(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6030904
(24)【登録日】2016年10月28日
(45)【発行日】2016年11月24日
(54)【発明の名称】粉砕パルプの製造方法及び繊維補強板の製造方法
(51)【国際特許分類】
D21B 1/14 20060101AFI20161114BHJP
【FI】
D21B1/14
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-215134(P2012-215134)
(22)【出願日】2012年9月27日
(65)【公開番号】特開2014-70292(P2014-70292A)
(43)【公開日】2014年4月21日
【審査請求日】2015年7月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】503367376
【氏名又は名称】ケイミュー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000226161
【氏名又は名称】日華化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087767
【弁理士】
【氏名又は名称】西川 惠清
(74)【代理人】
【識別番号】100155745
【弁理士】
【氏名又は名称】水尻 勝久
(74)【代理人】
【識別番号】100143465
【弁理士】
【氏名又は名称】竹尾 由重
(74)【代理人】
【識別番号】100155756
【弁理士】
【氏名又は名称】坂口 武
(74)【代理人】
【識別番号】100161883
【弁理士】
【氏名又は名称】北出 英敏
(74)【代理人】
【識別番号】100167830
【弁理士】
【氏名又は名称】仲石 晴樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162248
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 豊
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 宏
(72)【発明者】
【氏名】堤 靖浩
(72)【発明者】
【氏名】友田 裕一
(72)【発明者】
【氏名】幸西 寿樹
【審査官】
平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−261062(JP,A)
【文献】
特開2006−316388(JP,A)
【文献】
特開2004−308095(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B1/00〜D21J7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプシートを粉砕機により粉砕するにあたって、以下の(a)成分と(b)成分の少なくとも一方を含む解繊剤を用いて前記パルプシートを処理することを特徴とする粉砕パルプの製造方法。
(a)脂肪酸とポリアミンとを反応させて得られるアミド化合物又はその塩。
(b)脂肪族アミンのアルキレンオキサイド付加物と脂肪酸とのエステル化合物。
【請求項2】
前記(a)成分が、前記アミド化合物又はその塩と尿素との脱アンモニウム反応により生成される尿素縮合物を含んでいることを特徴とする請求項1に記載の粉砕パルプの製造方法。
【請求項3】
前記(a)成分と前記(b)成分の含有比率が質量比で60:40〜99:1の範囲である解繊剤を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の粉砕パルプの製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の粉砕パルプを補強繊維として含有することを特徴とする繊維補強板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱材用充填パルプ、オムツ等の衛生用品、窯業系ボードなどの工業製品に利用可能な粉砕パルプの製造方法及びこれを用いた繊維補強板
の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、パルプシートを粉砕(解繊)することにより粉砕パルプを得、これを窯業系ボードなどの建材に補強繊維として配合することが行われている。粉砕パルプを生成するにあたっては、パルプシートを機械的に乾式粉砕することが多く、粉砕方式にはパルペライザー型、ハンマーミル型、乾式叩解機などが採用されている。
【0003】
