未満のパラ型アラミド繊維やガラス繊維を含む実施例8,9のポリカーボネート樹脂板は、tanδ(G″/G′)の最大値が20以下であり、かつ、貯蔵弾性率G′の最小値が24Pa以上、300Pa以下であるため、板厚が4mmと厚いものは燃え抜けを防止できるが、繊維のネットワークがあまり強くないため、板厚が2mmと薄いものは燃え抜けを防止できないことが判る。このことから、長さが4mm以上の繊維を含有させることが、燃え抜けを防止する上で特に有効であることが裏付けられる。
【0043】
一方、繊維を含まず、250℃〜500℃におけるtanδ(G″/G′)の最大値が20を越えている比較例1,4のポリカーボネート樹脂板は、貯蔵弾性率G′の最小値が24Pa以上、300Pa以下であっても、燃え抜けを防止できず、また、繊維を含み、tanδ(G″/G′)の最大値が20を越えていなくても、貯蔵弾性率G′の最小値が24Paを下回る比較例3のポリカーボネート樹脂板や、繊維を含んでいても、tanδ(G″/G′)の最大値が20を越え、貯蔵弾性率G′の最小値が24Paを下回る比較例2のポリカーボネート樹脂板は、燃え抜けを防止できないことが判る。このことから、繊維を含み、tanδ(G″/G′)の最大値が20以下であり、貯蔵弾性率G′の最小値が24Pa以上、300Pa以下であることが、燃え抜けを防止する上で有効であることが裏付けられる。
【0044】
なお、表1から、ポリカーボネート樹脂板に含有させる繊維の材質、長さ、含有量などを変えると、ポリカーボネート樹脂の融点からチャー層を形成するまでの温度範囲におけるtanδ(G″/G′)の最大値や貯蔵弾性率G′の最小値が変わり、ポリカーボネート樹脂板の粘弾性的な物性を調節できることが判る。