しかし、上記の方法では、パルプシートを機械的なシェアのみで粉砕するため、パルプ繊維を一本ずつに分離することが難しく、ダマ(パルプ繊維の塊)が生じることがあった。また、ダマの発生を抑えるために、機械的に強力なシェアをかけた場合には、パルプ繊維が傷んだり切れたりするため、粉砕パルプを配合する二次製品の品質が低下するおそれがあった。また、パルプシートを粉砕するためには、非常に大きなエネルギーを必要とするため、粉砕装置の動力費が多大になるだけでなく、騒音問題が発生したり装置寿命が短命になったりする場合があった。従って、機械的なシェアのみでは品質の良いパルプシートを得にくいという問題があった。
【0004】
そこで、薬剤を使用して粉砕を行いやすくすることが提案されている。例えば、特許文献1では、分散剤を配合した溶液中でセルロース繊維を解繊処理することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4384411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記の従来例よりもさらに品質の良い粉砕パルプが望まれていた。
【0007】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、解繊性の向上、吸水性の抑制など品質の良い粉砕パルプが得られる粉砕パルプの製造方法を提供することを目的とするものである。また本発明は、上記粉砕パルプを用いた繊維補強板
の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る粉砕パルプの製造方法は、パルプシートを粉砕機により粉砕するにあたって、以下の(a)成分と(b)成分の少なくとも一方を含む解繊剤を用いて前記パルプシートを処理することを特徴とするものである。
(a)脂肪酸とポリアミンとを反応させて得られるアミド化合物又はその塩。
(b)脂肪族アミンのアルキレンオキサイド付加物と脂肪酸とのエステル化合物。
【0009】
本発明にあっては、前記(a)成分が、前記アミド化合物又はその塩と尿素との脱アンモニウム反応により生成される尿素縮合物を含んでいてもよい。
【0010】
本発明にあっては、(a)成分と(b)成分の含有比率が質量比で60:40〜99:1の範囲である解繊剤を用いるのが好ましい。
【0011】
本発明に係る繊維補強板
の製造方法は、前記粉砕パルプを補強繊維として含有
することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る粉砕パルプの製造方法は、解繊剤で処理した後のパルプシートを粉砕するので、パルプシートのパルプ繊維間の結合を解繊剤で弱めた状態でパルプシートを粉砕することができ、ダマの発生が少ない粉砕パルプを得ることができ、また、粉砕機により強力なシェアをかけて粉砕する必要がなく、パルプ繊維を傷つけたり切ったりすることなく一本一本のパルプ繊維に分離して粉砕することができ、さらに、粉砕装置の動力費を少なくし、騒音問題を低減したり装置寿命の長寿命化を図ることができるものである。また、上記(a)成分と上記(b)成分の少なくとも一方を含む解繊剤でパルプシートを処理するので、解繊性が向上し、吸水性を抑制できるなどの品質の良い粉砕パルプを得ることができるものである。
【0013】
本発明に係る繊維
補強板の製造方法は、ダマが少なく、繊維の傷つきや切断の少ない粉砕パルプで補強することができ、
繊維補強板の曲げ強度などの物性を向上させることができるものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
【0015】
本発明の粉砕パルプの製造方法は、解繊剤で処理した後のパルプシートを粉砕機により粉砕するものである。解繊剤としては、脂肪酸とポリアミンとを反応させて得られるアミド化合物又はその塩である(a)成分と、脂肪族アミンのアルキレンオキサイド付加物と脂肪酸とのエステル化合物である(b)成分とのいずれか一方又は両方を含有するものである。
【0016】
(a)成分で使用する脂肪酸としては、炭素数が8〜30のカルボン酸が好ましく、炭素数が12〜26のカルボン酸であることがさらに好ましく、具体的には、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘニン酸、リグノセリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸、21−トリアコンテン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、リシノール酸、イソノナン酸、イソデカン酸、イソトリデカン酸、イソミリスチン酸、イソパルミチン酸、イソステアリン酸、トール油脂肪酸、牛脂脂肪酸、やし脂肪酸、ひま脂肪酸やそれらの硬化脂肪酸などの一種又は複数種を用いることができる。
【0017】
また、(a)成分で使用するポリアミンとしては、一般式[1]で表されるポリアミン、アミノエチルエタノールアミンなどのアルカノール基を有するポリアミン、メラミンを挙げることができる。
【0018】
H
2N−((CH
2)
n−NH)
m−H …[1]
なお、一般式[1]において、mは1〜7の整数であり、nは1〜6の整数である。一般式[1]で表されるようなアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどのアルキルジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘキサエチレンヘプタミン、ヘプタエチレンオクタミン、ジプロピレントリアミン、トリプロピレンテトラミンなどのポリアルキレンポリアミンを挙げることができる。また、これらを主成分として含有する工業用ポリアミンを用いてもよい。工業用ポリアミンとして住友精化、東ソー、関東電化工業などの製造販売するエチレンアミン類などが挙げられる。
【0019】
脂肪酸とポリアミンの反応は、脂肪酸とポリアミンとを配合した後、150〜250℃で30分〜6時間の条件で行うことができる。また、脂肪酸とポリアミンの配合割合は、脂肪酸1モルに対してポリアミンを0.5〜2倍モルとすることができる。この反応は、酸価が5〜1mgKOH/g、全アミン価が500〜50、三級アミン価が300〜10となる反応物(アミド化合物)が得られるまで行うことが好ましい。アミド化合物は、その一部がイミダゾリン構造を形成していてもよい。また、脂肪酸とポリアミンとを反応させて得られるアミド化合物の塩は、脂肪酸とポリアミンの反応物である上記のアミド化合物を酸で中和することにより得ることができる。このように脂肪酸とポリアミンの反応物であるアミド化合物の塩を解繊剤として用いることにより、水に対する乳化性が良好となり、解繊性を向上させることができ、しかも、解繊剤として高濃度のものを得ることができるので、好ましい。アミド化合物の塩を生成する際に用いられる酸としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、乳酸、グリコール酸、りんご酸、クエン酸などの有機酸や塩酸、硫酸、リン酸、亜リン酸などの無機酸を例示することができる。
【0020】
(a)成分には、上記アミド化合物又はその塩の他に、尿素縮合物を含有していてもよい。この尿素縮合物は、上記アミド化合物又はその塩と尿素との脱アンモニウム反応により生成されるものであることが好ましい。この場合、アミド化合物又はその塩の生成で使用したポリアミン1モルに対して、0.01〜0.5倍モルの尿素を配合して反応させることができる。また、アミド化合物又はその塩と尿素との反応条件は、100〜200℃で30分〜6時間とすることができる。また、全アミン価が400〜10、三級アミン価が300〜10となる反応物(尿素縮合物を含有するアミド化合物)が得られるまで反応させるのが好ましい。このようにして得られる尿素縮合物は−5℃における解繊剤の凍結を抑制することができ、低温でもそのまま解繊剤を水に乳化させて使用することができる。尚、尿素縮合物は(a)成分中に0〜20モル%含有されているのが好ましく、その残部がアミド化合物又はその塩であることが好ましい。
【0021】
(b)成分で使用する脂肪族アミンのアルキレンオキサイド付加物としては、アルキレンオキサイドの付加モル数が1〜100であることが好ましく、付加モル数が2〜20であることがさらに好ましい。この範囲の付加モル数であると、水に対する乳化性が良好となり、解繊性を向上させることができる。上記脂肪族アミンとしては、炭素数が8〜36の飽和又は不飽和の一級アミン又は二級アミンを用いることができる。具体的には、オクチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、ノニルアミン、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、セチルアミン、ステアリルアミン、イソステアリルアミン、オレイルアミン、ベヘニルアミン、ココナッツアミン、12−ヒドロキシステアリルアミン、ジラウリルアミン、ジステアリルアミン、ジオレイルアミン、その他合成アミンなどを例示することができる。上記アルキレンオキサイドとしては、炭素数が2〜4のものが好ましく、より好ましくは、エチレンオキサイド(EO)単独、あるいはエチレンオキサイドとプロピレンオキサイド(PO)とのブロック又はランダム付加物などを用いることができる。エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとを併用する場合は、アルキレンオキサイドの付加モル数のうち、20モル%以上がエチレンオキサイドであることが好ましい。また、(b)成分で使用する脂肪酸としては、炭素数が8〜36の飽和又は不飽和のモノカルボン酸であることが好ましく、具体的には、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘニン酸、リグノセリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸、21−トリアコンテン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、リシノール酸、イソノナン酸、イソデカン酸、イソトリデカン酸、イソミリスチン酸、イソパルミチン酸、イソステアリン酸、脂肪酸を複量化したダイマー酸、トール油脂肪酸、牛脂脂肪酸、やし脂肪酸、ひま脂肪酸やそれらの硬化脂肪酸などを挙げることができる。そして、(b)成分のエステル化合物を生成するにあたっては、脂肪族アミンにアルキレンオキサイドを付加させた後、脂肪族アミンのアルキレンオキサイド付加物1モルに対して、脂肪酸を好ましくは1〜2モルの比率で反応させるようにする。この反応条件は、130〜280℃で30分〜6時間とすることができる。
【0022】
上記の解繊剤は、(a)成分と(b)成分の少なくとも一方を含有していればよいが、(a)成分と(b)成分を併用する場合は、その配合割合は質量比で(a)成分:(b)成分=60:40〜99:1の範囲であることが好ましく、より好ましくは(a)成分:(b)成分=80:20〜95:5である。上記の範囲で(a)成分と(b)成分を併用すると、解繊性をより向上させることができるものである。
【0023】
本発明の粉砕パルプの製造方法は、上記解繊剤でパルプシートを処理した後、粉砕機により粉砕するものである。パルプシートは、パルプ繊維を抄造法などでシート状に固めたものであって、ロール状に巻回された状態で提供される場合もある。上記解繊剤でパルプシートを処理するにあたっては、パルプシートの全体にわたって上記解繊剤が略均等に供給されれば、特に、処理方法については問わない。例えば、水やアルコールあるいはこれらの混合物である溶媒に解繊剤を配合して希釈し、この希釈液をスプレーやディッピングによりパルプシートに含浸させることによって処理することができる。また、希釈液を含浸した後のパルプシートを乾燥機等により乾燥させることが好ましい。解繊剤はその固形分質量がパルプシートの全質量に対して0.05〜5.0質量%になるように処理するのが好ましい。解繊剤で処理されたパルプシートは、嵩高になって、ふんわりと柔らかいシートになる。この現象は、解繊剤の効果により、パルプ繊維間の結合が弱められ、パルプ繊維の絡み合いが少なくなり、パルプ繊維間に隙間が形成されるからである。
【0024】
上記のように処理されたパルプシートをハンマーミル方式等の粉砕機(解繊機)にて粉砕(解繊)することにより、粉砕パルプを得ることができる。そして、上記の方法では、パルプシートのパルプ繊維間の結合を解繊剤で弱めた状態でパルプシートを粉砕することができ、ダマの発生が少ない粉砕パルプを得ることができる。また、粉砕機により強力なシェアをかけて粉砕する必要がなく、パルプ繊維を傷つけたり切ったりすることなく一本一本のパルプ繊維に分離して粉砕することができる。さらに、粉砕装置の動力費を少なくし、騒音問題を低減したり装置寿命の長寿命化を図ることができる。
【0025】
本発明の繊維補強板は、上記の粉砕パルプを補強材として含有するものである。繊維補強板を建材等のセメント板として形成する場合は、粉砕パルプ以外の成分として、セメント、珪石粉、骨材などを例示することができる。そして、上記の粉砕パルプを用いると、パルプ繊維のダマが少ないので、補強繊維板の内部で欠点となる部分を少なくすることができ、繊維補強板の曲げ強度などの物性が低下しにくくなるものである。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0027】
(実施例1)
温度計と窒素ガス吹き込み管を取り付けた4つ口フラスコに、トール油脂肪酸578g(2.0モル)を取り、窒素ガスを吹き込みながらマントルヒーターで徐々に加熱昇温し、100〜110℃でジエチレントリアミン103g(1モル)を1時間かけて滴下した。この後、さらに温度を徐々に上げ、240〜250℃で3時間脱水反応を行った。得られた反応生成物(アミド化合物)の酸価は1、全アミン価は88、三級アミン価は75であった。
【0028】
次に、上記反応生成物を冷却し、120℃で尿素9g(0.2モル)を添加し、170〜180℃で脱アンモニア反応させて尿素縮合物を得た。得られた尿素縮合物の全アミン価は78、三級アミン価は75であった。この尿素縮合物を99質量%酢酸で中和して中和物を得た。この中和物を(a)成分とした。この中和物は、ジエチレントリアミンのトール脂肪酸アミド(0.85モル)およびその尿素縮合物(0.07モル)の混合物の中和物である。
【0029】
尚、上記「全アミン価」は、予め0.1モル/L過塩素酸で中和された氷酢酸30mLに、試料約1gを精秤して溶解し、電位差滴定装置を用いて0.1モル/L過塩素酸で滴定することにより、評価した。また、上記「三級アミン価」は、無水酢酸:氷酢酸(3:7、質量比)混合液30mLに、試料約1gを精秤して溶解し、100℃で30分間加熱して第一級アミンと第二級アミンをアセチル化した後、第三級アミンを電位差滴定装置を用いて0.1モル/L過塩素酸で滴定することにより、評価した。
【0030】
上記(a)成分を解繊剤として用いた。パルプシートはCanfor社製の品番intercontinentalを用いた。パルプシートを解繊剤で処理するにあたっては、解繊剤を水で希釈し、パルプシートの全質量に対して解繊剤が1.0質量%になるように、希釈液をパルプシートに供給して略均一に含浸させた。次に、処理後のパルプシートをハンマーミル方式の粉砕機(ホソカワミクロン株式会社製のハンマーミルH)を用いて粉砕した。このようにして粉砕して得られる粉砕パルプのノット率を測定した。ノット率は、パルプ繊維の解繊性の評価指標であって、パルプ繊維1g当たりの篩残分(質量比、%)で表されるものである。具体的には、粉砕パルプを空気流で搬送し、80メッシュの篩(ISO3310/1に従うメッシュ穴850μmの篩)の通過残部から未解繊率を算出し、ノット率とした。ノット率は値が小さいほど、破砕パルプが細かく粉砕されてパルプ解繊性が良好であるといえる。
【0031】
上記の粉砕パルプを用いて繊維補強セメント板を作成した。この場合、まず、上記の粉砕パルプ50質量部と、セメント400質量部と、珪石粉300質量部と、骨材250質量部とを配合して混合した後、これに水200質量部を配合して成形材料を調製した。次に、この成形材料をマット上に成形した後、面圧20MPaにてプレスして板状に成形した。次に、この成形板を40℃雰囲気中で1日養生した後、オートクレーブ170℃で24時間養生した。このようにしてセメントを硬化させることにより繊維補強セメント板を得た。
【0032】
(実施例2)
耐圧反応容器に、ステアリルアミン269g(1モル)を仕込み、内部を窒素ガスで置換し、130℃に昇温し、エチレンオキサイド88g(2モル)を反応温度140〜150℃で耐圧反応容器に吹き込んで付加反応させた。次に、触媒として水酸化ナトリウム1.0gを添加し、プロピレンオキサイド358g(6モル)を吹き込んで付加反応させた。次に、エチレンオキサイド354g(8モル)を吹き込んで付加反応させた。得られたステアリルアミンのアルキレンオキサイド付加物983g(1モル)と、トール油脂肪酸578g(2モル)及び触媒としてパラトルエンスルホン酸1gを4つ口フラスコに仕込み、窒素ガス気流下、温度180〜240℃で約5時間脱水エステル化反応を行った。このエステル化合物を(b)成分とした。
【0033】
この(b)成分を解繊剤として用いた以外は実施例1と同様にして粉砕パルプを得、この粉砕パルプを用いて繊維補強セメント板を形成した。
【0034】
(実施例3)
実施例1の(a)成分と実施例2の(b)成分とを質量比60:40で混合して混合物を得た。この混合物を解繊剤として用いた以外は実施例1と同様にして粉砕パルプを得、この粉砕パルプを用いて繊維補強セメント板を形成した。
【0035】
(実施例4)
実施例1の(a)成分と実施例2の(b)成分とを質量比90:10で混合して混合物を得た。この混合物を解繊剤として用いた以外は実施例1と同様にして粉砕パルプを得、この粉砕パルプを用いて繊維補強セメント板を形成した。
【0036】
(比較例1)
解繊剤を用いずに実施例1と同様にして粉砕パルプを得、この粉砕パルプを用いて繊維補強セメント板を形成した。
【0037】
(比較例2)
カチオン性第4級アミン化合物である塩化ジオレイルジメチルアンモニウムを解繊剤として用いた以外は実施例1と同様にして粉砕パルプを得、この粉砕パルプを用いて繊維補強セメント板を形成した。
【0038】
上記の実施例及び比較例について、繊維補強セメント板の3点曲げ強度(JIS A 1106:2006)及び水中24時間後の吸水率を測定した。結果を表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
ノット率が高い(繊維ダマの多い)粉砕パルプを用いると、繊維補強セメント板の内部に欠点が生じやすくなり、3点曲げ強度が低下する(比較例1,2)。実施例の場合は、強度発現性も高く、ばらつきも少ない均一な繊維補強セメント板を得ることができる。また、実施例1では繊維補強セメント板の吸水率が低下した。これは、解繊剤により処理で粉砕パルプの吸水性が低下したためであり、これにより、繊維補強セメント板の寸法安定性や耐久性の向上が期待されるものである。